著者
中道 圭人
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.347-358, 2007-09-30

幼児の条件推論,ワーキングメモリ(WM),抑制制御の関連を検討した。実験1では年長児(N=25)を対象に,経験的あるいは反経験的な事柄での条件推論課題,WM課題(逆唱),抑制制御課題(昼-夜ストループ課題)の関連を検討した。その結果,反経験的な条件推論と抑制制御の間に正の相関が見られたが,条件推論とWMの相関は見られなかった。実験2では年長児(N=26)を対象に,課題手続きを改善した条件推論課題とWM課題,抑制制御課題の関連を検討した。その結果,実験1と同様に抑制制御は反経験的な条件推論のみと正の相関を示し,その一方,WMは条件推論全般と正の相関を示した。本研究の結果から,幼児期における条件推論,WM,抑制制御の関連が明らかとなった。
著者
落合 美貴子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.351-364, 2003-09-30

教師バーンアウトは,ヒューマンサービス従事者のバーンアウトの中でも,とりわけ深刻な問題として研究されてきている。教師バーンアウトは,教育学,心理学,社会学等多領域に跨がるテーマであることから,学際的な視点が必要である。本論は,その点を踏まえて,まず国外の研究を概観し,次いで日本の研究動向を探った。そして,特に要因研究に焦点を当て先行研究のメタ分析を行い,今後の教師バーンアウト研究に必要とされる4つの視点を提示した。それは,(1)バーンアウト研究は,概念やその成立機序からしてストレス研究とは一線を画すべきであること,(2)社会・文化的視点,特に教育制度や教師文化の独自性に関する認識が不可欠であること,(3)時間軸の重要性から,教師のライフヒストリー研究等の縦断的研究が必要であること,(4)これまでの量的研究は,バーンアウトの内実に迫り得ていないことから,質的研究法を導入する必要があること,である。
著者
伊藤 貴昭 垣花 真一郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.86-98, 2009-03-30
被引用文献数
4 5

説明を生成することが理解を促進することはこれまでの研究でも数多く示されてきた。本研究では,他者へ向けた説明生成によって,なぜ理解が促されるかを検討するため,統計学の「散布度」を学習材料として,大学生を対象に,実際に対面で説明する群(対面群:13名),ビデオを通して説明する群(ビデオ群:14名),上記2群の説明準備に相当する学習のみを行わせる群(統制群:14名)を設定し,学習効果を比較した。その結果,事後テストにおいて対面群が他の2群を上回っており,対面で説明することが理解を促すことが示唆された。一方,ビデオ群と統制群には有意差は見られず,単に説明を生成することのみの効果は見られないことが示された。プロトコル分析の結果,「意味付与的説明」,またその「繰り返し」の発話頻度と事後テストの成績との間に有意な相関が見られ,対面群ではビデオ群よりこの種の発話が多く生成されていた。対面群でそれらが生成された箇所に着目すると,これらの少なくとも一部は,聞き手の頷きの有無や返事などの否定的フィードバックを契機に生成されていることが明らかとなった。本研究の結果は,他者に説明すると理解が促されるという現象は,聞き手がいる状況で生じやすい「意味付与的説明」,またそうした発話を繰り返すことに起因することを示唆している。
著者
高橋 あつ子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.103-112, 2002-03-31
被引用文献数
2

本研究の目的は,自己肯定感を高めることをねらった実験授業プログラムを小学校の児童に実施し,その効果を自己意識と行動面から探ることであった。加えて,自己を対象化する体験がネガティブに影響しないかどうかを吟味した。5年児童6学級206名のうち実験群4学級に4回の実験授業を行い,前後と1ヶ月後に「Who am I?」による自己記述と各記述に対する感情評定・重要度評定をとり,その推移を統制群2学級と比較した。その結果,実験授業を受けた児童は,受けなかった児童より,肯定的な記述が増え,否定的な記述が減り,肯定的な自己意識を高めたが,行動面への影響は見いだせなかった。なお,成功を内的に帰属しにくく,失敗を内的に帰属しやすい帰属スタイルを持つ児童は,自己意識を刺激する実験授業で,最も慎重な配慮が必要と考えられるが,そのような帰属スタイルである自己卑下群において,他者を拒否的にとらえる記述が有意に減少するなど,意識面ではポジティブな変化が見られたが,授業のみだと他者共生性が低下するなど行動面でネガティブな変化も見られた。
著者
土屋 玲子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.162-172, 2000-03-30

