著者
田中 淳一 太田(目徳) さくら 武田 善行
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.149-154, 2003 (Released:2003-12-18)
参考文献数
12
被引用文献数
3 7

ツバキの園芸品種‘炉開き’はその形態的特徴,発見された地域や状況等から,ヤブツバキ(Camellia japonica)の変種ユキツバキ(C. japonica var. decumbens)とチャ(C. sinensis)の種間交雑種であると考えられてきた.しかし,決定的証拠ともいえるDNAについて‘炉開き’の雑種性について検討した例はなかった.‘炉開き’について,DNAマーカーの一種であるRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)およびSSR(Simple Sequence Repeat)マーカーによる解析を行った.RAPDによる解析においては,‘炉開き’から検出されたRAPDバンドの全てがチャ,ヤブツバキのいずれかより検出された.さらに,チャでは多型が全く検出されなかったチャのSSRマーカー(TMSLA-45)についてヤブツバキを調査したところ,チャとは異なる増幅産物が検出され,‘炉開き’はチャとヤブツバキの増幅産物を共有していることが確認された.これらの結果は‘炉開き’が種間交雑種であることを強く支持するものであった.続いて母性遺伝RAPDまたはそれをe-RAPD(emphasized-RAPD)化したものを用いて‘炉開き’の細胞質を調査し,日本在来のチャの細胞質とは異なることを確認した.これらの結果より,‘炉開き’は種子親がヤブツバキ,花粉親がチャの種間交雑種であると結論された.また,チャと‘炉開き’を交雑し,両者の形態的特徴を色濃く反映する一個体を得た.この個体について調査し,ヤブツバキ由来のRAPDおよびSSRマーカーが‘炉開き’を経由してこの個体へと遺伝していることを確認し,チャ育種における‘炉開き’のヤブツバキの遺伝子の導入のための橋渡し親としての利用に道を拓く結果を得た.
著者
王 才林 宇田津 徹朗 湯 陵華 鄒 江石 鄭 雲飛 佐々木 章 柳沢 一男 藤原 宏志
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.387-394, 1998-12-01
参考文献数
18
被引用文献数
1

1992年から,プラント・オパール分析による中国長江中・下流域における稲作の起源およびその伝播に関する日中共同研究が開始され,太湖流域に所在する草鞋全山遺跡における古代水田趾の発掘調査が行われた。調査の結果,遺跡の堆積土層が10層確認され,5層からlO層までは馬家浜中期(B.P.5900〜6200年)の文化層であることが判った。また,プラント・オパールの分析により,春秋,綾沢,馬家浜時期の水田土層が確認された。さらに,馬家浜中期の土層から40面余りの水田遺構が検出された。本論文では,検出された水田遺構の一部および各土層から採取した土壌試料について行ったプラント・オパールの定量分析および形状分析の結果を報告し,当該遺跡における古代イネの品種群およびその歴史的変遷について検討を加えたものである。プラント・オパールの定量分析より,各遺構および各土層からイネのプラント・オパールが多量に検出された。この結果から,草革全山遺跡周辺では,B.P.6000年の馬家浜中期からイネが継続して栽培されてきたと推測される。
著者
舘山 元春 坂井 真 須藤 充
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-7, 2005-03-01
参考文献数
23
被引用文献数
4 9

複数の低アミロース性母本に由来する系統を供試し,イネの食味に大きく影響する胚乳アミロース含有率の登熟気温による変動を調査した.日本の寒冷地域で作付けされている,「ミルキークイーン」(<i>wx-mq</i>保有),「彩」(<i>du(t)</i>保有),および「スノーパール」の低アミロース性母本に由来する育成系統と,「山形84号」(<i>wx-y</i>保有),「探系2031」,対照としてうるち品種の「つがるロマン」(<i>Wx-b</i>保有)を供試した.人工気象室,ガラス温室および自然条件を組み合わせ,低,中,高温の3つの温度条件で登熟させた時の胚乳アミロース含有率を測定した.「つがるロマン」のアミロース含有率の変動幅は12~23%(高温区~低温区)であり,登熟気温変動1 &deg;C当たりのアミロース含有率の変動幅(&Delta; AM/ &deg;C)は0.8~1.1%であった.これに対し「ミルキークイーン」由来の系統,ならびに「山形84号」のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より小さかった.一方,「スノーパール」の母本で「ミルキークイーン」や「山形84号」とは異なる <i>Wx</i>座の突然変異による「74wx2N-1」に由来する系統のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より大きく, &Delta; AM/&deg;Cは「つがるロマン」の1.4~1.9倍であった.「探系2031」のアミロース含有率は,「つがるロマン」と他の低アミロース系統の中間であり, &Delta; AM/&deg;Cは「つがるロマン」とほぼ等しかった.「ミルキークイーン」由来の系統あるいは「山形84号」と,「74wx2N-1」に由来する系統間に見られるアミロース含有率の温度による変動幅の差は,その保有する低アミロース性遺伝子の違いによる可能性が示唆された.<br>
著者
佐々木 武彦
出版者
日本育種学会
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.15-21, 2009 (Released:2011-03-05)
著者
森田 明雄 小西 茂毅 中村 順行 清水 絹恵 横田 博実
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-9, 2004 (Released:2004-03-18)
参考文献数
18
被引用文献数
2 4

