著者
多田 孝志
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の推進により、以下の事項が明らかにされた。1 日本の青少年が対話に苦手意識をもつ要因対人関係を損なうことや、自己への評価への恐れ、コミュニケーション技能を習得していないことによる自信のなさが、大きな要因とみられる。2 学校における対話力向上の方法学校教育の場で、対話スキルの習得、対話型授業の推進、対話的環境の醸成により、児童生徒の対話力着実に向上していく。3 対話指導モデルの有用性学習者の実態に対応し、対話指導モデルを活用することは、対話力向上に有効である。<今後の課題>2年間の研究期間は、研究テーマ「多文化共生社会に生きる基本的技能である対話力育成のための指導モデル作成に関する実践的研究」を推進するにはあまりに短期間であった。「コミュニケーションのスキルを開発する」こと、「授業に対話を持ち込む」ことはかなり進展した。しかし、それをモデル化するためには、更なる実践検証が必要である。対話型授業とはどのように分類できるのか、それぞれの学習効果を上げるための留意点は何か等々の解明が必要である。
著者
西野 明樹
出版者
目白大学
巻号頁・発行日
2015-03-25

人々の中には,性自認(gender identity)と一致しない自らの生物学的性(biological sex)(または,身体的性別(physical gender))や二次性徴に,嫌悪感や忌避感(性別違和感(gender dysphoria))を抱く者がいる。彼らの性別違和感を軽減させる有益な手段には性別移行(gender transition)があるが,性別移行に踏み出すまでやその最中には,様々な心理社会的葛藤が体験される。社会的制約や偏見に苦悩する者も少なくない。こうした性別移行にまつわる心理社会的苦悩と心理的成長に関する研究成果をまとめたのが,本論文である。第1章「文献的検討」で研究背景,第2章「着眼点と目的」で研究目的を述べた後,性別違和を有する方の語りをもとにした4つの質的研究から得た知見を,第3章「FTM/X 自認者が語る社会適応と共生」,第4章「F to M/X 性別移行の検討」,第5章「M to F/X 性別移行の検討」,第6章「未身体的治療期の性別移行におけるカミングアウト機能の検討」)にそれぞれまとめている。第7章「質的研究知見の数量的検討」には,これら4つの質的研究をもとに立てた仮説を統計的に検証した量的研究の成果を報告した。最終章にあたる第 8章「総括的討論」ではまず,前章までに得られた研究知見を総括し,先行研究動向に照らしながら本論文独創的な点を提起した。次に,これらを踏まえて性別違和を有する者の性別移行に対する心理社会的援助の可能性等について討論し,最後に,心理社会的援助の質的向上を見据えた今後の研究課題に言及した。
著者
元井 沙織
出版者
目白大学
巻号頁・発行日
2021-03-25

本論文では,青年後期と成人初期を対象として,(1)片づけ行動が,どのような要因によって促進されるのかを明らかにすること,(2)片づけ行動には,どのような心理的効果があるのかを明らかにすることの2点を目的とした。これまでの先行研究から,片づけ行動とは単一の行動を指すのではなく,不要な物の処分や,必要な物を分類することなど,複数の作業を通じて,生活空間を整った状態にすることと考えられる。この処分・分類・整頓の3つの要件を網羅した尺度は,これまで作成されていなかった。そこで,本論文では,(1)と(2)を検討していくにあたり,片づけ行動を捉える尺度を作成した。初版の片づけ行動尺度は,処分・分類・整頓の3つの要件を網羅していたが,文章表現に関する問題(現代の生活環境において一般的言えない表現や複数の内容が含まれる項目がある)と妥当性の検討がされていないという問題があった。そこで,文章表現を修正した改訂版片づけ行動尺度を作成し,信頼性と妥当性の検討を行った(研究2)。Cronbachのαを算出し,十分な値が示されたことから,内的整合性の観点から信頼性が確認された。さらに,片づけに関連する概念である「溜め込み」傾向を測定する尺度Saving Inventory-Revised(SI-R)日本語版(土屋垣内他,2015)と部屋の散らかり状況を評定するClutter Image Rating(CIR)日本語版(土屋垣内他,2015)との関連から,収束的妥当性と増分妥当性が確認された。本尺度を用いて,片づけ行動を促す要因と片づけ行動の心理的効果の検討を行った。
著者
織田 薫
出版者
目白大学
雑誌
目白大学経営学研究 = Mejiro Journal of Managemant (ISSN:13485776)
巻号頁・発行日
no.18, pp.27-44, 2020-02-29

