著者
休波 茂子 一宮 朋来 割石 富美子 島田 達生 那須 勝
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.195-199, 1998-08-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
12

環境消毒として使用され始めているジクロロイソシアヌル酸ナトリウム (SDI) に対する殺菌効果について検討した.菌株はPseudomonas aeruginosaPAO 2001-2とMethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA) OMU 91007を用い, biofilm菌を作成して行った.SDIの対照として塩酸アルキルジアミノエチルグリシン (AEG) を使用した.P.aeruganosaに対する殺菌作用は, AEGに比べSDIのほうが強く約15分で殺菌し, MRSAに対する殺菌作用もSDIのほうが強く約30秒で殺菌し, また, 走査電子顕微鏡で各消毒薬によるP.aeruginosaおよびMRSAの菌体構造の破壊が観察された.手術室での消毒薬による減菌値は, AEGに比べSDIのほうが高く, MRSAを含む分離菌の減菌値はSDIでは100%であった.以上の結果より, SDIはbiofilm形成菌に対して優れた殺菌効果を有した.保管方法, 濃度調整などが容易であるという利点からも, 病院環境消毒に安全・有効な消毒剤であると思われる.
著者
戸田 すま子 渡部 節子 松田 智子 松田 好雄 原口 俊蔵 池田 耕三 奥田 研爾
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.231-235, 2006-12-20 (Released:2010-07-21)
参考文献数
5
被引用文献数
1

二酸化塩素 (ClO2) は安全性の高い消毒薬として古くから用いられているが, 各種微生物に対する殺菌効果を検討した系統的で詳細なデータはこれまであまり発表されていない. そこで今回我々は, 二酸化塩素 (クリーンメディカル®) を用い, その殺菌および静菌的効果の検討を行った. その結果, 二酸化塩素 (600ppm) を用いた場合, Salmonella enteritidisは5分間, Pseudomonas aeruginosa, Esckerichia coliは10分間, Serratia marcescensは15分間, Staphylococcus aureus, Candida albicansは30分間, methicillin-resistant Stphylococcus aureusは60分間の作用で, 菌数が検出限界以下になることが明らかになった. 二酸化塩素は安全性が高く, 一般的な消毒薬の一つである次亜塩素酸のような刺激臭も無いため, 病院内・介護施設等における環境・機器の消毒薬として大変有望であると考えられ, 今後医療の現場への更なる応用が期待される.
著者
渡邉 好文 名和 肇 小池 直人
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.174-176, 1997-11-28 (Released:2010-07-21)
参考文献数
5

Studies of the effectiveness of compact size ultraviolet (UV) air disinfection system against airborne bacteria were conducted in patient rooms with 3.15m×5.0m, 3.8m ceiling. The air disinfection systems were activated 24 hrs per one day. Four points of air sampling of 8 ft3 in volume were performed every one week for 3 months. No limitations were applied to incoming/outgoing of patients and medical staffs.Mean colony count of airborne organisms of air samples with UV air disinfection systems off was 4.0±1.9 CFU/ft3, and reduced to 1.4±1.0 CFU/ft3 after UV air disinfection systems on. Rates of 65% reduction of microorganisms were observed under the condition with air disinfection systems activated (p<0.01). Under existence of patients with infected wound, mean colony count of organisms was still increased, from 2 to 10 times higher, after the treatment of wounds.
著者
小川 謙 横岡 真由美 石角 鈴華 斉藤 容子
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.91-95, 2006-06-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
9

N95マスクの装着に際し, フィットテスト, フィットチェックによるトレーニングが重要であると言われている. 今回, 我々は自己流で装着した場合, どの程度正しくマスクがフィットしているのかの実態調査を行い, また集団指導でもフィットチェック及びフィットテストを含む実技指導は効果があるかを検証した. その結果, S病院に勤務する職員79名の内61%が, 自己流ではマスクがフィットしていなかった. さらに, フィットしなかった職員を「指導群」「非指導群」の2群に分け, 集団実技指導の効果を検討したところ,「指導群」において有意にN95マスクがフィットするようになつた (P<0.05). このことから, 指導の重要性が明らかとなり, 方法は個別指導でなくとも, 集団指導でも効果があることが示唆された. 一方, 指導した群においても36%がフィットしなかった. これらの職員に対しては, 個別指導を加え, さらに密着性が得られない場合は, フィットするマスクの選択ができるよう, 数種類の常備が必須である.
著者
尾家 重治 神谷 晃
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.16-19, 1994-10-12 (Released:2010-07-21)
参考文献数
17
被引用文献数
1