日本で育成された緑茶用品種の中から29品種を選び,それぞれ一番茶生育期前(3月1日)の成葉と摘採適期の一番茶新芽を採取し,全窒素,全遊離アミノ酸,テアニン,タンニン,カフェイン,ビタミンC含量を近赤外分光法により測定した.その結果,一番茶では,育成年と茶の滋味に関係する全窒素,遊離アミノ酸並びにテアニン含量との間に正の相関が認められた.つまり,育成年が新しい品種ほどそれらの窒素成分含量が高かった.しかし,同じ窒素化合物でも,苦味成分であるカフェイン含量には育成年の新旧に応じた差はなく,また渋味成分であるタンニン含量は反対に育成年との間に負の相関が認められた.一方,一番茶生育期前に採取した成葉でも,一番茶と同様に育成年と全窒素,遊離アミノ酸,テアニン含量との間に正の相関が認められ,育成年の新しい品種ほどこれらの窒素成分含量が高かった.しかし,成葉においては,育成年とタンニン含量との間に有意な相関はみられなかった.また,一番茶と一番茶生育前の成葉の全遊離アミノ酸含量同士の間に正の相関が示された. 次に,上述の煎茶用品種の中から1960年以降に育成された10品種を選び,一番茶摘採前期,後期,終期に相当する5月4日,14日,17日の3回,一心五葉芽の一心三葉部分のみを採取し,全窒素含量と可溶性窒素(全遊離アミノ酸に相当)含量を分析した.その結果,いずれの収穫日においても,摘採適期に収穫した場合と同様に,育成年と全窒素並びに可溶性窒素含量との間に高い正の相関を示した. これらの結果から,チャの育種では,近年の栽培等の技術の進展を背景に,滋味成分である窒素成分含量が高く,渋味成分であるタンニン含量の少ない茶葉をもつ個体が選抜されたことが示された.また,摘採適期に収穫した一番茶以外でも,一番茶生育期前の成葉または摘採期前期から終期までの新芽の一心三葉部分のみを試料に用いた成分分析値も,チャの成分育種の効率化に有効な資料として活用できることが示された.
著者
叢 花 長峰 司 菊池 文雄 藤巻 宏
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.117-123, 2004 (Released:2004-09-18)
参考文献数
15

新彊ウイグル自治区(以下新彊と略称)は,中華人民共和国の西北端に位置し,緯度上は日本の中北部から樺太南部に相当する.新彊の内陸性乾燥寒冷気候は,日本などの東アジアの海洋性湿潤温暖気候とは対照的である.現在,イネは新彊の主要食用作物にはなっていないが,南部では1400年以上も前から,栽培が行われていた記録が残っている.本研究では,新彊の地方品種(16点)と改良品種(13),日本品種(42),中国品種(40),その他の国の品種(85)の196品種を供試して,形態・生態的特性,生理・生化学的特性,品質・成分特性,アイソザイム多型などを調査し,新彊イネの特性を明らかにした.その結果,新彊イネは,地方品種,改良品種とも極早生・やや長稈・長穂で分げつが少なめで生育量が小さく,やや大粒で止葉がきわだって大きく,穂発芽しやすい特徴がみられた.また,エステラーゼ・アイソザイムの分析結果では,新彊の地方・改良品種のいずれもが日本品種と同様の Est-1遺伝子座の1AとEst-3座の12Aの二つのバンドをもつ遺伝子型であった.中国雲南省からミャンマー,ラオス,北ベトナムなどの多様性中心からイネが北上するに伴い,寒冷環境に適応するために,感光性を失い極端に早生化したと考えられる.このため,新彊品種は,極早生・少分げつなど,北海道品種と共通の特徴をあらわしたが,大きな止葉とやや大粒できわめて穂発芽しやすいなどの異なる特徴も持っていた.また,玄米のアルカリ崩壊性や胚乳アミロース含有量に関し,日本品種より大きな変異がみられた.自然選択や人為選抜の影響を受けにくいアイソザイム多型に関しては,新彊品種は,日本品種と同一の遺伝子型であった.このことから,エステラーゼ・アイソザイム遺伝子と寒冷適応に関する遺伝子が連鎖している可能性も考えられる.
著者
野口 弥吉
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.137-141, 1958
被引用文献数
2

