著者
辻本 暁正 鈴木 崇之 佐藤 愛子 寺井 里沙 高橋 史典 川本 諒 坪田 圭司 高見澤 俊樹 宮崎 真至
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.162-169, 2014 (Released:2014-05-07)
参考文献数
26

目的 : 光重合型コンポジットレジン (光重合型レジン) 修復の臨床応用範囲の拡大に伴って, 大型窩洞に対して一括で充塡できるバルクフィルコンポジットレジンが開発され, 臨床応用されている. しかし, このカテゴリーに属するコンポジットレジンの市販から間もないこともあり, これらの機械的諸性質に関する情報は少ないのが現状である. そこで, バルクフィルコンポジットレジンの機械的諸性質について, 市販されているコンポジットレジンと比較, 検討した. 材料と方法 : 供試した光重合型レジンは, バルクフィルレジンとしてTetric N-Ceram Bulk Fill (Ivoclar Vivadent) およびSDR (Dentsply DeTrey), ユニバーサルコンポジットレジンとしてTetric N-Ceram (Ivoclar Vivadent) およびEsthet・X HD (Dentsply DeTrey), フロアブルコンポジットレジンとしてTetric N-Flow (Ivoclar Vivadent) の合計5製品を用いた. これらの光重合型レジンについて, 硬化深さ, 無機フィラー含有量, 曲げ強さおよび曲げ弾性率および体積重合収縮率を, 通法に従って測定した. また, 供試した光重合型レジンのフィラー性状について, フィールドエミッション型SEMを用いて加速電圧10kVの条件で観察した. 成績 : バルクフィルレジンの硬化深さは, 3.42~4.27mmであり, その値は製品により異なるものの, 市販の光重合型レジンと比較して有意に高い値を示した. 供試した光重合型レジンの無機質フィラー含有量は60.3~77.5wt%であり, ペーストタイプの光重合型レジンがフロアブルタイプのものと比較して有意に高い値を示した. バルクフィルレジンの曲げ強さは123.3~127.5MPaおよび曲げ弾性率は7.0~8.0GPaであり, その値は製品により異なるものであった. バルクフィルコンポジットレジンの照射開始180秒後の体積重合収縮率は, 2.12~2.23vol%であり, ユニバーサルコンポジットレジンより大きく, フロアブルコンポジットレジンより小さい値を示した. 結論 : 本実験の結果から, バルクフィルコンポジットレジンは, 市販の光重合型レジンと比較して, その硬化深さの値が大きくなっているとともに機械的強度も同等あるいはそれ以上であった. したがって, これらのバルクフィルコンポジットレジンは, 今後の光重合型レジン開発の一つの方向性になるものと考えられた.
著者
杉田 典子 中曽根 直弘 花井 悠貴 高橋 昌之 伊藤 晴江 両角 俊哉 久保田 健彦 奥田 一博 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.219-228, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
24

目的 : 化学的プラークコントロール法としてグルコン酸クロルヘキシジン (CHG) 配合洗口液が効果的であるが, アレルギーなどの副作用が問題視されている. そこで今回, 塩酸クロルヘキシジン (CHH) と塩化セチルピリジニウム (CPC) を抗菌成分として配合した洗口液を開発し, 基本治療終了後の歯周炎患者が4週間使用した場合の口腔細菌に対する効果を評価した.  材料と方法 : 新潟大学医歯学総合病院歯周病科を受診中で, 20歯以上を有し歯周基本治療後5mm以上の歯周ポケットを1~7部位有する歯周炎患者30名を対象とした. 新洗口液 (CHH+CPC群), CHG配合のコンクールF (CHG群), 抗菌成分を含まないコントロール洗口液 (コントロール群) を使用する3群にランダムに各10名を割付け, 二重盲検法で比較した. ベースラインおよび使用4週後に唾液・舌苔・歯肉縁上プラークを採取し, 総菌数, 総レンサ球菌数, Porphyromonas gingivalisおよびStreptococcus mutansの菌数を測定した. またterminal restriction fragment length polymorphism (T-RFLP) 法による解析を行った.  成績 : いずれの洗口液でも有害事象は認められなかった. ベースライン (術前) と4週目を比較した結果, CHH+CPC群において唾液中総菌数とS. mutans数, 舌苔中総菌数, 縁上プラーク中総レンサ球菌数が有意に減少していた. CHG群においては, 縁上プラーク中総菌数の有意な減少が認められた. コントロール群では舌苔中総菌数および総レンサ球菌数が有意に減少していた. T-RFLP解析の結果, CHH+CPC群の唾液中において制限酵素Msp I切断断片から推定されるStreptococcus群, Hha I切断断片から推定されるStreptococcus・Eubacterium群, Parvimonas群およびPorphyromonas・Prevotella群が有意に減少していた. 縁上プラーク中の細菌については, Hha I切断断片から推定されるStreptococcus・Veillonella群がCHG群で有意に減少していた. その他に有意な変化は認められなかった.  結論 : これらの結果より, CHH+CPC配合洗口液はより安全に使用でき, CHG配合洗口液と同程度以上の抗菌効果をもつことが示唆された.
著者
織田 洋武 坪川 瑞樹 玉澤 賢 堀内 健次 鴨井 久博 中島 茂 佐藤 聡
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.384-392, 2011-12-31 (Released:2018-03-20)
参考文献数
26

