著者
藤巻 尚美 流石 ゆり子 牛田 貴子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.80-86, 2007-11-01
被引用文献数
1

介護老人福祉施設を"終の住処"としている後期高齢者の現在の生活に対する思いを明らかにすることを目的とし,意思疎通が可能で入所後半年以上経過している14名にインタビューを行った.得られたデータをKJ法で分析し,以下の結果を得た.(1)家族に対し【故郷で家族と一緒に暮らしたい】が【家族のお荷物にはなりたくない】という,自己の欲求と家族への気遣いの相反する思いを抱いており,この思いのギャップを埋めるように【私は私,家族は家族】という思いを抱いていた.(2)施設生活に対し【施設生活ならではの安心感がある】が【受け身でしかない施設の生活は意に沿わない】と,相反する思いを抱いていた.(3)現在の生活に対し【すべてをのみこんで生活している】が【やっぱり寂しい】という思いを抱きながら生活していた.高齢者はすべてを納得しているように見えても,本心を抑えて寂しさとともに生活しており,この思いを念頭に置いたその人らしい現実の意味づけへの関わりの重要性が示唆された.
著者
沖田 裕子 永田 久美子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.44-53, 2004-11-01

本研究の目的は,クリスティン・プライデンさんの講演とインタビューをもとに,痴呆の体験者が訴えようとしている内容についてケア専門家の立場から分析を行い,体験として伝えたいことを,より明確にケアと関連づけることである.講演内容とインタビューは,I.診断直後の体験・状況,II.痴呆の人が置かれている状況,III.痴呆の人が体験していること,IV.痴呆の人が求める痴呆ケア,の4つの大カテゴリーに分類することができた.これらの分析から,痴呆の人には痴呆症状の自覚と自分らしさの危機があること,新しい生き方を発見していること,行動障害は自分なりに対処している結果であること,場所・感覚機能・記憶に混乱があるなどがわかった.そして,クリスティンさんは,これらの体験に対し,それぞれのケアを求めていた.痴呆ケアは,痴呆の人の体験を知り,彼女たちの気持ちを汲んで実施していくことが重要であると再認識した.
著者
横内 理乃 新田 静江
出版者
日本老年看護学会
巻号頁・発行日
pp.80-85, 2012-03-31

抄録 本研究は,家族介護者にみられる高齢者施設入所時と入所2か月後における生活状況と精神的健康度の変化を明らかにすることを目的に,介護老人保健施設10か所の入所者21人の家族介護者20人を対象に入所時と入所2か月後に面接調査した.その結果,入所時の介護負担感尺度得点は認知症あり,入所期間の設定なし,および家族の協力不十分で高く,精神健康度得点は,入所目的が介護負担の軽減で高かった.入所時と入所2か月後の比較では,家族介護者の自分のための時間が2.8±2.0から5.6±4.9時間(p<0.05),睡眠時間が6.1±1.5から6.7±1.1時間(p<0.01)に増加し,精神健康度は6.0±3.5から2.1±2.4点(p<0.001)と有意な減少がみられた.本結果から,入所時の家族介護者の生活状況と精神健康状態は不良である場合が多く,入所後に改善する過程を理解して支援する必要性が示唆された.
著者
松本 啓子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.63-71, 2007-11-01

本研究では,在宅における認知症高齢者の家族介護者の医療に関するニーズを明らかにするために,在宅認知症高齢者の家族介護者の医療ニーズに着目し,その因子構造を構築し医療ニーズ測定尺度を開発すると同時に,その尺度の信頼性と妥当怪の検討を行った.解析の結果,「日常生活関連ニーズ」「医学的知識のもとの観察ニーズ」「介護者の安心感ニーズ」を一次因子, 「医療ニーズ」を二次因子とする二次因子モデルのデータ-の適合度はx^2 (df)=1.796,GFIが0.959,AGFIが0.937,CFIが0.975,RMSEAが0.048であった.パス係数はいずれも統計学的に有意な水準であった.また,内部一貫性を示すクロンバックのα信頼係数は,0.894であった.3因子12項目からなる在宅認知症高齢者の家族介護者の医療ニーズ尺度を構築でき,構成概念妥当性ならびに信頼性を備えていることを確認した.
著者
谷口 好美 亀井 智子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.110-118, 2002-11-01
被引用文献数
1

