著者
吉川 賢太郎 撫井 賀代 福本 紘一 島田 豊治
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.161-164, 2004

市販梅酒 (アルコール14%, 糖20%, エキス分30%含有) 100m<i>l</i>を毎日6カ月間継続飲用させた10人(43.5±15.2歳) を被験者とし, 梅酒飲用による健康人の血中脂と血圧に及ぼす効果についての予備的研究を行った。毎月1回, 身長, 体重, 血圧, 検尿 (尿蛋白質, 尿糖, ウロビリノーゲン, ケトン体) 測定を行った。原則として空腹時採血し, 血清総コレステロール, HDL-コレステロール, 血糖値, ヘモグロビンA<sub>1C</sub>, ヘモグロビン量, アルブミンを測定した。またBMI, 動脈硬化指数は計算によって求めた。<br>その結果, HDL-コレステロールは飲用前値59.0mg/d<i>l</i>であったが, 飲用2カ月後から有意に増加し, 6カ月後に64.1mg/d<i>l</i>になった。また動脈硬化指数は飲用前値2.54で, 飲用2カ月後から有意に低下し, その後一定値を維持した。収縮期血圧は前値132.8mmHgであったが, 6カ月後に128.7mmHgと低下傾向を示した。拡張期血圧は飲用前値88.0mmHgであったが6カ月後に80.2mmHgと有意に低下した。血糖値は6カ月間に変化は認められず, ほぼ一定の87~89mg/d<i>l</i>を維持した。ヘモグロビンA<sub>1C</sub>は血糖値と同様に有意の変化は認められず, 6カ月間ほぼ一定の4.8~4.9%であった。その他の検査に有意な変動は認められなかった。
著者
戸張 千夏 高増 雅子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.76-89, 2021-04-01 (Released:2021-05-15)
参考文献数
28

【目的】本研究では,マレーシアにおける大学生の食生活や飲料摂取状況の現状を把握し,その特徴について明らかにすることを目的とした。【方法】マレー半島のトレンガヌ州にあるマラ工科大学ドゥングン校,スランゴール州にあるマラ工科大学プンチャックアラム校の学生632名を対象とし,2019年3月~4月に食生活調査及び飲料摂取調査を実施した。食生活調査について,アンケート回答をスコア化し,群間の差(男女間,大学間)にはMann-Whitney のU検定を用いた。飲料摂取調査については,項目ごとに結果を集計し,χ2検定を行った。【結果】食生活調査では,対象者全体で,運動と健康との関わりや食生活の大切さについては理解しているが,砂糖摂取量に関する知識は乏しいことが分かった。砂糖摂取に関するセルフ・エフィカシーが低い傾向がみられた。また,朝食の欠食が昼食や夕食よりも多かった。女性は,砂糖摂取についての意識や栄養教育ワークショップへの関心も高く,男性は,運動について興味を持ち積極的に行っている傾向がみられた。飲料摂取調査では対象者全体で,水の摂取頻度が高かった。また,紅茶(コンデンスミルク入り,砂糖入り),麦芽飲料などのsugar-sweetened beverage(SSB)の摂取頻度が高い一方で,砂糖なしの紅茶やコーヒーの摂取頻度が低かった。女性は,男性より砂糖なしの飲料の摂取頻度が低かった。【結論】対象大学生における砂糖摂取量及びSSBの摂取頻度に係る課題が明らかになった。
著者
佐藤 安貴 正木 慎也 梅本 萌李 山本 浩貴 小山田 正人
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.90-102, 2021-04-01 (Released:2021-05-15)
参考文献数
35

