著者
佐藤 アヤ子
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

Identity Politicsが声高に叫ばれていた90年代、マイノリティ作家と呼ばれていたカナダ先住民作家及びアジア系カナダ人作家の文学をグローバルとローカルを融合させた「グローカル」性という新しい概念で分析した。白人優勢の社会で、従来の支配者、被支配者という二元的な構図で創作するのではなく、彼らの作品が、グローバルに普遍なるものへの同化と同時に、自らの出自である母語や伝統的なローカル文化を作品の中に取り入れ、個別と普遍を融合させた「グローカル」性という新しい文学理念に向かっていることに注目した。この分析法は、内外においても本研究が初めてであり、新しい文学分析として今後活用されよう。
著者
柘植 あづみ 武藤 香織 洪 賢秀 熱田 敬子 岩江 荘介 八代 嘉美 粥川 準二 小門 穂 仙波 由加里 張 チョンファン 三村 恭子 渡部 麻衣子
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

医療技術の開発/応用とジェンダーの関係を検討するために日本、韓国、アメリカ等での遺伝子技術、生殖技術、再生医療研究の患者/利用者、研究者への聞き取り調査を実施し、さらにインド、中国などの情報を収集した。そこから医療技術の開発/応用にジェンダー役割が無批判に受容され、それが技術を要請する根拠になることを示した。その上で新しい医療技術の規制を考える際にジェンダーの視点の必要性を指摘した。
著者
池本 大輔
出版者
明治学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

イギリス政治研究においては、戦後政治をケインズ主義にもとづく「戦後コンセンサス」の時代とマネタリズムにもとづく「ネオリベラル・コンセンサス」の時代とに区分し、サッチャー政権を前者から後者への変化をもたらした政権として位置づける解釈が一般的である。本研究は、国際通貨制度や国際資本移動への態度に代表される「対外経済政策」に着目することで、新しい解釈を提示する。この解釈によれば、1970年代のヒース政権やキャラハン政権は通説がいうような過渡期ではなく、「戦後コンセンサス」とも「ネオリベラル・コンセンサス」とも異なる独自の政策を実行した時期であったと位置付けられる。サッチャー政権の革新性は、両政権との対比によってはじめて明らかになるだろう。
著者
平野 浩
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、日本において1990年代以降に生じた大きな政治的・経済的変化が、有権者の投票行動、特に経済投票のメカニズムにどのような影響を与えたかを明らかにすることを目的としたものである。 1992年以後の6回の国政選挙時に東京都の有権者を対象として行われたサンプル調査から得られたデータの分析により、以下のような知見が得られた。第一に、「景気の悪い時こそ自民党」といった政策領域指向(policy-oriented)の経済投票に代わって、経済状況が良くなれば与党に投票し悪くなれば野党に投票するといった現職指向(incumbency-oriented)の経済投票がより優勢になってきている。第二に、国レベルの経済状況の変化が個人の暮らしに与える影響が強く意識されるようになった結果、国全体の経済状況に関する認識が与党のパフォーマンスに対する評価に与える影響が増大し、個人指向(pocketbook)の経済投票から社会指向(sociotropic)の経済投票へと、経済投票のメカニズムが変化しつつある。第三に、経済投票の因果的なメカニズムとして、(1)まず自民党に対する支持や経済状況に関する認識が自民党の業績に対する評価に影響を与え、(2)次いでこれらの要因が自民党に対する今後の期待に結びつき、(3)最後にこれらの要因が自民党への投票に影響を及ぼす、という流れが存在する。このうち自民党への期待に対してはより長期的な要因である政党支持の影響に代わって、より短期的な要因である自民党への業績評価の影響が強まりつつある。他方、自民党への投票に対しては、過去の業績評価に代わって将来に向けての期待の効果が強まりつつある。第四に、経済的な政策争点に対する態度、集団的利益に対する同一視、そして特に地域や仕事に対する利益感覚もまた、広義の経済投票を形成する要素として自民党に対する投票に影響を及ぼしている。
著者
滿田 郁夫 竹内 栄美子 大塚 博 丸山 珪一 林 淑美 木村 幸雄 杉野 要吉 古江 研也 島村 輝
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

