著者
山本 恭通 戸矢崎 利也 小阪 真二
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.46-51, 2017-01-15 (Released:2017-01-15)
参考文献数
5

症例は63歳女性.左上下肢ミオクローヌスと歩行障害で緊急入院となった.頭部MRI上大脳皮質と皮質下に10日間で拡大するびまん性のT2高信号域を認めた.胸部CTで胸腺腫を疑う腫瘤影を認め,抗アセチルコリン受容体抗体が高値を示した.ステロイドパルス療法後に漸減療法を行ったが,失語,筋力低下,痴呆症状など神経症状と脳機能低下は急速に進行した.寝たきりとなり下肢静脈血栓症を併発した.傍腫瘍性神経症候群と診断し入院31日後に拡大胸腺摘出術を行った.胸腺腫Type ABでWHO分類pT1N0M0 I期,正岡分類I期であった.術後神経症状や脳機能低下は劇的に改善し術後32日に独歩退院した.比較的急速に進行する傍腫瘍性神経症候群は胸腺腫などの腫瘍と神経組織に共通する抗原に対する自己免疫が原因といわれ,悪化する神経精神症状に躊躇することなく胸腺腫に対する早期の外科治療が必要である.
著者
武市 悠 河野 匡 文 敏景 吉屋 智晴 一瀬 淳二
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.35-38, 2009-01-15 (Released:2009-06-11)
参考文献数
10

症例は87歳,男性.85歳時に左下葉肺癌に対し,胸腔鏡下左下葉切除術とリンパ節郭清(ND1)を施行した.病理は大細胞癌であった(p-T2N0M0,stage I B).経過観察中に右上葉に結節影が出現し,胸腔鏡下右肺部分切除術を施行した.病理は高分化型腺癌であった.術後合併症認めず,術後9日目に退院となった.現在2回目の手術から3年1ヵ月経過し,元気に存命中である.高齢者肺癌であっても,肺葉切除で良好な予後が得られており,また異時性多発肺癌では完全切除ができれば,手術が推奨されている.そんな中,超高齢者異時性多発肺癌患者においては,症例毎の慎重な検討の元,低侵襲である胸腔鏡下手術,縮小手術は治療の選択肢の1つとなり得る.
著者
直海 晃 黒田 浩章 水野 鉄也 坂倉 範昭 坂尾 幸則
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.476-481, 2016-05-15 (Released:2016-05-15)
参考文献数
23
被引用文献数
1

50歳代日本人女性.約30年間米国アリゾナ州に在住していた.帰国時の健診で胸部異常陰影を指摘され当院紹介となった.胸部CTにて右S8に9 mm大の辺縁整な結節を確認した.血液検査では有意な所見なく,診断的治療目的に胸腔鏡下右下葉部分切除を施行した.病理組織所見では,乾酪肉芽腫の壊死部に大型球形で透明感のある病原体が散在しており,米国在住歴・部位・被包乾酪巣であることより術後に慢性肺コクシジオイデス症と診断した.コクシジオイデス症は真菌の中では非常に感染力が強く,症状がなければ培養ならびに血清・血液学的検査での検出が困難である.そのため小型結節に対しては,詳細な渡航歴と画像所見から慢性肺コクシジオイデス症を疑い,二次感染予防に努めることが重要であると考えられた.
著者
荒木 修 苅部 陽子 田村 元彦 小林 哲 千田 雅之 三好 新一郎
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.223-228, 2016
被引用文献数
1

症例は55歳の男性.数年前から近医で両側巨大肺囊胞症と診断され在宅酸素療法が導入されていた.労作時呼吸困難がさらに悪化し手術目的に当院紹介となった.%肺活量38.7%,一秒量470 mlと高度の低肺機能を呈していたが,残存肺血管床は温存されていると考え,経皮的心肺補助装置使用下に2期的に囊胞切除術を行った結果,肺機能は著明に改善した.
著者
松本 和也 白石 伊都子 寺町 政美 中川 正嗣
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.770-775, 2007-09-15 (Released:2008-11-19)
参考文献数
14
被引用文献数
2 5

