著者
市山 紗弥香 谷口 雄一郎 小島 博己
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.420-426, 2010 (Released:2011-12-15)
参考文献数
18
被引用文献数
1

今回我々は非常に稀である成人型特発性髄液耳漏を経験したため報告する。症例は83歳男性。数年前より左聴力低下, 耳漏の量が持続するため近医を受診したところ, テステープにて糖陽性であり, 髄液漏の疑いにて佐久総合病院を紹介受診となった。左耳の鼓膜穿孔を認め, また左耳内はやや湿潤していた。側頭骨CTでは中頭蓋窩天蓋の菲薄化を認めたが, 耳小骨や内耳に奇形などの異常は認められなかった。初回手術では乳突削開を行い, 髄液の漏出の有無を観察したが, 明らかな所見はなく, 上鼓室周囲の炎症による水様性耳漏と判断し, 鼓膜を閉鎖して手術を終了した。しかし1回目手術終了2週間後より, 耳後部の切開部に小瘻孔が生じ, その部位より少量の透明な液の排出がみられた。このためやはり髄液漏があると判断し, 術後1ヵ月目に2回目の手術を施行した。前回不十分であった天蓋周囲の蜂巣を十分に削開し, 念入りに観察をしたところ, 中頭蓋窩のわずかな骨欠損部より硬膜が突出しており, 髄液の間欠的な漏出を認めた。瘻孔部位を小さな結合織を挿入する型でパッキングし, 筋膜と骨パテにて被覆し, さらにフィブリン糊を用いて瘻孔の閉鎖を行った。術後1年以上経過しているが再発は認められない。
著者
五島 史行 矢部 はる奈
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.142-144, 2006-06-15 (Released:2011-08-16)
参考文献数
3

耳鼻咽喉科外来で, 一般的に使用する照射装置としてユニットのライトを光源とし, 額帯鏡による反射光で診察するのが一般的であった。最近消費電力が少なく, 明るい高輝度白色LEDの開発によってヘッドライトのコードレス化が可能となってきた。しかし市販されているものは, バッテリの持続時間などの問題がある。市販のヘッドライトを改造し, 問題点の改善を試みた。使用したものは白色LEDヘッドライト (IWポータブルヘッドライト®Welch Allyn), 携帯電話用外部バッテリ (My Battery mini®日本トラストテクノロジー) などである。バッテリによる連続照射時間は2時間以上可能であった。白色LEDは低消費電力で発熱も少なく優れた光源装置である。しかし額帯鏡に慣れ親しんだ医師にとって明るすぎたり, 光の色調が異なるなど相違点もある。直視することがなければ現在のところは問題がないとされている。診察用のユニットのライトと額帯鏡の格闘から逃れられる喜びは患者医師ともに大きい。
著者
山内 智彦 横山 秀二 小川 洋
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.194-201, 2016

<p> PR3-ANCA が陽性であった結核性中耳炎の1例を経験した。 症例は65歳男性。 当科初診の6ヵ月前より左難聴, 耳鳴あり, 他院でも中耳炎と診断された。 プレドニゾロン, ミノサイクリン, レボフロキサシンと投与されるも改善を認めず, 当科受診し, 左鼓膜穿孔および耳漏が認められた。 当初は PR3-ANCA 陽性, 尿蛋白陽性から ANCA 関連血管炎性中耳炎 (Otitis Media with ANCA Associated Vasculitis: OMAAV) を最も疑った。 最終的には胸部レントゲン上, 左肺野に空洞性病変を認めることと, 喀痰・耳漏ともに抗酸菌染色, 結核菌 PCR, 抗酸菌培養すべて陽性であることから, 肺結核を伴う結核性中耳炎と診断した。 リファンピシン, イソニアジド, ピラゾナミド, エタンブトールで加療し軽快に至った。<br> ANCA は ANCA 関連血管炎以外に, 結核や関節リウマチでも陽性を示すことがある。 OMAAV と診断する際には結核性中耳炎の否定が重要である。</p>
著者
朝戸 裕貴
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.426-434, 2011 (Released:2012-12-15)
参考文献数
15

外耳の先天異常には, 頻度の高いものとして副耳, 耳瘻孔などがある。このほかにも軟骨の形成を要しない耳垂裂や埋没耳などは軽度の外耳先天異常といえる。軟骨の形成を要する中等度の先天異常としては, 立ち耳やスタール耳, 折れ耳や絞扼耳があげられる。小耳症は重度の耳介形成不全であり, 多くの場合に外耳道閉鎖を伴っている。小耳症の形成手術は10歳前後まで待機して, 肋軟骨で作製したフレームワークを耳介の部位に移植する肋軟骨移植術と, 半年経過後に形成耳介の後方を側頭部から聳立させる耳介挙上術, という2段階の手術方法で行われるのが一般的である。これら外耳の先天異常, とくに小耳症の形成手術について概略を述べた。
著者
飯田 実 石井 正則 秋山 香織 辻 富彦 吉田 茂
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.151-153, 1998-04-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
15

