著者
大嶋 淳 内藤 克昭 阿部 翔大郎 上村 怜央 高橋 雄介 伊藤 祥作 林 美加子 川西 雄三 岡 真太郎 山田 朋美 山口 幹代 朝日 陽子 外園 真規 鍵岡 琢実 渡邉 昌克
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.263-270, 2019

<p> 目的 : 弾性係数が小さく, 形状記憶性, 超弾性, ファイルテーパーの多様化といった特徴をもつニッケルチタン (NiTi) 製ロータリーファイルは, ステンレススチールファイルと比較して高い切削効率や作業時間の短縮, 優れた根管追従性を有し現在の歯科臨床においても頻繁に用いられるようになりつつある. 本研究では, 歯学部学生の臨床前基礎実習において, FKGレイス (FKG Dentaire, Switzerland) およびJ型, S型湾曲根管模型を用いた根管形成実習を実施し, 習熟到達度を評価した.</p><p> 材料と方法 : 大阪大学歯学部3年生56名に対して, J型およびS型エポキシレジン製透明湾曲根管模型を用いてFKGレイスによる形成実習を2回ずつ行った. Kファイル#15にて穿通し, 根管長を測定後, プリレイスによる根管上部のフレアー形成とKファイル#15によるグライドパス形成を行った. 作業長は根管長から1mm引いた長さとし, レイス#30/6%, #30/4%, #25/4%, #20/4%を順に用いて, 最終拡大号数を#30/6%として根管形成を行った.</p><p> 形成前後の根管模型をマイクロCT (R_mCT2, RIGAKU) にて撮影し, 根管長軸方向に対して根尖から垂直に1, 2, 3, 4, 5mmおよび6mmの位置で内湾側および外湾側の根管幅径増加量を計測した. その後, S型根管幅径増加量および形成時間について, 学生ならびに日本歯科保存学会専門医・認定医10名がおのおの2回実施した結果を比較した.</p><p> 結果 : J型根管1回目の根管形成では, 62.5%の学生が根尖破壊, 5.4%がレッジ形成を生じ, 成功率は32.1%だった. J型根管2回目では, 30.4%が根尖破壊, 3.6%がファイル破折, 3.6%がレッジ形成を生じたものの, 成功率は62.4%と改善した. S型根管1回目は23.2%が根尖破壊, 7.1%がファイル破折を生じた. S型根管2回目では7.1%がファイル破折を生じた. 根管形成に要した時間については, 学生のS型2回目の形成時間がS型1回目と比較し有意に短縮され, 専門医・認定医によるS型1回目, 2回目の形成時間と比較して有意差を認めないレベルまで改善した. 内湾側および外湾側の根管幅径増加量については, 学生1回目, 2回目, ならびに専門医・認定医の間で統計学的有意差を認めなかった.</p><p> 結論 : NiTiファイルを用いた湾曲根管形成実習において, 特に根尖部の形成に注意して実習回数を重ねることにより, 難易度の高いS型湾曲根管であっても迅速に, 正確に根管形成ができるようになり, 習熟到達度が向上することが明らかとなった.</p>
著者
吉永 泰周 長野 史子 金子 高士 鵜飼 孝 吉村 篤利 尾崎 幸生 吉永 美穂 白石 千秋 中村 弘隆 藏本 明子 髙森 雄三 野口 惠司 山下 恭徳 泉 聡史 原 宜興
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.154-161, 2014 (Released:2014-05-07)
参考文献数
23

