著者
佐藤 一光
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.155-175, 2012 (Released:2022-07-15)
参考文献数
25

本稿はドイツの「エコロジー税制改革の更なる発展に関する法律」の特徴を明らかにし,その成立過程を分析することで環境税と二重の配当を租税論的に再検討するものである。第2次シュレーダー政権のもと成立した同法の特徴は,①環境政策上有害な租税支出を縮小し,②エネルギー源別の税率を調整し,③租税負担のキャップにエネルギー利用削減のインセンティブを付与するという,エコ税のグリーン化ともいうべきものであった。その一方で,④二重の配当による失業の減少を目指さずに財政健全化の財源として位置づけられた。このことは,第1次シュレーダー政権の雇用政策と租税政策が景気後退期において失敗し,失業と財政赤字が拡大するという文脈の中で理解されうる。租税論的知見として,①費用効率性ではなく原因者原則と充分性による環境税の理解,②雇用政策に租税政策を活用することの困難性が示唆された。
著者
篠田 剛
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.176-198, 2012 (Released:2022-07-15)
参考文献数
35

現在,カナダの消費課税システムは,1991年に連邦付加価値税である財・サービス税(GST)が導入されて以来,小売売上税である州売上税(PST),付加価値税であるケベック売上税(QST),協調売上税(HST)が併存しているが,このような複雑な制度がなぜ生じたのかについては十分に明らかにされてこなかった。本稿では,州レベルの付加価値税でありながら高い課税自主権を保持するQSTの導入がいかにして可能であったのかを,各主体の利害関係を中心に政治過程・経済過程両面の分析を通じて明らかにする。本稿の分析によって,QSTは,対米輸出促進というケベック州と連邦政府の利害の一致と,連邦政府による戦略的妥協の産物であったことが示され,地方消費課税における税制調和と課税自主権のトレードオフの1つの解決形態としてのQSTの性格が示唆される。
著者
李 森
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.199-215, 2012 (Released:2022-07-15)
参考文献数
27

年金制度の財政危機をどう乗り越えるか。これは年金制度を安定的に維持していくうえで欠かせない研究課題である。急速に進展する人口高齢化社会のもとで,将来の年金財政を維持するためには,年金制度の再検討と改革が必要となる。 本稿では,中国の各地域(省)別の年金財政の現状分析にあたって,年金制度のカバー率と省レベルの社会プール化の限界点および年金財政の持続可能性などの視点から,中国の現行年金制度の問題点を取り上げ,さらに現行制度の改革の必要性について議論する。
著者
田中 宏樹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.234-250, 2012 (Released:2022-07-15)
参考文献数
26

本稿は,2000年代に進んだ公教育の分権化が,教育行政をめぐる自律性を志向した首長の政治的支持の上昇に結びついているかを,理論モデルから導かれる回帰式を推定することで実証的に解明する。より具体的には,都道府県別プール・データを用いて,2000年代中盤に進んだ義務教育費国庫負担金の総額裁量制への移行が,知事選での業績投票的な意味合いを強める方向に作用し,都道府県レベルでのElectoral Accountabilityの上昇に寄与したか否かを,実証的に解明することに力点を置く。実証分析の結果,公教育サービスの水準やその提供に要した財政措置は,有権者による知事の業績判断の材料となって,その政治的支持・不支持の決定に結びついているという理論の帰結が支持された。
著者
林田 吉恵 上村 敏之
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.131-148, 2010 (Released:2022-07-15)
参考文献数
15

本稿では,投資家である家計の税制と法人所得税が企業の設備投資に与える影響を分析する。そのため,設備投資の資金調達手段の違いを考慮した個別企業ごとの租税調整済み資本コストと限界実効税率を計測して投資関数を推計し,投資率に対する法人実効税率の弾力性を求めた。本稿は,これらの分析結果の分布の推移に注目する。 限界実効税率の平均は1970年代から90年代にかけて高く推移し,その後に低下する。その分布は,1970年代から90年代にかけて広がりを見せるが,2000年代になれば小さくなる。投資関数の資本コストの係数は,1970年代から90年代まではさほど変わらないが,2000年代は小さくなる。1970年代と80年代の限界実効税率の投資率に対する弾力性の値は大きいが,90年代から2000年代に入ると低下する。 本稿の分析により,過去の法人所得税の限界実効税率は設備投資に対して影響力を持っていたが,2000年代に入り,影響力は小さくなったことが指摘できた。
著者
別所 俊一郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.149-169, 2010 (Released:2022-07-15)
参考文献数
25

