著者
松野 容子 水野 秀一 大徳 優子
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.123-127, 1996-09-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
6

病院環境における菌の分布やその動態の一端を明らかにする目的で, 病棟エレベーターの押しボタンと手指を対象とする細菌学的検討を行った.使用人数別 (1~8人) および経時間的 (30~120分) に押しボタン上から検出された菌数は, おおむね0から最高150~300colony forming units (CFU) で, そのうちの70%以上が20 CFU未満であった.しかし, 時に1200CFUもの菌が検出されるなど, 一部のヒトの手指の汚染状況に応じて接触後に非常に汚染された状態が生じうることが明らかとなった.無作為な押しボタンの拭き取り調査では最高検出菌数は約300CFUであったが, 平均検出菌数は約100CFUと高く, その一因として皮脂による菌の付着効果が考えられた.また, 押しボタンから手指に付着したcoagulase negative staphylococci (CNS) の経時的なプラスミドプロファイルからは複数の異なる菌株が確認され, 手指を介して菌が刻々と伝播されていく実態が推察された.
著者
志田 泰世 野口 久美子 金子 潤子 金沢 宏 吉川 博子
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.184-187, 2005
被引用文献数
2

平成15年12月30日, 新潟市民病院の神経内科と整形外科の混合病棟の入院患者47名中13名に下痢, 嘔吐の症状が出現した. 準夜勤務者 (3名) にも同様の症状が認められた. 病棟発生調査とおよび脱水症状の患者への治療が開始された. 出勤していないスタッフにも同様の症状が多いことがわかった. 緊急対策会議を開催し, 患者隔離・スタンダードプリコーションの徹底及び厳重な接触感染予防策が実施された. 胃腸炎の原因はノロウイルスであることが判明した. 1月8日には有症状患者は0となり, 10日患者の隔離解除・平常業務体制となった. ノロウイルス感染の症状は, 嘔吐69%, 下痢66%といわれ, 成人では下痢, 小児では嘔吐が多いとされている. そのため, ノロウイルスの主要感染ルートは, 糞口感染で, 高齢者ではおむつ交換時, 汚染された水や貝 (二枚貝) で, 時に飛沫による感染が推定されることから, 注意が必要である.
著者
白石 正 仲川 義人
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.165-169, 2007-09-25 (Released:2010-07-21)
参考文献数
5
被引用文献数
1

輸液内への細菌混入は, 薬剤混合時やライン交換時などで生じ, カテーテル関連血流感染の原因 となることが知られている. そこで, 輸液中に細菌が混入した場合の細菌の増殖動向を検討した. 輸液は電解質輸液2種類, アミノ酸輸液3種類, 脂肪乳剤配合アミノ酸輸液1種類および50%ブドウ糖液1種類の合計7種類を使用した. 被験菌はE. coil, S. marcescens, P. aeruginosa, S. aureus, およびS. epidermidisを使用し, これらの細菌を一定菌量に調整した菌液をそれぞれ各輸 液に添加し, 6, 12, 24時間後にサンプリングを行い, SCD寒天培地に接種し, 35℃24時間培養 後コロニー数を計測した. この結果, 脂肪乳剤配合アミノ酸輸液中では, いずれの被験菌も経時的に増殖が認められたが, 50%ブドウ糖液中では6時間以降, 増殖は認められず, pHおよび浸透圧が関与しているものと考えられた. その他の輸液中では, 菌種により異なりP. aeyuginosa, S. auyeus, およびS. epidermidisでは48時間後に増殖は認められず, E. coil, S. marcescensでは増殖が認められた. このことから, 輸液の組成, pH, 浸透圧に加え, 細菌種の性質も関与すると考えられた.
著者
宮本 幹 山口 義夫 笹津 備規
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.127-132, 2000-05-18 (Released:2010-07-21)
参考文献数
17

