著者
国枝 繁樹 布袋 正樹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.165-183, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
17

本稿においては,Poterba(1987,2004)の先行研究を踏まえ,証券税制の改正と日本企業の配当政策の関係につき実証分析を行う。具体的には,過去の証券税制の改正が配当,株式譲渡益等の税制上の相対的な有利さをどのように変化させたかにつき試算し,その上で,配当の税制上の相対的な有利さの変化が,日本企業の配当政策に影響を与えたかを推定する。その際,日本企業が伝統的に従ってきたとされる「1割配当」ルールの影響についても明示的に考慮する。主な分析結果は以下のとおりである。①証券税制は過去の日本企業の配当政策に影響を与えていない。②日本企業の配当額の説明要因としては,当期純利益よりも,株式額面総額の代理変数である資本金の方がはるかに重要であった。これらの結果は,過去の日本企業の配当政策において,株式額面の一定割合を配当するという慣行が重視されており,税制は重要な影響を有しなかったことを示している。
著者
神野 真敏 上村 敏之
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.184-200, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
6
被引用文献数
1

公的年金の運営方法には,保険料(徴収面)と所得代替率(給付面)のいずれを固定するかで,2つの運営方法がある。賦課方式の公的年金と児童手当には関連性があることが,近年の研究で明らかになってきた。児童手当の拡充で出生率が改善した場合,保険料率を一定にして所得代替率を高める方法が好ましいのか,あるいは,所得代替率を一定にして保険料率を軽減させる方法が好ましいのか,2つの運営方法の比較を行う。 本稿の分析により,給付水準固定方式における(育児費に対する)児童手当率の調節は,保険料率固定方式よりも社会厚生値を高めることが示された。また,児童手当率の変更によって家計のタイプ間の移動が行われるため,政策発動前後で各タイプの最適な政治的選択が変わってしまうことも示された。
著者
齊藤 由里恵
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.201-217, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
15

本稿では,地方交付税がもつ財政調整機能によって,地方公共サービスの住民負担がどれだけ平準化されているか,地域間の財政調整機能を個々の経費ごとに分析をした。また,人口規模が全体の不平等化に及ぼす要因,各経費の全体の不平等度への寄与を分析した。 本稿の分析結果は次の通りである。①キング尺度による不平等度の測定では,財政調整前の財源(地方税)よりも財政調整後の財源(地方税+地方交付税)の不平等度が高い。そして,財政調整前財源と財政調整後財源の順位が大幅に逆転している。②経費別のキング尺度の結果では,各経費の総額と人件費はほとんど同様の値を示している。③タイル尺度による要因分析では,人口規模グループ別寄与度は,人口規模の小さい地域が全体の不平等度に寄与している。また,総額の構成要素の分解より,人件費が総額の不平等度を引き上げる要因であることが示された。
著者
福井 木綿
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.218-232, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
23

ベトナム戦争についての研究は数多く存在するが,未だ解明されていない問題は多い。それらを解明するために,南ベトナム解放民族戦線についての再評価が必要であるとの問題意識に基づき,本稿では,解放戦線の財政資料に基づいて,解放勢力の兵員数の推計を行い,その規模と推移について考察を加えた。推計結果は,戦況の推移,主力部隊の規模と矛盾しないものであったが,既存の主要な参考データである米国の推定よりはるかに大きい値となった。推計結果によって,(1) 解放戦線の規模は現在まで過小評価されており,解放戦線の役割についての再評価が必要であるということ,(2) 解放戦線とハノイ政府の関係性の転換において,テト攻勢とベトナム化政策による打撃が大きな影響力をもったということ,(3) 米国の圧倒的軍事力を背景とするサイゴン政府側が軍事的優勢にたつことができなかった理由は規模の問題にあったということが明らかとなった。
著者
佐々木 伯朗
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.233-248, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
23

政府との相互補完性において注目されているサードセクターが生ずる原因としては,財・サービスの特殊性に基づく利潤の非分配制約に着目した議論が現在主流であるが,政府の補助が高くかつ自律的に活動している国の事例が説明できない。またヨーロッパの「社会的企業」論は,企業,国家,コミュニティの結節点としてサードセクターを位置づけているが,それは依然としてセクター論にとどまっている。本研究では社会システム論の考え方を取り入れ,経済システムを,組織が他の組織や,個人,政府と結ぶ関係性によって類型化する方法をとった。これに基づいて,日本とドイツの高齢者福祉事業をめぐる制度の比較を行った結果,ドイツにおいては補完性原理による「自由福祉連盟」を中心としたサードセクターの自律性が強いのに対して,日本の事業者においては,非市場性,非政府性が希薄であることが確認された。
著者
諸富 徹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.249-264, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
28

