著者
Tatsuro Suzuki Toshikazu Morishita Yuji Mukasa Shigenobu Takigawa Satoshi Yokota Koji Ishiguro Takahiro Noda
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding Science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.344-350, 2014 (Released:2015-01-10)
参考文献数
30
被引用文献数
7 52

Here, we developed a new Tartary buckwheat cultivar ‘Manten-Kirari’, whose flour contains only trace amounts of rutinosidase and lacked bitterness. The trace-rutinosidase breeding line ‘f3g-162’ (seed parent), which was obtained from a Nepalese genetic resource, was crossed with ‘Hokkai T8’ (pollen parent), the leading variety in Japan, to improve its agronomic characteristics. The obtained progeny were subjected to performance test. ‘Manten-Kirari’ had no detectable rutinosidase isozymes in an in-gel detection assay and only 1/266 of the rutinosidase activity of ‘Hokkai T8’. Dough prepared from ‘Manten-Kirari’ flour contained almost no hydrolyzed rutin, even 6 h after the addition of water, whereas the rutin in ‘Hokkai T8’ dough was completely hydrolyzed within 10 min. In a sensory evaluation of the flour from the two varieties, nearly all panelists detected strong bitterness in ‘Hokkai T8’, whereas no panelists reported bitterness in ‘Manten-Kirari’. This is the first report to describe the breeding of a Tartary buckwheat cultivar with reduced rutin hydrolysis and no bitterness in the prepared flour. Notably, the agronomic characteristics of ‘Manten-Kirari’ were similar to those of ‘Hokkai T8’, which is the leading variety in Japan. Based on these characteristics, ‘Manten-Kirari’ is a promising for preparing non-bitter, rutin-rich foods.
著者
町田 暢 山口 和重 御子柴 公人
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.28-32, 1962-03-25

大麦の凍霜害の機構を明らかにするために,大小麦の圃場において,地表面,地上3cm,15cm,50?,1m1.5mの気温および葉温,室温について,午前1時から8時までの変化を調査したg(1)気温の垂直分布は地上15cmが終始もっとも低かった。(2)葉温は室温に比較して,夜間は低く,日の出後は高く,草上気温は常にその中間であった。また,葉温は測点中最低であった。(3)葉面の結霜経過は,始めに,露がつき,やがてそれが凍って凍露となり,さらに進むと,そこから霜が生長し,それに伴なって葉色が変ったbそして,結霜度には著しい品種間差異を認め,皿型大麦に多く,渦型大麦に少なかった。
著者
中川原 捷洋 大村 武 岩田 伸夫
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.305-312, 1972-12-31
被引用文献数
5

日本型の連鎖分析用標識系統と外国イネとの交雑によって認められる形質分離のゆがみ現象のうち、第11連鎖群の遺伝子に関与する形質分離のゆがみは、花粉の競争力を支配する遺伝子(配偶体遺伝子)と標識遺伝子とが連鎖するために生じる。ここでは、標識遺伝子、bc(鎌不要)、dl(たれば)およびch(黄緑葉)と配偶体遺伝子(ga_2、ga_3)との連鎖関係を明らかにした。組換価はF_2の形質分離からは推定できないので、F_3の調査から各F_2個体の遺伝子型を推定することによって算出した。種々の交雑組合せを通じて、ga_2はdlの近傍に座位し、ga_3はdlよりもむしろbcにかなり近い距離に座位している。しかし、片親に用いた外国品種の違いによってその位置はかなり変異しており、しかも上記4遺伝子相互の組換価は日本イネ標識系統間交雑によって求められる通常の組換価よりもいくらか小さく見積られた。つぎに、算出した組換価を用いて、ga花粉のga^+花粉に対する授精率を算出したところ、正常花粉(ga^+)に対してga花粉は1/10以下しか授精に関与していない場合が多く、したがってgaはかなり強力な選択授精の要因であることが明らかとなった。このことは、栽培イネが分化した結果、ga遺伝子が生殖的隔離現象の重要な因子となっていることを示している。以上の結果は、雑種不稔性に加えて、配偶体遺伝子の存在によっても交雑によって形質の自由な組換が阻害されているために、外国イネがもっている望ましい形質を日本イネに導入する際に大きな障害となっていることを示すものである。
著者
Zhenbin Hu Dan Zhang Guozheng Zhang Guizhen Kan Delin Hong Deyue Yu
出版者
日本育種学会
雑誌
Breeding Science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.441-449, 2014 (Released:2014-03-27)
参考文献数
41
被引用文献数
6 44

