出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2015

審査委員会委員 : (主査)東京大学特任教授 木村 廣道, 東京大学教授 新井 洋由, 東京大学教授 楠原 洋之, 東京大学特任教授 津谷 喜一郎, 東京大学准教授 小野 俊介
著者
三木 祥治
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度は、昨年度単離を行った腸管内の常在性細菌及びその菌に感染する腸内常在性バクテリオファージを用いて、それらの混在によってin vitroで免疫細胞に対してどのような遺伝子誘導を引き起こし、in vivoでどのような生理現象を引き起こされるか明らかにすることを目的に実験を行った。まず昨年度マウス腸管内内容物から単離した菌についてPCR法を用い菌種同定を行ったところ、この菌が腸球菌の一種(En.)であること、またファージについて全ゲノムシークエンス解析を行ったところ、新規ファージ(E.ファージ)であることが明らかとなった。次にin vitroの検討として、qRT-PCR法を用い解析を行った。Raw細胞をEn.及びE.ファージで刺激したところ、En.単独刺激と比較して、IL-6の遺伝子誘導が約5倍増強されることが明らかとなった。一般的にファージが宿主菌に感染すると溶菌が引き起こされることが知られていた為、このRaw細胞をEn.及び溶菌を引き起こす抗生物質を用いて刺激したところ、E.ファージを用いた検討と同様に、En.単独刺激と比較して、約4倍IL-6の遺伝子誘導が増強された。一方、溶菌を引き起こさない抗生物質を用いた検討ではIL-6の遺伝子誘導の増強は全く見られなかった。これらの検討から、En.の溶菌によって免疫細胞からIL-6の遺伝子誘導が引き起こされることが示された。さらにin vivoの検討としてDSS誘導性大腸炎を引き起こしたマウスにおいてE.ファージを投与したところ、E.ファージを投与した群ではcontrol群と比較してDSS誘導性大腸炎に対し感受性を示すことが明らかとなった。この結果について、IL-6はDSS誘導性大腸炎の増悪因子であることから、En.の溶菌により腸管内免疫細胞からIL-6の遺伝子誘導が強く引き起こされた為ではないかと考えられる。
著者
豊田 太郎 本多 智
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は,水中で化学エネルギーを運動エネルギーに変換する有機微粒子(ここでは有機アクティブマターと呼ぶ)が,多数の集団になったときに初めて現れる群れの現象と,過去の動きの履歴が時間発展の中に現れる現象を,バクテリアモデルとして構築し,その中での分子レベルのダイナミクスの時空間発展を理解することが目的である。有機アクティブマターの中でも,バクテリアサイズの等方相液滴や液晶滴に焦点を絞り,群れの動きや個々の時間発展に内在する,分子-微細構造形成-アクティブマターの動きという,動きの階層性の時空間発展の本質に迫る。本年度は,有機アクティブマターを観察するためのデバイスに用いる材料開発を主眼に研究を行った。粒径が数十マイクロメートルの有機アクティブマターの動きの履歴現象を追跡するためには,同じ空間を動きまわるだけでなく,動いている間に空間そのものが変化する摂動を加えてその応答を観察する必要がある。デバイスの材料として用いられるポリジメチルシロキサンは熱によって形状可変であるが,観察系への加熱はアクティブマターの動きにも影響を与える。そこで,光によって局所形状可変な新規ポリジメチルシロキサンを開発した。このポリジメチルシロキサンは,主鎖末端のヘキサアリールビイミダゾールの光による切断と再結合によって,星型ポリマーとネットワーク型ポリマーとを繰り返し行き来できるものである。紫外線照射によって,このポリジメチルシロキサンが無溶媒下でも,流動化と非流動化を繰り返すことができることを実証した。
著者
仲井 由宣
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1962

博士論文
著者
小室 弘毅
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.17-26, 2001-03-15