目的 : 歯周病原細菌と考えられている細菌群はグラム陰性菌であり, 進行した歯周炎患者の歯周ポケット内ではグラム陰性菌が優勢である. しかしながら, 歯肉炎や初期の歯周炎ではプラーク中の細菌はグラム陽性菌が優勢であるため, 歯周ポケット形成の初発時にはグラム陽性菌が大きな影響を与えると考えられる. われわれの過去の実験では, グラム陽性菌であるStaphylococcus aureusとグラム陰性菌であるAggregatibacter actinomycetemcomitansの菌体破砕物で感作したラットの歯肉溝に各菌体破砕物を滴下すると, 両細菌ともに強い歯周組織破壊を誘導した. しかし歯周組織の破壊が著しく, どちらがより強い影響を与えるかについての判断はできなかった. そこで本研究では, グラム陰性菌とグラム陽性菌の歯周組織破壊への影響を比較するために, より低濃度の菌体破砕物を用いて実験を行った. 材料と方法 : S. aureusとA. actinomycetemcomitansの菌体破砕物にて感作したラットと非感作ラットの歯肉溝内に, 12.5μg/μlの菌体破砕物を頻回滴下し, 病理組織学的に観察した. 無滴下のラットを対照群とした. 結果 : A. actinomycetemcomitans感作群では対照群と比較して統計学的に有意なアタッチメントロスの増加と歯槽骨レベルの減少を認めたが, S. aureus感作群およびA. actinomycetemcomitans非感作群ではみられなかった. 両細菌の感作群では免疫複合体の存在を示すC1qBの発現が接合上皮に観察されたが, 非感作群では認められなかった. 結論 : グラム陰性菌であるA. actinomycetemcomitansの菌体破砕物のほうが, グラム陽性菌であるS. aureusのそれよりも歯周組織破壊への影響が強いことが示唆された. また, 歯周組織の破壊には免疫複合体の形成も重要であることも改めて示唆された.
著者
高橋 礼奈 榎本 愛久美 織田 祐太朗 内山 沙紀 盧山 晨 金森 ゆうな 明橋 冴 田上 温子 髙橋 彬文 則武 加奈子 佐藤 隆明 田上 順次
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.220-226, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
19

目的 : 近年, コンポジットレジン修復において, さまざまな被接着体に対して同一のボンディング材が使用できるユニバーサルタイプの接着システムが開発され, 臨床でも多用されるようになってきている. 本研究では, 術者の臨床経験と接着システムが象牙質接着性能に及ぼす影響について評価した. 材料と方法 : 2ステップボンディングシステムであるクリアフィルメガボンド2 (MB2) および1ボトルユニバーサルタイプのボンディングシステムであるクリアフィルユニバーサルボンドクイック (UBQ) の, 2種類の接着システムを使用した. ウシ抜去下顎永久切歯の唇面象牙質平坦面を流水下にて露出させ, #600の耐水研磨紙で研削した. 基礎実習中の歯学部学生 (undergraduates) 5名と臨床経験5年以上 (平均7.4年) の歯科医師 (professionals) 5名が, MB2またはUBQを業者指示どおりに象牙質表面に接着操作を行った後, コンポジットレジンを2mm築盛し, 光照射を20秒行った. 試料を24時間37°Cの水中に保管した後, クロスヘッドスピード1mm/分にて微小引張試験を行った. 得られた値は, 二元配置分散分析とt検定により統計処理を行った (p=0.05). さらに, Weibull分析により解析した. 結果 : MB2-undergraduates, MB2-professionals, UBQ-undergraduates, UBQ-professionalsの平均値±標準偏差 (MPa) は, 33.7±10.1, 36.7±10.1, 26.0±10.7, 28.1±11.1, Weibull係数は3.6, 4.2, 2.0, 2.6であった. 二元配置分散分析により, “臨床経験” は微小引張接着強さに影響せず (p>0.05), “接着システム” は微小引張接着強さに影響した (p<0.05). Weibull係数は, 大きい値からMB2-professionals, MB2-undergraduates, UBQ-professionals, UBQ-undergraduatesの順であった. 傾きの差の検定では, すべての群のmの間に有意差を認めた (p<0.05). 結論 : MB2はUBQより高い象牙質接着強さを示し, 信頼性も高い接着システムであった. 臨床経験の違いは象牙質接着強さに影響を及ぼさなかったが, 信頼性に関してはMB2, UBQともに臨床経験5年以上の歯科医師のほうが歯学部学生に比べて高かった.
著者
佐藤 治美 馬場 宏俊 下岡 正八
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.384-395, 2010
参考文献数
30