口蓋扁桃摘出術後4日目に大量出血をきたした1症例を経験した。凝血塊の誤飲により窒息し, 心肺停止をきたした。そのため緊急気管切開術を施行し, 救命救急処置により一命をとりとめた。術後安静の不徹底が誘因と考えられた。口蓋扁桃摘出術は頻繁に, そして比較的安易に行われる手術であるが, 危険な一面を有していることを再認識し, 予防法の徹底と的確な対応の重要性を強調した。
著者
宮崎 総一郎 小林 隆一 北村 拓朗
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.10-18, 2011 (Released:2012-02-15)
参考文献数
26

睡眠は高度の生理機能に支えられた積極的な適応行動であり, 健康を支えるための重要な役割を担っている。睡眠障害初診患者のうち, 睡眠時無呼吸症候群を中心とした睡眠呼吸障害が半数以上を占める。睡眠時無呼吸症候群では, 睡眠中の呼吸努力により呼吸中枢を介して呼吸性覚醒が生じ, 結果として睡眠の分断化, 睡眠障害へとつながる。質の良い睡眠がとれないことで, 睡眠時無呼吸症候群は, 循環器疾患や脳卒中, 糖尿病の発症に関連し, 集中力・記憶力・学習能力や感情のコントロール, 作業能率などを障害し, 産業事故, 交通事故等の原因となる。多彩な症状で臨床各科を横断的に受診する可能性が高い睡眠時無呼吸症候群を診療する際に, 陥りやすいピットフォールについて, 著者が今までに経験した症例, 文献からの症例報告に睡眠学の知見をまじえて概説した。
著者
荻野 敏 菊守 寛 後藤 啓恵 入船 盛弘
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.222-231, 1996-04-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
6
被引用文献数
1

男性23名, 女性33名のイネ科花粉症を対象に, アゼラスチンの効果を初期投与, 治療投与の2群で比較検討した。著明改善は初期投与群28.6%, 治療投与群23.8%と初期投与群で良い効果が見られた。逆に改善以上の改善率はそれぞれ57.1%, 71.4%と治療投与群でより良い効果が認められた。また, 初期投与群では平均約4週間早く投与を開始したことから8週目, 治療投与群では4週目とほぼ同じ時期の症状を比較すると, 初期投与群では症状はより軽症に抑えられている成績が得られた。治療投与群の3例に軽度の眠気の副作用が認められたが, 薬剤の継続投与に問題はなかった。アゼラスチンはイネ科花粉症に対しても初期投与, 治療投与いずれにおいても優れた効果が見られ, 特に花粉飛散初期からの投与は有効性が高く使用する価値のある薬剤であると思われた。
著者
北村 正樹
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.51-54, 2012 (Released:2013-02-15)
参考文献数
4
著者
保科 定頼
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.139-143, 2002-04-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
19

従来より水圏や土壌など自然環境中の従属栄養性細菌の大部分が培養できないことが, 培養法と直接計数法との大きな差によって知られていた。したがってこれらの細菌はViable but non culturable (VBNC) 状態にあるとの認識が生まれるとともに, 遺伝子解析や蛍光染色法など, 培養によらない解析手法の急速な発達によって, これらの細菌の研究が大きく進みつつある。archaebacteriaから原核生物に至るまで16SrRNAに進化の過程で重要機能のため, 保存された塩基配列領域が数カ所認められ, 約20塩基長のオリゴマーとして存在する。これらの保存領域に挟まれた数百塩基長のRNA配列は, 属あるいは種として従来からの分類学上規定される特異的な菌の集団におおむね一致して同じ配列がみられる。この領域を活用して原因菌を検出する新しい臨床微生物学が始まった。
著者
小林 俊光 八木沼 裕司 末武 光子 高橋 由紀子
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.342-346, 1997-06-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
18