【目的】摂食障害は,若年女子に好発する難治性の疾患で,治療の優先事項は栄養改善である。摂食障害の10~20%に自閉スペクトラム症が合併し,合併例は予後不良例が多く,治療では自閉スペクトラム症の特性に着目した対応が必要となる。摂食障害を発症し入院した自閉スペクトラム症女児2症例に,チーム医療の一環として自閉スペクトラム症の特性に着目した栄養指導を実施したので,報告する。【方法】対象は,摂食障害治療を目的に精神科病院へ入院した自閉スペクトラム症の15歳女児2名である。症例1は,体重管理の厳しい審美系スポーツの選手で,過剰な運動と食事制限から低体重となり入院した。症例2は,ストレス時に拒食反応を示す病態で,拒食による急激な体重減少で入院した。管理栄養士は,自閉スペクトラム症の特性に着目し,1)褒めて労う,2)視覚情報の利用,3)具体的説明の繰り返しを基本に栄養指導を行った。【結果】症例1は,1週間毎に増加する食事を全量摂取するとともに,活動量を減少させることにより,目標体重を達成した。症例2は,拒食が消失し目標体重を達成した。【結論】摂食障害と自閉スペクトラム症合併2症例において,自閉スペクトラム症の特性に着目した1)褒めて労う,2)視覚情報の利用,3)具体的説明の繰り返しを基本とした栄養指導の有用性が示唆された。
著者
木林 悦子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.53-63, 2021-04-01 (Released:2021-05-15)
参考文献数
30
被引用文献数
1

【目的】高校3年間の追跡調査により,食生活改善への準備性からみたセルフエフィカシーと行動変容ステージの学年比較及び関連を明らかにする。【方法】兵庫県A高等学校の2012年度入学生320名のうち,家庭教科専門科目選択者を除き,2014年の3年まで継続して回答が得られた225名を対象とした。セルフエフィカシーは,食生活改善ができるか否かを5件法より得た。セルフエフィカシーと行動変容ステージの学年比較はFriedman 検定,3年におけるこれらの関連は共分散構造分析後,セルフエフィカシーの信頼性を検討するために開発した12項目のセルフエフィカシー尺度を従属変数,性別を調整因子とした二項ロジスティック回帰分析をした。【結果】高校3年間で男子はセルフエフィカシーの「やや改善できると思う」及び「改善できる」者が減少し,行動変容ステージの前熟考期が増加したが,女子ではいずれも学年別に有意差はなかった。共分散構造分析では,セルフエフィカシーから行動変容ステージへの有意な正のパスが示された。ロジスティック回帰分析の結果,準備・実行・維持期を基準として,前熟考期におけるセルフエフィカシー低得点群のオッズ比が有意に高かった。【結論】高校3年間で,食生活改善への準備性からみたセルフエフィカシーと行動変容ステージの伴った,男子における低下と女子の変化なしの実態が明らかとなった。食生活を改善させるには,セルフエフィカシーを高める教育支援の充実が望まれる。
著者
佐中 孜
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.109-114, 2011 (Released:2011-07-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

CKD(Chronic Kidney Disease;慢性腎臓病)治療には(1)CKDの原因となる腎臓病(原疾患)治療,(2)食事療法,(3)アンジオテンシンII受容体拮抗薬,(アンジオテンシン変換酵素阻害薬,(4)経口吸着薬,(5)合併症治療(虚血性心疾患,高血圧,脂質代謝異常症(高脂血症),貧血など)による集学的治療など5つの基本戦略がある. これらのうち,食事療法のもつ意義は次のようにまとめられる。 1 生活習慣が関与している場合は,これを是正することにより原疾患の治療につながる。 2 たんぱく質の過剰摂取はたんぱく尿の悪化を招くので,その是正が必要である。 3 食塩の過剰摂取は高血圧,動脈硬化,更には糸球体細動脈硬化の原因になるので,食塩の過剰摂取の是正は不可欠となる。 4 糸球体に続く尿細管で起きている有機酸の過剰負荷をとることはCKDの進展抑制をもたらす。 5 アンモニア,リンの体内蓄積を抑制するための食事療法は有用と期待される。 6 CKDにおける鉄欠乏性貧血,ビタミンB12,葉酸欠乏による貧血を治療することにより,進展を阻止することが期待される。 7 高尿酸血症を伴うCKDにはプリン体の摂取の適正化が必要である。 8 脂質代謝異常症(高脂血症)も悪化要因になるので,食事療法は不可欠となる。
著者
今本 美幸 栗原 伸公 熊谷 聡子 土江 節子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.322-327, 2010 (Released:2010-11-29)
参考文献数
12

