著者
鈴木 崇文
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.132-155, 2017 (Released:2021-08-28)
参考文献数
23

本稿では,2000年代に行われた三位一体改革が地方自治体の公共サービス歳出にどのような影響を与えたか分析する。まず自治体の歳出意思決定モデルを構築し,消費者需要の推定に広く用いられているAlmost Ideal Demand System(AIDS)を適用して変数の内生性を考慮したうえで行動パラメータの推定を行う。次に推定したパラメータを用いて,三位一体改革が行われなかった場合の歳出水準をシミュレートする。シミュレートした歳出水準と実際の歳出水準を比較することにより,改革が歳出に与えた影響を分析した。目的別歳出の分析からは,改革によって自治体は民生費,教育費およびその他の費目で相対的に大きい歳出の削減を行っていた。民生費は特定補助金の削減と税源移譲およびそれに伴う交付税調整の両者を原因として歳出が減少していた一方で,教育費とその他では前者の影響は小さく,主に後者の影響によって歳出の減少がもたらされたことが明らかになった。また,農林水産費,商工費および土木費では前者と後者の歳出に与える影響は相殺する方向に働いていた。
著者
山本 航
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.145-163, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
38

近年,自治体間の財政競争・相互依存関係に関する研究がわが国においても注目を集めてきた。自治体間の財政競争・相互依存関係には,大別して,①便益のスピルオーバー,②資本や住民の移動,③情報のスピルオーバーによる模倣という理論的背景が考えられるが,これら理論間では政策的含意が必ずしも一致しないため,実証結果を解釈する際は理論的背景への意識が不可欠となる。この点に関し,Hayashi and Yamamoto(2017)は推定において類似団体区分制度を活用することで,自治体の1人当たり総歳出についてヤードスティック競争が適合するとの結論を得ている。しかし,1人当たり総歳出に関する「平均的」な記述としてヤードスティック競争を用いるのが適当であるという結論を得ることができたとしても,その結果が個別の歳出項目についても当てはまる保証はない。そこで本稿では同論文を拡張し,個別の歳出項目を分析対象とした場合にも同論文の結論が成立するのかを実証的に検証する。
著者
島村 玲雄
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.198-217, 2017 (Released:2021-08-28)
参考文献数
23

本稿は,1982年のワセナール合意を契機とする「オランダモデル」による経済回復において,財政制度がどのように変化し,どのように「成功」に寄与したのか,財政の視点から再検討するものである。政労使の政策協調による雇用政策として知られるオランダモデルに対し,財政再建が課題であったルベルス政権,コック政権の2つの政権がいかなる財政改革を行ったのか,制度の視点から明らかにした。その結果,両政権の財政再建策の手法は異なるものであったが,その後の経済回復への貢献は大きいものであった。またオランダモデルとして理解される新たな雇用制度が単独で機能したというわけではなく,政府による抜本的な財政改革によって実現したと理解されるべきものであった。
著者
石田 三成
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.224-241, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
8

本稿では北海道内の市町村を対象として,①市町村が銀行等引受債を起債するにあたり,地域金融機関同士の競争環境が弱いと,地域金融機関の交渉力が強くなるため,銀行等引受債の金利スプレッド(対財政融資資金貸付金利)が上昇する,②公的資金のウェイトが高い地域では,公的資金が地域金融機関の競合相手として機能するため,地域金融機関による寡占の弊害が小さくなり,銀行等引受債の金利スプレッドも低下する,という2つの仮説を定量的に検証した。その結果,2つの仮説がともに支持された。主要な結論は以下のとおりである。まず,入札や見積合わせに参加する地域金融機関数が多くなるほど,銀行等引受債の金利スプレッドは低下することが明らかとなった。次に,非競争的な随意契約であっても指定金融機関以外の金融機関から資金を調達することで,わずかに金利スプレッドを引き下げることが可能である。最後に,公的資金のシェアが高い地域ほど銀行等引受債の金利スプレッドが低くなる傾向が確認され,公的資金は地域金融機関による寡占の弊害を軽減していることが示唆された。
著者
上田 淳二 筒井 忠
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.248-266, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1

日本の消費税について,毎年度の税収対GDP比やVRR(VAT Revenue Ratio)の値をみると,必ずしも一定で推移しているわけではなく,GDPに対する税収弾性値も変動している。本稿では,消費税収の対GDP比が変動してきた要因を明らかにし,将来の消費税収の対GDP比の大きさを考える際に考慮しなければならない要因を検討する。そのために,産業連関表を用いて,非課税取引を考慮した需要項目別の課税ベースの大きさを考えたうえで,毎年度の「理論的税収」の値を計算することによって,GDPに対する民間消費や住宅投資,一般政府総固定資本形成の比率の変化が,消費税収の変動に大きな影響を与えてきたことを示す。さらに,理論的税収と徴収ベースの消費税収の差として,「税制要因」による税収変動の大きさを把握し,2003年度の税制改正における中小事業者への特例措置の変更によって,税制要因の規模が大きく縮小したことを示す。
著者
吉弘 憲介
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.200-217, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
39

