著者
大川 尚臣 古田 斗志也 金川 泰一朗 小畑 卓司 野上 浩實
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.1041-1049, 2017 (Released:2017-11-30)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

症例1は63歳,男性.虚血性腸炎で入院加療中に排便困難のため,グリセリン浣腸(glycerin enema:以下GE)を施行した.直後から肛門痛と下血および血尿を認めた.肛門鏡にて歯状線近傍に裂傷と,腹部CTにて直腸周囲の脂肪織濃度上昇と遊離ガス像を認め,直腸穿孔と診断した.絶食と輸液・抗生剤投与を行い,血尿に対し強制利尿とハプトグロビンを投与した.腎不全には至らず,保存的に軽快した.症例2は78歳,男性.頸椎損傷で施設療養中,便秘に対しGEを施行した.粘血便が出現し,下部消化管内視鏡で直腸壁損傷を,腹部CTにて直腸壁肥厚,壁内気腫と直腸周囲遊離ガスを認め,直腸穿孔と診断した.血尿や溶血はなく,絶食と輸液・抗生剤投与のみで軽快した.GEの誤注入による直腸壁の損傷は急性腎不全や腹膜炎等の重篤な合併症をきたすことがある.今回,われわれはGEによる直腸穿孔の2例を経験したので考察を加え報告する.
著者
安岡 利恵 藤木 博 森田 修司 満尾 学 門澤 秀一 埴岡 啓介 門谷 洋一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.3011-3017, 2009 (Released:2010-03-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

症例は79歳,女性.両側乳腺浸潤性小葉癌で手術施行.術前検査時より腹部CT検査で,胃壁の肥厚と軽度の造影効果を認めていたが,上部内視鏡検査では異常所見は指摘されなかった.乳癌術後,腫瘍マーカーは上昇し,さらに腹部CT検査で胃壁肥厚が増強した.3回目の上部内視鏡検査で,乳癌の胃十二指腸転移と診断した.その後,Paclitaxelでの化学療法を行っていたが,幽門狭窄症状が出現したために,胃空腸バイパス術を施行した.バイパス術後11カ月経過したが,腹膜播種や閉塞性黄疸が出現し,全身状態は悪化傾向である.今回,上部内視鏡検査で診断に苦慮した乳癌の胃十二指腸転移の1例を経験したので報告をする.
著者
末久 弘 松田 英祐 坂尾 伸彦 宮本 章仁 藤澤 憲司 松野 剛 坂東 健次
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.78, no.10, pp.2214-2219, 2017 (Released:2018-04-30)
参考文献数
12

症例は55歳,女性.38度台の発熱,両側手・膝・足関節の疼痛・腫脹を主訴に当院を受診した.胸部CTにて左肺上葉に長径3.5cm大の充実性不整形腫瘤あり,PET検査では強いFDG集積(SUVmax=36.7)を認めた.肺門・縦隔リンパ節転移や遠隔転移を疑う所見は無く,少量の左胸水を伴っていた.四肢X線では,大腿骨や脛骨骨膜部に二重線を認め,大腿骨MRIでも骨幹部の骨膜下に高信号を呈していた.理学所見では,ばち指・趾も認めた.以上より,肺性肥大性骨関節症を合併した肺癌cT2aN0M0 stage IBを疑い,審査胸腔鏡後に開胸で左肺上葉切除+縦隔リンパ節郭清を施行した.術後経過は良好,関節痛は術後1日目から消失した.病理検査の結果,多形癌,pT2aN0M0,stage IBだった.肺性肥大性骨関節症は進行肺癌を合併することが多いが,肺病変の治療により関節炎の症状が劇的に改善することが期待できる.
著者
三野 和宏 田村 元 正司 裕隆 小丹枝 裕二 片山 知也 今 裕史
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.622-626, 2013 (Released:2013-09-25)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

