著者
パースンズ マイクル 柴田 篤弘
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.103-177, 1986-09-20

ここに記載・図示するのはイリアンジャヤないしパプアニューギニア産のタテハチョウ科(ジャノメチョウ亜科)の新属Altiapaと,26新種,その内訳はセセリチョウ科17種,シジミチョウ科7種,タテハチョウ科2種である.これらの分類学的位置はつぎのとおり:セセリチョウ科(アカセセリ亜科)-Prada maria, Pastria grinpela, Kobrona sebana, K. zadma, K. lexa, K. sota, Sabera madrella, Mimene celiaba, M. saribana, M. ozada, M. verda, M. wara, Ocybadistes zelda, Telicota bulwa, T. sadrella, T. brandti, T. mimena;シジミチョウ科(アリノスシジミ亜科)-Spalgis asmus;(シジミチョウ亜科)-Arhopala doreena, Candalides afretta, Ionolyce selkon, Catopyrops zyx, C. holtra, Ubara davenporti;タテハチョウ科(ジャノメチョウ亜科)-Mycalesis giamana, Platypthima antapa.このうち,I. selkonとC. zyxはブーゲンビル島,C. holtraはニューブリテン島(ともにパプアニューギニアの地域)に産する.M.celiaba, T. sadrella, S. asmus, A. doreena, M. giamanaの5種は,パプアニューギニアとイリアンジャヤの両方に産する.のこりの種は,今日までのところ,パプアニューギニアだけから知られている.なお,Udara kodama ELIOT & KAWAZOE,1983(シジミチョウ科:シジミチョウ亜科),Playpthima septentrionalis NIEUWENHUIS & HOWARTH, 1969(タテハチョウ科:ジャノメチョウ亜科)の2既知種の分類学的地位を改めた.
著者
稲好 豊
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.213, pp.21-25, 2007-06-30

Four species, Neptis sedata Sasaki, 1982, Char axes borneensis praestantius Fruhstorfer, 1914, Charaxes harmodius Felder, C. & R., 1867, and Lethe bhairava (Moore, 1858) and two subspecies, Euthalia eriphylae raya Eliot, 1960 and Elymnias dara darina Fruhstorfer, 1907 are newly recorded from Thailand in addition to the work by Ek-Amnuay (2006). A reliable record of Ypthima persimilis from Thailand is added. Hitherto, Lethe gulnihal has been misidentified as Lethe bhairava (Pinratana, 1988; Ek-Amnuay, 2006) and there has been no reliable record about Euthalia eriphylae raya.
著者
水川 瞳 広渡 俊哉 坂本 佳子 橋本 里志
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.241-255, 2010-12-30

