著者
喜田 智子
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.212-232, 2015 (Released:2021-10-26)
参考文献数
35

本稿は,EU地域政策基金の最大の受取国であったスペインに焦点を当て,EU地域政策の財政的な貢献とスペイン後進地域でのEU地域政策を確認し,さらに,スペイン後進地域が他の地域にキャッチアップをしたのか検証をおこなった。購買力平価からみた1人当たりGDP,失業率からみると,アンダルシア州およびガリシア州は,2000年以降他の地域にキャッチアップしたが,その経済成長は建設部門に依存したものであったことが確認できた。今後,両州でのEU地域政策は,インフラ整備に対する支援から当該地域の競争力を直接高めるような企業支援やR&Dへの支援へのシフトも求められる。
著者
宮下 量久 鷲見 英司
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.170-186, 2016 (Released:2021-08-28)
参考文献数
14

本稿では地方公共サービス水準データを独自に作成して,合併算定替が合併自治体の効率性に与えた影響をパネル・データから検証した。合併算定替は合併を推進した財政支援措置のひとつであるが,合併後の財政運営が合併算定替から受けた影響についてはこれまで十分に検証されてこなかった。分析の結果,普通交付税や合併算定替が合併自治体の経常経費の非効率性に正の有意な影響を及ぼしていた。特に,合併算定替は普通交付税よりも合併自治体の非効率性を助長していた。また,合併自治体は合併後年数を経るごとに効率的な財政運営に努めることが期待されるが,本稿の推定では合併自治体が合併後経過年数に関係なく,合併算定替の影響で非効率な財政運営に陥っていることが明らかとなった。
著者
小川 顕正
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.187-204, 2016 (Released:2021-08-28)
参考文献数
17

近年,多くの自治体で行政評価が導入されてきたが,これまでの評価手法は個別分野ごとの評価を寄せ集めたものに過ぎなかったため,抜本的な歳出改革を促すには至らなかった。そこで本稿は,予算制約下における各政策への最適な歳出配分割合を定量的に示すとともに,これと実際の歳出配分割合を比較して,神奈川県川崎市における2008年から12年までの歳出配分の効率性を評価した。なお,最適な歳出配分割合を導出するにあたって各政策の住民効用への寄与度(効用ウェイト)を階層化意思決定法(AHP)によって推定したが,この手法を用いて歳出配分を評価したのは本稿が初めてである。分析の結果,民生財や土木財の供給における最適歳出配分割合との乖離とともに,国の行動が自治体の歳出配分行動に影響を与えうることなども示唆された。いずれにせよ,本稿における手法を用いることにより,一律削減などではなく住民の選好に基づいた定量的な歳出改革議論が可能となる。
著者
五嶋 陽子
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.116-142, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
20

インドの支出税の失敗はカルドア勧告と支出税法との乖離によってもたらされたという先行研究を踏まえて,その乖離を生じさせたのは何かについて考察した。そこで明らかになったことは,支出税法の立法化を通じて第1に,累進付加税の代替税としての役割を全面的に押し出す動き(所得とのリンクの設定)と抑制する動き(直接税控除の設置)という相矛盾する規定が取り込まれたことである。第2に,総人口の約8割がヒンドゥー教徒で構成されるインドにおいて,ヒンドゥー未分割家族が消費の単位としてのみならず家族事業体という生産の単位でもあり,先祖継承財産の運営管理を行う単位であり,ヒンドゥー教に基づく結婚の儀式を行う主体であったことから,基礎控除,両親の扶養費控除,結婚披露費用控除を認めざるをえなかった。この乖離は建国後の国民統合を国家目標とする流れおよびヒンドゥー未分割家族の税制上の史的取扱いと合致するものであった。
著者
倉地 真太郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.143-162, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
33

本稿の目的は,北欧諸国の税制改革に及ぼす北欧協力関係の影響を明らかにすることである。1980年代後半以降,北欧以外の先進諸国が包括的所得税を追求するなか,北欧諸国は二元的所得税を連鎖的に導入していった。二元的所得税は経済のグローバル化に対抗する所得税類型であるといわれている。したがって,この課税方式の波及プロセスの分析は,高い所得税収を有する北欧諸国税制がどのようにして共通する特徴を持ったのかを明らかにすると考えられる。そこで本稿では北欧諸国の協力関係に着目しながら,デンマークとスウェーデン間で二元的所得税が波及するプロセスを分析した。その結果,二元的所得税の波及には,北欧諸国の政策担当者や専門家が制度を相互参照したことが影響を及ぼしていたことが分かった。
著者
川出 真清 石川 達哉
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.181-198, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
16

