著者
岡崎 敏昌 塩野 知志 安孫子 正美 佐藤 徹
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.589-593, 2013-07-15 (Released:2013-07-29)
参考文献数
22

症例は78歳男性.2004年8月前立腺癌経過観察中のCTで前縦隔腫瘍を指摘された.胸部X線で右肺門部に突出する腫瘤影,CTで前縦隔に60×28 mmの石灰化を伴う腫瘤を認め,超音波ガイド下針生検を施行した.胸腺腫との診断が得られ,胸腺摘出術を施行した.術後病理は胸腺腫WHO type ABで正岡II期であった.2008年7月から右前胸部に3 cmの硬い無痛性腫瘤が出現した.CTでは前胸壁に45×15 mmの腫瘤であった.胸腺腫の胸壁再発を疑い腫瘍摘出術を施行し,術中迅速で胸腺腫再発と診断した.術後断端陽性であったため放射線治療60 Gyを追加した.現在明らかな再発を認めていない.針生検による穿刺経路播種をきたした胸腺腫の1例を経験したので報告する.
著者
松倉 規 小阪 真二 國澤 進 澁谷 祐一 岡林 孝弘
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.20, no.7, pp.933-937, 2006-11-15 (Released:2008-11-04)
参考文献数
12

著明な好中球減少を伴う急性骨髄性白血病の治療前精査で胸部異常影を認め,手術にて肺非定型抗酸菌症と診断された症例を報告する.症例は55歳,男性.急性骨髄性白血病で血液内科入院中に左上肺野の腫瘤影を指摘された.気管支鏡検査では確定診断は得られなかった.画像上は肺癌や肺結核,肺真菌症などの感染症が疑われた.術前血液検査で白血球数1460/μl,好中球数226/μlと好中球減少が著明であった.白血病治療を早期に開始する必要があり手術を行った.術中針吸引にて肺非定型抗酸菌症と診断され左上区切除術を行った.術後G-CSFは使用せず,抗生物質はパニペネムと硫酸アミカシンの2剤を投与した.術後肺炎や創部感染などの合併症なく良好に経過した.
著者
近藤 健 徳永 義昌 齊藤 正男 中川 達雄
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.7, pp.729-733, 2012-11-15 (Released:2012-12-13)
参考文献数
13
被引用文献数
2 5

CTの進歩により小さな肺結節が多数発見されるようになった.それらの病変を術中に同定することは困難な場合があり,しばしばニードルマーカーが使用される.しかし,この手技に伴う空気塞栓の合併が稀に報告されている.当院ではこれまで139例のCTガイド下針マーキングを施行し,2例の空気塞栓を経験したので,考察を加えて報告する.1例目は71歳女性,網状影に加えて両肺多発粒状影を指摘された.結節の一つに対してマーキングを施行したところ,直後に意識消失を来たした.CTにて脳空気塞栓症と診断した.2例目は72歳男性,右下葉肺腫瘤と,右中葉に小結節を指摘された.この小結節にマーキングを施行したところ,直後に胸痛が出現した.CTにて冠動脈空気塞栓症と診断した.2例とも安静等により空気栓が減少し,症状も改善した.空気塞栓症は重篤な経過をたどる可能性もあり,マーキングの適応については熟慮を要する.
著者
中野 哲宏 清水 公裕 大谷 嘉己 懸川 誠一 森下 靖雄 竹吉 泉
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.859-864, 2007-09-15 (Released:2008-11-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2 6

症例は69歳,女性.検診の胸部単純X線写真で右上肺野に異常陰影を指摘された.胸部CTで,右肺上葉S3に径1cm大の小結節を認め,CTガイド下経皮的肺針生検を施行した.穿刺直後に意識消失,ショックに陥った.蘇生処置後のCTで中大脳動脈領域に空気泡が複数見られた.空気塞栓症の診断で,高圧酸素治療を開始したところ,脳血管内の気泡は著明に減少し,意識レベルも改善した.以後連日6日間の高圧酸素治療で,当初認められた左半身の麻痺は徐々に改善し,発症後7日目の時点で左手指に軽度の運動障害を残すのみとなった.CTガイド下経皮的肺生検による合併症の中では,空気塞栓症の頻度は極めて低いが,重篤であり,速やかな診断と適切な治療を要する.
著者
市原 智史 長阪 智 田崎 拓朗 横手 芙美 桑田 裕美 喜納 五月
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.608-613, 2014-07-15 (Released:2014-08-20)
参考文献数
17

