著者
田村 竜二 岡本 貴大 門脇 嘉彦 高橋 卓也 坂田 龍彦 高倉 範尚
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.1776-1781, 2008-07-25
参考文献数
17
被引用文献数
4 4

症例は25歳,女性.右側腹部痛と発熱を主訴に近医受診,腹部超音波検査にて肝腫瘤を指摘され当院へ紹介入院となった.HBs抗原およびHCV抗体は陰性,軽度肝機能異常,軽度炎症所見を認めるのみで,腫瘍マーカーは正常範囲であった.CTでは,肝右葉を占める巨大腫瘍で,充実性部分と嚢胞性部分が混在しており,充実性部分は早期相で濃染,晩期相でwash outされる肝細胞癌様所見を呈し,嚢胞性部分辺縁は淡く造影され中心部は全く造影されず,血管造影では腫瘍血管の増生と口径の不整が見られた.悪性肝腫瘍と診断し肝右葉切除術を施行した.腫瘍割面は充実性部分と嚢胞性部分が混在し,病理組織検査にて,細胆管細胞に類似した腫瘍細胞が小管腔を形成し,cytokeratin 7が陽性で抗肝細胞抗体が陰性であり,細胆管細胞癌と診断された.術後17日目に退院し,補助療法は行なわず,術後4年の現在,無再発生存中である.
著者
佐藤 拓也 梁 英樹 吉田 一成 山下 由紀
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.9, pp.2439-2443, 2010 (Released:2011-04-01)
参考文献数
12
被引用文献数
2

発症原因の異なる上腸間膜動脈症候群2例に対して十二指腸空腸吻合術を施行した.症例1:66歳,男性.3年ほど前より繰り返す嘔吐,腹痛,体重減少で来院.上部消化管造影検査と腹部造影CTで高度の胃拡張と十二指腸水平部の狭窄を認め上腸間膜動脈症候群と診断した.病悩期間が長いため手術の適応と考え十二指腸空腸吻合術を施行した.術後経過は良好であった.症例2:77歳,男性.30年前に直腸癌に対して前方切除術を施行されている.今回2型横行結腸癌に対して左結腸切除術施行.術後9日目に嘔吐出現.上部消化管造影検査,腹部CTにて上腸間膜動脈症候群と診断.保存的治療で改善傾向なく,術後21日目に十二指腸空腸吻合術施行.再手術後の経過は良好であった.発症原因として症例1は体重減少による十二指腸周囲脂肪織減少が,症例2は前方切除後の左結腸切除術により上腸間膜根部の過伸展に伴ってSMAが尾側に偏位したことが考えられた.
著者
秋山 守文 三神 俊彦 松村 将之 鶴間 哲弘
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.2721-2724, 2008 (Released:2009-04-07)
参考文献数
11

北海道ではマムシ咬傷の報告例はほとんどない.われわれは腎不全,DICを併発したマムシ咬傷の1例を経験した.症例は65歳,男性.既往に冠動脈バイパス手術歴があり,アスピリンを服用していた.早朝マムシを捕え,マムシ酒を作る過程で誤って右拇指を咬まれた.咬傷後10時間してから初診,それ故右上腕に至るまで腫脹していた.翌日には腫脹は肩甲帯を越え,エコー検査では手背部に液体貯溜をみたため切開を加えた.切開創は抗血小板剤の影響もあり止血されず再縫合を余儀なくされた.乏尿,DIC症候も出現し,抗ショック治療を行い,臓器症状は比較的早期に改善したが腕の腫脹の消退には4週間を要した.北海道ではマムシ咬傷は臨床上あまり問題になることは少ないが本症例の如く重症例も起りうることを啓蒙すべく報告する.
著者
中島 正夫 内山 哲史 足立 淳 内迫 博幸
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.994-997, 2013 (Released:2013-10-25)
参考文献数
14
被引用文献数
2

