著者
平野 清 杉山 智子 小杉 明子 仁王 以智夫 浅井 辰夫 中井 弘和
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.3-12, 2001-03-01 (Released:2012-01-20)
参考文献数
23
被引用文献数
6 5

本研究は, 自然農法および対照の慣行農法水田における在来系統を含むイネ4品種の生育と根面および根内の窒素固定菌の動態との関係について解析した. その結果, 自然および慣行農法における, イネ品種の生育にともなう根面および根内の窒素固定菌の推移は, イネ植物体の窒素含量増加および乾物重増加の推移と密接な関係があった. すなわち, 生育初期 (移植-最高分げつ) に窒素固定菌が多くなる品種は生育初期での窒素含量増加率および乾物重増加率が高く, 生育後期 (出穂-登熟) に窒素固定菌が多くなる品種は生育後期での窒素含量増加率および乾物重増加率が高くなる傾向を示した. また, 全体的に, 自然農法におけるイネ品種の窒素固定菌数が慣行農法より多い傾向が認められた. 特に, 自然農法において, 生育後期に相対的に窒素固定菌数が多くなる品種は, 慣行農法と同程度の籾収量が得られたことは注目に値する. このことは, 自然農法でより高い収量性を確保するためには, 生育後期に窒素固定菌数が多くなるタイプの品種を採用することが有効であることを示唆している. 本研究で用いた日本在来系統であるJ195は, 自然農法における生育後期の窒素固定菌数が多く, 収量も高かったことから, 自然農法あるいはこれに類する持続可能型農業で高収量を得る品種育成の有用な育種材料になり得ることが示唆された.
著者
Okazaki Keiichi Asano Yoshito Oosawa Katsuji
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.59-64, 1994
被引用文献数
7

オニユリ,エゾスカシユリ等の交雑から育成されたアジアティックハイブリッド(以下AH)は豊富な花色や栽培が容易な特性を持つ.一方,ヤマユリ,カノコユリ等の交雑から育成されたオリエンタルハイブリッド(以下OH)は大輪で香りのある花を持つ.これら2つの品種群はユリ類の中ではともに重要な品種群であり,相互に優良形質を導入することが望まれているが,この品種群間の交雑は極めて困難とされてきた.また,ユリの遠縁交雑では,胚が形成されてもその大きさは極めて小さく,胚培養での培養成功率は低い場合が多い.そこで,摘出胚(0.1~2.0mm)に対する糖・植物ホルモン,アミノ酸の効果を検討し胚培養成功率の向上を図るとともに,その改良した培地を用いて上記品種群間の雑種育成を図った.OHの品種間交雑胚は,3%薦糖を含む培地では全く生長しなかったが,6,12%の薦糖を含む培地および4%照糖,4%マンニトール,4%ソルビトールを同時に含む培地で高率に生長した.AHの交雑胚は,3%薦糖を含む培地でも交雑胚の生長がある程度見られたが,高濃度の糖を含む培地で生長が著しく促進された.高精濃度区の胚の生存率は,培養7週間後の48.1~94.1%から培養5ヵ月後には9.1~70.0%に低下した.特にAHの12%薦糖区の生存率は,84.8%から9.1%に著しく低下した.OHの種間交雑胚1`カサブランカ'×(ヤマユリ×タモトユリ)1を3,6,9%蔗糖を含む培地で培養したところ,9%蔗糖区では胚の異常生長や生育停止が見られ,生存率は比較的低く,5ヵ月後の生存率はそれぞれ2.8,36.7,16.7%であった.品種間および種間交雑の結果を考え合わせると,本試験で扱った交雑胚に対する最適薦糖濃度は6%であると思われた.薦糖とマンニトールを加えた培地においても,高率に胚の生長がみられた.9%薦糖区と,ほぼ同モル数の糖(照糖+マンニトール)を含む区を比較すると,後者において胚の奇形発生率が低く生存率が高い傾向にあった.3%薦糖区および高精濃度区に各種植物ホルモン,プロリン,カゼイン加水分解物を添加したところ,両区とも胚の生存率は向上しなかった.ピクロラム0.01~1mg/l,BA0.02,O.2mg/l,およびこれらを組み合わせて添加したところ,胚の肥厚や湾曲などの奇形が見られた.花柱切断受粉を用いたOH(♀)とAH(♂)の交雑では,花粉管が子房に侵入したが,逆交雑では花粉管の伸長は著しく阻害され子房への侵入は見られなかった.交配した57花中,44花が結実し,全部で0.1~0.8mmの大きさの106個の胚が得られた.得られた胚を培養したところ,3%薦糖区では胚の生長は見られなかったが,4%薦糖,4%マンニトール,4%ソルビトールを添加した区では,胚の生長が見られ植物体が得られた.この植物は,葉の形態特徴や酸性フォスファターゼアイソザイムの分析によって雑種であると判定された.OHとAHの雑種が育成できたとする報告は一例あるものの,育成個体の雑種性が確認されていない.本実験では,改良した胚培養培地を用いることによってOHとAH間の雑種を育成した.また育成個体の雑種性も明らかにした.
著者
小林 麻子 清水 豊弘 冨田 桂 林 猛 田野井 真 町田 芳恵 中岡 史裕 酒井 究 渡辺 和夫 両角 悠作
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.138-143, 2018
被引用文献数
4