我々が経験した成人の急性膿胸に対する胸腔鏡下手術16例を検討した.男性13例,女性3例,年齢 25~82歳(平均61歳)で,発症から手術までの期間は10~50日(中央値26日),術後ドレナージ期間は9~62日(中央値12.5日),術後在院日数は14~106日(中央値22.5日)で,全例が軽快退院した.手術時期は10例が線維素膿性期,6例が器質化期であった.9例で2ポート,6例で3ポートにて手術可能であり,胸壁膿瘍を伴った1例で小開胸併施を要したが標準開胸への移行例はなかった.合併症は,3例にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による膿胸再燃,1例に肺瘻遷延を認めたが,再度の胸腔鏡下手術もしくは保存的治療で治癒した.急性膿胸に対する胸腔鏡下手術は有用な治療法であり,線維素膿性期での実施が望ましいが器質化期早期でも適応可能と思われた.起因菌がMRSAの場合は膿胸再燃を来す可能性が高く,術後胸腔洗浄などを考えるべきである.
著者
上林 孝豊 柳原 一広 宮原 亮 板東 徹 長谷川 誠紀 乾 健二 和田 洋巳
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.566-569, 2003-07-15 (Released:2010-06-28)
参考文献数
12
被引用文献数
2

目的・対象: 当院で手術を施行し, 病理組織学的に肺カルチノイドと診断された20症例 (定型15例, 非定型5例) の臨床的検討を行った.結果: 定型, 非定型の5年生存率は, それぞれ86.6%, 60%であった.定型の1期症例は術式に関わらず全例, 無再発で生存中である.非定型は全例, 葉切除および肺門縦隔リンパ節郭清が行われていた.1期3症例は, いずれも無再発で生存中であるが, T2N2のIIIA期症例, T4NOのIIIB期症例は, 集学的治療にも関わらずそれぞれ術後10ヵ月後, 61ヵ月後に遠隔転移にて癌死した.定型では観察期間1~250ヵ月間 (平均観察期間72.8ヵ月) において, 5年生存率は86.6%であった.非定型では観察期間10~251ヵ月間 (平均観察期間121, 4ヵ月) において5年生存率は60%であった.まとめ: T2の定型カルチノイドに対する縮小手術の可能が示唆された.またIII期以上の非定型カルチノイドに対しては有効な集学的治療の確立が望まれる.
著者
谷村 信宏 神田 裕史 川平 敏博 上谷 幸代
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.17, no.7, pp.710-714, 2003-11-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1 2

肺動静脈瘻 (以下PAVF) を伴ったRendu-Osler-Weber症候群の1家系, 5症例を経験した.症例1の多発性PAVFに対して瘻核出術及びコイル塞栓術の併用, 症例2は単発性の小動静脈瘻で部位的にコイル塞栓術困難であるため経過観察, 症例3はコイル塞栓術, 症例4は肺部分切除とコイル塞栓術の併用, 症例5は右S6区域切除術を行った.PAVFに対しては瘻が小さくても積極的に治療を考慮すべきであるが, 良性疾患であること及び再発を考慮し, 経カテーテル的塞栓療法を第一選択とし, 手術が必要な場合も瘻核出術などの肺機能を温存する縮小手術を行うべきである.
著者
橋本 崇史 宮脇 美千代 齊藤 華奈実 石川 一志 甲斐 宜貴 杉尾 賢二
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.741-747, 2014-09-15 (Released:2014-10-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1