租税は,財源調達手段であると同時に,政策上の目的を実現するための政策手段としての側面を持っている。本稿は,法人課税の政策手段としての側面を分析の対象とし,その意義と限界を明らかにする。その素材として1930年代にルーズヴェルト政権が導入した「留保利潤税」を取り上げる。留保利潤税は当時,一方で産業の競争条件を均等化させるための規制手段として捉えられ,他方で配当支払いの促進を通じて,経済安定化に寄与する政策手段として捉えられていた。留保利潤税は,価格メカニズムを利用することで配当支払いを促進した反面,外部資金調達コストの高さに直面する中規模企業に重い税負担をかけ,この点では政策意図と矛盾する結果を生んでしまった。にもかかわらず,現代政策課税のあり方を構想する上では,留保利潤税の教訓から政策課税の現代的意義を引き出しておくことは重要だと考えられる。
著者
深江 敬志 望月 正光 野村 容康
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.123-141, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
27

本稿の目的は,わが国申告所得税の再分配効果を所得者別・所得階層別の要因分解により検証することである。所得階層別の分析においては,所得税の再分配効果を税率効果と控除効果に分解し,その相対的な大きさを定量的に把握する。 分析の結果,以下の諸点が明らかになった。 第1に,申告所得税全体の再分配効果は,給与所得者・譲渡所得者などを含む「その他所得者」のグループ内の効果によってその大部分が説明される。 第2に,経年的に見た再分配係数は,昭和38年以降全般的に低下傾向を示す中で,① 昭和44年~昭和50年と昭和62年~平成3年に急激に低下し(ボトム効果),② 平成11年に急上昇する(ジャンピング効果)。 第3に,これら両効果の要因について,① ボトム効果が特に高所得階層(上)の税率効果に強く依存するのに対し,② ジャンピング効果は,当該年度に控除効果が急上昇している点から,主に定率減税の実施に起因すると考えられる。
著者
中澤 克佳
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.142-159, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
18

団塊の世代の退職などを契機として,都市部における高齢化の急速な進展が問題となってきている。また,都市部では施設介護サービスが不足し,地域的な偏在が生じている現状から,高齢者の介護移住が注目を集めている。介護移住は都市高齢世代自身の移動や,「呼び寄せ老人」と呼ばれる親世代の呼び寄せなどが想定される。しかし,わが国では高齢者の移動に対する注目は低く,さらに既存データでは,介護保険制度施行以降の市区町村別・年齢階層別の移動傾向が把握できないことから,定量的な分析が行われていない。そこで,本稿では既存統計資料を組み合わせることによって,東京圏(埼玉,千葉,東京,神奈川の1都3県)市区町村における高齢者の社会増加を定量的に把握し分析を行った。結果として,前期高齢者と後期高齢者の移動性向は大きく異なっており,要介護リスクが高い後期高齢者は,東京圏の特に相対的に施設介護サービスが充実した自治体へ流入していることが明らかとなった。
著者
金坂 成通 倉本 宜史 赤井 伸郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.160-183, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
22

現在,公営交通事業において過剰投資や非効率経営による問題点が指摘されている。今後は,民間同様の経営効率性を持って,民営化などの組織形態の変更も含めた改革が求められている。 本稿では,このような状況にある公営交通事業の中でもバス事業と地下鉄事業に対し,平成11年度から平成16年度までの年度間におけるマルムクイスト生産性変化指数を計測した。計測結果から,年度ごとに公営バス事業,地下鉄事業ともに各都市のマルムクイスト生産性変化指数にばらつきがあることがわかった。そして,マルムクイスト生産性変化指数の程度に影響を与えている要因を実証分析において検討した結果,公営バス事業の生産性の変化には,補助金が生産性変化指数を低下させる可能性,また経営基盤強化のための経営計画の実施が効果的である可能性が実証分析により示唆された。また,公営地下鉄事業については委託の促進が生産性変化に効果的である可能性が示唆された。
著者
井手 英策
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.245-263, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
26

本稿では,量的緩和政策への転換が財政運営や日銀の政策選択に与えた影響について考察する。量的緩和は,バランスシートの毀損,為替介入の積極化と政府債務の増大,借換政策への日銀の動員など予期しえぬ政策の連鎖をもたらした。その結果,量的緩和からの転換という金融政策の「正常化」が,かえって財政の抱え込んだリスクを顕在化させかねない状況を作り出すこととなった点を論証する。
著者
加藤 美穂子
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.264-279, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
24