症例は74歳女性.16年前に右拇指悪性黒色腫の切除術を受けていた.当科紹介1年前頭痛,ふらつきが出現.前医で右前頭葉と右肺中葉の腫瘤影を指摘された.症状改善と診断目的に当院脳神経外科で開頭腫瘍摘出術を施行.黒色腫脳転移と診断された.症状改善後気管支鏡検査でも同診断となり,当科受診した.肺転移切除で閉塞性肺炎が改善し転移巣全摘除と判断.外科的治療を選択した.胸腔鏡補助下右肺中下葉切除術およびND2a-2を施行.経過良好であったが,術後2ヵ月目急激な脳と気管気管支内腔の局所再発を来し,術後4ヵ月目に死亡した.脳と肺の転移に対する外科的治療は予後を改善し得なかったが,組織学的診断と症状改善の点で有効であった.同疾患既往がある場合,経過期間に関わらず転移再発を考慮すべきである.また転移再発に対する外科的治療の有効性と適応について,さらなる検討が必要である.
著者
永廣 格
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.726-730, 2009-07-15 (Released:2009-12-14)
参考文献数
16

症例は59歳女性.咳嗽・喀痰・呼吸困難で近医を受診後胸部異常影で当科紹介となった.臥位では咳漱を生じるため半座位で眠っていた.来院時の血液検査ではWBC 14600/μl,CRP 12.9mg/dlと炎症所見を認めた.胸部X線では左横隔膜の挙上と拡張した大腸ガス像が左下肺野に認められた.胸部CTでは巨大結腸と左横隔膜の頭側への著明な圧排が認められた.主訴は呼吸器症状であり腹部臓器の観察の必要はないと考え胸腔側から手術を行った.左第7肋間開胸で弛緩した横隔膜を部分切除後マーレックスメッシュで補強した.術後呼吸器症状は改善し臥位でも睡眠できるようになった.横隔膜弛緩症を修復し巨大結腸を腹腔側へ圧排することに伴う腹部症状の悪化を懸念していたが,もともと存在した便秘以外は認めなかった.
著者
吉村 誉史 張 吉天 大畑 恵資 伊東 真哉 松原 義人 寺田 泰二
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.532-537, 2014-05-15 (Released:2014-06-13)
参考文献数
11

肺ヒストプラズマ症は国内ではまれな真菌感染症であるが,輸入真菌症としてその報告が近年散見されるようになっている.今回我々は,中米滞在後の帰国時健診で発見された肺ヒストプラズマ症の1手術例を経験したので報告する.症例は55歳,女性.海外ボランティアとして2年間ホンジュラスに滞在し,帰国時健診で胸部異常陰影を指摘され,当科を受診した.胸部CTでは左肺下葉胸膜に接して26 mm大の腫瘤を認めた.気管支鏡検査では診断に至らず,胸腔鏡下左肺下葉部分切除術を施行した.病理組織所見は,同心円性層状構造がみられる類円形腫瘤で凝固壊死組織からなっていた.Grocott染色では腫瘤中心部に卵円形真菌を認め,肺ヒストプラズマ症と診断した.
著者
光井 卓 清水 奈保子 田中 雄悟 大路 剛 亀井 克彦 眞庭 謙昌
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.57-61, 2020-01-15 (Released:2020-01-15)
参考文献数
15

症例は46歳女性.中米を拠点として中南米で勤務している.健診で胸部異常陰影を指摘され,CT検査で右肺下葉に辺縁明瞭な2 cmの小結節が認められた.現地でCTガイド下生検術を施行されるも悪性所見は認めず,抗酸菌,真菌の感染所見も認めなかった.精査目的で帰国後,前医で気管支鏡検査を施行されるも壊死のみで診断がつかず,肺生検目的で当科に紹介となった.胸腔鏡下右下葉部分切除術を施行し,術中迅速検査にて悪性所見は認めず,炎症性肉芽腫の診断であった.検体は黄白色調,凝固壊死を伴った類上皮肉芽腫であり,病理診断では抗酸菌染色は陰性,Grocott染色で類円形,楕円形の酵母様真菌が認められた.術後血清H. capsulatum陽性を確認し,肺ヒストプラズマ症と診断した.免疫正常者であり,無症状であることからIDSAガイドラインに則り,経過観察となった.術後20ヵ月現在,感染の再燃なく経過している.
著者
石田 裕人 岡見 次郎 須﨑 剛行 楠 貴志 徳永 俊照 東山 聖彦
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.172-175, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)
参考文献数
8