本研究の目的は,医療の場に勤務する看護者の高齢者観および不愉快体験を記述することである.病院,介護老人保健施設の看護者365名を対象に,構成的質問紙を用いて高齢者への肯定的・否定的傾向,および自由記載にて高齢者看護における不愉快体験とその内容を収集した.その結果,以下のことが明らかになった.1.老年期の開始は70歳前後,人生で最悪だと思う年代は60〜80代以上が最も多かった.2.約6割は高齢者を看護することに対して好意的であり,「高齢者はめったに怒らない」「経験があり賢明」等と捉えていた.一方,「慢性疾患」「新しいことを学ぶのは大変」「長期ケア施設に入所・入院している」等の意見に対しては否定的な傾向がみられた.3.看護上で不愉快な体験があった者は44.4%で,その内容は「暴言・暴力」「頑固・自己中心的・他者の言うことを聞こうとしない」等の10カテゴリーに分類され,看護者の高齢者観,高齢者に対する態度に影響している可能性があることが示唆された.
著者
山田 紀代美 鈴木 みずえ 佐藤 和佳子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.165-172, 2000-11-01
参考文献数
32
被引用文献数
4

本研究は, 6年間の追跡調査に基づき,在宅の要介護高齢者の介護者の主観的疲労感と生活満足感の変化およびそれらに関連すると考えられる要因を明らかにすることを目的に行った.調査対象者は,静岡市の特別養護老人ホームの在宅サービスの利用介護者で初回調査に参加した82人のうち,追跡調査に回答した53人である.疲労感については蓄積的疲労徴侯調査票を,生活満足感は介護者の生活に対する主観的な満足感を求めた.その結果は以下のとおりであった.1.在宅での介護継続の有無に関して,介護継続者は14人,介護を終了していた元介護者は39人であった.2.介護継続者は,蓄積的疲労徴候調査票の特性の中で,抑うつ感,不安感,一般的疲労感,身体不調は有意(p<0.05)に疲労感が低下していた.しかし,慢性疲労,イライラの状態,気力の減退では変化がみられなかった.元介護者については,蓄積的疲労徴候調査票の7特性のうち,気力の減退を除く6特性で著明な改善が認められた(p<0.01).3.生活満足感については,介護継続者および元介護者のどちらも満足感を感じている者が多く,6年間での変化はみられなかった.4.介護継続者においては,趣味をもつものが,元介護者よりも有意(p<0.05)に多かった.
著者
水野 敏子 高崎 絹子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.79-88, 1998-11-15

子供の近くに転入し,現在,公的サービスを受けているいわゆる「呼び寄せ老人」とその介護者98組に面接し,生活実態調査を行うとともに,介護者の呼び寄せに対する認識に影響する要因を分析した.その結果「呼び寄せ老人」は近県移動が主であり,痴呆が中等以上になってからの移動が多く,移動能力もつかまり歩行以下になってからの移動が多かった.呼び寄せに対する介護者の認識,すなわち呼び寄せて良かったか否かという認識に影響する要因を推測するために,数量化II類の分析を行った.その結果,「良かった」とする因子は,呼び寄せ前準備期間が3ヶ月以上あり,人間関係がよく,呼び寄せ前の移動能力に介助が必要で,痴呆症状よりも寝たきりへの介助が必要な人であった.今回の結果から,呼び寄せ老人への直接的支援よりも,介護者への支援が優先されるべきであることが示唆された.
著者
阿川 慶子 原 祥子 小野 光美 沖中 由美
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.46-54, 2012-11-30