レジオネラ症や非結核性抗酸菌症の原因となるレジオネラ属菌および非結核性抗酸菌について, その感染源となりうる身近な生活環境中の分布状況を把握するために河川, 湖沼, 海水および土壌等の自然環境, 修景用水, 温泉水, 公衆浴場水, 一般家庭浴水および循環風呂浴水などの人工環境, また各種細菌が検出されないと思われる対照として水道水と飲料用水の調査を行った.その結果, レジオネラ属菌は河川水, 温泉水, 公衆浴場水, 一般家庭浴水および循環風呂浴水から分離された.非結核性抗酸菌はレジオネラ属菌と同様, 生活環境中に広く分布していることが確認された.また, 一部飲料用水からも非結核性抗酸菌が分離された.循環風呂浴水に関しては循環機本体の熱洗浄システム等を導入した物理浄化方式の装置を試験対象とした.その結果, 温泉水や公衆浴場水等と比較してもその菌数, 分布ともに低値であった.
著者
坂田 宏 丸山 静男
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.5-8, 1991

1990年9月から12月までにNICUに届けられ, 冷凍庫に1~6日間保管した凍結保存人乳100検体, 当日調乳した人工ミルク30検体, 凍結保存人乳で栄養された極小未熟児・超未熟児15名からの糞便を, のべ60検体を採取し細菌培養を行った.<BR>凍結保存人乳の98例から<I>Staphylococcus epidermidis</I>が検出され, うち86例は10<SUP>3</SUP> CFU/m<I>l</I>以上の菌数であった.<I>Staphylococcus aureus</I>は5例から検出され, 4例は10<SUP>3</SUP> CFU/m<I>l</I>以下の菌数であった. グラム陰性桿菌は15例から9菌種24株が分離された. もっとも多かったのが<I>Klebsiella pmeurmoniae</I>で8例, ついで<I>Acinetobacter calcoaceticus</I> 5例であった. 10<SUP>3</SUP> CFU/m<I>l</I>以上の菌数で検出されたグラム陰性桿菌は12例17株あり, 10<SUP>4</SUP> CFU/m<I>l</I>以上の菌数を示したのは4例4株で, <I>K. pneumoniae</I> 2例と<I>A. calcoaceticus</I> 2例であった. <I>Candida</I>は4例から10<SUP>2</SUP> CFU/m<I>l</I>以下の菌数で検出された. 調乳した人工ミルクでは<I>S. epidermidis</I>が4例に10<SUP>2</SUP> CFU/m<I>l</I>以下の菌数で検出された.<BR>糞便から検出されたグラム陰性桿菌では<I>Escherichia coli, Enterobacter cloacae, K. pneumoniae, A. calcoaceticus</I>が10%以上の検出率であった. その他の凍結保存人乳から検出された菌種は検出率は低かったがすべて糞便からも検出された.
著者
白石 正 仲川 義人
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.165-169, 2007-09-25
被引用文献数
4

輸液内への細菌混入は, 薬剤混合時やライン交換時などで生じ, カテーテル関連血流感染の原因 となることが知られている. そこで, 輸液中に細菌が混入した場合の細菌の増殖動向を検討した. 輸液は電解質輸液2種類, アミノ酸輸液3種類, 脂肪乳剤配合アミノ酸輸液1種類および50%ブドウ糖液1種類の合計7種類を使用した. 被験菌は<I>E. coil, S. marcescens, P. aeruginosa, S. aureus</I>, および<I>S. epidermidis</I>を使用し, これらの細菌を一定菌量に調整した菌液をそれぞれ各輸 液に添加し, 6, 12, 24時間後にサンプリングを行い, SCD寒天培地に接種し, 35℃24時間培養 後コロニー数を計測した. この結果, 脂肪乳剤配合アミノ酸輸液中では, いずれの被験菌も経時的に増殖が認められたが, 50%ブドウ糖液中では6時間以降, 増殖は認められず, pHおよび浸透圧が関与しているものと考えられた. その他の輸液中では, 菌種により異なり<I>P. aeyuginosa, S. auyeus</I>, および<I>S. epidermidis</I>では48時間後に増殖は認められず, E. coil, S. marcescensでは増殖が認められた. このことから, 輸液の組成, pH, 浸透圧に加え, 細菌種の性質も関与すると考えられた.
著者
戸島 洋一 松田 俊之 河井 良智 服部 万里子
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.188-192, 2005-09-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
13