銀は一般家庭において除菌,抗菌,脱臭などの目的で高頻度に使用されている.銀コロイド溶液は,銀を電気分解して精製される無色透明の溶液であり,銀イオンよりも安定した状態で殺菌力をもつことで注目されている.また,銀コロイドは,特殊イオン交換体の相乗作用により殺菌,抗菌,脱臭の効果が増強することが報告され,食品の消毒や医療分野への転用が期待されている.本研究は銀コロイド溶液の口腔内病原細菌に対する殺菌効果,ならびにヒト歯肉および歯根膜より分離培養した線維芽細胞への影響についてin vitroにて検証した.殺菌試験は,Streptococcus mutans (ATCC25175), Aggregatibacter actinomycetemcomitans (ATCC29522), Poyphyromonas gingivalis (W83, ATCC33277), Prevotella intermedia (ATCC25611), Fusobacterium nucleatum (ATCC25586)の6菌種を使用した.各細菌を洗浄後,滅菌蒸留水で希釈した銀コロイド溶液(1.5, 3, 30ppm)にて1分間処理した.その後希釈し,寒天培地に塗抹後A. actinomycetemcomitans, S. mutansは48時間, P. gingivalis, P. intermedia, F. nucleatumは72時間培養を行い,評価はColony Forming Units (CFU)で行った.細胞毒性試験は,ヒト歯肉線維芽細胞とヒト歯根膜線維芽細胞を用いた.細胞を培養後,滅菌蒸留水で希釈した銀コロイド溶液(1.5, 3, 30ppm)を30秒,1, 2, 4分間それぞれ作用させた.その後,8日間の細胞増殖の変化を測定した.また,歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞に対し,銀コロイド溶液を1〜100ppmに調整した培養液にて培養し,検討を行った.その結果,30ppmの銀コロイド溶液はS. mutans (ATCC25175), A. actinomycetemcomitans (ATCC29522), P. gingivalis (W83, ATCC33277), P. intermedia (ATCC25611), F. nucleatum (ATCC25586)の6菌種に対して完全な殺菌効果を示し,1.5ppmと3ppmの濃度においても有意な細菌の殺菌力を示した.さらに銀コロイド溶液は30ppmの濃度において歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞に抑制作用を示した.この作用は希釈により低下し,20ppmにおいては抑制作用を認めなかった.細胞生存率は,100ppm以下の濃度において歯肉および歯根膜線維芽細胞のLD50値は観察されなかった.以上の結果から,銀コロイド溶液は宿主細胞に影響しない濃度下で口腔内病原細菌に対して強い殺菌作用を示すことが認められた.
著者
鈴木 英明 三田 肇 藤田 光 小泉 直也 岡田 珠美 水野 恭子 有川 量崇 池見 宅司
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.296-303, 2010-06-30 (Released:2018-03-29)
参考文献数
40

齲蝕は口腔内の細菌が産生する酸によって引き起こされる疾患であり,連鎖球菌の1種であるStreptococcus mutansを代表とする齲蝕原因菌による内因性疾患であることが明らかにされている.現在,実用化されている齲蝕予防法には,宿主対策としての歯質強化を目的としたフッ化物の応用があるが,それ以外は効果的な齲蝕予防対策が得られていないのが現状である.近年,齲蝕罹患率の減少や予防のためにさまざまな研究が行われており,齲蝕予防効果を付与した種々の口腔用剤や飲食物が考案されてきている.アントシアニンは,フラボノイドの1種で植物性食品素材の色素成分として検出され,抗酸化作用,抗肝障害作用,視神経機能改善作用,抗炎症作用,動脈硬化改善作用などを有する.今回,われわれはアントシアニン系のなかからナスの皮に含まれるポリフェノールの1種であるナスニンに着目した.本研究の目的は,デルフィニジン型アントシアニンに属するナスニンに齲蝕予防の可能性があるかどうかを,その抗菌作用についてin vitro実験において調べることである.検討の結果,以下の知見が得られた.1.S.mutansに対する最小発育阻止濃度は500μg/mlであった.2.Streptoccus sobrinusに対する最小発育阻止濃度は250μg/mlであった.3.Actinomyces viscosusに対する最小発育阻止濃度は500μg/mlであった.4.ナスニンの抗菌作用は,S.mutans,S.sobrinusおよびA.viscosusのresting cellに対して殺菌的であった.5.ナスニンは,S.mutans PS-14株ならびにS.sobrinus 6715株産生粗glucosyltransferaseのsucrose依存性非水溶性グルカン合成活性を顕著に阻害した.以上のことより,ナスニンは齲蝕原因菌に対して顕著な殺菌作用が認められ,抗齲蝕作用を有することが示唆された.
著者
細川 義隆 細川 育子 尾崎 和美 松尾 敬志
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.10-16, 2018 (Released:2018-02-28)
参考文献数
15

