著者
堀本 雅章
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-16, 2018

<p>沖縄県竹富町鳩間島は,西表島の北へ位置する人口約50人の島である。鳩間島では何度か,過疎化による廃校の危機に陥った。しかし,島外から子どもを受け入れ学校を維持してきた。</p><p>その後,交通網の整備,民宿の増加,食堂の開業など受け入れ態勢が整い,観光客が急増した。研究目的は,鳩間島の今後の望ましい観光客数や観光客の増加による変化など,観光に対する住民意識を考察することである。調査の結果,ほとんどの住民は観光客の増加または現状維持を望み,その理由は,「活気づく」,「経済効果」などである。一方,ゴミ問題や一部の観光客のマナーなどによる環境の悪化などの回答もみられた。「鳩間島の観光名所,魅力」については,最も多い回答は海で,何もないところ,のんびりできるなどの回答も多い。</p>
著者
瀧本 家康
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.17-35, 2013-06-10
参考文献数
25

梅雨明け時の熱帯対流活動活発化領域の位置の違いと日本周辺域の高度場の変化との関係を検討した。<br> 1979年から2002年の24年間において,日本付近のOLRを指標に梅雨明けが明瞭な20年間の梅雨明け日を定めた。これらの年について,梅雨明け日前後のOLRの合成図を比較した結果,フィリピン付近と西部北太平洋で対流活動が活発化する年(WP型,2年),フィリピン付近で活発化する年(P型,7年),西部北太平洋で活発化する年(W型,5年),両地域で活発化が起こらない年(N型,6年)の4つの型があることがわかった。P, W, N型の梅雨明け時の高度場の変化を調査した結果,梅雨明けには① 熱帯からの定常ロスビー波および偏西風ジェット上の定常ロスビー波の伝播による高気圧の強化(P型),② 偏西風ジェット上の定常ロスビー波の伝播による高気圧の強化(N型),③ 太平洋高気圧の東への後退(W型),という3つの機構があることが明らかとなった。また,熱帯対流活動が活発化する領域の違いが梅雨明けの引き金となる熱帯からの定常ロスビー波の発生の有無に関係している可能性が示唆された。
著者
菅野 康二
出版者
東北地理学会
雑誌
東北地理 (ISSN:03872777)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.199-211, 1977

There are two different regions in the migration of thatchers (Kayate) in east Fukushima Prefecture: Nakadori (Abukuma River Basin), where they come from Konan, Tamura, Adachi, Shintatsu and Yanagawa, and Hamadori (Coastal lowland) where they come from coastal upland.<br>In the original areas of thatchers, generally speaking, the farmers suffer low productivity in agriculture, and some of house holders must hold a side-job as thatcher to earn their living.<br>Except those in Yanagawa, they have inherited the skill from Nishiaizu in Fukushima Pref. Thatchers in Yanagawa have been greatly affected in their skill from Echigo (Niigata Pref.) or Shonai (Yamagata Pref.).<br>The Fukushima Basin is an overlapped area of the thatching techniques from Nishiaizu and from Echigo or Shonai.
著者
澁木 智之
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.207-224, 2021 (Released:2021-04-28)
参考文献数
11
被引用文献数
2

本稿では,新潟県と徳島県の大規模イベント時における宿泊施設の空き室状況の時空間的変化を,じゃらんWebサービスの空室検索APIから取得したビッグデータを用いて示した。その結果,イベント開催日の120日前時点におけるイベント開催地周辺の宿泊施設の空き室数減少や,イベント開催地を中心とした空き室数減少の空間的な広がりやその時系列変化,および宿泊料金の高騰を明らかにできた。また,本稿の最後には,Web APIから得られる空き室情報について,ビッグデータの新しい位置情報としての応用可能性について述べた。
著者
杉浦 直
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.207-222, 2018