This paper attempts to reexamine the criticism on the "Taisho culturalists" in "the Attempt to modern histoy" by Junzo Karaki. Karaki criticises "Santaro's Diary" by Jiro Abe for its dilettantism. I divide the ideology of the culturalizum into the concept of the cultivation in the "Taisho culturalists" and in the next generation. I attempt to prove that Karaki really attempted to criticise not the concept of the cultivation in the "Taisho culturalists" but in the next generation. For that, I classify the cultivation into "the cultivation as lived" and "the cultivation as written". "The cultivation as lived" is the self-cultivation. "The cultivation as written" is the view of cultivation and the result of "the cultivation as lived". I attempt to examine how "the cultivation as written" is read.
著者
堀井 秀之 小松崎 俊作 中川 善典
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

東洋町(日本)・ヴェレンベルグ(スイス)・ビュール(フランス)・慶州(韓国)における放射性廃棄物処分地決定プロセスの政治過程分析を通じて,情動的ステップと理性的ステップの2段階で構成される住民の態度形成過程を分析するモデルを構築した.そのモデルを用いて日本の政治過程を再度分析した結果,信頼や恐れ,怒りといった要因が影響する情動的ステップの段階で反対態度が形成されているにも関わらず,交付金等理性的ステップでの影響要因を操作する立地政策が採られていることが本質的課題であると示唆された.
著者
久和 茂 池 郁生 酒井 宏治 滝本 一広 山田 靖子 山田 靖子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

マウスノロウイルス(MNV)は2003年に報告された新規マウス病原体で、まだ不明な点が多い。血清あるいは分子遺伝学的方法を用いた疫学調査により、日本の実験用マウスコロニーにおいてMNVの感染がなり拡がっていることが見出された。診断法の改良として、組換えVP1タンパク質を用いたELISA法の基盤を構築し、また簡便さ、速さ、検出感度に優れているRT-LAMP法を開発した。近年動物実験施設の衛生管理に多用されている弱酸性次亜塩素酸水がMNVの不活化作用を持つことを見出した。デキストラン硫酸塩(DSS)誘発炎症性大腸炎モデル、あるいはマウス肝炎ウイルス(MHV)感染症モデルの実験結果をMNV感染は修飾することが示された。
著者
笠井 清登
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

388名の気分障害患者の既存データを用いて、認知機能は自覚指標と関連し、他覚指標との関連は有意ではないことを示した。自覚ウェルビーイング/イルビーイングと他覚ウェルビーイング/イルビーイングを担う脳基盤は一部異なるという仮説が支持された。そこで大うつ病性障害患者309名を対象に、NIRSにより測定した語流暢性課題施行時の賦活反応性を用いて、自覚的うつ症状・他覚的うつ症状のそれぞれと相関する脳部位の検討を行った。他覚的うつ症状の重症度と下前頭回領域、自覚的うつ症状と両側側頭部領域の間でそれぞれ負の相関を認めた。また、自覚・他覚的うつ症状の重症度をそれぞれ標準化(Z[自覚うつ]、Z[他覚うつ])し、それらの差分により得られた乖離の程度(Z[自覚うつ]-Z[他覚うつ])と賦活反応性の相関を検討したところ、いくつかの脳部位で相関傾向を認めた。うつの自覚指標と他覚指標に一定以上の乖離がある大うつ病性障害患者群(N=6)と自覚指標と他覚指標に乖離がない大うつ病性障害患者群(N=10)における構造MRIと安静時機能的MRI(rs-fMRI)の予備解析を行った。構造MRIでは自覚指標と他覚指標の乖離群において左下前頭回で有意な体積低下を認め、他覚的うつ指標と体積低下は正の相関を示した。rs-fMRIでは左外側頭頂皮質と両側中側頭回・後部帯状回・両側前頭極のRSFC (resting state functional connectivity)低下と左下前頭回・両側縁上回・淡蒼球とのRSFC上昇を認めた。全頭型プローブNIRS装置を用い22名の大うつ病性障害の患者のRSFCを計測し、78名の健常者のRSFCと比較した。うつ病群は健常群と比べ認知制御ネットワークの一部と考えられる左前頭前皮質背外側部―頭頂葉間でRSFCが低下し、他覚的うつ症状の強さと負に相関した。
著者
高安 伶奈
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本年度は最終年度でもあり、これまで研究してきた内容について、2つの論文を投稿した。1つはヒト唾液細菌叢の概日リズムの発見であり(DNA Res. 印刷中)、もう一つは腸内細菌叢が食事や病態の影響を受けない個人間で共通したきわめて普遍的な構造(累積相対量分布; CRAD)を持つことを発見し、さらにその形成メカニズムの数理モデルを考案した内容についてである(PLoS Comp. Biol, revised中)。昨年までに、唾液の細菌叢に概日リズムがあり、食事が与える影響が小さいことを発見していたが、新たに、食後30分前後に食事の内容や、個人によらず、Lautropia mirabilisの相対存在比が増加することを発見した。また、Lautropia以外にも、食事中や、食事直後に食事の内容等に応じて増加する細菌群を同定した。これらの内容を、11月にアメリカ・ヒューストンで行われたHuman Microbiome Congressでポスターにまとめ、発表を行い、その原因について情報交換を行った。現在、原因の探求についての追加実験の解析を行っており、今後論文として投稿する予定である。また、マウスの腸内細菌叢に対して抗生剤を単発投与する実験を行い、菌叢構造の入れ替わりは抗生剤濃度に応じて起こるものの、適量投与でも過剰量投与でも2週間程度で、水飲み投与のコントロール群と同等の水準まで回復し、その回復の速度にはある程度個体差があることを新たに発見した。
著者
佐藤 岩夫 広渡 清吾 小谷 眞男 高橋 裕 波多野 敏 浜井 浩一 林 真貴子 三阪 佳弘 三成 賢次
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、法社会学・法史学・犯罪学専攻の研究者の学際的・総合的な共同研究を通じて、19世紀から現代に至るヨーロッパ各国の司法統計(裁判所組織統計・訴訟統計・犯罪統計等)の歴史的・内容的変遷を詳細に明らかにするものである。研究成果として、ヨーロッパの司法統計の歴史的発展および内容を包括的に明らかにした研究書としては日本で最初のものとなる『ヨーロッパの司法統計I:フランス・イギリス』および『ヨーロッパの司法統計II:ドイツ・イタリア・日本』を刊行した。
著者
小橋 浅哉 谷川 勝至
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