スイコバネガ科Eriocraniidaeはほとんどの種がカバノキ科とブナ科の植物を寄主として利用しており,カバノキ科植物に注目すると,日本ではオオスイコバネEriocrania semipurpurellaなどがシラカバBetula platyphylla,ハンノキスイコバネE.sakhalinellaがケヤマハンノキAlnus hirsutaを寄主とすることが知られている.最近の著者らの研究により,カバノキ科のアカシデCarpinus laxifloraを利用するスイコバネガが東海地方と紀伊半島に生息することが明らかとなった.成虫の形態を比較した結果,アカシデを利用するスイコバネガは,後翅の鱗粉が細長いなどの派生形質をオオスイコバネと共有し,オオスイコバネにもっとも近縁であるが,明らかに小型で,♀交尾器のバジナルスクレライトの形態にも差が認められることからEriocrania属の未記載種であろうと考えられた.さらに,大阪府和泉葛城山でアカシデの他にイヌシデC.tschonoskiiから,愛知県段戸高原でサワシバC.cordataといった同属のシデ類からも,スイコバネガ科の幼虫が採集された.これらの幼虫と成虫の対応やオオスイコバネとの関係を明らかにするために,ミトコンドリアDNAの解析(COIおよびND5領域)を行った.その結果,イヌシデ,サワシバなどのシデ類を利用するスイコバネガ類はアカシデを寄主とするものと同一種であり,シラカバを利用するオオスイコバネとは姉妹群関係にある可能性が高いことが推定された.また,両種の分岐点までの遺伝的距離(D)は,ND5およびCOI領域でそれぞれD=0.028,D=0.036であった.Eriocrania carpinella Mizukawa,Hirowatari&Hashimoto sp.nov.アカシデスイコバネ(新称)寄主植物:アカシデ,イヌシデ,サワシバ分布:本州(愛知県,三重県,奈良県,大阪府)成虫は日本産スイコバネガ科の中でも小型(開張6-8mm)で,オオスイコバネ(開張10-14mm)と比較すると前翅の青みが強い.成虫は4月中〜下旬に出現し,幼虫は5月上旬にアカシデ等のシデ類の葉に潜孔する.幼虫は成熟すると葉から脱出して地表へ落下し土繭を作ってほぼ1年を通じて翌春まで地中で過ごす.そのため,一般的にはスイコバネガ類では飼育による幼虫と成虫の対応が困難である.しかし,一部の幼虫については飼育によってアカシデを寄主とすることが明らかになり,さらに分子データによる解析からサワシバとイヌシデを寄主植物として利用しているものと同一種と考えられた。シデ属Carpinusの植物を寄主とする種としてはヨーロッパ産のEriocrania chrysolepidellaが知られているが,極東地域においてシデ属植物を利用する種が見つかったのは初めてである.本種は,カバノキ類を寄主とするオオスイコバネの極東における分布南限である中部山岳地帯のさらに南部の限られた地域(東海地方と紀伊半島)に,オオスイコバネとは異所的に分布している.形態と分子データから両者は姉妹群関係にある可能性が高いことと遺伝的距離に基づく年代推定から,鮮新世の寒冷な時期に共通祖先から寄主転換によって分化し,その後,東海地方や紀伊半島に分布が限定されたと想定された.この仮説については,今後ヨーロッパやロシア沿海州などの材料を含めてさらに検証する必要がある.
著者
水川 瞳 広渡 俊哉 橋本 里志
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.149-155, 2006-06-30
被引用文献数
1

1989年と2002年の4月下旬に,大阪府和泉葛城山において特異な斑紋をもつスイコバネガ科の成虫が採集された.翅脈の特徴から,この種がスイコバネガEricrania属に含まれること,また,雌雄交尾器などから新種であることが明らかになったので記載した. Eriocrania komaii sp. nov. ムラサキマダラスイコバネ(新称) 本種は,前翅に金色の条線が融合し網目状となる(暗紫色の小斑点を多数もつ)こと,ビンクルムから前方に伸びる一組の突起が幅広いこと,雌交尾器の産卵管が幅広いことなどで同属の他種と区別できる.また,本種成虫の採集からおよそ3週間後,採集地点付近でバラ科のウラジロノキに潜葉しているスイコバネガ科の幼虫が採集された.筆者らは和泉葛城山には本種の他にアカシデに潜る種(Eriocrania sp.)とブナに潜る種(イッシキスイコバネIssikiocrania japonicella Moriuti)が同所的に生息することを確認しているが,これら2種の成虫は4月上中旬に出現するのに対して,本種成虫は4月下旬にミドリヒゲナガやムラサキツヤマガリガなどとともにコナラの花に果ていたところを採集されており,幼虫の出現時期もずれていた.これらのことから,ウラジロノキに潜る本科の幼虫は本種の可能性が高いと推測された.スイコバネガ科はブナ科とカバノキ科の植物を主に利用することが知られている.これまでにもDavis (1987)と黒子(1990)がバラ科植物に潜るスイコバネガ科の幼虫について報告しているが成虫の記録はない.本種成虫と潜葉していた幼虫の関連が明らかになれば,スイコバネガ科の寄主植物について重要な情報となる.
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.215-228, 2000-06-30
被引用文献数
3