スケーリングでは各種スケーラーを用いるが,スケーラーやペリオドンタルキュレットは使用目的や部位に合わせて,刃部や頸部形態が異なる.歯科衛生士は,スケーリングを行うために部位に合わせたスケーラーを選択し,安全で効率のよい処置を行うことが求められる.本研究では,歯科衛生士学生がグレーシー型キュレットを選択する際に,キュレットの構成部の確認箇所と選択について眼球運動の測定を行い,人の認知活動について調べた.研究対象者は,日本歯科大学新潟短期大学歯科衛生学科でスケーリングについて基礎実習のみを終了した第1学年45名(1年次生)と,基礎実習を終了し臨床実習中の第2学年43名(2年次生)の学生である.その結果,グレーシー型キュレットを選ぶ際は,1,2年次生ともにスケーラーの刃部および頸部と番号を見ていた.1年次生では刃部および頸部よりも番号を,2年次生では番号よりも刃部および頸部を多く見ており,臨床実習の経験によって注目点は異なった.正解者と不正解者との間では,刃部および頸部と番号を見るということは同じであった.正解者は早い段階で選択を決断できていた.不正解者は注目点にばらつきがあり,さまざまなスケーラーを見た結果,正解を判断できないという傾向がみられた.教育で視覚素材を用いる際には,学習者が視覚素材を教育者と同等に認知していないことに留意し,視覚素材の構成や説明に配慮の必要なことが示唆された.
著者
陸田 明智 小倉 由佳理 佐藤 愛子 寺井 里沙 鈴木 崇之 升谷 滋行 宮崎 真至 本淨 学 角野 奈津
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.276-282, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
25

目的 : レジンペーストの保管温度条件がその硬化物の機械的性質に及ぼす影響について, 曲げ特性および表面硬さを測定するとともに, レーザー顕微鏡を用いてコントラクションギャップの観察を行うことによって検討した.  材料と方法 : 供試したレジンペーストは, ユニバーサルタイプのEstelite Σ Quick, BeautifillⅡ, Filtek Supreme UltraおよびSolareの4製品, インジェクタブルタイプのMI Fillの合計5製品とした. レジンペーストの保管温度条件は, 5℃冷蔵庫保管 (冷蔵条件), 23℃室温保管 (室温条件) およびコンポジットレジン加温器を用いて45℃にした条件 (加温条件) の合計3条件とした. これらの保管温度条件で硬化させた試片について, 曲げ強さ, 曲げ弾性率およびヌープ硬さを測定するとともに, レーザー顕微鏡を用いてウシ抜去歯にレジンペーストを充塡した際のコントラクションギャップの観察を行った.  成績 : レジンペーストの保管温度条件が, 曲げ強さおよび曲げ弾性率に及ぼす影響は, いずれの製品においても, 冷蔵条件と比較して室温および加温条件で有意に高い値を示した. ヌープ硬さについては, いずれの製品においても, 冷蔵条件と比較して室温および加温条件で有意に高い値を示したが, その傾向は製品によって異なるものであった. コントラクションギャップの観察については, いずれの製品においても, 冷蔵条件においては窩洞隅角部にギャップの形成が顕著に観察されたが, 室温条件ではギャップ幅が減少し, さらに加温条件では, ほかの条件と比較してギャップ幅の減少が観察された.  結論 : レジンペーストの保管条件としての環境温度は, その機械的性質および窩壁適合性に影響を及ぼすことが示唆された.
著者
小田中 瞳 下地 伸司 竹生 寛恵 大嶌 理紗 菅谷 勉 藤澤 俊明 川浪 雅光
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.9-21, 2016 (Released:2016-02-29)
参考文献数
48
被引用文献数
1