旧財閥のうち、安田財閥は、三井、三菱、住友と並んで四大財閥の一つに数えられるが、安田財閥は、傘下事業の大宗を銀行、保険などの金融関係が占めた点で他の財閥と大きく異なった。安田財閥は、総合財閥というよりも、むしろ、総合金融業と言うべき存在であり、安田財閥の持株会社であった安田保善社は、1997年に純粋持株会社が解禁される以前に我が国に唯一存在した金融持株会社であったと言える。安田保善社の経営は、時代により多少の強弱はあったものの、中央集権的であったことを特徴としている。中央集権体制を支えていたものは、①関係行社役員及び役職員の人事権確保 ②稟議・報告制度等に基づく強い関係行社管理 ③グループの一体感を高める諸施策にあったと考えられる。特に、中央集権体制を維持しつつ、一方でグループとしての求心力を高めるため、当時としては考えられる限りのグループ一体化策を実行しようとした硬軟織り交ぜた姿勢については、日本的経営という視点に立つ場合、極めて参考になる点が多い。
著者
吉田 令子
出版者
目白大学
雑誌
目白大学健康科学研究 = Mejiro Journal of Health Care Sciences (ISSN:18827047)
巻号頁・発行日
no.15, pp.33-40, 2022-03-31

《目的》本研究の目的は、文献を通して訪問看護ステーションにおける災害の備えについて概観し、現状を記述することである。《方法》医学中央雑誌web版で文献検索を行い、「災害看護」のすべての文献6683件について、1991年より5年ごとの件数の推移を概観した。「災害看護and訪問看護and原著」の検索式から29件のうち、目的に沿って22件を選定し、その概要を表にまとめた。在宅看護の研究者が文献を精読し、訪問看護ステーションにおける災害の備えについての記述を質的に分類した。《結果》22の文献より、訪問看護ステーション事業所における災害の備えについて【防災対応マニュアルの整備】、【災害に特化した地域の情報】、【停電や緊急時を見越した個別情報の管理】、【緊急時の関連機関との連携】、【緊急時の備品や備蓄】、【職員の災害の対処能力を高める】の6つのカテゴリが得られた。また、利用者や家族への減災のための教育として、【住環境の安全対策】【災害直後の数日分の備蓄】【停電、断水などの対策】【通信や情報収集方法の確保】【避難場所や方法の検討】がなされていることが示された。《結論》訪問看護ステーションでは、平時から事業所内の防災対応マニュアルの整備と要援護者・家族の情報を管理し、災害の種類に応じた避難場所、連携のための連絡先、避難に必要な器具や物品等の備えやスタッフの教育を行っていた。また、利用者と家族には、生活に即した環境整備の勧めと療養者や家族への減災の教育を行い、自助を促すかかわりは少ないことが示唆された。訪問看護ステーションの単独のかかわりには限界があり、地域の多職種、他機関との連携による防災訓練の実施など、シミュレーションを通して要援護者と家族の自助の力を高めることが課題である。
著者
財津 亘
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 = Mejiro Journal of Psychology (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
no.18, pp.1-11, 2022-03-31

本研究は,連続バラバラ殺人における事件リンク分析の有効性を検討したものである。事件リンク分析とは,犯罪捜査の支援を目的として,統計学や心理学的手法を用いて犯行現場を分析する犯罪者プロファイリングの一種である。本研究では,二つの仮説を通して事件リンク分析の妥当性を検討した。一つ目の仮説は,同一犯人による連続殺人の犯罪行動は事件間で類似するといった「行動の一貫性」仮説であり,もう一つは異なる犯人の場合は連続殺人における犯罪行動は事件間で異なるといった「行動の識別性」仮説である。104名による120事件をオンライン新聞データベースより収集し,28カテゴリ(例.殺害方法や遺体の損壊,被害者の遺棄など)を多重対応分析によって検討した。多重対応分析の結果によると,連続犯の犯罪行動はその連続事件を通してまったく同じあるいは類似していたことから,前者の仮説は部分的に支持された。さらに,多重対応分析によると,次元上において104名がそれぞれ敢行した104事件の犯罪行動はまったくお互い合致することがなかったことから,後者の仮説を支持した。
著者
劉 亜氷
出版者
目白大学
雑誌
目白大学経営学研究 = Mejiro Journal of Managemant (ISSN:13485776)
巻号頁・発行日
no.20, pp.1-15, 2022-03-31

