著者
伊藤 英之 角野 秀一 辻 盛生 市川 星磨 高崎 史彦 成田 晋也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

近年,宇宙線ミュオンを用いた火山体内部の透視技術が確立され,浅間山,薩摩硫黄島などで成果を出している(Tanaka, et.al 2008).我々は,岩手山山頂から約6km東麓に位置している国立岩手山青少年交流の家にミュオン測定機を設置し,2016年10月14日より観測を実施している.合わせて,岩手山起源の湧水の化学組成について連続観測を行い,ミュオグラフィーから得られる山体内部構造のイメージングとあわせ,火山体内部の深部地下水流動系の解明を目指している.現在のデータの取得状況は安定しており,二次元の簡易イメージは得られている状況にある.しかしながら,測定から得られる山の密度長は実際の山の厚さとはかけ離れた値を示しており,電磁シャワーや周囲からの散乱によって入ってきたミュオンによる影響が大きい.一方,数値地図火山標高10mメッシュを用いて,実測密度長と地形データの距離との比を取り,密度分布にすると,北側と南側で濃淡が異なってくることから,今後はバックグラウンドを仮定して,山体の密度分布を把握していく予定である.一方,湧水の化学組成から,岩手山麓の湧水の多くはCa(HCO3)2型であるが,北麓の金沢湧水と北東麓の生出湧水では,Ca(HCO3)2に加えSO42-の濃度が高い.これらの湧水についてトリチウム年代を測定したところ,13.9~23.5年の値が得られた.特に生出,金沢湧水については,それぞれ19.4年,23.5年の測定値が得られ,1998~2003年岩手山噴火危機の頃に涵養された地下水が今後湧出してくる可能性が示唆された.
著者
高橋 諒 蓑田 和麻 舛田 明寛 石川 信行
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

カスタマーとクライアントのマッチングビジネスを展開するリクルートでは、クライアントの情報をカスタマーに伝達するために日々大量の原稿が作成されている。本論文では、機械学習を用いてそれらの原稿の誤字脱字を検出する方法を提案する。このシステムは主に2つのパートで成り立っている。1つは複数のBidirectional LSTMを用いて各文字に対して誤りがないかの確率を算出するパート。もう一つはそれらの出力値を入力として、文全体で誤りがあるかないかを判定するランダムフォレストアルゴリズムである。この方法の有効性を示すために人工で作成した文と我々のサービスで持つ実データを用いて検証を行った。
著者
齋藤 遥香 鈴木 洋佑 市川 由唯 宮下 絵美里
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-05-10

福島県いわき市には「風と坊主は十時から」という言い伝えがある。しかし、本校の1,2年生640名にアンケートを取ったところ10名しか知っている人がいなかった。そこで実際にこのことわざは信頼性があるのか、そして本当に風が10時から吹くのかを検証した。また風が吹くということが、風が吹き始めることと風が急に強くなることのどちらを指すのかを検討した。 まず、気象庁の過去20年分の午前6時から12時の風速と風向のデータを天候別と季節別に統計した。観測地点はいわき市を含む福島県沿岸部の2地点と内陸の計4地点に設定し、吹き始めと風速の変化の大きい時間を調べた。人が風を感じる風速3.0m/sを初めて超えた時間帯を風の吹き始めとし、また、風速3.0m/sを超えた中で1時間の風速の変化量が最も大きい時間帯を風速の変化量とした。本研究では、この2つのデータと、その時観測された風の向きを統計の対象とした。 その結果、沿岸部のいわき市小名浜と相馬市では、吹き始め・変化量のどちらにおいても10時から風が吹くことが多く、特に春と夏は風速の変化量が最大になる時間帯が10時より早かった。風向きに関しては、夏は海側からの風が、冬は北西よりの風が多くみられた。このことから、春と夏に小名浜や相馬市で10時より早い時間帯に吹く風は海風であると考察した。一方で内陸に位置する福島市と会津若松市では、吹き始め・変化量どちらにおいても一年を通しておおむね10時より遅い時間帯に多く吹くことが分かった。風向きに関して、夏は北東、それ以外の季節では北西か西北西の風が多かった。 沿岸地域で風速の変化量が大きくなる時間帯が夏に早くなる原因が海風にあることを確証づけるため海風を模擬的に起こす実験を行った。まず水槽に水と砂を配置し、その間に風を可視化するため線香を置いた。そして熱を発する500Wのハロゲンライトで砂と水を温め、海陸風を発生させた。また温める前の砂と水の温度はどちらも10℃にして、実際の海水温と気温の変化と実験の結果を比較するため、水の温度と砂の温度を測定した。この実験を6回行った。風が吹き始めたというのは、上昇気流が砂の上で生じた時とした。実験から、風が生じたのは砂と水の温度差が平均して5.216℃の時だった。その条件に当てはまる気温と海水温の時間帯を調べたところ、8時と9時の割合が高かった。このことから、夏の8時に風速の変化量が大きかった理由が海風の影響を受けたためであると推測した。 このことから、福島県いわき市小名浜ではこの言い伝えがおおむね適用できるということが分かった。
著者
則武良英 武井裕子# 寺崎正治# 門田昌子# 竹内いつ子# 湯澤正通
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

