著者
時本 真吾
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,発話理解の実時間モデルの構築を目標に,統語的情報,韻律,作動記憶制約の実時間相互作用を実験的に検討するものである。本研究の新知見は,(1)文内の依存関係決定処理において,韻律特性の一つとしての統語的休止(syntactic pause)は確かに効果を持っているが,統語的情報を覆すほど強くはないこと,また,(2)統語的休止の効果は処理負荷の低い文よりも高い文において顕著に現れること,(3)さらに作動記憶制約の影響は高負荷の文よりも低負荷の文について顕著に現れることである。本研究の知見は,統語的・音韻的制約の運用機序が,作動記憶容量を含む心的資源の大小によって変化することを示唆している。また,本研究は,作動記憶容量の大きな話者の方が小さな話者よりも言語処理効率が高いという通説に反し,大容量話者は低容量話者よりも文理解が正確だが,低容量話者よりも処理時間が長い傾向を見いだした。この知見は言語処理の効率性の議論に再考を促すものであり,作動記憶容量の大きな話者がより効率的な認知処理を実現するなら,なぜ作動記憶にこれほどの強い容量制限があるのかという理論的問題に進化心理学的解決の糸口を与えるものである。
著者
小林 海
出版者
目白大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

競技レベルの高い短距離選手は競技レベルの低い選手よりも全力疾走中における接地時と離地時の骨盤前傾角度が大きく,接地期の脚のスイング速度も有意に大きかった.また,接地時の骨盤前傾角度,回旋角度と接地期の脚のスイング速度の平均値との間にはそれぞれ有意な相関関係が認められた.これらのことから,接地時に骨盤を前傾および後方回旋させることが,接地期の高い脚のスイング速度での疾走を可能にする一因となっていることが明らかになった.
著者
今林 正明
出版者
目白大学
雑誌
目白大学経営学研究 (ISSN:13485776)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.29-42, 2004-03

筆者が4年間8回にわたって担当した「放送大学面接授業(スクーリング)土日型」の例をもとに、本稿は、会計についての実務的経験や、年齢など、すべての面において多様な受講生に管理会計学を講義する際のスキルについて考察する。管理会計学を、簿記の初心者から会計事務所勤務者さらに税理士に至る多様な受講生に講義するためには、複数の視点が必要である。第一は、簿記の初心者である受講生に対して、管理会計的発想は身近な市民生活の中にも存在することを概説する視点。第二は、実務などで会計に日々接している受講生に対しては、制度会計と異なり、管理会計は柔軟な発想が求められるということを理解してもらう視点。その双方の視点に立った講義を行うためには、損益分岐点、部門共通費配賦、外注内作意思決定問題など管理会計学の主要な論点を理解するために「身近な例」を用いた複数の計算問題例を、放送授業用テキストの講義に入る前に利用することが効果的であるといえる。
著者
加藤 滋紀
出版者
目白大学
雑誌
目白大学総合科学研究 (ISSN:1349709X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.11-21, 2005

視聴率については、テレビを"元気にする源"として肯定的にとらえる意見と、テレビを"悪くする元凶"と否定的にとらえる考え方が従来からあった。2003年秋の日本テレビの視聴率不正操作事件の発覚がきっかけとなって、多くの識者・関係者が視聴率について言及し、放送界の第三者機関「放送倫理・番組向上機構」が「視聴率」と併用すべき「視聴質」の検討を放送界に促すなど、視聴率をめぐる議論がにわかに活発になった。そうした声に応えるように、日本民間放送連盟と日本テレビは、それぞれ有識者らによる研究会を設置したが、どちらも視聴率に替わる新しい番組評価基準を打ち出すには至らなかった。しかし、最近、放送局の中には視聴者と結んで独自の番組評価を始めたところもあり注目される。本稿では、最近の視聴率をめぐる動きや意見を整理するとともに、歴史的視点からも検証し、視聴率問題を通して放送倫理の高揚と放送局のあり方について考察した。
著者
土田 恭史 福島 脩美
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.85-93, 2007

認知行動的立場における行動コントロールにおいて,セルフモニタリングは行動に対するモニタリングだけでなく,モニタリングされた行動に対する認知も重要とされている。これまでの尺度は行動面のモニタリングを重視するもので,自己コントロールにおける認知的・行動的側面のセルフモニタリングを測定する尺度としては不十分なものであった。本研究では,従来の研究で検討されてこなかったモニタリングに対する認知的態度を含めたセルフモニタリング尺度の作成を目的とした。調査1で改訂版セルフモニタリング尺度および後藤アレキシサイミア尺度を元に新たなセルフモニタリング尺度を作成し,96名の対象者に実施した。因子分析の結果,「行動モニタリング(α=.854)」,「環境モニタリング(α=.768)」,「モニタリング認知(α=.779)」の17項目3因子が得られた。調査2ではこの尺度の妥当性を検討するため,自意識尺度と内省尺度との関連性について検討した。その結果,「行動モニタリング」,「環境モニタリング」,「モニタリング認知」因子はいずれも自意識尺度,内省尺度と有意な相関が認められた。以上のことより本尺度はセルフモニタリングを測定する尺度として妥当であると考えられた。
著者
安斎 ひとみ
出版者
目白大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