症例は61歳男性,右中葉肺癌に対して右中葉切除術を行った.術中にタコシールⓇを2回使用し,1回目は上肺静脈に約1 cm2使用し,2回目は1時間後に肺瘻修復と先程の上肺静脈の追加補強のために約22 cm2使用した.その約10分後に,収縮期血圧が40 mmHg台まで急激に低下し,昇圧剤投与にも反応乏しく,血圧低値が続いた.術野に明らかな出血はなく,患者の顔面や頸部,上腕に紅潮・膨隆疹を認めたため,アナフィラキシーショックと判断した.タコシールⓇが原因である可能性を疑い,全てのタコシールⓇを除去し,生理食塩水で貼付部を洗浄した.約10分後に血圧は改善し,昇圧剤への反応は良好であった.後日,リンパ球刺激試験(DLST)を行い,2回目で陽性判定となったため,タコシールⓇによるアナフィラキシーショックと診断した.タコシールⓇによるアナフィラキシーショックは非常に稀であり,注意喚起も含めて報告する.
著者
近藤 泰人 玉川 達 園田 大 松井 啓夫 塩見 和 佐藤 之俊
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.12-20, 2019-01-15 (Released:2019-01-15)
参考文献数
26

抗リン脂質抗体症候群(APS)は,動静脈血栓症を伴う自己免疫疾患である.APS合併肺癌は稀で,その意義は明らかでない.【症例1】75歳女性.検診で血小板低値を認め,精査でAPSと診断された.胸部CTで右下葉に103 mm大の腫瘤影と#7リンパ節腫大を認めた.精査で扁平上皮癌(SCC)と診断され,右下葉切除術を行った.入院時に血小板低値を認めた.術前,術中に血小板輸血を行い,合併症なく退院した.【症例2】66歳男性.副甲状腺腺腫精査のMIBGシンチグラフィーで左S6に31 mm大の腫瘤影を認めた.精査でSCCと診断され,左下葉切除術を行った.入院時に血小板低値と凝固時間延長を認めた.既往歴にAPSと心房細動があり,バイアスピリンとワルファリンを内服していた.術前に同薬剤を休薬し,未分画ヘパリンを投与し,合併症なく退院した.APS合併肺癌の外科的治療には慎重な周術期管理を要すると考える.

1 0 0 0 OA 食道破裂の3例

著者
法華 大助 良河 光一 森本 真人 上村 亮介
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.100-102, 2011-01-15 (Released:2011-04-27)
参考文献数
7

2009~2010年の1年間に,特発性食道破裂2例と異物性食道破裂1例を経験した.全症例でドレナージおよび破裂部縫合閉鎖術が施行されたが,症例1は発症8時間後に手術,症例2は発症4日目に胸腔ドレーン挿入,症例3は発症7日目に手術が施行された.症例1,2は術後経過良好であったが,症例3は術後10日目に大動脈破裂で死亡した.食道破裂は致死的合併症を起こしうる疾患であるが,発症からの経過が短いほど治療成績は良いとされており,発症後できるだけ早期に診断し対処することが重要である.
著者
西川 敏雄 村松 友義 松三 彰 井上 文之
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.92-96, 2008-01-15 (Released:2008-12-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