【目的】管理栄養士が行う栄養教育では,対象者が理解しやすく的確な内容が伝えられる「言葉」が必要である。このうち「控える」という言葉は,対象者に塩分や動物性脂肪など摂取の減量を指示する言葉であるが,その方法や量などの明確な指示はしていないと考える。そこで我々はアンケート調査を行い,日本の兵庫県で働く管理栄養士が用いる「控える」という言葉の概念を明らかにするため,栄養指導における言葉の効果を調べた。【方法】我々は控える対象としてエネルギー,甘いもの,アルコール,動物性脂肪,塩分の5項目を選び,「控える」という言葉の指導者側の意識を調査した。【結果】管理栄養士は50%以上が栄養教育において「控える」という言葉を使用していた。管理栄養士は,対象者が行うと期待する控える方法や量に個人差があった。また管理栄養士の勤務年数3年未満,3年以上20年未満,20年以上の3群による経験年数別の比較では,塩分で差があった。【結論】「控える」という言葉はとても不明瞭であり,この言葉のみで対象者が食生活改善できるとは限らない。管理栄養士は「控える」という言葉を単独ではなく,可能な限り具体的な言葉とともに用いることが必要である。(オンラインのみ掲載)
著者
佐藤 ななえ 吉池 信男
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.253-262, 2010 (Released:2010-10-26)
参考文献数
28
被引用文献数
10 10

【目的】この研究の目的は,小児の咀嚼行動特性や,それに関連すると考えられる因子について,実験食を食べた際の咀嚼回数及び食事に要した時間を評価指標として用いて検討することである。【設定及び対象】2つの幼稚園の61名の園児(5-6歳)を対象とする横断研究である。【方法】本研究では,日常的な幼稚園昼食を実験食とする,小児用簡易咀嚼回数計を用いた, 咀嚼回数(回)及び食事に要した時間(分)の測定,デンタルプレスケールを用いた咬合力測定及び対象児の咀嚼行動に関する保護者への質問紙調査を行い,咀嚼行動に関連すると考えられる因子について検討した。その際,食事に要した時間の影響を考慮した,食事時間調整咀嚼回数(以下「調整咀嚼回数」と称す)を残差法により算出し,咀嚼行動の個人間差を表わす新たな指標として検討に用いた。【結果】調整咀嚼回数との関連では,肥満度についてのみ有意な負の相関(r=-0.28;p=0.041)が示された。一方,食事に要した時間との関連では,身長(r=-0.31;p=0.018),体重(r=-0.30;p=0.026),肥満度(r=-0.27;p=0.047)に有意な負の相関が示された。重回帰分析(ステップワイズ法)の結果,「材料やおやつはよく噛んで食べることを考えて選んでいる」という保護者の行動が調整咀嚼回数に関連していることが明らかとなった。食事に要した時間では,保護者による児の判断,「すぐに飲み込まず,いつまでも口の中に入れていることがある」に有意な正の相関(r=0.35;p=0.010)が,同様に「よく噛まずに食べている」に有意な負の相関(r=-0.33;p=0.011)が示された。咬合力との間に有意となる関連はみられなかった。【結論】実験食を用いた本研究においては,肥満傾向であるほど食事時間が短かく,噛む回数が少ないこと,小柄であるほど噛む回数が多く,食事に時間を要することが明らかとなった。その他,「材料やおやつはよく噛んで食べることを考えて選んでいる」という保護者の関わりが,児の咀嚼行動に関連していた。実験食において測定した調整咀嚼回数により,肥満度及び他の因子との間の関連を明らかにすることができたことは,関連研究及び小児の咀嚼行動に着目した食育実践のエビデンス構築に役立つであろう。(オンラインのみ掲載)
著者
吉田 心 佐藤 慎太郎 川俣 恵利華 川俣 幸一
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.27-36, 2021-02-01 (Released:2021-04-05)
参考文献数
26