本稿では,日本の労働所得税を対象に,就業構造基本調査の個票データを用いて最適な線形所得税(flat tax)の形状を独身世帯に対して推計する。また,同様の手法を負の所得税(NIT: negative income tax)にも応用する。働き盛りの単身世帯を対象として推計したところ,現行税制と比べて高所得者層に減税となるようなものも,増税となるようなものも,社会的な不平等回避度如何によって正当化されうる。ただし,いずれの結果においても最も所得の低い階層には減税することが望ましい。また,社会厚生の評価は,最適な線形所得税が現行の累進所得税よりも高いとの結果も得た。
著者
大野 太郎 小林 航
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.170-189, 2010 (Released:2022-07-15)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本稿では地方債充当率に着目し,その決定要因に関する理論分析と,都道府県データを用いた実証分析を行う。考察と検証の結果,実証的に最も支持される点として,当期の経常歳入が充当率に対して負に寄与しており,財政力の高い地域ほど充当率が低いことが示される。また,地方債充当率には上限規制が存在するが,実証分析の結果,少なくとも本稿の推定期間内においては,それが大きな制約にはなっていないことも示唆される。
著者
小西 杏奈
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.208-231, 2010 (Released:2022-07-15)
参考文献数
56

フランスでは,第2次世界大戦後も総合累進所得税と分類所得税から成る二重の所得税制が継続し,1959年の税制改革でようやく二重の所得税制が統一され,単一の総合累進所得税制が導入されることとなった。本稿では,この所得税制改革の分析を通じて,フランスで単一の総合累進所得税制が導入される過程と本改革の特質を明らかにする。1959年改革時に,内外の経済政治状況の変化に直面していたフランスでは,労働所得への軽課という伝統的な租税原則の根拠が希薄化し,この原則を担保していた分類所得税制の見直しが要求された。そして,財政担当大臣のイニシアティブにより,分類所得税制は廃止され,単一総合累進所得税制の創設が決定されたのだが,従来の租税原則が当時の政権のディスインフレ政策と結びついて影響力を持ったため,改革のインパクトは限定され,労働所得への軽課という特質は残存した。
著者
川崎 一泰
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.107-122, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
12

わが国の地域間の人口移動は,地域間所得格差の縮小に伴い収束に向かいつつある。こうした現象に対して,Barro and Sala-i-Martin(1992)をはじめとした実証研究がすすめられ,人口移動の収束が限界生産性の均等化によるものかが論点となっている。この論争の中で,持田(2004)では,人口などの生産要素の移動は,限界生産性に加え,財政余剰も影響を及ぼしていることを指摘している。本稿では,生産要素の流動化を通じた労働力及び資本の最適配分を推計し,近年の人口移動の収束が地域間格差縮小によるものか否かを判定するとともに,その際に財政を通じてなされた地域間再分配の影響を明らかにする。 実証分析を進めた結果,わが国の人口移動の収束は,地域間所得格差の縮小によるものではなく,限界生産性の地域間格差を相殺するように財政余剰の格差が生じているためであることが明らかになった。財政を通じた再分配は,地域間所得格差を縮小することはできたが,生産性の差を縮小することはできなかった。つまり本稿は,財政の再分配には所得格差を縮小する代わりに,地域の自立的発展を阻害する側面があることを明らかにした。
著者
近藤 春生
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.123-139, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
23