当院では抗菌薬適正使用推進のため2001年末に採用注射用抗菌薬を整理し, 第4世代セフェム薬を3剤から1剤に, カルバペネム薬を3剤から2剤に削減, ペニシリン薬とキノロン薬を追加した. その前後2年間ずつにおける注射用抗菌薬使用量と多剤耐性グラム陰性菌の検出数, 緑膿菌の耐性率を調べた. 注射用抗菌薬の使用数は整理前後の2年間ずつの平均で比べると約11%減少した. 第1世代セフェムの使用数は増加, 第3+4世代セフェムは16,810本/年から11,043本/年へと34%減少, カルバペネム約は27%減少した. 多剤耐性グラム陰性菌の検出数はB. cepaciaなどが減少傾向を示した. 緑膿菌のイミペネム耐性率は有意に減少したが, 多剤耐性緑膿菌検出数は減少しなかった. 削減されなかったメロペネム, セフォゾプランに対する緑膿菌の薬剤感受性は変化がなかった. 以上より, 採用抗菌薬の整理 (削減) は抗菌薬総使用数の減少をもたらし, 多剤耐性グラム陰性菌の検出数は増加せず, 残された薬剤の緑膿菌に対するMICは変化がなかったことより, 今回行った採用抗菌薬のコントロールは意義があったと考えられる.
著者
猪野 元由美 山内 勇人 河野 恵 土手 恵子 大西 誠
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.105-108, 2007-06-28 (Released:2010-07-21)
参考文献数
5
被引用文献数
1

当院はリウマチ性疾患患者が240床中80%を占めるインフルエンザのハイリスク集団であり, 予防的サージカルマスク対策や外来有熱患者のトリアージによる飛沫予防策を主とする総合的なインフルエンザ対策が有効に機能している.職員がインフルエンザに罹患した場合, その感染力の強さから, 職員間や患者への二次感染は院内感染対策上大きな問題となることから就労停止は必至となるが, 罹患職員の欠員は医療の質の低下に至る可能性がある.しかし, 就労停止期間を明確に規定するものはない.そこで, 総合的なインフルエンザ対策継続下において, インフルエンザ罹患職員の就労停止期間短縮の可能性について検討した.2004年度および2005年度に罹患した13名の職員に対して, 「完全解熱 (1日を通じて37℃ 以下) の翌日に迅速検査が陰性であれば, サージカルマスク着用下に勤務可」とした結果, 就労停止期間は「最低5日間」としていた当院の規定から, 3.38±1.04日に有意に短縮された.罹患職員就労後の二次感染は入院患者, 職員ともに認めず, 入院での患者発生数は2004年度3名のうち2005年3月以降0人, 2005年度も入院時持込み患者の1名のみと良好な結果であった.今回の基準は当院においては妥当なものと考えられ, 施設に適した総合的なインフルエンザ対策を行うことにより, ハイリスク集団である当院においても, 罹患職員の就労停止期間短縮が可能と考えられた.
著者
近藤 真紀
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.316-324, 2000-11-09 (Released:2010-07-21)
参考文献数
29

近年, 否定的であるにもかかわらず, いまだに日本では三方活栓 (以下三活とする) が使用されている頻度は高い. 一般的に三活注入口はエタノール清拭で消毒を行っていたが, 近年, エタノール噴霧消毒 (以下噴霧消毒とする) を行う施設がみられ, 噴霧法が臨床において有効という報告もある. この報告から注入口からの菌侵入する確率は低く, 三活が感染因子となる理由は注入口以外にあるのではないかと考え, 注入口とともに三活の輸液が流れているライン側 (以下ライン側とする), 三活内腔のコックの回転する部分 (以下コック部とする) の細菌付着について明らかにすることとした. その結果, 注入口への噴霧消毒は, 菌液として使用したS. epidermidisについては有効であったが, Bacillus spp. に対する限界が残された. ライン側, コック部の細菌付着が認められた. このことから, 注入口は噴霧消毒によって菌の管内侵入のリスクを下げることができるが, ライン側やコック部については管外から菌付着防止対策をとることは難しいことが示唆された. しかし, 実験の結果は高濃度の菌液を使用しているため, 直接臨床への応用については限界があるが, 輸液ライン由来感染防止のため三方活栓使用の見直しや, 接続部分を最小限にすること, 薬液作成の環境の見直し, 薬剤部への輸液調剤依託など他職種と連携を図る必要があると考えた.
著者
高森 スミ 久家 智子 辻 明良
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.27-32, 1992-12-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
12
被引用文献数
3

