著者
桑原 信之 関 邦博 青木 清
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.87-97, 1986-10-15 (Released:2010-10-13)
参考文献数
34

ネコの睡眠覚醒に関する研究はこれまでに多くの報告があるが, 生物リズムとしての時間生物学的研究はきわめて少ない.それは, これまでの研究の多くが臨床的な睡眠に関する脳波学的基礎研究であったことと, 長期間の脳波の安定したポリグラフ記録を安定した環境制御の下で行うことが難しく, 比較的短時間の記録に留まっていたことによる.本研究は, 安定した環境制御下で恒明 (LL) , 恒薄明 (dimLL) , および明暗 (LD) 条件の位相変化時におけるネコの脳波, 筋電図, 眼球運動, 心拍, 呼吸, 脳温をポリグラフにより長期間記録し, これらの指標をもとに単位時間ごとの総睡眠量 (TST) で表される睡眠覚醒リズムと体温 (脳温, Tb) リズムの解析を行った.本研究により以下のことが明らかとなった.明暗条件下 (LD12: 12) では, TSTの時間的変化の型は双峰性であったが, 明期のTSTは暗期に比較して有意に少なく, 夜行性のサーカディアンリズムを示した.Tbは暗期に高く明期に低くなる夜行性のサーカディアンリズムを示した.TSTとTbのリズムは, 明暗の位相を6時間前進および後退させると, 1週間前後の移行期を経て新たな明暗サイクルに同調した.連続照明 (恒明) 条件下では, TSTとTbのリズムはその当初自由継続を示し, 時間経過とともに減弱して消失し, サーカディアンリズムに重畳していたウルトラディァンリズム成分のみが残った.このことは, 長期間の恒暗 (DD) 条件下での実験結果 (Kuwabara et al., 1986) と類似している.自由継続は65 luxの恒明 (LL) 条件下で約8日間, 1.0luxの恒薄明 (dimLL) 条件下で2週間以上持続し, 照度による違いがみられた.これらの結果はTSTとTbが内因性の時計機構の存在を反映する指標であることを示唆している.また, TSTとTbのリズムの変化の時間的なずれは, TSTとTbのサーカディアンリズムは独立なものであることを示唆している.明暗位相の変化に対する同調における移行期, 恒明恒暗における自由継続, および照度による自由継続の違いは, サーカディアンリズムの特徴に関する経験則と一致する.
著者
橋本 好弘 森谷 きよし 大塚 吉則
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.109-119, 2008

消防活動は重装備の激しい活動であり,過労・ストレスによる隊員の死傷者が多い.本研究では,寒冷環境下における消防活動が隊員に及ぼす身体負担を経時的に分析し,休憩の必要性を検討した.北海道 S 市の消防隊員 71 名に対して 24 時間の拘束勤務中にホルター心電計を装着させ,消防活動中の心拍数変化を測定し,Wu <i>et al.</i>(2001)の maximum acceptable work duration(MAWD)でその負担を評価した.出動途上の平均最高心拍数は 145.5 拍/分であり,急激に心拍数が上昇していた.現場活動中の最大心拍数と活動時間には正の有意な(P<0.01)相関が認められた.小規模火災 2 件で MAWD を大きく超え,活動開始 5 分間の負担は平均で 92.6 並びに 93.6% heart rate reserve (HRR),活動全体の平均でも 72.3 と 70.2% HRR であった.災害現場での消防隊員の死傷事故減少には,寒冷環境下の小規模火災でも,火勢制圧後,隊員に休憩・交替を与え,過労・ストレスを軽減させる必要がある.<br>
著者
吉野 正敏
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.131-140, 2013 (Released:2013-01-25)
参考文献数
16

