著者
原田 勉
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.78-96, 1998 (Released:2022-07-27)

本稿の目的は,研究開発組織におけるゲートキーパーの役割について中堅工作機械メーカから収集したデータをもとに再検討を行うことにある.既存の研究では,ゲートキーパーの受け持つ機能として,①情報収集機能,②情報伝達機能,が指摘されてきたが,現在では,それに加え,③知識転換機能が重要な役割を果たしていることを議論する.そして,これらの機能のうち,情報収集機能と知識転換機能には別々の異なった,しかも相対立するスキルが要求されるため,ゲートキーパーとコミュニケーション・スターは一致せず,したがって,2段階ではなく3段階のコミュニケーション・フローが生じるというのが本稿の基本的な仮説である.
著者
原田 勉
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.93-111, 1998 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
1

本稿の目的は,日本工作機械産業における技術革新のプロセスについて汎用・専用技術の相互転換プロセスという独自の概念によって分析し,その背後にある学習メカニズムについて明らかにすることにある.われわれは,汎用・専用技術の相互転換プロセスは両技術の相互浸透したインターフェイス知識の増大を伴うということを議論する.インターフェイス知識は,汎用・専用技術の相互転換プロセスを助長する機能をもっており,技術革新を推進していく上で極めて重要な役割を担っている.このようなインターフェイス知識をいかに効率的に蓄積していくかが今後の工作機械産業のみならず技術融合が進むハイテク産業においても重要な課題となることを議論する.
著者
高橋 伸夫
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.14-27, 1998 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
5

日本企業で見られる意思決定の多くは,ゲーム理論や決定理論から見ると一見不合理なものに感じられるが,実は「未来の重さ」によって導かれた合理的なものである.非ゼロ和の世界では均衡も安定ももはや説得的ではなく,これらに代わって経営の現場で実際の行動に意味を与え続けてきたのが「未来の重さ」である.単に概念としてではなく,実際に手応え,やりがい,生きがいとなって,われわれの日常感覚の基礎をなしてきている.
著者
國領 二郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.4-13, 1998 (Released:2022-07-22)

情報・通信産業などにおいて,商品供給連鎖を構成する諸階層のうちで,自社の提供する階層を絞る一方で,自分がコミットする階層についてはより多くの地域で高いシェアをとろうとするプラットフォーム型の経営戦略が一般的になりつつある.プラットフォーム型経営戦略がただちに全ての産業に広がることは考えられないが,このトレンドは知識経済化の現われであると認識され,今後広がることが予想される.プラットフォーム型経営戦略は短期的には従来の日本の組織の強みを否定するが,情報技術を組織構成員間の文脈共有の道具として活用していくことに成功すれば,日本の組織の強みを強化するものともなりうる.
著者
長瀬 勝彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.60-78, 1997 (Released:2022-07-22)

この報告の目的は,競争的状況下におけるリスクを含む連続意思決定について,合議決定と個人決定を動態的に比較分析することにある.被験者212名を対象にした実験の結果,いくつかの事実発見があった.強気の意思決定が高いパフォーマンスをもたらすポジティブ・フィードバックが続くと,個人群よりも2人合議群,4人合議群と人数が多い方がよりリスク・シーキングな意思決定を下すようになった.また,弱気の意思決定が高いパフォーマンスにつながるネガティプ・フィードバックが与えられると,逆に人数が多いほどリスク・アバースに振れた.全体的に,環境からのフィードバックに対しては個人よりも小集団合議のほうが敏感に反応し,またその反応は単純であると考えられる.この結果は,選択シフト,プロスペクト理論,エスカレーティング・コミットメント,組織の慣性等の諸理論に新しい論点を提供する可能性がある.
著者
輕部 大
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.85-98, 1997 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
1

半導体プロセス技術における日米の支配的な企業戦略の違いに注目して,両国の資源投入パターンの違いを明らかにする.その上で,資源投入パターンの相違が生み出される原因を,外部事業化の可能性の違いという経済制度的要因に求め,その要因が企業戦略に与える影響を考察する.最後に,外部事業化の可能性が高い米国型システム下では,資源投入の2極分化が起きやすくなる,という論理的な可能性を仮説として提示する.
著者
伊藤 秀史
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.51-59, 1997 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
1

