著者
中田 大貴 芝﨑 学
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.3-11, 2019-06-01 (Released:2019-10-17)
参考文献数
52

環境ストレスは生体機能に様々な変化をもたらし、心理学的な要因にも作用する。シビアな高体温や低酸素刺激は認知機能の低下をもたらすことがある。心理学的に認知機能を評価する方法は様々あるが、本稿では脳からの生体信号から認知機能を評価する方法について特化して解説したい。認知機能を変化させる手法を紹介するとともに、環境ストレスによってもたらされる高体温と低酸素が認知機能へどのように影響を与えるかを紹介したい。
著者
池畑 孝次郎 石部 裕一 広沢 寿一 西村 友紀子
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1,2, pp.31-35, 2002 (Released:2002-10-16)
参考文献数
7

気象変化に伴う天気痛は広く知られた事実であるが,気象因子の何を身体のどの部位で捉えているかについては不明な点が多い.下肢伸展挙上試験に示される筋緊張が気圧に同期して変化する傾向について我々は既に報告した.この現象を更に検証する目的で人工的に気圧を調節して下肢伸展挙上試験の角度(SLR)を計測した.対象は健康成人8名(女性2名,男性6名,平均年令26.3才)である.SLRは1)大気圧,2)20hPa加圧,3)60hPa減圧,4)40hPa加圧で計測した.その結果,SLRは気圧に同期して有意に変化し,気圧が上昇するとSLRは増加し,気圧が低下すると減少した.日常体験する範囲の気圧変化でSLRに示される筋緊張が有意に変化することが明らかになり,関節が気圧の検出器で関節受容器反射を生じている可能性が高いと考えられる.天気痛の一機序を説明し得る可能性を指摘した.
著者
住里 公美佳 長野 和雄
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.111-134, 2018-03-01 (Released:2018-04-10)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本研究は,生活季節の開始日・終了日の等日線図を導出することを目的とする.京都市域在住の男女各 111 人に対し,毎週日曜日に 21 の行為についてのウェブアンケート調査を 1 年間続けた.アンケート調査と同期間に,京都で気温・湿度・風速・長短波放射量の気象観測を行い,これらのデータを基に体感温度 ETVO を算出した.日平均 ETVO に対する生活季節の実施率の散布図より回帰式を算出し,回答者の 20% または 80% がその行為を開始・終了する日(初日 20/80%・終日 20/80% と称す)の ETVO(初日 20/80%ETVO・終日 20/80%ETVO と称す)を算出した.全国 836 の観測地点の日平均 ETVO が算出した初日 20/80%ETVO・終日 20/80%ETVO と一致する日をその地における初日 20/80%・終日 20/80% と定義し,初日 20/80%・終日 20/80% の生活季節の等日線図を作成した.1950 年代の炬燵に関する先行研究と比較して,現在ではほとんどの地域で 2 週間早く炬燵を使い始め,1 ヶ月遅く使い終えたことが読み取れた.

1 0 0 0 OA 森林浴

著者
植田 理彦
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.39-42, 1995-04-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
6
被引用文献数
1

森林の優れた自然環境の中で, 休養の手段となる快適なrecreation活動を行うのが森林浴である.高齢社会を迎えた今日「森林浴」を通じて世代を超えた楽しむ行動は, 森林が二世代, 三世代にわたって触れ合いの復活の場として, また, 心肺機能の低下を防ぐ健康の維持・増進の場として活用されることが望まれる.
著者
岡山 寧子
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.53-60, 1998-04-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
31
被引用文献数
3

高齢者の脱水予防の基礎的な資料にしたいと考え, 夏期と冬期の日常生活における水分出納を, 在宅の健康な女性高齢者14名 (平均年齢74.4歳) を対象として検討し, 以下の結果を得た.1) 1日の総水分摂取量は夏期2.8リットル, 冬期2.2リットルであり, 夏期では, 飲用水摂取量と食物に含まれる水分の摂取量が冬期より多かった.2) 主な飲用水は, 冬期は日本茶, 夏期では日本茶と麦茶であった.3) 排尿量は夏期1.3リットル, 冬期1.6リットルで季節差は認められなかったが, 蒸泄量では夏期1.5リットルの方が冬期0.6リットルより多かった.4) 総水分摂取量は, 年齢とは負の相関 (夏期r=-0.57, 冬期r=-0.61) , 食物に含まれる水分の摂取量 (夏期r=0.62, 冬期r=0.61) , 飲用水摂取量 (夏期r=0.97, 冬期r=0.89) とは正の相関が認められ, 総水分摂取量を目的変数とした重回帰式に取り込まれた有意な説明変数は体表面積, 水分摂取回数, 年齢であった.以上より, 高齢者の水分出納には明らかな季節差が認められ, 脱水予防には, より積極的な飲水や水分を含む食事の工夫が有効であることが示唆された.
著者
大貫 義人 荒木 善行 佐々木 秀幸
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.21-25, 2000 (Released:2002-02-28)
参考文献数
14