目的 : 歯科治療に対して恐怖心を有している患者は多く, そのなかでも局所麻酔は全身的偶発症の発生頻度が高いため, 局所麻酔時の恐怖心や不安感を軽減させることは, 安心・安全な歯科治療を行うために重要である. そのための簡便な方法の一つとして音楽鎮静法があるが, 歯科領域ではまだ十分には検討されていない. 本研究の目的は, 健全な若年成人に対して局所麻酔を行った際の音楽鎮静法の効果について, 筆者らが開発したモニターシステムを用いて自律神経機能の変化によって評価することである.  対象と方法 : 22名 (26.5±1.9歳) の健全な若年成人ボランティアを対象とした. 同一被験者に対して, 音楽鎮静法を行わない非音楽鎮静群と音楽鎮静法を行う音楽鎮静群を設けた. 非音楽鎮静群と音楽鎮静群の順序は, 中央割付法でランダム化して決定した. 最初に, 質問票 (DAS) を用いて歯科治療に対する恐怖心を評価した. 次に非音楽鎮静群では, 麻酔前座位 (5分間), 麻酔前仰臥位 (5分間), 局所麻酔 (1/80,000エピネフリン添加塩酸リドカイン, 2分間), 麻酔後仰臥位 (5分間) を順に行った際の血圧・心拍数および自律神経機能について, 本モニターシステムを用いて評価した. 音楽鎮静群では音楽鎮静開始後に同様の評価を行った. また, 麻酔前後の不安感についてVASによる評価を行った. 自律神経機能は, 心電図のR-R間隔を高周波成分 (HF) と低周波成分 (LF) に周波数解析することで, 交感神経機能 (LF/HF) を評価した. 統計学的分析は, Friedman test, Wilcoxon signed-rank testを用いて行った (p<0.05).  結果 : 血圧, 心拍数およびVASは, 各段階でほとんど変化がなく, 有意な差は認められなかった. LF/HFは, 両群ともに局所麻酔薬注入時に麻酔前座位時よりも有意に低い値を示した. また, 麻酔前座位時および麻酔前仰臥位時に非音楽鎮静群よりも音楽鎮静群で有意に低い値を示した.  結論 : 健全な若年成人では, 音楽鎮静法を行った際は, 音楽鎮静法を行わなかった際と比較して局所麻酔前の座位時および仰臥位時において交感神経機能が低下する.
著者
工藤 義之 櫻井 秀人 岡田 伸男 野田 守 中居 賢司
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.331-337, 2015 (Released:2015-08-31)
参考文献数
18

目的 : 植込み型電子機器装着患者の電気的根管長測定と根管内超音波洗浄時の不整脈惹起作用について, 多チャンネル高分解能心電計 (ドリームECG) を用いて検討することを目的とした.  方法 : 根管治療のために超音波洗浄器ならびに電気的根管長測定器の使用が必要であったペースメーカー (PM) 装着者1名, 植込み型除細動器 (ICD) 装着者1名を対象とした. 治療前に循環器内科専門医と歯科麻酔専門医による十分な問診を行い, 4週間以内にICD作動, 致死的不整脈, 心筋虚血, 心不全 (NYHA Ⅲ以上) がないことを確認した. その後, ドリームECGを装着して治療中の循環器動態を測定した. 治療には循環器内科専門医と歯科麻酔専門医が立ち会い, 不測事項発生時への十分な対応のためにAEDや救急薬品をチェアーサイドに配置した.  症例1 : 54歳男性, ICD装着例. 歯科診断 : 下顎左側第一大臼歯慢性化膿性根尖性歯周炎.  症例2 : 80歳女性, PM装着例. 歯科診断 : 上顎左側第一大臼歯慢性化膿性根尖性歯周炎.  根管治療中に電気的根管長測定 (RootZX, Morita) ならびに歯科用多目的超音波治療器 (OSADA Enac 10W, Osada) での根管洗浄を行った.  成績 : いずれの症例でも, ドリームECGで若干のノイズ増加を認めたが, 致死的不整脈, 脱分極指標および再分極指標で異常を認めなかった.  結論 : PMあるいはICD装着患者において, 十分な問診, 歯科治療時の適切な循環動態の把握により, 超音波治療器・電気的根管長測定器を用いた場合でも安全な歯科治療遂行の可能性が示唆された. また, 歯科治療中の循環動態の把握にドリームECGが有効であると思われた.
著者
中島 正俊 谷口 玄 Kunawarote SITTHIKORN 保坂 啓一 高橋 真広 岩本 奈々子 岸川 隆蔵 田上 順次
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.396-402, 2008-08-31 (Released:2018-03-30)
参考文献数
26