'Sleep' behavior of butterflies at night was observed in 46 individuals belonging to 13 species in 1999 at my house garden. The main sleeping place of Papilio xuthus receives little sunshine, having a high humidity, and is windless compared with the other areas. This species slept hanging from a twig of the tree or at the top of a grass stem 60-150cm high, and usually kept its wings closed. I observed two cases that seemed to be the same individual spending two nights on the same spot. Argyreus hyperbius slept with its wings closed and selected a twig 150-200cm high. This species probably spent two nights at the same spot like P. xuthus. Therefore, I believe that those species had an exact memory of the sleeping place of the previous night, hence they came back to sleep the next evening. Eurema hecabe always slept with its wings closed and hanging from the underside of a leaf of short grass. They preferred a rather dry and open place. Zizeeria maha always slept with both wings closed at the top of a short grass stem 40-50cm high.
著者
有田 豊 佐藤 一喜
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.26-30, 1995-03-30

スカシバガ類の成虫の羽化(Fig.1)は天候の良いときには朝はやく,曇りや雨の日には昼間一日中行なわれること,また羽化が長期間にわたって行なわれることなどが知られている.著者の一人佐藤は名古屋市北区の神社の境内のシラカシQuercus myrsinaefoliaの1本の大木の幹から数10頭のコシアカスカシバSesia scribaiが発生しているのを見つけた(Figs 3-4).そこで1993年8月10日から9月30日までの間に,コシアカスカシバの羽化日とその日の天候,羽化場所,羽化時刻,羽化時の気温,照度,湿度などを朝7時から夕方4時まで毎日調査した.調査した1993年の夏(7-9月)は,例年と異なり気温が低く,雨の多い年であった.最初の羽化が見られたのは8月27日(♀)で,最後は9月25日(♀)で,30日間のあいだに20♂25♀の45頭であった.羽化場所(羽化口(Fig.2))は45個のうち,北に9個,北東に0,東に1個,南東に4個,南に1個,南西に8個で,西に6個,北西に16個で,北西に一番多かった(Figs 3-5).また多くの羽化口は幹の150cm以下の所にあった.羽化時刻は,記録の取れた38個体の内,午前中に25個体,午後に13個体が羽化した.また晴れの日は午前8-10時までの羽化が多く,曇りや雨の日は午前7時から午後3時までの昼間一日中羽化が見られた(Table 1).羽化時の気温は23.5°-26.5℃の間に多く見られ,26個体がこの範囲で羽化していた(Fig.6).羽化時の照度は大部分が5,000lux以下の明るさの時であった(Fig.7).また,羽化時の湿度は60-92%までとばらつきが大きく,羽化と湿度との関係は見られなかった(Fig.8).コシアカスカシバの羽化場所は食草の木の幹の北と北西の部分に多く,また幹の150cm以下の所にあった.これらのデータは,成虫の羽化は気温が上昇しはじめて23℃頃が刺激になって,羽化が始まることを伺わせる.
著者
上野 雅史
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.169, pp.25-41, 1997-05-20
参考文献数
16
被引用文献数
4

本来,日本に生息しないとされていたオオモンシロチョウ(Pieris brassicae Linnaeus)が小樽市在住の本間定利氏により,北海道岩内郡共和町上中ノ川(以下,北海道を省略する)において採集されたのは,1996年6月8日のことであった。その後,本種の夏型が余市郡仁木町然別において同年7月19日に(札幌在住の森一弘氏採集),札幌市南区小樽内川で同年7月27日(札幌在住の寒沢正明氏採集)と相次いで採集され,その関連記事が同年7月30日付北海道新聞他に掲載された。私は,本種が高層の気流に乗って飛来してきたと考えた。予備調査として1996年8月2日と3日両日,奥尻島(離島)で調査を行った結果,オオモンシロチョウを採集することができたので,本格的な調査を実施することとした。オオモンシロチョウは,ヨーロッパでは季節的に移動することが知られている。しかし,大陸から東北地方や北海道への飛来は,距離の短いドーバー海峡やアルプス山脈を越える渡りと比べ,はるかに確率の低い困難なことと言わなければならないであろう。17年前に北海道に飛来したチョウセンシロチョウの場合は,残念ながらその飛来の時期やルートについては推論の域を出ずに終わった。しかし,オオモンシロチョウについては,筆者が自ら飛来地域の現地調査を実施するとともに,気象資料の解析を行った結果,飛来した経路等を推定することができたので,その一部を報告する。
著者
若林 守男 田中 蕃 菅井 忠雄
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.27-29, 1958-02-20

