著者
鈴木 猛
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

前年度よりすでに始めたCHILDESの検索及びデータベース化作業を継続した。up/down/out/on/offなどの前置詞・パーティクルを検索し、該当する発話を列挙し、重要なデータを整理中である。CHILDESのデータからTomasello (1992): First Verbsのデータに対する我々の解釈の妥当性を確認できる見込みである。すなわち、英語では経路を表すパーティクルは早い時期から述語として習得され、それが後の文法形成に影響し、二次述語として発達すると考えられる。発達理論的には、経路パーティクル(=satellite)が最初期から習得され、経路はそのままパーティクルが表しながら、動詞が足されていく。文法習得に継続性を認め、理由がない限り前段階の文法の特性が受け継がれ成長するという自然な仮定のもと、大人の英語におけるパーティクルの述語性が帰結として自然に得られると考えられる。動詞が後から習得されるのが事実なら、従来の一般的な動詞と補部という捉え方とはなじまず、非常に興味深い。本研究の成果は、動詞側から見直せば、英語における同文脈での動詞の意味的弱さへと結びついてくるのは必然である。さらに、パーティクルの中で、境界性を持つup, down, out等の方が、持たないものalong, around等より習得が早いという新たな一般性が見えてきた。述語になりやすいかどうかということと相関があると考えられる。今後考察を深めていきたい。また、日本語習得についてもデータを調べ、当初の予想通り、経路等の概念は最初期から動詞で表すことが見えてきた。軽動詞+satelliteで表すパターンは日本語では生まれないことが予測される。日本英文学会中部支部第69回大会シンポジウムにおいて招聘発表の機会があったので、収集したデータに基づいて発表を行った。
著者
杉原 隆 吉田 伊津美 森 司朗
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

日本全国の幼稚園・保育所109園の4〜6歳児、約12,000名を対象に運動能力測定および家庭と園の環境調査を行った。運動能力発達ならびに、運動能力と環境要因の関係について分析した結果の概要はおおよそ以下のようである。幼児の運動能力は1986年頃から1997年頃にかけて大きく低下し、1997年から2002年にかけては大きな変化はなく現在に至っていることが確認された。運動能力の発達に最も大きく関係していたのは、園と家庭での運動遊び時間や頻度などの運動経験要因であった。園環境としては、遊び友達の数、保育形態、担任の運動の得意不得意など心理社会的環境は運動発達と関係していたが、所在地や園舎園庭の広さや遊具の数など物理的環境との間にははっきりした関係が認められなかった。特に保育形態に関しては、一斉指導で運動指導をしている園より自由遊び中心の保育をしている園の方が運動能力が高いという注目すべき結果が得られた。家庭環境としては、遊び友達の数、家族構成、親の意識といった心理社会的環、遊び場の有無と運動遊具の数といった物理的環境の両者が運動発達と関係していたが、住宅形態や居住階層はほとんど関係していなかった。全体としてみると、運動発達との関係の強さは運動経験、心理社会的環境、物理的環境の順となり、分析の結果、環境(間接要因)⇒運動経験(直接要因)⇒運動発達という因果関係が認められた。
著者
馬場 哲生
出版者
東京学芸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

大学生を対象として速聴タスクの効果を検証した。学習内容としては英語の音声変化を取り上げ、タスクとしては音声識別の可否を詳細に判定出来る書き取りを用いた。各被験者の使用したマテリアルは、2枚のCD-R、27頁の問題タスク冊子(7日分)、9頁の解答用紙からなる。前半の3日間が弱形・同化・連結などの性質を持つ音声素材(1日約30分)による学習であり、後半の3日間が各種リダクションを扱ったより高難易度の音声素材(1日約40分)による学習である。調査は、1)プリテスト→2)6日間のリスニング学習→3)7日目のポストテスト、からなる。前半の3日間におけるタスクは、「a)書き取りテスト⇒b)学習タスク⇒c)書き取りテスト⇒d)学習タスク⇒e)書き取りテスト」を1セットとした。後半の3日間は、「a)書き取りテスト1⇒b)学習タスク1⇒c)書き取りテスト1⇒d)書き取りテスト2⇒e)学習タスク2⇒f)書き取りテスト2」を1セットとした。学習タスクは、実験群においては、「i)スクリプトを見ながら通常スピード音声の口頭反復→ii)スクリプトを見ながら1.5倍速の口頭反復→iii)スクリプトを見ないで1.5倍速のリスニング→iv)スクリプトを見ながら2倍速の口頭反復→v)スクリプトを見ないで2倍速のリスニング」を1セットとした。統制群においては、タスクはすべて通常スピードであり、「i)スクリプトを見ないでリスニング→ii)スクリプトを見ながら口頭反復→iii)スクリプトを見ないで口頭反復→iv)スクリプトを見ながらシャドーイング」を1セットとした。タスク前後の書き取りのパフォーマンスを実験群・統制群で比較することによって、学習の効果を検証した。実験群の明確な優位性は認められず、速聴は比較的効果の実感されやすい学習直後の音声認識においても必ずしも有用であるとは言えないことが示唆された。