本研究は,地方自治体の政策決定要因として,首長や議会など地方内部の政治的特性に注目し,計量的にその影響を明らかにしようとするものである。とくにここでは,地方自治体の意思が比較的表れやすい行政改革への取組みに注目する。今後,地方分権の進展にともない,地方財政や地方行政における自治体内部の政治的意思決定は,その重要性がより高まっていく。その過程を考察するための第一歩としても,今回,このような検証を試みている。 本稿の検証結果からは,今日の各自治体の行政改革への取組み具合は,財政状況や都市規模などの社会的・経済的環境のみならず,首長の党派性や選挙競争の程度,議会との関係といった政治的環境によってもやはり影響を受ける可能性が示唆された。
著者
杉浦 勉
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.280-293, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
15

財政の自立性が限定されているイギリス地方自治体にとって,民間事業者を活用できるPFI(Private Finance Initiative)は非常に魅力的な公共サービス調達手段である。財政資金の投入が必要であった社会資本整備を,資本調達を含めて民間事業者に任せ,これを管理統制することを通じて,地方自治体は公共サービスを提供する責任を国民に対して果たすことができるからである。 その一方で,PFIのこうした特質は,これを導入する地方自治体の在り方を変革していくことになった。PFIを活用しようとすれば,地方自治体は従来のような公共サービスを提供する主体と言うよりは,民間事業者に公共サービスを提供させるための条件を整備する統括者といった存在にならなければならない。また,PFI事業で民間事業者を統括するためには,地方自治体が中央省庁の下部組織ではなく,地域住民の要求を実現する機関として直接に民間事業者と対峙できる立場になる必要がある。このようにPFIは社会資本整備における改革であると同時に,地方自治体の役割を改革していく側面をもっているのである。 しかし,PFIが地方自治体に導入されていく過程は,良質な公共サービスを提供するというPFIの規範的目的が実現していったことを必ずしも意味したのではなかった。事態はむしろ,PFIに対して強力な批判がなされているのである。PFIが期待通りの成果を上げていないにもかかわらず,その導入に合わせて地方自治体の位置づけが変革されていく。これが地方自治体におけるPFIの実情であり,また,今後におけるPFIの活用に向けた取組みの出発点である。
著者
羽田 亨
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.294-310, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
7

地域を越えて汚染物質あるいは汚染源が移動して環境汚染による負の外部性が地域間で相互に及ぶ状況を想定する。このとき,各地域の地方政府に地方環境税の税率の自主決定権を与える完全な分権的環境税システムにおいて,汚染物質が越境移動するケースでは,最適な水準に比べて過小な水準に,汚染源が越境移動するケースでは,過大な水準に税率が設定されることにより非効率が発生する。また,全地域一律に均一税率を適用する中央集権的環境税システムも効率的ではない。各地域の地方政府が設定できる地方環境税の税率に上限および下限を設けて,その範囲内で自由な税率の選択を認める部分的な分権的環境税システムが,一定の条件のもとで中央集権的環境税システムおよび完全な分権的環境税システムに対して優位な制度であることを示す。
著者
土居 丈朗 別所 俊一郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.311-328, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
36
被引用文献数
4

地方債は,地方税,地方交付税交付金や国庫支出金とともに,国と地方の財政関係の一環として運営されている。地方債の元利償還金は地方交付税交付金額算出の基礎となる基準財政需要額の算定に影響を与え,地方交付税を通じた異時点間・地域間の所得再分配が明示的に行われている。本稿では,とくに地方交付税交付金を通じた元利償還金の補塡による財政移転に着目する。本稿の目的は,元利償還への補給の規模を明らかにするとともに,このような措置が地方政府の行動に与えた効果について計量的に分析することにある。そのために,これまで利用されることの少なかった基準財政需要の内訳のデータを用いた分析を行った。地方交付税交付金を通じた明示的な地方債の元利補給については,その規模が近年では交付税交付金の30%,公債費支出の40%をこえる規模に達していることが示された。また,このような元利補給が地方債発行を誘導していることが示唆された。
著者
宮﨑 毅
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.145-160, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
22
被引用文献数
3

市町村合併には規模の経済による歳出削減効果があると指摘されてきたが,日本では合併による1人当たり歳出削減効果の実証分析は少ない。本稿では,1990年代の市町村合併が1人当たり歳出の削減をもたらしたかを,全国市町村パネルデータを用いて分析した。次のような結果が得られた。第1に,合併後1人当たり歳出は増加するが,その後徐々に減少する。第2に,合併により1人当たり人件費は減少する。合併後平均給与は上昇するが,規模の経済により公務員数を削減できるためと考えられる。第3に,合併後1人当たり普通建設事業費は上昇するが,徐々に減少する。合併後に大型事業が始められるが,その後算定替期間の終了や財政の逼迫により縮小されるためと思われる。
著者
砂原 庸介
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.161-178, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
13
被引用文献数
3