福井県内の生産者や流通業者から高く売れる米への要望が高まっていた。さらに,地球規模での気候変動の影響で,福井県でも高温登熟による玄米外観品質の低下が懸念されていた。寒冷地南部における「コシヒカリ」の高湿登熟耐性は"やや弱"とされており,高温登熟下でも玄米外観品質が安定して良好な品種が求められていた。以上のような状況を背景として,育成地では,福井県の新たなブランド米となりうる良食味で高温登熟耐性に優れる「ポストこしひかり」品種の開発を行ってきた。
著者
Binet F.E. 志方 守一
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.93-99, 1971

伴性、および常染色体遺伝子座における同型接合体頻度を示す数式表現、およびその数値計算を、同胞交配の場合についておこなった。計算に際して用いたモデルは、伴性遺伝子座については3対立遺伝子、常染色体遺伝子座については2対立遺伝子を想定し、いずれの場合も1遺伝子座を考慮した。前老については遺伝子型頻度を用いず、交配型を用い、後者については遺伝子型頻度の1種の平均値を用いた。双方につき、代数的表現を導くとともに、数値計算を例について行ない、表に収めた。後者の例については、BINETとLESLIE(1960)の結果が本報告の特殊例であることを指摘した。BINETとLESLIE(1960)は2倍体の2つの対立遺伝子について兄弟姉妹交配を続けた場合の第γ番目の世代におけるヘテロ接合子の頻度は、最初のヘテロ接合子頻度のh<SUB>r</SUB>倍であることを示した。ここではh<SUB>r</SUB>はh<SUB>r</SUB>=0.948<SUB>e</SUB><-0.212r>[1+(-1)<SUP>r</SUP>・0.0557<SUB>e</SUB><-0.952r>].本報告では、この結果との比較をも行なうこととする。第1の場合として、2種類の性によってのみ生殖が起る場合を想定し、それら2種類の性をXXおよびXYでそれぞれ表わす。3種類の対立遺伝子をO、A、Bとし、X<SUB>A</SUB>、X<SUB>B</SUB>、X<SUB>O</SUB>の如くに性染草体上に置かれた遺伝子を(A)、(B)、(0)と書くことにし、それらにより作られる遺伝子型を(OO)、(OA)、(OB)、(AA)などと書く。これらの遺伝子または遺伝子型を交配する時の交配型を本文中の表の如く4つの型に類別し、この4種類の交配型の第γ世代における頻度r<SUB>P</SUB>_m,(m=I,II,III,IV)を求めることができて、表IIの如き結果が得られる。常染色体については、同じく兄弟姉妹交配を繰返すとき、近交係数の回帰方程式を書き下すことが知られている。この回帰方程式に適当な初期条件を与えることにより、ヘテロ接合子あるいはホモ接合子の各世代における頻度を計算することが可能である。本報告では、最初に掲げたBINETとLESLIE(1960)の求めたヘテロ接合子の頻度を求める式が、特定の初期条件にのみ対応するものであることを指摘し、一般化近交係数を用いてベクトル方程式を考慮することにより、可能な初期条件のうち任意の条件から出発して逐次、各世代のヘテロ接合子頻度を求めうることを示した。伴性遺伝子、常染色体遺伝子の双方につき、兄弟姉妹交配の繰返しによるヘテロ接合子頻度を何世代かについて例示し、作表した。本報告で触れた回帰方程式、および数値計算結果の性質については、次の機会に述べたい。
著者
志方 守一
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.307-314, 1968

