著者
黒田 清子 伊野 義博 権藤 敦子
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.25-36, 2017 (Released:2018-08-31)
参考文献数
20

本稿では, ブータンの掛け合い歌に見られる双方向性に注目し, フィールドワークによって得られた記述をフィードバックの観点から分析し, 教科内容としての学校教育における「歌うこと」を音楽文化の視点から再考することを目的とする。とくに, 歌唱領域において育むことのできる資質・能力についての考察を行う。ブータンの学校におけるツァンモ大会では, 臨機応変に, メタファーを活用し, 定型に歌詞を整え, 旋律を選択し, 演劇的なパフォーマンスで表現するなかで, 口頭性, 即興性, 応答性を活かした音楽表現が行われている。音楽文化をより広く捉えることによって, 教科内容としての歌う活動はより多様なものとなる。自らの思いを即興的に掛け合う行動や, すでにレパートリーとしてもっている旋律を借りて伝えたいことを表現する行動は, さまざまな文化に広く見られる。そこには, これまで学校教育で重視してきた表現力とは異なる可能性が存在する。
著者
須田 珠生
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.1-12, 2016 (Released:2018-03-31)
参考文献数
18

本稿では, 『東京音楽学校作曲委託関係書類』を主な史料として, なぜ学校はその学校固有の歌である校歌を作るようになったのかを明らかにした。『東京音楽学校作曲委託関係書類』とは, 東京音楽学校と同校に校歌の作成を委託した学校との間でやりとりされた往復文書の綴りである。東京音楽学校には, 1907 (明治40) 年から1945 (昭和20) までに計456件の校歌の作成委託がなされている。校歌の作成は法令によって義務付けられてはおらず, 作成には資金が必要であったにもかかわらず, 学校は校歌を作るようになった。とりわけ1930年以降には, 東京音楽学校への校歌委託件数が急増する。学校は, 同校へ校歌作成を依託することで「優れた校歌」を手に入れ, 自校の校訓や理念を盛り込んだ校歌を, 式典や儀式の際に学校外部者に向けて披露した。校歌は, 周囲の環境や徳目を児童生徒のあるべき姿と結び付けることで自校の理念を体現し, 独自性を打ち出す手段だったのである。

2 0 0 0 OA 幼児と音楽

著者
神原 雅之
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.40-47, 2014 (Released:2017-03-31)
参考文献数
67
著者
水野 伸子
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.13-24, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
23

本研究は, 生演奏とDVD再生演奏という異なる演奏形態に対する聴取者の集団的手拍子反応の違いを, 主として打拍率, 打拍同期度の観点から検討した。実験曲は《きらきら星変奏曲ハ長調k. 265》 (モーツァルト作曲) のピアノ演奏である。手拍子情報は, 先行研究 (安藤ほか 2014) で開発してきた音楽リズム反応記録装置を用いて時系列的に計測し, 記録した。装置に入力されたすべての情報から4分音符レベルの手拍子を抽出して解析した。その結果, 生演奏群における聴取者集団の打拍同期度はDVD再生演奏群より高く, 生演奏群の方が手拍子のタイミングはよく揃うことがわかった。打拍率の推移をフーリエ級数展開した結果, 第12変奏において生演奏群からのみ3拍周期を示すスペクトルが顕著に認められた。生演奏群は手拍子の拍節構造を階層的に変化させて2拍子から3拍子への拍子の変化を知覚していることが示唆された。
著者
小野 亮祐
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.25-26, 2011 (Released:2017-08-08)
著者
菅 裕
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.13-24, 2009 (Released:2017-08-08)
参考文献数
17

本研究の目的は, 経験年数の異なる吹奏楽指導者の演奏診断および演奏指導の方法, さらにその背後にある指導観の違いについて分析することにより, 演奏指導力の熟達化を特徴づける要因について考察することにある。中学生による吹奏楽合奏VTR視聴中の各指導者の内言発話および各指導者自身による合奏指導の内容のカテゴリー分析とPAC分析に基づくインタビューの結果, 経験年数が比較的短い4名の指導者が「正確な演奏の追求」を重視しているのに対し, 経験年数の最も長い指導者は, 楽曲構造についての演奏者の総合的な音楽理解を促進し, それに基づく自発的・積極的表現姿勢を引き出すことを重視していた。また経験年数が比較的短い指導者の中心的指導方法が「指示」であるのに対し, 経験年数の長い指導者の場合は「指示」の割合が相対的に低くなり「モデリング」「理論的説明」「メタファー」「質問」の使用頻度が高かった。
著者
高須 一 福井 一 森下 修次
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.89-94, 2013 (Released:2017-03-31)
参考文献数
3
被引用文献数
3
著者
嶋田 由美
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-12, 2009

<p> 本稿は, 1900年前後に作られた唱歌の基本拍内同音反復のリズムを持つ特徴, いわゆる「唱歌調」の構造的特殊性と, それを生み出すに至った教育的背景について明らかにするものである。</p><p> 1882年発刊の『新体詩抄』で提唱された七五調による詩形は, その後の唱歌歌詞の基本構造となり, この七五調を唱えることから, 次第に今日「唱歌調」と言われる同音反復のリズムを持つ楽曲構造が生み出された。この背景には, 1890年の「教育勅語」渙発以降, 教育内容が徳育に特化され, 七五調の唱歌歌詞にもさまざまな徳目が詠い込まれる必要性があったこと, そして唱歌が地理や歴史等の他教科教育の補助的手段となり, 他教科の教育内容を歌詞に持つ唱歌を教授することによって, 唱歌科としての位置づけを得ようとしたことが挙げられる。即ち, この期の「唱歌調」と言われる唱歌は, 基本拍内同音反復のリズムに七五調の教科的, 或いは教訓的な歌詞内容を入れ込んで徳育に資すことを目的としたものであった。</p>
著者
志水 照匡
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.1-12, 2010 (Released:2017-08-08)
参考文献数
53

本稿は, 三味線演奏時における演奏者の棹の角度を研究するものである。343名の演奏者を分析したところ, 平均値は32度, 最頻値は33度, 標準偏差は3.7で, 度数分布曲線は最頻値33度を頂点とする釣鐘型の対称分布であることが明らかになった。 さらにF検定を用いて, 長唄と他の種目との検定を行った。その結果, 長唄の母分散と等しいのは一中節, 義太夫節, 清元節, 小唄, 座敷唄, 地歌, 新内節, 創作曲, 端唄, 宮薗節で, 等しくないのは上方唄, 常磐津節, 民謡となった。そしてF検定の結果をもとにt検定を行った結果, 母平均が長唄と等しいのは上方唄, 義太夫節, 清元節, 小唄, 座敷唄, 地歌, 新内節, 創作曲, 常磐津節, 宮薗節, 民謡で, 等しくないのは一中節と端唄となった。性別に関しては, 男女間で母分散は異なるが, 母平均は等しい。また, 棹の角度は服装, 座り方, 演奏方法の違いで大きな影響を受けるわけではない。