う蝕象牙質へのレジンの接着性能は,健全象牙質に比べ低いことが知られている.その原因として,う蝕象牙質の形態学的構造,生化学的性状および機械的性状が,健全象牙質とは著しく異なっていることなどが挙げられている.また,被着象牙質表面を覆っているスミヤー層の性状も接着性能に影響を及ぼす可能性がある.象牙質切削時に表面に形成されるスミヤー層は,被切削体と構成成分は同じであると考えられている.したがって,う蝕象牙質削面に形成されるスミヤー層は,健全象牙質のスミヤー層と比べて有機成分の割合が多いと思われる.本研究では,う蝕象牙質内層(う蝕罹患(影響)象牙質:caries-affected dentin)へのレジンの接着性能の改良を目指して,スミヤー層の構造がう蝕象牙質と健全象牙質とで異なることに着目し,スミヤー層表面の有機成分を溶解・除去することができる次亜塩素酸ナトリウム水溶液による前処理が,う蝕罹患象牙質への2ステップ・セルフエッチ接着システム(クリアフィルメガボンドFA®,クラレメディカル)の接着強さに及ぼす影響について検討した.その結果,次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,還元効果のある芳香族スルフィン酸塩を主成分としたアクセル®(サンメディカル)にて30秒間処理することにより,う蝕罹患象牙質に対するクリアフィルメガボンドFA®の接着強さを,無処理-健全象牙質に対する接着強さと同程度に改善させることができた.また,健全象牙質を次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,アクセル®にて30秒間処理した場合と無処理-健全象牙質に対する接着強さの間に有意差は認められなかった.健全象牙質とう蝕罹患象牙質におけるスミヤー層の性状の違いが,2ステップ・セルフエッチ接着システムのう蝕罹患象牙質に対する接着強さの低下の大きな要因である可能性が示唆された.
著者
坂本 富則 山本 雄嗣 秋本 尚武 桃井 保子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.38-45, 2012-02-29 (Released:2018-03-15)
参考文献数
10

金属鋳造修復歯を金属接着性プライマーを用いて補修修復する場合,プライマーを金属部のみに塗布することは難しく,歯質接着性プライマーやセラミック接着性プライマーが金属部に付着することも少なくない.本研究は,補修修復の際の金銀パラジウム合金に対する金属接着性プライマーとシランカップリング剤の併用塗布が接着強さに与える影響について検討するとともに,被着面の研削条件の違いが接着強さに与える影響について検討を行った.金銀パラジウム合金を用い,通法に従って鋳造体を作製した.被着面は,シリコンカーバイドペーパー#600,カーボランダムポイント,アルミナサンドブラスト(50μm)の3条件で処理した.3種の金属接着性プライマー(アロイプライマー®;クラレメディカル,メタルプライマーII®;ジーシー,V-プライマー®;サンメディカル)を塗布,シランカップリング剤(クリアフィルポーセレンボンドアクティベーター®;クラレメディカル)を用いクリアフィルメガボンド®(クラレメディカル)で処理,クリアフィルSTオペーカー®(クラレメディカル)およびクリアフィルAP-X®(クラレメディカル)にて接着試験片を作製した.試験片は37℃水中保管48時間後,引張接着試験を行った.結果として,金銀パラジウム合金では金属接着性プライマー処理により接着強さの向上が認められた.シランカップリング剤塗布による接着強さへの影響は認められなかった.接着強さは被着面の研削条件に影響され,アルミナサンドブラスト処理したものが最も高い接着強さを示した.3種の金属接着性プライマーの問に接着強さの差は認められなかった.
著者
石井 信之 木庭 大槻 許 多 佐藤 イテヒョン 清水 千晶 田中 俊 林田 優太郎 菅原 美咲 水野 潤造 武藤 徳子 鈴木 二郎 室町 幸一郎 下島 かおり 藤巻 龍治 宇都宮 舞衣 山田 寛子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.38-43, 2020

<p> 目的 : 現在では, 歯科用実体顕微鏡や拡大鏡を使用した拡大視野下の長時間にわたる精密歯科診療が求められ, 歯科医師や歯科衛生士の正確な手技への支援や肉体的負担を軽減できる歯科診療支援システムの開発が必要とされている. 本研究は歯科診療アシストスーツを開発することで, 歯科診療の精密性向上, 診療成功率の向上, および歯科医師や歯科衛生士の肉体的負担軽減を目的とする.</p><p> 材料と方法 : 歯科診療アシストスーツの上腕負担軽減効果を解析するために, 表面筋電図による解析と定量評価機能を有した臨床シミュレーション装置を使用した臼歯部窩洞形成を実施した.</p><p> 結果 : 歯科診療アシストスーツを作動することで, 上腕二頭筋および上腕三頭筋の平均振幅値はいずれも有意に減少し, 上腕の負担軽減効果が認められた. 臼歯部窩洞形成の客観的総合評価は, 歯科診療アシストスーツ作動前と比較して作動後に有意な高得点を示した.</p><p> 結論 : 本研究で開発した歯科診療アシストスーツは, 上腕二頭筋と上腕三頭筋の緊張を軽減することによって, 診療精度の向上と長時間診療における術者の負担軽減を可能にする装置であることが示された.</p>
著者
廣田 陽平 岩田 有弘 横田 啓太 吉川 一志 山本 一世
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.47-57, 2016