目的 : テアフラビンは紅茶に含まれる渋味成分の一つであり, ポリフェノールに分類される色素成分である. テアフラビンは, 抗酸化作用・抗炎症作用などさまざまな生理活性作用が報告されているが, 口腔上皮細胞に対する作用に関しては不明な点が多く, 十分に明らかにされていない. 本研究では口腔上皮細胞に対するテアフラビンの抗炎症作用について調べることを目的とし, 炎症性サイトカインの一つであるインターロイキン (IL)-27が誘導するケモカイン産生に与えるテアフラビンの影響を明らかとするため検討を行った. 本研究では, Th1細胞浸潤に関与するケモカインであるCXC chemokine ligand (CXCL) 9, CXCL10およびCXCL11産生に着目した. 材料と方法 : 口腔上皮細胞としてTR146細胞を用いた. TR146細胞のケモカイン産生は市販のELISAキットを用いて, テアフラビンにて1時間前処理後にIL-27で24時間刺激を行い, 上清中のCXCL9, CXCL10およびCXCL11産生を測定して検討した. また, IL-27が活性化するシグナル伝達経路に与えるテアフラビンの影響についてWestern blot法を用いて検討した. シグナル伝達経路としては, IL-27が活性化することが知られているprotein kinase B (Akt), extracellular signal-regulated kinase (ERK), signal transduction and activator of transcription (STAT) 1およびSTAT3に着目した. 結果 : テアフラビンの前処理によりIL-27で誘導されたTR146細胞のCXCL9, CXCL10およびCXCL11産生は, 濃度依存的に抑制された. また, IL-27が誘導したAkt, ERK, STAT1およびSTAT3のリン酸化は, テアフラビン処理により抑制された. 結論 : テアフラビンは口腔上皮細胞においてIL-27誘導ケモカイン産生を抑制することにより, 歯周炎組織の炎症を軽減できる可能性が示唆された.
著者
平木 大地 植原 治 原田 文也 髙井 理衣 高橋 周平 虎谷 斉子 森川 哲郎 安彦 善裕
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.271-278, 2019 (Released:2020-01-07)
参考文献数
24

目的 : ホップには抗菌効果のあることから, 口腔細菌に対する抗菌作用も期待できるが, 歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisに対しての抗菌効果およびそのメカニズムについては明らかにされていない. 本研究では, ホップの成分であるキサントフモール (XN) のP. gingivalisへの作用についてRNA-Seqによる網羅的解析を行った. 材料および方法 : 歯周病原細菌P. gingivalisへのXNの影響について, 次世代シーケンサーを用いたRNA-Seqによるトランスクリプトーム解析を行った. P. gingivalis W83株をXNと嫌気培養し, 最小発育阻止濃度 (MIC) の測定, 抽出したRNAを用いRNA-SeqおよびReal time PCRによる再現性の確認を行った. 結果 : トランスクリプトーム解析で発現が増加していたものにmolecular chaperone GroES, nucleotide exchange factor GrpEおよびmolecular chaperone HtpGなどのHeat Shock Proteinにかかわる遺伝子が認められた. 低下していたものにFe-S cluster assembly protein SufB, Fe-S cluster assembly protein SufDおよびFe-S cluster assembly ATPase SufCが認められた. SufB, SufDおよびSufC遺伝子は, 鉄の取り込みや鉄-硫黄クラスターの形成において重要な役割を果たしていると考えられることから, XNはP. gingivalisの発育に必要な鉄の取り込みを阻害する可能性がある. 結論 : ホップ成分XNがin vitroで歯周病原細菌P. gingivalisの発育抑制効果を有することが示唆された.
著者
神農 泰生 岸本 麻実 穴吹 優佳 神谷 絵里子 大前 正範 西谷 佳浩 吉山 昌宏
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.622-629, 2008-12-31 (Released:2018-03-30)
参考文献数
31