本論は, 学内にあるカウンセリングルームに通う生徒たちが, そこでは普通に学習もし, 友人関係もつくれるのに, なぜ学級には適応しないのかという疑問から出発した。筆者は, 日々学校内での教師の実践を見ていて, 力量のある教師が, 教師に特有の教える・指導するという働きかけと, カウンセラーにみられる気付く・待つという両方の姿勢を適宜, 使いこなしていることに気がついた。こういう教師の学級では, 問題児といわれた生徒が, 落ち着き, 目立たなくなる。そこで, 筆者は, 教育の場にその両方の働きが必要と認識している4名の教師の実践を検討した。結果は以下のようであった。1)学校環境そのものの中に, 教師が, 気付く・待つことを阻害する要因が含まれる。2)教師(教科指導の専門家)とカウンセラー(心の領域の専門家)の役割を明確に分担する方向と, 教師個々に, あるいは, 学校全体の雰囲気に, 両方の働きを混在させようとの方向ができている。これは, 教師の専門性をどのように捉えるのか, スクールカウンセラーの果たすべき役割, そのための適正な配置方式といった問題につながってくる。スクールカウンセラーが配置されて5年が終わろうとしている今, 改めて検討すべき課題といえる。
著者
豊田 秀樹 中村 健太郎 村石 幸正
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.392-401, 2004-12-30

双生児と一般児を統合的に扱う遺伝ACEモデルが新制田中B式知能検査に適用される。データは中学1年時と高校1年時にそれぞれ採られた縦断データである。本研究では構造方程式モデルの下位モデルである遺伝ACEモデルと縦断的解析を融合したモデルによって, 115組の一卵性双生児と32組の二卵性双生児, ならびに881人の一般児の被験者を分析した。知能点と7つの各下位検査についてそれぞれ母数の推定を行い, 加算的遺伝, 共有環境, 非共有環境の各説明割合が明らかとなった。個々の項目に関する特徴に加え, 全体として中学時, 高校時の双方とも非共有環境の説明割合が比較的大きいことが示された。
著者
佐山 公一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.204-212, 1992

The present paper investigated the question of what constitutes an impression of "figurative" speech. Twenty-two subjects read figurative expressions and rated their figurativeness on 50 adjective scales under two conditions. Condition 1 required subjects to rate figurative expressions using simple and direct impressions. Condition 2 required subjects to respond to figurative expressions paying attention to the surface forms of the expressions. Both results were quite similar. Both indicated that the 50 adjective scales were classified into several clusters. Within each cluster, the adjective scale which highly correlated to its own cluster component was selected for further research. Results suggested that impressions of figurative speech included both an intellectual or rational aspect and an affective aspect. Results also showed that both aspects consisted of 3 or 4 components. Ortony, Clore, and Foss (1987) have classified affective related words in terms of the types of situations they refered to in certain verbal contexts. Results from my study were compared with the classifications given by Ortony et al. (1987).
著者
高橋 恵子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.7-16, 60, 1968-03-31

本研究は.依存性がいちおう発達の最終段階に達していると思われる青年後期において,それがどのような様相を呈しているかを,依存構造というモデルをとおして解明しようとするものであった。その結果明らかにされたのは次の3点である。 1)依存構造:依存構造には限られてはいるがかなり多くのさまざまな対象が含まれ,それぞれ異なった機能を与えられ,分化した位置を占めている。そして,この対象間の機能分化は,各個人が相対的に強い依存要求をひきおこす,その個人の存在を支える機能を果たすという意味で中核になっている単数または複数の焦点を中心に,いく人かの対象がそれぞれの役割りを与えられ,それぞれの意味を持ち,さまざまに位置づけちれていることを予想させる。 2)依存構造の類型:依存構造の構造化の様相-対象の数,焦点の有無,焦点の数,焦点と他の対象との機能分化などは各個人において異なるのであるが,焦点が何かによって依存構造を類型化してみると,同じ類型間には対人的依存行動の共通点が認められることが明らかになった。 3)大学生女子における依存性:青年においてもここで問題にする意味での依存性が認みられる。つまり,現象的には自立的であると考えられている大学生においても,少なくとも女子では依存要求が認められる。そして特に顕著なことは次のようなことである。 (1)単一の焦点になる対象としては,母親,愛情の対象,尊敬する人などが多く,同性の親友や父親は少ない。 (2)女子青年と母親との情緒的結合は強い。このことは他の研究(たとえば,久世・大西,1958)でも指摘されていることであるが,本研究でもこれと一致した結果が得られた。母親は単一の焦点となる傾向が大であり,複数焦点型でも焦点のひとりはほとんど母親であり,親密度も高い。 (3)母親を焦点とするものは,他の型に比べ家族中心的傾向がある。またこの型では恋人もないものが多く,親友との結合も弱く,青年期の発達からみて問題を感じさする。 (4)焦点が多いもの,および明確でないものでは,高得点の対象のひとりにほとんど必ず母親が含まれる傾向があり,類型の特徴も母親型の様相を呈し,上記の(3)と考え合わせて,母親以外の単一の焦点の顕在化が発達の方向かもしれない。 (5)大学生女子では父親との結合はそれほど強くはない。父親は情緒的に拒否されているわけではないが,依存構造のなかでは道具的色彩の増した位置づけがなされていると予想される。また,父親は尊敬する人と競合的な立場にあり,尊敬する人を焦点とする依存構造ではほとんど父親はしめだされる傾向がある。 (6)一般に女子青年の依存構述においては同性の親友の占める位置は少ない。