インドにおける熱波の定義は次のとうりである.すなわち,長年の日最高気温の平均が 40℃以上の地域で平年値より 3~4℃以上高い場合を『熱波』,5℃以上を『厳しい熱波』とする.長年の日最高気温の平均が 40℃以下の地域で気温が平年値より 5~6℃高い場合を『中位の熱波の影響を受けた』と言う.もし 6℃以上ならば『厳しい熱波』とする.熱波は通常 5~6 日,まれに 15 日以上連続する.厳しい熱波は通常 3~4 日で終わる.インド全体における 1978 年から 1999 年までの 22 年間の平均では,熱波の 1 年間の発生頻度は 11.5 回,月別にみると,5 月が最多で,5.0 回,6 月が 3.9 回,4 月が 1.9 回である.州別にみると,マハラシュトラ州が 1.6 回/年,ビハール州・ラジャスタン州・西ベンガル州それぞれ 1.3 回/年である.6 月の熱波の発生回数は 5 月と同じかやや少ないが,熱中症による死者数は 6 月のほうが 5 月より多い.影響を受ける人間(高齢者が多い)の体力の遅れ効果と考えられる.また,水供給システム(死者は都市部の貧困層に多い)の劣化・悪化,衛生状態の 2 次的悪化(間接的)影響なども考えられる.死者数はエル・ニーニョ年にはきわめて少ないがその翌年にはきわめて明瞭に多くなる.例えば,1983 年には前年の 17 倍,1988 年には約 100 倍,1998 年には約 190 倍になった.特に 1998 年は 20 世紀末における最大の死者数 1,658 人を記録した.この年の熱波回数は 33 回であった.2012 年 4 月~7 月は南西モンスーンの開始が遅れ,近年,まれにみる猛暑となり,44~49℃に達する地域が広く現われた.死者数は 575 人(2012 年 10 月末現在の資料で)に達した.野生動物(象・ねずみ・カラスなど)大量死が報告された.人間社会では高温による食中毒・生活用水不足が深刻になった.大停電が発生し 6 億 2 千万人が影響を受け,学校閉鎖・医療機関の機能麻痺・交通機関停止(鉄道運休・道路信号機不能による渋滞など),2 次的(間接的)影響が深刻になり生気候学的課題が多数明らかになった.
著者
川名 はつ子 三浦 悌二
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.57-62, 1989-04-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
5

各国とも人口動態統計の整備される以前には月別出生の統計はなく, 長期の変動を観察するための資料に乏しい.このたび信頼できると思われる朝鮮の族譜の記録から1399~1980年生まれで出生年月の明らかな13, 004人について調べ, 従来知られていなかった朝鮮での月別出生数を明らかにした.その結果, 15~18世紀には春と秋の2つの山がみられたが, 19世紀以降はその傾向が弱まり, さらに20世紀中ごろになると春の山のみが高くなり, 20世紀前半の日本と共通のパターンが見られた.その後, 日本では1964年から一年中ほぼ平坦となったが, 朝鮮では1970~1980年代に入っても, まだ早生まれの多いパターンを残していた.本研究の20世紀に入ってからの動向は, 朝鮮総督府統計年報や韓国人口動態統計から調べた一般人口の結果とほぼ一致した.
著者
岡田 ルリ子 松川 寛二 小林 敏生 宮腰 由紀子
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.131-137, 2015-06-01 (Released:2015-07-17)
参考文献数
18
被引用文献数
4

皮膚の保湿性の指標となる角層水分量および経皮水分蒸散量を,皮膚表面温度とともに,冬季(室温 21℃)と夏季(室温 25℃),および冬季の室温 21℃と 25℃という室内温度環境下で測定した.この 3 項目に影響を及ぼす短期的(室温変化)および長期的(季節)要因について検討した.角層水分量および皮膚表面温度は,夏季と比べ,冬季に有意に(P<0.01)減少し,経皮水分蒸散量も低下する傾向にあった.冬季の室温を夏季と同一の室温(25℃)に設定した場合,皮膚表面温度と経皮水分蒸散量は有意に上昇したが,角層水分量は低値のままであった.以上より,実験環境における室温という短期的要因よりも,季節という長期にわたる環境要因が角層水分量に大きく影響する可能性が考えられた.
著者
水口 恵美子 中澤 浩一 萱場 桃子 近藤 正英 本田 靖
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.9-21, 2014 (Released:2014-04-30)
参考文献数
27