Microbial contamination was investigated for communal hand towels used by healthcare workers in hospital wards. All 8 towels studied were contaminated with a microbial level of 104-109 viable counts/towel. The main organisms identified were glucose nonfermentative gram-negative bacilli, including Acinetobacter spp. and Pseudomonas spp. In addition, methicillin-sensitive Staphylococcus aureus, 3.4×102-3.7×105 viable counts/towel, was detected in 4 (50%) out of the 8 towels; methicillinresistant Staphylococcus aureus was also detected in 1 of these towels (12.5%). The results suggested that the use of communal hand towels should be avoided from the viewpoint of preventing nosocomial infections.
著者
石金 恵子 境 美代子 村藤 頼子 広上 真里子 杉政 美雪 北川 洋子 吉田 郁子 中川 輝昭 田内 克典 水島 豊 落合 宏
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.177-180, 1997-11-28 (Released:2010-07-21)
参考文献数
10

病室内のカーテンの細菌汚染状態を知り, カーテンの適正交換頻度を知る目的で, 10病室 (一般病室4, MRSA隔離室6) のカーテンに付着している細菌をバイオエアーチエッカーを用い1週間隔で5回調査した.その結果, 下記の成績が得られた.1) 4週間を通じてカーテンの付着菌数の累積的増加は認められなかった.2) 分離菌ではブドウ球菌がもっとも多く, ついでグラム陽性桿菌, 真菌の順であった.3) MRSA隔離室のほうが一般病室より多くの菌数が検出された.4) MRSA隔離室6室のうち2室で濃厚なMRSA汚染が認められた.5) 消毒用エタノール噴霧はいずれの細菌の除菌にも有効であった.以上より, カーテンの交換頻度はMRSA隔離室では患者の退室ごとに, また一般病室では肉眼的汚れに応じ, 年3-4回定期的に交換するのが適当ではないかと考えられた.
著者
諏佐 理津子 布施 克也 石沢 真幸 中俣 正子 塚田 弘樹 下条 文武
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.303-308, 2001-12-07 (Released:2010-07-21)
参考文献数
10
被引用文献数
1

病院職員がインフルエンザに罹患した場合, 個人の健康被害だけではなく多方面に様々な影響を及ぼす. 今回我々は病院職員に対するインフルエンザワクチンの有効性, および適切な接種回数を実際に評価するため, 1999年12月~2000年3月, 十日町病院に勤務する全職員362名をワクチンを接種しない群 (V0群) 166名, ワクチンを1回接種する群 (V1群) 112名, 2回接種する群 (V2群) 84名の3群に分けて, 前向きな検討を行った. 感冒罹患率は有意差をみなかったが, インフルエンザ様疾患 (以下ILI) にはV0群11名, V1群3名, V2群1名が罹患し, 接種群の方が未接種群より有意に罹患率が低かった (p<0.05). 感冒・ILIのための延べ欠勤日数は, それぞれ100名当たりV0群29.5日, V1群19.6日, V2群14.3日で, 接種群の方が未接種群より有意に短かった (p<0.05). 38℃以上の延べ発熱日数は, 100名当たりVO群38.0日, V1群26.8日, V2群19.0日で, 接種群の方が有意に短かった (p<0.05). いずれの項目もV1, V2群間で有意差を認めなかった. 以上の結果より, 冬期間の病院職員の医療提供能力を維持するためには, インフルエンザワクチン接種は有効であり, 接種回数は1回でも十分であると考えられた.
著者
藪内 英子 山本 啓之 遠藤 卓郎 八木田 健司 守尾 輝彦
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.137-140, 1998-04-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
14

