著者
清水 達也
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.55-68, 2023 (Released:2023-07-31)
参考文献数
17

2000年代後半から、ペルーのカカオ・チョコレート産業が大きく成長している。カカオ豆の生産量は2020年までの10年間に3倍に増加したほか、カカオ豆と加工品を合わせた輸出量も約4倍に増えている。加えてチョコレートの国内市場も変化している。国産品は安いチョコレートがほとんどだったが、最近はスーパーマーケットの売り場でも、欧州産の高級チョコレートと並んで、国内企業が製造した価格の高いチョコレートが目立つようになっている。ペルーでカカオ・チョコレート産業が成長している要因として重要なのが、国際市場におけるカカオ豆価格の高騰に加えて、ペルー国内におけるコカ代替開発プログラムによるカカオ豆の生産振興、カカオの価値を高めるバリューチェーンの構築、カカオ豆の品種改善の取組み、そして国内外のクラフトチョコレート・ブームである。
著者
Otchia Christian Samen
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.49-64, 2021-03-30 (Released:2021-03-30)
参考文献数
20

本論文では、地区レベルのデータを利用して空間計量経済分析を行い、コンゴ民主共和国における新型コロナウイルスの感染拡大の状況を検討した。その結果、キンシャサから始まった感染拡大が近隣の地区に波及したこと、また、上カタンガ州や南キヴ州といった国境に接する州も感染拡大の中心地であったことが明らかになった。さらに、エボラ出血熱やコレラ、その他の感染症の感染者が多い地区や、紛争が多発する地区では新型コロナウイルスの感染者が多いことが分かった。気温、標高、風速などの気候条件も感染と関連していた。これらの結果から、過去の感染爆発の経験を活かすことができていれば、コンゴ民主共和国は新型コロナウイルスの流行を現状よりも抑えることができたと思われる。(訳:福西隆弘)
著者
清水 学
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
中東レビュー (ISSN:21884595)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.134-151, 2018 (Released:2019-03-15)

Since the 1990s, Israel’s industrial development has entered a new phase owing to active engagement in Information and Communications Technology- related ventures. In the first decade of the 21st century, Israel succeeded in presenting her image as a “startup” nation, attracting worldwide attention. Israel’s economy, which was highly industrialized, tried to adapt itself to economic and financial globalization. In 2010, Israel was accepted as a full member of the Organisation for Economic Co-operation and Development. The collapse of Lehman Brothers in September 2008 brought to the fore not only the instability of the global financial system as a whole but also the latent weak potential of economic growth, especially in developed countries that lacked innovative, leading industries. In this framework, microlevel initiatives in Israel carried out using active venture capital to explore new niches and new, innovative, high-tech fields attracted the attention of various countries. These fields include the wider areas of software development in ICT—such as big data analysis, cyber security, nanotechnology, artificial intelligence, and the Internet of Things—in addition to biotechnology and the pharmaceutical industry. It is important to note that Israeli industrial development has been influenced not only by economic necessity but also by national security needs. This latter priority guided the selection and concentration of resources within Israel’s limited national budget and investment capacity.Academic research and development also contributed to improvement in the technological aspect of the military industry. Technological know-how spillover from the military industry contributed to some extent to an emerging, domestic, microlevel high-tech industry. The military operations engaged in by the Israel Defense Forces in conflict zones in the Middle East, including operations in occupied territories, provided an opportunity to enhance the quality and practicability of weapons produced. The increasing volume of military grants from the US also supported the military industry in overcoming difficult financial phases. Therefore, Israel’s model of a “start-up” nation is not applicable directly to other nations, as the model was not neutral, owing to the state’s guidance and intervention on security issues. Although the new neoliberal macroeconomic circumstance is favorable to the “start-up” of new ventures, the indirect support by the state through various policies also contributed to the building of a positive environment for them. New markets for Israeli weapons and high-tech gadgets such as drones are expanding rapidly, particularly in huge emerging markets such as India and China. Although the export potential of military equipment is immense, it obliges Israel to be involved in delicate and complex international political relations among the importing countries. This is a new challenge in this unstable and risky world, as high-tech and military equipment always bears political implications beyond economic interests.
著者
菊池 啓一
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.61-72, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
16