問題と目的 プレッシャーとは課題遂行者の遂行成績の重要性を高める要因であり (Baumeister, 1984),ワーキングメモリ (以下WM) の働きを阻害することで,課題成績低下を引き起こす (則武他,2017)。そのためプレッシャーの影響を緩和する介入が求められる。Ramirez & Beilock (2011) は,筆記開示を短期的に使用し,高プレッシャー状況下での算数課題成績低下の緩和効果があることを示した。その緩和効果の背景として,認知的再体制化によってネガティブな情動が低減され,WMへの影響が緩和されたとされている。しかし,実際にWMへの影響が緩和されたのかどうかについては未解明である。そこで本研究の第1の目的は,プレッシャーにより引き起こされたWM課題成績低下に対する筆記開示の効果を調べることである。 他方で,筆記開示には情動を一時的にネガティブにさせる可能性が指摘されている (King & Minner, 2000)。そこで本研究では,ポジティブな感情を扱い,明示的に認知的再体制化を促進する利益焦点化筆記開示(Benefit-Focused writing: 以下BFW) (Facchin et al., 2013)の効果を調べることを第2の目的とする。BFWと区別するために,通常の筆記開示を情動暴露筆記開示(Emotional disclosure writing;以下EDW)と呼称する。方 法実験参加者: 大学生61名(EDW群20名,BFW群21名,統制群20名)を対象とした。課題:言語性WM課題として,図形の計数を記名・再生するCounting span(Conway et al., 2005)を使用した。視空間性WM課題として,反転・回転したアルファベットの方向を記名・再生するSpatial span (Shah & Miyake, 1999)を使用した。質問紙:主観的プレッシャーの程度を測定するために,大学生用日本語版The State-Trait Anxiety Inventoryの状態不安指標(清水・今栄, 1981)と,主観的プレッシャー指標(DeCaro et al. (2010)を使用した。筆記開示:EDW群は高プレッシャー状況下で課題に取り組むこと関する思考や感情を自由に筆記した。BFW群は高プレッシャー状況下で課題に取り組むことに関するポジティブな側面だけを筆記した。統制群は実験後の予定を,感情を交えずに筆記した。 手続き:全ての実験参加者は,プレ条件で言語・視空間性WM課題の遂行と,各WM課題の遂行前に状態不安指標,遂行後に主観的プレッシャー指標に回答した。プレ条件終了後に,プレッシャーシナリオ (DeCaro et al., 2010) ((1)プレ条件と比較して,ポスト条件の課題成績が20%以上向上した場合のみ報酬が得られる。(2)ペアが設定されており,自分とペアの両方が(1)の条件を達成すると追加報酬が得られ,ペアは既に(1)を達成している。(3)遂行の様子をビデオカメラで撮影し映像は分析される)が提示された。その後,実験参加者は各群の筆記開示を7分間行った。ポスト条件ではプレ条件と同様に,WM課題の遂行と質問紙の回答をした。結 果 言語性WM課題得点を従属変数として,ブロック (プレ・ポスト)×グループ (EDW群・BFW群・統制群) の2要因の分散分析を実施した結果,交互作用が有意であった (F (2, 58) = 7.49, p < .01)。単純主効果検定の結果,EDW群 (F (1, 58) = 4.42, p < .05) とBFW群 (F (1, 58) = 27.49, p < .01) でブロックの単純主効果が有意であった。統制群では統計的に有意な差は示されなかった。視空間性WM課題得点を従属変数として,ブロック×グループの2要因の分散分析を実施した結果,交互作用が有意であった (F (2, 58) = 18.82, p < .01)。単純主効果検定の結果,EDW群(F (1, 58) = 13.86, p < .01)とBFW群 (F (1, 58) = 8.27, p < .01) と統制群(F (1, 58) = 17.54, p < .01)でブロックの単純主効果が有意であった。 状態不安指標得点と主観的プレッシャー指標得点を従属変数とするブロック×グループの2要因の分散分析を実施した結果,有意な交互作用はみられなかった。考 察 EDWとBFWはプレッシャーが引き起こすWM課題成績低下の影響を緩和することが示された。今後の課題として,主観的プレッシャーの測定方法の改善,認知的再体制化の程度の測定が挙げられる。
著者
大澤 拓未 山本 伸次
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