同胞交配を仮定し、近交係数における交叉の影響を数値的に調べた。例として、2遺伝子座の場合をとり、近交係数の数式表現を示し、それに各種の初期条件を与えて数世代の近交係数の変化を計算した。組み換えの確率として、7種類の確率を用いた。多くの場合に比較的大きい交叉の影響が認められた。
著者
加藤 恒雄
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.431-438, 1989-12-01
被引用文献数
3

粒大,粒数等,シンク関連形質が大きく異なるイネ29品種(Table1)を用いて,受精後の粒重増加・過程とシンク関連形質との関係を観察し,前者の遺伝的変異に後者のどのような形質が関与しているのかを検討した.ここでは,粒重増加過程を直線的粒重増加期における粒重増加速度と,最終粒重を粒重増加速皮で除した粒重増加期間とで表現した. その結果,粒重増加速度は最終粒重および粒大に関する形質との間に強い正の相関を,また粒数に関する形質との間に負の相関を示した(Table2).シンク関連形質内では粒大と粒教との間に負の相関が見られた(Table2).正準相関分析の結果,粒重増加速度は粒数よりも粒大と密接に関係していることが示唆された(Table3)、粒重増加速度は粒大に関わる何らかの要因によって制御されていると考えられる. 粒重増加速度と粒大との強い相関関係から,粒重増加速度は粒大に関する選抜によって間接的に,かつ比較的容易に選抜できることが期待される.また,大粒化によって粒重増加速度が速くなると胚乳組織がその影響をうけ,結果的に腹白米,心白米等が出現することが予想される.従って,粒重増加速度と粒大の相関は,大粒で良質なイネ品種の育成を困難にするが,他方,酒米品種の育成には好都合であると考えられる. 一方,粒重増加期間は粒重増加速度とも,またいずれのシンク関連形質とも有意な相関を示さなかった(Table2).粒重増加期間とシンク関連形質との間に相関がないことは,様々なシンクをもつものの登熟性等を粒重増加期間の調節によって改良しうることを示すと考えられる.さらに粒重増加速度と粒重増加期間は互いに異なる機構によって制御されていることが示唆される.
著者
佐藤 宏之 鈴木 保宏 奥野 員敏 平野 博之 井辺 時雄
出版者
日本育種学会
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.13-19, 2001 (Released:2011-03-05)

イネ(Oryza sativa L.)品種コシヒカリの受精卵に,メチルニトロソウレア(MNU)突然変異原処理を行って育成された品種ミルキークイーンの低アミロース性の遺伝子分析を行った.ミルキークイーンとその野生型であるコシヒカリを正逆交雑したF1種子のアミロース含量は両親の中間値を示したが,ミルキークイーン/コシヒカリ由来のF1種子よりも,コシヒカリ/ミルキークイーン由来F1種子の方が高いアミロース含量を示した.従って,ミルキークイーンの低アミロース性を支配する遺伝子には量的効果があることが分かった.また,ミルキークイーン/コシヒカリ由来のF2集団のアミロース含量は,コシヒカリ型とミルキークイーン型が3:1に分離し,さらにミルキークイーン/コシヒカリ//ミルキークイーン由来の戻し交雑集団のアミロース含量が,野生型と低アミロース型が1:1に分離したことから,ミルキークイーンの低アミロース性を支配する遺伝子は単因子劣性であると考えられた.次に,イネのアミロース合成に関与する既知の遺伝子,wx並びにdu1,2,3,4及び5との対立性を検定した結果,ミルキークイーンにおいて突然変異を生じた遺伝子は,wxの対立遺伝子であることが示唆された.
著者
舘山 元春 坂井 真 須藤 充
出版者
日本育種学会
巻号頁・発行日
pp.1-7, 2005 (Released:2011-03-05)