冷房装置使用は住宅内の熱中症予防に有効であることが報告されている.2011 年に福島第一原子力発電所事故が発生し,節電対策が冷房装置使用の行動に影響を与えたことが推測される.本研究では,2010 年に調査した夏季における高齢者の冷房装置の使用状況と住宅内熱中症のリスク人口について追跡調査を行い,2011 年夏の冷房装置使用の状況を明らかにした.全国 8 都市(札幌市,仙台市,さいたま市,東京都 23 区,千葉市,神戸市,北九州市,長崎市)における 65 歳以上の高齢者を含む世帯を対象に 2010 年と 2011 年,インターネット調査を行った.2010 年と比べて 2011 年では夏季にエアコンを常に使用する者が減少し,部屋に設置されていても使用しない者が増加した.扇風機の設置割合は増加したが,使用頻度に変化はなかった.本研究では,各年の気温の差異が行動変容に及ぼす影響を制御できなかった.しかし,住宅内熱中症のハイリスク人口が増加傾向にあることから,高齢者に対しては夏季の冷房装置使用について節電の推奨は控え,適切な使用を促進することが望まれる.
著者
栄 涼子 森 悟 古賀 俊策 朝山 正己
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.63-69, 2001 (Released:2002-10-16)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では,高蛋白食によって生ずる食餌誘発性熱産生(DIT)の増加により,運動開始前の体温が異なる状況下で運動を実施した際の体温調節反応を観察し,DITと運動時の体温調節反応との関係について検討した.実験は健康な女子大学生10人を被検者とし,無摂食と高蛋白食摂取の2条件下でそれぞれ60%V.O2maxに相当する自転車エルゴメーター運動を60分間負荷した.その結果,運動開始前の深部体温は,無摂食時に比して摂食時の方が有意に高い値を示した(P<0.01).一方,運動時の深部体温は,運動前の体温差を運動終了時まで維持しながら上昇した.また,熱産生量は無摂食時と比較して摂食時は有意に高い値を示し(P<0.01),熱放散量には差は認められなかった.以上から,DITによって生ずる体温上昇は,すくなくとも60%V.O2max程度の中等度の運動によって修飾されることは無く,体熱平衡も保たれていた.すなわち,DITによる体温の増加が運動時の体温に加算されて生ずる受動的な反応と考えられる.
著者
村上 雅健 市丸 雄平 芦山 辰朗 加地 正郎
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.65-73, 1979-10-15 (Released:2010-10-13)
参考文献数
17

The effects of bioisolation on leucocyte counts, serum immunoglobulin concentrations and normal microbial flora were studied at two Japanese Antarctic Survey bases, Syowa Station and Mizuho Camp, during 17th Japanese Antarctic Research Expedition from 1975 to 1977.Thirteen wintering members were divided into two groups; one was composed of six men who wintered at Syowa Station (Syowa group) and the other was composed of seven men at Mizuho Camp (Mizuho group) . The following results were obtained;1. Microbiological observation revealed the facts that the drinking water of Syowa Station was highly polluted but that of Mizuho Camp was relatively sterile.2. In Syowa group, total aerobic microorganisms, especially bacillus spp., in feces were increased significantly in number during early period of wintering, while in Mizuho group, those were decreased significantly after wintering. Pharyngeal microbial flora did not change significantly.3. In Syowa group, leucocyte counts and serum immunoglobulin concentrations of Ig G and Ig A were increased significantly during early period of wintering. In Mizuho group, leucocyte counts did not change significantly, but Ig G waa decreased significantly after wintering.Above results suggest that 1) the changes of microbiological environment alter the composition of normal human microbial flora, 2) those altered microbial flora, especially aerobic microorganisms, can change the host's immunological status, and 3) the changes of leucocyte counts and immunoglobulin concentrations may be resulted from altered intestinal microbial flora.
著者
三上 春夫
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.121-129, 1997-12-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
14

