著者
飛田 国人 藏澄 美仁 大和 義昭 深川 健太 佐賀 亮介
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.105-117, 2015

熱中症に関する市民の関心特性を示すことを目的として,オンラインコミュニティに投稿された質問を対象に,熱中症用語の投稿数と質問内容の主語,場面,要点の観点から分析した.市民が主に使用する熱中症用語は熱中症,熱射病であった.質問投稿数は日最高 WBGT が 20℃から増加し始め,質問数は年次的に増加傾向であった.質問の要点では対策,症状,診断,対応において 100 件を超える投稿があった.主語がない質問では場面の明示がなく,原因や用語などの熱中症の知識に関心がある通有性が高い質問が多かった.少年では学校についての投稿が多く,不特定の人に関心がある通有性が高い質問が多かった.乳幼児では年齢や性別,状況を詳述した質問や,車内の熱中症などの特有性が高い質問が多かった.以上から年齢や場面と市民が必要とする熱中症情報との関連が示された.
著者
浅木 恭
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.97-103, 1989-08-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
18
被引用文献数
2

体温恒常性維持能の環境温依存性について, 老齢ラットを用い検討した.人工気象チャンバー内温を環境温として20℃に維持し, ラットを30分以上チャンバー内に放置後, 環境温を20℃から毎時10℃で変動し始め, 0℃から30℃の範囲で6時間かけて1サイクル変動し, 無拘束下におけるラットの直腸温を測定した.さらに, 呼気ガス分析による酸素消費量を環境温10℃と25℃について測定した.(1) 1サイクルの環境温変化に対する直腸温の変動軌跡を見ると, 加齢により, 低環境温で直腸温の低下およびヒステリシス現象を示した.(2) 中性環境温では, 老齢動物においても体温恒常性が維持された.(3) 体重当りの酸素消費量は, 加齢により低環境温下で低下した.以上から, 低環境温下では熱産生の低下を伴って恒常性が維持されないことが明らかになった.
著者
渡部 成江 森谷 [キヨシ] 角田 矢野 悦子 阿岸 祐幸
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.27-34, 2009-03-01
参考文献数
22
被引用文献数
1

温泉保養地において,天然温泉入浴並びにさら湯入浴対照実験を行い,天然温泉水がもたらすストレス軽減効果を検討した.実験期間は 2004 年 11~12 月,被験者は 57~67 歳の健常な女性 8 名であった.両実験ともに全身入浴用ポリウレタン製の袋に 40℃の天然温泉水,またはさら湯を満たして温泉の浴槽に入れ,水質のみが異なり他の環境条件を同一にした.被験者に入浴を 10 分間,出浴後は 28&ndash;29℃で 30 分間半臥位での安静をとらせた.天然温泉入浴の結果,入浴中に脳波感性スペクトルの「喜び」,「Comfortable」,「Good Mood」値が上昇し,心地よい感情の高まりを示し,出浴後の「リラックス感(MCL)」はさら湯入浴に比べて高い傾向であった.出浴後の平均皮膚温変化を比較すると,天然温泉入浴はさら湯入浴に比べて保温効果が高かった.天然温泉入浴はさら湯入浴よりも感情改善,保温,ストレス軽減効果が大きいと考えられる.<br>
著者
苗村 晶彦 渡邉 善之
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.39-44, 2016

東京圏の中心地に位置する東京タワーにおける 2009 年の春季~夏季および秋季~初冬の夜間高 NO2 濃度時を解析したところ,ポテンシャルオゾン(以下,PO)濃度について季節別に特徴があり,春季~夏季では時間帯によっては高濃度が確かめられ,秋季~初冬には一様な濃度低下が認められた.また,春季~夏季および秋季~初冬の夜間 PO 濃度が平均 80 ppb を越えた時はいずれも春季~夏季において認められた.その際,翌日の日中 PO 濃度が平均 80 ppb を越え,その 3 例の内 1 例の前日に山梨県で日中に熱的低気圧が生成し,光化学スモッグ注意報が発令される事例があり,東京圏からの汚染の輸送と推測された.
著者
冨田 明美 宮本 征一 堀越 哲美
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.43-51, 1999-04-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
14
被引用文献数
3

