著者
飯田 弘之 吉村 仁
出版者
静岡大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

本研究ではゲーム情報学的な解析によってチェス種(特に将棋種)を相互比較した.顕著な貢献を以下に整理する.(1)原将棋として知られる平安小将棋では,「王金対王」終盤戦のコンピュータ解析によって,盤サイズの進化論的変遷を合理的に説明できた.将棋種の変遷を考察する上で,歴史的文献資料による調査を補佐する重要な役割を担い得る可能性を示した.(2)ゲーム情報学的にゲームを比較するための指標を考案した.探索空間複雑性(search-space complexity)と決定複雑性(decision complexity)の二つの指標に基づいて、ゲームを比較する.前者は,ミニマックス木の最小サイズに相当し,そのゲームの平均終了手数Dと平均合法手数Bに対してB^Dで近似される.後者はD/(√<B>)という指標である.つまり,平均合法手数と平均終了手数のバランスのとれたゲームほどより洗練されている.(3)チェス種は,進化の大きな流れとして,ルールがより洗練される方向へと向かっている.チェス,将棋,象棋でそれが異なる手法で実現されてきたが,それは,歴史的な文化背景と密接な関係がある.
著者
田中 伸司
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ソクラテスが知の所有者であることを否認しつつ(無知の自覚) 、 他方で自分こそが真理を語る者であると断言するという矛盾とみえる事態の解明に取り組み、ソクラテスの真理の捉え方がイデア論と通底しているという仮説の検証を行った。その結果、真理主張には想起というレトロスペクティヴな構造が関わっていることを明らかにし、さらに『国家』の魂論・友愛論の分析によって自分自身との関係性が正義の核にあることを論証した。
著者
西川 義晃
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、戦前の取引所関係法令の下で重視されていた資本市場の機能について研究し、これを前提に、取引所法が規制した風説の流布・偽計取引、会社法上論じられていたインサイダー取引について研究した。また、戦前の業者規制に係る法令のほか、取引所が株式会社形態をとることの是非、さらにこれらとの関係で取引所法の下での「総合的な取引所」規制を研究し、いずれの研究についても一定の知見を得ることができた。
著者
太田 諭之
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

DTM(DeskTop Music)は,MIDI(Musical Instrument Digital Interface)によってコンピュータに音程(音高),音の長さ,音の大きさをユーザが指定して入力することにより音が発音され,曲を演奏する仕組みである。このDTMで楽曲を演奏させヴァイオリンの演奏者と合奏する事によりヴァイオリンの演奏者は定まった音程とリズムを習得することがより容易になるのではないかと考え,DTMを用いた演奏支援を提案した.ある楽曲をMIDIで演奏させた音と本物のヴァイオリンの音のFFT解析を行い,音の違いを調べた.実際の楽器G(ソ;開放弦)を弾いた波形は,スペクトログラム上の解析によりMIDI音源のヴァイオリン音に比べて倍音がより多く出ていて,音色が豊かである事が分かった.ヴァイオリンの個人レッスンを受けて1年の筆者(2010年04月現在)は,過去に一度も演奏していない楽曲をDTMで演奏させ,一通り聴いてパソコンの演奏と合わせた時とDTMを全く用いない練習において楽曲の演奏の習熟度に違いが見られるか実験を行った.録音機と再生機(ヘッドフォン)は,音楽業界でモニタとして使用される事が多い機器を使用し,音質に考慮した.それにより,実際の楽器とMIDIで発せられた楽器音を,厳密に比較し練習の際に注意すべき点と活用できる点を調べた.MIDIを用いた時と用いないときのヴァイオリン奏者の演奏を,短い曲で一フレーズを弾き,音程をFFTで分析する.又,テンポをMIDIの演奏とずれていないか,FFT解析を利用してチェックした.実験結果は,MIDIの伴奏及び主旋律の演奏支援に並行して,練習の回数を重ねていくと音程とテンポの改善が見られた.模範演奏を1回演奏前に聴くとテンポの間違いが少なくなった.音程の高低を録音で聴き直すと改めてよく分かり次回の練習の課題とした.更に,演奏時にピアノの伴奏が有ると,音をイメージしやすくて楽器を弾きやすく音程とテンポの乱れが,伴奏なしの練習よりも改善された.一方で,シーケンスソフト(パソコンで楽譜を表示させるソフト)を用いるときは,通常の楽譜に記載されている強弱記号や発想記号などが表示されないので練習する際,注意が必要である.今回の実験に対する,プロヴァイオリニストニストのご意見を頂戴した.「初心者の演奏者には使用できる方法ではないか」とのことです.今後,筆者はこのDTMを用いた演奏家支援でアマチュア・オーケストラでの楽曲演奏に応用できるか引き続き,検証を行っていく予定である.
著者
橋本 誠一
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、静岡県をフィールドとして、おもに明治維新から明治 10年頃までの時期の(1)法学教育、(2)裁判所制度のあり方、(3)訴訟と代言人活動の実態を解明することを目的とした。そのうち研究目的(1)「法学教育」については論文(5)を、研究目的(2)「裁判所制度」については論文(1)と(2)を、研究目的(3)「代言人」については論文(3)をそれぞれ執筆した。
著者
河野 荘子
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

平成14年度は、非行少年の自己統制能力に関して、非行進度と家庭環境との関連性から検討し、学会で口頭発表をおこなった。本研究では、非行少年(少年鑑別所に入所中の男子少年、平均年齢16.4歳)の自己統制能力と、非行進度(過去の施設入所歴の有無・少年鑑別所への入所回数・非行の初発年齢の3つの下位分類からなる)、家庭環境(実父の有無・実母の有無の2つの下位分類からなる)の関連性を検討するため、共分散構造分析をおこなった。その結果、実父母と何らかの要因によって、生別もしくは死別し、家庭環境が不安定な状態になると、自己統制能力が低くなることが示された。家庭環境が不安定になると、しつけがおろそかになってしまいがちとなり、自己統制能力の低さに結びつくと解釈できた。しかし、自己統制能力の低さと非行進度との関係性は、意味のある結果を見出すことができなかった。こうなった要因の1つとして、少年鑑別所入所者は、受刑者よりも比較的犯罪傾向が進んでいないため、施設入所歴や少年鑑別所入所回数といった客観的指標のみでは非行進度が明確になりにくい可能性が考えられた。非行行動に関わる機会が多いなどの環境の問題も考慮に入れる必要があるかもしれない。上記の結果を、犯罪者の自己統制能力の構造と比較すると、どちらも、実父母の有無は、自己統制能力の形成に大きく影響を及ぼすことが指摘できた。ただ、犯罪者は実父の有無の影響をより大きく受けていることが示されていたが、非行少年に両親の間で影響の差は見られなかった。非行少年から犯罪者へと、反社会的傾向を強める者は、実父との関係に何らかのより大きな問題を抱えていることが推測された。