本研究は,高齢慢性心不全患者が日常生活において心不全に伴う身体変化をどのように自覚しているのかを明らかにすることを目的とした.対象は,慢性心不全と診断され入院または外来通院している高齢者11人として半構成的面接を行いデータ収集し,質的記述的に分析した.高齢患者は,【変化速度の緩急】【体の制御感の喪失】【自己調整できる苦しさ】【自分のありたい姿との調和】【忘れられない極限の体験からの予見】【独特な身体感覚】【客観視された情報による気づき】によって自己の身体変化を自覚していた.患者は,自分の身体を知ろうと模索し感じとった身体変化を特有な表現で他者に伝えることや,自己調整できる苦しさであるという自覚によって対処が遅れる可能性を抱えていた.患者の感じている身体変化を看護師が理解するためには,患者が感じたままに表現できる場を設け,患者の身体に対する期待や理想,日常生活のなかで感じる不都合さ,忘れられない極限の体験を手がかりとして思いを聞くことが有効である.
著者
古田 加代子 伊藤 康児 流石 ゆり子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.5-16, 2005-11-01
被引用文献数
3

本研究では,移動能力があり,身体の障害も軽いにもかかわらず閉じこもっている高齢者には,心理的要因が大きく作用しているとの観点から,その心理的要因の構造を明らかにすることを目的とした.なお日常的な外出頻度が過1回以下の者を「閉じこもり」と定義した.A県O村に居住する65歳以上の高齢者を対象に,質問紙調査を行い,252名(男性109名,女性143名,有効回答率は80.5%)の回答から以下の結果を得た.1.閉じこもりの有無と関連のある心理的要因は「生活創造志向」「人生達成充足感」「穏やかな高揚感」「外出志向」の4項目であった.閉じこもり群は非閉じこもり群に比べ,この4因子が有意に低かった.2.「生活創造志向」の低さを予測する要因は,年齢が高い,1km歩行ができない,日常の時間が決まっていない,手段的サポートがない,の4つであった.3.「人生達成充足感」の低さを予測する要因は,年齢が低い,現在の体調が悪い,外出の不安がある,手段的サポートがない,の4つであった.4.「穏やかな高揚感」の低さを予測する要因は,現在の体調が悪いことであった.5.「外出志向」の低さを予測する要因は,性別が男性であることと,何らかの身体的不自由感があることであった.閉じこもり予防を目指した活動では,こうした心理的特徴をふまえた関わりが必要となる.
著者
細川 淳子 佐藤 弘美 高道 香織 天津 栄子 金川 克子 橋本 智江 元尾 サチ
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.81-88, 2004-03-15
被引用文献数
2

平成14年度春のグループ回想法プログラムにおけるビデオ撮影によって得られた表情の画像と,その表情時の回想内容を重ね合わせながら,一事例(A氏,88歳男性)にみられる特徴的な表情を捉える試みを行った.さらに,その表情が日常生活でもみられるかを観察した.結果,5回の回想法でみられたA氏の特徴的な表情として【難しい表情】【見定める表情】【笑いの表情(社交的な微笑み・照れ笑い・口を大きく開けた笑い)】【困った表情】【おどけた表情】の5つが抽出された.また,3日間の日常生活における対人交流場面との比較では,困った表情やおどけた表情は観察されず,難しい表情と見定める表情は各々1場面観察された.笑いの表情では,社交的な微笑みは1場面,照れ笑いは数回,口を大きく開けた笑いは,アクティビティケア時に観察された.日常生活では全般的に表情が変わらない時間が長かった.表現された表情から回想法での刺激が対象にとってどんな意味をもったのかを吟味することで回想法プログラムの評価を行い,そこで引き出された力を日常生活の中で活かしていくケアが重要だと考える.
著者
秋月 仁美 坂本 奈穂 西 あずさ 榊 友希 出戸 亜沙子 永田 真由美 吉田 有希 笹川 寿之 平松 知子 正源寺 美穂
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.79-85, 2006-11-01
被引用文献数
1

