著者
伊藤 宗彦 長内 厚 松本 陽一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.37-49, 2009-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
14

本稿は,製品事業のサプライ・チェーンにおける位置取り競争に直面した企業が,本業の製品事業に付随するサービスの提供によって優位性を獲得していることを示し,製品とサービスの融合による企業の競争優位構築の可能性について検討する.本稿では台湾の半導体製造企業であるTSMC社とフランスの家電量販店であるFNAC社の事例をもとにこれらの議論を行う.我が国の産業が,依然としてものづくりの強み持ちながら十分な収益を獲得できない現状に対して,製品・サービスの一貫した取り組みによる価値獲得の方策を示唆する.
著者
西尾 久美子 藤本 隆宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.62-76, 2009-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
27

サービスは人工物制御の出力であるとの観点から,接客サービス現場に製造業で発達してきた広義の「ものづくり」分析のフレームワークを応用する.具体的には,競争力を持つ接客サービス業である京都花街の顧客経験(プロセス)分析,お座敷のチーム作業(オペレーション)分析,人材育成分析を試み,京都花街のサービス現場とトヨタ自動車の組立現場に「多能従業員のチームで良い流れを作る」という意外な共通点があることを示す.
著者
楠木 建
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.31-47, 2009-03-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
53

日本企業の実務家にとって有用な戦略論を提供するために,経営学者はどのような構えをとるべきか.因果論理のシンセシスとしての戦略は,本来は「長い話」であった.しかし,近年の戦略論は「短い話」に終始しがちである.戦略論を本来の姿である「長い話」へと押し戻していくことこそに,実務家でもコンサルタントでもない経営学者の役割がある.そのひとつの試みとして,「ストーリーの戦略論」という視点を提示する.
著者
淺羽 茂
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.48-58, 2009-03-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
22

戦略の実務家教育の問題は,成功事例の解釈は学べても,戦略の構想の仕方が身に付かないことである.ゆえに,戦略構想プロセスの研究が必要である.いくつかの日本企業は,バブル崩壊後に事業の選択と集中によって収益性を回復したが,同時に成長の原資を手放してしまった.現在の不況を脱して日本企業が再成長に向かうとき,同じ轍を踏まないために,長期戦略を構想し,短期の意思決定をそれに連動させることが焦眉の課題である.
著者
若林 隆久
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.47-60, 2008-12-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
23

近年,急速に発達してきている企業ポイント交換市場の構造をネットワーク分析の手法を用いて分析した.その結果,ネットワーク内に混在している多様な主体が各自の意図に基づいて行動していることによって,⑴企業ポイント同士の交換関係についても,また市場全体としても,一方向的で非対称な構造をしており,⑵交換の行える経路が偏在し,交換にかかるルールも区々である複雑な市場となっていることが明らかになった.
著者
山田 幸三 伊藤 博之
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.89-99, 2008-12-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
25

有田焼と京焼の陶磁器産地を比較事例とし,産地の分業構造を事業システムの概念に依拠して捉えて形成メカニズムを探る.有田では中核となる窯元が技能や伝統を伝承して産地を方向付けする責任を果たし,産地のヘゲモニーをもってきた.一方,京都では生産者の窯元,顧客,問屋が「顔の見える」関係にある.両地域とも窯元は他者の真似をしないという不文律があった.産地の分業構造は人材育成の仕組みを基盤とする競争の不文律に支えられてきたことを主張する.
著者
古瀬 公博
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.48-60, 2008-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
30

本論文の目的は,中小企業の合併・買収を分析対象として,その取引の特徴を「贈与と売買の混在する交換形態」として整理することである.贈与と売買は必ずしも対立しあうものではない.中小企業M&Aを観察すると,同一の財の取引においても贈与と売買の要素が混在し,また,混在することによって取引が成立していることが理解できる.贈与と売買の二分法では捉えきれない多様な交換形態が存在するのである.
著者
中川 功一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.69-78, 2008-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
7

製品アーキテクチャの変化は,既存の組織の不適合を招き,企業の競争力を著しく低下させる恐れがある.既存研究では,その変化に合わせて,企業は事業組織全体を改編すべきことが主張されていた.本稿ではこれに対し,事業組織の全てを変更せずとも,コンポーネントの技術的相互関係が直接に影響する組織だけを変更することによっても対応できることを,記録型 DVDドライブのイノベーションの事例から検討する.
著者
伊丹 敬之
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.11-21, 2008-03-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
4

市場メカニズムは経済的格差を拡大させるプロセスを内包している.したがって,市場メカニズムだけでは社会の中の二極化現象が起きやすい.その二極化現象がアメリカほど起きていない日本で,すでに格差についての議論がかなり注目を集めているのは,経済的格差への社会的許容度が日本ではアメリカなどよりもかなり小さいからだと思われる.
著者
高木 朋代
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.42-56, 2007-12-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
25

これまで団塊世代の大量退職の議論は,雇用促進施策に焦点が当てられてきた.しかし企業は全ての定年到達者を雇用継続できるわけではない.それゆえ雇用のマネジメントは,引退のマネジメントと表裏一体を成している.本稿は,雇用継続者,転職者,引退者の事例分析によって,制度設計だけでなく,雇用の可能性について自ら気づかせるような,働く側の心理に配慮した人事管理の仕組みが,円滑な高年齢者雇用に効果を持つことを示す.
著者
藤本 哲史 新城 優子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.19-28, 2007-12-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
23