頭皮原発血管肉腫の肺転移は,続発性気胸を高率に引き起こすことが知られている.症例は83歳,男性.80歳時,頭皮原発血管肉腫の診断にて皮膚科で手術療法,放射線療法,化学療法をうけ,寛解したが,20ヵ月後に薄壁空洞型の肺転移を認めた.その数日後に左気胸をきたし,当科へ紹介となった.胸腔ドレーンを留置したが,エアリークの改善なく,胸腔鏡補助下左上葉切除術を施行した.免疫組織化学的にCD31陽性であり,頭皮原発血管肉腫の肺転移巣と診断された.短期間で気胸の再発を認め,エアリークが持続したため,2回目の手術を行った.残存する左下葉に多発する薄壁の小嚢胞性病変を認め,その数ヵ所よりエアリークを認めた.小嚢胞を一部楔状切除し,被覆術を行った.小嚢胞も病理学的に頭皮原発血管肉腫の肺転移と診断された.気胸は治癒したが,原病の進行による呼吸不全のため術後36日に死亡した.本疾患の肺転移による気胸は難治性であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
川田 順子 神崎 正人 吉川 拓磨 前田 英之 村杉 雅秀 大貫 恭正
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.620-625, 2014-07-15 (Released:2014-08-20)
参考文献数
11
被引用文献数
1

胸腺腫合併重症筋無力症に対し,ロボット支援下拡大胸腺―胸腺腫摘出術を施行した症例を経験したので報告する.症例は50歳女性.右眼瞼下垂と両上肢筋力低下を主訴に近医を受診し,精査の結果,重症筋無力症(MGFA class IIa)と診断された.精査加療目的に当科紹介受診.胸部computed tomographyで前縦隔に46×35 mmの腫瘤を認めた.手術は左胸腔よりアプローチし,ダヴィンチサージカルシステムを用いて行った.ポート作成後,胸腔内に二酸化炭素を送気した.左横隔神経の前方で縦隔胸膜を切開し,胸腺左葉下極より上極まで剥離した.その後,対側である右縦隔胸膜を切開し,右横隔神経に注意しながら胸腺右葉も下極から上極の順に剥離し,胸腺および胸腺腫を摘出した.病理診断はtype B2,正岡分類I期であった.二酸化炭素送気で,左胸腔アプローチでも良好な視野の下に安全に手術を施行することができた.
著者
吉川 拓磨 神崎 正人 小原 徹也 大貫 恭正
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.156-160, 2009-03-15 (Released:2009-12-14)
参考文献数
8

症例は65歳女性.近医で胸部異常陰影指摘され,当院呼吸器内科を受診した.胸部CT上両側に数mm大の多発結節影を認めた.身体所見,血液検査所見に異常なく,喀痰培養検査,ツ反検査等から結核,真菌症,サルコイドーシスは否定的であった.PET検査でも,集積はなかったが,増大傾向を認めたため,確定診断をつけるため胸腔鏡下肺部分切除術を施行した.病理検査では,結節性リンパ組織過形成(NHL)と診断された.NLHはMALTリンパ腫と鑑別すべき疾患の1つであり,今後報告例はさらに増加すると思われる.NLHの中でも多発結節を呈する症例はいまだ報告例が少なく,病態,予後,治療方針に関し不明な点が多いことから,今後の症例の蓄積が必要と思われる.
著者
廣間 文彦 安田 雄司
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.818-822, 2008-07-15 (Released:2009-02-02)
参考文献数
7
被引用文献数
1

症例は26歳男性で右自然気胸にて入院となった.胸腔鏡下に手術を施行したところ,右第4肋骨より発生した骨軟骨腫を認め,これに対面する右中葉肺胸膜面に圧迫が原因と思われる瘢痕とブラを認めた.これが気胸の原因と判断し,骨軟骨腫と右中葉のブラを切除した.肋骨に発生する骨軟骨腫は稀で,これが原因で気胸が発症した症例は自験例を含めて本邦で4例と極めて稀な症例であった.
著者
永田 旭 平塚 昌文 吉田 康浩 柳澤 純 濱武 大輔 蒔本 好史 白石 武史 岩﨑 昭憲
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.136-140, 2013-03-15 (Released:2013-04-01)
参考文献数
9

