著者
秋田 喜代美 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.109-120, 1996-03-30
被引用文献数
1

The purposes of this study were to examine mothers' conceptions of book-reading to their children and relations between those conceptions and their behavior styles of setting home environment on reading. Two hundred and ninety-three mothers in Study 1 and three hundred and thirty-two mothers in Study 2 answered a questionnaire concerning their recognitions on the functions, and their behavior of setting environment. The main findings were as follows : (1)Two functions were identified as "UTILITY" and "ENJOYMENT" ("UTILITY" : read to get children to master letters and acquire knowledge ; "ENJOYMENT" : read to share a fantasy world with their children and communicate them.) Although many mothers attached importance to "ENJOYMENT" function, some mothers did to "UTILITY" ; but differences were shown among mothers. (2)Mothers changed the ways of reading according to their children's age. (3)There were relations between conceptions of functions and ways of reading. Though mothers rated "UTILITY" higher, their reading styles were seen to promote children to become independent readers.
著者
熊谷 蓉子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.11-20, 1958-03-25

最初に本研究の意義において,立体表現活動が描画活動よりも,より容易であり根元的であることを明らかにしたが,この2つの活動が最初に行われ始める時期を考察してみると,紙とクレヨンでする描画活動の方が材料からくる抵抗が少いために,幼児にとってはより容易であり,粘土活動よりは早期に始められる。しかしながらこの期の活動は造形活動でも表現活動でもなく,ただ手のリズミカルな運動を楽しむ一種の遊びなのであって,粘土の場合も2才になると,それを握って操作するに充分な手腕力がつくため,描画活動でいわれる錯画と同じような活動が始められる。すなわち粘土のかたまりを机上にたたきつけたり,ちぎったり,くっつけたり,まるめたりするようなごく単純で無作意,無目的な活動である。ところで描画活動において錯画の中に初めて何か形らしいものが現われ,やがてそれが花や船や人の顔になり始めるころには,粘土活動でも何か形らしいものや,命名された「あめ」だの「リンゴ」だのが作られるのである。この形の現われ始める時期が両活動においてほぼ一致していることは,28名の調査を行った幼児から参考資料として集めた自由画と,その児童の粘土活動とを照合した結果明らかになった。形らしいものの現われ始める時期は,大体2才の終りから3才にかけてであるが,最初に現われる形は描画の場合と同じく,命名されていても作品と命名の結びつき19が客観的には理解しがたい場合が多い。しかしながらこの傾向は4才になると一変する。4才児は興味の持続時間命名,形の構成,活動,作品数等すべての点において3才児との問を大きく引きはなす。すでに6才児の中には形を作らない子どもは1人もいなくなり,どのような点からも明らかに造形活動として認められるのである。故に2才の粘土をただ操作して楽しんでいた遊びの時期から,造形活動へと移るのは3才から4才にかけての時期で,これが立体表現活動の最初の著しい発達をとげる時期であると考えられる。〔A〕,〔B〕2つの調査結果の共通な点,すなわち「興味の持続時間」や「題材」「作品数」などについて,幼児と学童の比較を打ってみると,5才児と1年生ではほとんどその差のないことが削る。作品をみても材料の相違があるだけで,特に著しい差は見当らない。故にこのことから児童は入学という,1つの団体生活=社会生活への本格的な出発である激しい環境の変化を経るにもかかわらず,この期には顕著な発達を示さないことが明らかにできる。従って次に著しい変化の現われるのは,I年生からIII年生にかけて,すなわち6〜8才のころである。この期になると幼児期の「食べ物」に変って「乗り物」,人物などが多くなり,空想的表現が多くなる。何を作っても一生懸命で工夫がなされるし,とかく沢山の附属物や装飾がほどこされて説明が詳しくなる。この期の作品には夢があり楽しさがあふれていて,命名も単純でなく,何か事件のようなものを表現しようとしたりして,ユーモラスな題がつけられ成人の微笑を誘う。一方更にIV年生を中心として見られる大きな変化の時期は,描画活動の写実期に相当すると思う。この期においては表現力(器用さ,立体感,運動感たどに現われている)に特に著しい発達が見られ,これはI年生とIII年生の間における差よりも,一層はなはだしい差を示している。この期の作昂はほとんど写実的表現によって支配され,用いる題材も著しく違ってくる。ここで注意すべきは,IV年生にはIII年生ほど楽しい気分があふれ,のびのびとした作品が多くないということである。幼児は自分の残した作品にはほとんど興味を示さないのに比して,高学年児ほど自分の作ったものに対する批評やその成果を気にする傾向にある。故にその作品には自然と子どもらしいのびのびとした所が失われてくるのである。しかしながらそうだからといって高学年児は粘土工作を楽しんでいないのかというと決してそうではない。参考資料として行った図画と粘土工作に対する興味の比較調査の結果が,これを如実に示している。結果をグラフで示すとFig.6になるが,高学年児ほど絵よりも粘土を好む。これは,この期の児童の知的発達がめざましく,自己の作品に対する批判眼がするどくなるためである。すなわち,二次元の平面で三次元の事物を描写する描画活動では,表現意欲とそれを表現する技術とか即応しなくなるために,絵画的表現活動の行きづまりに直面するものと解釈する。ここにおいて児童の表現活動における立体表現活動が新しい意義をもってくる。すなわち立体表現活動は外界の立体物を実立体で表現するのであるから,この高学年の児童には何の抵抗も制約も感じさせない。従って,児童はこれによって容易に絵画的表現活動の行きづまりを打開することができるのである。
著者
葉山 大地 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.523-533, 2008-12

