著者
遠藤 利彦
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.150-161, 2010-03-30
被引用文献数
2

ボウルビーの主要な関心は,元来,人間におけるアタッチメントの生涯にわたる発達(すなわち連続性と変化)と,情緒的に剥奪された子どもとその養育者に対する臨床的な介入にあった。近年,幼少期における子どもと養育者のアタッチメント関係が,子どもの,アタッチメントの質それ自体を含めた,その後の社会情緒的発達にいかなる影響を及ぼすかということについて,実証的な知見が蓄積されてきている。本稿では,まず,児童期以降におけるアタッチメントとその影響に関する実証研究と,乳児期から成人期にかけてのアタッチメントの個人差の安定性と変化に関するいくつかの縦断研究の結果について,概観を行う。次に,アタッチメント理論の臨床的含意について,特に,無秩序・無方向型アタッチメントとアタッチメント障害,そして,そうした難しい問題を抱えた事例に対するアタッチメントに基づく介入に焦点を当てながら,レビューし,また議論を行う。最後に,日本の子どもと養育者のアタッチメント関係の特異性をめぐる論争とそれが現代アタッチメント理論に対して持つ理論的含意について批判的に考察し,さらに日本におけるアタッチメント研究の現況が抱えるいくつかの課題を指摘する。
著者
佐久間 路子 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.33-42, 2003-03-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,人間関係に応じて自己が変化する動機,変化に対する意識を測定する尺度の作成および自尊感情との関連における性差を検討することである。大学生男女742名を対象に,変化程度質問,変化動機尺度,変化意識尺度,セルフ・モニタリング尺度,相互独立的-相互協調的自己観尺度,自尊感情尺度などからなる質問紙を実施した。主な結果は以下の通りである。1)変化動機尺度は関係維持,自然・無意識,演技隠蔽,関係の質の4因子,変化意識尺度は否定的意識,肯定的意識の2因子が見いだされ,信頼性と妥当性が確認された。2)変化動機の関係維持,自然・無意識,関係の質は,男性よりも女性の方が得点が高かった。3)男女ともに,変化程度は自尊感情との関連が見られなかったが,女性においてのみ否定的意識と演技隠蔽の自尊感情への負の影響が認められ,変化動機および変化意識と自尊感情との関連には,性別による違いがあることが示された。
著者
清水 秀美 今栄 国晴
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.348-353, 1981-12-30
被引用文献数
17
著者
仲 真紀子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.28-37, 1983
被引用文献数
1

本研究では, 論理的推論において用いられる「だから」(「だから」の論理的機能。例:「夏は暑い。だから暑くなければ夏ではない。」) と経験的推論において用いられる「だから」(「だから」の経験的機能。例:「夏は暑い。だから薄着をする。」) を区別し, これらがどのように獲得されるかを調べた。被験者は小学校2年, 4年, 6年である。但し調査と実験では中学生, 大学生についても調べた。<BR>調査では, 2つの機能の獲得過程を調べる実験的研究に先がけ, 実際に「だから」の2つの用法があるかどうか, また「だから」にそれら以外の用法があるかどうかを調べた。方法は文章完成課題 (例:「夏は暑い。だから-。」) を用いた。<BR>実験では, 「だから」を含む命題を聴覚呈示し, 「だから」の使い方が正しいか否かを評価させることにより, 論理的機能, 経験的機能がどの程度獲得されているかを調べた。<BR>補足実験は, 上の実験で得られた発達傾向の再現性と外乱に対する安定性を調べるために行われた。「だから」の使用に関する1度限りの教授を行い (外乱), その効果を事前・事後テストで測定した。<BR>主な結果は以下の通りである。<BR>1. 「だから」は論理的命題, 経験的命題に用いられる。また, その他の命題 (対立や類比) にも用いられることがある。<BR>2. 論理的機能は小学校期では十分獲得されない。<BR>3. 経験的機能は2年でもかなり獲得される。<BR>4. 主観的命題 (例:「あの犬は小さい。だからかわいい。」) や類比的ないし疑似類比的命題 (例:「リンゴは赤い。だからバナナは長い。」) における「だから」の使用を正しいとする反応は, 小学校期を通じて著しく減少する。<BR>5. 以上 (2, 3, 4) の発達傾向は再現性があり, また1 度限りの教授という-過性の外乱に対して安定である。
著者
秋田 喜代美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.307-315, 1988-12-30
被引用文献数
2