維持透析中に発症した乳癌の治療は,患側のvascular access,薬物療法という問題があるため慎重に行う必要がある.今回,維持透析中に発症した乳癌に対して治療を行った4症例の検討を行った.症例は50歳~75歳の女性で,1例は患側に内シャントがある症例であった.手術に関しては乳房は全摘と温存,腋窩リンパ節は郭清症例とセンチネル生検症例が含まれていた.手術時間は53分~143分で,出血量は全例少量であった.抗凝固剤は,術後初回のみメシル酸ナファモスタットを使用した.術後補助療法として全例に通常量のホルモン療法を行い,1例で通常量のtegafur/uracilを追加投与した.乳房温存症例に対しては通常量の放射線を照射した.術後1年1カ月~5年3カ月経過した時点で,いずれの症例も透析関連のトラブルはなく,無再発生存中である.
著者
西村 潤也 寺岡 均 北山 紀州 埜村 真也 野田 英児 西野 裕二
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.11, pp.2836-2841, 2015 (Released:2016-05-31)
参考文献数
22
被引用文献数
3 4

症例は63歳の男性で,右鼠径ヘルニアに対して2013年8月に腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を施行した.同年10月より右鼠径部の膨隆を自覚したため外来受診し,CTにて創部に膿瘍形成を認め術後感染と診断した.保存的加療では軽快せず,同年11月に手術を施行した.鼠径部からのアプローチにて膿瘍腔を開放し,壊死組織の除去および洗浄を行ったが,膿瘍腔とメッシュは接しておらず,メッシュの摘出は行わなかった.術後,創部に留置したドレーンを用いて洗浄を継続するも軽快せず,2014年1月に腹腔鏡下でのメッシュ除去術を施行した.メッシュは周囲組織と強固に癒着しており摘出に難渋した.術後,創部感染は速やかに改善し,現在までヘルニアの再発も認めていない.今回われわれは,腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術後のメッシュ感染に対して,腹腔鏡下にメッシュ除去を行い根治しえた貴重な1例を経験した.
著者
稲田 健太郎 志田 大 松田 真輝 井上 暁 梅北 信孝
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.1488-1492, 2011 (Released:2011-12-25)
参考文献数
20

症例は63歳,男性.2010年7月に腹痛と嘔気を主訴に当院を受診した.腹部単純エックス線検査で大腸イレウスと判断,腹部造影CT検査でS状結腸に造影効果を伴う壁肥厚像およびその口側に2cm大の異物を認めた.種子嵌頓による大腸癌イレウスを疑い,緊急下部消化管内視鏡検査を行った.S状結腸に2型病変による全周性の狭窄を認め,経肛門的イレウス管を挿入して口側腸管を減圧した.入院6日後にリンパ節郭清を伴うS状結腸切除術を行った.切除標本では腫瘍口側に梅の種子が確認できた.総合診断SSN1H0P0M0,fstageIIIa.術後は合併症なく経過し,術後7病日で退院.植物種子は大きさや形状から通常イレウスの原因となりにくく,植物種子によるイレウスを疑った際は,器質的疾患,特に大腸イレウスに関しては大腸癌を念頭においた治療方針を検討する必要があると考えられた.
著者
杢谷 友香子 長谷川 順一 三方 彰喜 金 鏞国 川野 潔 根津 理一郎
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.2379-2383, 2011 (Released:2012-03-25)
参考文献数
20

膵十二指腸動脈瘤は稀な疾患であるが,近年の画像診断の進歩とともに発見される機会が増加している.われわれは膵十二指腸動脈瘤に対し腹腔鏡下手術を施行し,良好な経過を得た症例を経験したので報告する.症例は67歳,男性.腎嚢胞および高血圧症にて内科通院中にスクリーニングCTを施行したところ十二指腸近傍に径30mm大の動脈瘤が発見された.3D-CT血管撮影像にて胃十二指腸動脈の末梢側に動脈瘤が確認され,膵十二指腸動脈領域に発生した真性動脈瘤と診断した.治療は低侵襲性と長期成績とを考慮して腹腔鏡下動脈瘤切除術を行った.周術期合併症は認めなかった.術後2年5カ月現在,腹部症状を認めることなく外来で経過観察中である.仮性動脈瘤や破裂例を除く膵十二指腸動脈瘤に対して腹腔鏡下動脈瘤切除術は,安全で効果的な治療法の一選択肢として考えられた.
著者
大西 惠美 吉田 直裕 青柳 武史 爲廣 一仁 緒方 俊郎 谷口 雅彦
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.6, pp.1041-1048, 2020 (Released:2020-12-28)
参考文献数
22
被引用文献数
1