&emsp;目的 : 歯の硬組織切削では, Er : YAGレーザーは特に優れた効果を示し, 臨床応用されているが, 高速回転切削器具と比較し除去効率では到底及ばず, 治療時間の延長などが問題となっている. われわれの研究グループは切削効率を向上させるため, 注水機構を霧状に改良した試作チップを作製し, 実験を重ねてきた. 今回この試作チップが製品化され, CS600Fとして発売された. 本研究はCS600Fを用いてレーザー照射を行い, ヒト象牙質に対する切削体積量, チップ先端損耗体積, チップ先端損耗率および先端出力への影響について検討した. <br>&emsp;材料と方法 : 被験歯として健全ヒト大臼歯を用い, 象牙質までモデルトリマーにて面出しを行い, 耐水研磨紙にて#2000まで研磨を行った後, 0.5mm/sでムービングステージを移動させながら4&times;4mmの範囲に均一にレーザー照射を10回行った. レーザー照射は試料までの距離を0.5, 1.0mmおよび2.0mmに規定した. C600Fにてレーザー照射を行った群をコントロール群, CS600Fにてレーザー照射を行った群を霧状噴霧群とした. 各試料および各照射チップをレーザーマイクロスコープにて観察し, 象牙質切削体積量およびチップ先端損耗体積量を計測し, チップ先端損耗率を算出した (n=3). また, 照射後の先端出力を計測し, 照射前に規定した先端出力と比較した. <br>&emsp;成績 : 象牙質切削体積量およびチップ先端損耗率ではすべての条件でコントロール群と比べ霧状噴霧群が有意に高い値を示し, チップ先端損耗体積および先端出力ではコントロール群と霧状噴霧群間で有意な差は認められなかった (p=0.05). <br>&emsp;結論 : 象牙質切削において, 霧状噴霧注水は, チップの損耗状態は変わらずに象牙質切削体積量を向上させることが示唆された. また, 従来の注水機構と霧状噴霧注水ともに, 10回照射後も先端出力の変化は認められなかった.
著者
芹田 枝里 大橋 桂 二瓶 智太郎
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.510-518, 2014 (Released:2015-01-06)
参考文献数
27

目的 : コンポジットレジン修復は, 材料の機械的性質の向上, 接着システムの向上, 患者の審美的要求により, 前歯や臼歯を問わず幅広く臨床に応用されている. コンポジットレジンの研磨後の表面性状は, 材料の臨床的予後や審美性に重要であることが知られている. この研究の目的は, 4種類のコンポジットレジンと4種類のワンステップ研磨材を用いて研磨した表面の, 表面粗さ (Ra) と光沢度を評価することである.  材料および方法 : 実験に供試したコンポジットレジンは, クリアフィルマジェスティES-2 (CME : クラレノリタケデンタル, A3), フィルテックシュープリームウルトラ (FSU : スリーエムヘルスケア, A3B), プレミス (PRM : Kerr, BODY A3) およびエステライトΣクイック (ESQ : トクヤマデンタル, A3) の4種類とし, ワンステップ研磨材は, CRポリッシャーPS (CP : 松風, ディスク), オプチワンステップ (OS : Kerr, ディスク), PoGo (PG : デンツプライ三金, ディスク) およびアイポール (IP : へレウスクルツァージャパン, ディスク) の4種類を用いた. コンポジットレジン試料は, 円盤状 (ɸ11mm×3mm) に調整し, 耐水研磨紙#600にて30秒間研磨後, 各種ワンステップ研磨材で30秒間研磨し試料とした. 未研磨試料をNP群, 耐水研磨紙#600で研磨した試料を#600群, ワンステップ研磨材で研磨した試料を, それぞれCP群, OS群, PG群およびIP群とした. 試料は, 表面粗さ (Surfcom590A, 東京精密) とその光沢度 (GM-268Plus, コニカミノルタ) を測定し研磨効果を評価した. 得られた値は, 一元配置分散分析によりα=0.05で統計学的に処理し, Tukey HSDテストによる多重比較検定を行った. さらに, 表面粗さと光沢度に関してPearsonの相関分析を行った.  結果および考察 : 表面粗さ (Ra) は, CMEのNP群が最も高い値を示し, PRMのIP群は最も低い値を示した. 光沢度では, FSUのOS群が最も高い値を示した. 今回使用したワンステップ研磨材でOSとIPは, コンポジットレジン表面を滑沢にし, 高い光沢が得られた. Pearsonの相関分析から, 表面粗さと光沢度の間には, 中等度の負の相関が認められた.  結論 : 本実験の結果から, ワンステップ研磨材はコンポジットレジンの種類によって, 異なる研磨効果が得られることが明らかとなった.
著者
松島 友二 鈴木 琢磨 八島 章博 白川 哲 鈴木 丈一郎 五味 一博
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.306-313, 2015 (Released:2015-08-31)
参考文献数
28