1980年代以降,アメリカの州財政は新連邦主義の影響からその役割が強調され注目が集まっている。その中で,90年代を通じて州所得税改革が相次いで行われたとされる。本稿で取り上げるニューヨーク州は90年代以降,州個人所得税を中心に減税政策を展開するが,その過程で州内経済の変化によって生じた貧困問題などへの対応から勤労所得税額控除などの還付可能な税額控除を増額していく。このとき,各ブラケットでの限界税率の引き下げや基礎控除の引き上げなど従来行われてきた減税政策に加えて,還付可能な税額控除により低所得者層で実効税率が急速に引き下げられていく。本稿ではこうした変化を分析することで,90年代に各州で積極的に導入されていった還付可能な税額控除の影響を,ニューヨーク州のケーススタディを通じて明らかにしていく。
著者
松井 克明
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.104-125, 2022 (Released:2023-10-17)
参考文献数
58

アメリカ・カンザス州は2012年と2013年に成長促進のための大規模な税制改革を行い,パススルー事業体などによる非賃金事業所得への課税を除外した。しかし,州経済は改善しなかったため,2017年,改革は見直された。カンザス州の「大いなる実験」とも称される改革の背景には,州共和党内の2つの勢力の動きや,レーガン連邦政権におけるアドバイザー的な役割を果たし,「サプライサイド経済学の父」ともされるラッファーやアメリカ立法交流評議会の影響がある。一連の改革の結果,州財政においては売上税の比重が,郡財政においては地方財産税の比重が増したことを明らかにした。
著者
沓澤 隆司 竹本 亨 赤井 伸郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.190-212, 2020 (Released:2022-01-19)
参考文献数
22

都市の中心部に人口が集中した都市(コンパクト度の高い都市)においては,住宅地等の地価が上昇する可能性がある。その背景として都市のコンパクト化が行政サービスの効率化および,住民の利便性の向上や経済活動の効率性の上昇をもたらしている可能性が推測される。本稿では,都市のコンパクト度が上昇する(都市がコンパクト化する)ことが公示地価等にどのような影響を与えているかについて,コンパクト度の違い,用途の別,都市の中心点からの距離帯ごとの異なる効果を考慮して,パネルデータによる固定効果分析を行った。この結果,都市のコンパクト度が上昇すると地価が上昇する関係が見られること,その影響はコンパクト度の違い,住宅地や商業地の用途の別によって異なること,距離帯別の分析では,用途全体,あるいは住宅地において,都市の中心点に近接した地域ではコンパクト度が上昇する際の地価の上昇幅は大きくなる傾向があることがわかった。
著者
白石 智宙
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.237-254, 2020 (Released:2022-01-19)
参考文献数
33

本稿は,既存の地域内経済循環概念のなかに,自治体を起点とした再帰的かつ連続的な資金の動きを「財政循環」という概念によって位置づけた。それは,単なる経済効果の一環としての自治体収入増減効果とは異なり,政府間財政関係において自治体の収入や支出のあり方を規定する諸要素を考慮に入れた点に独自性がある。そして,岡山県西粟倉村の「百年の森林事業」をケースとして実証分析を行い,「財政循環」の実態とそれを規定する諸要素との関係を定量的に示すことができた。具体的には,単純な税収と財産収入の増加による収入増よりも,国庫支出金や地方交付税を通じた収入への影響を加味した収入増のほうがより実態を反映しており,地域産業政策を適切に評価できることを示した。
著者
中東 雅樹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.144-162, 2019 (Released:2021-07-28)
参考文献数
17

本稿は,国土交通省「道路メンテナンス年報」に掲載されている2014年度から2016年度の3年間の点検結果のうち,市町村が管理する橋梁の総合的な健全度を用いて,普通交付税の有無でみた財政要因が橋梁の健全度の差に影響を与えているかを生存時間分析により実証的に明らかにしている。 分析結果からは,積雪の多寡については,積雪が多い地域における橋梁の健全度はそれ以外の地域のそれに比べて平均的に早く低下する。また,財政状況に関しては,交付団体における橋梁の健全度の予防保全段階への到達時間は不交付団体のそれに比べて平均的に長い一方で,交付団体における橋梁の健全度の早期措置段階への到達時間は不交付団体のそれに比べて平均的に短いことがわかった。これは,とくに財政状況の悪い地域や条件不利地域において橋梁の維持補修への資源投入が不十分であったことを示唆しているといえる。
著者
栗田 広暁
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.181-193, 2019 (Released:2021-07-28)
参考文献数
10