本研究では健康度自己評価に関連する因子を明らかにするため,A県に居住する健康な高齢者897名を対象に質問紙調査を行った(男性214名,女性683名,有効回答率83.7%).多重ロジスティック回帰分析の結果,健康度自己評価と病気・障害の有無のそれぞれに関連する因子として以下の結果を得た.1.健康度自己評価が高いことに関連する因子として,病気や障害がない,日常動作に困難を感じない,痛みによる生活への影響がない,自分は若いと感じている,生活に満足している,付き合いがある,趣味がある,熟眠感がある,毎日運動を行っていることがあげられた.2.病気や障害がないことに関連する因子として,70〜74歳あるいは85歳以上,女性,服薬をしていない,日常動作に困難を感じない,心配や不安がない,食欲があることがあげられた.これらの結果から地域の健康な高齢者の健康を維持するためには,身体的健康だけではなく,心理的,社会的,そして日常生活に伴って感じられる自分自身に対する満足感や,自分自身の意志によって行われる保健行動も重要である可能性が示唆された.
著者
粟生田 友子 長谷川 真澄 太田 喜久子 南川 雅子 橋爪 淳子 山田 恵子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.21-31, 2007-11-01
被引用文献数
5

本研究の目的は,(1)せん妄発生因子を患者へのケア実践過程にしたがって構造化し,(2)その発生因子とせん妄発症との関連を明らかにすることである.せん妄発生因子は,【背景・準備因子】【身体・治療因子】【患者因子】【周辺因子】の4領域102項目と,薬剤104種類について,せん妄発症との関連を検証した.研究の場は一般病院1施設の,産科,小児科,脳神経外科病棟を除く7病棟であり,2005年1〜3月の3か月間に,基点となる週から2週間ごとに等間隔時系列データ収集法を用いて,6クールのデータ収集を行い,75歳以上の入院患者の全数を調査した.その結果,対象はのベ461名得られ,DRS-Nによってせん妄発症の有無を判定したところ,せん妄発生群96名(DRS-N平均得点16.16点),非せん妄発生群365名(2.44点)となった(発症率20.8%,t=37.687,p=.000).【背景・準備因子】では,「年齢」「入院ルート」「認知症または認知障害」「脳血管障害」「せん妄の既往」の5項目で両群に有意差が認められ,【身体因子・治療因子】で,身体因子の「せん妄を起こしやすい薬物の投与数」「高血圧の既往」「脳血管疾患の既往」「消化器疾患の既往」「感染症徴候(CRP,発熱)」「低血糖/高血糖」「肝機能障害(LDH)」の7項目,治療因子の「緊急手術」「緊急入院」の2項目に有意な差があった.【患者因子】では,日常生活変化の「陸眠障害(夜間不眠,昼夜逆転)」「排尿トラブル(尿失禁,おむつ使用)」「排便トラブル(下痢)」「脱水徴候」「低酸素血症(O_2 sat)」「ライン本数」「可動制限(生活自由度)」「視覚障害(眼鏡使用)」の8項目,【周辺因子】では,物理的環境の「部屋移動」,物理的環境への認識/反応の「日にちの確認(カレンダーで確認)」「時間の確認(時計で確認)」「点滴瓶やルートが気になる」の4項目に有意差を認めた.今回抽出できた因子は,せん妄の発症リスクの判断指標となりうるもの,あるいは看護介入によって発症を予防できる可能性をもつものであり,看護職が日々のケアの中で介入可能なものに対して介入方法とその効果を明確にしていくことが今後必要であると考えられた.
著者
相場 健一 小泉 美佐子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-84, 2011-11-30