中野重治は、その文学的出発にあたって「微小なるものへの関心」ということを言った文学者である。と同時に、石川啄木について論じて国家権力に敵対することを己に課した詩人である。以来、自分固有の世界、固有の視点を保ちながら、同時に「大きな物語」への鋭い関心を持ち続けた作家である。その人がその晩年に「戦後転換期」に際会して、世の変動に己の感性を全開して書き切ったのが長篇『甲乙丙丁』であるが、そこに至るまでに何を見、その心に何が生じ、同時代の政治・思想・文学とどう斬り結んだか、それを、残された日記・書簡などによって知ろうとした。平成九、十年度で日記の第一次読み合せと、粗ら打ち込みは終了し、十一年度は第二次読み合せと註付けに入った、しかし平成十二年度にはそれを一旦中断して、一九六三年日記と六四年日記との精密な読みと註付けの作業に入った、研究年度が終った平成十三年度にもその作業は続き、しかもなお、我々がここに提出するのは未完成の「テスト版」に過ぎない。一九六三、四年と言えば東京オリムピックを目掛けて、日本の社会が音を立てて変わって行った年々である。世界的には中ソ論争が起き、部分核停条約の評価を回って国内でも議論が始まり、新日本文学会第十一回大会は大いに揺れた。原水禁世界大会も分裂した。そうした事態に、全力を挙げて非妥協的に戦いつづけた中野重治は、自らが中央委員であった日本共産党を除名される。そしてその年末から『甲乙丙丁』が書き始められる。そうした重要な時期を扱って、我々の研究がどれだけ核心に迫りえたか。忸怩たるものがある。これは我々の到達点ではなく、出発点である、そんな風に思っている。
著者
竹中 千春 白石 さや 村田 雄二郎 西崎 文子 吉村 真子 合場 敬子
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

5つのキーワード(「ジェンダー」「政治」「戦争」「民主主義」「国際比較」)に基づき、国際政治学・政治学・国際関係論を中心に、アジア・太平洋地域の現代的・歴史的な事例を取り上げ、地域研究を比較・統合する努力をしつつ、学際的に研究を進めた。この共同研究の目的は、(1)国際政治学・政治学・国際関係論におけるジェンダー研究を進めること、(2)「戦争」と「民主主義」のジェンダー化を分析すること、(3)ジェンダー研究の中に国際政治学・政治学・国際関係論の視点から新しい視角や概念を提起していくこと、であった。平成17・18年度の2年間で、地域と問題別に立てたサブ・グループを基盤に、資料収集・現地調査を行い、事例分析と理論構築を試みた。平成18・19年度は、中間的な研究成果をまとめ、公表する作業に精力を注いだ。平成18年度7月には、イギリス・インド・韓国から専門家を招き、国際学術交流として世界政治学会(IPSA)研究集会で「War and Democracy from Gender Pespective(戦争と民主主義のジェンダー分析)」というセッションを開催した。同年10月の日本国際政治学会では、「グローバリゼーションの中の市民・女性・移民」をテーマに第1回ジェンダー分科会を開催し、同時に「グローバル・ガヴァナンスへの胎動:人権・環境・地雷」という部会も開催した。平成19年度も同学会にて人権侵害をテーマに第2回ジェンダー分科会を開催した。現在、総括的な単行書の準備を進めているが、学際的に編成した本科研の研究分担者は各専門領域で個別に成果を公表し、それぞれ高い評価を得ている。総括すれば、本共同研究は、共同研究と研究成果発表の過程を通して、国際政治学・政治学・国際関係論の分野でジェンダー研究の裾野を広げるという点で初期の目的を十分な程度達成したと考えている。
著者
野村 信威
出版者
明治学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では施設入居高齢者を対象としたグループ回想法を実施し,回想法による認知機能の効果および認知症予防における有効性を検討するとともに,質問紙調査による縦断研究から日常場面で行われる回想が心理的適応に及ぼす影響の検討を試みた。グループ回想法は認知症の症状がない施設入居高齢者に対して週1回の頻度で8回実施した。認知機能への効果を検討した結果,約半数の参加者では改訂長谷川式簡易知能評価スケールの得点の上昇が認められたものの統計的には有意な効果は認められなかった。質問紙調査の結果からは,過去を想起することと想起した過去を語ることに異なる心理的意義が認められた。
著者
笹島 芳雄
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

役員報酬が極めて高い要因はストック・オプションの普及、取締役会の内部委員会である報酬委員会の機能不全、役員報酬の世間相場情報の利用上での問題、外部コンサルタントの行動、国民の価値観などに根ざしている。高報酬の是正は、社内の報酬構造の見直し、世間相場水準の慣性、アメリカ国民の価値観との衝突などがあり容易ではない。他方、底辺労働者の賃金水準は低く、貧困水準すれすれの状況にあり「生活賃金運動」が活発である。また、公正な賃金の実現に向けて、同一価値労働同一賃金の法制化が推進されているが困難な状況にある。多くの企業で実質的には同一価値労働同一賃金が実現している。