手指消毒剤の評価のうち, 殺菌あるいは抗菌作用についての検討成績は数多く報告されているが, 使用者から手荒れの訴えがあるにもかかわらず, その検討報告は少なく, 対策に有用な成績は得られていない. 消毒剤を常用する医療従事者にとっては, 手荒れが生じにくくかつ除菌, 殺菌効果のすぐれた消毒剤が望まれる. 本研究では健常者を対象に実際の手指消毒法に準じた条件で, 1日8回, 8日間手洗いを行い, その前・後の皮膚状態を観察し, 加えて除菌効果およびパッチテストによる皮膚刺激性について検討した. 用いた消毒剤は4%グルコン酸クロルヘキシジン, 0.5%グルコン酸クロルヘキシジン, 0.1%塩化ベンゼトニウム, 0.2%塩化ベンザルコニウム・エタノール, 7.5%ポビドンヨードの5剤である.その結果, 使用した消毒剤すべてにおいて手洗い回数が増えるに従い手荒れがみられ, その程度は7.5%ポビドンヨードがもっとも高く, ついで0.1%塩化ベンゼトニウム, 4%グルコン酸クロルヘキシジン, 0.5%グルコン酸クロルヘキシジン, 0.2%塩化ベンザルコニウム・エタノールの順であった. また皮膚の状態から手荒れは爪周囲に強く認められた. 除菌効果は7.5%ポビドンヨード (平均76.9%) を除く4剤は91%以上と高い除菌率を示した. パッチテストの陽性率は0.2%塩化ベンザルコニウム・エタノールの35.5%がもっとも高く, ついで7.5%ポビドンヨードの15.5%であった.しかし, パッチテストの陽性率と手荒れ度との相関は認められなかった.
著者
井上 哲郎 松尾 収二 種田 和清 浅野 博 島川 宏一
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.373-377, 2004-08-10
被引用文献数
1

目的: 当院の院内感染対策委員会では職員のインフルエンザワクチン (以下ワクチン) 接種を毎年推奨しているが, 当院職員のワクチンに対する意識調査を行い, ワクチン接種の現状と課題について検討し, その結果を接種率向上のために役立てること.<BR>方法: 2002年4月にワクチン接種に関するアンケートを当院全職員に各部署毎無記名で行った.<BR>結果: 2001年度のワクチン接種率は56.7% (839/1486人) で職種により7-100%と異なった. 接種者のアンケート回収率は78.7%で, 接種理由は自ら希望81.5%, 上司のすすめ20.2%, 同僚のすすめ2.3%. 来シーズンのワクチンの希望は, する96.1%, しない2.3%であった. 一方, 非接種者の回収率は70.0%で, 非接種の理由は必要性を感じない39.3%, 希望したが日の都合があわず19.0%, 有効性への疑問18.8%, 副反応の危惧15.5%, 知らなかった8.4%, 当日の体調不良4.6%, 基礎疾患あり4.0%, 注射嫌い2.4%, 卵鶏肉アレルギー1.8%であった.来シーズンのワクチンの希望は, する33.8%, 有効性や副反応の情報が増えれば希望32.5%, しない28.9%であった.<BR>考察: 職員のワクチン接種率向上のためには, 接種の周知を一層図ること, 接種日を増やすこと, 有効性や副反応に関する啓蒙活動をとくに接種率の低い部署に対して行うこと, などに工夫が必要と思われた.
著者
片山 由美 月田 早智子 南出 和喜夫 岸下 雅通
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.49-52, 1996-02-05 (Released:2010-07-21)
参考文献数
20

