著者
調 恒明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.37-42, 2016-01-15

地方衛生研究所は保健所と異なり,地域保健法そのものには規定されておらず,厚生労働省が発出した設置要綱でその役割が示されている.厚生労働省が策定する「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」および各種の特定感染症予防指針などに地方衛生研究所の果たす役割が明確に規定されていることから,厚生労働省は地方自治体に地方衛生研究所が機能していることを前提として施策を決定していることは明らかである. 一方,地方自治体には地方衛生研究所の法的設置義務はなく,業務内容に関する法規定がないため基本的に地方衛生研究所のあり方は自治体の裁量に委ねられている.法的縛りがなく,財政を担当する行政職員にとって重要性が分かりにくい地方衛生研究所は,近年の地方分権と地方自治体の予算の困窮により,人員,予算削減のターゲットとなっており,本来備えるべき検査機能さえ維持することが危ぶまれる自治体も存在すると思われる.
著者
中村 幸代 堀内 成子 柳井 晴夫
出版者
日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.3-12, 2013-12-20

要旨 目的:冷え症の妊婦と,そうではない妊婦での,微弱陣痛および遷延分娩の発生率の相違の分析および,因果効果の推定を行うことである. 方法:研究デザインは後向きコホート研究である.調査期間は2009年10月19日〜2010年10月8日までの12ヵ月であり,病院に入院中の分娩後の女性2,540名を分析の対象とした(回収率60.8%).調査方法は,質問紙調査と医療記録からのデータ抽出である.分析では,共分散分析と層別解析にて傾向スコアを用いて交絡因子の調整を行った. 結果:冷え症であった女性は41.9%であった.微弱陣痛では,冷え症の回帰係数0.69,p<0.001,オッズ比2.00であった(共分散分析).遷延分娩では,冷え症の回帰係数0.83,p<0.001,オッズ比2.38であった(共分散分析). 結論:微弱陣痛では,冷え症である妊婦の微弱陣痛発生率の割合は,冷え症ではない妊婦に比べ,2倍であり,遷延分娩では約2.3倍であった.因果効果の推定では,冷え症と微弱陣痛ならびに遷延分娩の間で因果効果の可能性があることが推定された.
著者
玉木 信
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.225-228, 2011-03-20

2007年12月から2009年7月まで当院を受診し新規に診断された慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)49名(ⅢA9名,ⅢB40名)に,ノイロトロピン16単位を2分割にて連日内服投与した。ノイロトロピン投与2週間後,6週間後でNIH-国際前立腺炎症状インデックス(NIH-CPSI)を用い効果を検討した。その結果,痛み・不快感,排尿症状,生活の質(QOL)の各項目において有意な改善が認められた。また3項目の総点も有意に改善され,治療への有用性が示された。なお全例で副作用を認めなかった。本報告は同剤の慢性前立腺炎への初の有効性報告である。
著者
郡山 純子 柴原 浩章 鈴木 光明
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.846-851, 2010-05-10

はじめに 1978年に英国のSteptoeとEdwards 1)が世界で初めて体外受精・胚移植(in vitro fertilization-embryo transfer : IVF─ET)の成功を報告し,その後1992年にベルギーのPalermoら2)が受精障害を伴う重症男性不妊症を対象とする卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection : ICSI)に成功した.これらの生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)は難治性不妊症に対する最終的な治療法として位置づけられ,広く一般に普及するに至っている. 一般にARTにおいては,調節卵巣刺激(controlled ovarian stimulation : COS)を行い,至適範囲内で複数の卵子を採取し,媒精後得られた受精卵の中から,良好胚を選択し移植を行う.また受精卵を凍結保存する場合も,一般に良好胚のほうが生存率・着床率とも高く,良好胚の選択は不可欠である. 従来は受精後2~3日目の初期胚の形態学的評価法が一般的であった.最近では初期胚を連続的かつ非侵襲的に長期間観察可能な体外培養装置を用いて,ヒト胚の発生過程の動的解析(time-lapse cinematography : TLC)が可能になり,静止画像からでは解析できなかった新たな知見を認めている3).一方,胚発生に問題の少ないと考えられる良好胚移植後の反復不成功例では,hatching障害による着床障害がその一因と考えられる.われわれは,抗透明帯抗体の検出法を確立し,抗透明帯抗体による不妊発症機序の解明,ならびに抗体の生物活性の多様性を報告してきた4). 本稿では,卵子・受精卵・透明帯の評価法について記述し,着床障害となる卵側の問題点について述べる(表1).
著者
金村 在哲 西川 哲夫 松原 伸明 日野 高睦 冨田 佳孝 三谷 誠 原田 俊彦 井口 哲弘
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.211-214, 2000-02-25