On 9 March 1996, a 57-year-old Japanese drunken male drown in a public bath in Tokyo. He was transferred to a emergency hospital and recovered. After his discharge on 11 March by walking, he became febrile at night. Next day, because of high fever and dyspnea, he came to the medical attention, and was immediately hospitalized under the diagnosis of acute pneumonia. Although bacteriological, serological examinations and chemotherapy for suspected Legionella pneumonia, definite diagnosis was not obtained and the patient died on 6 April. Culture of the autopsied lung tissue yielded colonies of Legionella pneumophila serogroup (SG) 6, and reexamined serum antibody titer against. L. pneumophila serogroup 6 was 1: 1024 by microplate agglutination test.Examinations for legionellae and their host amobae in the water of 22 bath tubs of 6 public bath facilities located in the area including the facility concerned were carried out on 22 April without notification in advance. Free residual chlorine concentrations of the 22 bath water were from 0.1 to more than 5 mg/L, and water from 2 bath tubs (0.1%) of low chlorine level were legionellae-positive. Host amoebae for legionellae were detected from 10 bath tubs of 5 facilities.Though Naegleria was detected, the bath water where the patient drowned was negative for viable legionellae by repeated trials of culture, 3 times intraperitonal passages of guinea pigs, and coculture with amoebae. The 16S rRNA gene specific for legionellae was detected from the bath water by nested PCR method using primers, 225A-854B and 448A-854B. After filtration of 10 ml bath water, the membrane filter was stained by indirect fluorescent antibody (IFA) method. Rodshaped organisms trapped on the membrane filter were IFA-positive against L. pneumophila SG 6, same with the isolates from lug tissue, and their presumptive number in bath water was estimated as 102-103/ml. Based on the results of nested PCR and IFA staining of rod-shaped bacteria trapped on the membrane filter, the bath water was regarded as contained with viable legionellae due to unknown reason and could be the source of infection when the patient was drowned.
著者
上原 信之 黒川 一郎 広瀬 崇興 熊本 悦明
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.6-11, 1994

MRSAおよび緑膿菌による院内感染は, 院内環境や医療従事者の手指を介しての交差感染であることが大きな要因であると指摘されている. 今回, 我々は実際の病棟環境において, 水拭き, 0.1%次亜塩素酸ソーダ液, 0.5%テゴー51液およびアクア酸化水などにより床の清拭・消毒を行い, 約2時間後のMRSAおよび緑膿菌に対しての除菌効果について検討した.<BR>MRSAについては, 各消毒液およびアクア酸化水ともに持続的な除菌効果は認められなかった. これらの結果から, 特にMRSAの床からの除菌は保菌患者がいる限り, 消毒薬を用いても困難であることが判明したことから, 通常の手洗いなどの徹底により環境の汚染菌を易感染患者に接触交差感染させないことが重要であることが再確認された. また, 緑膿菌は乾燥した病棟床からはほとんど検出されなかった.
著者
土井 研人 木村 哲 小林 寛伊 荒記 俊一
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.113-117, 1997-09-10
被引用文献数
1

二つの独立に機能している一般外科A, Bの臨床分離菌および抗菌薬使用状況を比較した. その結果, 分離菌では創感染部位などからの分離患者数において, <I>Staphylococcus aureus</I>, <I>Enterococcus faecalis</I>が外科Bのほうが有意に多く, 抗菌薬使用においては外科Bでの第三世代セフェム系抗菌薬の使用頻度が外科Aより多いことがわかった. このことから両外科の分離患者頻度の差は, 第三世代セフェム系抗菌薬の使用によりグラム陽性球菌が選択的に増殖した結果と考えられる.
著者
大石 正夫 宮尾 益也 阿部 達也
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.255-257, 1998-11-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
5

最近経験されたmethicillin resistant Staphylococcus aureus (MRSA) 眼感染症の7症例について報告した.症例は全眼球炎1例, 眼窩蜂巣炎2例, 角膜炎1例, 眼瞼結膜炎1例および慢性結膜炎2例である.全例に脳疾患, 糖尿病, 腎不全, 気道感染症など全身合併症を有しており, compromisedhostであった.分離されたMRSA7株はvancomycin, arbekacinには全株が感受性で, ペニシリン剤, セフェム剤, 他のアミノグリコシッド系薬剤には耐性であった.治療はVCM点滴静注, ニユーキノロン点眼剤が投与されて症状の改善をみた.MRSA眼感染症の現況と対策につき言及した.
著者
木津 純子 巨勢 典子 小林 洋一
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.44-50, 2005-03-15 (Released:2010-07-21)
参考文献数
16
被引用文献数
1