ランニング成績に及ぼす準高地暴露の影響を調べるため,男子陸上競技中長距離学生選手における,海抜1,000mでの夏合宿前と中の赤血球物質の変化を計測した.血中2,3-DPG濃度は合宿前の2.31±0.36μmol/mlから.2.69±0.56μmol/mlに有意に増加した(P<0.05).ヘマトクリット値は合宿前が43.0±4.2%で合宿中は40.2±3.7%と有意に減少し(P<0.01),ヘモグロビン濃度は合宿前と中で変化しなかった.今回の研究から,1,000mの準高地ではヘマトクリット値やヘモグロビン濃度の増加には十分でないが,2,3-DPG濃度の変化に現れた.
著者
樫村 修生 南 和広 星 秋夫
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.139-144, 2016

<p>本研究では,2020 年東京オリンピック開催期間と同期間の 2015 年において,暑熱曝露がもっと過酷であると想定されるマラソン選手の立場から,走行中に曝露される WBGT の計測を試みた.期間中にロードバイクに環境温度計を設置し,スタート地点からゴールまでをマラソン競技の走行スピードに相当する時速 20 km 時の WBGT を計測し,熱中症の危険性を評価した.平均 WBGT は 7 月 26 日が 30.4℃で 30℃を超え,次いで 8 月 4 日が 29.6℃,8 月 9 日が 27.0℃であった.また,平均乾球温度は,7 月 26 日が 36.9℃,8 月 4 日が 34.5℃,8 月 9 日が 32.4℃であった.平均 WBGT は,各地点においてロードバイク走行時の方が定点観測より平均 0.2±0.1℃(0.1 から 0.3℃)とわずかに低値であった.その結果,走行時に選手が曝露される WBGT は予想以上に高く,これにマラソン運動による 2 時間以上の体温上昇の負担も加わることから,熱中症を防ぎ良い成績を残すためには暑熱下トレーニングを実施し,十分な暑熱順化が必要になると思われる.この研究において,我々は 8:30 にスタート時間を設定したが,そのスタート時間をさらに早朝にシフトすることを検討する必要がある.さらに,我々はマラソンコースに多くのミストシャワーを設置し,ランナーの身体冷却を補助することが必要であると考える.</p>
著者
菅屋 潤壹 小川 徳雄 朝山 正巳 宮側 敏明
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.72-79, 1981-10-15 (Released:2010-10-13)
参考文献数
19
被引用文献数
1

発汗発現の部位差を汗腺の分泌能のそれに関連して検討するため, 発汗量対中枢性発汗活動のプロットよりえた回帰直線を, 上半身のいろいろな部位のあいだで比較した。被検者は気候室内で安静椅座位をとり, 室温は2―3℃ずつ30―50分の間隔で35℃から45℃まで段階的に上昇させた。湿度は40%に保持した。室温の各ステップでは, 20分又はそれ以上の平衡時間をとったあとで局所発汗量を測定した。ここでは, 中枢性発汗活動は0.9Tre+0.1Tsであらわし, また, 回帰直線の勾配とx切片をそれぞれ発汗増加能, 発汗発現温度とみなした。汗腺の発汗増加能が低い部位ほど発汗発現温度が高いという一般的傾向が見られた。しかし, 一部の被検者の腋窩と前額は, 発汗増加能が他のどの部位より低いにもかかわらず発汗発現温度ははるかに低かった。各部位からえた回帰直線を外挿したところ, 横軸下の1点に集中することはなかった。このことは, 導管部での水の再吸収量は, おそらくその部位の汗腺の分泌能に比例して変化することを示唆する。腋窩と前額で見られる特異な温熱性発汗のパターンは, それらの部位の再吸収能が極端に低いことを示唆する。
著者
水野 一枝 水野 康 西山 加奈 田邊 素子 水谷 嘉浩 小林 大介
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.65-73, 2017

<p>段ボールベッドが低温環境での入眠過程に及ぼす影響を検討した.対象は成人男性 12 名とし,15℃ RH 60% の環境で床の上(条件 F)と床の上に段ボールベッドを使用(条件 B)した場合の 2 条件で 13:15~15:15 に就寝した.測定項目は睡眠脳波記録,皮膚温,寝床内気候,衣服気候,就寝前後の寝具の評価,温冷感,湿潤感,快適感や睡眠感等の主観申告であった.睡眠には条件間で有意差は見られなかった.背の皮膚温は条件 B で条件 F よりも有意に高かった.寝床内温度は,背部の全就床時間,足部の睡眠後半が条件 B で条件 F よりも有意に高かった.主観申告では,条件 B で条件 F よりも寝ていた時の温冷感が有意に暖かい側,快適感も快適側,寝具も柔らかい側の申告であった.低温環境での段ボールベッドの使用は,背の皮膚温,足部と背部の寝床内温度を高く保ち,寝ていた時の主観的な温冷感,快適感,寝具の固さを改善する可能性が示唆された.</p>
著者
平田 耕造
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.3-12, 2016

