著者
佐藤 寛之 森本 信也
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.29-36, 2004-09-17
被引用文献数
1

Head,J.O.,Sutton,C.R.は,「科学概念におけるメタファー表現は,個人の認知・情意・レトリックが融合したものである。」としている。つまり丿情意的なこだわりを持ち,類推することで新しい概念の構築がなされていることを示している。子どもにおける自然事象の概念を表現する能力を養うため,理科授業においてはこうした視点に立つ類推のような論理の構築方法を学ぶ学習場面が必要である。同時に このことは情意と認知が融合した「温かい認知(warm cognition)」の有用性を示すものであり,理科の授業デザインにおける必須条件と考える。
著者
小林 丈芳 跡部 紘三 松川 徳雄 福岡 登
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.21-30, 2001-03-31

原子力・放射線教育の在り方を考えていくために,地域の生活環境が青少年の原子力等の知識やイメージにどのような影響をもたらすかを明らかにする目的で,徳島県と原子力発電所のある福井県敦賀市の中学生・高校生を対象に「エネルギー・原子力等に関するアンケート調査」を行なった。その結果,彼らの原子力・放射能・放射線に対する知識やイメージ等に関して次の点が明らかになった。現代社会において,徳島県の生徒は「火力」,敦賀市の生徒は「原子力」を最も重要なエネルギー資源と考えているのに対し,21世紀の社会では両地域の生徒共に「太陽熱・太陽光」を重要であると考えている。(2)同地域の生徒の多数が原子力・放射能・放射線についての知識をマスメディアから得ている。徳島県の生徒は「中学校」,敦賀市の生徒は「博物館・展示会」「家庭」から得たと回答した割合が高い。(3)原子力・放射能・放射線の知識に関して,徳島県の生徒は「原子爆弾」,敦賀市の生徒は「原子力関連施設」や「核燃料」に関連した用語や知識の回答が多い。また,敦賀市の生徒は,原子力等に対して「危険」とイメージする傾向にある。(4)エネルギー資源として女子は「太陽熱・太陽光」を重要であると考えている。また,原子力等の知識やイメージにおいて,男子は「危険」,女子は「原子爆弾」「有害」「恐い」「レントゲン」などを回答する傾向にある。これらの要因として,男女の知識量や感性の違い,胎児への悪影響に対する意識の違いなど教科教育以外の要因が考えられる。(5)(2)(3)より,知識の習得に関して,徳島県の生徒は中学校における平和学習,敦賀市の生徒は自治体や企業による啓発活動の影響を強く受けているものと考えられる。
著者
吉田 安規良
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.115-125, 2007-11-30
被引用文献数
2

ナトリウム-銅(II)-グリセリン錯体法を利用して,脂肪が酵素によって分解し,グリセリンが生成することを確かめる教材実験を開発した。基質としてオリーブ油を選定した。消化液は市販のビオフェルミン健胃消化薬錠から0.50%(W/V)リパーゼAP6溶液を調製して用いた。試験管にオリーブ油と調製した消化液を1.0 mLずつ入れて撹拌した後,40℃で24時間反応させた。24時間後の消化液はナトリウム-銅(II)-グリセリン錯体法によって,グリセリンの存在を示す青色を示した。失活した消化液では青色を示さず,グリセリンが生成しないことを確認した。遠心分離機の代わりにろ紙やディポーザブルメンブレンフィルターユニットを用いても実験が可能であることを確かめた。ビオフェルミン健胃消化薬錠以外の胃腸消化薬でも,同様の結果を得られるものがあることを確認した。
著者
池田 仁人 戸北 凱惟
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-9, 2004-05-17
被引用文献数
6

子どもたちの科学概念は、認知的要素と、情意的な要素により構成される。それは「知的な気付き」の獲得に必要な要素と重なる。そのため、本研究では、小学校低学年における理科教育の基礎として、自然教材に触れる中で生まれる「知的な気付き」に着目した。本研究は、言葉を手がかりに、生活科の学びの場から子どもたちの「気付き」を取り出し、どのような「気付き」をしているのか、今まで着目されてこなかった子どもだけでいる場面も含め、学校臨床場面から再点検していくこととした。「知的な気付き」の発現を促す学習環境づくりのために、教師周辺、子どもだけでいる場といった、学習場面による「気付き等」のあらわれ方の違いについても調査を行った。その結果、子どもたちの発言を、5つのカテゴリにあらわすことができた。その中の「科学の基礎的発言」は認知面、情意面において「自然事象にかかわる知的な気付き」を表すものである。また、この発言群は、学習活動場面の違いにかかわらず同じように発現することがわかってきた。これにより、教師付近の発話が全体の学習材へのコミットメントを推定する材料となることが明らかになった。また、「共感的な発言」は、他者に対する理解、能動的なかかわりを示す、「人にかかわる知的な気付き」を表すものであり、学習場面の違いに影響されている可能性がある。また、5つの発言はそれぞれ独立して活動の一場面に表れるのではなく、互いに影響し合いながら活動を構成している。ある発言が他の子どもの対象へのかかわりを強めたり弱めたりすることもある。
著者
大澤 得二
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.135-140, 2007-11-30

俵浩三の指摘により,牧野植物図鑑以外に村越三千男の一連の植物図鑑が存在していたことが明らかにされた。牧野富太郎著とされている「日本植物図鑑」は,村越の「植物図鑑」を改訂したものであるという指摘を確認するために,一連の村越図鑑と牧野図鑑を比較した。牧野富太郎著「日本植物図鑑」の図の約半分は村越の「植物図鑑」のものであり,この図鑑は牧野の著作物とは言えないものであった。この図鑑に牧野が追加した図の一部は,その後の「牧野日本植物図鑑」にも使われていた。一方,村越三千男は少なくとも三度に渡り植物図鑑を編纂している。明治の初等中等学校の理科教育は自然観察を主体としたものであり,その後,大正,昭和初期において村越の図鑑が理科教育に残した功績は正しく評価されるべきである。
著者
西尾 直也
出版者
日本理科教育学会
雑誌
日本理科教育学会東海支部大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
no.56, 2010-11-27

「グリーンマン」は光合成に関する思考実験を示す愛称である。自分が"グリーンマン"となり、植物の気持ちになって考えてみると、意外なほど植物というものの生き方が理解できることに気づく。擬人化ならぬ"擬植物化"によって、われわれヒトの行動様式、生活および形態はどのように変わっていくだろうか?またその結果、見えてくるものとは?思考実験の意義や利点および日本やザンビアの教育現場における「グリーンマン」の実践例も交えつつご紹介していきたい。