Aberrant forms of Antigius attilia BREMER hitherto recorded from Japan are as follows: ab. neoattilia SUGITANI (Figs. 10〜14) ab. sayamaensis WATARI (Figs. 5〜6) ab. sagamiensis KYUZAKI (Fig. 17) Based on an examination of many specimens, we have considered these are some of transition forms which vary from whitish to blackish. So on this occasion we have designated the series of Figs. 5〜6 as forma sayamae, Figs. 7〜16,29,30 as f. neoattilia and Figs. 17〜28 as f.sagamii.
著者
吉尾 政信 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.275-279, 2004-09-30

温帯および亜熱帯産のPapilio属アゲハチョウ類では,幼虫期の光周期によって蛹休眠が誘導されることが知られている.一方,熱帯産のアゲハチョウ類の休眠性に関する研究は少なく,休眠の誘導条件などについては不明な点が多い.Ishii(1987)は,オナシアゲハPapilio demoleus L.のサバ個体群(マレーシア,サバ州)の幼虫を20℃,10時間日長で飼育することにより,蛹休眠を誘導しているが,長日区を設けていないため日長の役割については明確ではない.そこで本研究では,熱帯産アゲハチョウ類の休眠性における光周期の役割を明らかにするために実験を行った.1995年2月にサバ州でナガサキアゲハP.memnon L.とシロオビアゲハP.polytes L.の幼虫を採集し,柑橘類Citrus spp.の生葉で飼育した.羽化した成虫をハンドペアリング法によって交尾させた後に採卵し,孵化した幼虫を20℃の12時間および14時間日長で飼育し,幼虫および蛹期間を記録した.その結果,両種とも幼虫期間は約1ヶ月で日長による差はなかったが,蛹期間については日長条件で差が認められた.ナガサキアゲハの蛹期間は,14時間日長で23-24日,12時間日長では23-27日で,わずかではあるが短日で有意に長かった.シロオビアゲハについては,14時間日長では19-21日であったが,12時間日長では蛹化後20-22日に羽化したグループと,羽化までに29-92日を要したグループに分かれた.すなわち,シロオビアゲハでは20℃の短日条件下では休眠する個体が存在した.シロオビアゲハのサバ個体群は25℃では短日条件下(10時間日長)でも休眠に入らなかったが(Ishii,1987),20℃という熱帯では冷涼な気温と短日の組み合わせによって蛹休眠が誘導されることが明らかになった.Denlinger(1986)は,1年を通じて日長の変化の小さい赤道付近では,光周期は休眠誘導の季節信号として機能しないことを示唆しているが,少なくともシロオビアゲハのサバ個体群においては光周期は重要な季節信号であることが示された.
著者
宮田 彬
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.281-286, 2000-09-30