本稿では,わが国の所得税制における扶養控除額の変化を利用し,最適課税論の中心的パラメータであるETI(the Elasticity of Taxable Income with respect to the net-of-tax rate)およびEGI(the Elasticity of Gross Income with respect to the net-of-tax rate)を推計した。データには日本家計パネル調査(JHPS)の個票パネルデータを用い,家計の異質性を十分に反映させながら推計を行った。その結果,ETIの推計値は0.7前後,EGIの推計値は0.5前後であるとの結果が得られ,扶養控除額の変化は,家計が直面する限界税率の変化を通じて所得決定に影響を与えていたことが示唆された。
著者
上田 淳二 片野 幹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.133-151, 2020 (Released:2022-01-19)
参考文献数
15

日本の消費税について,課税ベースの大きさを正確に計測するためには,産業連関表のデータに基づいて,部門ごとの付加価値の産出・使用額に対応した消費税額や,家計消費・非課税部門の中間消費など需要項目に対応した消費税額を適切に推計する必要がある。しかし,総務省政策統括官室(2013)などのこれまでの研究では,産業連関表から推計される消費税の課税ベースの大きさは,実際の消費税収から想定される課税ベースを大きく上回ることが指摘されてきた。本稿では,部門別・需要項目別の消費税課税ベースの大きさを整合的に推計するために,Hutton(2017)で示されている手法を用いて,部門・商品に関して実際の税制を踏まえた推計手法を整理した上で,2011年と2015年の産業連関表から得られるデータを用いた推計結果を示し,推計される消費税の課税ベースが,実際の税収値から想定される課税ベースを大きく上回ることはないことを明らかにした。
著者
小林 航 高畑 純一郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.117-131, 2017 (Released:2021-08-28)
参考文献数
11

本稿では,公債の課税平準化機能に関するLucas and Stokey(1983)のモデルから,不確実性を除去したうえで生産性をパラメータ化し,消費と余暇に関する分離可能な効用関数のもとで,最適税率が異時点間で一定になる条件を導出する。閉鎖経済では,消費の限界効用の弾力性と労働供給の限界不効用の弾力性がそれぞれ時間を通じて一定となることがその条件となる。他方,開放経済では,割引因子と債券価格が等しいという仮定のもとで,労働供給の限界不効用の弾力性が一定であることが条件となる。そして,関数型を特定化し,政府支出や生産性の変化が最適税率に与える影響を分析する。その結果,准線型関数や開放経済においても,生産性が変化する場合には最適税率はかならずしも一定とならないことなどが示される。
著者
掛貝 祐太
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.177-197, 2017 (Released:2021-08-28)
参考文献数
37

1990年代のスイス財政は債務残高増加のなかで緊縮路線・新自由主義路線を基調としていた。同時期の欧州では地方政府の実質負担増がみられるが,90年代に議論されたスイスの財政調整制度改革(NFA)は,最終的にむしろ財源力の弱い州からの支持を集めて成立した。この政治的過程について連邦・州間の合意形成に焦点を当て,制度・歴史・政治的考察を図ることで,当初の目標から部分的に乖離しながら政治的妥協と協調が前景化する過程を追跡し,なぜ極端な地方政府の弱体化を避けることができたのかを明らかにする。
著者
卿 瑞
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.164-183, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
18

地方債市場の自由化が進行するなか,2006年9月に個別条件交渉方式が正式に導入された。金融市場での情報の非対称性を解消して資金調達のコストを削減するために,地方政府は依頼格付けを積極的に取得するようになった。なかには,2つの格付会社に依頼し,二重格付けを取得する自治体もある。二重格付けの取得原因として地方債の引受金融機関からの要求,あるいは地方政府の習慣などが考えられるが,ほかに経済的な理由があるのかを明らかにすることも重要である。そこで,本稿は市場公募地方債のデータを用いて,二重格付けが地方政府の発行コストに与える効果を定量的に検証した。分析の結果,二重格付けは発行コストに有意に負の影響を与えている。自治体が二重格付けを取得することは合理的であると考えられる。
著者
五嶋 陽子
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.184-208, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
42

