著者
岡本 耕平
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.23-42, 1998-02-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
183
被引用文献数
5 4

Behavioral geography, which started in the 1960s, had lost its impetus on account of internal division and various criticism from radicals and humanists in geography after about 1980. Because of its perceived lack of social relevance at a time when social issues had become the major focus of human geography, behavioral research was often relegated to a minor role within the discipline.Behavioral geography, however, has revitalized since 1990. This stems from two sources: the theoretical pluralism in post-modern geography and interdisciplinary studies with psychology, cognitive science, and GIS.This paper has three purposes. First, it outlines a history of behavioral geography and describes its revitalization in the 1990s. Second, the geographical studies on cognitive map and cognitive mapping, which has been the most important research theme in behavioral geography, are critically examined. Third, this paper pursues the future development of behavioral geography surveying the new ideas in recent psychology and examining the raison d'être of cognitive studies in human geography.In discussion, this paper makes the following pleas. 1) Behavioral studies in geography should look hard at routinized non-awareness activities in our daily lives in societal and cultural context. 2) The focus of the study should be on ‘behavior in space’, not on‘spatial behavior’, 3) The study on ‘vista’ will bring fertile perspectives to behavioral geography. 4) Behavioral geographers should notice that human spatial knowledge has various aspects.
著者
沈 念
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.113-133, 2020-01-25 (Released:2020-02-25)

本論はポストコロニアル理論を踏まえ、小栗康平の『伽倻子のために』翻案をめぐる従来の言説を分析し、これまで酷評されてきたこの作品における「美化」の問題が、実は欠点ではなく、あえて新しい表現を試みている証しであることを主張する。第1節では、従来の日本映画における在日朝鮮人に対する美化は、日本人/在日朝鮮人という二項対立を強調し、在日朝鮮人の受ける差別を批判しながら、在日朝鮮人のイメージを一般化している現象を考察する。さらに、このような傾向を風刺する大島渚の3作を例として、二項の概念を抹消しようとしても、自らの優位に立つ日本人としての立場を認識しなければ、本質的に二項対立を打破できないと指摘する。それに対して、『伽倻子のために』の美化はそれほど単純なものではないと主張する。映画は原作におけるハイブリディティの人物設定を敷衍し、男女主人公の人物像と人物関係を美化することによって、「不純な」二人の恋が持つ象徴的な意味を増幅し、従来の二項対立に対抗していると、第2節では論証する。そして第3節で、李恢成の文学世界を翻案する手法は、本作の主人公相俊を李恢成の他作における人物たちと緩やかな結びでつなげていることを考察する。この緩やかな結びは在日朝鮮人全体を少数の在日朝鮮人で代表するような表象を回避していると主張する。最後に、『伽倻子のために』における子供時代の挿入シーンを分析し、これは在日朝鮮人を代弁するのではなく、彼らに語らせる手法であると、第4節で論証する。さらに、この手法は内部と外部の異質を受け入れ、その共存をはかる試みともいえると結論づける。
著者
松本 ますみ
出版者
Japan Association for Middle East Studies (JAMES)
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.147-171, 2005-09-30 (Released:2018-03-30)

中国ムスリムに対するキリスト教宣教は、19-20世紀半ば、福音主義宣教会の中では大きな課題となった。中国のムスリム人口は当時3000万人とも言われ、インドについで第2位といわれた。植民地主義の時代、他地域のムスリムの大多数が西欧の支配下、すなわち、「キリスト教徒の支配者」の下にあったが、「異教徒」の政権下の中国ムスリムは、福音から最も遠いという点において「問題」であると考えられた。植民地主義がピークに達した1910年のエジンバラ世界宣教会議以降、中国ムスリムに対する宣教も本格化、さまざまなパンフレット、宣伝文書、ポスターの作成が行なわれた。それに対し、ムスリム側も、論駁書、啓蒙書の発行、学校設立などイスラーム復興に着手して対抗を図った。ただ、両者の対立が深刻化しなかったのは、多文化多宗教の共存を旨とする中国ムスリム側の伝統による所が大きい。また、宣教師にもイスラームに深い共感を示した者が存在したことも大きい。
著者
野矢 茂樹
出版者
日本科学哲学会
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.47-58, 2004

Fatalism or logical determinism says that the future is determined on a very logical ground. In this paper, examining the fatalist argument critically, I am going to show how we can avoid the fatalist thesis. Aristotle discussed this problem and came to the conclusion that some statements about the future are neither true nor false. Following his suggestion, I farther claim that the future does not exist. That is the reason why any proper name included in a statement about the future has no referent. Therefore, as Aristotle said, statements about the future have no truth value. In the latter half of this paper, I will consider some problems with my claim what does a statement about the future mean and how is the past related to the present?
著者
林屋 辰三郎
出版者
青木書店
雑誌
歴史学研究 (ISSN:03869237)
巻号頁・発行日
no.164, pp.50-52, 1953-04
著者
新井 克弥 Katsuya ARAI
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 2004-03-20

