著者
大澤 裕樹 丹下 健 小島 克己
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

アルミニウム集積に基づく耐性の分子構成要素の将来的な同定のために、アルミニウム超集積の鍵となる生理プロセスを発見する必要がある。私たちは、チャに代表される関連2科の8種の植物を調査し、7種の超集積植物の根の内皮細胞でプロアントシアニジン集積が共有されることを同定した。一方、調査対象の中の唯一の非アルミニウム集積種であるモッコク(Ternstroemia gymnanthera)では、ほとんどの通導木部においてプロアントシアニジン集積が認められなかった。葉の表現型と季節性の多様性にも関わらず、通導木部におけるプロアントシアニジン集積がこれらのアルミニウム超集積種間で共通の作用モードを持つ可能性が見いだされたことから、おそらくアルミニウムの長距離輸送がプロアントシアニジン輸送を伴うことが示唆された。しかしながら、アルミニウム集積性種の表現型の間の木部プロアントシアニジン含量にアルミニウム誘導パターンもアルミニウムとの分子化学量論のいずれも認められなかったことから、プロアントシアニジン以外の追加構成要素が木部のアルミニウム輸送に含まれる可能性があることがわかった。本成果は、定量的に木本植物種の特定科のアルミニウムおよびプロアントシアニジン集積パターンを分析した最初の包括的な研究となる。近縁種のアルミニウム集積の主要な生理学的プロセスに関するこれらの知見は、重金属、水と物質の長距離輸送、および葉の防御機構における有害金属超集積の分子進化と機能のより良い理解につながる可能性
著者
大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、参加者全員がある一定割合以上の度合い、能動的に参加することを目指す共想法形式の会話セッションを司会する、会話支援ロボットを開発し、双方向の活発な会話が安定して実現するかどうかを、実験的に検証することである。参加者毎の発話量をリアルタイムで計測しながら、口数の少ない参加者に発話を促し、長く話しすぎる参加者の発話は、時間により終了するようフィードバックをかけることに挑戦する。本年度は、以下の三つの項目について研究を行った。1.人間の司会者の発言を登録した遠隔操作型会話支援ロボットの製作と実験による評価共想法形式のグループ会話の中で、人間の司会者が自然に発した発言を集め、汎用性の高いものを登録し、選択可能とした遠隔操作型会話支援ロボットを開発した。参加者の発話を補助するための発言を、本人へのあいづち、内容へのあいづち、フォロー、質問に分類し、これらを登録したロボットを用いてグループ会話を支援し、実際に用いられる発言を調べた。2.発話量と笑顔度に基づいて司会する自律型会話支援ロボットの製作と実験による評価前年度までに、発話量に基づいて発話者を切り替える機能を持つ自律型会話支援ロボットを製作した。会話が盛り上がっている時でも、発言の間が空いた時に発話者を切り替えようとする問題を解決するため、笑顔度に基づいて切り替えるタイミングを計る機能を実装した。発話量のみでフィードバックする場合よりも、発話量と笑顔度に基づいてフィードバックする時の方が、全体の発話量が増え、ばらつきが減ることを実験的に確かめた。3.高齢者による会話支援ロボットの遠隔操作実験人と人との交流を支援する会話支援ロボットを、グループ会話を司会した経験のある高齢者が遠隔操作することができるかどうかを確かめる実験を行った。具体的には、共想法形式のグループ会話の司会と対談の司会を、高齢者が会話支援ロボットを遠隔操作することにより実現した。特に発言が長い人への発言の制止と切り替えなど、人間の司会がやりにくいことを、ロボットを介することで円滑かつなごやかに行うことができることを確かめた。
著者
大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度に得られた研究成果は以下の三点に整理される。1、マルチスケールシミュレーション並列計算基盤の開発マクロスケールのヒトの運動の特徴量を高速、高精度に抽出する手法を開発した。具体的には、並列計算ツールであるGXP, MPICH, SCALAPACKを用い、リング状にネットワークしたクラスタでパイプライン処理するシステムや、大規模な行列計算を高速に行うシステムを構築した。2、データベースに登録されたミクロスケールモデルの統合化手法の開発運動系全体の状態をシミュレーションするためには、部位により異なるミクロスケールの細胞の性質をモデル化する必要がある。生命科学者により記述された細胞モデルや、解剖学的生理学的知識が、レビューされ、データベースに多数登録されている。これらを活用することができれば、信頼性の高い要素で構成されるシミュレータを構築することができる。データベースに登録されたミクロスケールモデルは、本来単体で動かすように作成されたものであるため、他のモデルと連携が困難である。そこで、これらのモデルを再構築し、統合化するシステム構成法を提案した。即ち、入出力をモデルの中で整理し、再構成したモデルを異なるサーバに分散配置し、計算機毎に計算エンジンがモデルを読み込んで実行する。複数サーバで実行されるモデルの計算を一箇所でモニタリングし、互いに入出力を送受信する。計算エンジンの種類によらず、細胞複合体モデルを構成できるようになった。3、マクロモデルとミクロモデルのインタフェース手法の開発マクロスケールで観測される運動データに基づいてミクロスケールの現象を予測するために、マクロスケールの解剖学モデルにミクロスケールの生理学モデルをインタフェースする手法を開発した。これにより、マクロスケールの運動を外部から観測して、ミクロスケールの内部状態を予測できるようになった。
著者
大武 美保子
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