本稿は新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機に増加したインターネット通販の非対面受取方法に焦点を当て,コンジョイント分析を用いて,消費者が非対面受取方法を利用する時に重視する属性を探った。コンジョイント分析の結果から,非対面受取方法の利用において,消費者が安心安全に荷物を受け取ることを意味する「確実性」を最も重視し,「確実性」,「コスト」,「移動」の順で優先度がつけられていることがわかった。クラスタ分析の結果から,確実性をきわめて重視するグループ,費用の節減を重視するグループ,確実性を重視しながらも費用の節減や移動を嫌がるグループという3つの利用者層の存在が明らかになった。以上のことから,「確実性」への懸念を軽減しない限り,非対面受取の普及はそれほど期待できないといえよう。また,受け取りにともなう費用の発生を嫌がる人が多数存在することから,確実性向上の措置を取る際に,消費者の負担を軽減する対策も必要であると考える。
著者
大枝 近子
出版者
目白大学
雑誌
目白大学総合科学研究 (ISSN:1349709X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.111-117, 2006
被引用文献数
1

"Sailor suits" were popular as children's clothes from the late 19th century through to the early 20th century. I have attempted to throw light on the main factors underlying the popularity of this style of clothing with reference to an article that appeared in the women's magazine The Queen, published in Britain in 1861. I discovered the following factors as a result: 1) Sailor suits were popular because they hung loose on children's bodies and did not hem them in, reflecting the desire for children to grow up with sound and healthy bodies. 2) Amidst the strong orientation towards cleanliness at the time, sailor suits proved popular as everyday wear because the material could be washed. 3) Because they did not fit particularly close to the body, sailor suits were easy to buy the ready-made, and, for the same reason, they could be easily made by housewives once the stencils had been obtained. Having gained popularity on account of these factors, sailor suits came to exert a considerable influence on the emergence of simple, functional children's wear, the foundations for which were at last laid towards the end of the 19th century.
著者
元井 沙織 小野寺 敦子
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 = Mejiro Journal of Psychology (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
no.17, pp.1-10, 2021-03-31

本研究では,片づけ行動を促進する要因を明らかにするために,片づけ動機および実行機能が片づけ行動に及ぼす影響を検討した。さらに,片づけ行動の心理的効果を明らかにするために,片づけ行動がwell-beingに及ぼす影響についても検討した。大学生を対象に質問紙による調査を実施し,回答に不備のない525名を分析対象とした。仮説モデルに沿って,構造方程式モデリングを実施した。その結果,片づけ動機から片づけ行動に有意な正の影響がみられたことから,片づけ動機が高いほど片づけ行動が実行されていることが示唆された。また,実行機能から片づけ行動にも有意な正の影響がみられたことから,実行機能が高いほど片づけ行動が実行されていることが示唆された。さらに,片づけ行動からwell-beingに正の影響がみられたことから,片づけ行動がwell-beingを高めていることが示唆された。
著者
川﨑 昌 高橋 武則
出版者
目白大学
雑誌
目白大学経営学研究 = The journal of management Mejiro University (ISSN:13485776)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.63-76, 2020

近年、インターネットの普及にともない利便性の高いオンラインアンケート調査を容易に利用できる時代となった。本研究では、事前オンラインアンケートを踏まえて質の高い調査を設計するための方法論とその適用事例を示した。調査法の教育における適用事例では、はじめに調査の準備として4つの図:概念図、特性要因図、パス図、および解析模型図の説明を行った。次に、受講生自身が受講前に回答したオンラインアンケート調査データを用いて、選抜型多群主成分回帰分析による解析方法をナビゲーションマニュアル付きで解説した。その後、最初に準備した4つの図の改善や調査票のレベルアップ、改善前後の調査結果を比較し、考察を行った。これらのことから、利便性の高いオンラインアンケート調査を計画的に活用することで、質の高い調査設計につながることを示した。さらに調査法の教育において、この方法論の活用が有効となり得る可能性が示唆された。今後の課題は、質の高い調査の設計につながる方法論の改善とその実践教育の効果検証である。
著者
渡邉 勉
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 = Mejiro Journal of Psychology (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
no.14, pp.1-15, 2018-03-31