大平健著『やさしさの精神病理』(岩波新書、95)のテクスト・クリティーク。精神科医、大平は、患者との対応の中から、70年代以降、新しい意味を持ったやさしさ=ヤサシサが出現したと指摘する。70年代、やさしさはモノや人個々の性質をあらわす用語から、他者との連帯を志向することばとなったのである。当初、それは、ことばを介した他者介入型の「やさしさ」として出現するが、80年代に入り、”沈黙”を原則とする相互非介入型の”やさしさ”へと転じていく。すなわち、相手の気持ちを察し、相手と同じ気持ちになってメッセージを共有するスタイルから、相手の領域に入り込まないように気づかい、空間を共有するスタイルへの変容である。本稿ではこのような大平の指摘する新しい”やさしさ”を、情報化社会・グローバル化社会におけるコミュニケーションの新しいスタイルと捉え、その可能性について、中野収のカプセル人間論、およびN.ルーマンのダブル・コンティンジェンシー理論を援用しながら考察。その社会的適応性を評価し、解り合えないことを了解し合うコミュニケーション、および共鳴・共振だけで結ばれるコミュニケーションの重要性を説いた。
著者
単 援朝
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.111-124, 2002-02-28

本稿は芥川龍之介「湖南の扇」をめぐって、作品の構築における体験と虚構化の働きを検証しつつ、玉蘭の物語を中心に作品の成立と方法を探り、さらに魯迅の「薬」との対比を通じて作品の位相を考えるものである。結論としては、「湖南の扇」は、作品世界の構築に作者の中国旅行の体験や見聞が生かされていつつも、基本的に体験の再構成を含む虚構化の方法による小説にほかならない。作品のモチーフは冒頭の命題というよりクライマックスのシーンにあり、作品世界は「美しい歯にビスケットの一片」という、作者の原光景ともいえる構図を原点に形成され、虚構の「事件」が体験的現実として描かれているところに作品の方法があるが、作品の「出来損なひ」はこの方法に起因するものであるといわざるをえない。そして、魯迅「薬」との対比を通じてみると、「迷信」として批判されるはずの人血饅頭の話をロマンチックな物語、「情熱の女」の神話に作り替えられたところに、芥川のロマンチシズムへの志向と「支那」的生命力に寄せる憧れが見て取れる。
著者
六沢 一昭 渡邉 彰吾
出版者
一般社団法人 人工知能学会
巻号頁・発行日
pp.4Rin117, 2019 (Released:2019-06-01)

本論文は, プログラムの静的特性を楽曲で表現する可聴化システムの開発とプログラミング支援への応用について述べたものである. ソフトウェアの品質向上を図るためソースコードの静的解析が行われている. 様々な静的解析ツールによる解析結果は画面に出力される(可視化). そこで本研究では音への出力(可聴化)を試みる. 可聴化することでマルチタスクや視覚障害者支援ツールとしての利用が期待できる. 単なる音の羅列や同じリズムパターンによる可聴化は飽きやすいといった問題がある. そこで本研究では自然な楽曲による可聴化を試みる. 自然な楽曲にすることで飽きやすさの改善が期待できる. 本システムはプログラムの1行を1小節として楽曲を生成する. ネストの変化や制御構造, 1行の複雑さなどからコード進行や伴奏, リズムなどを決定する. ソースコードの静的解析はコーディング規約違反に着目する. 本研究ではコーディング規約違反箇所を不協和音で表現する. 学生20名に本可聴化システムを用いて規約違反箇所の検出及び改修を行ってもらった. その結果, 本システムによって検出が容易となったため, 静的解析結果の可聴化の有効性が示された.
著者
塘添 敏文
出版者
亜細亜大学教養部
雑誌
亜細亜大学教養部紀要
巻号頁・発行日
vol.4, pp.138-122, 1969
著者
畑江,敬子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, 2012-04-05

煮物の味は冷めるときにしみ込むという言い伝えを検証するために,ジャガイモ,ダイコン,コンニャクを2cm角の立方体に成形し,1%食塩水中で食べられる軟らかさまで加熱後,0, 30, 50, 80, 95℃で90分まで保温し,30分後と90分後に外層部と内層部の食塩濃度を測定した。温度降下条件を各設定温度に試料を加熱した鍋のまま移す緩慢条件と,氷水に鍋をつけて設定温度まで下げた後保温する急速条件の2種とした。いずれの条件でも,保温温度が高いほど,食塩の内部への拡散は犬さく,このことは官能評価でも確認された。これらの結果から冷めるときに味がしみ込むということは見いだせなかった。ソレ効果についても検討したが,ソレ効果で煮物の調味料の拡散を説明することはできないことがわかった。冷めるときに味がしみ込むというのは,冷める時間に調味料が内部へ拡散することを言っているのではないかと考えられる。
著者
Hiroki Oohashi Sadao Hiroya Takemi Mochida
出版者
ACOUSTICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
Acoustical Science and Technology (ISSN:13463969)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.478-488, 2015 (Released:2015-11-01)
参考文献数
22
被引用文献数
1 4

This paper presents a real-time robust formant tracking system for speech using a real-time phase equalization-based autoregressive exogenous model (PEAR) with electroglottography (EGG). Although linear predictive coding (LPC) analysis is a popular method for estimating formant frequencies, it is known that the estimation accuracy for speech with high fundamental frequency F0 would be degraded since the harmonic structure of the glottal source spectrum deviates more from the Gaussian noise assumption in LPC as its F0 increases. In contrast, PEAR, which employs phase equalization and LPC with an impulse train as the glottal source signals, estimates formant frequencies robustly even for speech with high F0. However, PEAR requires higher computational complexity than LPC. In this study, to reduce this computational complexity, a novel formulation of PEAR was derived, which enabled us to implement PEAR for a real-time robust formant tracking system. In addition, since PEAR requires timings of glottal closures, a stable detection method using EGG was devised. We developed the real-time system on a digital signal processor and showed that, for both the synthesized and natural vowels, the proposed method can estimate formant frequencies more robustly than LPC against a wider range of F0.