マントル内部物資循環において海洋地殻、大陸地殻が海洋プレート沈み込みによりマントル内へリサイクルし、マントル対流を通して地殻物質がマントル内に混染している可能性が指摘されているW.Xu et al.,(2008)。しかしその実態は不明であり、マントル-地殻鉱物大循環の解明のためリサイクル地殻鉱物を用いた物質科学的制約が急務である。北海道日高山脈に位置するマントル由来造山帯かんらん岩の幌満かんらん岩は蛇紋岩化していない新鮮なかんらん岩として知られ、メルトマントル反応による交代作用からレールゾライト、ハルツバージャイトの顕著な層序構造を示す。近年、Li et al.,(2017)により幌満かんらん岩からジルコンやルチル、低い炭素同位体比を有するダイヤモンドの産出が報告されており、幌満かんらん岩中に地殻由来鉱物が存在することが示唆されている。しかし問題点としてかんらん岩中の地殻鉱物は回収例が少なく、その起源に関しても不明確であるため、かんらん岩中に残存する地殻鉱物分離技術の改善・分離回収された鉱物の記載を目的とする。本研究では、東邦オリビン工業(株)の採石場より採取したかんらん岩試料、ハルツバージャイト 764㎏、レールゾライト 954㎏、それぞれを板状に切断し移送したものを用いた。ジョークラッシャーおよび連続式粉砕機を用いて0、1㎜大まで粉砕した後、粒度分離、比重分離、磁選処理を行い、ハンドピッキングおよびエポキシ樹脂への包埋、研磨を行った。レールゾライト内からジルコン6粒、ルチル(TiO₂) 1粒が回収された。一方で、ハルツバージャイト内から非磁性鉱物を濃集させた粒子を樹脂に包埋し、EPMA(YNU機器分析評価センター)を用いた鉱物探査・鉱物同定を行った結果、コランダム(Al₂O₃) 12粒が分離回収され、包有物および付着鉱物が共生している様子が観察された。コランダム6粒子のSEM-EDS分析から、これらは①Si-Al-Kに富む珪酸塩相 ②Ti-Zr酸化物 ③Si-Ti合金 からなる包有物が確認された。Morishita et al.,(1998; 2000)より幌満かんらん岩体ポンサヌシベツ川流域のハンレイ岩転石中から微量のCrを含むコランダムの産出が報告されている。本研究で得られたコランダムは、①Crがほぼ含まれない、②TiO2を最大で2.3 wt%程度含む、③Ti-Zr酸化物やSi-Ti合金といった特異な包有物を含む事などから異なる起源のコランダムであることが考えられる。世界中のコランダムの産出を比較した結果(Griffine et al.,2016; 2018)よりイスラエルMt.Carmelのアルカリ玄武岩由来捕獲鉱物中コランダム内に特異な包有物として(Ti-Zr酸化物、Si-Ti合金)が報告されている。また高いTiO2濃度(最大2,6wt%)、捕獲結晶としてダイヤモンドの産出も報告され、リサイクル海洋地殻玄武岩由来であると考えられている。以上より本研究で幌満ハルツバージャイトから分離回収されたコランダムとGriffine et al.,(2016; 2018)で報告されたコランダムは組成も共存鉱物も非常に類似していることから同様の起源を持つことを意味し、幌満ハルツバージャイト中コランダムもリサイクル海洋地殻由来コランダムであり、幌満かんらん岩中に鉱物レベルで地殻鉱物が存在することを示唆する。引用文献Griffin1,William L. (2016) “Deep-earth methane and mantle dynamics: insights from northern Israel, southern Tibet and Kamchatka,” JOURNAL & PROCEEDINGS OF THE ROYAL SOCIETY OF NEW SOUTH WALES, VOL. 149,PARTS 1 & 2, 2016, PP. 17-33Yibing Li. The mineralogical and chronological evidences of subducted continent material in deep mantle: diamond, zircon and rutile separated from the Horoman peridotite of Japan. AGU. FALL MEETING 2017. AGU Contact Technical Support AGU Privacy Policy. https://agu.confex.com/agu/fm17/meetingapp.cgi/Paper/222963 [2019/02/19].Morishita, T., 1998, ”finding of corundum-bearing gabbro boulder possibly derived from the Horoman Peridotitie complex, Hokkaido, northern Japan, ”JOURNAL OF MINERALOGY, PETROLOGY AND ECONOMIC GEOLOGY, 93(2), 52-63.
著者
近藤 瑠歩 山川 俊輔 増岡 優美 田島 伸 旭 良司
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