1995年9月16日と17日の2日間にわたって,ドミニカ共和国サント・ドミンゴ市でシロチョウ科のクリコゴニアシロチョウ,Kricogonia lysideの西から東へ向かう大移動に遭遇した.その規模は実際に確認しただけでも南北に幅3.7kmにわたる蝶の帯が,2日間にわたって少なくとも合計10時間以上東へ向かって動いていた.初日はゆっくり観察する時間を取ることが出来なかったが,午前9時にはすでに移動が始まっており,午後遅くまで続いていた.蝶の大移動は海岸と平行して走っているワシントン通りを東へ約4km先の旧市街(Ciudad Colonial)までたどることが出来た.その先まで行くことが出来なかったが,もっと先まで続いていたことは間違いない.2日目の9月17日午前9時,3階の自宅の窓から南側を見ると白い蝶がまた西から東へ次々と飛んで行った.幸い3階の窓から見ると南側約100m先のショッピング・センター"プラザ・セントラル"の建物までは2階建てのビルの屋上になっておりまったく障害物がなかった.それでその間を通過する蝶の数を数えたところ1分間に25個体であった.南北の幅を調べるために歩いて出かけ,少なくともほぼ東西に走っているケネディ通りとワシントン通りの間(約3.7km)は蝶が続々と移動していることが分かった.ケネディ通りより先へは行かず引き返した.途中で捕らえた蝶は5種でいずれも移動に参加しており,どの蝶も狂ったように東へ東へ向かっていた.白い蝶はシロチョウ科のクリコゴニアシロチョウ,Kricogonia lysideで,この蝶は上述のように100m幅を1分間25個体通過した.2日目だけでも幅3.7kmの移動が5時間継続したとすると,移動した蝶の数は277,500に達する,この状態が2日間で合計10時間続いたと仮定すると蝶の数は約55万頭という膨大な数である.しかも飛来が続いた時間は実際にはもっと長く,個体数も初日の方がはるかに多かった.またケネディ通りのさらに北まで蝶が広がっていたことは間違いないので,実際に移動したクリコゴニアシロチョウの個体数は,百万あるいは二百万という驚くべき数に達したことになる.なお初日の移動は,JICA事務所の中島伸克所長によれば120km離れたアスアでも見られたという.その時も蝶は東方向へ向かって飛び続けていたという.もしその移動とサント・ドミンゴ市で2日間続いた移動が同一グループの蝶であったとすると,参加した蝶の数は数百万に達することになる.なお移動が続いた2日間は晴天で,ほとんど無風であった.2番目に個体数が多かったのはシロチョウ科のフォエビス・センナエ,Phoebis sennaeで,大ざっぱな見積もりであるが,クリコゴニアシロチョウの数の5%程度の個体数が移動したと推定された.また個体数は多くなかったが,時々タテハチョウ科のオイプトイエタ・クラウディア,Euptoieta claudiaやオイプトイエタ・ヘゲシア,Euptoieta hegesiaや,ドクチョウ科のヴァニラエウラギンドクチョウ,Agraulis vanillaeも,やはりクリコゴニアシロチョウと同じく東へ向かって飛んでいた.以上3種は市街地でも緑地があれば見られる蝶ではあるが,ふだんは道路上を東へ東へ飛んで行くようなことはないので,やはり移動していたとしか考えようがない.なおフォエビス・センナエは9-10月に郊外の道を車で走ると多数の個体が,次々と車の窓にぶつかって来るので,あたかも移動しているように見える.しかしこの現象は郊外から市街地へ入ると急に蝶が姿を消すので,真の移動とは考えられない.しかし私はドミニカ産のフォエビス・センナエの場合は,確かに移動している場合もあるのではないかと考えている.なぜなら昼食に都会の真ん中のわが家へ帰って窓の外を見ていると,この蝶も時々,東へ向かって次々と飛び去って行くのが見られるからだ,田舎で道路に沿って飛んでくるこの蝶に出会うのはよくあることなのだが,我が家から眺められる移動はいつも見られるわけではなく,またこの蝶の生息環境とはあまり関係がなさそうな市街地での現象であり,移動性の蝶であることは間違いないと思う.しかしその場合も多い目に見積もっても,この蝶の個体数は1分間に5頭以下であった.
著者
高橋 昭
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.133-142, 1977-12-01