訪問看護に関する研究は多く報告されているものの、積雪寒冷地に居住する利用者宅に訪問する訪問看護の冬の問題と課題に焦点をあてた研究は報告が少ない。平成17年度および平成18年度の研究成果をもとに、平成19年度は積雪寒冷地における訪問看護ステーションの冬期の在宅支援方法と訪問のあり方を明らかにすることを目的とした。2008年2月に、東北地方の訪問看護ステーションを291か所の所長を対象に、自記式郵送法によるアンケート調査を行った。その結果、68名の回答があった。訪問看護ステーションが訪問している利用者は、冬に積雪などにより外出する機会が少なくなることがあり、筋力低下を予防するために室内体操やリハビリテーションを中心とした計画に切り替えているという事例があった。山間地で夜間凍結の危険がある地域の利用者を対象とするテレケアやパソコンを利用した遠隔地ケアシステムの導入は、予算的な問題があり難しいと答えた事業所が多かった。平成18年度研究結果を、学会で報告した。
著者
多田 孝志 米田 伸次 米田 伸次 渡部 淳 大津 和子 藤原 孝章 森茂 岳雄 嶺井 明子 多田 孝志
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本共同研究では、以下を目的とする研究を理論研究分科会と実践研究分科会との協調により進めてきた。(1)国際理解教育の理論的研究をなし、その概念を明確にしていく。(2)カリキュラムに関する諸論考を分類・考察し、知見を深め、児童・生徒の発達段階との関連をさせつつ国際理解教育のカリキュラムの特色を明らかにする。(3)全国規模で国際理解教育の現行カリキュラムを収集・分析し、考察を加え、問題点や課題を把握する。(4)国際理解教育のさまざまなモデル・カリキュラム案を開発し、提案する。またカリキュラム作成の基本的な考え方や教師のカリキュラムデザイン力、基本的技能としてのコミュニケーション力等について考察する。3年問の研究の成果として、実践研究分科会では、グローバル時代における国際理解教育の目標、学習領域・内容等を考察し、そこからカリキュラム開発のフレームワークを作成した。それらをベースに、学習領域に対応した多様なモデル・カリキュラムを開発してきた。またカリキュラム開発に関わる、評価、教師のカリキュラムデザイン力等についても考察し、在るべき方向を明らかにしてきた。理論研究分科会では、国際理解教育の歴史的変遷、関連諸学会の研究の方向や海外の国際理解教育の動向、カリキュラム開発の理論等について検討し・考察し、国際理解教育の概念を明らかにしていった。なお、研究成果は2冊の報告書にまとめ、また日本国際理解教育学会ホームページでも公開している。
著者
佐藤 一郎
出版者
目白大学
雑誌
目白大学経営学研究 (ISSN:13485776)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.55-65, 2005

拙稿は、主に日本の大企業におけるコーポレィト・ガバナンス(企業統治)について論じるが、この概念自体がアメリカからの輸入概念であるため、アメリカ企業の動向や斯論の展開に関わらざるをえない。周知のように、CalPERSやTIAA-CREFのような年金基金の株主行動が経営者の一連の解任劇につながってから、一躍統治問題が注目されるようになった。ITバブル崩壊後は企業犯罪の多発が統治と経営規律をめぐる議論を活発化した。こうした議論の流れは一部、日本企業にも共通するが、とはいえより大きな問題はバブル以後明らかになったビジネスモデルの陳腐化である。同時に、時代のヘゲモニーは生産者から消費者に完全に転換した。したがって、企業統治の仕組みも被統治側のガバナビリティをも含めてこのうねりの圏外にあってよいはずはない。企業統治は、すぐれて今日的な問題であると同時に企業の在り方の根幹に関わる問題でもある。
著者
宮本 昌子 石倉 康子
出版者
目白大学
雑誌
目白大学健康科学研究 (ISSN:18827047)
巻号頁・発行日
no.1, pp.37-47, 2008

要求を表現する1語文での機能的発話を獲得したが、コミュニケーションに問題を持つ6歳の自閉症の男児1名を対象とし自分の感情や行動についての発話獲得を目標とした相互交渉型言語指導を行った。出来るだけ自然な文脈で、対象児の遊びや発話に沿ったことばのモデルと象徴遊びのモデルを提示するモデリングを用いた指導の結果、ことばのモデル導入直後に、未来の行動に対する発話の模倣率と発話頻度が増し、遊びのモデルを加えた後に、現在の行動に対する発話頻度の上昇が認められた。未来の行動についての発話は対象児にとって模倣と発話の獲得がより容易であったことが推測される。また、自分の感情や行動についての発語数の増加に伴い、指導室、保育園、家庭の3場面で乱暴な行動の頻度の低下が認められた。本事例においては、非構造的な場面でのモデリングによる感情や行動についての発話の獲得が可能であり、相互交渉型言語指導の有妨性が示唆された。
著者
沢崎 達夫
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-12, 2006

これまでに作成されたいくつかのアサーション尺度はいずれもアサーションが攻撃性と高い相関を示すことを報告している。このことを言語的攻撃性を測定する尺度を用いて再度検討することが本研究の第1の目的である。第2の目的はアサーションが自尊感情や自信と関連するというこれまでの見解を自己受容測定尺度を用いて確認しようとすることである。青年期女子134名を調査対象とし、青年用アサーション尺度、自己受容尺度、日本版BAQの言語的攻撃性尺度の3尺度を実施した。その結果、アサーションと攻撃性の間には.70の高い相関が見られ、アサーションの得点で低、中、高の3群に分けたときも、明確に3群間で有意な差が見られた。このことから、アサーションと攻撃性に共通の要因がかかわっていることが示唆された。また、アサーションと自己受容の間には.40の相関が見られ、各領域との間にも有意な相関が見られたので、アサーティブな人ほど自己受容的であることが示唆されたと言える。