A few investigators have hitherto reported that they succeeded to increase mutability of plants by keeping them under an abnormal condition of nutrition excluding a special chemical element, such as nitrogen, phosphorus or sulphur. Recently, the chemical analysis proved phosphoric acid was one of the essential components of nucleic acid, which was believed to be an heritable substance. Therefore, the effect of phosphorus shortage on the composition of nucl.eic acid, and consequently induction of mutation was examined in the present experiment. Progeny test of the lines of rice plants; originated from the seeds of plants which were cultured in nutrient solution wanting in phosphorus for whole the life except a few weeks at the seedling stage have progressed in these several years and a good number of variations, such as chlorophyl defect, poor growing habit, gigas-type, sterility etc., was found, but most of them were mere modifications and disappeared in the later generations.
著者
吉田 雅夫 京谷 英寿 安野 正純
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.p17-23, 1975-02
被引用文献数
1

1969年より農林省果樹試験場(平塚市)において,Prunus属果樹の類縁関係を調べるとともに品種および台木の育種に役立つ基礎資料を得るため,スモモ亜属を中心に種間交雑を行い交配親和性を調査した。 1) ウメとアンズは植物学的にきわめて近縁であり,一般にいずれを母樹に選んでも相互によく交雑した。しかし,ヨーロッパ系アンズとウメは交配親和性が低かった。 2)スモモにウメあるいはアンズの花粉を交配した場合,かなり高い結実割合が得られた。スモモはウメおよびアンズとかなり近縁であると考えられる。 3) スモモにモモの花粉を交配した場合,スモモ亜属の花粉よりは劣ったが,ある程度結実することが認められた。スモモに中国オウトウとソメイヨシノを交配した場合はほとんど結実せず,交配親和性は認められなかった。 4)得られた結果は雑種個体の育成に役立つばかりでなく,核果類品種の結実安定をはかるための受粉の問題にも示唆を与える。
著者
金田 忠吉 海川 正人 Smgh M Rohinikumar 中村 千春 森 直樹
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.159-166, 1996-06
被引用文献数
1

マニプール州はアッサム州の南東に位置し,アジア栽培稲の.多様性中心地の一角を占めている.ここで収集された在来稲鼎種は約270のMRC (Manlpur Rice Collection)として整理され,農業特性が調査されているが,その一部の譲渡を哩けて2,3の生埋的・形態的特性と葉緑体および全DNAの解析を行い,各品種ごとの遺伝的特性とその栽培地域との関係から牛.態種の分化の様相を明らかにした 供試材料はマニプール州の'在来品種.51と改良型10品種.で,対照としてJaponica5(日本品種3といわゆるJavanica2)品種及びIndica2品種を用いた(Tab1e1).まず内外穎のフェノール反応,2〜3葉期の苗の1.5%塩素酸カリ溶液に対する抵抗性,および穎毛の長さを用いた判別関数Z他による48在来品種0)分類では,32品種がIndica,5品種がJaponica,11品種が中間型となった.
著者
Koichiro Tsunewaki
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding Science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.177-178, 2010 (Released:2010-06-09)
被引用文献数
1 2
著者
磯部 祥子 加賀 秋人 手塚 あゆみ 石川 吾郎 中村 俊樹
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.21-26, 2016-03-01 (Released:2016-03-25)
被引用文献数
1
著者
近藤 禎二 津村 義彦 河原 孝行 岡村 政則
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.177-179, 1998-06-01
被引用文献数
2