目的 : 極細毛を用いた手用歯ブラシは, 極細毛が歯周ポケット内に到達し, 歯周ポケット内のプラークコントロールに効果があるとされているが, 手用歯ブラシでは細かな振動を与えることが困難で, 極細毛の効果を十分に発揮することができないと考えられる. 本研究では, 微細な振動を与える音波歯ブラシに極細毛を応用した場合のプラーク除去効果, 歯周ポケット内の細菌叢の変化および歯肉に対する傷害を調べることを目的とした.  材料と方法 : 実験には段差の異なる極細毛3種類と手用極細毛歯ブラシを用いた. 被験者は, 歯肉炎または軽度歯周炎を有する歯周病患者52名を対象とした. この52名を無作為に4群に分け, 0週, 2週および4週後に歯肉擦過傷, 歯肉溝滲出液量, ポケット深さ, BOP, GI, PCR値を測定した. また, 歯周病患者18名について段差3mmの極細毛歯ブラシを音波歯ブラシおよび手用歯ブラシで用い, 使用前後のポケット内細菌をPCR-Invader法で測定した.  結果 : すべての歯ブラシにおいて歯肉への傷害は軽微であった. また, プラーク除去および歯肉の炎症改善は, 各歯ブラシ間に有意差を認めなかった. 段差3mmの極細毛を音波歯ブラシで用いた場合, 有意に細菌の減少が認められた.  考察 : 極細毛を応用した音波歯ブラシは, ポケット内のプラークコントロールに有効であると考えられた. さらに歯肉傷害は少なく, 安全に使用できることが確認された.
著者
森上 誠 行定 健治 田島 賢一 佐藤 暢昭 杉崎 順平 宇野 滋 山田 敏元
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.517-524, 2010
参考文献数
9
被引用文献数
1

多岐にわたる各種の歯科処置が歯科医師の治療時間のなかでどの程度の割合を占めているのかについて,3ヵ月間にわたる調査を虎の門病院歯科において行った.通常行われる歯科処置について,初診診査,歯周処置,歯内処置,レジン修復,インレー修復,脱離修復物・補綴物の再装着,クラウン補綴,ブリッジ補綴,義歯補綴,インプラント処置,口腔外科処置,顎関節症処置,漂白,その他の14カテゴリーに分類し,さらにこれらを全50項目に細分化した.11名の歯科医師が診療を行いながら,その処置時間をストップウォッチで計測した(単位:分).調査期間終了後,各種の歯科処置に要した時間および患者数を集計し,これに基づき処置内容別の患者1人当たりの平均処置時間を算出した.また,平均処置時間とそれぞれに対応する保険診療報酬との関係を処置内容別に比較・検討するために,保険点数を平均処置時間で除した値(Point/Time ratio,以下,P/T ratio)を算出した.カテゴリー別の処置時間は,歯周処置が29,556分(28.7%),歯内処置が9,274分(9.0%),レジンおよびインレー修復処置が16,083分(15.6%)であり,歯科保存学領域の処置は全体の53.3%を占めた.処置内容別では,スケーリングが21,677分で全体の21.0%を占め,すべての処置内容のなかで最も多くの処置時間を占めることが明らかとなった.次いでレジン修復の13,019分(12.6%),初診診査の9,312分(9.0%),歯周疾患処置の4,276分(4.1%),義歯調整の3,938分(3.8%),クラウン失活歯支台歯形成+印象採得+咬合採得の3,930分(3.8%),根管貼薬の3,725分(3.6%)という順になった.また,すべての歯科処置のなかでP/T ratioの高い処置は,硬質レジン前装ブリッジ装着(218.8),総義歯装着(171.6),床副子(ナイトガード)装着(170.1)であり,P/T ratioの低い処置は,クラウンメタルコア高洞形成+印象採得(1.3),ブリッジメタルコア窩洞形成+印象採得(2支台歯:1.6),硬質レジン前装ブリッジ試適(1.8),根管貼薬(単根:1.9)であった.P/T ratioは,診療時間に対する歯科処置のコストパフォーマンスを考慮する際の指標になるものと思われた.
著者
吉田 康一 吉田 隆一 伊東 智美 殿内 利夫 斎藤 達哉 瀧谷 佳晃 河野 哲 吉田 隆一
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.456-473, 2015 (Released:2016-01-06)
参考文献数
37