稀な真菌症である肺ヒストプラズマ症と診断された1例を経験したので報告する.症例は47歳,男性.検診にて胸部異常影を指摘され当院初診となった.右S9に10mm大の腫瘤を認めた.気管支鏡検査にてclass IIであり,また経過観察にて腫瘤の大きさ,性状とも変化を認めなかったが,肺癌の可能性も否定できなかったため手術を施行した.部分切除を行い,術中迅速病理検査にて悪性所見なしとのことであった.術後病理検査では当初クリプトコッカス症が疑われたが,抗体による免疫染色の結果では否定的であり,形態および遺伝子解析の結果よりヒストプラズマ症との診断であった.ヒストプラズマ症は国内での感染例は稀で報告例のほとんどは輸入感染症としてのものである.本症例は海外渡航歴はなく,国内での感染例である可能性もあるが,今後輸入感染症として増加することも考えられ,本疾患も念頭においた鑑別および治療が重要であると考えられた.
著者
川野 亮二 高橋 保博 小林 零 永山 加奈 北原 佳奈
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.171-177, 2020-03-15 (Released:2020-03-15)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

肺癌手術後に脳梗塞を発症した左肺上葉切除例2例と左肺下葉切除例1例を経験した.この内2例は脳血管内治療の適応となり治療後,身体所見の著明な改善を認めた一方で,1例は既に広範な領域の脳梗塞のために積極的治療の対象とならず予後不良の転帰をとった.近年,肺葉切除後に発生する脳梗塞は肺静脈断端部に発生した血栓に起因する可能性が高いことが報告され,特に左上肺静脈切離例にその頻度が有意に高いことが示された.本症例は肺静脈断端部の血栓の証明は得られていないが,左側の肺葉切除例であることや臨床所見などからいずれも肺静脈断端部に形成された血栓による脳梗塞の可能性が高いと考えた.脳梗塞急性期の治療は適応があれば脳血管内治療がきわめて有用な方法であるが,未だ施行可能な施設は限られる.肺静脈断端血栓の予防は外科手技的に困難と考えられる現状から,左肺腫瘍の葉切除例では術後抗凝固療法の施行を検討する必要がある.
著者
調枝 治樹 大越 祐介 竹尾 正彦
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.205-209, 2022-03-15 (Released:2022-03-15)
参考文献数
10

症例は79歳,男性.X年にCOVID-19に罹患し当院で入院加療を行い,第13病日に自宅退院となった.退院1週間後に右気胸を発症して,当院呼吸器内科でドレナージ治療が開始された.再入院後1週間でMRSA膿胸を併発し有瘻性膿胸として当科紹介となった.air leakは少量で発症早期の膿胸であることから胸腔鏡下肺瘻閉鎖術+胸腔内洗浄ドレナージ術を施行する方針としたが術中に肺瘻箇所の同定が出来なかったため,0.1%ピオクタニンⓇ水溶液を用いた洗浄を行って手術を終了した.術後はMRSAの浄化は得られたが,少量のair leakの遷延があったため癒着療法を3回施行した.肺瘻閉鎖が得られたため胸腔ドレーンを抜去し,術後26日目に自宅退院となった.COVID-19関連の気胸は軽快後も発症する可能性があり,易感染状態であれば膿胸を併発するリスクもあるため,適切な治療介入が必要であると考えられる.
著者
渡 正伸 片山 達也
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.626-630, 2006-05-15 (Released:2017-03-29)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

肺癌術後に健側肺のみに出現した急性肺障害のため術後ARDSに陥った症例を経験した.肺癌術後にALIやARDS等の急性肺障害を発症する場合,その多くは術前から肺に線維性変化が認められることが多く,術後急性増悪として理解されている.術後急性増悪によるARDS症例では通常,肺障害は両側性に現れるが,自験例では手術操作を加えていない健側肺にだけ認められた.なぜ手術操作を加えていない健側肺にのみ急性肺障害が生じたのか原因不明である.術中片肺換気におけるdepending lungであるためventilator-induced lung injuryの関与が疑われるが推論の域を出ない.過去に健側肺のみに生じた肺癌術後急性肺障害に焦点をおいた報告はなく,急性肺障害発症のメカニズムを探求する上でも貴重な症例と考え報告する.
著者
宮内 俊策 牧 佑歩 上野 剛 杉本 龍士郎 山下 素弘 高畑 浩之
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.598-603, 2017-07-15 (Released:2017-07-15)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