症例は49歳,女性.直腸癌,多発肝肺転移に対して原発巣切除D3リンパ節郭清術施行後FOLFOXレジメンによる化学療法を開始した.治療効果としてはRESIST評価上PRであったが,19クール施行後に血小板減少により化学療法が継続不能となった.原因検索として各種検査施行し,オキサリプラチン関連脾腫による血小板減少と診断した.肝転移巣が切除可能となったこと,肺転移巣は制御されていること,以降も継続した化学療法が必要であることを考慮し,肝部分切除術,肝ラジオ波焼灼術,脾臓摘出術を施行した.術後血小板数は速やかに上昇を得て,化学療法を再開・継続することができた.オキサリプラチンは肝の類洞内皮細胞障害・閉塞を引き起こし門脈圧亢進,脾腫をきたす.血小板減少が化学療法継続の律速段階となる場合は,原因として脾腫を鑑別に挙げることが重要である.脾摘によって速やかに血小板数は増加し,化学療法を再開・継続できたことから有用な選択肢の一つとなり得ると考えた.
著者
黄 泰平 藤川 正博 安政 啓吾 田中 恒行 広田 将司 西田 幸弘
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.3240-3244, 2009 (Released:2010-04-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 3

正中切開法は通常は臍をよけて切開されている.一方,欧米では臍に切開を加えても合併症に差はなく,むしろ美容上よいと報告されている.最近,臍を利用した腹腔鏡手術,豊胸術などの報告を認める.2007年2月より当科では腹腔鏡手術のみならず正中切開は臍に切開を加えてきた(臍切開法).手技の要点は,臍の最深部の直上および直下の白線に吸収糸をかけて臍がずれないように縫合閉腹する.臍の上,下の皮膚にはステープラーをかけるが,臍の皮膚は縫合しない.特有の合併症もなく,切開創が直線的であり,皮膚切開線が短縮でき,美容上よい.白線が狭い下腹部でも臍部から正中を容易に同定できる.結語:臍をよけて切るという慣習的な考えを捨て,臍切開法は一般的に行われるべき標準手技であると考える.
著者
浦山 雅弘 原 隆宏
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.417-420, 2002-02-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
9

症例は62歳女性,約52年前急性虫垂炎で手術を受けており,その創部周囲に発赤,疼痛が出現し来院した.血液学的に炎症所見を認め,腹部X線およびCT検査にて糞石様所見があり,虫垂炎が疑われた.虫垂炎の手術既往があったため,抗生物質投与で経過観察したが,翌日,腹部所見が増悪したため,手術を施行した. 52年前の創部は筋層が離開しており,皮下に炎症を伴った虫垂が約2cmほど遺残しており,先端が癒着していた.定型的に虫垂切除を施行した.術後経過は良好であった. 一般に,虫垂切除術の既往があれば,右下腹部痛を示す急性腹症の際に急性虫垂炎は除外され得る.自験例は初回手術時に遺残した虫垂に再度炎症を生じた遺残虫垂炎の症例で,非常に稀な例と考えられた.近年,虫垂炎の診断には超音波が有用とされているが,本症例ではCT検査がより有用であった.
著者
生方 英幸 本橋 行 田崎 太郎 春日 照彦 片野 素信 田渕 崇文
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.1890-1895, 2003-08-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
14

症例は63歳,男性. EG領域の2型進行癌にて下部食道切除術施行.再建は細径胃管を作成し,自動吻合器を用いて端側式食道胃管吻合を胸腔内で施行した.術後SIRSの状態となったため,胸腔ドレナージを追加し, CHDF, PMX施行し全身状態の改善に努めた.再開胸は危険な状態であったため,全身状態の小康を待ち術後31日目に検査を行い縫合不全を確認した.術後40日目にUltraflexのcovered stentを内視鏡下に挿入したところ,全身状態の劇的な改善がみられ,その3週間後には瘻孔は完全に閉鎖された.近年の手術手技,手術器具の進歩にも関わらず食道癌の縫合不全発生率は約15%前後との報告が多く難易度の高い術式である.特に胸腔内吻合の場合は頸部吻合に比較し重篤になりやすく治療に難渋する.再開胸できないほど全身状態が悪化している症例の救命には,侵襲の少ないステント治療も有効な一手段であると考えられた.
著者
宮城 良浩 金城 達也 狩俣 弘幸 下地 英明 西巻 正
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.75, no.7, pp.1915-1918, 2014 (Released:2015-01-31)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