複雑な窩洞に緊密な充填を行うことができるフロアブルレジンは,MIの概念の普及とともに重要な材料として注目されており,さらに,臼歯適応フロアブルレジンが製品化されることで,その重要性は増してきている.しかし,臼歯適応フロアブルレジンは比較的新しく,その基本的物性や,口腔内環境での物性変化に関する報告は少ない.そこで,臼歯用フロアブルレジンと従来型のペーストタイプのコンポジットレジンの物性を比較するとともに,口腔内pHサイクルの一端のモデルとして,脱灰・再石灰化溶液への浸漬による物性の変化を,曲げ強さならびに圧縮強さで検討した.フロアブルタイプとして,クリアフィルマジェスティLV(ML),ユニフィルローフロープラス(LP),エステライトフロークイック(FQ)を,ペーストタイプとして,クリアフィルAP-X(AP),Majesty Posterior(MP),ソラーレP(SP),グラディアダイレクト(GD),ビューティフィルII(BF),エステライトPクイック(PQ)を用いた.圧縮強さおよび曲げ強さ試験は,それぞれ円柱試料,棒状試料を作製し,負荷条件として脱イオン水,クエン酸水溶液および再石灰化溶液に1週間浸漬した後,オートグラフを用いて測定した.摩耗量試験は円柱試料を脱イオン水に1週間浸漬し,摩耗量を測定した.圧縮強さの試験の結果,フロアブルタイプのFQ,MLは,脱イオン水群でペーストタイプのPQ,MPに次ぐ高い値を示した.クエン酸水溶液群ではFQは最も高い値を示し,MLもFQ,AP,MP,PQにわずかに劣るものの高い値を示した.再石灰化溶液群ではMLが最も高い値を示し,FQはML,MP,PQ,APに次ぐ高い値を示した.MP,ML,BF,FQ,PQは,負荷条件下で圧縮強さに有意な差が認められた.曲げ強さの試験の結果,MLは脱イオン水群でMP,PQ,APに次ぐ値を示し,BF,FQと続いた.クエン酸水溶液群では,ML,FQともにMP,PQに次ぐ高い値を示し,再石灰化溶液群でもクエン酸水溶液群と同様の傾向がみられた.また,MP,ML,FQ,PQは,負荷条件下で曲げ強さに有意な差が認められた.摩耗量試験の結果,SP,LPはほかのものに比べ,摩耗量が有意に大きかった.以上より,臼歯適用フロアブルレジンの圧縮強さ,曲げ強さはペーストタイプとほぼ同等であり,また負荷条件下での圧縮強さ,曲げ強さに大きな変化は認められなかった.
著者
田本 晃生 作 誠太郎 山本 宏治
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.658-668, 2006
参考文献数
43
被引用文献数
10

Objective: This study examined the characteristics of flowable composite-resins containing improved S-PRG filler. Materials and Methods: The tested materials were Beautifil High flow F10 (BF10-resin) and Beautifil Low Flow F02 (BF02-resin), both of them containing improved S-PRG filler, and the control materials were Unifil Flow (Un-resin) and Metafil Flo (Me-resin). Resin blocks were prepared using a metal mold followed by their bonding on both upper first molars. The blocks were debonded at 8, 12 and 24 hrs, respectively and antiplaque test was carried out including SEM observation and energy dispersive X-ray micro analysis. Furthermore, observation of saliva proteins on each resin surface and albumin adsorption probe was performed. Concerning the cavity wall adaptability test, cavities were prepared in two different manners: by Er: YAG laser and diamond burr mounted in a high-speed hand-piece. Then the preparations were filled with the corresponding material according to each manufacturer's recommendation and the cavity wall adaptability was analyzed. Results: One of the most important findings was that BF10 and BF02-resing exhibited almost no bacterial adhesion. The energy dispersive X-ray micro analysis revealed the presence of elements such as Al, Si, and Sr of the improved S-PRG filler. Also, only in BF10 and BF02-resins the film layer was observed on their surfaces soaked in albumin solution. The albumin adsorption was higher in BF10 and BF02-resins than control materials. Overall, the cavity wall adaptation was suitable for all materials, unless BF02-resin showed a creck when the cavity was prepared by Er: YAG laser. Conclusions: BF10 and BF02-resins presented appropriate characteristics and were useful for the treatment of caries; moreover they offered an anti-plaque property suggestion that the application of these materials is suitable as a minimal intervention approach.
著者
両角 祐子 山下 穣 阿部 祐三 安川 俊之 竹田 まゆ 宇野 清博 佐藤 聡
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.219-225, 2009-04-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
33