本研究は,冗談に対して親和的意図を知覚せずに,聞き手に怒りを感じさせる冗談を過激な冗談として取り上げ,こうした過激な冗談の話し手が,親和的意図が聞き手に伝わるという期待を形成する過程を関係スキーマの観点から検討した。大学生159名を対象とした予備調査から,過激な冗談として,"倫理的・性的タブーに関する冗談","聞き手の悩みに関する冗談","聞き手の外見や行動に関する冗談","聞き手の好きな人や物に関する冗談"が同定された。次に大学生 251名を対象とした本調査を行い,これらの過激な冗談の親和的な意図が聞き手に伝わるという期待は,冗談関係の認知("冗談に対する肯定的反応に基づく他者理解感"と"冗談に対する被受容感")に基づいていることが明らかとなった。特に,"冗談に対する被受容感"は全ての冗談において親和的意図が伝わるという期待に正のパスが見られた。"冗談に対する肯定的反応に基づく他者理解感"は性的タブーに関する冗談と聞き手の友人や恋人に関する冗談にのみ正のパスが見られた。また,本研究から,冗談関係の認知は,冗談行動に相手が笑った頻度を背景として形成されることが示唆された。The purpose of the present study was to examine the process that speakers follow when forming expectations of communicating to listeners that an extreme joke has benign intentions. "Extreme jokes" are defined as jokes that make a listener angry. A pilot study with university students (87 men, 72 women) indicated that extreme jokes could be classified into 4 categories: jokes about ethical or sexual taboos, jokes about the listener's distress, jokes about the listener's appearance or behavior, and jokes about people or objects that the listener likes. University students (106 men, 145 women) were asked to imagine an actual friend when completing a questionnaire about that friend. In relation to the formation process of the speaker's expectations, structural equation modeling (SEM) revealed that the "sense of being accepted by one's friend about the joke" positively influenced the speaker's expectations of communicating the benign intentions of all extreme jokes. The "sense of understanding one's friend's preference for jokes based on positive reactions" only influenced "jokes about sexual taboos" and "jokes about one's friend's friends or lover." Structural equation modeling also indicated that the cognitions of joking relationships were formed through experience with the listener's laughter following joking behavior.
著者
榊 美知子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.184-196, 2007-06-30

本研究では,手がかりイベント法(event-cueing technique)を利用し,(1)自伝的記憶がどのように構造化されているのか,(2)自伝的記憶の感情情報がどのように保持されているかに関して検討を行った。46名の大学生に手がかり語を8語呈示し,関連する自伝的記憶を1つずつ想起させた後(cueing events;手がかりイベント),各手がかりイベントに関連する自伝的記憶(cued events;想起イベント)を2つずつ想起するよう求めた。その結果,(1)想起イベントと手がかりイベントは高い時間的近接性を持っていること,(2)想起イベントを思い出す際に,手がかりイベントと同じテーマに関する記憶が想起されやすいことが示され,自伝的記憶がテーマごとに領域に分かれた構造を持つことが明らかになった。更に,自伝的記憶の領域と感情の関連について階層線形モデルによる分析を行ったところ,領域ごとに異なる感情状態と関連していることが明らかになった。このことから,自伝的記憶と感情の関連や,自伝的記憶による感情制御を検討する際に,自伝的記憶の領域構造を考慮する必要があることが示唆された。
著者
加藤 弘通 大久保 智生
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.466-477, 2009-12-30