症例は20歳,男性.0歳時,髄膜瘤に対する手術の際に,脳室腹腔シャント(VPシャント)を造設.8歳時に水頭症発症し,シャント入れ替えが施行されていた.3カ月前より右前胸部シャント挿入創に肉芽形成を認め,1カ月前に同部位から排膿を認めるようになり,シャント感染が疑われた.シャント抜去術が予定されたが,術前腹部CTでチューブの腸管内迷入所見を指摘.腹部に圧痛はなく,腹膜刺激症状はみられなかった.腹腔鏡による腹腔内観察では,チューブ先端が横行結腸内へ迷入していたため,小開腹にてチューブを抜去し腸管を修復した.術後抗生剤投与により前胸部創感染は改善し,今後は経過観察し,水頭症が出現した場合にシャント再造設を予定することとなった.VPシャントチューブの消化管穿通はまれな合併症であるが,本症例では診断および治療に腹腔鏡下手術が有用であった.
著者
田口 智章 吉丸 耕一朗
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.10, pp.1925-1938, 2020 (Released:2021-04-30)
参考文献数
43

Hirschsprung病および類縁疾患は腸閉鎖のような明らかな器質的閉塞病変がないにもかかわらず,腸閉塞症状(腹部膨満,胆汁性嘔吐,難治性便秘など)をきたす機能的腸閉塞症である.新生児期早期から腸閉塞症状や難治性便秘で発症するため,新生児のイレウスとして外科医がはじめからかかわることが多い.Hirschsprung病は病変範囲の短いものは手術でほぼ根治するが,無神経節腸管が長く小腸まで広範に及ぶものは,正常小腸が短く,かつ大腸も使えないため,重症の短腸症となり治療に難渋する.一方,Hirschsprung病類縁疾患は,腸管全体にわたり蠕動不全を呈する腸管神経節細胞僅少症,巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症,慢性特発性偽性腸閉塞症の3疾患が重症であり,外科的手術では治癒しない.現在,長期静脈栄養と経腸栄養の併用,消化管の減圧で延命できているが,根治としての小腸移植の成績向上や再生医療による新規治療の開発が待たれている.
著者
藤井 雅和 野島 真治 金田 好和 須藤 隆一郎 田中 慎介
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.512-519, 2021 (Released:2021-09-30)
参考文献数
9

症例は75歳の女性で,貧血および右乳房腫瘤の精査目的で当院に紹介となった.右C区に約4cmの乳癌を認めたが,遠隔転移は認めなかった.骨髄穿刺は検体不適正であり,右乳房切除術+腋窩リンパ節郭清を施行した.Invasive lobular carcinoma,triple negativeであった.術後の骨髄生検で乳癌の骨髄転移と診断したため,T2,N1,M1(MAR),stage IVとなり,術後の骨シンチグラフィ検査では広範囲の骨髄転移を示唆する所見であった.治療はエピルビシン+エンドキサン®→毎週パクリタキセルを選択した.骨髄転移はDICを併発して急速な転機をとる予後不良な病態であることが多いとされ,早急な治療介入が必要と思われる.また,乳癌において貧血や血小板減少などを伴う際は,骨髄転移の可能性を考慮しておく必要がある.しかし,骨髄転移に対する化学療法のレジメンについてはまだ明確なものは示されていない.
著者
松田 宙 岩瀬 和裕 藤井 眞 西川 和宏 島田 和典 田中 康博
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.2687-2691, 2008 (Released:2009-04-07)
参考文献数
22
被引用文献数
3 3