本研究は熱負荷時に手から還流する皮静脈血流が,どの程度前腕からの蒸散性(E)及び非蒸散性(R+C)熱放散量に影響するか明らかにすることを目的とした.両腕は,一側ずつ手血流量と手からの還流静脈血を手首のカフ加圧(250 mmHg)により 30 分間遮断する加圧側としない対照側とした.食道温が 0.82℃上昇する間,手の血管拡張後,対照側の前腕皮膚温は 3.2℃上昇したが,加圧側では上昇が認められなかった.これに伴って,対照側の前腕発汗量は 0.21 units まで増加したが,加圧側では 0.13 units に留まった.これらの結果から,手の血管拡張による AVA 血流量の増加は,前腕の発汗量増加と皮膚温の上昇による熱放散量亢進に著しく寄与することが判明した.
著者
森本 武利 三木 健寿 能勢 博 山田 誠二 平川 和文 松原 周信
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.31-39, 1981-04-15 (Released:2010-10-13)
参考文献数
8
被引用文献数
6

1.スポーツ飲料 (グルコース電解質混合溶液―G-E溶液) 摂取による, 発汗時体液量および体液組成変化を検討するとともに, 発汗時の自発的脱水の発生機序に検討を加える目的で発汗負荷実験を行った。実験には8名の被験者を用いて, それぞれ水分を全く与えない条件, 水を自由に摂取させる場合, およびG-E溶液を自由に与える場合の3条件下で, 高温環境 (36℃, 70%R.H.) 下にて運動負荷を加え, 水分バランスおよび血液性状の測定を行った。2.いずれの条件下にいても, 2時間の発汗負荷により約1.6kgの体重減少を来したが, 発汗直後における血液性状に関しては, ほとんど有意の差は認められなかった。自発的脱水の程度に関しても, 発汗中では水およびG-E溶液摂取による差は認められなかった。しかし3時間の回復期間をも含めて比較すると, 水負債は脱水実験で体重の3.4%, 水摂取実験で2.0%, G-E摂取実験で1.3%となり, 脱水実験に比して他の2条件下に有意差が認められた。3.水分喪失の体内分布は, 発汗直後ではいずれの条件下でもほぼ血漿25%, 間質液45%, 細胞内液30%である。その後の3時間において, 血漿量はいずれの条件下でも回復する。間質液量は脱水群ではさらに減少するが, 他の条件下ではほぼ同じである。しかし細胞内液量は脱水群ではさらに減少し, 水およびG-E溶液を摂取すると回復を示し, 特に後者では回復が著しい。4.これらの結果に基いて, 自発的脱水の機序について検討を加えた。
著者
大日方 一夫
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.53-57, 1997-04-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
6

第35次南極地域観測隊員を対象に越冬中の歩数, 体重を測定し, 第9, 10次隊と比較検討した.第35次隊では, 夏作業中の平均歩数がやや減少し, 船上, 冬期間の平均歩数が増加していた.これは乗り物, 重機等の機械化の影響と, 観測船及び昭和基地の大型化の影響と考えられた.雪面の凹凸による雪上車自体の振動のため内陸旅行隊の往路, 復路の測定はできなかった.内陸夏旅行での観測拠点の建設作業中の平均歩数は同時期の昭和基地滞在隊員とほぼ等しかった.昭和基地滞在者群の体重は越冬後半まで漸増傾向を示したが, その変化は最大でも1%に過ぎなかった.これに対し内陸旅行参加者群では3回の旅行とも出発前に比べ, 帰投時には減少していた.歩数, 体重を比較検討することによって南極越冬隊の生活環境の変化が影響を与えていることが明らかになった.
著者
小野 雅司 登内 道彦
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.147-157, 2014

我々は気象庁の協力を得て,国内 6 都市(気象台)において 2007 年より黒球温度の連続観測を行い,WBGT(湿球黒球温度)を算出,ホームページより公開してきた.これらの観測データを元に,黒球温度,湿球温度を使わず通常気象要素のみにより WBGT を簡便に推定する方法を提案する.<br> 乾球温度,相対湿度,全天日射量,風速,及び,これら気象要素を組み合わせた乾球温度 &times; 相対湿度,全天日射量の二次項を用いることにより極めて高い精度で WBGT を推定できる式を得た.また,異なる都市,異なる年度のデータを用いて求めた推定式は,同一都市・同一年度のデータを用いて求めた推定式と比較して,ほぼ同程度の推定精度が得られ(推定誤差 1.0&deg;C 以内:98.3~99.8%),全国共通の WBGT 推定式としての使用が可能と考えられる.<br>