This study examined the effects of self-questioning (question-generation) on reading comprehension and on self-evaluation of comprehension. Seventh-grade students were assigned to one of 4 treatment groups : a question-generation group (Gr. G), an answering questions generated by an experimenter group (Gr. A1)(Exp. 1), an answering questions generated by Gr. G group (Gr. A2) (Exp. 2), or a read-reread control group (Gr. C). Verbal ability, as measured by the Siba Vocabulary Test, was used to group Ss into 3 levels. The quality of questions generated by Gr. G and task performances were analyzed in terms of comprehension of macrostructure. The major results were as follows. a) Question-generation facilitated the comprehension of main ideas. In particular, this effect was larger for lower than for higher verbal ability students. Such effect was caused not by the contents of questions generated, but from the process of generating those questions. b) Gr. G seemed to evaluate more adequately on their comprehension though without any significant results. To examine such result, more valid measures should be planned in the future.
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.191-198, 1999-06-30

心配には問題解決のために能動的に制御された側面(問題解決志向性)と制御困難性という2つの側面が存在している。本研究では両者の関連を因果分析によって検討した。心配のプロセスをとらえる質問紙を大学生359名に実施したデータを, 共分散構造分析によって分析したところ, 問題解決志向性は制御困難性を抑制する効果とともに, 問題が解決されないという感覚(未解決感)を強めることを通じて, 制御困難性を促進する効果ももっていることが見出された。問題解決志向性から制御困難性へのこのような正負の効果が相殺しあって, 両変数はほぼ無相関であった。さらに, 心配の問題解決志向性は普段一般の積極的な問題解決スタイルを反映していること, 問題解決の自信の低さや完全主義という性格特性が未解決感を強めることが見いだされた。問題解決にかかわる変数から構成されるモデルが, 心配の制御困難性の分散の約31%を説明していたことから, 問題解決に着目した理論化および臨床的介入が有効であることが示唆された。
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.271-282, 2002
被引用文献数
7

心配は, 制御困難な思考であると同時に, 困難な問題を解決しようとする動機を反映している。先行研究では, 問題を解決するための方略 (問題焦点型対処方略) の使用が, 思考の制御困難性を強める場合力あることが見いだされている。本研究では, 問題焦点型対処方略と思考の制御困難性との関連を規定する要因として, 問題解決過程を評価, 制御する思考 (内的陳述) に着目して検討した。大学生177名を対雰とした質問紙調査の結果, 問題解決への積極性や粘り強さをしめす自己教示 (考え続ける義務感) と問題解決過程に対する否定的な評価 (未解決感) が, 問題焦点型対処方略と思考の制御困難性の関連を媒介していた。考え続ける義務感と未解決感は, いずれも思考を持続させるような内容の変数である。これらの結果から, 動機的な要因による思考の持続が, 思考の制御困難性の重要な規定要因であることが示唆された。
著者
杉浦 義典
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.186-197, 2001-06-30
被引用文献数
1

心配は, 制御困難な思考であると同時に, ストレスへの対処方略でもある。本研究では, 心配がどのような性質の対処方略なのかを調べるために, 情報回避, 情報収集, 解決策産出という3つの対処方略とストレスに関する思考の制御困難性との関連を検討した。成人134名を対象とした質問紙調査の結果, 情報回避, 情報収集, 解決策産出のいずれもが思考の制御困難性を増強し得ることが示された。さらに, この関連はそれぞれの対処方略のもつストレス低減効果とは独立であった。また, 性格特性によって, 対処方略の使用が思考の制御困難性に及ぼす影響が異なることが分かった。結果を, 心配のメカニズムのモデルに照らして考察し, 問題焦点型対処に分類される情報収集と解決策産出については, 動機的な要因による思考の持続が思考の制御困難性を規定するのに重要である可能性を示唆した。
著者
松田 文子 永瀬 美帆 小嶋 佳子 三宅 幹子 谷村 亮 森田 愛子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.109-119, 2000