近年,日本産Neope属は2種の独立種に分離されたが,この両者に対して用いられるべき学名については未検討のままである.筆者は,これら日本産Neope 2種に関するすべての原記載と,British Museum (Natural History)所蔵のButlerが記載したN. niphonica, N. japonicaのダイプ標本を検討し,サトキマダラヒカゲにはN. goschkevitschiiの学名を,ヤマキマダラヒカゲにはN. niphonicaの学名を用いるのが正しいと結論した.N. goschkevitschiiの原記載には,タイプ標本をGoschkevitschが採集したことが記されているので,彼の足跡を歴史的に検討すると,1854年12月4日に下田港に到着し,12月23,24日の両日におきた安政地震と津波でDiana号が大破したため,1855年7月14日まで伊豆半島(主として下田,戸田(へだ))に滞在したことが明らかとなった.Menetriesの原著には図版が添付されており,この図から,N. goschkevitschiiは明らかにサトキマダラヒカゲ春型♂と判断され,本種のタイプ標本は1855年の春に伊豆半島(下田,戸田またはその近傍)で採集されたものと思われる.
著者
TSUNEKI KATSUJI
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
日本鱗翅学会特別報告 (ISSN:05495210)
巻号頁・発行日
no.1, pp.167-172, 1965-12-30

白水隆博士の送付された3頭の蜂類を検した結果をここに記録した.これらのうち1頭はPsen属の新亜種であり,1頭はホソギングチバチ属の新種であった. 1. クロバネセイボウ Chrysis (Chrysis) fuscipennis RULLE. ♀. 原種は金緑色の青蜂であり,日本本土の亜種murasakiは濃紫色である.標本は両者の中間状を呈し,琉球産のものに近い.台湾産のものは多くは原種に属する. 2. 夕イワンプセンバチ Psen (Psen) koreanus formosensis subsp. nov. ♀. (付図1-4) チョウセンプセンバチの亜種であるが,第3触角節が長幅比でやや大である点(=より長い),胸部の点刻がより小である点で区別できる.本土産のハクサンプセンバチPsen hakusanus TSUNEKIにも類似するが,本亜種では点刻が遥かに粗大である点で異なる.なお,比島産のPsen coriaceus LITH, ジャバ産のPsen elisabethae LITH(両者は亜種関係のようである)にも近似するが,体に青味を欠くことによって容易に区別でき,点刻・中節の彫刻も異なる. 3. シロウズギングチRhopalum (Latrorhopalum) shirozui sp. nov. ♀. (付図5-15) ホンギングチ属の中で,ク口ホソギングチ亜属は外部生殖器の構造・体に光沢を欠くこと,額域が明瞭であること,腹柄が後転・腿節の和より長いこと等の特徴で明らかな自然群をなすものであり,アジアの特産群である従来インド(高地)・チべット・日本・朝鮮・樺太から計5種が知られていた.台湾(渓頭(ケイトウ), 約1150m)から6番目の種類が発見されたことは興味深い.本種は前胸前側角が歯状に突出している点で,極めて容易に全ての既知種から区別できるが,また頭楯・触角・前中肢の第1附節・第8腹面節等にも顕著な特徴がある.触角節および脚の変形度からみると,本種は日本および朝鮮の2種より進化の度がやや低く,インドのものより高いことが結論される.ギングチバチには日本列島とヒマラヤ地方とに共通するもので,しかも他地方にその類を見ない亜属が幾つかあるが,台湾は調査不十分のため何も分っていなかった.今回白水博士の採集品により,台湾がその1グループに関連して浮び上ったことは,大いに意義あることである.
著者
Inoue Hiroshi
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.159-171, 1980-01-20