<p>レブンワースは,カスケード山中に位置する資源依存型の山間小都市であったが,戦後1950年代には,産業基盤の弱化により衰退した。1960年代から市の再活性化が模索され始め,その過程でドイツ(ババリア)風に街並みを改造する「ババリア化」のアイデアが浮かび上った。その後さまざまな紆余曲折を経て,1970年代には建物改装のためのデザイン評価ガイドラインも制定され,2001年のガイドライン厳格化を経て,今日ではダウンタウンの建物のほとんどがババリア的建築要素をもつユニークなエスニックテーマ型のツーリストタウンが実現している。こうした「場所の構築」の文化的本質に関して以下の普遍的な意味が指摘できる。1)レブンワースでは他のテーマ性の強い観光空間と同様,ツーリスト向けの特殊な買い物空間が創出され,ビジュアルに特異な建造環境とともに様々なアイテムが消費されている。2)そこで見られるエスニシティは「発明されたエスニシティ」(Hoelscher, 1998)の性質が強いものであり,そこで謳われた真正性は所与のものではなく交渉され演出されたものであった。3)そこにおけるまちづくりの過程は,「空間的ストレス-シンボル化」モデル(Rowntree and Conkey, 1980)にきわめてよく適合する。</p>
著者
荒木 一視
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.53-73, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
27

近代工業勃興期にある1920年代の中国の食料の海外依存を検討した。その背景には,増加する鉱工業労働者への食料供給をどのようにして担ったのかという問題意識がある。当時の中国の穀物生産は拡大していないものの,鉱工業労働者は大きな増加を見るからであり,輸入穀物によってそれを賄ったのではないかと考えた。そこで中国の北京大学図書館で閲覧した『中國各通商口岸對各國進出口貿易統計』によって当時の食料貿易を把握した。期間を通じて上海を中心とした中部の港では欧米からの輸入拡大が認められた。従来それは中国の工業化に伴う工業原料の輸入とみられていたが,食料貿易も大きなシェアを持っていたことが明らかになった。特に小麦,米,小麦粉などの穀物の輸入がその主力であった。小麦においてはオーストラリアをはじめとしてアメリカ合衆国やカナダ,米においては香港をはじめとして英領インドやフランス領インドシナなどアジアからの輸入が中心であった。このように,20世紀初めの中国の近代工業化の一翼を支えたのは海外からの食料供給であったといえる。同時にそれは今日経済成長を遂げる中国とその食料の海外依存という文脈にも当てはまる。
著者
八木 浩司
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.83-91, 1993
被引用文献数
5 1

真昼山地・和賀岳東側斜面には最大傾斜方向にほぼ直交あるいはやや斜交し, 山稜側に相対する比高5~6mの逆向き小急崖と線状凹地が直線的に発達する。それら小急崖 (小崖地形) の走行は節理系の卓越走行と調和的で, 小崖地形周辺の基盤岩の前倒が認められた。また線状凹地内の堆積物は小崖地形よりも上部の斜面の沈下によってもたらされたような変形を示している。観察結果から小崖地形は, 山腹斜面が基盤岩の前倒により谷方向への反り返り, さらに山頂部が下部斜面に寄りかかるように沈下したことによって発達したものと考えられる。<br>和賀岳東面における基盤岩の前倒による小崖地形形成の引金として斜面に加速度的な振動をもたらす地震が考えられる。さらに小崖地形内で, 本来水平堆積すべき土壌・斜面物質が急斜し, その土壌・斜面物質の中部層準に約1000年前降下の十和田-a火山灰が挾在することから小崖地形の発達にかかわった最後の地変は1896年の陸羽地震の可能性がある。
著者
伊藤 晶文
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-18, 1999-03-15
参考文献数
25
被引用文献数
2 6