今回, 院内感染と医療従事者の衣類について検討すべく, 京都大学本医療技術短期大学部学生のキャップの汚染状態を調査した. 菌分離は, 病棟実習中の本学短期大学部3回生36名を対象にキャップの7ヵ所をスタンプして行った. 同時に被検者全員の手指からの分離も行った.菌分離者は36名中75%の27名であり, そのうち1名のキャップからStaphylococcus aureusが分離され, MRSAであった. その他, キャップや手指からの分離菌種は表皮ブドウ球菌, 真菌類, その他の細菌が占めていた.キャップの使用期間と菌分離の関係は明確には解らなかったが, キャップの汚染源として使用者の手指・病院環境・医療機器などが考えられ, キャップのみならず医療従事者の頭部は汚染されているという認識をあらためて得た.本調査において, 表皮ブドウ球菌やその他の細菌がその多くを占めていた.さらに表皮ブドウ球菌などのCNSがすでにメチシリンに耐性を持ち, 院内感染の主流になりつつあるという事実を再確認した. 今後, 院内感染起因菌の変遷に伴い, 感染防止行動の基本である手洗いを徹底させるとともに, 医療従事者の衣類に関する感染防止行動指針の確立が必要と思われる.
著者
寺田 喜平 新妻 隆広 片岡 直樹 二木 芳人
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.173-177, 2000-05-18
被引用文献数
4

我国の看護学生における院内感染予防対策の現状と問題点を明らかにする目的で, 看護大学および短大140校においてアンケート調査を行った.34% (24/71校) の大学で看護学生が水痘, 流行性耳下腺炎, 麻疹, 風疹に, また2校で結核に感染していた.感染対策は既往歴やワクチン接種歴の報告が57%, 検査 (抗体, 便培養) が64%, 何もしていないが14%であった.抗体検査は93%がB型肝炎, 約30%が麻疹や水痘などに対し, また49%がツベルクリン反応を実施していた・抗体測定は感度の低いCF法などの実施例もあった.検査料金は大学の全額補助36%, 一部補助32%, 学生の全額負担28%で, 検査項目数が増加しても補助率はほぼ同じであった.ワクチンの接種勧奨は61%で行っていたが, 接種は本人まかせが56%で, 接種料金は全額補助14%, 一部補助29%であった.その補助費用は88%で大学が, 8%で大学後援会が出していた.問題点は現在の対策がB型肝炎中心で, 結核やウイルス感染に対する対策が遅れていた.また抗体測定法の選択に問題があった.検査料金やワクチン料金は少なくとも補助が必要で, またワクチン接種勧奨するだけでなぐ集団接種や場所, 時間など学生に便宜を計る必要があると考えられた.看護学生に対する院内感染防止には費用も含めた対策が必要である.
著者
高橋 年光 茂田 士郎
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.5-8, 1997-06-10 (Released:2010-07-21)
参考文献数
5

職場における作業衣等の除菌・消臭・除塵・乾燥を目的に開発された遠赤外線を用いた装置であるクリーンキャビネット (インフラクリーン) について, その除菌効果を検討した. 107~108 colony forming units (cfu) /mlに調整したEscherichia coli, Pseudomonas aeyuginosa, Staphylococcus amus (MRSA) および104~105cfu/mlに調整したCandida albicansの菌液0.1mlを滅菌した試験布に接種し, 室内およびインフラクリーン内に放置した. そのあと, 放置直後と4時間後, 8時間後に試験布に付着した菌数を定量し, その除菌効果を比較検討した. インフラクリーン内に置かれた試験布に付着した菌数は, E.coli, P. aeyuginosaおよびC.albicansが4時間後2.5×102cfu/ml以下へ, MRSAは4時間後7.5×102cfu/mlまで減少し, 8時間後には2.5×102cfu/ml以下となった. 一方, 室内に置かれた試験布に付着した菌数は8時間後においてもE.coliが1.3×103cfu/ml, P. aeruginosaが5×103cfu/ml, MRSAが7.5×103cfu/ml, C. albicansが5×102cfu/mlであった. すなわち, インフラクリーン内に4時間放置すると付着菌は102-104cfu/ml以上減少したが, 室内に放置した場合には8時間後でも10-103cfu/ml減少したにすぎない. この結果より, 遠赤外線を利用した装置であるインフラクリーンには明らかに除菌効果があることが確認できた.
著者
青柴 孝宏 岩本 勇 片岡 陳正 河本 良夫 荒川 創一 守殿 貞夫
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.19-26, 1993-06-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
8