日局消毒用エタノールおよび香料添加消毒用エタノールをそれぞれ日局脱脂綿に含浸させた製剤を用い, 両薬剤の使用感と残存性を比較検討した.(1) 室温放置の質量測定で, 両製剤の残存性に差は認めなかった.(2) 医療器具 (ステンレスバット・プラスチックバット・輸液バック・ガラス輸液ボトル) の清拭について, 両薬剤を無作為に割付けた官能検査により, 外観への影響・べたつき感について清拭者, 直後の評価者, 60秒後の評価者とも両薬剤に有意差は認めなかった. 臭いの強さについては清拭者および60秒後の評価者においては差を認めなかったが, 直後の評価者における輸液バックとガラス輸液ボトル清拭直後の評価のみ, 香料添加消毒用エタノールの方が有意に強かった.(3) 皮膚消毒について, 両薬剤を無作為に割付けた官能検査により, 清拭者, 被清拭者とも清拭中の臭いの強さ, 10秒後の臭いの強さ, 臭いの好みにおいて差は認めなかった.(4) 手指消毒における使用感についてアンケート調査を実施した結果, 医療従事者は使用中の臭い, 10秒後の臭い, 臭いに関する好みに関して差を認めず, また職種による差も認めなかった. 学生では使用中および10秒後の臭いで香料添加消毒用エタノールの方に臭いを強く感じた者が多かったが, 臭いの好みには差を認めず, また性差も認めなかった.従って, 両薬剤の使用感・残存性について大きな差はなく, 香料添加消毒用エタノールは消毒用エタノールの代替として使用し得ることが示唆された.
著者
清水 正樹 田端 麻紀子 平石 徹 高田 利彦 疋田 宗生 石原 和幸 中川 種昭
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.155-161, 2006-09-28 (Released:2010-07-21)
参考文献数
12

In vitro歯周病関連菌biofilm形成モデルを構築し, 本モデルに対するポビドンヨード (PVP-I) を含む各種含嗽剤の殺菌力を検討した. ポリカーボネイトメンブレン (PCM) 上でActinobacillus actinomycetemcomitans Y4 (ATCC 43718) を単独培養することにより本菌biofilm像が, またA.actinomycetemcomitans Y4, Streptococcus oralis ATCC 10557およびFusobacterium nucleatum ATCC25586を混合培養することにより上記3菌種の混合biofilm像 (共凝集像) が観察され, 本歯周病関連菌biofilm形成モデルの構築が確認された.A. actinomycetemcomitansを1および3日培養することにより形成されたbiofilmに対して0.23%PVP-Iを3分間作用させた場合, 本菌の生菌数変化はそれぞれ-3.59および-3.39 (Δlog10CFU/mL) であり, 本菌biofilmに対するPVP-Iの殺菌力は0.02%塩化ベンゼトニウム (BEC) および0.002%グルコン酸クロルヘキシジン (CHG) と比較して強かった.また本菌biofilmに対して0.23%PVP-Iを1分間×3回/日繰返し作用させた場合, 5日目における本菌の生菌数変化はそれぞれ-4.85および-3.55 (Δlog10CFU/mL) であった.A.actinomycetemcomitans, S. oralisおよびF. nucleatumを1日混合培養することにより形成されたbiofilmに対して0.23%PVP-Iを3分間作用させた場合, 上記3菌種の生菌数変化はそれぞれ≦-3.00, -2.31および≦-1.50 (Δlog10CFU/mL) であり, 3菌種の混合biofilmに対するPVP-Iの殺菌力は0.02%BECあるいは0.002%CHGと比較して強かった. 以上, 歯周病関連菌biofilmに対してPVP-Iが有効であることが明らかとなった.
著者
矢野 久子 小林 寛伊
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.40-43, 1995-10-20
被引用文献数
8