本研究の主な目的は, 数と長さの関係概念としての「混みぐあい」概念の発達を調べることであった。実験には3種の混みぐあいの異なるチューリップの花壇, 3種の長さの異なるプランター3種の数の異なるチューリップの花束の絵が用いられた。参加者は5歳から10歳の子ども136名であった。主な結果は次のようであった。(a) 5, 6歳児では, 混んでいる・すいているという意味の理解が, かなり難しかった。(b) 数と長さの問の比例的関係は, 5歳児でも相当によく把握していた。しかし, この関係への固執が, 混みぐあい=数長さという1つの3者関係の形成を, かえって妨げているのではないか, と思われた。(c) 長さと混みぐあいの反比例的関係の把握が最も難しかったが, 8歳児は, 2つの比例的関係と 1つの反比例的関係のすべてを, かなりよく把握しているようであった。(d) これら3つの2者関係を1 つの3者関係に統合することは大変難しかった。8歳から10歳にかけて大きく進歩したが, 10歳でも約 25%の子どもしか統合を完了していないようであった。このような結果は, 小学校5年算数「単位量あたり」が子どもにとって難しい理由を示唆した。
著者
竹村 洋子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.44-56, 2008-03-30

本研究では,通常学級における「問題行動」をめぐる教師-児童間相互作用について,児童とのかかわりに対する教師の評価に焦点をあて,問題状況に関して検討を行った。研究1では問題性評価尺度及び対処行動評価尺度が調えられた。因子分析の結果,問題性評価尺度は影響性評価・対処可能性評価の2因子9項目,対処行動評価尺度は問題解決志向・支援希求志向・情動軽減志向の3因子16項目の構造として理解することが適当だと考えられた。研究2では2つの尺度の結果についてクラスタ分析を行った。その結果,児童とのかかわりにおいて生じる問題に対する教師の問題性評価は4類型,対処行動評価は5類型に分類可能であることが示された。研究3では,通常学級における「問題行動」をめぐる教師-児童間相互作用への介入を実施し,研究1で作成した尺度を用いて介入に伴う教師の評価の変化についてデータを得た。その結果,教師への介入後に対処行動評価の類型の変化が,フォローアップ期には教師の問題性評価の類型の変化が示された。教師の評価のうち,対処行動評価が教師-児童問相互作用を規定する要因である可能性が示された。
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.349-350, 2014-12
著者
三島 浩路
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.121-129, 2003
被引用文献数
3

本研究は, 学級内における児童の呼ばれ方と, 学級内における児童の相対的な強さやインフォーマル集団との関係について検討したものである。学級内における児童の相対的な強さと呼ばれ方との関係を分析した結果, 男子児童の場合には, 「くん付け」で呼ばれる児童の方が, 他の呼び方で呼ばれる児童に比べて学級内における相対的な強さが一般的に強いという結果が得られた。また, 女子児童の場合には, 「ちゃん付け」や「あだ名」で呼ばれる児童に比べて, 「さん付け」で呼ばれる児童の方が, 学級内における相対的な強さが一般的に弱いという結果が得られた。次にインフォーマル集団内での児童の呼ばれ方と, 集団外の児童からの呼ばれ方について分析した。その結果, 男子児童に比べて女子児童の方が, 集団内での呼ばれ方と集団外からの呼ばれ方が異なる児童が多いという結果が得られた。さらに, インフォーマル集団の内外で呼ばれ方が異なる児童について, 呼ばれ方がどのように異なるのかを分析した。その結果, 女子児童の場合には, 集団外の児童からの呼ばれ方がより丁寧であるという結果が得られたが, 男子児童の場合には, インフォーマル集団内外からの呼ばれ方にこうしたちがいはみられなかった。