複数の低アミロース性母本に由来する系統を供試し、イネの食味に大きく影響する胚乳アミロース含有率の登熟気温による変動を調査した。日本の寒冷地域で作付けされている、「ミルキークイーン」(wx-mq保有)、「彩」(du()保有)、および「スノーパール」の低アミロース性母本に由来する育成系統と、「山形84号」(wx-y保有)、「探系2031」、対照としてうるち品種の「つがるロマン」(Wx-b保有)を供試した。人工気象室、ガラス温室および自然条件を組み合わせ、低、中、高温の3つの温度条件で登熟させた時の胚乳アミロース含有率を測定した。「つがるロマン」のアミロース含有率の変動幅は12-23%(高温区-低温区)であり、登熟気温変動1℃当たりのアミロース含有率の変動幅(ΔAM/℃)は0.8-1.1%であった。これに対し「ミルキークイーン」由来の系統、ならびに「山形84号」のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より小さかった。一方、「スノーパール」の母本で「ミルキークイーン」や「山形84号」とは異なるWx座の突然変異による「74wx2N-1」に由来する系統のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より大きく、ΔAM/℃は「つがるロマン」の1.4-1.9倍であった。「探系2031」のアミロース含有率は、「つがるロマン」と他の低アミロース系統の中間であり、ΔAM/℃は「つがるロマン」とほぼ等しかった。「ミルキークイーン」由来の系統あるいは「山形84号」と、「74wx2N-1」に由来する系統間に見られるアミロース含有率の温度による変動幅の差は、その保有する低アミロース性遺伝子の違いによる可能性が示唆された。
著者
Nguyen Viet Xuan 吉野 煕道 田原 誠
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.273-280, 1998-09-01
被引用文献数
1

サトイモ(Colocasia esculenta (L.) Schott)の系統進化を解明するため,アイソザイムによる分析を試みることとし,その最初の研究として,アルコールデヒドロゲナーゼ,エステラーゼ,ロイシンアミノペプチダーゼおよびホスホグルコムターゼの4種の酵素について,アイソザイムの多型並びにこれを支配する遺伝子座と対立遺伝子を調査した。材料としては,交雑と種子繁殖が可能なネパール及びタイ原産の2倍体8系統とこれらを自殖または交配して得た後代系統を用いた。葉身から抽出した試料を,ポリアクリルアミトゲルを用いて電気泳動後,活性染色した.得られた酵素泳動像から,各酵素のアイソザイムについて,これを支配する遺伝子座と対立遺伝子を推定し,後代における分離を検定することによって,アロザイム,遺伝子座および対立遺伝子を同定した。その結果,4つの酵素について,複数の対立遺伝子が存在する9遺伝子座を確認した。また,これら9座が支配する酵素のうち,4座については単量体であり,アルコールデヒドロゲナーゼ,エステラーゼの2つの座については,二量体であることが分かった。サトイモの栽培種の多くは3倍体であり,その起源は,2倍体の非還元分裂配偶子と正常配偶子の受精によるものとされている。後代検定による関連遺伝子の同定が可能な2倍体を材料に,さらに他の酵素のアイソザイムを調査することにより,サトイモ全般にわたる遺伝変異,遺伝的な関係や系統進化の解明に貴重な情報をもたらすことが期待される。
著者
高津 康正 眞部 徹 霞 正一 山田 哲也 青木 隆治 井上 栄一 森中 洋一 丸橋 亘 林 幹夫
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.87-94, 2002-06-01
参考文献数
17
被引用文献数
1