Wild soybean, the progenitor of cultivated soybean, is an important gene pool for ongoing soybean breeding efforts. To identify yield-enhancing quantitative trait locus (QTL) or gene from wild soybean, 113 wild soybeans accessions were phenotyped for five yield-related traits and genotyped with 85 simple sequence repeat (SSR) markers to conduct association mapping. A total of 892 alleles were detected for the 85 SSR markers, with an average 10.49 alleles; the corresponding PIC values ranged from 0.07 to 0.92, with an average 0.73. The genetic diversity of each SSR marker ranged from 0.07 to 0.93, with an average 0.75. A total of 18 SSR markers were identified for the five traits. Two SSR markers, sct_010 and satt316, which are associated with the yield per plant were stably expressed over two years at two experimental locations. Our results suggested that association mapping can be an effective approach for identifying QTL from wild soybean.
著者
辛 英範 小川 紹文 片山 平
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.56-62, 1978-03-01

近年,耐病虫性など野生種のもつ有用な遺伝子を栽培植物に導入することを目的とした新しい育種技術の確立が試みられ,すでに実用品種の育成に成功した例もある。野生イネのもつ有用遺伝子を栽培イネに導入する試みは,これからのイネ育種を進める1方法として,充分考慮されるべき問題の1つである。本報告は異種染色体添加型植物を作出するための基礎として,まず栽培イネの人為同質4倍体を育成し,これに近縁野生2倍程を交雑して,えられた異質3倍体sativa(AA)-puncta(B),sativa(AA)-intermediate(C)およびsativa(AA)-officinalis(C)について行った細胞遺伝学的・形態学的研究の結果をまとめたものである。体細胞で2n=36の染色体が数えられ,いずれの個体も明らかに人質3倍体であることを確認した。減数分裂は,PF_126を除いて,各個体間で大体類似しており,MIでは大部分の細胞で12II+12Iを示す分裂像が,また,AIでは1価染色体による分裂異常が観察された。一方,PF_126はMIで1II+34Iまたは36Iを示し,明らかに相同染色体間の不対合現象が観察され,以後の分裂に種々の異常が認められた。この染色体不対合がasynapsisであるかdesynapsisであるかは不明であるが,供試した同質4倍体の細胞質とO.officinalis(W1281)の核との何れか一方,または両者に不対合を誘起する遺伝的要因がある可能性が考えられ,その解明は今後の検討に期待したい。
著者
本田 秀夫 平井 篤志
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.339-348, 1990-09-01
被引用文献数
14

細胞融合は,交配不可能な異種植物間における遺伝子の導入を可能とし,育種上重要な手段を提供している.この際,体細胞雑種の同定,選抜は不可欠のステップであり,アイソザイムパターンの解析をはじめ,様々な方法が用いられている.しかし,それらの多くは,比較的多量のサンプルを必要とすること,特定の種の組み合わせに限られること,あるいは,取扱い上の困難さなどから必ずしも有効ではなかった.そこで,種特異的な塩基配列を持つrRNA遺伝子(rDNA)に渚目し,UCHIMIYAらの方法を基により簡便で能率的な方法を開発を試みた. Brassica, LycopersiconおよびNicotinaに属する植物を材料として用いた.まず,DELLAP0RTAの方法を改良してより微量の葉(100mg)から全DNAを抽出した.この抽出法は,細胞磨砕液からタンパク質や多糖類を酢酸カリウムにより除去し,さらにイソプロパノールによりDNAを特異的に沈澱させるものである.操作は簡単で,塩化セシウムによる超遠心のような複雑な操作は不要であつ,短時間で済み,収量も良く,得られたDNAは制限酵素で切断することが出来た.次に,抽出したDNAの1/50量(葉2mgからのDNAに相当)を適当な制限酵素で3時間処理し,0.7%アガロースゲルで電気泳動を行った.キャベツ,コマツナおよびその体細胞雑種の泳動パターンに示したように(Fig.1a),完全に切断された場合,EtBrで染色したDNAはほぼ均一なsmear bandsとなって現われた.DNAをナイロンメンブレントにトランスファーした後,クローン化されたイネのrDNAを非放射性のdigoxigeninでラベルしたものをプローブとして,バイブリダイゼーションを行った(Fig. 1b).その結果雑種植物は融合親特有のバンドを併せて有することにより,体細胞雑種としての同定が可能だった.トマト栽培種と野生種の組み合わせにおいても同様に同定できた(Fig. 2).
著者
片山 平 寺尾 寛行 井之上 準 陳 進利
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.333-340, 1982-12-01
被引用文献数
1