抄録: 潰瘍性大腸炎に破壊性の股関節炎を合併した1例を経験した.症例は33歳の女性で,12歳時より腹痛と下痢を主訴に潰瘍性大腸炎の診断にて加療を受けていたが,翌年より腹部症状の増悪時には膝,肘および股関節の移動性,一過性の疼痛を自覚していた.31歳時より右股関節痛が増強し,保存的治療を受けたが症状の軽快はなく,X線像上も関節破壊の進行を認めたため,右股関節に対して双極性人工骨頭置換術を施行した.術後経過は良好で疼痛は消失している. 潰瘍性大腸炎では種々の腸管外合併症が認められているが,その中でも脊椎および関節症状は血清反応陰性脊椎関節症の範疇に属している.その特徴は急性に発症し,一過性,移動性に生じるびらん性変化を伴わない非破壊性の関節炎とされている.自験例では破壊性の股関節炎を合併し,観血的治療にまで至った稀な1例であり,人工骨頭置換術を施行し良好な結果を得た.
著者
山口 真奈子 石黒 竜也 榎本 隆之
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.412-416, 2018-04-20

がん検診のポイント❖わが国の子宮頸がん検診受診率は低く,平均で50%未満である.❖細胞診単独検診では感度の低さに留意する必要があり,特に腺癌は扁平上皮癌よりも細胞診で偽陰性となりやすい.❖世界ではHPV検査単独または細胞診との併用検査でのスクリーニングに移行しつつある.
著者
北川 翔 鈴木 勉
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.392-393, 2018-10-15

シュードウリジン(Ψ)は,ウリジンが異性体化された構造を持つRNA修飾で,様々なノンコーディングRNA(ncRNA)やmRNAに広く存在することから,しばしば第5の塩基とも呼ばれる。ΨはRNA鎖のリン酸ジエステル骨格の安定化や,塩基対合を強化する役割が知られている。Ψ修飾酵素の変異はしばしばRNAの機能異常を引き起こし,X染色体連鎖先天性角化不全症(X-DC)や,鉄芽球性貧血を伴うミトコンドリアミオパチー(MLASA)などの疾患の原因となる。
著者
大日向 雅美
出版者
医学書院
雑誌
助産婦雑誌 (ISSN:00471836)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.749-753, 2001-09-25

はじめに 「子どもが小さいうち,とりわけ3歳までは母親が育児に専念すべきだ」という考え方は,子育ての真髄をあらわしているとして人々の間で長く信奉されてきた。その子育て観が近年,大きく揺らいでいる。1998年版『厚生白書』によって合理的根拠のない神話と断定されて話題となったのは記憶に新しい。しかし,依然として「3歳までは母親の手で育てるのが最適」という子育て観が根強く残っていて,出産や育児に専念するために仕事を辞める女性が少なくない。また,いじめや非行の凶悪化等,最近の子どもの成長の過程をみると正常とはいえない歪みを示す現象が目立つことから,乳幼児期の母子関係の重要性を再評価すべきだという論調も一部で強まっている。この立場に立つ主張は,幼少期に母親が育児に専念する重要性は古来普遍の真理であり,何よりも尊重すべきであって,それを神話とみなすような態度が昨今の子育てを歪めている元凶だという。 しかし,このように乳幼児期の育児を専ら母親一人で担うように主張する考え方は,歴史的にみれば大正期の資本主義の勃興期にルーツがあるのである。都市型の労働力を確保するための社会的・経済的要請に基づく性別役割分業体制を支えるイデオロギーであったにすぎない。そもそも子育ては現在の社会のあり方を反映するものであり,同時に未来の社会のあり方に対する要望に敏感に反応するものである。今,なぜ三歳児神話が問い直されるのか,時代が要請しているものは何かを明確にした議論が必要であろう。
著者
藤澤 茂義
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.36-39, 2020-02-15

海馬はエピソード記憶や空間記憶などをつかさどる脳部位である。睡眠はその記憶形成や固定化などに重要な役割を果たしていると考えられているが,その神経回路メカニズムについては不明な点が多い。神経生理学的にみると,動物が覚醒し活動的な状態と,睡眠中や安静にしている状態とでは,神経細胞の活動パターンは大きく異なる(図1)。海馬では,覚醒活動時ではシータ波(4-10Hz)と呼ばれる脳波が強く観察され,神経細胞はこの周波数で同期して活動している1)。一方,安静時や徐波睡眠時では,リップル波(ripple oscillation)と呼ばれる150-250Hzの脳波が観測される2)。リップル波は,鋭波(sharp wave)と呼ばれる1Hz程度の大きな振幅を持つ脳波に重畳されて発生するため,鋭波リップル(sharp wave-ripple;SWR)と呼ばれることもある。安静時・徐波睡眠時でも,やはり神経細胞はこのリップル波に強く同期して活動することが知られている。 このように,海馬ネットワークは大きく分けて2種類の全く異なる周波数帯域の活動パターンを持つため,それぞれの活動状態によって異なった情報処理がなされているのではないかと考えられてきた(海馬2ステージモデル)3)。本稿では,この安静時や睡眠時に特徴的なリップル波の活動が,記憶の形成や固定化においてどのような役割を果たしているかについて考察していきたい。