21種のグラジオラス野生種について特性調査および育種素材としての評価を行ったところ,草丈,葉数,葉・花の形態,小花数および開花期等には種によって大きな違いがみられた.また草丈が10cm程度で鉢物に利用可能なもの,現在の栽培種にはみられない青色の花被片を有するものなど,育種素材として有望な野生種が見出された.香りを有する種は全体の52.3%を占め,香りのタイプもチョウジ様,スミレ様などさまざまであることが示された.さらにこれらの野生種について到花日数,小花の開花期間,稔実日数および1さや当たりの種子数を調査し育種上重要な情報を得ることができた.フローサイトメトリーによる解析の結果,野生種においては細胞あたりのDNA含量が多様で,種によってイネの0.9〜3.5倍のゲノムサイズを有するものと推定された.本法による倍数性の判定は困難であるが,種の組合せによっては交雑後代の雑種性の検定に利用可能であることが示唆された.
著者
高田 兼則 谷中 美貴子 池田 達哉 石川 直幸
出版者
日本育種学会
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.41-48, 2008 (Released:2011-01-21)

日本の麺用小麦はオーストラリアからの輸入小麦銘柄(ASW)と比べて製麺適性が劣っている。西日本の小麦品種には高分子量グルテニンサブユニット(HMW-GS)がGlu-A1座の対立遺伝子がコードするサブユニットが欠失型(null)でGlu-B1座が7+8、Glu-D1座が2.2+12や2+12をもつ品種が多数を占める。そこで、これらの高分子量グルテニンサブユニットの小麦粉生地物性への影響を小麦品種「ふくさやか」を反復親として、8種類の準同質遺伝子系統を作出して分析した。Glu-D1座が2.2+12をコードする系統では、Glu-A1座が欠失型の場合、Glu-A1座がサブユニット1をコードする系統と比べて不溶性ポリマー含有率が有意に低く、小麦粉の生地物性も弱かった。とくに日本品種に多く見られるnull、7+8、2.2+12のサブユニット構成は最も弱い物性を示した。一方、Glu-D1座が2+12をコードする系統では、Glu-A1座のサブユニットの有無による不溶性ポリマータンパク質や生地物性への影響は小さかった。これらのことからGlu-A1座とGlu-D1座の対立遺伝子の組合せが、小麦の加工適性に大きく影響していることが明らかになった。これまでHMW-GS構成はSDS-PAGEを用いて判別するのが一般的であったが、サブユニット構成によってはGlu-A1座のサブユニットの判定が困難な場合がある。そこで、Glu-A1座のサブユニット1(Glu-A1a)、2(*)(Glu-A1b)およびnull(Glu-A1c)を判別するPCRマーカーを開発した。
著者
徳増 智 加藤 正弘 矢野 文香
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.269-276, 1974
被引用文献数
3 2

(1)Pelargonium属植物の栽培種は観賞用および香料用に用いられているが,一般に不稔性が高く,種間交雑は困難である。本論文ではPelargoniumの数種を用いて相互に交雑を行ない,鐙光顕微鏡を用いて雌蕊における花粉管の行動を観察し,また結莢,結実の状態を調査しその結果から種間の交雑親和関係を推定した。(2)用いた材料はゼラニウム P.hortorumの2倍体(2n=18)と4倍体(2n=36)各1品種,ペラルゴニウム P.domesticum(2n=44)2品種,アイビーゼラニウム P.peltatum(2n=18)1品種,匂いゼラニウムのうち P.crispum(2n=22)3品種,P.quercifolium(2n=44)1品種,ブルボン P.roseumの2倍体(2n=77),3倍体(2n=115)および4倍体(2n=154)である。(3)交配の結果との組合せにおいても花粉は柱頭上でよく発芽した。発芽した花粉管は多くの組合せで柱頭または花柱組織内に侵入し,あるものはそこで伸長を停止した。また自家受粉,同一種内の品種問交配,および匂いゼラニウム内の種間交配では花粉管は子房に侵入した。花粉管が子房に到達したもののなかで多くのものが結莢したが,種子の得られたのは P.crispum の3品種間交配のほかは自家受粉によるもののみであった。
著者
朴 仁根 角田 重三郎
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.404-410, 1983
被引用文献数
2