安価で軽量な家庭用充電式携帯掃除機を改造し, 簡易空中浮遊微生物捕獲器を製作した. 微生物捕獲方法は衝突方式を用い, 本器に使用するシャーレも考案した. 本シャーレは当捕獲器に設置して使用するだけはなく, 従来のようなスタンプ培地にも使用できる. 培地面から前面部の多孔板を金属製にしたことにより火炎滅菌が可能となり, 直ちに簡単に幾度も使用できるようになった. 本器による一致性を検討し, 0.994を示した. 従来よりよく使用されている類似の機器と捕獲率の比較を行った結果, 本器は1.994倍の良好な捕獲率を示した. また本器は空中浮遊菌だけではなく, リネン類等に付着した微生物の捕獲検査にも利用可能であり, 有用性のある機器であることが判明した.
著者
大沢 一貴 大沢 牧子 嶽本 剛平 佐藤 浩
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.272-277, 2007-12-25 (Released:2010-07-21)
参考文献数
8

セルロース製スポンジモップ (Sモップ) の性能評価の一環として, 清拭効果を模擬汚れ使用による汚れの捕捉効率で評価し, 一方, 細菌増殖性と保水量との相関についても検討し, あわせて混糸製モップ (フラットモップ, ケンタッキーモップ) との比較検討を行った. Sモップの汚れ捕捉効率は, タルク, 蛍光クリーム, 濾紙粉末のいずれにおいてもほとんど回収残しがなく, 最も優れていた. また, 器械絞り後の保水量および室内乾燥中の保水量は, Sモップが最も少なく, これに相関して細菌の増殖性も低レベルであった. Sモップでは, 専用絞り器を使って器械絞りをし, 湿度70%以下の室内に放置すれば, 細菌増殖が起こりにくい微保水レベルに速やかに移行させることができ, 次回の清拭時に床面に細菌を持ち込まない作業が可能であった. 汚れ捕捉効率が高く乾燥に優れたSモップと専用絞り器をセットで使用することは, 環境中からの易感染宿主感染防止の点で, きわめて有効に機能することが示唆された.
著者
堤 徳正 宇田 恵美 木内 環 人見 重美
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.404-407, 2003-10-27 (Released:2010-07-21)
参考文献数
20

Yeasts in the oral cavities of newborns with thrush can transmit to other patients through devices used for milk feeding. We examined the efficacy of boiling with a domestic microwave oven for disinfection of nipples used by patients with thrush. Nipples, used by three patients with thrush, were cleansed by nursing staff and cultured in tryptone broth with 2% glucose at 37° for seven days. Yeast grew in eight of 17 samples with cleansing and all of 15 samples without cleansing (p=0.001). Next, other nipples used were cleansed and boiled by microwave for ten minutes in a container with one liter of tap water. The nipples were left in the container for an additional 50 minutes or more, and individually cultured similarly. Yeast grew in none of 32 samples with cleansing and boiling, and in 32 of 37 samples without cleansing and boiling (p<0.0001). These findings indicate that the combination of hand cleansing and boiling in a microwave oven is an effective procedure for disinfection of nipples contaminated with yeast and that hand cleansing without boiling can significantly but insufficiently wash the organism off contaminated nipples.
著者
伊藤 重彦 大江 宣春 草場 恵子 金子 裕子 藤武 隆文
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.285-288, 2002-08-28 (Released:2010-07-21)
参考文献数
13