実環境で頑健に動作する情報システムを構築するために, 多岐にわたる情報科学技術の諸分野を融合する必要性が高まっている. 本研究の目的は, 実世界情報並列計算フレームワークを構築し, 異なる種類のデータを扱える新しいシステムを開発することを通じて, 汎用の計算基盤の構築と応用例を示すことである. 具体的には, 情報爆発で開発されているInTrigger上で動作するシステムを開発した. 標準の並列計算用ライブラリMPIは, クラスタには対応していても, 複数のクラスタで構成されるグリッドには必ずしも対応していない. そこで, A02支援班で開発されているグリッド用のMPIライブラリMC-MPI(Multi-cluster MPI Librarv)を用いて,グリッド上で動作するリング状にネットワークした計算ノードでパイプライン処理するシステムや, 異なる条件の計算を同時並列に行い, 結果を集約するシステムを開発した. その上で, 多数の生物学的神経モデルを同時並列に計算し, シミュレーションを行った. また, 任意の実世界情報を扱えるシステムを開発することを目的として, 運動学習支援システムを開発した. 従来ネットワークに対応していなかった運動計測データを扱うソフトウエアをサーバとクライアントに分け, クライアント側にハードウエアを接続し, サーバは任意の計算機上に配置できるように構成した. 運動学習支援システムは, 運動の特徴量をリアルタイムに学習者にフィードバックすることができる. この他, 会話支援システムなどの認知活動支援システム, マルチスケール神経モデルで構成され. 計測装置と接続可能なオープンブレインシミュレータ, 脳活動, 認知活動計測装置などを開発し, 評価実験を行った. 以上を通じ, 汎用の実世界情報並列基盤フレームワークと, それを用いたアプリケーションの開発に成功した.
著者
吉村 浩太郎 青山 隆夫 岡崎 睦 北野 幸恵
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