ジェンダー・クオータの一種である法律型候補者クオータがラテンアメリカに導入されて久しいが、2000~10年代にみられた後発国による導入と以前からの導入国による改革の動き、また、2000年代終わり頃からみられ始めているパリティ(男女同数)をめざす動きは、実際の女性議員の比率にどのような影響を与えているのであろうか。この問いについて考察するため、本稿ではラテンアメリカにおける法律型候補者クオータと女性下院議員比率との関係、ならびに、女性閣僚比率と女性下院議員比率との関係を中心に検討した。そして、パリティをめざすべくクオータを引き上げた場合や候補者擁立・順位規定を厳格にしている場合には、従来は同規定の適用が難しいとされてきた非拘束名簿式比例代表制や小選挙区比例代表並立制・併用制を採用している国でも女性下院議員の比率が高まることと、国によっては議会で政治経験を積んだ女性政治家が閣僚に就任するという新たなパターンが生まれてきていることを指摘した。
著者
粒良 麻知子
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.79-91, 2017-06-02 (Released:2020-03-12)
参考文献数
44
被引用文献数
1

本稿はアフリカの一党優位体制についての理解を深めるため、タンザニアの優位政党である革命党(Chama Cha Mapinduzi: CCM)を事例に、1992年の複数政党制移行後の党内の派閥政治の変遷と党幹部によるその統制を分析する。具体的には、CCM内の派閥政治と党内の権力分配のあり方について論じたグレイ(Hazel Gray)の論文を参照しつつ、複数政党制移行後初の選挙が行われた1995年、任期満了に伴って大統領が交代した2005年と2015年の計3回の大統領選挙に焦点をあて、CCMの大統領候補選考における派閥間競争の特徴を明らかにする。そして、この分析を通じ、2015年のCCM大統領候補選考がタンザニアに一党優位体制の継続をもたらしただけでなく、党内の派閥を統制し、党を中央集権化しようとする試みであったと論じる。
著者
島田 周平
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.122-132, 2021-09-23 (Released:2021-09-23)
参考文献数
33

ナイジェリアはサハラ以南アフリカのなかで最大のディアスポラ送出国であり、彼らからの送金受入れ額でも突出した国である。ディアスポラの送金額は政府にとって無視できないものであり彼らの政治的発言力も高まってきている。ディアスポラと政府の関係はつねに良好なわけではない。2期目に入ったブハリ政権に対するディアスポラの批判は高まっている。ひとつは国際派的視点からの政治的民主化要求や強権政治批判であり、いまひとつは民族派的視点からの分離独立の要求である。ブハリ政権は、国際派ディアスポラの民主化要求や人権擁護の要求に対しては、国内の反政府運動との連携を阻止するため銀行口座の凍結やSNSの規制などを実施した。また独立を目指す政治組織IPOBに対しては、民族派ディアスポラも含めて徹底的に抑え込む方針で臨み、彼らと国内(東部)の政治家や伝統的支配者との分断を図ってきた。ブハリ政権は、ディアスポラの活動が国内の反政府運動や独立運動と連携することがないよう細心の注意を払ってきた。それが今後も可能かどうかは注視が必要である。
著者
岡村 鉄兵 黒崎 龍悟
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.110-121, 2021-09-23 (Released:2021-09-23)
参考文献数
8