食物誤嚥は気道異物の原因の中でも高い割合を占める.他の気道異物と比較して,①X線検査での確定診断が困難,②構造が脆弱で細片化しやすく,摘出が困難,といった点に特徴がある.気道内食物異物の診断・治療について我々の症例をまとめ考察した.2000年1月~2011年10月までに経験した気道異物9例のうち,食物異物6例.内訳は小児4例,成人2例で,原因となる食物は豆類が5例,肉片が1例であった.あらかじめ標準化された手順のもと,全例が全身麻酔下に異物摘出処置を受けた.3例が軟性気管支鏡下,3例が硬性気管支鏡下で施行され,摘出処置に起因する重篤な合併症の発生はみられなかった.気道インターベンションは複雑で多様性に富み,かつ危険を伴う外科処置であるが,他科の協力を含む手順の標準化(プロトコール化)により安全な施行が可能となると考えられた.
著者
今給黎 尚幸 大渕 俊朗 濱中 和嘉子 吉田 康浩 宮原 聡 柳澤 純 濱武 大輔 白石 武史 岡林 寛 岩崎 昭憲
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.595-599, 2011-09-15 (Released:2011-10-26)
参考文献数
10

肺分画症は,肺組織に体循環系の奇形性異常動脈からの流入を有する先天性疾患であり,肺葉内分画症と肺葉外分画症とがある.我々は1994年4月から2010年3月までに当院およびその関連施設で手術を行った肺分画症15例を対象とし,術前診断および手術手技を中心にその臨床像を検討した.術前に全例で造影CTが施行されたが確定診断に至ったものは11例であり,残りの4例は術中所見で診断された.下葉に嚢胞や硬化像が認められる症例では肺分画症も念頭に入れ,異常動脈を検索することが必要である.胸腔鏡手術は4例に適応され,その内2例で開胸手術に移行した.条件が整えば胸腔鏡手術でも安全に施行できる症例があることが確認された.異常動脈の処理における自動縫合器の使用については,本検討では8例に施行され合併症は認めず利便性と安全性を鑑みると十分容認できると考えられた.
著者
馬場 哲郎 浦本 秀隆 山田 壮亮 桑田 泰治 永田 好香 重松 義紀 下川 秀彦 小野 憲司 竹之山 光広 花桐 武志
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.002-006, 2011-01-15 (Released:2011-04-27)
参考文献数
12

肺カルチノイド切除10例について臨床病理学的因子と治療成績に関して検討を行った.定型的カルチノイド(TC)が7例で非定型的カルチノイド(AC)が3例.平均年齢は49.5歳で,男性6例,女性4例(全例TC)であった.術前にカルチノイドの診断がついたのは4例であり,他組織型の肺癌と診断されたのが4例.術式は肺摘除が2例,二葉切除が1例,肺葉切除4例,区域切除1例,部分切除1例,気管支形成術1例であった.TCでは術後(平均観察期間63ヵ月)の再発例はなく,ACは全例が再発.カルチノイド全体での5年生存率は62.5%で,TCは100%,ACでは5年生存例はなかった.TCについては機能温存手術の適応の検討が,ACについては周術期の補助療法など集学的治療の検討が必要であると考える.
著者
安藤 耕平 禹 哲漢 大森 隆広 田尻 道彦 小倉 高志
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.807-811, 2009-09-15 (Released:2009-12-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1

症例は58歳,女性.人間ドックで胸部X線写真を撮影し,右自然気胸を指摘された.左自然気胸の手術歴があり,弟,長男,長女にも自然気胸の既往があった.胸部CT検査では両側に多発する肺嚢胞を認めた.顔面に線維毛包腫(fibrofolliculoma)を疑う病変と,線維性疣贅(acrochordon)を認めた.以上の所見から,Birt-Hogg-Dube症候群(以下,BHD症候群)を疑った.右気胸の根治を目的に手術を施行し,肺底部に今回の気胸の原因と思われる2cm大のブラを認め,これを胸腔鏡下に切除した.術後,BHD遺伝子の核酸配列解析を行い,BHD症候群と確定診断した.BHD症候群は,常染色体優性遺伝の皮膚疾患であり,多発肺嚢胞・自然気胸,腎細胞癌を合併することがある.気胸の家族歴があり,多発肺嚢胞を有する症例は,BHD症候群を疑う必要があると考えられた.