本研究では,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて材料の物性予測に必要な特徴を微視組織から自動的に抽出することを試みた.まず,実験で得られた電子顕微鏡像およびイオン伝導度を訓練データとして用いてCNNを訓練した.次に,訓練後のCNNに電子顕微鏡像を入力した際のGlobal Average Pooling(GAP)レイヤー直後の発火と,与えた電子顕微鏡像の教師データ(イオン伝導度)との相関を調べ,正(負)の相関のあるものを高(低)イオン伝導体に特有の特徴と定義した.それぞれの特徴のGAP適用前の特徴マップを比較したところ,結晶欠陥の少ない領域および径の大きなボイドが高イオン伝導体に特有の特徴であり,径の小さなボイドが低イオン伝導体に特有の特徴であることが分かった.この知見は材料技術者の持つ知識と一致しており,CNNによる特徴の自動抽出が有効であることを示すことができた.
著者
池田 敦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

温暖湿潤な日本列島において,永久凍土がまとまって分布しうるのが富士山と大雪山である。富士山ではひときわ高い標高が,大雪山ではより高緯度にあって標高2000 m前後の山頂部が台地状に広がることが,永久凍土を分布させやすくしている。一方,日本アルプスの高峰でも,地表面付近の地温から永久凍土の存在が示唆され,実際に飛驒山脈立山の1点では永久凍土が直接確認された。そのため,そうした山脈の山頂高度はちょうど永久凍土帯の下限付近に位置すると解釈されてきた。ところが2000年代末から,富士山の永久凍土とその周辺の地温を網羅的に観測しはじめたところ,1970年代の記念碑的論文が想定したよりも,また同等の気温をもつ国外の山域に比べても,富士山ははるかに永久凍土が存在しにくい環境であることが明らかになった。その結果をもとに,ここでは従来ごく限られたデータから論じられてきた日本列島の永久凍土環境について見直すこととする。 富士山では秋季に地温が特異的な急上昇をする場所が多く,その誘因は降雨であり,その素因は雨水を浸透させやすい火山砂礫層であった。一般に季節的な凍結融解層では,熱伝導が地温をほぼ支配する。しかし,富士山では移流的な熱の移動が顕著に加わるため,表層の地温勾配が極端に大きく,地表面に比べ永久凍土上端(深さ約1 m)の年平均地温が約1℃高い。永久凍土が存在しない地点の地温勾配はさらに大きく,深さ2 mの年平均地温は地表より3~5℃高い。こうした場所において,地表付近の地温を従来の知見に参照させるだけでは,永久凍土分布を過大評価してしまう。これまで日本アルプスで永久凍土が表層地温から示唆されたところは,透水性のよい岩塊地が多い。そこでは深さ2 mの年平均地温を従来の見積もりよりも3℃は高く想定すべきで,そうすると日本アルプスでは永久凍土がほとんど現存しないことになる。立山で確認された永久凍土は,8月まで残存する積雪が降雨浸透を妨げる場所で観察されており,気候的な代表性をもつ永久凍土帯下限の証拠ではなく,極端に不均一な積雪分布を反映した非成帯的な永久凍土と理解する方がよいだろう。一方,台風や秋霖の影響をほとんど受けない大雪山では,おそらく永久凍土が富士山より高い気温のもとでも存在している。つまり,日本列島では気温の南北傾度に比べて,永久凍土帯下限の南北傾度が大きい。今後,仮に気候変化により,大雪山が台風や秋霖の影響を受けやすくなれば,それに応じて永久凍土が縮小に転じると考えられる。
著者
朴 柄宣 居林 香奈枝 松下 光範
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