【目的】本研究の目的は,保護者自身への食塩摂取意識と子どもへ向けられる意識との関係を明らかとし,効果的な食育活動に繋がる保護者側の因子を探ることであった。【方法】対象は宮城県の子育て広場に通う103人の幼児とその保護者であった(親の平均年齢34.6歳,子どもの平均年齢2.7歳)。親自身の食塩量に関する意識を問う14項目,それと対になる子どもへの食塩量に関する意識を問う14項目のアンケート調査を実施した。結果は単純集計後,二項ロジスティック回帰分析を実施するために因子分析にて総合数値を求めた。【結果】子どもへの食塩量の意識と,親自身の食塩量の意識を比較したところ,14項目中12項目で意識の違いが見られた。因子分析後に実施した保護者と子どもの年齢,保護者の性別,アンケート13項目とで調整した二項ロジスティック回帰分析の結果では,味の付いたご飯,ルーのかかったご飯,スナック菓子の食塩量について有意な回帰式が得られた(それぞれp=0.024,p=0.044,p=0.011)。【結論】子どもへ向けられる食塩摂取量の意識と親自身の食塩摂取量の意識については全ての項目で有意な正の相関を示し,殆どの項目で子どもに向けられた意識の方が親自身の意識よりも有意に高かった。また多変量解析の結果,子育てのための食塩指導を親向けに開催する場合,味の付いたご飯,ルーのかかったご飯,スナック菓子の食塩量について指導することが,効果的な食育活動の一つとなることが示唆された。
著者
赤松 利恵 串田 修 高橋 希 黒谷 佳代 武見 ゆかり
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.37-45, 2021-02-01 (Released:2021-04-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1

【目的】「健康な食事・食環境」認証制度における外食・中食部門の応募促進と継続支援に向けて,スマートミールの提供状況と事業者が抱える課題を整理すること。【方法】2018年度に認証され,2020年更新対象となった外食55,中食24計79事業者を対象とした。2020年1~2月,Webフォームを用いて,更新意向の他に,スマートミールの提供状況と課題をたずねた。他に,認証時の情報から,応募部門,認証回,店舗の場所,星の数の情報を用いた。量的データの結果は,度数分布で示し,自由記述の回答は,コード化の後,類似する内容をまとめ,カテゴリ化した。【結果】79事業者を解析対象とした(解析対象率100%)。70.9%(n=56)の事業者が,更新すると回答した。項目に回答した49の更新事業者の63.3%(n=31)が【メニューに対する肯定的な評価】など,顧客からの反応が「あった」と回答した。また,71.4%(n=35)の事業者が認証前後の売上げに「変化なし」と回答したが,81.6%(n=40)の事業者が認証のメリットがあったと回答した。40.8%(n=20)の事業者が【メニューに関する課題】などを感じていた。【結論】外食・中食事業者の認証制度への応募促進と認証継続の支援には,メニュー開発やコスト削減に関する課題と,スマートミールの認知度向上など普及啓発に関する課題の解決が必要だと示唆された。
著者
頓所 希望 赤松 利恵 齋木 美果 小松 美穂乃 井邉 有未 渡邉 紗矢
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.46-52, 2021-02-01 (Released:2021-04-05)
参考文献数
26

【目的】外食産業の食品ロスは食品産業で最も多く,およそ半分が食べ残しである。本研究は,健康的な食環境整備と食べ残し削減の取組を促進するため,外食事業者の食べ残し記録の取組状況と提供量や食べ残しに対する態度を検討した。【方法】2019年5月に実施した外食事業者を対象としたインターネット調査で得た398人のデータを利用した。「食べ残し記録」の取組は「計測・記録」群,「目測・記録」群,「目測のみ」群,「把握なし」群の4群とした。属性,食べ残しの有無,食品ロス削減の取組状況,提供量と食べ残しに対する態度を「食べ残し記録」の取組4群で比較した。態度は,「提供量は食べる量に影響する」などの7項目を質問し,「肯定」「否定」の2群とした。各質問項目の群別比較は,χ2 検定を用いた(有意水準5%未満)。【結果】「計測・記録」群11人(2.8%),「目測・記録」群52人(13.1%),「目測のみ」群232人(58.3%),「把握なし」群103人(25.9%)であった。4群間で属性などを比較した結果,「計測・記録」群は,従事年数が長く(p=0.009),食品ロス削減の取組を行い(p<0.001),量より味を重視する態度をもっていた。【結論】食べ残しを計測し記録している外食事業者は5%未満であり,その事業者は従事年数が長く,食品ロス削減の取組を行っており,適量提供に対して望ましい態度をもつことが示唆された。
著者
五味 達之祐 上岡 洋晴
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.3-13, 2021-02-01 (Released:2021-04-05)
参考文献数
40
被引用文献数
1