針葉樹では葉緑体DNAが父性遺伝し,ミトコンドリアDNAが種によって父性あるいは母性遺伝することが報告されている。ヒノキ科についてはオニヒバ属について一例報告されているのみである。そこで,わが国において林業上重要なヒノキ属について葉緑体DNAとミトコンドリアDNAの遺伝様式を調べた。ヒノキとサワラの種問雑種4個体から全DNAを抽出し,制限酵素HindIIIで切断し,タバコの葉緑体DNAのpTB 8をプローブにしたサザンハイブリダイゼーションでは,4個体すべてが父親であるサワラと同じパターンを示した(Fig.1)。ミトコンドリアDNAについては,BglIIで切断し,PCRで増殖したcoxIをプローブにしたサザンハイブリダイゼーションでは,4個体すべてが父親であるサワラと同じパターンを示した(Fig.2)。以上の結果から,ヒノキ属では葉緑体DNAおよびミトコンドリアDNAとも父性遺伝すると考えられ,オニヒバ属での結果と一致した。ミトコンドリアDNAは葉緑体DNAに比べて種間の多型が多かった。PCRで増殖したcoxI遺伝子の一部は長さが1325bpで,被子植物とも高い相同性を示し,これをプローブにしたサザンハイブリダイゼーションでは明瞭なパターンを得た。
著者
Ken Naito Yu Takahashi Bubpa Chaitieng Kumi Hirano Akito Kaga Kyoko Takagi Eri Ogiso-Tanaka Charaspon Thavarasook Masao Ishimoto Norihiko Tomooka
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding Science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
pp.16184, (Released:2017-03-04)
被引用文献数
25

Seed size is one of the most important traits in leguminous crops. We obtained a recessive mutant of blackgram that had greatly enlarged leaves, stems and seeds. The mutant produced 100% bigger leaves, 50% more biomass and 70% larger seeds though it produced 40% less number of seeds. We designated the mutant as multiple-organ-gigantism (mog) and found the mog phenotype was due to increase in cell numbers but not in cell size. We also found the mog mutant showed a rippled leaf (rl) phenotype, which was probably caused by a pleiotropic effect of the mutation. We performed a map-based cloning and successfully identified an 8 bp deletion in the coding sequence of VmPPD gene, an orthologue of Arabidopsis PEAPOD (PPD) that regulates arrest of cell divisions in meristematic cells. We found no other mutations in the neighboring genes between the mutant and the wild type. We also knocked down GmPPD genes and reproduced both the mog and rl phenotypes in soybean. Controlling PPD genes to produce the mog phenotype is highly valuable for breeding since larger seed size could directly increase the commercial values of grain legumes.
著者
Auchithya Dissanayaka Tito O. Rodriguez Shaokang Di Fan Yan Stephen M. Githiri Felipe Rojas Rodas Jun Abe Ryoji Takahashi
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding Science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.407-415, 2016 (Released:2016-06-29)
参考文献数
32
被引用文献数
33

Time to flowering and maturity in soybean is controlled by loci E1 to E5, and E7 to E9. These loci were assigned to molecular linkage groups (MLGs) except for E5. This study was conducted to map the E5 locus using F2 populations expected to segregate for E5. F2 populations were subjected to quantitative trait locus (QTL) analysis for days to flowering (DF) and maturity (DM). In Harosoy-E5 × Clark-e2 population, QTLs for DF and DM were found at a similar position with E2. In Harosoy × Clark-e2E5 population, QTLs for DF and DM were found in MLG D1a and B1, respectively. In Harosoy-E5Dt2 × Clark-e2 population, a QTL for DF was found in MLG B1. Thus, results from these populations were not fully consistent, and no candidate QTL for E5 was found. In Harosoy × PI 80837 population, from which E5 was originally identified, QTLs corresponding to E1 and E3 were found, but none for E5 existed. Harosoy and PI 80837 had the e2-ns allele whereas Harosoy-E5 had the E2-dl allele. The E2-dl allele of Harosoy-E5 may have been generated by outcrossing and may be responsible for the lateness of Harosoy-E5. We conclude that a unique E5 gene may not exist.
著者
平野 寿功 菅 洋
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.42-47, 1963-03-20