本研究の目的は,学校の荒れが収束する過程で指導および生徒の意識にどのような変化が生じているのかを明らかにすることにある。そこで本研究では,調査期間中に荒れが問題化し収束に向かったB中学校の生徒(のべ1,055名)に対して,学校生活への感情,教師との関係,不良少年へのイメージおよび不公平な指導などをたずねる質問紙調査を3年間行い,その結果を荒れが問題化していない中学校7校の生徒(計738名)と比較した。またB中学校の管理職の教師に対し面接を行い,荒れの収束過程で指導にどのような変化があったのかを探った。その結果,生徒の意識に関しては荒れの収束に伴い不公平な指導の頻度が下がり,学校生活への感情や不良少年へのイメージ,教師との関係が改善していることが明らかになった。また生徒指導に関してはその指導が当該生徒に対してもつ意味だけでなく,他の生徒や保護者に対してもつ意味が考慮された間接的な関わりが多用されるようになっていた。以上のことをふまえ,実践的には指導を教師-当該生徒との関係の中だけで考えるのではなく,それを見ている第三者まで含めた三者関係の中で考える必要性があることを示唆した。
著者
吉村 匠平
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.85-93, 2000-03-30
被引用文献数
1

本研究は, 「かくこと」が, 文脈抜きでは捉えられない外部との相互交渉活動であり, 従来の文章産出研究のような「考えていることを言葉に置き換える作業(堀田, 1993)」としては捉えられない活動であることを, 幾何の問題解決場面を取り上げながら検討した。実際Iでは, 24人の大学生が幾何の問題を解く様子を録画した。その結果「かくこと」が, (1)解法を模索して行われる探索的な図へのかきこみと答案の作成, (2)身体運動的側面の活性化と所産の活用の2つの次元から構成される活動であることが示された。実験IIでは, 図へのかき込みと答案の作成に3通りの制限(身体運動を制限, 痕跡の利用を制限, 両方とも制限)を加え, それによって問題解決過程にどのような変化が見られるかを検討した。その結果, (1)答案の作成への制限は問題の解決には影響しない。(2)探索的な図へのかき込みへの制限では, 身体運動と痕跡の利用の両方を同時制限された条件でのみ問題解決の進展が停滞する。(3)身体運動, 痕跡の利用のいづれか一方を制限された条件では, 問題解決の過程を変化させることで問題を解くことが示された。さらに, 問題解決の過程の変容を分析し, 「かくこと」が対話の相手を擬似的に現前させつつ, 対話を展開し, それによって外部との相互交渉を展開していく活動であることが示された。
著者
前田 健一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.156-166, 1995-06-30
被引用文献数
1

The purpose of this study was to examine whether peer status groups and subgroups differed in terms of loneliness, peer perceptions and self-perceptions of their aggression, withdrawal, and social competence. Five status groups of children (popular, rejected, average, neglected, and controversial) were identified on the basis of positive and negative sociometric nominations for 459 children in Grades 3 through 6. Of these groups, 200 children were selected on the basis of peer perceptions of aggression, withdrawal, and social competence to represent the following 8 subgroups:high-competent popular (HCP), low-competent popular (LCP), aggressive rejected (AR), withdrawn rejected (WR), aggressive-withdrawn rejected (AWR), high-withdrawn neglected (HWN), low-withdrawn neglected (LWN), and typical average (TA). Consistent with previous findings, the rejected children were viewed by peers as significantly more aggressive, withdrawn, and socially incompetent with higher levels of loneliness than average and popular children. Children in the AWR, WR, and HWN subgroups were found to be significantly more lonely and exhibited more inaccurate self-evaluations in aggression or withdrawal than typical average children.
著者
柴橋 祐子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.12-23, 2004-03-31
被引用文献数
1

本研究では中学,高校生の友人関係における「自己表明」および「他者の表明を望む気持ち」の2側面に関わる心理的要因を発達的な観点から検討した。中学,高校生721名を対象に質問紙調査を実施し,因子分析により,2側面に関わる心理的要因として「安心感」「配慮・熟慮」「率直さへの価値感」「スキル不安」「支配欲求」の5つが抽出された。これらの心理的要因が「自己表明」および「他者の表明を望む気持ち」に及ぼす影響を分析した結果,(1)中学,高校生の男女共にほぼすべての「自己表明」および「他者の表明を望む気持ち」に「率直さへの価値感」が深く関わる。(2)全体を通して「意見の表明」および「不満・要求の表明」の低さの背景に「スキル不安」がある。(3)高校生では,ほぼすべての「自己表明」に「安心感」の影響があり,高校生の女子では「他者の表明を望む気持ち」にも関連している。(4)「不満・要求の表明」の背景に女子では「配慮・熟慮」,男子では「支配欲求」があることが示された。これらの結果から,自己肯定感,自己信頼感が2側面を共に支える重要な要因であること,2側面のあり方を支える心理面の発達的な違いが明らかになった。