本研究の目的は,重度認知症高齢者に経皮内視鏡的胃瘻造設術(胃瘻)による経管栄養法を選択した家族の代理意思決定に伴う心理的プロセスを明らかにし,その課題と看護支援への示唆を得ることである.研究方法は,胃瘻を選択した認知症高齢者の家族13人に対して半構成的面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.そのプロセスは《摂食困難への悩み》《命をつなぐための選択と葛藤による絞り込み》《最後までみる覚悟をしての決断》《胃瘻のある生活への不安と期待》《介護生活に対する自信と不安》《満足するものの自問自答を繰り返す》の6つのカテゴリーで構成された.家族は医師への信頼と患者の命をつなぎたい思いから胃瘻を決断していた.しかし,そこには迷い,葛藤,不安,答えの出ない代理意思決定への悩みが存在した.看護師は家族に対して高齢者にとっての胃瘻の意味を考えるように促し,家族が自らの決定に意味を見いだせるようにかかわる必要性が示唆された.
著者
原 祥子 沼本 教子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.35-43, 2004-03-15
参考文献数
27
被引用文献数
6

本研究の目的は,老いを生きる人が自己のライフストーリーをどのように語るのかを記述し,過去の体験と残された人生にどのように意味づけをしていくのかを明らかにすることである.対象は介護老人保健施設を利用している79歳の女性で,3回の非構造化面接を通じてデータ収集し,得られたデータは量的・質的な内容分析を行った.語られたライフストーリーについては,そのアウトラインを提示し,要約を記述した.そのライフストーリーは,他者との関係性のストーリーを語るという女性の発達の様相を呈し,残された人生に対しても,人とのつながりを通して自己の存在に意味づけをしていくことが示されていた.ライフストーリーの語られ方に関する分析結果では,過去の各人生時期の語りにかけられた時間には密度の濃淡があることや,ライフストーリーにおける空自の時間の存在が確認され,聞き手が空白の時間をも共有しながら聞くことの重要性が示唆された.
著者
六角 僚子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.114-122, 2001-11-01
被引用文献数
3

「アクティビティケア」(以下,AC)という視点から痴呆性高齢者のケア実践を1年間試み,その有効性を見てきた結果,以下のことが確認された.1)高齢者のアセスメントを重視したACの提供の結果,AC時のみならず日常生活全般での社会的交流能力やIADLを引き出し,日常生活自立度が改善された.2)そのことが,グループACにおいても対象者を取り囲む他の高齢者にもプラスの影響を与え,それぞれの社会的交流能力が引き出された.3)継続的なACの提供とそれに対する評価により,対象者にとって意味のある/ないACサービス項目をふるい分けることが可能であることが示唆された.4)対象者の変化が,ケアスタッフのケアに取り組む姿勢を積極的にするなど,ケア提供者と対象者との相互作用が両者の態度変容を生み出していることが確認された.以上から,ACに焦点を当てたケアプランの策定とそれに基づいたケア実践は,痴呆性高齢者の日常生活機能の改善,社会的交流能力や生活意欲の向上に対して有効であるばかりでなく,看護・介護職者らのケアの質の改善意欲の昂進にもつながっていく可能性も示唆された.
著者
大島 あゆみ 宮中 めぐみ 泉 キヨ子 平松 知子 加藤 真由美
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.53-61, 2005-11-01
被引用文献数
2