イネの Aus, Aman, Boro, Bulu, Tjereh の5生態型および日本品種を供試して,酸性フォスファターゼ・アイソザイム,フェノール反応,粒型,吸水速度,メンコティール伸長の高温反応(40℃),酸素吸収量などについて比較検討した。えられた結果から,5生態'型のうち,Buluのもつ諸特性と日本品種のそれらとの間には,高い類似性のあることが認められ,日本品種の成立にBuluの影響も無視できないことが示唆された。 Buluのもつ遺伝子の日本までにたどった道筋として,ジャワ-フィリピン-台湾-琉球-日本のルートと,シャワ-中国大陸-日本のルートの2つが考えられる。
著者
杉浦 直樹 辻 孝子 藤井 潔 加藤 恭宏 坂 紀邦 遠山 孝通 早野 由里子 井澤 敏彦
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.143-148, 2004 (Released:2004-09-18)
参考文献数
9
被引用文献数
24 28

水稲新品種育成のために開発されたイネ縞葉枯病および穂いもち抵抗性マーカーを利用した連続戻し交雑法により,両抵抗性を付与したコシヒカリ準同質遺伝子系統の作出を行い,連続戻し交雑育種におけるDNAマーカーの有効性の検証を試みた.従来から用いられている両抵抗性の生物検定に替えてDNAマーカーを用いることにより,外的要因の影響を受けることなく,精度の高い抵抗性個体の選抜が可能となり,効率的な連続戻し交配を進めることができた.また,共優性マーカーを用いることにより,抵抗性ホモ個体を確実に選抜でき,有望系統の早期固定につながった.作出した準同質遺伝子系統「コシヒカリ愛知SBL」はイネ縞葉枯病および穂いもちに対する抵抗性を有し,かつ,他の諸形質はコシヒカリと同等であった.DNAマーカーを取り入れた育種法により,育種年限の短縮・効率化,並びに確実な抵抗性の導入が両立でき,マーカー選抜育種の有効性を実証できた.
著者
小泉 一愉 今村 智弘 高野 裕二 松江 登久 島田 浩章
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.53-57, 2003-06-01

動物の骨組織や酵母細胞を効率的に破砕する方法としてこれまでに密閉容器を用いたセルミル法が開発されている。この方法では、破砕したい細胞組織をステンレス塊(クラッシャー)と一緒に密閉容器に封入し、これを手動で激しく振とうすることによって植物組織が磨砕され、それによって細胞は粉砕される。しかしながら、この方法では、室温で操作を行なうため、細胞内に含まれるDNaseやRNaseなどの夾雑物の影響は避けられない。また、この方法をそのままイネ組織の破砕に準用した場合、植物組織に含まれる様々な繊維状物質やシリカ化合物による強固な細胞構造のために、十分な破砕効果が得られない。そこで、破砕した植物組織から純度の高いDNA、RNAあるいはタンパク質を得るために、これらの分解が少ない液体窒素条件の超低温での細胞破砕を可能にする器具の開発とこれを用いた新規な細胞破砕法の確立を試みた。ここでは、超低温条件下での植物細胞破砕を可能にしたクールミルの開発について報告する。
著者
太郎良 和彦 伊礼 彩夏 玉城 盛俊 河野 伸二 安田 慶次 正田 守幸 浦崎 直也 松村 英生
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
pp.18J08, (Released:2018-10-23)
被引用文献数
1 1