韓国の日印交配系統3品種(維新,密陽21号,密陽23号),それらの親として使われたインド型2品種(台中在来1号,IR8), 日本型1品種(ユウカラ)の幼苗を昼23゜,夜18℃の温度条件下で28~33日間育てた後,高温処理(昼30゜/夜25℃,3日)および低温処理(昼17゜/夜12℃,3日および7日)し,最上展開葉より数えて第2位の着生展開葉の光合成速度を28±2℃下で測定し,その葉の葉面積および水分合最,乾物重,葉緑素含量,窒素含量,可溶沐糖含量,でんぶん含量を測定した。その結果低温処理により炭水化物が葉中に蓄積し,この蓄積はまず可溶性糖で,ついででんぷんの形でおこり,またその蓄積の程度に品種間差異が認められた。そして,高温3日区と比べ,低温3日で大幅に光合成速度(葉面積当り)が低下した品種ほど,低湿3日で大幅に可溶性糖+でんぷんの含有率(対乾物重)が増加した(r=-0.847,α<0.05)。また,高温3日区と比べて低温7日で大幅に光合成速度が低下した品種ほど,低温7日で大幅にでんぶん含有量が増加した(r=-0.855,α<0.05)。一方,低温処理により葉緑素含量,窒素含量(いずれも葉面積当り)が低下し,その低下の度合に品種間差が認められた。そして,高温3区に比べ,低温7日で大幅に葉緑素食含量,窒素含量が低下した品種ほど,低温7日で大幅に光合成速度が低下した(それぞれr=+0.961,α<0.01, r=+0,822,α<0.05)。水分含量も低湿処理によって減少し,低温7日区における光合成速度と水分含量との間には正相関(r=+0,953,α<0.01)が認められた。供試品種のうち,低温処理による可溶性糖,でんぶんの蓄積,葉緑素含量,窒素含量,水分含量の低下が顕著でなく,低温区でも比較的高い光合成速度を保った品種は日本型のユウカラであり,これらの成分含量の変化と光合成速度の低下の最も顕著であったのはインド型のIR8であった。日印交配系統内でも,品種間差が認められた。 以上の結果は,葉中における可溶性糖,でんぷんの蓄積が,葉緑素含量,窒素含量の低下と共に,稲品種の光合成の低温感受性と関係があることを示唆する。
著者
田中 勲 小林 麻子 冨田 桂 竹内 善信 山岸 真澄 矢野 昌裕 佐々木 卓治 堀内 久満
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.39-47, 2006-06-01
参考文献数
31
被引用文献数
18

イネ日本型品種コシヒカリとアキヒカリの交雑F<sub>1</sub>の葯培養に由来する半数体倍加系統群を用いて,食味に関与する量的形質遺伝子座(quantitative trait loci: QTLs)の検出を試みた.食味は食味官能試験による「外観」と「粘り」,アミロース含量およびビーカー法による炊飯光沢によって評価した.その結果,第2染色体のDNAマーカーC370近傍,OPAJ13および第6染色体のR2171近傍に,コシヒカリの対立遺伝子が食味官能試験の「粘り」を増加させるQTLが検出された.また,第2染色体のOPAJ13近傍にコシヒカリの対立遺伝子がアミロース含量を低下させるQTL,第2染色体のC1137近傍にコシヒカリの対立遺伝子が炊飯光沢を増加させるQTLが検出され,「粘り」を増加させるQTLとの関連が示唆された.以上の結果から,コシヒカリの良食味には,第2染色体に見いだされる一連のQTLが大きく影響していると推察された.<br>