本研究は,脈動ジェット水流式口腔洗浄器具を用いた歯肉縁上の洗浄が歯肉縁下に及ぼす影響を,歯周組織および歯肉縁下細菌叢の変化で検討した.全身疾患を有さない男性4名,女性4名を対象とし,手用歯ブラシとジェットチップ®を装着した口腔洗浄器具(ウォーターピック®ウルトラJET:WP-10-J,Water Pik,USA)を併用した場合と,手用歯ブラシのみの場合を比較検討した.口腔洗浄器具の使用は,1日1回就寝前,600mlの水道水にて行った.検査項目は,Plaque Index(以下,P1I),Plaque Control Record(以下,PCR),Gingival Index(以下,GI),Bleeding on Probing(以下,BOP),Probing Depth(以下,PD)とし,実験開始時と1,2週間後に測定を行った.細菌学的検索としては,Polymerase Chain Reaction法を用い,Porphyromonas gingivalisの検出を行った.結果,口腔洗浄器具を併用した場合,手用歯ブラシのみの場合と比較し,PCR,P1Iで2週間後に有意な減少を認めた.GI,BOPにおいても口腔洗浄器具を用いた場合のほうが改善がみられた.細菌学的検索では,口腔洗浄器具の併用において,P.gingivalisの検出部位が少なかった.以上の結果から,脈動ジェット水流式口腔洗浄器具を併用した場合,臨床的にプラークの抑制効果があることが示された.また,歯肉溝内の歯周病原細菌の抑制効果があることも示された.これらのことから,脈動ジェット水流式口腔洗浄器具を用いた歯肉縁上の洗浄の歯肉縁下に対する有効性が示された.
著者
八島 章博 鈴木 琢磨 松島 友二 五味 一博
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.314-320, 2015 (Released:2015-08-31)
参考文献数
23

目的 : 音波歯ブラシは高振動によるキャビテーション効果により, 毛先から離れた部位のプラーク除去にも効果があるとされるが, 深い歯周ポケットに対してはその効果を十分発揮するのは難しい. しかし, 歯周ポケット内の歯周病原細菌をコントロールすることはきわめて重要であると考えられる. そこでわれわれは, 音波歯ブラシと水流洗浄器を併用した場合の歯周ポケット内細菌に与える影響について検討した.  材料と方法 : 4~5mmの歯周ポケットを有する患者18名を無作為に2群に分け, 実験群は被験歯に音波歯ブラシで頰側・口蓋側から10秒ずつブラッシング後含嗽し, 水流洗浄器で頰側・口蓋側から10秒ずつ洗浄を行った. 細菌は術前後に採取した. 対照群は音波歯ブラシでブラッシング, 含嗽後に細菌を採取した. 採取した細菌はPCR-Invader法にて, 定量・定性分析を行った.  結果 : 個々の歯周病原細菌の術前後の菌数変化に有意な差を認めなかったが, 全歯周病原細菌の平均で評価すると, 実験群では術前と比較して術後に有意な減少を認めたのに対し, 対照群では有意差を認めなかった. また, 歯周病原細菌数の減少率を比較すると, 実験群は対照群に比べて約4倍の歯周病原細菌の除去効果が認められた.  考察 : 以上の結果より, 音波歯ブラシによる液体流動力と水流洗浄器が発生させるバブル水流の併用は, 歯周ポケット内の歯周病原細菌の除去に有効であることが示唆された.
著者
島村 穣 高橋 史典 竹中 宏隆 吉田 ふみ 池田 昌彦 森 健太郎 黒川 弘康 安藤 進 宮崎 真至
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.333-339, 2012
参考文献数
26

目的:OCTイメージへの影響因子として,歯質の乾燥状態がOCTイメージおよび信号強度に及ぼす影響について検討した.材料と方法:実験には,光源に中心波長1,310nmのSuper Luminescent Diodeを用いたTime-Domain型OCT装置(モリタ東京製作所)を用いた.測定においては,ヒト抜去歯を精製水から取り出し,サンプルステージに静置直後の歯質表面が湿潤している条件,エアブローを10秒間行うことによって歯質表面の水分を除去した条件,エアブロー後1,5分あるいは10分間放置した条件の合計5条件を設定した.以上の条件で得られたOCTイメージおよび信号強度を比較検討した.成績:いずれのOCTイメージにおいても,内部断層構造の観察が可能であり,エナメル質および象牙質が色調の違いとして識別できた.湿潤条件においては歯質表面付近に2本の高輝度のラインが観察されたのに対して,ほかの条件のいずれにおいても高輝度のラインは1本のみ観察された.また,湿潤条件においてはエアブロー条件と比較して得られたOCTイメージが不明瞭であったのに対し,放置条件では放置時間の経過とともに歯質表面の信号強度が強くなる傾向を示した.結論:歯質の乾燥状態は,OCTによって得られる画像に影響を及ぼすことが明らかとなった.臨床的には,観察部表面に対してエアブローを10秒間行うことによって可及的に水分を除去することで,より鮮明なOCTイメージが得られることが示唆された.
著者
小山 征哉 小倉 陽子 勝海 一郎
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.688-697, 2007
参考文献数
41
被引用文献数
3