耳管閉鎖不全に基づく耳疾患には, 鼓膜に異常のない耳管開放症のほかに, 中耳真珠腫, 滲出性中耳炎, 中耳アテレクタシスなどがある。中耳真珠腫の25%に耳管閉鎖不全に基づく鼻すすり癖が誘因と考えられる症例が認められた。診断に当たっては, 耳管閉鎖不全の存在を疑うことが重要であり, とくに真珠腫では両側耳に病変のある弛緩部型真珠腫, 滲出性中耳炎では鼓膜内陥の強い貯留液の少ない症例においては, 鼻すすり癖の綿密な問診と鼻すすり時の鼓膜内陥また中耳腔陰圧形成の確認が必要である。治療に当たっては, 鼻すすり癖と病変の関係を患者に理解させることが, 再発防止に重要である。重症例では開放耳管に対する治療が主病変の治療とともに必要であり, 開放耳管の効果的治療法の開発が待望される。
著者
大前 隆
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.411-417, 1992-12-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1

鼻副鼻腔気胞化現象に関しては従来より前頭洞, 上顎洞, 蝶形骨洞等を中心に炎症病態との関与について論議されてきたが, しかし節骨甲介の気胞化現象である中鼻甲介蜂巣についてはその成因を始めまだ臨床的にも不明な点が少なくない。一方内視鏡下保存的鼻内手術の発展に伴い, 鼻内手術法の手術ルートとなる中鼻道は副鼻腔への主要経路となる所からそれに大きく関与する中鼻甲介蜂巣については今後充分な臨床的認識を持つ事が重要となると考えられる。今回の調査では無作意の500例で93例の中鼻甲介蜂巣が認められ, 鼻腔側壁形態異常に影響を及ぼすと考えられる大きな峰巣は33例27.2%, またその12.3%に蜂巣内陰影があり, 鼻副鼻腔形態異常だけではなく感染病態を示唆した。従ってこの気胞化現象による鼻腔側壁異常が認められる場合には鼻腔整復術として鼻中隔整復と共に中鼻甲介蜂巣の整復は極めて重要になると考える。今回は, 舗骨甲介形態異常である中鼻甲介蜂巣について, その出現率, 形態分類, 蜂巣陰影について調査し臨床的意義, 手術法について論述した。
著者
添田 弘 水川 保 木村 晴 茂呂 邦久
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.23-25,3, 1969-02-15 (Released:2011-08-10)

Numerous cases of abnormal lengthening of the styloid process of the temporal bone have been described. A recent case experienced by us manifested symptoms that suggested a state of psychic disorder. Excision of the abnormally long styloid process resulted in complete disappearance of symptoms and, furthermore, the patient himself was unable to recollect his previous symptoms. The mental aberrations in this patient are discussed.
著者
峯村 佐和子 和田 弘太 須田 稔士 新井 千昭 長岡 真人 井田 裕太郎 枝松 秀雄
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.82-86, 2014-04-15 (Released:2015-04-15)
参考文献数
7
被引用文献数
1

髄膜癌腫症は癌細胞が脳・脊髄軟膜にびまん性に転移し, 髄膜刺激症状や脳神経症状などが多発性に出現する頭蓋内転移の中でも比較的稀な病態である。 悪性腫瘍の既往のある患者に脳神経症状が発症した場合には本症を疑うが, 潜在性の悪性腫瘍の初発症状として出現した場合には診断が非常に難しい。 予後は非常に不良で神経症状などの発症後1~2ヵ月で死に至る場合も多い。 今回われわれは進行性の感音難聴を初発症状とした, 胃癌転移による髄膜癌腫症の1例を経験した。 進行性の感音難聴や難治性の顔面神経麻痺を認める場合, 髄膜癌腫症も鑑別に入れ, 精査を行う必要があると思われた。
著者
榎本 雅夫 横山 道明 新井 宏紀 硲田 猛真
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.219-226, 1991-04-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
16

スぎ花粉症は増加しているといわれている。増加の要因としては様々なことが報告されているが, 自然集団の中でどの程度に増加しているかについての報告は少ない。著者らは和歌山県下無作為に集めた多数例の血清を対象にRAST, AlaSTATによりスギ特異IgE抗体の測定を行い1895年の調査と比較した。その結果は次の通りであった。1.スギRAST1以上の陽性者は22.7%, 2以上は18.3%であった。スギAlaSTATの陽性者頻度は, スコア1以上は33.8%, スコア2以上はRASTとほぼ同じ20.1%であった。2.女性よりも男性の方に陽性者が多かった。3.年齢的には16-19歳台で陽性者がもっとも多く, 加齢と共に陽性率は減少した。4.スギRAST陽性者は, 5年前の同調査と比較して増加していた。また, 好発年齢が若年化していた。5.スギ特異IgE抗体陽性者は針薬樹, スギやヒノキの樹林面積の多いところに多かった。しかし, 増加の要因としての大気汚染の関連は証明できなかった。