【目的】地域レベルの介護予防の推進のために,中山間地域における近隣食環境とたんぱく質摂取量との関連を明らかにすることを目的とした。【方法】本研究は中山間地域在住高齢者942名を対象とした横断研究である。地理情報システムによって自宅からスーパーとコンビニまでの最短距離を算出し,簡易型自記式食事歴法質問票にて調査したたんぱく質摂取量が低いこととの関連性を多変量回帰分析にて調べた。生活内の移動に関する環境要因として鉄道駅とバス停のアクセスについても検討した。副次アウトカムとして主なたんぱく質供給源である食品群別摂取量とスーパーとコンビニまでの距離との関連を調べた。【結果】スーパーまでの距離とたんぱく質摂取量との有意な関連はなかったが,コンビニが遠いほどたんぱく質摂取量が少なくなる有意な傾向性がみられた。バス停が 400 m圏内にないことが,少ないたんぱく質摂取量と有意に関連した。スーパーとコンビニそれぞれまでの距離と主なたんぱく質供給源の摂取量との有意な関連はみられなかった。【結論】スーパーまでの最短距離とたんぱく質摂取量には有意な関連はなかったが,コンビニが遠いこと,バス停までのアクセスが悪いことが少ないたんぱく質摂取量と有意に関連した。中山間地域におけるたんぱく質摂取の促進のための食生活改善アプローチには,コンビニやバス停へのアクセシビリティに配慮した支援策が必要であることが示唆された。
著者
開元 多恵 渋谷 まゆみ 前田 英雄
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.309-314, 2010 (Released:2010-11-29)
参考文献数
21
被引用文献数
1

コレステロールを添加した高脂肪食を投与し,タラの芽摂取がラットの血清および肝臓の脂質に与える影響を調べる目的で実験を行った。タラの芽は凍結乾燥し,粉末は600μmのふるいを通し,一部はエチルアルコールによる抽出に用いた。タラの芽粉末,抽出物,抽出残渣は別々に高脂肪食に添加し,20%カゼイン食(普通食)と比較した。Sprague-Dawley系雄ラット(4週齢)は食餌によって5群に分け,4週間飼育した。5%タラの芽粉末およびエチルアルコール抽出物や抽出残渣を添加しても摂食量や体重増加,血清中の肝臓や腎臓機能を表す指標についても差は認められず,添加による影響はほとんどないと考えられた。高脂肪食での飼育により,肝臓の脂質含量は顕著に増加し,血清のHDL-コレステロールは低下したが,タラの芽粉末あるいはアルコール抽出残渣を添加した群では,肝臓のトリアシルグリセロールの増加が抑制された。これらの結果からタラの芽には肝臓の脂質代謝に有効な成分が含まれている可能性が示唆された。(オンラインのみ掲載)
著者
佐藤 慎太郎 川俣 恵利華 川端 真由美 半澤 真喜子 川俣 幸一
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.264-271, 2020-12-01 (Released:2021-01-27)
参考文献数
36