この研究の目的は,エンジン用の根管拡大形成器具で根管形成を行ったことを想定したテーパーが6/100の樹脂性湾曲根管模型に,材質,サイズが異なる8種のスプレダーを用い側方加圧充填法による根管充填を行い,湾曲根管におけるスプレダーの種類によるガッタパーチャポイントの圧接の違いを評価することにある.すなわちDentalEZの2種のステンレススチール製スプレダー(Star Dental D11T〔S-D11Tと略〕,Star Dental D11〔S-D11と略〕,と,Roekoの4種のニッケルチタン製スプレダー(NiTi #15〔R-15と略〕,NiTi #25〔R-25と略〕,NiTi #35〔R-35と略〕,NiTi D11T〔R-D11Tと略〕),Brasselerの2種のニッケルチタン製スプレダー(Navi-flex NT D11T〔B-D11Tと略〕,Naviflex NT 4SP〔B-4SPと略〕)を用い,側方加圧充填法による根管充填を行った.圧接状態の評価は,マイクロフォーカスX線CT装置により撮影された根尖から1,2,3,4,5,6,7mmの各位置の根管断面に占めるガッタパーチャポイントの割合(ガッタパーチャ充塞率)を求めることにより,各スプレダーの圧接状態の分析を行い,以下の結論を得た.1〜7mmの全断層像におけるガッタパーチャ充塞率の平均は,S-D11Tスプレダーが93.9%と最も高く,次いでB-D11Tが93.7%,S-D11が86.1%,R-25が85.3%,R-D11Tが85.2%,R-15が82.9%,R-35が76.8%,B-4SPが76.2%の順に低下し,根管の封鎖は不十分となった.なおスプレダーの種類が,ガッタパーチャ充塞率に及ぼす影響については高度に有意であることが認められた.1〜7mmの各断層位置における断層像のガッタパーチャ充塞率は,S-D11Tが各断層位置で90.8%以上の,またB-D11Tが90.5%以上の高い値を示した.これに対しR-35は断層位置6mmで65.9%,B-4SPは4mmで69.4%の低い値を示し,充塞率が船底型に大きく落ち込む現象が認められた.なお,R-25,R-15,R-D11T,S-D11でも,充塞率が局所的に低下する落ち込み現象がみられた.以上の結果より,湾曲根管におけるスプレダーの選択に際しては,材質によるしなやかさよりもスプレダーの径やテーパーによる根管への挿入性や圧接性を優先し,選択すべきであることがわかった.
著者
勝海 一郎 山崎 孝子 都築 民幸 北村 和夫 石井 隆資 前田 宗宏 小倉 陽子 好士 連太郎 阿川 透久 宮里 尚幸 大島 克郎 大村 朋己 丸山 博吉 木津喜 美香 小山 征哉 遠藤 春江
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.846-853, 2006
参考文献数
32
被引用文献数
1

On 6 types of Ni-Ti spreader (Roeko NiTi # 15; Roeko NiTi # 25; Roeko NiTi # 35; Roeko NiTi D11T; Brasseler Naviflex NT D11T; Brasseler Naviflex NT 4SP), dimensions were measured under digital microscope, and a load application test was performed in the axial direction of the spreader. The results were as follows: 1. In Roeko NiTi # 15, D<sub>3</sub> was 0.38 mm, D<sub>16</sub> was 0.61 mm, taper was 0.018, and tip angle was 28.9°. Similarly, the above values were 0.32 mm, 0.68 mm, 0.027, and 28.0° respectively in Roeko NiTi # 25. The values were 0.50 mm, 0.70 mm, 0.016, and 32.5° respectively in Roeko NiTi # 35, and the values were 0.37 mm, 0.88 mm, 0.039, and 10.6° respectively in Roeko NiTi D11T. The values were 0.27 mm, 0.77 mm, 0.038, and 29.9° respectively in Brasseler Naviflex NT D11T, and 0.30 mm, 1.06 mm, 0.059, and 35.9° respectively in Brasseler Naviflex NT 4SP. 2. When a load was applied in the axial direction of the spreader, the load was 0.56 kgf in case the portion of 16 mm in length from the tip in Roeko NiTi # 15 was bent at a stroke. When the portion of 5 mm in length from the tip was fixed and the portion of 11 mm in length from the tip was bent at a stroke, the load was 4.32 kgf. The above values were 1.13 kgf and 7.52 kgf respectively in Roeko NiTi # 25, 1.24 kgf and 8.58 kgf in Roeko NiTi # 35, 0.82 kgf and 10.28 kgf in Roeko NiTi D11T, 0.63 kgf and 7.27 kgf in Brasseler Naviflex NT D11t, and 1.02 kgf and 17.61 kgf in Brasseler Naviflex NT 4SP. 3. The Ni-Ti spreader has super-elasticity and is flexible. Thus, it is difficult to apply pressure on it in the axial direction, during lateral condensation. However, this study revealed that sudden bending may be avoided if at least the tip portion of 5 mm in length from the tip is inserted into the root canal.
著者
川守田 暢 安田 善之 新田 督 泉川 昌宣 斎藤 隆史
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.359-366, 2010-08-31 (Released:2018-03-28)
参考文献数
24