高村(旧姓,長沼)智恵子(1886~ 1938)は油絵画家として自立する志を抱き,『青鞜』創刊号表紙に凛とした女神を描いた。本論は彼女のその後をイメージの観点から臨床心理学的に考察した。彼女は彫刻家・詩人の高村光太郎(1883~ 1956)と出会い芸術家同士の新しい生活を始めたが,油絵制作の悩みや共棲の葛藤に直面していた時に,郷里の原家族が破産した。精神のバランスを崩し自殺を企て,その後統合失調症を発症した。入院後彼女は色紙の切抜きを日課にして,膨大な作品を残した。特に「蟹」は傑出していて自己イメージの投影が生じたようだ。光太郎は健やかな妻も病む妻も詩集『智恵子抄』に謳いあげた。賞賛も批判もあるが,誰も二人の生活のミステリアスな謎を解明することはできない。智恵子の死後,光太郎は十和田湖畔に二人の女性の裸像群を建てた。それは智恵子の面影を写していると評されたが,彼は完全に肯定していない。智恵子を賛美する自分を認識している,その自分の自覚を表現しているのかもしれない。いのちの最期に彼らが創出したイメージは,あたかも無意識に導き出されたかのように,それぞれの本来の資質を明らかにしているだけでなく,彼らの生涯を象徴している。智恵子の紙絵は,美しいものを求める執念だけでなく,ようやく自己の本来性を探り当てた喜びの表現でもあるに違いない。だからこそ光太郎ひとりにその秘かな楽しさを打ち明けたのではないか。
著者
盧 未龍 土井 正 高橋 武則
出版者
目白大学
雑誌
目白大学経営学研究 = Mejiro Journal of Managemant (ISSN:13485776)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-16, 2017-03-31

中国では、数多くの第三者決済サービスが存在し、ネット・ビジネスの発展とともに競争が激化している。本稿では、市場において支配的立場にある「アリペイ」に焦点を当て、同サービスが長期的で持続可能な発展を実現するために、いかなる対策を立てればよいかを考察する。まず、アリペイが持つ優位性について、モバイル決済市場においてアリペイの強力なライバルとなった「WeChatペイメント」との比較を行った。次に、アリペイのサービスや機能について、顧客満足度の観点から利用者を対象にアンケート調査を行い、得られたデータを性別と月毎の使用額という2つの条件で4つのグループに分け、選抜型多群主成分重回帰で分析した。最後に、分析結果にもとづいてアリペイの発展方策に関する有効な提案を行った。There are a number of Third-Party payment services in China. In its situation, this paper examines sustainability of Alipay which is one of mobile payment services in China. We clarify Alipay's sustainability with customer satisfaction investigation through the Internet research and propose its improvement.First, we compare Alipay with WeChat-Payment which is its rival in the base of the mobile payment framework in order to reveal Alipay's competitive advantage. Our research question is "What elements impact on customer satisfaction of Alipay's mobile service?". Second, we analyze customer satisfaction investigation for multiple regression analysis grouped by sex and differences of pay amount per month. Last, we propose effective improvement for Alipay.
著者
青柳 宏亮 沢崎 達夫
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 = Mejiro Journal of Psychology (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
no.13, pp.23-34, 2017-03-31

心理療法やカウンセリングをはじめとする心理臨床において,ノンバーバル・コミュニケーションの重要性は学派を越えて広く認知されている。本研究では,心理臨床におけるノンバーバル・コミュニケーションに関する実証的研究を,①セラピストとクライエント間のノンバーバル・コミュニケーションを構成する各要素に着目し,それぞれの影響を検討する要素還元的アプローチ,②セラピストとクライエントの相互交流そのものを研究対象とするアプローチ,に大別して概観した上で,臨床理論的研究との関連を検討し,今後の研究課題について検討を行った。