患者は40歳,女性.人間ドックで後腹膜腫瘤を指摘され,当センターを受診した.腹部CTでは膵体部頭側に38×25mm大で石灰化を伴った造影される腫瘤を認めた.腹部MRIで腫瘤はT1で低信号,T2で淡い高信号を呈し,比較的濃染された.以上より腫瘤は血流豊富で石灰化を伴う後腹膜腫瘍であり,後腹膜原発神経原性腫瘍や悪性腫瘍の可能性も否定できないため,腹腔鏡下腫瘍摘出術を行った.術中腫瘍後面の剥離に難渋し出血も認めたため,開腹に移行して腫瘍を摘出した.肉眼所見では4×3cm大で被膜に覆われ,割面は淡褐色で一部石灰化による灰白色部分の混在を認めた.組織学的にはhyaline vascular型Castleman病と診断された.リンパ増殖性疾患であるCastleman病は腹部領域に石灰化を伴って発生することは極めて稀であり報告した.
著者
松田 恭典 山本 隆嗣 坂田 親治 西澤 聡 家根 由典 徳原 大豪
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.82, no.8, pp.1531-1536, 2021 (Released:2022-02-28)
参考文献数
12
被引用文献数
1

49歳,男性.双極性感情障害の既往あり.自殺企図にて降圧剤数種を大量に内服し救急搬送された.初診時より低血圧,高熱,腹痛を認めたが,症状は速やかに改善した.食事を再開すると症状が増悪するため,下部消化管内視鏡と注腸造影を施行したところ,上行結腸下部から回腸末端にかけて多発する不整形潰瘍を認め,著明な狭窄を呈した遠位回腸が描出された.保存的加療による治癒は望めないと判断し,手術を施行した.遠位回腸約75cmにわたり非連続性の壁肥厚と狭窄を認めたため,同範囲を一括切除した.術後27日で軽快退院した.病理組織所見では,粘膜は潰瘍化し,粘膜下層から筋層上層まで広範な線維化を認め,うっ血する毛細血管や静脈も認められたが,切除標本のいずれの部位にも血栓や動脈狭窄は認められなかった.よって,降圧剤の大量内服に起因するnon-occlusive mesenteric ischemia(NOMI)により生じた,粘膜障害とその深層の線維性狭窄であったと判断した.
著者
荒井 宏雅 利野 靖 山中 澄隆 湯川 寛夫 和田 修幸 益田 宗孝
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.2189-2192, 2008 (Released:2009-03-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は65歳,男性.胸腺腫を合併した重症筋無力症(MGFA分類IIIb期)の診断で当院神経内科に入院.抗コリンエステラーゼ薬内服,血漿交換療法,メチルプレドニゾロン1000mg/日×3日間のステロイドパルス療法を施行し,以後ステロイド50mg/日の内服となった.ステロイド導入後約1カ月の胸部CTでは指摘された腫瘤は画像上消失していた.拡大胸腺摘出術を施行し,術後病理診断は胸腺腫(Müller-Hermelink分類混合型,WHO分類Type B2)の退行性変化であった.術前にステロイド導入を行った胸腺腫合併重症筋無力症においては,胸腺腫の退縮の可能性もあることを念頭に置くことが肝要である.
著者
酒井 望 石川 文彦 関 雅史 伊藤 博 諏訪 敏一 宮崎 勝
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.1899-1903, 2013 (Released:2014-01-25)
参考文献数
18
被引用文献数
2 2