宮城県北東部に位置する北上川下流沖積低地を対象に, ボーリング資料解析, FeS<sub>2</sub>含有量分析, <sup>14</sup>C年代測定結果に基づいて, 完新世における内湾の拡大過程および埋積過程を復元し, 当低地の形成過程を考察した。とくに内湾の埋積過程については, 各時代の海岸線背後における河道の位置を復元することを目的の一つとして復元を試みた。<br>北上川下流沖積低地は, 従来想定されていた南北に連なる一連の埋没谷の埋積により形成された低地ではなく, 海水準が-7mに達した7,500年前までは, 三つの個別の埋没谷を埋積する低地であったことが明らかとなった。7,500年前以降の海水準上昇に伴い, 内湾の拡大によって一つの連続する水域となった。本地域にあった内湾は, そのうち最大め流域面積をもつ北上川によって大部分が埋積され, 支流迫川は埋積にはほとんど関与していないことが明らかとなった。
著者
駒木野 智寛
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.221-238, 2016 (Released:2016-06-23)
参考文献数
17

竪穴住居址の出入口は,家族空間への出入口であると同時に集落という社会空間への出入口である。しかし縄文時代の集落研究にとって重要な竪穴住居址の戸口の方位とその決定要因については明らかにされていない。本研究では,岩手県域145遺跡の竪穴住居址697棟の前庭部を対象に開口方向を計測し竪穴住居址の戸口の方位を明らかにした。河川水系ごとに竪穴住居址の戸口の方位と最近30年間(1977~2006年)のアメダス観測点の冬季と夏季の卓越風向の観測値を比較分析した。その結果,竪穴住居址の戸口は,谷の軸を考慮して風雪の影響が強い冬季の卓越風向を避け,東から南を経て南西の方位を指向する傾向が認められた。地形との関係では,戸口の方位を谷側に向けることで,雨水が竪穴住居内に流入するのを防いだと考えられる。気候との関係では,戸口から竪穴住居内への日照の確保をするとともに,冬季の吹雪による影響を避ける方位を選択していたものと考えられる。
著者
加賀谷 一良
出版者
東北地理学会
雑誌
東北地理 (ISSN:03872777)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.94-99, 1955

1. &ldquo;An unavailable time&rdquo; means the time between 24:00-6:00. <BR>2. A train which moves during &ldquo;the unavailable time&rdquo; is generally called a night-train. A long distance day-train is somewhat local from the point of &ldquo;an available time&rdquo;, but the night-train has a charac-teristic of the long distance. <BR>3. In our country, the night-train operates 71 times in going and returning. This in not conditioned by disance. For this reason the operation of the night-train suggests the degree of relation between both districts. Consquently the number of the Nitght-trains is a function of the relation degree. <BR>4. The night-train has both available an I unavailable zones between operation sections. But these distributions are different according to an operation-route; and by these facts we can know the areal construction through the mutual communication on areas. The principal unavailale zones are Sanyo, Tokai, Fukushima, Taira, Kitakami, Joetsu districts. The available zones are great cities (Tokyo, Osaka), San-in, Shikoku (Matsuyama, Koshi) Ou (on the side of Japan Sea, the middle basin) Spporo, Otaru, Niigata, Hokuriku (Kanazawa, Toyama). The distribution reveals one side of the areal structure of Japan. <BR>5. The night-train has a characteristic of long distant communication and at the same time the charac-teristic of locality, and is little available between too distant places. <BR>6. Unavailable zones are distributed between great cities and they only have a local character. Moreover they have a weak characteristic of mutual communication in unavailable zones. <BR>7. The district which can be reached in three hours from great cities is the one where we can make a day-trip from the point of view of an available-sojourn-time, but it is seldom different from he &ldquo;available time&rdquo; in a directional area of the night-train. Accordingly, in the inclination from great cities towards the districts exists a depressed area like a &ldquo;Graben&rdquo; just outside &ldquo;the three hour area&rdquo;, and the power of a city decreases in it and increases again in a directional area. I think this consequence would have an influence upon the distribution of cities on one side. <BR>8. The operation of the night-train provides facility to the connection of a far distant district directly. It is impossible to return on the same day from those places as Gifu-Toyama, Sendai-Akita, but by the night-train we can have much more available-sojourn-time. Namely this is considerable matter to be thought for the benefit of the development of districts.
著者
荒木 一視
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.53-73, 2019