日本人青年男女の体表面積を得るため, 人間生活工学研究センター (HQL) による日本人の人体計測データ平均値を基準に体型の異なる男性3名, 女性3名を被験者として選出した.6名の被験者について非伸縮性接着テープ法により体表面積の実測を行った.また, 体表面積と既往研究の体表面積推定式との適合性について検討した.シルエッターにより得られるシルエット写像の面積を測定し, 体表面積との関係を検討した.得られた結果は次のようである.1) 体表面積は, 男性の平均で17895cm2, 女性の平均で14443cm2であった.2) 体表解剖学体表区分に準拠した体表区分の面積比率から, 男女とも臀部, 大腿部, 下腿部に被験者間の差が大きいことがわかった.蔵澄らの面積比率に比較して, 大腿部, 胸部が大きく, 臀部が小さくなる傾向がみられた.また, DuBiousの面積比率に比較して, 大腿部, 腕部が大きく, 体幹部が小さくなる傾向がみられた.3) 蔵澄, 高比良, DuBious, 新谷, Meeh, 村田, 藤本の体表面積推定式の適合性を検討した.男性では, DuBious, 蔵澄, 新谷, 高比良の計算式が被験者の実測体表面積と適合することが確認できた.女性では, DuBious, 蔵澄, 高比良の計算式が適合した.4) シルエッターにより得られたシルエット面積 (x) と体表面積 (y) との一次回帰式を求めた.人体方位角0°と90°において, シルエット面積と体表面積との間には, r=0.989以上の高い相関が認められた.シルエット面積から体表面積を推定する式として次式を提案した.方位角0°の場合は, y=3.430x+0.003, 方位角90°の場合は, y=6.264x-0.22
著者
佐藤 純 溝口 博之 深谷 佳乃子
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.3-7, 2011-04-01
参考文献数
12
被引用文献数
1

1 0 0 0 OA 気候療法

著者
大塚 吉則
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.5-10, 2012 (Released:2012-03-24)
参考文献数
12

日常生活とは異なった気候環境に転地し,病気の治療や保養を行う自然療法を気候療法という.心身に作用する気候要素には,気温・湿度・風・気圧・日光そして森林内環境ではフィトンチッド(芳香性テルペン類)などがある.地形分類上は海岸,森林,平地,高山などがあり,それぞれ特色のある保養地気候を呈している.気候療法には,転地により有害な気候環境から心身を保護する作用と,新しい気候刺激に心身が反応して疾病の治癒や健康増進が促される作用とがある.気候療法の例としては,森林気候を利用した森林浴,山岳・高地気候で,標高差や勾配を利用して歩行運動を行う地形療法,海洋性気候の下で,寒さへの適応と運動を行うタラソテラピーなどが挙げられる.超高齢社会,ストレス社会の現代,気候療法を用いた健康増進,疾病治療などは幅広い適応があるためより一層の利用が望まれ,そのためには気候保養地の整備が必要である.
著者
宇野 美幸
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.17-22, 1987-04-01 (Released:2010-12-10)
参考文献数
16

帝京大学病院における1972年から1980年までの単胎分娩3, 220件の, 産科異常の頻度を, 児および母の出生季節から検討した.1.産科異常の発生の月別分布を分娩月から調べた.その結果,1) 早産は6~7月に多く, 過期産は1月と4月に多い傾向がみられたが有意ではなかった.2) 微弱陣痛は, 5~9月に少なく, 早期破水および前期破水は7~11月に多く, 羊水混濁は2~4月に多いが, 分娩遷延の発生には有意な季節性は認められなかった.3) 分娩時出血多量は, 8~12月に少なかった.臍帯巻絡は4~10月に多いが, 胎児仮死, 骨盤位には季節性は認められなかった.2.産科異常の発生を, 母の生まれ月から調べた.その結果,1) 3~7月生まれの母では過期産になる頻度が高い.2) 微弱陣痛, およびこの微弱陣痛と合併することが知られている分娩遷延, 早期破水および前期破水, 羊水混濁で, 夏季生まれの母にその発生が少ない傾向が共通して認められた.3) 分娩時出血多量も, 5~9月の夏季生まれの母で少なかった.臍帯巻絡は10~11月生まれで多く, 胎児仮死, 骨盤位では母の生まれ月による差は認められなかった.4) 産科異常のまったくなかった例は4~9月生まれに多かったが, 微弱陣痛およびその関連する産科異常に限ってなかった例の方がより顕著に4~9月生まれに多かった.
著者
張 季平 茅 志成
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.77-82, 1990-08-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
22
被引用文献数
4