症例は56歳,女性.上腹部痛の精査にて腹腔内腫瘤を指摘された.腹部CTでは腹部大動脈左側,椎体腹側に径3.2cmの辺縁整で内部が不均一に造影される腫瘍を認めた.腹部MRIではCTと同部位に41.4×31.6×25.8mmの辺縁整な腫瘤を認めた.T1強調画像では低信号,T2強調画像,STIR像では均一な等信号で,内部は軽度濃染していた.間葉系腫瘍を疑い手術を施行したところ腫瘍はTreitz靱帯より約2cm肛側の空腸間膜に認められた.腸管,腸間膜血管との連続性はなく腫瘍を摘出した.H.E.染色では,小型類円核を有する腫瘍細胞が地図状,シート状もしくはロゼット状に増殖しており,線維血管性の間質により分画されていた.免疫組織染色では,神経内分泌マーカーはいずれも陽性で,MIB-1標識率は1%以下であった.以上より,NET G1と診断された.腸間膜原発の神経内分泌腫瘍は極めてまれであり,報告する.
著者
小林 稔弘 坂根 純奈 平松 昌子 川口 佳奈子 恒松 一郎 渡邉 千尋
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.838-843, 2022 (Released:2022-11-30)
参考文献数
13

被包型乳頭癌(EPC)は2012年WHO分類で新規に分類されたpapillary lesions IBのまれな悪性病変である.当院で経験したEPC8例を報告する.年齢中央値66.5歳.主訴は腫瘤4例,腫瘤観察中3例,他疾患検査中1例.マンモグラフィーは全例カテゴリー3以上.超音波で混合性6例,充実性2例.腫瘤径は平均5.1cm.7例の針生検は全例悪性.乳房切除術4例,部分切除術4例.病理で浸潤あり4例.ホルモン陽性6例,HER2は浸潤例全て陰性.Ki-67は浸潤例3例で14%以上であった.部分切除例に放射線,ホルモン陽性5例に内分泌,1例に化学療法を行った.EPCは高齢傾向で,浸潤例でも浸潤癌に分類されるものよりは予後良好とされるが,自験例では40歳台も3人おり必ずしも高齢傾向とは言えず,急速増大例が目立つことや,増殖活性も浸潤例での高値も見られ,予後に留意すべき症例があることも示唆された.
著者
田島 正晃 森井 雄治 木下 忠彦
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.1532-1536, 2015 (Released:2015-12-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

Maydl's herniaはヘルニア嚢内に複数の腸管ループが嵌頓するヘルニアで,W型に脱出することにより,腹腔内腸管の腸間膜が強く絞扼され,血行障害が腹腔内腸管により高度に出現するのが特徴である.症例は58歳の男性,作業中に右鼠径部が膨隆したまま戻らなくなり,救急搬送された.右鼠径部に小児頭大の膨隆を認めた.鼠径ヘルニアの嵌頓と診断し,緊急手術を施行した.腹腔鏡下に観察を行うと,腹腔内に壊死腸管を認めたため,開腹手術に移行した.ヘルニア内に嵌頓していた回盲部および回腸には壊疽性変化は認めなかった.壊死腸管を切除し,ヘルニアは従来法で修復した.本症例のようなヘルニアの場合,前方アプローチで整復,ヘルニアの修復を行うだけでは,腹腔内の壊死腸管を見落としてしまう可能性がある.膨隆の大きな鼠径ヘルニアの嵌頓ではヘルニア内容の腸管のみならず,腹腔内の腸管が壊死に陥っている可能性を考慮すべきである.
著者
加来 秀彰 藤原 省三 阿南 勝宏 赤木 由人
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.943-947, 2019 (Released:2019-11-30)
参考文献数
13

ポリスチレンスルホン酸カルシウム(calcium polystyrene sulfonate:以下CPS)の重篤な合併症として便秘等に起因すると考えられる腸管穿孔,腸管壊死がある.慢性腎臓病,高カリウム血症に対してCPSを内服中にS状結腸穿孔,汎発性腹膜炎をきたした2症例を経験した.症例1は87歳,女性.腹部膨満感,下腹部痛を主訴に来院.汎発性腹膜炎の診断でHartmann手術を施行した.S状結腸に潰瘍を認め,一部は穿孔し,潰瘍底にはCPS結晶を認めた.術後に敗血症,DICを併発し集学的治療を要したが,軽快し自宅退院した.症例2は86歳,女性.下腹部痛,嘔吐を主訴に受診.汎発性腹膜炎の診断でHartmann手術を行った.S状結腸の穿孔部にはCPS結晶を認めた.腹膜炎は制御できたが,術後ARDSを発症し呼吸不全の進行により死亡した.CPS投与の際には排便コントロールに留意する必要がある.
著者
薮崎 紀充 石山 聡治 宇田 裕聡 江坂 和大 末永 雅也 伊藤 不二男
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.2611-2614, 2010 (Released:2011-04-25)
参考文献数
11