孤立性上腸間膜動脈解離は比較的まれな疾患であるが,近年CTの普及に伴い本疾患の報告は増加している.多くは保存的加療で良好な予後が得られるが,観血的治療を要する症例もあり時に致命的になることもある.しかし,本疾患の原因,分類,治療法について一定の見解は得られていない.2008年2月から2019年2月までに孤立性上腸間膜動脈解離と診断した20例の患者背景,症状,血液検査,治療法,転帰について後方的にまとめ,Sakamoto分類・Zerbib分類・Yun分類・Luan分類・Li分類により分類し,どの分類が治療方針の決定に有用か検討した.全例男性で平均年齢は56歳.18例は保存的加療,1例は血栓溶解,1例は血栓溶解をするも腸管虚血を認め腸管切除を行った.全例が再発なく生存.(観察期間中央値756日,四分位範囲:109-3,845)当院で経験した20例ではYun分類Type I~II bでは保存的加療が可能であり,Type IIIで観血的な治療が必要で,Yun分類が治療方針の決定に最も有用であった.
著者
中川 暢彦 阪井 満 村井 俊文 末岡 智 篠塚 高宏 藤田 恵三 露木 琢司 中島 広聖
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.113-117, 2018 (Released:2018-08-01)
参考文献数
14

症例は74歳の男性.深夜に急激に生じた腹痛を主訴に当院救急外来を受診した.腹部膨満を認め,上腹部に腹膜刺激症状を認めた.腹部造影CT検査では,横行結腸に著明な浮腫性肥厚と周囲脂肪識の濃度上昇を認めた.NOMIによる腸壊死を疑い,緊急手術を施行した.術中所見では,肝彎曲部からの横行結腸および間膜に著明な浮腫と発赤を認めたが,壊死や穿孔の所見は認めなかった.肉眼的に正常な回腸末端から横行結腸中央部までの右半結腸切除術を施行した.病理組織学的検査では静脈を主体にリンパ球浸潤を認め,一部では静脈閉塞も認めた.動脈には炎症所見を認めず,enterocolic lymphocytic phlebitis と診断した.術後経過は良好で術後第9病日に退院し,以降再発は認めていない.今回,稀なenterocolic lymphocytic phlebitis を経験したので報告する.
著者
森田 道 曽山 明彦 高槻 光寿 黒木 保 安倍 邦子 林 徳真吉 兼松 隆之 江口 晋
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.483-487, 2013 (Released:2013-08-25)
参考文献数
8
被引用文献数
5 6

59歳,女性.主訴はなし.検診目的の腹部超音波検査で肝腫瘤を指摘され当科紹介となった.腹部造影CTでは肝外側区域から肝外に突出する造影効果に乏しい腫瘤を認めた.肝腫瘍の他,肝胃間膜内発生の悪性リンパ腫や胃GIST,炎症性腫瘤との鑑別が困難であり,診断的意義も含め腹腔鏡下腫瘤摘出術を施行した.術中所見では腫瘤は肝胃間膜内に肝外側区域背側に接するように存在していた.腫瘤と接する肝外側区域を一部合併切除し腫瘤を摘出した.病理組織所見は変性壊死を中心とした好酸球性肉芽腫で,内部にアニサキス虫体を認め消化管外アニサキス症と診断した.アニサキス症の多くは消化管に発生し激烈な腹痛を特徴とするが,初回感染では本症例のように無症状で消化管壁を穿通し消化管外アニサキス症として発見される例の報告もある.発見契機としては,絞扼性イレウス,膵腫瘤などの報告があるが,肝腫瘤として発見された例は国内では5例と稀である.
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.Supplement, pp.S743-S791, 2016 (Released:2017-05-31)
著者
孫 起和 金岡 祐次 前田 敦行 高山 祐一 高橋 崇真 宇治 誠人
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.48-53, 2020 (Released:2020-07-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