両大戦期アメリカの農業問題を解決するために出された3つの計画の問題認識,政策目標の設定,財源調達方法との関係とそれぞれの政策課税を考察した。1920年代半ばのマクナリー=ハウゲン法案では農業問題は農家が解決すべきとの理解に立ち余剰農産物の捌け口を海外に求め,受益者負担の原則に沿う均一化料金を構想したが,過剰生産の悪循環から抜け出せないとされた。1929年農産物出荷法では一般財源からの支出で余剰農産物の流通と商品前貸し融資を農業協同組合に任せ,最終消費財の数量調整のために製造者売上税を導入したものの,商品前貸し融資を停止せねばならなかった。1933年農業調整法は農産物の取引段階を射程とし,加工業者に加工税を課税しその税収を生産者の減反給付金等に用いて加工業者から生産者に所得移転を進めようとした。しかし違憲判決を受け,加工税納付額を超過する還付は加工税収に加え一般財源を投入する必要があった。
著者
谷 達彦
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.209-227, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
75

地方所得税のあり方をめぐる通説的議論は,応益課税の観点から比例的地方所得税が望ましいとする。しかし,ニューヨーク市の地方所得税は累進税率を採用しているうえ,低所得者の負担軽減を図る複数の税額控除を導入している。さらに近年は富裕者増税を中心とする改革論議が強まった。ニューヨーク市の地方所得税において応能課税の側面が重視される背景には所得格差の拡大,民主党への高い支持率,富裕者増税を支持する住民の世論がある。しかし,幼児教育拡充の財源を地方所得税の富裕者増税によって調達することを掲げたデブラシオ市長の改革案は,幼児教育における地域間格差拡大の回避を優先するニューヨーク州の承認を得られず挫折した。ニューヨーク市の事例は一般的ではないが,地方所得税のあり方をめぐる議論を豊富化する諸論点を示唆する。
著者
掛貝 祐太
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.228-246, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
30

スイスでは,1990年代初頭の経済・財政状況の悪化に対して,91年および95年にエコノミスト・財界人が発行した通称「白書」と呼ばれるレポートは,極めて明白な新自由主義路線改革を打ち出し,連邦政府関係者のみならず一般層にも読まれるなど大きな衝撃を与えた。同レポートは事実上の政府路線となったと先行研究では評価されている。しかし,同レポートでの具体的な制度提案と,政治的意思決定過程を経たのちの90年代の制度改革の結果を比較すると,同レポートが実際の財政構造に与えた影響は限定的である。実際には,コンセンサスを要する政治構造により,財政再建に関しても「白書」で主張された歳出削減策には一定の歯止めがかかり,むしろ付加価値税の導入など歳入面の改革が進み,とりわけ90年代前半に構造的財政赤字の削減に成功したことが分かる。こうした分析を通じ,スイスにおける新自由主義改革の文脈とそれに対する抵抗の動態を明らかにする。
著者
持田 信樹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.141-165, 2015 (Released:2021-10-26)
参考文献数
24

わが国の地方政府債務は先進諸国の中で最悪の状況にある。本稿では,Bohn(1998)のモデルを拡張して地方政府債務の持続可能性を検証した。分析対象は47都道府県で期間は1985年から2011年までの27年間である。政府債務の対県民総生産比が増大すると当初は基礎的財政収支が悪化するが,ある点を超えると改善に向かうという非線形の関係が確認された。基礎的財政収支改善の「主役」を演じたのは投資的経費の削減と地方税の回復であり,「準主役」は人件費の抑制である。地方公共団体が基礎的財政収支を改善する「トリガー」となったのは公債費負担比率の上昇であった。予想に反して地方財政健全化法の実施をきっかけに政府債務残高なり財政指標なりの説明力は失われた。
著者
石川 達哉 赤井 伸郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.166-190, 2015 (Released:2021-10-26)
参考文献数
12

土地開発公社は母体地方公共団体との一体性が高く,借入に際しての債務保証・損失補償の金額も大きいため,これを清算することは母体の財政健全化という文脈で捉えることができる。特に,地方財政健全化法の下では土地開発公社の債務の一部が将来負担比率に算入されることに着目し,清算に向けた第三セクター等改革推進債の発行が地方財政健全化法の判断基準,母体の財政状況や公社の土地保有の状況によって決まるモデルを推定した。その結果からは,将来負担比率の早期健全化基準からの乖離率(余裕度)が小さいほど発行確率が高まることが確認され,将来負担比率が土地開発公社の清算を促すガバナンス効果を持つことが裏付けられた。さらに,債務保証・損失補償の水準が高いほど,修正実質収支比率が低いほど,また,保有期間5年以上の土地の割合が高いほど,時価評価対象土地の割合が高いほど,発行確率が高まることが示された。