病院感染防止対策のうえで, 手洗いの重要性が強調されているにもかかわらず十分な衛生学的手洗いが行われていないという指摘がある. 今回, 気管内吸引前後の看護婦の手洗い行動の観察と手指の細菌学的状態を調べた.<BR>126回の気管内吸引前後における手洗い行動の観察結果では, 吸引前後に手洗いを行ったのは1回 (0.8%) であった. 吸引前後に手洗いをしないで素手で吸引, または吸引に際して手袋の着脱をしなかったのは25回 (19.8%) であった. 観察した全手洗い時間の平均は5.6秒 (標準偏差3.1) であり, 手洗い行動の不十分な現状が明らかになった.<BR>吸引前, 直後の看護婦の手指からはmethicillin resistant <I>Staphylococcus aureus</I> (MRSA), <I>Serratia marcescens, Klebsiella pgumoniae</I>が検出された. 気管内吸引後, 8-12秒の4w/v%手洗い用クロルヘキシジンによる手洗いを行った後では, ほとんど細菌は検出されなかった.<BR>手洗いの不十分な現状とともに手洗いをまず行うことの重要性が明らかになった.
著者
志田 泰世 野口 久美子 金子 潤子 金沢 宏 吉川 博子
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.184-187, 2005-09-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
7
被引用文献数
5

平成15年12月30日, 新潟市民病院の神経内科と整形外科の混合病棟の入院患者47名中13名に下痢, 嘔吐の症状が出現した. 準夜勤務者 (3名) にも同様の症状が認められた. 病棟発生調査とおよび脱水症状の患者への治療が開始された. 出勤していないスタッフにも同様の症状が多いことがわかった. 緊急対策会議を開催し, 患者隔離・スタンダードプリコーションの徹底及び厳重な接触感染予防策が実施された. 胃腸炎の原因はノロウイルスであることが判明した. 1月8日には有症状患者は0となり, 10日患者の隔離解除・平常業務体制となった. ノロウイルス感染の症状は, 嘔吐69%, 下痢66%といわれ, 成人では下痢, 小児では嘔吐が多いとされている. そのため, ノロウイルスの主要感染ルートは, 糞口感染で, 高齢者ではおむつ交換時, 汚染された水や貝 (二枚貝) で, 時に飛沫による感染が推定されることから, 注意が必要である.
著者
粕田 晴之 福田 博一 林 和 相賀 美幸 島崎 則子 越智 芳江
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.132-135, 1999-05-20 (Released:2010-07-21)
参考文献数
28

本邦での手術時手洗いはスクラブ剤を使用したブラシングを中心に行われてきたが, この方法は皮膚を損傷するおそれのあることと手洗い時間が長いという欠点を有している.我々は, 先に看護婦を対象としグローブジュース法を用いて擦式エタノール薬を併用した短時間手洗い法の有用性について報告したが, 今回は医師を対象として検討した.手洗い前の片手当り手指生菌数が104cfu以上で, 「現行の手洗い法: 4%クロルヘキシジンを用い, 素洗いと3回のブラシングで計8分間の手洗い」と「新しい手洗い法: 4%クロルヘキシジンを用いた揉み洗い2回と爪周囲のブラシング1回, 0.2%クロルヘキシジン添加エタノール液を用いたラビング1回で計4分間の手洗い」を2回づつ実施できた外科系医師28名を対象とした.指数減少値からみた減菌効果が, 「現行の手洗い法」では手洗い直後および3時間後が1.49±0.66 (M±SD) および0.99±0.71であったのに対し, 「新しい手洗い法」ではそれぞれ1.61±0.55および1.44±0.52と高い値を示し, 3時間後では両者に有意差が認められた (p<0.05).「新しい手洗い法」は, 揉み洗い中心の短時間で簡便な方法であるにもかかわらず, 手洗い直後ばかりでなく, 手袋をして3時間後にも引き続き殺菌効果を持続する有用な手洗い法であることが示された.
著者
高橋 夕子 岡部 忠志 沖村 幸枝 本田 孝行 加藤 祐美子 川上 由行
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.270-274, 1999-11-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
23
被引用文献数
1