本稿の目的は,わが国における国ないしは地方政府の公的支出が地域経済(生産量,雇用,民間需要)にどのような影響を与えているかを,地域レベルのデータを用いた実証分析により明らかにしようとするものである。財政政策の効果について,ベクトル自己回帰(VAR)モデルを用いて分析した結果,以下の3点が明らかにされた。①公共投資が生産量や雇用を高める効果は認められるものの,政府消費の効果は低いこと,②1990年代以降,公的支出の民間需要,生産量に与える効果は大幅に低下していること,③公的支出の経済効果を地域別に見ると,都市圏において高く,非都市圏において低いことである。この結果から判断する限り,公共投資政策をはじめとする,公的支出が地域経済に及ぼす効果は限定的であり,地域経済の活性化を意図して,裁量的な財政政策を行うことには限界があるといえる。
著者
林 亮輔
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.140-159, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
26

わが国の公共投資政策は,その時々の経済情勢に応じて,地域間・分野間での公共投資の配分を大きく変化させてきた。本稿は,戦後の公共投資政策を総合的に評価することを目的とし,①景気低迷など需要サイドの影響を取り除いた「潜在厚生水準」を推計し,②生活関連型社会資本の直接的な厚生効果と,産業基盤型社会資本の間接的な厚生効果をとらえることで,公共投資が地域の厚生水準に及ぼした影響を検証した。 その結果,①公共投資政策は地域間の厚生水準格差を縮小する方向で作用していたこと,②都市圏では生活関連型社会資本,地方圏では産業基盤型社会資本への公共投資が,厚生水準の上昇に大きく寄与していることが明らかになった。 これらの検証結果は,今後,公共投資という政策手段を講じて地域間の厚生水準を上昇させるとするならば,それぞれの地域の厚生水準を最も高めうる社会資本への公共投資を重点的に行うことが重要であることを示唆している。
著者
小林 庸平 林 正義
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.160-175, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
9

本稿では一般財源化と高齢化が就学援助に与える影響について検証を行う。就学援助の認定基準や給付内容の決定は市町村に委ねられているが,2004年度までは国庫補助が行われており,国の補助条件が一定の基準を提供していた。しかし,2005年度に準要保護者への就学援助に対する国庫補助が一般財源化され,就学援助が地方の財政状況に左右されやすくなったと考えられる。また,高齢化については先行研究が示すように,高齢者が多数を占めることを意味するから,高齢化は子ども向けの支出を減少させる可能性がある。本稿では,新入学児童・生徒1人当たり年間援助額や就学援助率,準要保護率については,財政力の多寡が就学援助に影響を与え,とりわけ,新入学児童・生徒1人当たり年間援助額については一般財源化後に財政状況が与える影響が増大したことが示される。さらに高齢化の進展は新入学児童・生徒1人当たり年間援助額や就学援助受給率を減少させることが示される。
著者
平敷 卓
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.335-353, 2009 (Released:2022-07-15)
参考文献数
9

本稿では,近年の沖縄県市町村財政において,国庫補助負担金改革,公共事業削減の過程で生じつつある財政格差の様相を国庫支出金の交付状況,特に公共事業に係る市町村の普通建設事業費支出金及び歳出面での普通建設事業費の動向から明らかにする。 そして,本分析を通じて,1990年代後半以降の基地移設関連に伴う財政措置は沖縄県北部市町村への普通建設事業費支出金の配分を高める一方で,離島市町村との格差を拡大させつつ展開したことを明らかにする。また2000年度以降,比較的財源に余裕がある基地所在市町村においても,普通建設事業費への国費充当率を一層高めており,基地政策関連の財政措置への依存を深めている。このことは従来,補償的な意味を持つ自治体への基地関連支出が,基地所在市町村において財源保障的な意味を強めつつあること示唆している。そして,県内市町村間の格差の主要因となっていることを明らかにする。
著者
後藤 和子
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.354-371, 2009 (Released:2022-07-15)
参考文献数
19

本稿は,日本では殆ど研究されたことのない文化税制に関して,その範囲を定め,理論的根拠とそのインパクトについて検討したものである。1980年代以降,文化税制が顕著な発展傾向を見せていることは,2008年1月の海外調査によっても明らかである。かかる調査を踏まえ,環境税における政策課税の議論や,アメリカ,オランダ等の理論研究を踏まえ,政策課税としての文化税制の理論的根拠とインパクトに関して検討する。それは,公共政策における公私分担の変化や,租税支出による社会保障支出の増加という流れの中で,文化政策における租税支出や目的税の,今日的意義を明らかにしようとする試みでもある。
著者
金坂 成通 宮下 量久 赤井 伸郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.118-130, 2010 (Released:2022-07-15)
参考文献数
19