本論文で紹介される組織の分析視座は,次の3つの要素からなる.(1)ゲーム理論の人間観.(2)階層組織のエージェンシー・モデル.(3)集団ネットワークとしての組織とりわけ,組織のメンバーが集団を形成し集団として行動する可能性を,元来個人主義的な人間観に立脚したエージェンシー・モデルに導入し,組織を個人間の相互作用と集団のネットワークを規定する全体的ルール設計の問題として捉える見方を強調する.
著者
福留 恵子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.37-50, 1997 (Released:2022-07-22)

組織成員間の自由なコミュニケーションは,組織の活力や創発,成員の満足などとの関係からその重要性が注目されているが,現場におけるその実現や維持は決して容易ではない.本論文ではグループウェア等情報通信技術の利用現場の経験から,自由なコミュニケーションの実現・維持の試みが自由と制約の循環に陥りがちであること,さらにルーマンらの議論を参考に,それが実は(近代組織にとって)原理的・必然的な事態であることを示す.その上で,この困難を解消して自由なコミュニケーションを導入するためのマネジメントのデザインを考察する.
著者
青島 矢一 延岡 健太郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.20-36, 1997 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
17

競争環境が厳しくなる中,短いリードタイムで連続的に製品を導入していくことがますます重要になってきている.しかし,個々の新製品開発プロジェクトで創造される「プロジェク卜知識」を,他のプロジェクトヘと効果的に移転・伝承する体系的なメカニズムをもつ企業は必ずしも多くない.それは,プロジェクト知識が開発の過程やシステムに関係する暗黙知的要素を多く含むがゆえのマネジメントの難しさを反映している.本論文は,プロジェクト知識を効果的に移転・蓄積する方法として人的移転型プロジェクト連鎖と時間的オーバーラップ型プロジェクト連鎖の2つの方法を議論する.プロジェクト間の直接連鎖に関するこうした議論は従来の新製品開発組織論に新しい視点を提供する.
著者
小川 進
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.60-71, 1997 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
4

本研究ではイノベーションでユーザーが重要な役割を演じる条件を「情報の粘着性(stickiness of information)」という視点から明らかにする.「情報の粘着性」という概念は近年,提唱されたものであり,体系的に収集されたデータをベースに議論が展開されることはこれまでほとんどなかった.その意味で本研究は,「情報の粘着性仮説」を概念的議論から経験的調査をもとにした議論へと橋渡しする試みであると言える.また,本稿ではこの仮説から引き出される実践的インプリケーションについても経験的調査の結果をベースに議論する.
著者
松永 真理 日置 弘一郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.4-13, 1996 (Released:2022-07-22)

女性についての組織論的研究は,当初の女性への制度的不平等の現実関心から,現在では組織論のレベルでの問題関心によって論じられる必要がある.制度的に不平等が存在している場合には,それを指摘するだけで十分な問題提起になり得たが,理論的なレベルでは,女性の組織行動を扱う理論枠組みが必要となっている.本論文では実務と理論の双方から,女性の役割モデルとしての家刀自の概念を提出する.
著者
金井 壽宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.62-75, 1996 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
1

統合という問題を分化との関連において論じる.個人にせょ,集団にせよ,組織にせよ,そのシステムの分化の程度に応じた統合をはかることが,システムの発展や成長のために要請される.分化と結びつけられることなく統合ばかりを旗頭にするようでは,個人レベルでは独断的で権威主義的なパーソナリティ,組織レベルでは(表現は適当ではないが)ファシズムのような組織を生み出してしまうことになる.本稿では,「分化に応じた統合」という観点から,複数の分析レベルにまたがって議論が成立するようなクロス・レベル・イシューが試論的に展開される.
著者
楠木 建 野中 郁次郎 永田 晃也
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.92-108, 1995 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
11