日常業務における看護婦の手の細菌汚染状況を調べ, ゲル状および液状アルコール性消毒剤の消毒効果について検討した. まず, 女性2名, 男性1名で消毒剤の消毒効果について検討した. 両消毒剤とも女性ではメーカ推奨量で十分な効果が得られた. 手の大きい男性では不十分であったが, 増量することにより十分な消毒効果が得られた. つぎに看護婦8名を対象とし, 引継ぎ, 検温, 清潔業務別に細菌汚染について検討した. どの業務においても看護婦の手は10種類以上の細菌に汚染されており, 水を使用する清潔業務において最も強い細菌汚染が認められた. 院内感染で問題となるMRSAや.Pseudomonas aeruginosa汚染も単発的に認められた.Bacillus属を除く細菌に対して液状消毒剤, ゲル状消毒剤共に良好な消毒効果が得られた. 医療従事者は常に自らの手が細菌に汚染されていると考えるべきであり, 患者に接する場合, 安価な液状消毒剤, ベッドサイドで使用できるゲル状消毒剤を使い分けることにより, ある程度院内感染を防ぐことが可能であると考えられた.
著者
森兼 啓太 小西 敏郎 阿部 哲夫 阿川 千一郎 西岡 みどり 谷村 久美 野口 浩恵 小林 寛伊
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.139-144, 2000-05-18
被引用文献数
7

消化器手術後の手術部位感染 (SSI) サーベイランスを米国のNNISシステムに従って施行した.対象は当科で9ヵ月間に施行された消化器外科開腹手術症例364例とした.感染制御チームを結成し, 巡回により基礎データを収集しSSIを拾い上げ, 外科医が創を観察しCDCの基準に従ってSSIか否かを判定した. 一方でCDCのSSI防止ガイドラインのうち現状を改善することが可能と思われる対策を講じ, 介入を行いつつサーベイランスを継続した.まず, 初めの4ヵ月間の創分類III, IV (汚染, 感染創) の症例ではそれぞれ9例中5例 (56%), 10例中9例 (90%) と高率にSSI発生を認め, 全体のSSI発生率に対する大きな撹乱因子となると考え, 以下の検討から除外した.創分類I, II (清潔, 準清潔創) の症例におけるSSI発生率は全体で35/323 (10.8%) であり, 術式別に分類しても, またrisk index score別にみてもNNISのデータより約3-5倍の高率であった.しかし, 米国では後期SSI発生症例を遺漏している可能性がある. 全例に術後30日のサーベイランスを遂行できた我々のデータとCDCのデータとの単純な比較はできないと思われた.サーベイランスの施行に並行して介入を行い, 主として抗生物質の術前投与が徹底された.しかし本研究期間内にSSI発生率の低下はみられなかった. 今後も継続的にサーベイランスを施行していく必要があると考えられた.
著者
高良 武博 大湾 知子 加藤 種一 上原 勝子 津波 浩子 佐久川 廣美 備瀬 敏子 久田 友治 新里 敬 健山 正男 比嘉 太 佐久川 廣 草野 信周 斎藤 厚
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.267-273, 2004-05-10
被引用文献数
13

MRSA分離患者が多かった病棟において, 看護行為前後の手指衛生行動としての手洗いと手指消毒を経時的に参与観察し, 接触伝播に対する防止対策を検討した.看護行為全体に対する直接看護行為の割合は46%で, 診療・治療の介助が16.2%, 排泄ケアが9.8%と高く, 手指衛生行動の実施率は排泄ケア前後が46.6%と最も高かった. それらの行為後では流水による手洗いが多く, 実施場所はナースステーションが多かった. 手指衛生行動の必要場面の実施率は行為前より行為後が高く, 診療・治療の介助前が12.5%, 介助後が30%, 排泄ケア前が11.1%, ケア後が55.6%であった. しかし, MRSA患者に対しては排泄ケア, 入浴介助時の手袋着用率は高いが, 取り外し後の手指衛生行動の実施率は低かった. 手指衛生行動の関連要因では, 直接看護行為後に必要な手指衛生行動の実施率は看護経験年数と正の相関を認めた. 以上の結果より, 手指衛生行動の教育・啓発活動としては, ケア前後及び手袋取り外し後の手指衛生行動の遵守強化, 連続看護行為時の手指消毒の推奨, 手洗い設備としては, 看護行為場所から手洗いシンクへの移動時の接触伝播防止として, 各病室の手洗いシンクへの石鹸やペーパータオルの設置が必要である. 今後, 手指衛生行動の評価には看護行為実践時の経時的観察が必要であり, 看護行為及び手指衛生行動を経時的かつ迅速に評価できる観察・評価表を考案した.