症例は47歳,男性.糖尿病,慢性腎不全による透析歴があり,今回は肺化膿症のため当院内科入院中であった.腹痛・嘔吐の精査で腹腔内膿瘍による小腸イレウスと診断し,緊急手術を施行した.術中所見は回盲部・ダグラス窩に膿瘍を認め,回腸が強固に癒着していた.回腸にわずかな穿孔部を認め,小腸穿孔による腹腔内膿瘍と考えられた.病理組織検査では回腸粘膜上に横川吸虫を認め,周囲には広範な浅い潰瘍と高度の好酸球浸潤が見られた.以上の所見から横川吸虫症による腸炎が穿孔の主因と考えられた.横川吸虫症の多くは無症状であるが,寄生数が増えると腹痛・下痢などの症状を呈するとされる.しかし,われわれの調べ得た範囲では,本例のように小腸穿孔を発症した報告は本邦初であり,文献的考察を加えて報告する.
著者
板倉 弘明 山田 晃正 古妻 康之 松山 仁 遠藤 俊治 池永 雅一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.8, pp.1445-1451, 2020 (Released:2021-02-26)
参考文献数
31

目的:われわれは,皮下埋没型中心静脈ポートをエコーガイド下に鎖骨下静脈または腋窩静脈を穿刺して留置してきたが,カテーテルの筋間断裂を経験し,小胸筋経由が一因と推察した.そこで,筋間断裂例の臨床的特徴を明らかにするために検討を行った.方法: 2013~2017年にCVポートを造設した269例(鎖骨下静脈または腋窩静脈穿刺)のうち,留置後にCTを撮像した199例を対象とした.筋間断裂群(4例)と非断裂群(195例)で患者背景因子と小胸筋経由の有無,刺入点,血管描出法などについて検討した.結果:単変量解析において,小胸筋経由例(P =0.002)と,穿刺部の皮下脂肪が厚い症例(P =0.002)が有意差をもって筋間断裂を多く認めた.考察:カテーテルの筋間断裂への小胸筋と皮下脂肪厚の関与が示唆された.小胸筋経由の回避には,橈側皮静脈の腋窩静脈への合流部より中枢側での穿刺が有用である.結論:カテーテル穿刺前の解剖把握が重要である.
著者
高橋 研太郎 諸橋 一 坂本 義之 小山 基 村田 暁彦 袴田 健一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.2046-2049, 2011 (Released:2012-02-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

症例は62歳,女性.平成22年4月に急性腎不全と意識障害を伴った腸閉塞症にて緊急開腹術を施行したが,明らかな閉塞性病変を認めなかった.術後に意識障害の原因はグリホサート誤飲によるものと判明し,内科的治療で腹部症状と中毒症状は改善した.しかしグリホサート誤飲後1カ月後に再び腸閉塞を発症し,小腸造影と腹部CT検査で小腸重積が疑われた.保存的治療で軽快が得られないため,6月に再手術を施行した.Treitz靱帯から80cmと230cmの2カ所の小腸で,口側腸管が肛門側腸管に嵌り込んだ腸重積を認めた.腸管は炎症性に壁肥厚しており,重積部に腸管の強い癒着を認めた.口側の重積は用手的整復後に狭窄形成術を行い,肛門側の重積は小腸部分切除術を行った.グリホサート中毒後に発症した成人腸重積症の報告例は,検索しうる限りでは本邦初の極めて稀な症例であったが,遅発合併症の1つとして留意する必要があると思われたので報告する.