著者
小池 守 別府 桂 高津戸 秀
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.21-28, 2009-07-10

水の蒸発の理解を目指した指導法を考案し,公立中学校1年生を対象に授業実践を行った。事前に蒸発について学習した実験群と事前学習を行わない統制群に,素焼きの茶碗とガラスのビーカーに入れた水の温度を測定する実験,及びその結果についての話し合いから成る検証学習を行った。両群の生徒に対し,質問紙を用いて授業前後の蒸発現象に対する興味関心及び自己申告による理解度の変容を,さらに,ワークシートを用いて蒸発に関する理解状況を調査し,事前学習を用いた指導法の有効性を検討した。その結果,実験群は統制群と比べ,蒸発現象について図や文字を使って説明できる生徒の割合が高いばかりでなく,蒸発に対する興味関心及び理解も高かった。以上のことから,事前学習を取り入れた指導法は生徒の蒸発の理解に有効であることが示唆された。
著者
山下 修一 西山 宜孝
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.65-74, 2006-11-30
被引用文献数
1

中学校3年生48名を対象にして,男女2名ずつの4名1班を組み,5時間の酸化還元学習に酸素との化合のしやすさを示す「化合力」を用いて,一貫して説明することを促した。そして,様々な酸化還元の事象に対して「化合力」を適用して説明できるようになるのかを探った。その結果,事後調査で未習課題「だたら製鉄」の説明にも「化合力」を適用し,2ヶ月後の遅延調査では「化合力」を用いた説明の割合が増加(事後44%→遅延60%)した。さらに,一貫して説明している群(29名)と非一貫群(19名)を比較し,一貫群では2ヶ月後でも「課題に対する説明の正答率」や「理解が深化したという認識」が保たれていたことを明らかにした。
著者
荻原 彰
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会東海支部大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
no.55, 2009-11-29

アメリカの環境教育はNo Child Left Behind Actに代表される学力重視の教育改革により、危機に瀕している。本研究では、アメリカの環境教育界がこの危機をどのような戦略により乗り切ろうとしているかを概括した。
著者
宗近 秀夫
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.13-22, 2000-03-31
被引用文献数
6

子ども達の抱く溶解に関する既有概念を科学的概念に変容させるためには,どのような授業構成を行えばよいのか。また,どのような教授ストラテジーを採用すればよいのか。実験授業を通して理論的枠組みを明らかにしたいが,本研究は,そのための基礎研究として,広島県内の小学校第3学年から中学校第3学年までの児童・生徒2404名を対象に,小学校第5学年で扱う溶解学習事項について子ども達がどのような認識を持っているのかを実態調査したものである。調査結果より,以下の諸点が指摘できる。1.「透明か,透明でないか」という視点がないところでは,子ども達は自分の日常生活上の行為を基準にして「とける」という言葉を使い分けている。溶解学習において,溶液の透明性を強調することが重要である。2.小学校中・高学年を通して,50%以上の子ども達が粒子をイメージしている。粒子概念形成の教授方略の一つとして,小学校での粒子的イメージの導入の可能性は検討されてもよいであろう。3.溶液の均一性に関しては,小学生も中学生も共に認識は不十分である。また,飽和に関する認識も十分ではない。4.溶質の溶かし方に関しては,小学校中学年では多様な方法を考えるが,学年が進むにつれて加熱する,水を加える,攪拌するという方法に収束する。5.溶質の質量保存に関する理解も十分ではない。中学生でも,物は「とける」と重さが軽くなると考える子どもが多い。6.溶質の質量保存に関する理解が不十分な子どもは,砂糖や食塩,粉ミルクという溶質の違いによって溶かすと質量が変わると考えているようである。
著者
山口 悦司 稲垣 成哲 舟生 日出男 疋田 直子
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.15-28, 2002-11-15
被引用文献数
23

筆者らは,再構成型コンセプトマップ作成ソフトウェアを開発している。ソフトウェアの特徴的な機能は,次の2点である。(1)再生機能:コンセプトマップの作成過程を自動的に保存し,作成途中でも随時,その作成過程を再生することができる,(2)修正機能:作成過程の任意の時点までアンドゥすることによって遡り,修正できる。本研究の目的は,小学校の理科授業へソフトウェアを導入し,ユーザーインタフェースの有効性や再生機能の内省や対話支援の有効性について実践的に検討することであった。児童39名を対象とした質問紙調査の結果を通して,ソフトウェアの使用感のよさや操作性は高く評価されたことがわかった。また,再生機能の有効性についても,ある程度認められていたことがわかった。教師2名を対象とした面接調査の結果からは,ソフトウェアの再生機能は教師の学習指導や子どもたちの学習を概ね支援できていたと評価されたことがわかった。再生機能利用場面の相互行為分析では,再生機能が子どもたちの学習内容に関わる思考過程の内省や対話を支援していることが授業の文脈に即して例証された。これらの結果を考察することで,本ソフトウェアの実践的な評価や今後の課題が議論された。
著者
竹中 真希子 稲垣 成哲 黒田 秀子 出口 明子 大久保 正彦
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.53-62, 2007-11-30
被引用文献数
1

本研究では,筆者らが開発したカメラ付き携帯電話を利用した情報共有システムであるclippicKidsの実践的な評価を行った。評価対象の学習活動は小学校2年生の「大発見プロジェクト」と呼ばれるもので,カメラ付き携帯電話とclippicKidsを使って,1年間の写真日記が作成された。実践的評価は「大発見プロジェクト」の中で撮影された一連の写真から「自然」が撮影されたものを素材として分析し,次の3つの課題について検討した。(1)子どもたちはカメラ付き携帯電話でどのような自然を撮影するのか,(2)その撮影において自然の何に気づくのか,(3)こうしたテクノロジに支援された活動を子どもたちはどのように評価するのか,であった。その結果,子どもたちは自然関連の写真を数多く撮影したこと,校内の樹木・雑草や栽培している野菜・草花といった植物が多いこと,既有知識とともに,対象の事実に即して具体的な観察や比較の視点を撮影の理由として記述できていたこと,子どもたちの主観的評価では,この活動が肯定的に受容されていたことなどが明らかになった。これらの結果に基づいて,カメラ付き携帯電話を利用した本システムは,自然観察の道具としての可能性と有効性を持つことが示唆された。