メラノサイトのメラニン産生に対するall-trans retinoic acid(atRA)、ハイドロキノン、ハイドロコーチゾンの影響を三次元培養皮膚、単層培養を用いて調べた。三次元培養皮膚における総メラニン量、単層培養における総メラニン量、チロジナーゼ活性などを測定した。細胞数(蛋白量)をもとに相対値で比較した。ハイドロキノンでは強いメラニン産生抑制効果、細胞毒性が見られたが、レチノイン酸では明らかではなかった。ハイドロコーチゾン、ハイドロキノンとの相乗効果は特に観察されなかった。AtRAのケラチノサイトに対するHB-EGFmRNA誘導能を単層培養を用いて調べた。MRNA量はreal-time PCRを用いて、GAPDHとの相対値で比較、検討した。AtRA刺激12時間後で正常にくらべて10-30倍のHB-EGFmRNA増加が見られた。この変化は未分化なケラチノサイトよりも分化誘導されたケラチノサイトでより著明であった。他の天然および合成レチノイドとの比較では、Ch55においてレチノイン酸よりも強い誘導能が観察された。13cisRAおよび9cisRAではatRAとほぼ同程度の誘導能が観察された。他の天然および合成レチノイドではさらに誘導能は弱かったが、濃度を40-100倍にあげることにより、レチノール、レチナールではatRAとほぼ同程度のHB・EGFmRNA誘導能が観察された。
著者
渡邊 嘉典
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2013

減数分裂期ではDNA複製に伴って姉妹染色分体が接着(コヒージョン)した後、二回の連続した染色体分配が起きる。第一分裂では姉妹染色分体は同一極へと分配され、続く第二分裂は両極へと分配される。第一分裂期では、Sgo1によってセントロメア領域の接着が保護され、この接着は続く第二分裂を正確に行うために必要である。Sgo1は動原体因子Bub1に依存してセントロメアへ集積して機能することが知られている。また減数第一分裂期特異的な動原体因子Moa1(Meikin)とその下流因子Plo1キナーゼにも、セントロメアの接着を保護する機能があることが知られていたが、その詳細な分子メカニズムはこれまで不明であった。本研究により、減数分裂期においてMoa1-Plo1がセントロメア領域の動原体因子Spc7をリン酸化し、その結果Bub1を動原体へ集積し、Sgo1の十分な局在化に寄与することが示された(Genes to Cells 2017)。正確な染色体分配を保証するためには、複製された姉妹染色分体が分裂中期まで接着され、細胞の両極から伸長するスピンドル微小管により正しく捉えられる必要がある。姉妹染色分体間の接着は、リング状のタンパク質複合体であるコヒーシンによって担われている。一方、ヒストン・キナーゼHrkl/Haspinは、セントロメアへ局在し、姉妹染色体の両方向性結合を確立させる働きがあるAuroraBキナーゼをセントロメアへと呼び込む働きがある。本研究では、コヒーシンサブユニットのひとつであるPds5が、コヒーシン制御因子およびHrkl/Haspinと直接相互作用することを示した。すなわち、Pds5は保存された結合モチーフを使って、細胞内の複数の制御因子と相互作用することで、正確な染色体分配を保証していることを明らかにした(Curr Bio1 2017)。マウスの生殖細胞特異的な発現をする因子のスクリーニングで得られた染色体軸因子Iho1が、染色体軸で組み換えに関わっていることを明らかにした(Nature Cel1 Bio1 2016)。
著者
八杉 満利子
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1966