病院職員の鼻腔内MRSA保菌率の推移とムピロシンによる除菌効果を検討した.隔年3回の保菌調査の参加者はそれぞれ407名 (1997), 54.名 (1999), 547名 (2001) である.職種別保菌率の推移では医師9.6%, 9.0%, 6.2%, 看護師6.9%, 3.2%, 3.6%で, 医師, 看護師以外の職員保菌率は3.98 (1999), 0.8% (2001) であった, 看護師の保菌率は初回調査後に手洗いの励行および感染対策マニュアルの遵守, 徹底を図ることで有意に低下した.保菌者に対するムピロシン軟膏による除菌率は3回の調査全体で94.4% (68/71) であった.除菌効果の持続時間を検討するため, 医師保菌者7名に対して完全除菌後3ヵ月後に再調査を行ったところ再保菌者は1名 (再保菌率14.2%) であった.保菌率調査は職員の感染予防への意識を高める良い機会であるが, それを契機に感染対策マニュアルの遵守を継続的に行うことがより重要である.
著者
高良 武博 大湾 知子 加藤 種一 上原 勝子 津波 浩子 佐久川 廣美 備瀬 敏子 久田 友治 新里 敬 健山 正男 比嘉 太 佐久川 廣 草野 展周 斎藤 厚
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.267-273, 2004-05-10 (Released:2010-07-21)
参考文献数
13
被引用文献数
5

MRSA分離患者が多かった病棟において, 看護行為前後の手指衛生行動としての手洗いと手指消毒を経時的に参与観察し, 接触伝播に対する防止対策を検討した.看護行為全体に対する直接看護行為の割合は46%で, 診療・治療の介助が16.2%, 排泄ケアが9.8%と高く, 手指衛生行動の実施率は排泄ケア前後が46.6%と最も高かった. それらの行為後では流水による手洗いが多く, 実施場所はナースステーションが多かった. 手指衛生行動の必要場面の実施率は行為前より行為後が高く, 診療・治療の介助前が12.5%, 介助後が30%, 排泄ケア前が11.1%, ケア後が55.6%であった. しかし, MRSA患者に対しては排泄ケア, 入浴介助時の手袋着用率は高いが, 取り外し後の手指衛生行動の実施率は低かった. 手指衛生行動の関連要因では, 直接看護行為後に必要な手指衛生行動の実施率は看護経験年数と正の相関を認めた. 以上の結果より, 手指衛生行動の教育・啓発活動としては, ケア前後及び手袋取り外し後の手指衛生行動の遵守強化, 連続看護行為時の手指消毒の推奨, 手洗い設備としては, 看護行為場所から手洗いシンクへの移動時の接触伝播防止として, 各病室の手洗いシンクへの石鹸やペーパータオルの設置が必要である. 今後, 手指衛生行動の評価には看護行為実践時の経時的観察が必要であり, 看護行為及び手指衛生行動を経時的かつ迅速に評価できる観察・評価表を考案した.
著者
大須賀 ゆか
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.13-18, 2005-03-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
15
被引用文献数
4

2002年, CDCは新しい手指衛生に関するガイドラインが提唱したが, 擦式手指消毒薬の使用により手指衛生行動が改善した報告は少ない. そこで, 手指衛生に関する今後の課題をあきらかにするために, 擦式手指消毒薬と流水下での手指衛生行動 (実施率・方法) を比較検討した. 構成的観察法により93名の看護師を観察した結果, 仕事数が最も多い病棟では, 擦式手指消毒薬による手指衛生の割合は最も高かったが, 手指衛生実施率と手指衛生方法の得点は最も低かった. また, 擦式手指消毒薬による手指衛生は, 流水下に比して手指衛生方法の得点が低かった. 以上から, 忙しい状況では擦式手指消毒薬を使用しても手指衛生実施率の改善にはいたらず, 擦式手指消毒薬による手指衛生は流水下に比して手指衛生の質が低下するリスクがあることがあきらかになった. 擦式手指消毒薬を使用する場合, 手指衛生のトレーニングを強化する必要性があることが示唆された.