組織の保有する知識は(1)知識ベース,(2)知識フレーム,(3)知識ダイナミクスという3つのレイヤーの重なりとして把握できる.それぞれの知識のレイヤーは相互に異なる組織能力を提供しており,したがって組織能力は重層的な性格をもっているというのがわれわれの概念的フレームワークの基本的なアイデアである.この論文では上場している日本のすべての製造業企業を調査対象とした大規模サーベイに基づいて日本企業の製品開発における組織能力についての仮説を導出し,われわれの概念的フレームワークのもつ意義とインプリケーションを考察する.
著者
桑田 耕太郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.66-79, 1995 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
2

長期的視野から,新しい情報技術が,組織の境界や規模,組織構造のデザインに与える影響を検討する.新しい情報技術は組織デザインの基本的制約条件を,従来の不確実性の除去から,多義性の除去へとシフトさせ,専門化の利益と顧客満足度を両立する組織構造を可能にする.また情報技術が高度化すればするほど,組織における管理者の職務は,より人間的・社会的スキルを必要とするものになる.
著者
西山 茂
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.43-51, 1987 (Released:2022-07-14)

庭野日敬の事例を通して,また,組織者―天啓者―幹部の対内関係,および教団―環境の対外関係に注目しつつ,天啓者を抱えた新宗教の教団組織者が,教団の急膨張期に示しやすい路線上の行き詰まりを路線転轍のリーダーシップによって克服する過程を分析し,さらに,教団組織者のリーダーシップが,機能論的なリーダーシップにとどまらず,超俗的な意味の脈絡をもつ宗教的なリーダーシップを併せもっていることを指摘する.
著者
桑田 耕太郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.66-77, 1985 (Released:2022-07-14)

時代は経営組織に創造性を要求している.本稿では創造的経営組織のデザイン論の確立を目指し,まず第1に創造的経営組織デザイン論には適切な組織学習および創造的意思決定過程の管理という2つの課題が含まれることを指摘する.次いで既存の組織デザイン論の限界をふまえつつ,それぞれの課題について議論し,そこでの研究上の理論的要請や展望を明らかにしてゆく.
著者
榊原 清則
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.52-62, 1986 (Released:2022-07-14)

組織のダイナミックな変容はしばしばドメインの定義に関連しているといわれる.しかし,その関係の分析的な議論はほとんど存在していない.本稿では通常のドメインに代えて,より広いドメイン・ユニバースという新しい概念を導入し,独自の組織変動論を展開している.
著者
高田 昭彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.55-66, 1986 (Released:2022-07-14)

今やネットワークを論ずることはブームであり,産業組織の新しい形態としても,市民運動の新たな戦略としても大きな期待が寄せられている.では,「組織」万能の現代になぜ「ネットワーク」が注目されるのか.この本質的問題は,従来の社会的ネットワーク論や組織関連分析では捉えられない.本稿では,草の根運動における連合形成に焦点を合わせて,ネットワークとは,理念的にも組織的にも既存の産業社会に対するオルターナティヴであることを明らかにしていく.
著者
今井 賢一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.2-12, 1986 (Released:2022-07-14)

社会学,経済学,経営研究,および運動論としてのネットワーキング論において提出されている「ネットワーク組織」の概念,および内容を,インターディシプリーな観点から考察し,各分野の諸研究の間に概念共鳴というべきものを見出しうるか否かを検討する. 展望論文であると同時に,その内容との関連で筆者独自の「取引コスト」に関する考察を行い,また「ネットワーク論集」という概念を示す.
著者
野中 郁次郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.79-90, 1987 (Released:2022-07-14)

戦略論に対する合理的アプローチとプロセス・アプローチの両者を総合する分析視角として,生成するプロセスそのものとしての戦略という概念が提唱される.戦略を,情報の絶えざる創造から創発するプロセスと捉えた上で,情報概念を再検討し,形式情報と意味情報の特性が明らかにされる.さらに組織と集団,個人の各レベルに固有の情報創造の方法論について考察し,レベルを超えた動的協力現象を促進する要因を分析する.これらの議論を通じて最後に,直観を戦略に取り込む方法を考察する.