第29次南極地域観測隊の越冬期間中に, 昭和基地および内陸旅行において, 観測隊員の協力を得て寒冷曝露実験を行い, 寒冷負荷により誘発される寒冷利尿のデータを収集した.30分間の短期寒冷曝露では, 尿量・尿中Na+排泄量・尿中K+排泄量ともに増加した.また尿量及び尿中電解質排泄量の日内変動を昭和基地と内陸旅行で比較した結果, 内陸旅行で寒冷負荷による日内変動パターンの変化を認めた.帰国後, 冷凍室を用い短期寒冷曝露実験を行って寒冷利尿を再現し, 血中カテコラミン (アドレナリン・ノルアドレナリン・ドーパミン) とその他のホルモン (レニン活性・アルドステロン・抗利尿ホルモン・心房利尿ペプチド) の測定を行った.その結果, 複数のカテコラミン等のホルモンが連動して末梢循環を減少させ, その過程が寒冷利尿として観察されると考えられた.また短期寒冷曝露試験が耐寒能力を定量的に評価する指標となりうることを指摘した.
著者
松本 太
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.3-11, 2017-05-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
31
被引用文献数
2

本稿では,近年における温暖化がサクラの開花日に及ぼす影響について,冬季における休眠解除の関与も含め検討を行った.1990 年以前では,殆どの気象官署において,サクラの開花日に影響を与える気象要因は,3 月平均気温のみで説明できたが,1991 年以降では,それに冬季最低気温を加える必要性が示唆された.1991 年以降の,冬季の気温上昇に伴い,開花日の遅れが生じる地域が九州全域から本州の一部にまで拡大していることが明らかとなった.銚子では,1991 年以降,冬季最低気温が 5℃以上の暖冬年が多く,それに伴いサクラの開花日が遅れる傾向が顕著にみられた.以上のことから,近年における冬季の温暖化により,サクラの休眠解除が遅れ,結果的に開花日に遅れが生じる地域が拡大したものと結論される.
著者
長野 和雄 堀越 哲美
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.23-34, 2017-05-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
41

奈良県旧宗檜村の土地台帳に記載されているすべての小字の中から日当たりの良悪を表す日向地名・日陰地名を収集し,その地の日照・日射特性を GIS により検証した.日陰地名は日向地名に比べ標高が低く,天空率が低く,可照時間が短い.日陰地名の傾斜方位は北・北西・北東,日向地名は南西・南に多い.冬至における日陰地名の日積算散乱日射量,直達日射量は日向地名のそれぞれ 81%,21% と顕著に少ない.しかしながら日陰地名を持つ地にも日向地名同様に住宅地・農作地があり,土地利用形態に明確な差は認められない.また住民は既に小字名をあまり用いず,日当たりに対する認識も必ずしも明確ではない.
著者
山口 隆子
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3-4, pp.75-86, 2022-03-31 (Released:2022-04-22)
参考文献数
138

芝棟に関する既往研究を整理し,現地調査により,芝棟の現存状況と芝棟植物の分布特性が明らかとなった.芝棟は,岩手・青森県を中心とした東日本に約600棟が現存しており,そのうちの9割は岩手県に現存している.岩手・青森県を除く都府県では,芝棟の多くが文化財等に指定され,保存されていた.しかし,文化財等に指定されている建造物であっても,芝棟を維持できなくなっているものもあった.芝棟植物の分布については,シバは芝棟が分布する全地域に見られ,東北地方太平洋側と内陸山間部では,ユリ・カンゾウ・ネギ・ニラが,関東平野部ではイチハツが,関東山地周辺ではイワヒバが多く見られた.
著者
大橋 唯太 井原 智彦
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3-4, pp.101-114, 2022-11-25 (Released:2022-12-06)
参考文献数
45