【目的】高齢者筋力向上トレーニング(以下,高齢者筋トレ)後に,たんぱく質を摂取させる取り組みは広く行われているが,効果が一律とならないことは知られている。今回我々は,軟化した食材を用いた栄養介入が高齢者筋トレの効果を高めるのか検証した。【方法】仙台市在住の一般高齢者15名(平均76.3歳)を無作為に二群に分け,両群に3ヶ月間の介護予防運動教室を実施し,介入前後の数値を比較した。各回の教室の後半に,一方の群には軟化した豚肉 50 gを,もう他方の群には普通のボイル豚肉 50 gを,すみやかに摂取させた。【結果】両群ともに3ヶ月の運動教室を経験しているため介入前後で有意な改善を示した運動機能値が存在した。そこで主成分分析により総合数値を求め,介入前後の結果を比較した。その結果,第1主成分「運動機能」得点において軟化豚肉群では有意な増加が見られた。このような傾向は普通豚肉群では確認されなかった。【結論】今回の我々の結果は,高齢者筋トレ運動後に吸収性を良くした食材をすみやかに食べることが,筋トレ効果の更なる増強を導く可能性を示唆した。
著者
木林 悦子 中出 麻紀子 諸岡 歩
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.243-253, 2020-12-01 (Released:2021-01-27)
参考文献数
14
被引用文献数
1

【目的】朝食におけるバランスの良い食事(主食・主菜・副菜の揃った食事)を推進するために,バランスの良い朝食摂取者における食習慣および健康意識の特徴を明らかにすること。【方法】平成28年度ひょうご食生活実態調査に回答した20歳~60歳代で朝食頻度が週4日以上の1,255名を対象とした。解析は性・年齢別(20~40歳代,50~60歳代)に,従属変数をバランスの良い朝食摂取の有無,独立変数を食習慣および健康意識,調整因子を年齢,家族構成,BMIとした二項ロジスティック回帰分析を行った。【結果】どの性・年齢階級でも,朝食でごはん(米)を週0回又は主食・主菜・副菜の揃った食事を1日2回以上食べる頻度が週5日以下を基準として,週5~7回又は週6日以上の者で,バランスの良い朝食摂取者のオッズ比が有意に高かった。また,男性では,50歳以上における健康意識に関連した項目において,ネガティブな者を基準として,現在の食事を自分で良いと思っている,食事時間が不規則ではない,生活習慣病予防の食事を実践している,適正体重を心がけている者で,バランスの良い朝食摂取者のオッズ比が有意に高かった。【結論】朝食にごはん(米)を食べていることや主食・主菜・副菜の揃った食事を1日2回以上食べていることは,性や年代を問わずバランスの良い朝食摂取と関連していた。また,男性の50歳代~60歳代では高い健康意識にも関連がみられた。
著者
田原 遠 田淵 貴大 針原 重義 坂東 徳久栄 井戸 武實
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
榮養學雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.29-38, 2011-02-01
参考文献数
22
被引用文献数
1

【目的】あいりん地域にはホームレス群と,生活保護受給にてホームレスを脱却した群(生保群)が混在している。これら2群の栄養学的特性を調査し,両群共通の問題点ならびに両群間の比較より浮かび上がった問題点を明らかにすることにより,今後必要なサポートについての検討を行った。<br>【方法】2007年9月から2008年2月の間,当院における結核検診受診者を対象に,半定量食物摂取頻度調査法による食事調査を行った。うち,156名のホームレス群と45名の生保群を合わせた201名を本調査の対象者とし,身体計測,採血,食事調査結果の比較を行った。<br>【結果】両群ともに痩せや貧血の者が多い半面,生活習慣病ハイリスク者も存在し,問題が多いことが分かった。両群の摂取量の比較では,ホームレス群において嗜好飲料がより多く,野菜がより少なかった。これら食品群の特徴を調査したところ,この地域には嗜好飲料の自動販売機が非常に多く,他地域より安いため入手しやすいこと,スーパーで主菜類・主食類の惣菜が安価で販売され,相対的に野菜類の惣菜は高価であることが分かった。<br>【結論】両群ともに問題点が多かったが,生保群の方が一部において良好であった。今後,ホームレス脱却のための社会的支援と同時に,嗜好飲料入手環境及びスーパーにおける食環境の整備,並びに栄養教育が重要であると考えられた。
著者
水元 芳 徳永 亜紀子 片桐 義範 樋口 善之 渡辺 啓子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.170-181, 2015 (Released:2015-12-26)
参考文献数
28
被引用文献数
1 2