1988年夏南京を襲った熱波に際し, およそ4500例の熱中症が発症し, 400名以上の重症患者が8箇所の病院に入院した.本稿では高齢者271例の重症熱中症の臨床と疫学について検討した.大部分の症例は気温が最も高い日に突然発症し, 症状としては皮膚温の上昇と皮膚の乾燥を呈した127例 (46.9%) , 体温が40℃以上のもの149例 (55.0%) せん妾や痙攣あるいは昏睡など中枢神経系の症状を呈した251例 (92.6%) であった.ほぼ半数の患者に白血球数の増加が認められたが, 血清のNa, K, Cl, Ca値は低下ないしはやや低下を示し, 2例に於いてのみ高カリウム血症を認めた.積極的な救急治療を行ったが, 死亡率は35.4%であった.
著者
荒川 恭子 石井 由香 香川 靖雄
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.199-211, 2015-12-01 (Released:2015-12-17)
参考文献数
42

本研究の目的は,健康な若年女性を対象に,冷え症の要因として遺伝子変異が関わっているか否かを明らかにし,冷えの発症機序を自律神経機能から解明することである.女子学生 27 人を冷え症 17 人と非・冷え症 10 人の 2 群に分け,肥満関連遺伝子(UCP-1, β2-AR, β3-AR)と高血圧関連遺伝子(AGT)の変異の出現頻度を検討した.その結果,冷え症体質者では非冷え性体質者に較べ冷水負荷後の皮膚温度回復が遅く(P=0.006),β3-AR 遺伝子変異の出現率が高いことがわかった.次に,β3-AR 遺伝子を wild 群と mutant 群の 2 群に分けて,冷水負荷時の自律神経活動の変化を心電図の R-R 間隔から検討した.冷水負荷により心臓交感神経活動は抑制されその後回復するが,mutant 群では wild 群と比較して回復が遅延し,有意差が認められた.以上から,冷え症は β3-AR 遺伝子変異が引き起こす交感神経の反応性の低下に起因する可能性が示唆された.
著者
鈴木パーカー 明日香 日下 博幸
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.59-72, 2015-03-10 (Released:2015-04-14)
参考文献数
33

暑熱指標 WBGT(wet-bulb globe temperature)に基づき,将来の日本の暑熱環境予測を行なった.これに先立ち,全国の官署データを基に 1991–2010 年 8 月を対象とした現状把握を行った所,現在の日本はすでに厳しい暑熱環境にあることが示された.特に関東以西の地域では 8 月の日中平均 WBGT 気候値が 26℃以上となっているが,これは日本生気象学会等が定める熱中症指針では「警戒レベル」に相当する.比較的冷涼な札幌や仙台などでも,WBGT 値が「危険レベル」に達することもあるという結果が得られた.将来予測は 21 世紀末の 20 年間をターゲットとし,全球気候モデルによる予測データを領域気候モデルによって高解像度化する力学的ダウンスケール手法を用いて行なった.その結果,将来の暑熱環境は現在よりさらに悪化し,特に中部以西の多くの地点で 8 月中 20 日以上が「危険レベル」(日最高 WBGT≧31℃)になると予測された.予測 WBGT 昇温量は東北地方で大きく,例えば将来の秋田市は現在の大阪市のような気候になる可能性が示唆された.
著者
柴田 祥江 飛田 国人 松原 斎樹 藏澄 美仁
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.119-129, 2010 (Released:2010-07-16)
参考文献数
28
被引用文献数
5

近年,高齢者が住宅内で熱中症を発症する事例が報告されている.重症の場合には命にかかわるため,予防策は緊急の課題となっている.本研究は,高齢者の住宅内での熱中症予防を目的として,高齢者を対象に熱中症の認知度と住宅内における暑熱障害の体験,予防策,夏期の住まい方についてアンケート調査を行い,高齢者の意識について分析した.本調査の対象者は生涯学習講座受講生であるが,調査の結果,熱中症の認知度は 89.7%であったが,住宅内で発症することの認知度は 65.7%であった.暑熱障害の体験場所では寝室,居間,台所が多く,女性では 40.0%が台所で経験していた.休養目的の部屋が,高齢者にとっては必ずしも安全で快適な空間とはなっていないこと,また,台所の夏期温熱環境はやや危険な現状であることが分かった.予防策では,「水分補給」は 92.6%,「塩分補給」は 25%が行っていた.予防には,温熱環境の改善とともに,熱中症の認知と正しい予防策の普及が必要である.結果については高齢者の熱中症予防のための基礎資料として有益である.