キシリトールは,齲蝕原因菌に酸を産生させないことから非齲蝕性甘味料として使用されている.本研究の目的は,キシリトール溶液にて4週間洗口を行った場合の齲蝕予防効果を検討することである.はじめに,in vitroにおいてキシリトールの齲蝕原因菌の増殖への影響を調べた.キシリトールは濃度依存性にStreptococcus mutansやStreptococcus sobrinusの増殖を抑制したが,ソルビトールはほとんど影響がなかった.Lactobacillus caseiの増殖にはキシリトールとソルビトールはともに影響を与えなかった.次に,計40名の被験者を2群に分け,5%キシリトール溶液もしくは5%ソルビトール溶液にて洗口後の唾液中S.mutansレベルとプラーク付着率を調べた.キシリトール溶液の洗口4週後の唾液中S.mutans菌数は洗口開始前と比べて約65%減少したが,ソルビトール溶液の洗口4週後では約10%減少した.さらに,キシリトール溶液の洗口4週後ではプラーク付着率はソルビトール溶液の洗口に比べて約45%有意に低下した.以上の結果から,キシリトール溶液の洗口は唾液中のS.mutans菌数を減少させ,齲蝕予防に有効である可能性が示唆された.
著者
下地 伸司 小田中 瞳 宮田 一生 菅谷 勉 川浪 雅光
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.431-441, 2013

目的:歯周治療を安心・安全に行うためには,その治療が全身状態に及ぼす影響を解明することが重要である.そこで著者らは,歯科治療の影響を評価するための自律神経活動モニターシステムを開発してきた.本研究ではパイロットスタディとして,新規開発モニターシステムを用いて健全な20歳代のボランティアに対して歯周基本治療を行った際の自律神経活動の変化について検討を行うとともに,システム自体の使用感についても評価を行った.対象と方法:10名(25.4±1.4歳)のボランティアに対して口腔内検査,歯周ポケット検査,スケーリングおよび印象採得を行った際の血圧,心拍数,経皮的動脈血酸素飽和度および自律神経活動について,新規開発モニターシステムを用いて評価した.自律神経活動は,心電図のR-R間隔を高周波成分と低周波成分に周波数解析することで,交感神経活動および副交感神経活動を評価した.またシステム自体の使用感については,質問票による調査を行った.成績:質問票への回答から,システムを装着すること自体をつらいと感じる者はいなかった.血圧,心拍数および経皮的動脈血酸素飽和度については,歯周基本治療時には処置開始前と比べてほとんど変化がなく,有意な差は認められなかった.交感神経活動は,処置前のユニット着席時や処置の開始直後に上昇する傾向がみられた.このことから,健全な20歳代に対する歯周基本治療では,処置中の侵害刺激の影響よりも精神的なストレスの影響が大きい可能性が示唆された.結論:新規開発自律神経モニターシステムを用いることで,簡便かつ非侵襲的にストレスなく歯科治療が自律神経活動に及ぼす影響を評価することができる.また,健全な20歳代に対して歯周基本治療を行うと,実際の処置中よりも処置を待つ開始直前や処置開始直後に交感神経活動が活発になる傾向がある.
著者
西永 英司 内山 千代子 牧 利一 斉藤 浩一 深澤 哲 鈴木 苗穂 山本 高司 村越 倫明 大寺 基靖 福田 功 大久保 章男 冨士谷 盛興 千田 彰
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.321-330, 2015 (Released:2015-08-31)
参考文献数
36