【目的】病院に勤務する管理栄養士の職務満足度の現状を把握し,職務満足度に影響している要因を明らかにすることを目的とした。【方法】福岡県の病院に勤務する管理栄養士を対象として,2011年10月に郵送法による自記式質問紙調査を実施した。自由記載欄を設けて質的データの収集も行った。「職務満足度」に影響を与える要因は重回帰分析等によって検討した。質的データはテーマ的コード化による分析を行った。【結果】「職務満足度」の中央値(25~75パーセンタイル値)は62.0(50~76)/100点であった。単変量解析で「職務満足度」との有意な関連性が認められた項目は「年齢」(p=0.008),「患者とのコミュニケーション自己評価」(p=0.001),「他職種とのコミュニケーション自己評価」,「同職種との業務上のコミュニケーション自己評価」,「栄養補給法に関する業務の自己評価」,「栄養指導業務の自己評価」,「チーム医療に関する業務の自己評価」(いずれもp<0.001)であり,これらの変数を投入して行った重回帰分析において,最も影響力の大きい項目は「同職種との業務上のコミュニケーション自己評価」であった(β=0.247,p<0.001)。質的データ分析からは,同職種との良好なコミュニケーションが他職種,および患者とのコミュニケーションをサポートしていることが示唆された。【結論】本研究では複数の項目が管理栄養士の職務満足度に関連しており,職務満足度に最も影響を与えていた項目は同職種との業務上のコミュニケーション自己評価であった。
著者
外山 未來 安部 景奈 赤松 利恵
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.350-356, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
13
被引用文献数
6 2

【目的】中学校給食の食べ残しに関連する要因を検討すること。【方法】2009年12月,東京都A区の公立中学校33校に通う2年生,142クラスの残菜調査,担任142名を対象にクラスの給食時間の状況に関する調査,生徒4,634名を対象に給食の食べ残しに関する自己記入式質問紙調査を行った。クラスごとの残菜率を中央値で2群に分け,喫食時間,給食時間中の取り組み,食べ残しに関する8項目との関連を検討した。【結果】残菜調査は142クラス中,134クラスから回答を得た(回収率94.4%)。134クラス全体の残菜率の中央値(25%,75%タイル値)は9.3(4.6,16.0)%であり,残菜率の低いクラスは71クラス(53.0%)であった。134クラス全体の喫食時間の中央値(25%,75%タイル値)は15(13,15)分であり,残菜率の低いクラスは,喫食時間が長いクラスの割合が高く(p=0.015),給食に関する取り組みの数の多いクラスの割合が高かった(p=0.040)。また,残菜率には食べ残しに関する8項目で関連が見られ,特に残菜率の低いクラスは,「きらいな食べ物がなかった」,「おいしかった」と回答した生徒の割合が高かった。【結論】中学校給食の残菜率が低いクラスは,喫食時間が長く,給食に関する取り組みの数が多かった。また,残菜率が低いクラスでは,「きらいな食べ物がなかった」,「おいしかった」と回答した生徒の割合が高かった。
著者
沖谷 明紘
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
榮養學雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.119-129, 2002-06-01
参考文献数
20
被引用文献数
3 5

A review is presented of the recent results mainly obtained by author's studies on the texture, taste and odor of chicken, pork and beef. An organoleptic study revealed that the texture of beef was very similar to that of pork but quite different from that of chicken. The meat-like taste and umami of soup were most intensive with chicken and weakest with beef, the umami of the soup being attributable to glutamic acid and 5'-inosine monophosphate. The organoleptic test panel was unable to identify chicken, pork and beef soups by their tastes, possibly due to the fact that the free amino acid pattern of each soup was similar with these three types of meat. On the other hand, the organoleptic test panel could readily identify chicken, pork and beef by their odor. The meat of Nagoya Cochin chicken was shown to have a unique odor of the meat of aigamo (a crossbreed of domestic and wild ducks). There was no difference in the odor character among the meat from three types of pig, including Kagoshima Berkshire. Wagyu beef from Japanese Black Cattle was found to have a preferable aroma (Wagyu beef aroma) which was sweet and fatty. This Wagyu beef aroma was concluded to be the main reason why the Japanese prefer Wagyu beef to imported beef. The Wagyu beef aroma was generated through unknown reactions between lean meat, fat and oxygen and the subsequent heating process.