CT上,肺切除後のステープルラインにconsolidationを認める症例はしばしば経験する.今回,肺癌術後のステープルラインに増大する結節影を認め,切除を行った症例を経験したので報告する.症例1は77歳,男性.66歳時に右中葉,下葉肺癌に対して右中葉切除術,下葉部分切除術施行し,pStage IAの腺癌であった.経過観察中に右下葉S6のステープル近傍に結節影が出現し,経過のCTで増大傾向を認めたため右開胸S6区域切除術施行し,術後病理診断では炎症性変化の診断であった.症例2は66歳,男性.62歳時に左上葉肺癌に対して左上区域切除術施行し,pStage IAの腺癌であった.経過観察中に左肺門部に結節影が出現したため残存舌区域切除術施行し,術後病理診断では非結核性抗酸菌症の診断であった.本症例のような病態はステープル使用に伴う合併症として認識すべきである.
著者
土田 浩之 棚橋 雅幸 鈴木 恵理子 吉井 直子 渡邊 拓弥 千馬 謙亮 喚田 祥吾 井口 拳輔 内山 粹葉
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.116-121, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)
参考文献数
13

過去13年間において当院で手術加療した特発性血気胸15例について臨床的特徴を検討した.診断から手術までの平均時間は28.3時間(2-87時間).手術アプローチは小開胸を併用した胸腔鏡下手術13例,3PORTの胸腔鏡下手術2例であった.全例で胸腔頂部壁側胸膜の血管が出血源と同定でき,5例で複数ヵ所から出血を認めた.総出血量は平均1,298 mL(200-2,670 mL)で4例に輸血を要し,うち2例は術前にショック症状を呈していた.術後胸腔ドレーン留置期間は平均3.1日(2-7日)で,術後平均在院日数は5.4日(3-8日)であった.特発性血気胸は出血性ショックのリスクが高く緊急手術の適応と考えられ,手術の際は詳細な胸腔内観察が重要である.
著者
大角 明宏 寺西 潔 北村 将司 長澤 みゆき 神頭 徹
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.22, no.7, pp.1080-1083, 2008-11-15 (Released:2009-06-04)
参考文献数
16
被引用文献数
4 3

非常に稀な肺原発の腫瘍である淡明細胞腫の1例を経験した.症例は60歳の女性で,検診で胸部異常陰影を指摘された.診断および治療目的で胸腔鏡下右肺部分切除を行った.病理所見では,淡明な胞体を有する細胞が胞巣状に密に増殖し,間質には毛細血管が増生し,類洞様血管に囲まれていた.特殊染色はPAS陽性,免疫染色ではMelan A陽性であり,淡明細胞腫と診断した.病理学的には腎の淡明細胞癌の転移も完全には否定できなかったが,腹部CT上明らかな腎病変がないことから肺原発の淡明細胞腫と考えられた.
著者
蜂須賀 康己 藤岡 真治 魚本 昌志
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.633-638, 2022-09-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
12

症例は48歳,男性.健康診断の胸部単純X線写真で異常影を指摘され当院を受診した.造影CTで左後縦隔に被膜を有する5.5×5.3×5.0 cmの腫瘤を認めた.良性囊胞性腫瘍を疑い切除術を行った.術中所見で腫瘍は胸腔内迷走神経由来であった.病理検査の結果,高度な囊胞変性を伴ったancient schwannomaと診断した.迷走神経由来の後縦隔ancient schwannomaのまれな1例を経験した.
著者
戸田 洋 木村 愛彦
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.627-632, 2022-09-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
13

症例は56歳,女性.喘鳴と右胸背部痛を主訴に前医を受診し,胸部単純X線検査で大量の右胸水を認めたため,持続胸腔ドレナージが開始された後,当院へ転院した.胸部CT検査では右胸腔内に不整に造影される長径9 cm大の腫瘍を認め原発性肺癌が疑われたが,胸水細胞診では悪性所見は得られなかった.腫瘍マーカーの上昇は認めなかったが,胸水中アミラーゼ値が異常高値であったため,アミラーゼ産生肺癌などを念頭に置き,診断目的に手術を施行した.胸腔内は強固に癒着していたものの,剥離を進めると前縦隔から右胸腔内に有茎性に発育する,充実成分と囊胞成分が混在した腫瘍を認め,肉眼的に完全切除を行った.術中迅速診と永久標本の病理組織学的所見は,いずれも成熟奇形腫の診断であった.胸腔内に穿破した成熟奇形腫の報告は多いが,胸腔内に有茎性に発育し穿破した症例は検索し得ず,非常に稀な症例と考えられた.