本研究の目的は,老人性難聴をもちながら地域で生活している高齢者の体験の意味を明らかにすることとした.対象は耳鼻科医に老人性難聴の診断を受け,地域で生活している高齢者17名である.方法は半構成的面接を行い,質的帰納的に分析した.その結果,難聴高齢者は何とかして聞きたいと積極的に工夫して聞いていた.一方では,すべてを聞こうとは思わないと聞かなくてもよいと思えることを自ら選択していた.また,聞こえづらさにより趣味や仕事,人との関わりに影響を受けるだけでなく,身の危険も感じていた.補聴器は思いどおりにならないとしながらも,自分が補聴器に合わせて慣れなければならないと,開きたい場面で補聴器を利用していた.さらに,難聴高齢者は聞こえそのものや他人と比較し自分を捉え,今後も何とか死ぬまで聞こえを保持したいと思いながら,地域で生活していることが明らかになった.以上より,難聴高齢者がさまざまな思いをあわせもち地域で生活していることを理解し,「聞きたい」という強みを支える援助の必要性が示唆された.
著者
原 祥子 小野 光美 沼本 教子 井下 訓見 河本 久美子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.21-29, 2006-11-01
被引用文献数
2

本研究の目的は,介護老人保健施設における高齢者のライフストーリーをケアスタッフが聴き取ることを通して,ケアスタッフの高齢者およびケアに対する認識がどのように変化するのかを明らかにすることである.対象は,受け持ち高齢者とライフストーリー面談を実施したケアスタッフ8名で,非指示的インタビューによってデータ収集し,ケアスタッフの変化をあらわしている特徴的な発言内容をカテゴリー化し,カテゴリー間の関係性を検討した.ケアスタッフの変化は6つのカテゴリーに分類され, 《その人がよくわかる》ことによって,《その人への関心が高まる》という変化が生じていた.ライフストーリーを聴くという関係性が成立した体験はケアスタッフの《自信が深まる》という変化をもたらし,ケアが《丁寧な関わりになる》と認識され,《他の高齢者に対する認識が変わる》ことにもつながっていた.ライフストーリー面談を通して《関わることの楽しさ・喜びを実感する》ことは,これらの変化を生み出す基盤になっていると考えられた.
著者
中田 康夫 沼本 教子 片山 恵 片山 京子 吉永 喜久恵 中島 美繪子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.120-128, 1999-11-01
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究は,仮設住宅入居2年後の住民の健康および生活実態を,青壮年期(20〜54歳),向老期(55〜64歳)および老年期(65歳以上)の3つの年齢層別に比較・検討し,特に老年看護の視点から,向老期の住民にどのような看護上の問題があるのかを明らかにすることを目的とした.神戸市中央区の仮設住宅住民のうち調査の同意を得られた301名を対象に実態調査を実施した.その結果,向老期の人々は老年期および青壮年期の人々より,病気がある人(p<0.001),飲酒をする人(p<0.001),喫煙をする人(p<0.001),食事のバランスが悪い人(p<0.05),経済状態が悪い人(p<0.01),暮らし向きの悪い人(p<0.05)の割合が有意に多かった.このことから,向老期の人々は老年期の人々より身体的な健康問題と生活上の問題を多く抱えていることが明らかとなった.以上のことより,大規模災害後の長期的な支援においては,老年期の人々はもちろん,向老期の人々の健康状態にも注意を払っていくことが必要であることが示唆された.
著者
谷村 千華 松尾 ミヨ子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.35-43, 2008-03-15
被引用文献数
1

本研究は,農業従事高齢者の体力に影響を及ぼす関連要因を検討することを目的とした.対象は中間農業地域に在住する65歳以上の高齢者79名である.体力の実態とともに,関連要因として,基本的属性,配偶者の有無,疾患の有無,農作業状況,日常生活状況,体組成,骨密度を調査した.その結果,女性の脚筋力においては,農作業姿勢が関連要因として示唆された.生活体力における歩行動作では,男女とも,年齢が高く,昼寝・うたた寝をよくする者ほど動作が遅かった.女性において,年齢が低く,体脂肪率が低い者ほど起居動作が速く,握力が強く,体脂肪率が低い者ほど身辺作業動作が速かった.以上のことから,運動参加への動機づけとして,加齢に伴う生理的機能の変化を遅延させる運動の重要性が示唆された.また,女性では,身辺作業および起居動作能力の維持・向上には肥満予防や上肢の筋力を鍛えることの重要性が示唆された.