目的 : 唾液による総合的な口腔検査法の確立を目指し, う蝕・歯周病・口腔清潔度に関する7項目の唾液因子 ([う蝕関連] う蝕原性菌, pH, 酸緩衝能, [歯周病関連] 潜血, 白血球, タンパク質, [口腔清潔度関連] アンモニア) を5分間で測定できる唾液検査システム (AL-55) を開発した. 著者らは前報において, 一般的な口腔内の臨床検査結果と, AL-55で測定した7項目の唾液因子の検査結果との相関を解析し, AL-55による検査が口腔内の状態把握に有用であることをすでに明らかにした.  AL-55の最大の特徴は, 7項目の唾液因子について, 試験紙の色調変化を反射率として一括して検出できる多項目検査という点にあるが, これら個々の唾液因子においては, 従来より培養法・電極法・酵素法などの一般的な分析法が確立されている.  本研究では, AL-55の臨床応用に際し, 従来の分析法とAL-55による測定結果を比較することにより, 従来の分析法に対するAL-55の測定値の妥当性および信頼性について検討した.  方法 : 前報における研究協力者231名から, 蒸留水3mlを口に含み, 10秒間軽く洗口した後の吐出液を採取し, AL-55の試験紙に10μlずつ点着, 1分および5分後に反射率を測定した. 従来の分析法については, う蝕原性菌は培養法, pHおよび酸緩衝能はpH電極法, 潜血および白血球はラテックス免疫凝集比濁法, タンパク質はピロガロールレッド法, アンモニアはグルタミン酸脱水素酵素法を用いて測定した.  従来の分析法とAL-55による測定結果の相関について, Pearsonの相関係数検定を用いて検討し, 有意水準をα=0.01とした. また, 従来の分析法およびAL-55の測定結果を3段階に層別した際の一致率を検討した.  結果 : 従来の分析法とAL-55による測定結果との相関係数rは, う蝕原性菌が0.59, pHが−0.74, 酸緩衝能が−0.86, 潜血が−0.74, 白血球が−0.67, タンパク質が−0.75, アンモニアが−0.89 (7項目ともにp<0.01) で, 中等度~高い相関が認められた. 従来の分析法およびAL-55の測定結果を3段階に層別した際の一致率は, う蝕原性菌が70%, pHが82%, 酸緩衝能が73%, 潜血が71%, 白血球が72%, タンパク質が84%, アンモニアが90%であった.  結論 : 従来の分析法とAL-55による測定結果を比較した結果, 両者に高い相関を確認するとともに, 両者の測定結果を3段階に層別した際には, 70~90%の高い一致率を示したことから, 従来の分析法に対するAL-55の測定値の妥当性および信頼性が明らかとなった.
著者
臼井 エミ 大島 朋子 山崎 弘光 井川 聡 北野 勝久 前田 伸子 桃井 保子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.101-108, 2015 (Released:2015-05-07)
参考文献数
24

目的 : 大気圧低温プラズマ照射は, 生成された活性酸素種の環境を酸性条件にすること (低pH法) で, 各種口腔病原微生物の菌液とバイオフィルムに殺菌効果を示すことが報告されており, 医療において実用的な殺菌技術である可能性が期待されている. 本研究では, プラズマ低pH法がヒト感染象牙質モデル歯のう蝕感染象牙質を無菌化しうるか検討した.  材料と方法 : ヒト大臼歯咬合面に直径3mm, 深さ3mmの窩洞を形成後, オートクレーブ滅菌した. 窩洞内を乳酸で2日間脱灰後Streptococcus mutans (ATCC25175株) の菌液 (106-7 CFU/30μl, trypticase soy broth with dextrose[TSBD], 5% carboxymethyl cellulose sodium salt[CMC]で調整) を7日間毎日接種し, 象牙質が極度に軟化しう蝕検知液で濃染する「う蝕象牙質外層」を作製した. 試験は, 試作モデルのLFジェット回路を使用しプラズマ未照射群 (ヘリウムのみ照射) と, プラズマ照射群 (ヘリウムプラズマ照射 : 30, 60, 120, 180秒群) の5群で, pH 3.5で評価した. 180秒群は, 中性付近 (pH 6.5) での実験も行った. プラズマ照射前後にラウンドバーで感染象牙質を採取し, brain heart infusion (BHI) 培地に懸濁し, 寒天培地上に塗抹後2日間培養し, CFU/round burを算出した. 統計解析にはWilcoxon検定を使用した (α=0.01).  結果および考察 : 照射前の生菌数はすべて2.7±1.9×105で, 検出限界は2 CFU/round burである. 大気圧低温プラズマはpH 3.5の環境下で, 感染象牙質中のS. mutansを照射時間依存的に有意に減少させ, 照射時間180秒では感染象牙質をほぼ完全に無菌化した (検出限界以下). 一方, pH6.5の環境下では照射180秒後でも殺菌効果がみられず, プラズマ照射せず酸性環境下に置く条件では, 感染歯質は殺菌されなかった. 殺菌効果がpHおよび照射時間依存的であった理由は, プラズマ照射により活性種が発生し, これが低pHのバッファー内部に取り込まれ, バッファー中のO2-ラジカルがHOOラジカルに変換されるためと考えられる. バッファー内で照射時間依存的に濃度の高まったHOOラジカルが高い殺菌効果を示すと思われる. pH 3.5については, 殺菌に必要な照射時間では生体為害が少ないと考えられ, 今後, 供給活性種の量を増やし無菌化に必要な時間を短くできる可能性がある.  結論 : 大気圧低温プラズマは, pH 3.5の環境下で感染象牙質中のS. mutansを照射時間依存的に有意に減少させ, 照射時間180秒では無菌化した.