太陽光発電による小規模な独立型電源(Solar Home System、以下SHS)は系統電力網が整備されていない地域で、安価に再生可能エネルギーによる電化が可能と期待され、アフリカ農村において2000年頃から急速に普及が進んでいる。しかし、SHSの世帯レベルの電気の利用状況に着目した事例研究は少なく、住民が問題を抱えるに至る要因やそれによって農村住民にもたらされる影響は明らかにされていない。そこで本稿では、タンザニア南西部の農村での現地調査をとおして、SHSの普及状況と不適正利用の実態とその要因を明らかにした。調査はSHSを所有する32世帯とSHS販売者へのヒアリング調査、およびSHSを所有する世帯から10世帯を抽出してデータロガーによる出力測定をおこなった。結果、ほとんどの世帯がシステムの要となるバッテリーの管理に問題を抱えており、そのための経済的損失が示唆された。アフリカの電化状況や関連政策の評価はこのような利用の実態をふまえることが不可欠である。
著者
磯田 沙織
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.28-43, 2021 (Released:2021-07-31)
参考文献数
21

ペルーでは1990年代以降、約30年にわたって新自由主義経済政策が実施されてきた。その過程でマクロ経済は安定したものの、地方を中心に貧困状態が改善されない人々の不満が蓄積されてきた。他方、次々と出現する個人政党が組織化されないまま民主体制が維持され、誰が大統領に当選しようとも新自由主義経済政策が維持される「自動操縦(piloto automático)」であると揶揄されてきた。また、1990年代以降の大統領はすべて汚職などにより実刑判決を受けたり、捜査対象になったり、あるいは捜査の最中に自殺したことで、有権者の政治家に対する不信は強まっている。こうした新自由主義経済政策に対する不満、既存の政治家に対する不信の蓄積により、2021年総選挙において左派の泡沫候補が一次投票を1位通過し、決選投票においても過半数を上回る票を獲得した。本稿では、2021年総選挙の過程でペルーの分断が可視化されたことに関して、フジモリ派と反フジモリ派が二分してきたこと、都市部と農村部の格差が継続してきたことを中心に考察する。
著者
岡田 勇 大沼 宏平
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-13, 2021 (Released:2021-07-31)
参考文献数
11

2019年のボリビア大統領選挙では、社会主義運動(MAS)の候補であったエボ・モラレスと次点候補との得票差が接近するなかで選挙不正が疑われ、モラレスが辞任・亡命する混乱に陥った。しかし、その1年後に行われたやり直し選挙では、MAS候補のルイス・アルセが得票率を積み増して当選を果たした。このようなMASの失墜と再来はどのように理解できるだろうか。本稿は、MAS派と反MAS派が西部5県と東部4県および農村部と都市部に安定的な支持基盤を有する構造性を指摘したうえで、多くの場合、選挙での多数決でこの構造的対立は解決されるが、党派対立と選挙プロセスへの不信が高まれば2019年選挙のような混乱が今後も起きかねないことを論じる。また、2019〜20年の反MAS派による暫定政権への不満や、MASの組織的動員力の高さ、そして反MAS派の分裂傾向がMASの復権をもたらしたことも指摘する。新アルセ政権は、こうした構造的な党派対立と社会経済面で山積する課題に対処することが求められる。
著者
財吉拉胡
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.2-33, 2019-06-15 (Released:2019-09-03)
参考文献数
107

伝統的な社会における医療衛生の近代化は植民地時代に開始された。明治維新後,帝国主義列強に加わった日本は,周辺のアジア諸国において植民地を獲得し,現地の医事衛生と社会事情に合わせた医療衛生政策を実施し,近代的医療衛生を持ち込んだ。内モンゴル西部地域においては,1930 年代前半から,モンゴル人の自治運動が起きたが,それとほぼ同時に,日本は財団法人善隣協会の診療班を当該地域へ送り込み,近代的医療衛生体制を導入した。一方,日本の植民地主義勢力が強制した近代化と近代思想の影響を受けたモンゴル人側は,みずからもすすんで近代的医療衛生を普及させようと試みていた。本論文では,当時の社会事情と植民地における近代的医療衛生事業の展開を背景に,蒙疆政府の医療衛生政策,モンゴル復興を目指した同政府興蒙委員会の医療衛生事業の展開,当該政府によって設立された中央医学院の実態などの考察を通じて,内モンゴル西部地域における医療衛生の近代化過程を明らかにする。