本稿では,都道府県を対象として,地方政府における知事-議会関係と中央政府と地方政府の制度的な関係に注目しながら,地方政府が政策をどのような政治的要因によって決定しているかについて,その影響を計量的な手法で分析することを試みた。具体的な政策として開発政策(インフラ整備・農林水産)と再分配政策(教育・福祉)に焦点を当て,その支出水準に対して議会における保守・革新といった党派性,知事の支持基盤・経歴,知事の再選動機という3つの政治的要因がどのような効果をもたらしているかを検証する。本稿の分析から得られた主要な結論として,特に冷戦期を中心に政党の党派性が地方政府の政策決定に一定の影響を与えており,地方政府が自らの議会の選好に応じてある程度自律的な意思決定を行うことが可能であったこと,知事のような人的ルートを通じて中央政府の意向が地方政府の政策に反映される経路がありうることが示された。
著者
八塩 裕之
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.179-199, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
11

事業で得た収益は本来,労働や資本の対価にしたがって給与や配当などに分配されるべきである。しかし中小事業者の場合,この分配の決定(「所得分散行動」とよぶ)が節税動機によって大きく歪められていることが,欧米で指摘されてきた。一方日本でこうした中小事業者の所得分散行動と節税動機の関係を分析した研究は非常に少ない。本稿では個人自営業者の家族従業員(専従者)への給与分配による所得分散行動に注目し,節税動機がそうした行動に影響を与えていると考えられることを示す。そのうえで,こうした行動がもたらす経済学的な問題点について考察する。
著者
碇山 洋
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.163-176, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
6

高度経済成長期から形成されてきた公共事業依存型経済,公共投資偏重型財政も1990年代末から大きな転機を迎えている。公共事業縮減への転換のもっとも重要な契機は多くの論者が指摘するように財政危機であるが,本稿は,財政危機を実際の政策転換に媒介する他の諸契機を,資本蓄積,なかでも公共事業と最も直接的に関係する建設業の資本蓄積との関連で検討する。公共事業によって独特の蓄積パターンをたどってきた建設業の過剰蓄積がバブル崩壊後,膨大な不良資産・不良債権を生み出し,財政危機下での公共事業縮減の足かせとなる。そうした状況での公共事業縮減への転換を,日本企業の海外進出と分化,それらを反映した財界内部での公共事業政策をめぐる対立と決着をふまえて論じ,公共事業縮減の意義をしめす。
著者
田近 栄治 八塩 裕之
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.177-194, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
15
被引用文献数
2

アメリカでは税が個人事業者の事業形態選択に影響を及ぼしてきた。そこでは所得税と法人税の限界税率差が重要とされ,とくに1986年の所得税減税の効果は注目された。 一方,日本でも税と事業形態選択の問題は重要であったが,その原因はアメリカとは異なるものであったと考えられる。日本では個人形態と法人形態で適用される控除,具体的には給与所得控除の適用可否が異なることが重要であった。とくに1974年の控除引き上げは大きく,これが事業の法人化による節税を引き起こしたと考えられる。本稿では個人事業者のこうした節税行動を分析し,それを通じて日本の所得税の問題点を考察する。
著者
赤石 孝次
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.195-212, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
35

本稿は,福祉国家財政の一般消費税(general consumption tax)への依存が国際的に進む中で,日本の同税への依存が低位にとどまっている理由と帰結を,歴史的新制度論アプローチと社会契約論アプローチを結合することで明らかにしている。第1に,総税負担の増大と逆進的課税への依存が,政治制度構造とそれによって醸成された社会契約によって規定されたということである。日本では,単記非委譲式中選挙区制度(single non-transferable vote,以下,SNTVと記す)のもとで,雑多な利益集団の支持を得るために,自由民主党(自民党)はそれらの集団との間に一連の社会契約を取り決めてきた。しかし,このことによって政治エリートが短期的なコストを課すことが妨げられ,そのことが寛大な福祉国家建設と引替えに逆進的な税負担の増大を受容するという西欧的な租税政策の展開を不可能にした。第2に,日本的な制度的枠組みの中で重視された生産者重視の政策は,政府の再分配機能に対する国民の理解を矮小化させ,政府の役割に対する彼らの不信を定着させた。このことは,グローバル化と高齢化が進む中で,政府が福祉国家の財源として消費税の負担を引き上げることを困難にしている。