一般政府や中央政府の政策スタンスを評価する目的で利用されることの多い構造的財政収支は,地域ごとの成長率・人口構成等の多様化と分権の進展が今後見込まれる地方財政においても,その利用が拡大する可能性がある。本稿の目的は,構造的財政収支の作成に不可欠で,国・地方問わず注目される税収弾性値を都道府県別に推計・比較することである。具体的には,道府県税のうち税収ウェイトの高い個人住民税と地方法人2税(法人住民税・法人事業税)について都道府県別弾性値を推計するとともに,地方消費税についても先験的に1と仮定することはせず,全都道府県共通の推定値を得た。推定に際しては,マクロの課税ベースが分配面で相互に制約を受けることに注意を払った簡便かつ標準的な手法として,OECD等によって現在も国際的に利用されている枠組みを日本の地方政府に適用できるように拡張した。税目ごとの推計結果に基づいて税収全体の弾性値を求めると,都道府県による若干の差異はあるものの,平柊値は1.08(2006年以前)および0.95(2007年以降)となり,一般政府および中央政府を対象とする既存研究の税収弾性値に近い値を得ている。
著者
赤井 伸郎 倉本 宜史
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.199-223, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
11

本稿は,将来の港湾の整備・運営の在り方を考えるうえで欠かせない視点として,港湾連携の実態を把握するため,これまでになされた港湾投資のパネル・データから,港湾間競争とも言える国内の港湾同士の相互依存関係の実態を検証するものである。また本稿は,現状把握や分析の工夫により,これまで行われてきた港湾政策を,港湾間の競争の観点(国内の港湾同士の相互依存関係)から,その実態を明らかにする点で意義が高いと言えよう。分析の結果,港湾間で競争がなされてきたこと,また,その競争に影響をもたらす参照先や港湾規模によっては,競争の程度が異なることも見出された。国内の港湾間に競争が存在するという,この結果は,連携の必要性を示唆しており,連携に向けては,港湾間の相互参照先を考慮したうえで,補助政策を含めた,より一層の国家戦略が必要であることを示唆していると言えよう。
著者
山口 隆太郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.259-281, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
57

現代の日本において,自己決定権を失った地方行財政制度は地方自治の阻害をもたらしている。なぜ今日このような制度を持つにいたったのかについて,本稿では財政調整制度の形成過程の分析を通じて明らかにする端緒として,財政調整制度の「萌芽」とされてきた義務教育費国庫負担制度の1918年における成立と1923年の改正の過程を分析した。1908年の義務教育年限の延長により重くなっていた町村の教育費負担は,義務教育費国庫負担の要求をもたらしたが,1918年の制度成立は「教育の改善」が,1923年の改正は「軍縮」が,それぞれ主な要因となった。それは制度形成に関わった各政治的主体が,「官治的」な地主制地方支配の維持のために,中央と地方の行財政制度の再編を意図したものではなかった。また自己決定権の喪失をもたらすような,人々の「平等志向」が存在したわけでもなかった。
著者
別所 俊一郎 宮本 由紀
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.251-267, 2012 (Released:2022-07-15)
参考文献数
33

日本では所得再分配政策に地方政府の果たす役割は大きく,そのために所得再分配の程度に地域的な差異がみられる。本稿では,妊産婦定期健康診査(妊婦健診)を取り上げ,日本の市町村データを用いて妊婦1人当たり助成額の地域差を指摘する。また,助成額が同一都道府県内の市町村と正の相関をもつことを統計的に示す。他方で,地理的に近くにあっても同一都道府県内にない市町村とはほとんど相関しないことから,正の相関は,市町村が同一都道府県内の市町村の行動を参照したヤードスティック競争や横並び行動の結果であると考えられる。
著者
桒田 但馬
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.268-289, 2012 (Released:2022-07-15)
参考文献数
24