(1)短目春化性に差の認められている秋播性裸麦ハニシリハダカとコピソカタギを用い,幼苗期の低温短日感応を調べるため,(A)低温短目共存区(戸外自然目長),(B)低温単独区(戸外24時間日長),(C)短日単独区(温室自然目長)の3区をもうけ,1葉展開迄→5葉展開迄処理し,後,高温長日に移し感応の程度及び進行の経過を調査、した。(2)更に,短目処理と低温処理の順序による感応の差を調べるため,低温単独区と短日単独区を作り,処理合計日数を如目とし,順序及び日数を種々に変えて感応の様相を調査した。(3)高温長日に移してから出穂迄日数により感応の程度をみると,どの区でも処理葉数が増大するほど出穂迄日数の減少がみられた。(4)低温単独区では品種間に差がないが,短目単独と低温短日共存区では2品種間に著しい差がみとめられ,いずれもコビンカタギの方が早く感応を終った。しかし,ハシリハダカの短目単独区を除げば,すべての区は4葉期迄処理には接近して抽り,おおむね3〜4葉期頃迄に感応は相当に進んでいるようである。(5)低温と短日を別々に与えた実験から推察すると,大麦では低温と短目の順序は欠きた意義をもたず,順序よりは短目春化性の大小が差とたってあらわれてくる。但しこの実験から,低温感応や短目感応は生育の初期において一層敏感であることが認められた。(6)ハシリハダカにおける低温短冒共存区と低温単独区(低温長日)の比較で,常に後者が早いことから,いわゆる低温感応と長日感応がある程度重復して受け得ることの可能性が推察された。
著者
岡崎 桂一 浅野 義人 大澤 勝次
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.59-64, 1994-03-01
被引用文献数
1

オニユリ,エゾスカシユリ等の交雑から育成されたアジアティックハイブリッド(以下AH)は豊富な花色や栽培が容易な特性を持つ.一方,ヤマユリ,カノコユリ等の交雑から育成されたオリエンタルハイブリッド(以下OH)は大輪で香りのある花を持つ.これら2つの品種群はユリ類の中ではともに重要な品種群であり,相互に優良形質を導入することが望まれているが,この品種群間の交雑は極めて困難とされてきた.また,ユリの遠縁交雑では,胚が形成されてもその大きさは極めて小さく,胚培養での培養成功率は低い場合が多い.そこで,摘出胚(0.1〜2.0mm)に対する糖・植物ホルモン,アミノ酸の効果を検討し胚培養成功率の向上を図るとともに,その改良した培地を用いて上記品種群間の雑種育成を図った.OHの品種間交雑胚は,3%薦糖を含む培地では全く生長しなかったが,6,12%の薦糖を含む培地および4%照糖,4%マンニトール,4%ソルビトールを同時に含む培地で高率に生長した.AHの交雑胚は,3%薦糖を含む培地でも交雑胚の生長がある程度見られたが,高濃度の糖を含む培地で生長が著しく促進された.高精濃度区の胚の生存率は,培養7週間後の48.1〜94.1%から培養5ヵ月後には9.1〜70.0%に低下した.特にAHの12%薦糖区の生存率は,84.8%から9.1%に著しく低下した.OHの種間交雑胚1`カサブランカ'×(ヤマユリ×タモトユリ)1を3,6,9%蔗糖を含む培地で培養したところ,9%蔗糖区では胚の異常生長や生育停止が見られ,生存率は比較的低く,5ヵ月後の生存率はそれぞれ2.8,36.7,16.7%であった.品種間および種間交雑の結果を考え合わせると,本試験で扱った交雑胚に対する最適薦糖濃度は6%であると思われた.薦糖とマンニトールを加えた培地においても,高率に胚の生長がみられた.9%薦糖区と,ほぼ同モル数の糖(照糖+マンニトール)を含む区を比較すると,後者において胚の奇形発生率が低く生存率が高い傾向にあった.3%薦糖区および高精濃度区に各種植物ホルモン,プロリン,カゼイン加水分解物を添加したところ,両区とも胚の生存率は向上しなかった.ピクロラム0.01〜1mg/l,BA0.02,O.2mg/l,およびこれらを組み合わせて添加したところ,胚の肥厚や湾曲などの奇形が見られた.花柱切断受粉を用いたOH(♀)とAH(♂)の交雑では,花粉管が子房に侵入したが,逆交雑では花粉管の伸長は著しく阻害され子房への侵入は見られなかった.交配した57花中,44花が結実し,全部で0.1〜0.8mmの大きさの106個の胚が得られた.得られた胚を培養したところ,3%薦糖区では胚の生長は見られなかったが,4%薦糖,4%マンニトール,4%ソルビトールを添加した区では,胚の生長が見られ植物体が得られた.この植物は,葉の形態特徴や酸性フォスファターゼアイソザイムの分析によって雑種であると判定された.OHとAHの雑種が育成できたとする報告は一例あるものの,育成個体の雑種性が確認されていない.本実験では,改良した胚培養培地を用いることによってOHとAH間の雑種を育成した.また育成個体の雑種性も明らかにした.