<p>近代工業勃興期にある1920年代の中国の食料の海外依存を検討した。その背景には,増加する鉱工業労働者への食料供給をどのようにして担ったのかという問題意識がある。当時の中国の穀物生産は拡大していないものの,鉱工業労働者は大きな増加を見るからであり,輸入穀物によってそれを賄ったのではないかと考えた。そこで中国の北京大学図書館で閲覧した『中國各通商口岸對各國進出口貿易統計』によって当時の食料貿易を把握した。期間を通じて上海を中心とした中部の港では欧米からの輸入拡大が認められた。従来それは中国の工業化に伴う工業原料の輸入とみられていたが,食料貿易も大きなシェアを持っていたことが明らかになった。特に小麦,米,小麦粉などの穀物の輸入がその主力であった。小麦においてはオーストラリアをはじめとしてアメリカ合衆国やカナダ,米においては香港をはじめとして英領インドやフランス領インドシナなどアジアからの輸入が中心であった。このように,20世紀初めの中国の近代工業化の一翼を支えたのは海外からの食料供給であったといえる。同時にそれは今日経済成長を遂げる中国とその食料の海外依存という文脈にも当てはまる。</p>
著者
神田 兵庫 磯田 弦 中谷 友樹
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.91-106, 2020
被引用文献数
4

<p> 本稿では,1980年から2015年における市町村別人口および1kmメッシュ人口から,日本の大都市雇用圏がこれまでに経験した都市構造の変遷を把握した。その結果,日本の都市圏の多くは,クラッセンの都市サイクルモデルの想定とは異なり,いわゆる人口が増加した都市化や郊外化の段階を経験した後,都市圏全体として人口が減少する局面を迎えると,中心部の人口の割合が相対的に上昇する集中化(中心化)傾向を示すことが明らかとなった。また,人口減少局面においては,都市構造の遷移は小規模な都市圏の傾向を中規模以上の都市圏が追随する傾向にある。</p>
著者
林 秀司
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.126-138, 1998-06-15
参考文献数
11
被引用文献数
1 3

近年育成されたいくつかの水稲うるち米の良食味品種の普及を, GISソフトの Arc/Info を使って作成した作付比率の分布図を用いて, 地域的普及の視点から明らかにした。<br>多くの品種の普及地域は育成道府県に限定されているが, あきたこまち, キヌヒカリ, ヒノヒカリ, ひとめぼれは比較的広範囲に普及した。あきたこまち, ヒノヒカリ, ひとめぼれには育成県とその周辺で高い普及率を示す距離減衰的な普及パターンを示すと同時に, 飛地的な普及パターンが認められた。一方, キヌヒカリは明確な普及の中心がみられず, 分散的に普及した。このような水稲品種の普及には, 奨励品種の指定等の政策的要因が影響していることが考えられる。
著者
米地 文夫
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.104-112, 2017 (Released:2017-08-12)
参考文献数
22
著者
堀本 雅章
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-16, 2018 (Released:2018-09-15)
参考文献数
14

沖縄県竹富町鳩間島は,西表島の北へ位置する人口約50人の島である。鳩間島では何度か,過疎化による廃校の危機に陥った。しかし,島外から子どもを受け入れ学校を維持してきた。その後,交通網の整備,民宿の増加,食堂の開業など受け入れ態勢が整い,観光客が急増した。研究目的は,鳩間島の今後の望ましい観光客数や観光客の増加による変化など,観光に対する住民意識を考察することである。調査の結果,ほとんどの住民は観光客の増加または現状維持を望み,その理由は,「活気づく」,「経済効果」などである。一方,ゴミ問題や一部の観光客のマナーなどによる環境の悪化などの回答もみられた。「鳩間島の観光名所,魅力」については,最も多い回答は海で,何もないところ,のんびりできるなどの回答も多い。
著者
田中 健作
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.67-84, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
29
被引用文献数
3 4