紙は、植物を原料として製造されるパルプを主な成分としている。紙類に含まれる放射能のレベルや紙類をめぐる放射性核種の動態を明らかにするため次のような研究を行った。1 書籍中の^<137>Cs濃度の発行年に伴う変化は、^<137>Csフォールアウト降下量の年変化のパターンによく似ている。その原因を明らかにするために、国内で1960年代に印刷された書籍について、中身と表紙に分けて^<137>Csの含有量を測定した。中身はほとんど^<137>Csを含んでいなかった(0.2 Bq kg^<-1>以下)。表紙については、芯材の板紙が稲わらを原料とする黄ボールのものは^<137>Cs濃度が高く(1.0-5.7 Bq kg^<-1>)、チップボールのものには^<137>Csは検出されず、半黄ボールのものは両者の中間の濃度を示した(0.2-1.0 Bq kg^<-1>)。このことから書籍に含まれる^<137>Csは、ほとんど稲わらから来たことがわかった。書籍中の^<137>Cs濃度と^<137>Csフォールアウト降下量の年変化の類似は、稲わらの^<137>Cs含有量の年変化および1960年代半ばからの表紙の板紙の種類の変化により説明できる。2 国内で1990年代に発行された新聞および情報用紙について、天然放射性核種(^<226>Ra、^<228>Ra、^<228>Th、^<40>K)およびフォールアウト核種(^<137>Cs)の放射能を定量した。新聞試料中の天然放射性核種の濃度は低かった。情報用紙の一つには、30 Bq kg^<-1>もの濃度の^<228>Raおよび^<228>Thを含んでおり、これらの核種は、填料のカオリナイトによってもたらされたと推定された。^<137>Csは、情報用紙においては検出されなかったが、新聞については全試料において検出された(0.1-0.2 Bq kg^<-1>)。新聞用紙については、使用されている機械パルプに原料木材に含まれていたフォールアウトの^<137>Csの一部が残っているため、^<137>Csが検出されたと推定された。紙類に含まれる放射能の測定データをもとに、紙類の燃焼に伴いごみ焼却場から排出される放射能の影響について、石炭との比較により考察した。