2005~2019年15年間の東京23区・名古屋市・大阪市における循環器系疾患の旬別死亡率と気象条件の統計的関係を調べた.気温や気圧など複数の気象条件の各種疾患死亡率への影響度(死亡リスク)を,一般化加法モデル(GAM)によって評価した.解析した疾患種類の多くで,気象変数のうち日最高(最低)気温に対して死亡率が低温側と高温側で正の極値をもつような非線形効果を示した.現地気圧は,死亡率に対して線形効果が多くの疾患種類で現れていた.循環器疾患のうち不整脈と心不全は,日最高気温には高温側でも低温側でも死亡感度があまり強くない一方,出血性脳疾患や脳梗塞などの脳血管疾患は低温側のみで死亡感度が現れる,U-shapeやV-shapeとは異なる影響度曲線を示した.また,不整脈と心不全は高気圧条件ほど,脳血管疾患は低気圧条件ほど死亡リスクが上昇する特徴がみられた.このように疾患の種類によって気象要素への感度が異なるため,疾患別に分析する必要がある.
著者
川口 光倫
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.71-82, 2014-09-01 (Released:2014-10-01)
参考文献数
95

気候変動の結果によると思われる森林樹木の成長傾向の変化や集団枯死が近年相次いで報告されており,本総説は近年の論文からそれらの現況と要因についてまとめたものである.気温と降水量は森林生産性を制限する主要因であり,これまでの気温上昇により樹木の成長が増加した一方,乾燥ストレスの相対的な増大による成長の低下も観測された.その他の気候的要因である日射量,そして非気候的要因である大気中の二酸化炭素濃度の上昇,大気汚染物質の排出,さらに生物的・非生物的な撹乱や環境ストレスの傾向変化も複合的に樹木の成長に影響していると思われる.また,樹木において成長速度は,気候変動への応答や寿命と密接に関係することから,気候と森林との関係を示す重要な変数として測定が広く継続されるべきである.現在の日本では森林に対する気候変動の影響が顕著でないものの,今後の研究により実態が明らかになる可能性がある.
著者
黄 小〓 〓 小威
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.109-113, 1989-08-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
1

漢方医学は発熱とその治療について独特な概念と体系を持っている.漢方医学では発熱が単に体温の高低を意味するだけでなく, 広い症状を現す概念になる.体温計の方よりも患者の感覚と症状が重視される.それによって, 発熱は「外感発熱」と「内傷発熱」との分類体系になる.このような発熱についての東方医学の認識は今の発熱の研究に対して, 何か役立つものがあるのではなかろうか.
著者
江頭 和道 阿部 和彦
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.97-109, 1988-08-01 (Released:2010-12-10)
参考文献数
40
被引用文献数
1

自殺の季節変動は, 古い年代では多くの国においてピークが初夏 (6月) にみられた.日本では1900-09~1920-29には, 自殺のピークは5月と7月 (7月が高値) で, 6月の陥凹は, 梅雨と関係していると思われる.一般に年代とともに季節変動の大きさが減少し, ピーク月は早い方 (4月) へ移動していた.日本では, 寒冷期 (11-2月) の自殺率の増加に対応して, 自殺の季節変動量が低下していた.自殺の季節変動量 (S) と寒冷期の自殺が年間全自殺に占める割合 (△) との間には, 直線的な関係が観測され, ある仮定の自殺の季節変動 (ピークが5-6月, 谷が12-1月, その間は直線的に変化) に基づいて導出されるSと△との直線関係式によってよく説明された.多くの国の自殺の季節変動量は, このモデル直線に沿って年代とともに減少し, 生活水準が高い国ほど, 季節変動量は小さい.各国の自殺の季節変動は, ナーストラリアを除き同じ過程を経て年代的変化をしていたが, その変化の速度は国によって異なった.