本研究では,広島県北広島町大朝地区におけるデマンド型交通(DRT)のサービス供給方式と運営関係者の組織化過程を検討した。国や広島県の地域公共交通政策が変更される中,北広島町は,町村合併に伴う公共交通再編成を進め,DRTを導入した。北広島町大朝地区の場合は,多様なアクターがDRTの運営に関与し,利用特典を独自に設定したり,車両を積極的に利活用したりすることで経営基盤を強化させていた。こうした特徴を持つ大朝地区のDRTの運営関係者の組織化過程を考察すると,町は交通事業者側の経営自由度を高め,その下で大朝地区の交通事業者は,独自の運営方式を可能とする緩やかなネットワークを既往の地域的な諸関係を基にして構築していたことが判明した。そこでは,キーパーソンとなる交通事業者のH氏が,利用者の視点からサービスが向上されるよう,運行を支援する地区内の各事業者を位置付けていた。一方の運行を支援する各事業者も自らの活動のツールとしてDRTを位置付けた。これらの結果,交通経営と各アクターの事業の運営の双方にメリットが生み出されるようなサービス供給体制が構築されていた。
著者
手代木 功基 藤岡 悠一郎 飯田 義彦
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.100-114, 2016 (Released:2016-09-15)
参考文献数
36
被引用文献数
1

トチノミ食文化に関する研究では,これまでトチノミの加工技術やトチノミ加工食品の地域的な差異が明らかにされてきた。一方で,トチノミ加工食品は都市住民も含めた観光客の需要に応えるなかで商品化が進み,自家消費を中心とした利用形態から変容している。本稿では,地域の特産品などを販売し,全国の山間地域に数多く分布する道の駅に注目し,トチノミ食の地域的な分布状況を明らかにした。道の駅販売所への電話調査およびアンケート調査の結果,従来から全国的に利用が知られるトチモチが広範囲で販売されていることが明らかとなった。また,トチノミセンベイやトチノミカリントウ,トチノミアメといった多様な商品が販売されていた。生産者に注目すると,トチモチが個人や組合による生産が多い一方,他の製品は企業による販売が多い傾向がみられた。そして,トチノミ加工食品はトチノミ食文化が根付いていた地域で販売される傾向があったが,食文化が根付いていない地域においても販売されていた。
著者
藤木 利之 守田 益宗 三好 教夫
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.189-200, 1998-08-31
参考文献数
19
被引用文献数
1 6

岡山県日生町にある頭島で採取された44mボーリングコアの花粉分析を行った。このコアは粘土・砂質粘土・砂・礫・腐植土・火山灰から成る。2,368-2,360cmで21,100±400yrB. P. という<sup>14</sup>C年代測定結果が得られ, 1,900-1,890cmでアカホヤ火山灰, 2,540-2,360cmで姶良火山灰が確認されている。<br>分析の結果, 9花粉帯と2無化石帯が認められた。サルスベリ属の花粉が出現する層を温暖期, 化石花粉の出現しない層は寒冷期と考えると, このコアは4回の温暖期 (KS-9, 8, 6, 4-1) と3回の寒冷期 (KS-7, 5, BZ-2, 1) に堆積したものである。KS-4~1は後氷期である。
著者
新沼 星織 宮澤 仁
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.214-226, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2 4

本稿は,2011年の東日本大震災による医療機関への津波被害について,① その地域的特徴を分析し,② 被災患者の内陸部医療機関への搬送状況を検討した。① では,岩手県と宮城県を対象に分析した結果,診療所は中心市街地を沿岸部に形成する岩手県三陸南部地域から宮城県仙台湾地域の北部にかけて浸水率が高く,病院は大規模県立病院の高台立地傾向が強い岩手県より,小規模な市町立病院と民間病院を沿岸部に構える宮城県で浸水率が高いことが明らかとなった。そして ② では,医療機関の浸水率が高かった宮城県南三陸町に注目した調査の結果,隣接する登米市内の医療機関へは,外来診療患者は相当数搬送されていたものの,入院患者の搬送は,病床不足のため限定的であったことがわかった。このことは,平時より縮減体制にある医療システムは,災害時の脆弱性を増大させる可能性を示唆している。