目的 : 強酸性水中の塩素酸や次亜塩素酸は大気に触れると反応し分解する. 水が凝固する際は食塩等溶解物を析出し純水に近い形で凍結するが, 電解機能水を氷結して固体で保存すれば対流はなく酸素との接触面は固定化され, 内部成分を保護でき, 殺菌力を維持した長期保存が可能になると考えた. 装置での機能水生成条件を変えて獲得した, さまざまな強酸性電解水と強アルカリ性電解水を氷結し, 保存条件を変えて解凍液の諸性質の変化を調べ, 最適な使用条件を求めた.  材料と方法 : 可変電圧 (0~90V), 直流電流 (0~10A, 整流), 貯留式の二室型機能水製造装置を試作した. 装置は生成される機能水の性状を大幅に変えることができる. 食塩水の電解により得られた酸性水とアルカリ性水を氷結前に10ml採取し, pHとORP値 (mV), 残留塩素濃度 (ppm) の測定を行った. 両水溶液は容器 (80ml) に各60mlを注入し, −17°Cの冷凍庫にて氷結した. 24, 168時間後に容器を取り出し, 室温 (23°C) で約2時間放置して解凍し, 性状を再度計測した. 分析は, 食塩添加率 (要因A) ; 3水準 (0.3, 0.6, 0.9wt%), 電解電流 (B) ; 2水準 (2, 4A), 保存方法 (C) ; 2水準 (容器の密閉の有無), 氷結時間 (D) ; 2水準として, ランダムに繰り返し3回行い, 測定値を項目別に四元配置分散分析した. さらに, 氷結保存の方法と期間が水溶液に与える影響のみを, 同データからWelchのt-testによって検定した. 機能水生成直後の諸性質の測定値に対して, 同一液で氷結解凍後に得られた値を直線方程式にて回帰分析した.  成績 : 分析から酸性電解水では, pHは解凍液でも2.2以内の酸性度を維持した. ORP値は容器の密閉を行う短期間保存で高い値を維持したが, いずれの条件でも解凍液は1,100mV以上だった. 塩素濃度 (ppm) は氷結保存の前後で263ppmから経時的に減少したが, 食塩添加率と電解電流値を高くし, 容器の密閉でこれを抑制できた. 密閉保存, 168時間氷結の解凍液でy=0.5251x−36.212 (r=0.919**) であった. 開栓でも多種の生成・保存条件の解凍液で, 薬事法上の殺菌料としての強・弱酸性次亜塩素酸水に近似した性状を獲得した. アルカリ性水では, pHは生成時の電解電流が高ければ解凍液でもわずかにアルカリ側に傾いた. ORP値は−849.2から解凍後に+224.94~301mVに転じたが, 容器の密閉によって上昇を抑制できた.  結論 : 生成・保存条件の調節により, 容器を開栓し168時間の氷結保存で解凍した酸性電解水でも十分な殺菌能が維持されており, 密閉保存すればこれが向上した. 解凍アルカリ性電解水では, 市販清掃用アルカリ性水に近似した性状であった. 氷結保存法により解凍後も殺菌能をもつ機能水を獲得でき, 人体への臨床応用の可能性が示唆された.