症例は72歳の男性で,直腸癌同時性肝転移に対して,術前化学療法としてmFOLFOX6+Panitumumab療法を行った後に腹会陰式直腸切断術,肝拡大左葉切除術および肝後上区域部分切除術を施行した.術後7日目に骨盤死腔内への小腸嵌頓による腸閉塞のため回盲部切除術を施行した.術後6カ月目のCTでは右下腹部に20mm大の単発結節を認め,FDG-PETでも同部位に集積を認めた.腹膜播種再発を疑い手術を行ったところ,回腸結腸吻合部の間膜内に腫瘤を認めたため,吻合部を含めた腸管切除術を施行した.病理組織所見では悪性像は認めず,瘢痕組織に囲まれた膿瘍を伴う,縫合糸を取り囲む多核巨細胞を認め,異物肉芽腫と診断した.回盲部切除術を行った際に間膜を閉鎖した縫合糸による異物反応と考えられた.悪性腫瘍術後に再発との鑑別が困難であった縫合糸による腹腔内異物肉芽腫を経験したため報告する.
著者
岡本 高宏 吉田 有策
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.14-25, 2021 (Released:2021-07-31)
参考文献数
46

副腎,後腹膜,縦隔に生じた腫瘍はホルモンを産生している場合がある.ホルモン産生腫瘍であることを的確に診断されずに手術を受ける患者は,手術中そして術後に大きな危険にさらされる懸念がある.担当医は,こうした稀な疾患があることを認識し,周術期の安全に努めなければならない.副腎皮質および髄質から分泌されるホルモンを測定して過剰産生の有無を評価するが,皮質系ホルモンではACTHやレニンとのバランスから診断することが肝要である.また,副腎以外の部位(後腹膜,縦隔等)に生じた腫瘍でもノルアドレナリンを過剰産生することがある.カテコールアミン産生腫瘍に対してはα遮断薬投与による周到な術前準備が必要である.コルチゾール産生腫瘍では健側副腎の機能回復までの相当な期間,グルココルチコイドの補充を要する.アルドステロン過剰症では負荷試験で診断を確定したのち,副腎静脈サンプリングにて病変部位診断を行う.
著者
田中 裕也 坂本 龍之介 矢野 由香 佐野 史歩 井口 智浩 久我 貴之
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.80, no.9, pp.1652-1657, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

症例は69歳,男性.心窩部痛と食欲不振を主訴に受診.上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚に全周性の隆起性病変を認め,生検にて未分化多形肉腫と診断された.明らかな遠隔転移はなく,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後2.5カ月で施行したCT検査にて,肝転移と局所再発を指摘された.Doxorubicin投与を開始したが,病状が悪化し術後5.5カ月で永眠した.未分化多形肉腫の好発部位は四肢や後腹膜であり,十二指腸原発の報告例はこれまでに6例のみである.文献的考察を加えて報告する.
著者
伊勢 昂生 石川 慶大 臼井 葉月 横山 和之 進藤 学 平野 聡
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.503-509, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
18

患者は64歳,女性.自宅玄関で椅子から転落し右側胸部を強打した.近医で肋骨骨折が疑われ,当院を紹介受診した.胸部X線・CTで第5,6肋骨骨折を認めた.入院にて疼痛コントロールを行い,退院予定であったが,受傷の11日後に急激な右胸部痛が出現した.胸部CTで多量の胸水貯留,胸腔ドレナージで新鮮血の排液を認めたため,胸腔鏡補助下に緊急開胸手術を施行した.胸腔内には多量の凝血塊が存在し,未診断であった第7肋骨の鋭利な骨折端が胸腔内に突出し,近傍の横隔膜に損傷を認めたことから,同部が遅発性血胸の原因と考えた.血腫除去,第7肋骨を部分切除し,横隔膜を縫合後,閉胸した.術後経過は良好で,術後22日目に退院した.結論:中下位肋骨骨折時には,横隔膜損傷による遅発性血胸を合併し得ることを念頭に置いた対応が必要である.
著者
森 周介 笹原 孝太郎 田内 克典
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.233-238, 2009 (Released:2009-07-05)
参考文献数
13
被引用文献数
4 4