博士論文
著者
役重 みゆき
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

平成25年度には、国内外の各地域において、報告者の対象とする時期と同時期の遺跡出土資料実見調査を行い、データの収集に努めた。特に重要な成果は、本研究の最大の目的であるサハリン、北東アジア(中国・吉林省)における資料実見調査を行った点である。サハリンにおいて、サハリン州立大学附属の博物館において、サハリンのアゴンキ5遺跡、オリンピヤ5遺跡から出土した細石刃石器群資料を見学した。細石刃核の形態のみならず, 掻器や彫器といった共伴するトゥールの形態も非常によく類似することが確認できた。後期細石刃石器群期には、北海道とサハリンにおいて均質な細石刃文化が広がっていたことが推測された。中国・吉林省では、北朝鮮との国境付近の遺跡で、長白山(白頭山)から産出する黒曜石を素材とし、北海道における細石刃石器群初頭の石器群と類似した資料が出土していると報告されていた。北海道への細石刃石器群の流入過程を考えるうえで、大陸においてすでに細石刃石器群の分化が起こっていたかどうかは、人類集団の適応戦略や移動・居住形態の観点から大変興味深いものである。これらの点を確認するために実見調査を行ったが、結果として、報告されていたような初期細石刃石器群は認められなかった。むしろ、後期細石刃石器群である広郷型や、忍路子型細石刃核、それらに特徴的に伴うトゥールが多く観察された。より重要な点は、北海道において初期細石刃石器群とほぼ同時期に存在する川西C型石刃石器群と類似する資料が確認されたことである。川西C型石刃石器群は、研究者によって本州以南から流入したとする説と、大陸から流入したとする説があるなど、その来歴が不明であった。両者とも大陸から同時期に北海道に流入したと考えた場合、同じ集団の所産であり、同一文化の異なる技術的側面を示すものか、または異なる技術をもった異なる集団が同時期に同じ地域に移住しある時期に共存していたのか、今後の議論の方向性に大きな影響を与える手がかりを得た。昨年度に行った石材調査や、今年度の調査成果をまとめた論文を執筆中である。目的としていた重要資料の調査をすべて行うことができ、成果の多い年度となった。
著者
高橋 洋
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1978

博士論文
著者
豊田 武
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1955

博士論文
著者
金田 淳子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

今年度は、マンガ同人誌の男性向けジャンル、女性向けジャンルのそれぞれについて、(1)同人誌のなかで何が描かれているか、(2)担い手はどのようなアイデンティティを持っているか、について調査・研究を行った。その結果、以下のことが明らかになった。まず(1)では、性的な物語に焦点を絞って分析した。男性向けジャンルにおいてはキャラクター(主に女性キャラクター)が性的対象として描かれるものが多かった。他方で、女性向けジャンルにおいては、キャラクター(主に男性キャラクター)を性的対象として描き出す側面もあるが、同時に2人のキャラクターの性的な「関係」を描き出すという側面が強く、このような物語内容は「やおい」と呼ばれる男性どうしの性愛を描く同人誌において、関係を表す専門用語が案出されるなど、特に発達していた。このように、本研究では性的な物語の形式におけるジェンダー差が明らかになった。また(2)では、同人活動を行う者は男女ともに「おたく」というアイデンティティを持っており、「おたく」集団内でのより高い地位の獲得を求めて同人活動を行っている。「おたく」集団においては固有の文化資本が形成されており、それは「(同人活動への)愛」「(同人誌制作の)技術」「(同人誌市場における)人気」「(マンガについての)知識」などである。このうち、「知識」を文化資本とする傾向は男性のみに見られた。ただし「おたく」はアンビバレントなカテゴリーであり、「おたく」集団内での地位がそれほど高くない多くの当事者においては、男女とも、自らが「おたく」であることを自己卑下し、隠す行動や、隠す行動を規範化する言説が見られた。このように本研究においては、マスメディアで「おたく」が肯定的にとりあげられるようになった現在でも、多くの当事者にとって、「おたく」が否定的なアイデンティティとして生きられている側面が明らかになった。
著者
嶋田 正和 柴尾 晴信 笹川 幸治 石井 弓美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

寄生蜂ゾウムシコガネコバチと宿主アズキゾウムシとヨツモンマメゾウム による3種累代実験系を構築し、個体数動態を調べた。豆はアズキとブラックアイを組み合わせて捕食圧を調整した。この寄生蜂は頻度依存的捕食を発揮し、豆内の幼虫・蛹の密度に依存して選好性を切り変える。蜂の導入により、最大で118週まで3者の共存持続が維持され、そこでは2種の宿主の交代振動が現れていた。学習実験では雌蜂が条件づけされた宿主の匂いに惹かれて多く寄生していた。多い宿主種に選好性を高め、少ない宿主種が寄生を免れることで、3種の共存持続性が高く維持されていた。
著者
松永 義夫
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1958

博士論文