Pelosia angusta(STAUDINGER)ネズミホソバ(チビホソバ) 北海道東部で多数とれている本種と同種ではあるが,小型でやや黒っぼい♂が隠岐でとれており,これが,長いあいだ正体不明となっていたIlema okiensis MIYAKEの記載と一致するので,本文で異名とした.樺太のP. sachalinensis MATSUMURAは,北海道やアムールの本種とまったく同じである.私はまだ♀を検していない. Tigrioides immaculata (BUTLER)ナガサキムジホソバ 私(1961)はDANIEL (1954)の同定を信じて,本邦南西部の買Tigrioidesをkobayashiiという新種としたが,台湾から記載されたBUTLERの夕イプ標本(♀)の交尾器を検したところ,kobayashliiは異名であることがわかった.伊豆半島以南に産し,屋久島にまで分布している.Tigrioides pallens INOUE リュウキュウムジホソバ(新称) 前種より翅が少し細く,前翅の脈相も異る.交尾器にも大きなちがいがある.沖縄,石垣島,西表島に多産し,前種と分布が重っていない.Miltochrista sauteri STRAND タイワンスジべニコケガ 岸田,1978,月刊むし 90:27, fig. 15,によって図示され,表記の和名が与えられたが,M. orientalis DANIELは異名となる.M. sauteri ab. fuscozonata MATSUMURAは,次の新種で,上に引用した岸田のFigs. 15a-15cがこれに当る.Miltochrista fuscozonata INOUE ソトグロスジべニコケガ(新称) M. striata (BREMER & GREY)スジべニコケガや前種ほど濃厚な赤色でなく,前翅横線が太く,外横線より外にある脈上の暗色線が太く,しばしばゆう合して全体に暗くなっている.本種も前種も台湾にごく普通だが,日本に多いスジべニコケガは台湾から未発見.miltochrista aberrans okinawana MATSUMURA ハガ夕べニコケガ(オキナワべニコケガ) 奄美大島,徳之島,沖縄産は,小型で,鋸歯状の外横線が消えやすいし,前翅中央部が黄色くない.石垣島と西表島のものは,むしろ横線が太く強い傾向がある.琉球の亜種については,更に多くの標本によって調べる必要がある.私(1965)がM. convexa WILEMANアミメべニコケガとして琉球から記録したのは,同定の間違いであった.Neasura melanopyga(HAMPSON) ムモンウスキコケガ 私(1965)がN. hypophaeola HAMPSONとして記録したのは間違い.台湾から記載された本種は,南西諸島に広く分布している.Chamaita ranruna (MATSUMURA)スカシコケガ(ラソルンヒメホソバ) 私(1961)が本州と四国の標本で記載したCh. diaphana INOUEは,台湾の本種とまったく同じである.そのご茨城県鹿島(目下わかっている北限),奄美大島,西表島でとれている.山本, 959,原色昆虫大図鑑 1:101, pl. 60:23,のSchistophleps bipuncta HAMPSONウスバフタスジコケガのうちbは本種の間違い.Hemipsilia coavestis(HAMPSON) キイロコケガ(改称)(フンキホソバ) Nudaria punkikonis MATSUMURAを本文で異名として整理した.台湾の中部山地に多い. Palaeopsis suffusa (HAMPSON) シラキコケガ(改称)(シラキホソバ) Nudaria shirakii MATSUMURAを本文で異名として整理した.本種も台湾の中部山地に多い. Palaeopsis unifascia INOUE ウスバチビコケガ(新称) 日本で発見されたコケガのなかで最も小型.翅は白く半透明で,前翅に褐色の内外横線があり,後者は強く外方に湾曲している.福岡県でとれた1♂は,やや大きく,前翅中央部と後翅の基半を除き,淡黒褐色をしている.そのほか屋久島と口永良部島でとれた少数の個体しか知られていない.Metaemene hampsoni WILEMANアトジロコヤガ(改称)(カレンコウアトジロコケガ) ヒトリガ科コケガ亜科のParasiccia karenkonis MATSUMURAは,ヤガ科コヤガ亜科のもとに同じ台湾から記載された表記の種と同種である.私(1965)はこれを西表島から記録したが,そのご沖縄のも入手した.琉球産は台湾のものより小型だが,検した標本が2つしかないので,亜種の問題は保留したい.本種の前翅にはMetaemeneのような小室がないので,分類上の位置については,更に検討を要する.
著者
岸田 泰則
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.200, pp.2-30, 2004-03-31