本稿の目的は岩手県旧沢内村における「生命行財政」を主な対象にし,その歴史的な考察を通して過疎地域からみた公的医療の問題を明らかにし,その政策課題を提起することである。その意義は総務省「公立病院改革ガイドライン」が重視していない側面に光を当てる点にある。 本稿では,①1980年代なかば以前の「生命行政」に対象を限定し,積極的な評価だけを与えてきた先行研究の不十分さをカバーした。②農村地域医療研究で不十分な自治体財政,公立病院経営の側面に焦点を当て,構造的な問題を明らかにした。③農村地域医療の理論構築および議論展開の出発点として,公的医療・病院経営理念,保健行財政などを問い直した。 この旧沢内村の理念と実践は,公的医療の成果として住民参加・自治にもとづく「生命行財政」のモデルとされ,全国の過疎地医療に大きな影響を与えた。しかし,1980年代なかば以降は沢内方式が変質していく。それは国の(地方)行財政構造改革や医療制度改革などが主な要因になっている。公的医療の中・長期的な課題としては,沢内方式の現代的な再構築があげられる。
著者
朴 寶美
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.211-226, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
24

勤労貧困層の所得支援と勤労意欲の向上のため2006年度に導入された韓国の勤労奨励税制は,12年現在,支給開始から4年が経過した。12年度改革は,特に所得基準額と最大受給額の拡大はもちろん,扶養子どもの人数などによる最大受給額が異なるようになるなど,最も大きな改革である。勤労奨励税制はその構造設計によって受給対象者と彼らの行動パターンが変化すると思われる。本稿は,このような勤労奨励税制の改革がどの程度の所得再分配効果をもたらすのかを,受給による労働時間の変化を考慮した検証を行っている。その結果,Phase-out区間で労働時間が減少する世帯が多かったものの全体的に労働供給が増え,労働供給を内生化すると更なる格差縮小効果が見られた。しかし,その幅は小さく,また給与所得額や扶養子どもの人数により労働供給の動きが異なるため,所得階級と子ども数ごとの格差縮小効果は全体的に見たときと異なる結果が得られる可能性も考えられる。
著者
竹本 亨
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.227-247, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
9

本稿は,ロシアの財政調整制度である「Федеральный фонд финансовой поддерЖки субъектов Российской Федерации(連邦構成主体財政支援連邦基金)」と同様のシステムを地方交付税制度に導入した場合をシミュレーションし,都道府県間の財政格差について現状の地方交付税制度と比較した。その結果,1人当たり歳入を指標とした場合にはその格差がより小さくなることがわかった。さらに,使用されている公共サービスの要素価格の相対的な指標を,基準財政需要額を基に本稿で作成した指標に置き換えることで,地方交付税と非常に近い配分額となることがわかった。
著者
前川 聡子
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.267-282, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
32

本稿では,研究開発支援政策として,試験研究費に係る税額控除拡大と法人税率引き下げのどちらの方が効果的なのかについて,1980~2009年の資本金階級別のデータを用いて実証分析を行った。その結果,税額控除は期待されるような効果を持たず,税率引き下げの方が研究開発増加に対して有意に影響を及ぼすことが明らかとなった。ただし,資本金100億円以上の巨大企業については,税率も税額控除も研究開発費に対して有意な影響を与えず,むしろ負債比率が研究開発に有意な影響を持っていることが示唆された。
著者
八塩 裕之
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.283-301, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
10

近年,人口の高齢化により勤労所得から公的年金給付への所得の代替が進んでいる。年金給付の増加は大きく,勤労所得の減少のかなりの部分を賄うが,公的年金等控除の影響などで年金の多くは課税ベースから除かれるため,やはり課税ベースは縮小してしまう。しかし,こうした税制を維持したままでは,今後個人住民税の課税ベース縮小がとどまることなく進む可能性がある。その結果,さらなる税収ロスとともに,地方自治体間の税収調達力格差の拡大が懸念される。こうした問題意識をもとに,本稿では経済低迷による勤労所得減少や税制改革の効果をコントロールしつつ,高齢化が個人住民税の課税ベースに及ぼす影響について計量分析を行う。そのうえで,日本の税制の問題点を検討する。
著者
中村 悦広 中東 雅樹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.302-319, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
17

本稿では,近年削減の方向で進められてきた社会資本整備が,三大都市圏において地域経済や地域住民の経済厚生にいかなる影響を及ぼしてきたかを分析する。具体的には,首都圏,名古屋圏,関西圏を対象に,市町村別・分野別の社会資本ストックデータを構築したうえで,Roback(1982)の理論モデルに基づいて,1995年度と2005年度の2時点の市町村クロスセクション・データによる社会資本の経済効果をふまえた都市圏の公共投資のあり方を検討した。本稿の分析から得られた主な結論として,道路や都市公園といった生活基盤型社会資本は,すべての圏域で生産力効果と厚生効果があることが示された。他方で,名古屋圏と関西圏で,経済効率的に配置されていない社会資本が存在し,とくに関西圏は,そうした社会資本が多く存在することが明らかになった。
著者
大野 太郎 小林 航
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.176-190, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
14