パパイヤ奇形葉モザイクウイルス(Papaya leaf distortion mosaic virus: PLDMV)抵抗性を持つ属間雑種個体(パパイヤCarica papaya × Vasconcellea cundinamarcensis)にパパイヤを戻し交雑し,胚培養による戻し交雑個体の作出を試みた.戻し交雑後180~210日に供試した5,762の種子から,胚を持つ45の種子が得られ,最終的に32個体の再生植物体が得られた.PCRによって,性染色体型を調査した結果,32個体の内,19個体に戻し交雑親のY染色体の保有が確認できたことから,戻し交雑個体であることが確認できた.全ての戻し交雑個体は,母本として用いた属間雑種の性染色体を持っていたことから,非還元配偶子が形成されている可能性が示唆された.戻し交雑個体のPLDMV抵抗性を評価するため,PLDMVの人工接種を行った結果,66%がPLDMVに対して全く病徴を示さない抵抗性であった.残りの戻し交雑個体は,接種上位葉に壊疽斑点を生じたが,PLDMVの拡大を妨げた.従って,戻し交雑個体は全てPLDMVに対して抵抗性を有していた.これらの戻し交雑個体は,沖縄県で問題となっているPLDMVへのパパイヤ抵抗性品種育成において有望な育種素材と考えられる.
著者
川頭 洋一 冨士山 龍伊 畠山 勝徳 松元 哲
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.77-84, 2017-06-01 (Released:2017-07-05)
参考文献数
24

日本において遺伝子組換えレタス(Lactuca sativa L.)の生物多様性影響評価を実施する場合,交雑性評価の対象となる在来近縁種として,L. indica(アキノノゲシ),L. raddeana(ヤマニガナ),L. sibirica(エゾムラサキニガナ),L. sororia(ムラサキニガナ),L. triangulata(ミヤマアキノノゲシ)の5種が知られている.本研究ではまず,これら5種とレタスとの雑種個体を判別することが可能なDNAマーカーを開発するため,既報のEST-SSRマーカーを利用して,各近縁種とレタスの間で多型のあるSSRマーカーをスクリーニングした.次に,交雑性については,L. indicaとL. raddeanaはレタスと交雑しないことが報告されていることから,報告のない3種(L. sibirica,L. sororia,L. triangulata)について,交雑実験によりレタスとの交雑性を評価した.その結果,L. sororiaとL. triangulataについてはレタスとの雑種個体は得られなかった.一方,L. sibiricaについてはレタスとの交配により雑種種子が得られることが明らかになった.しかし雑種個体はいずれも発芽後生長を停止した.以上の結果より,日本の自然界においてレタスと在来近縁種との交雑は起こらないか,雑種個体が得られても定着しないと考えられた.
著者
杉本 和彦 米丸 淳一 坂井 寛章 川原 善浩 鐘ケ江 弘美
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
pp.25.W05, (Released:2023-03-25)

気候変動及び様々なニーズに対応した育種を効率化・加速化するために,データに基づいたスマート育種の育種現場への実装が期待されている.現在,スマート育種を育種現場に実装するための取組みとして,農林水産省においてスマート育種に関する委託プロジェクト(「次世代育種・健康増進プロジェクト」のうち民間事業者等の種苗開発を支える「スマート育種システム」の開発,平成30年~令和5年)が実施されている.本ワークショップでは,当該プロジェクトを構成する2つの研究課題である「育種ビッグデータの整備及び情報解析技術を活用した高度育種システムの開発」(略称:BAC)及び「民間事業者,地方公設試等の種苗開発を支える育種基盤技術の開発」(略称:DIT)について概要を紹介し,当該プロジェクトの予算で開発を行っている3種の育種ツール,育種情報の集約・解析支援を行う育種情報管理支援システム「BRIMASS」,育種の家系図情報を表示する系譜情報グラフデータベース「Pedigree Finder」及び有用遺伝子の品種間多型情報を整理した有用遺伝子カタログと可視化ツール「アリルグラフ」について説明する.また,3種の育種ツールについてはPCを使った実習も合わせて行う.