症例は80歳,女性.内科の定期診察で腹部腫瘤を触知した.CTおよびMRIでは,結腸肝彎曲部外側に長径60mm大の不整形軟部腫瘤を認め,FDG-PETで同部に高集積像を認めた.手術所見では,結腸肝彎曲部漿膜面に腫瘤を認め,大網に播種結節を認めた.術中組織検査にて,漿液性乳頭腺癌に類似する組織像との診断で,結腸右半切除術を施行,播種結節を取り切るように大網を切除した.右付属器は肉眼的に異常を認めなかったが,原発巣の可能性を考慮し切除した.S状結腸の強い癒着のため左付属器の観察は断念した.肉眼所見では,径70mm×65mm,割面は白色充実性分葉状の腫瘤であった.組織学的検査所見では,病変の中心は腹膜脂肪組織内にあり,結腸固有筋層まで浸潤する漿液性乳頭腺癌であった.右付属器は卵管采付近に5mmの癌巣を認めたが,大きさと広がりから考えて,腹膜原発漿液性乳頭腺癌と診断した.
著者
馬場 卓也 肥満 智紀 梅枝 覚 山本 隆行 湯澤 浩之 中山 茂樹
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.608-612, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
12

症例は65歳,女性.腹部膨満を主訴に来院.腹部CT・MRIで多量の腹水と下腹部に分葉状軟部腫瘍を認め,PET-CTで同部に高度集積を認めた.血清CA125は高値であった.腹水穿刺細胞診でadenocarcinomaと診断された.消化管・子宮・卵巣に異常を認めなかったため,原発不明癌として試験腹腔鏡を施行した.大網に一塊となった多房充実性腫瘍と腹膜播種を認めた.腫瘍は可及的に切除した.病理組織学的検査は漿液性乳頭状腺癌であった.以上より,腹膜原発漿液性乳頭状腺癌の診断で術後はpaclitaxel・carboplatin併用による化学療法を施行した.一時は奏効したが次第に腫瘍は増大し,腹水も貯留するようになっていった.腹水濾過濃縮再静注法(CART)を行うことで全身状態は保持しえたが,術後18カ月で死亡した.稀ではあるが原発不明癌では本症例も念頭に置き,診断・治療にあたるべきと考えられた.
著者
栗山 志帆 大多和 泰幸 村岡 孝幸 中川 仁志 鷲尾 一浩
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.82, no.10, pp.1805-1809, 2021 (Released:2022-04-30)
参考文献数
12

G-CSF製剤投与後大型血管炎の報告例は増加しているが未だ少なく,病態も不明な点が多い.今回,術後補助化学療法中のpegfilgrastim投与後に発症した2例を経験したので報告する.1例目は78歳の女性.右乳房全切除+腋窩リンパ節郭清を施行(浸潤性小葉癌,pT2N2aM0,Stage IIIA).術後TC療法を開始し,1コース目のDay3にpegfilgrastimを投与した.Day6より発熱および炎症反応の上昇を認めた.2例目は70歳の女性.右乳房切除を施行(浸潤性乳管癌,pT1cN0M0,Stage IA).術後TC療法を開始し,1コース目のDay3にpegfilgrastimを投与した.Day13より発熱・腰痛および炎症反応の上昇を認めた.2例とも造影CTで診断確定した.G-CSF製剤の使用頻度の増加に伴い,大型血管炎の発症例が増加する可能性があり,更なる症例の蓄積が必要と考えられる.
著者
杉森 和加奈 中川 和彦 福原 哲治 赤本 伸太郎 小西 祐輔
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.83, no.6, pp.1005-1008, 2022 (Released:2022-12-31)
参考文献数
12

症例は91歳,女性.3週間前より右乳房の疼痛・腫脹が出現し,近医を受診.抗菌薬投与にて改善が見られないため,当院を紹介受診となった.右乳房の腫脹と乳輪部発赤を認め,明らかな腫瘤は触知しなかった.マンモグラフィは右乳房の濃度上昇と皮膚肥厚を認め,乳房超音波では皮膚の肥厚と脂肪織の浮腫を認め,乳腺組織は不明瞭であった.炎症性乳癌の鑑別のために針生検を施行したが,悪性所見は認めなかった.心不全を疑う所見がなかったため,利尿剤を使用せず五苓散を開始した.緩徐ではあるが浮腫の改善を認め,投与後12カ月で左右差が見られなくなった.乳房浮腫に対し五苓散を使用し有効であった症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.