本稿では地方債充当率に着目し,市町村データ(推定期間:1998~2008年度)を用いて充当率(実績値)の決定要因を探るとともに,地方公共団体が地方債充当率の上限規制から影響を受けているのか否かについて実証分析を行った。検証の結果,当期の経常歳入が充当率(実績値)に対して負に寄与していること,また足下の充当率(実績値)が高い市町村は上限規制が起債の制約になっていることも示された。
著者
須原 三樹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.191-208, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
26

地方公共団体の財政悪化に伴い運営予算の縮減が続き,指定管理者制度等の市場原理が導入される中で,公立美術館にも効率的な運営が求められている。本稿では,全国の都道府県立美術館に焦点を当て,計量経済学モデルを用いて施設運営の効率性を実証分析する。そして,美術館外部の要因(環境・行政要因)と,内部の要因(運営・事業要因)の両視点から技術的効率性の要因分析を行う。 確率的フロンティア生産関数の推定の結果,都道府県立美術館の運営には非効率性が存在することが統計的に有意に認められ,技術的効率値の平均値は0.64となった。技術的効率性の要因分析の結果,市街地から当該美術館までのアクセスの良さや,特別展や教育普及プログラムの充実,展覧会における共催展の割合が技術的効率性に有意に正の影響を与えることが示された。
著者
鈴木 将覚
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.209-229, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
13

アジア諸国への資本逃避の懸念が広く共有されている一方で,アジア諸国の法人実効税率の比較が行われることは少ない。本稿では,シンガポール,タイ,中国,韓国という法人税制の特徴が異なるアジア4ヵ国を対象に,EATRとEMTRの時系列的な変化を計算し,日本との比較を行った。その結果,①シンガポールとタイは,日本よりもEATR,EMTRともにはるかに低く,②日本と韓国のEATRの差は12%,中国と日本の差は7%であり,③日本と中国のEMTRがほぼ同じ水準にあることがわかった(機械設備の標準ケース)。こうした分析は,日本の法人税改革の当面の目的がEATRを5~10%引き下げて立地インセンティブを与えることであることを示唆する。また,タックスホリデーを用いた分析では,中国を除く国では免税期間が短い場合に実効税率が逆に上昇するとの興味深い結果が得られた。
著者
佐藤 一光
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.230-249, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
24
被引用文献数
1

環境問題の深刻化と環境意識の高まりによって,欧州諸国で次々に環境税が導入されてきた。そこでの重要な概念は,環境税による環境改善と環境税収によって既存の歪みをもたらしている税率を引き下げることによって社会厚生をさらに高めるという二重の配当論であった。二重の配当の可能性について,理論的・実証的研究がなされてきたが,必ずしも十分に財政学的考察がなされてきたわけではなかった。本稿ではドイツのエコロジー税制改革を題材とし,政治過程分析と制度分析を組み合わせることで,環境税と二重の配当論の財政学的な考察を試みた。本稿の分析によって,ドイツにおける公的年金制度の構造によって受益の不均衡が生じ,軽減税率の導入によってその是正を図ったことが明らかになった。このような軽減税率の導入は租税原則上も,環境税と二重の配当の理論上も,望ましいものではなかったが,軽減税率の導入を肯定的に評価する可能性も示された。
著者
柏木 恵
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.250-271, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
36

本稿の目的は,英国ブレア労働党政権の医療改革がNHS財政にどのような影響を与えたかについて,健全性・公平性の観点から検証することにある。先進諸国は福祉国家として財政を維持するのが難しくなってきており,医療政策は重要課題であることと,橋本・小泉政権は英国保守党政権を参考にした部分が多く,ブレア政権をみることで,これからの日本がみえるのではないかと考えるからである。英国は2003年度に医療費を拡大したが,2004年度から赤字に転落し,2006年度にV字回復した。その原因は人件費の増大と予算配分の変更である。政権公約のうち職員増については目標以上に達成しており,これが財政赤字の原因でもあった。しかし一方で,医療費拡大で1人当たりの医療水準が上がり,低所得者が受けられる医療範囲が増え,公平性を高めていた。保守党政権は現金給付に力を入れていたが,ブレア政権は医療を含めた現物給付に力を入れていたことも明らかとなった。