本稿の目的は,ファミリー・フレンドリー制度に対して従業者がもつ不公平感について探ることにある.データ分析の結果,以下の点が明らかになった.⑴制度に対する不公平感の平均値に男女差はないが,子どもの年齢が高い者ほど不公平感が高い.⑵上司が部下の仕事と家庭生活の両立に関して支援的な場合,制度に対する不公平感が低下する.⑶不公平感は性別役割分業に対する価値意識の反映である可能性が高い.
著者
野島 美保
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.15-25, 2007-09-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
29

本稿は,仮想世界ビジネスについて,その価値と収益性の関係を中心に論点を整理し,研究上および実務上の今後の方向性を明らかにすることをねらいとする.仮想世界の一種であり商用サービスが早くから行われてきたオンラインゲーム業界を,実証調査の対象とする.ユーザーが知覚する価値として「新奇性」「コミュニティ」「アイデンティティ」が発見され,収益性に最も影響するのは「コミュニティ」であることが示された.
著者
根来 龍之
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.54-65, 2007-09-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
22

本稿は,ネットビジネスの特性を,「情報民主化」の圧力と「市場経済」の圧力の各時点における創造的均衡点として捉える.技術としてのインターネットの歴史は浅く,未だダイナミックな変化を続けている.インターネットはもともと分散型の民主的参加の世界として誕生した.ネットビジネスは,あとから持ち込まれた「市場経済」の論理と誕生の時点から存在する「情報民主化」の圧力の均衡点として存在する.この均衡点は,技術の変化によって変化する.2005年頃から出現したネット第2世代も,技術の変化を受けた新しい均衡点として出現したものだと捉えられる.
著者
延岡 健太郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.4-14, 2007-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
20

優れた技術や製品を開発できたとしても,競合企業に模倣され,持続的な業績に結びつけることが困難になっている.本稿では,模倣回避のメカニズムとして,特許などの法的・制度的な権利獲得と,組織能力の長年の積み重ねの2つがあり,持続的な業績のためには後者が特に重要であることを議論する.また,積み重ねる組織能力の内容として,技術者の学習および,ノウハウが蓄積された製造設備・実験機器,擦り合わせの組織ルーチンの3つが鍵を握ることがわかった.
著者
武石 彰 青島 矢一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.29-39, 2007-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
15

本稿は,製造業のあり方を考えるためのひとつの視点を論じるものである.製品をそれ単独で完結したシステムとしてみるのではなく,より上位のシステムで革新を実現し,個別の製品はその部分としてとらえなおすという視点である.そのような革新をなしとげた過去のいくつかの事例をみながら,この視点の意味合いを考えてみたい.
著者
河田 信
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.40-50, 2007-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
21

プッシュ型からプル型生産へのシステム転換には,組織能力や管理システム(MCS)の抜本的再設計が避けて通れない.とりわけ管理会計を,①プロダクト系のコントロールをピリオド系よりも優先する枠組みとし,②発生主義に基づく会計的利益よりも現金収支差額(キャッシュフロー)を評価尺度として重視し,③伝統的原価計算に「時間軸の要素」を加味してコストを再定義することが必要である.
著者
ハワード・E オルドリッチ
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.4-17, 2007-03-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
90

私は,企業家研究の領域において,社会関係資本と社会ネットワークの概念を用いた研究を行いたいと思う者達を対象にして,これらの概念や原理についての批判的なレビューを行う.私はいくつかの興味深い研究課題とそれに応える方法論について描く.第1に,社会ネットワークを介した社会関係資本の力を示したい.そして,社会ネットワークの潜在的な力は,社会文化的な制約条件のために実現されないことがあることも示す.同類指向,社会的境界,制限された合理性という概念は,社会ネットワークについてのこうした制約条件を検討し,一般的に捉える上で役立ち,そして実際の観察結果を経験的に理解する枠組を与えてくれる.私は,それぞれの概念について論じながら,社会関係資本論と社会ネットワーク論のこれまでの研究を振り返って,これまでの理論的貢献と実証的発見について検討する.
著者
和田 剛明
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.93-102, 2007-03-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
7

魅力的な新製品が開発されながらも,流通がそのリスクを忌避することにより,市場導入が失敗に終わる流通構造があるとするならば,市場機会の損失が起こるとともに,長期的には市場全体の製品バラエティと魅力が減じることとなる.本研究では,家庭用ゲームソフト市場をケースとして,流通におけるリスクとリターンの構造の変化を追い,流通構造が新製品の市場機会遺失を生み,市場全体へ影響を与えることを示す.
著者
中村 洋 岡田 正大 澤田 直宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.60-73, 2006-09-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
35

本研究では,競争優位をもたらす内部経営資源の蓄積・活用と業界構造変化の相互作用を,経時的に変化する業界の利益率の水準及びその分散というフレームワークの下で考察し,業界構造の安定性についての分析を行う.また,事例及びデータ分析を用いて検証を行う.そして,内部経営資源を重視する経営資源・ケイパビリティ理論と業界構造に重点を置くSCP 理論は動学的に補完関係にあることを示す.
著者
浅川 和宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.13-25, 2006-09-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
64

自国の環境劣位を克服し,世界規模で競争優位を確立するには数多くの困難が待ち受けている.本稿ではメタナショナル経営遂行上避けて通れない7つのジレンマを整理し,それらへの対応の重要性を示唆している.またメタナショナル経営に関する今後の研究課題を提示している.理論的基盤が未成熟なメタナショナル研究は,今後関連学問領域からの英知を取り込んだ学際的アプローチが必要となろう.