わが国の地方分権改革でしばしば議論の対象となる国から地方への税源移譲に関して,その具体的方法を検討するために,垂直的租税外部効果が経済成長に与える影響について実証分析を行った。 推定結果から,垂直的租税外部効果は,経済成長の障害となっていることが示された。また,課税の裁量性に着目し,課税自主権を考慮した指標を用いた結果においても,垂直的租税外部効果は,経済成長を阻害することが確認された。これまで先行研究において,課税自主権の影響が示されていなかったが,本研究において,租税外部効果を通じた影響が新たに明らかとなった。 今後の地方分権に関する税財政論議でも,国から地方への税源移譲を実現するにあたって,民間の経済活動を妨げないように,課税ベースや税率選択において国と地方で過度の重複を避ける工夫が必要といえる。
著者
江口 允崇 平賀 一希
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.141-156, 2009 (Released:2022-07-15)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本稿では,政府消費,公共投資,政府雇用のそれぞれが,経済に与える影響の違いについて分析する。そのために,政府支出の項目を政府消費,公共投資,政府雇用の3つに分けた動学的一般均衡モデルによるカリブレーション分析を行うとともに,そこで得られたインパルス・レスポンスを,1969年から2008年までの日本のデータを使ったVARモデルのインパルス・レスポンスと比較した。 カリブレーション分析とVAR分析の結果は概ね整合的であり,次のような結果が得られた。第1に,公共投資は,消費と投資に対してプラスの効果を持つ。第2に,政府消費は,消費に対してはマイナス効果を持つ一方で,投資に対してはプラスの効果を持つ。第3に,政府雇用は,消費と投資に対してともにマイナスの効果を持つ。これにより,政府支出の増大による景気対策,または政府支出の削減による財政再建は,その内容によってまるで違う効果が現れてしまうことが示された。
著者
中本 淳
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.157-172, 2009 (Released:2022-07-15)
参考文献数
19

我が国の公共事業関係費は,財政再建の過程で大きく削減されてきた。本稿では,動学的一般均衡モデルを構築し,公共投資削減のマクロ経済効果および最適水準について考察した。また,モデルの中に人口動態の変化を取り入れることで,少子高齢化の進展が,これらの結果にどのような影響を与えるかについても考察した。 先行研究を参考にパラメーターを設定して数値計算を行った結果,公的資本投資の削減は,社会厚生を約1%減少させる。また,少子高齢化の進展を考慮に入れて同様の計算をすると,社会厚生の減少は約2%となった。すなわち,少子高齢化の進展を考えると,余力のあるうちに貯蓄・投資をしておくことがより望ましい。また,少子高齢化がマクロ経済に与える影響としては,少子化による1人当たり資本装備率の上昇よりも,高齢化による相対的な消費者人口の増大の効果が大きく,このことから高齢者を労働市場に参加させる仕組みの構築が必要であろう。
著者
松岡 秀明
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.173-183, 2009 (Released:2022-07-15)
参考文献数
8

本稿では,近年政府による所得税収の見積もりが不確実になっている背景を政府経済見通し,税収予算,決算を用いて分析した。個人所得に占める配当の割合が高まっており,企業収益の影響が家計所得に影響しやすくなっている。このため,所得税収も変動の大きな企業収益の影響を受け不安定になっている。その上,政府経済見通しに注目すると,配当を含む財産所得の予測誤差が大きく,配当などの予測は難しい。政府は予測精度を改善させ大きな予算割れを防ぐために,「人々の税の納め方が変わってくるにつれて,どういった統計を作ればよいのか」ということを年頭に置かなければならない。GDP統計では英国,米国に比べて課税ベースである分配面の情報が不足している。社会保障財源をどのように確保していくのかが課題となっている今,税収見通しの不確実性を認識する必要がある。