本研究では,キャラクタの性格に基づいたコミック検索支援システムの実現の端緒として,エゴグラムを用いたキャラクタ性格分類を試みる.現状のコミック検索システムでは,コミックの内容情報に基づいた検索が困難である.そこで,Web 上のリソースから抽出したデータを用いて,エゴグラムに基づくキャラクタの性格分析手法をについて提案する.提案手法では,性格を表す語にエゴグラムの自我状態を基底とするベクトルを付与し,そのベクトルの値によって,キャラクタの性格を分類する.実験により,本手法のキャラクタ分類精度は 55.0% を示した.
著者
蛯名正司 小野耕一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

問題と目的 内包量は性質の強さを表す数量概念であり,その特徴の一つに非加法性がある(遠山,2009)。しかし,内包量同士を加算したり,あるいは,外延量と混同して判断したりする誤りが少なからず見られる。本研究では,このような内包量に関する誤りを修正するための教授要因を検討する足がかりとして,「湿度」を取り上げ,教科書を用いたペア学習が湿度の問題解決にどのような影響を及ぼすのかを探索的に検討する。方 法 調査対象者 私立A短期大学に在籍する47名を分析対象とした。 手続き 調査は教職関連科目の授業時間内に実施した。調査時間は事前調査が約15分,学習セッションが約20分,事後調査が約15分であった。学習セッションでは,無作為にペアを組ませ,中学校理科の教科書(東京書籍)にある湿度単元の一部を配布し,「水蒸気量」「飽和水蒸気量」「露点」「湿度」の用語の意味をペアで確認すること,教科書に掲載されている湿度の公式を使う練習問題を解いて相互に確認することを指示した。 調査課題 事前・事後調査では,トイレ問題,袋問題,グラフ問題,大小問題,仕切問題の5問を出題した。トイレ問題では,気温が等しく湿度が異なる2つの場所を提示し,湿度が異なる理由を選択させた(答:水蒸気量が多いから)。袋問題では,ビニール袋を空気の出入りがないように密閉した状態で,袋内部の空気の温度を上昇させた際,袋内部の湿度がどうなるかを選択させた(答:低くなる)。グラフ問題では,飽和水蒸気量と気温の関係を示したグラフと各気温の湿度75%にあたる水蒸気量を明示し,湿度が75%のとき,2つの気温で水蒸気量が多いのはどちらかを判断させた。トイレ問題・袋問題・グラフ問題は,「湿度=1立方メートルあたりの空気中に含まれる水蒸気量/その気温での飽和水蒸気量」で定式化される3量の関係の中で,1つの量を固定した場合に,他の2量の変数関係を正しく判断できるかを見る課題であった。また,グラフ問題は湿度の公式に数値を代入しても解決できる問題であった。大小問題では,大きさの異なる部屋を図示し,気温と湿度がいずれも等しいときに,どちらの部屋がよりじめじめしているか(あるいは同じか)を選択させた(答:どちらも同じ)。仕切問題では,気温と湿度(e.g.30%)が等しい隣接した2部屋を提示し,その間にある仕切を取り除いた際の湿度を選択させた(答:30%のまま)。大小問題と仕切問題は,湿度が空間の体積とは無関係に決まることを理解できているかを見る課題であった。結果と考察 教示セッション ペア学習後に対象者にどのような話し合いを行ったのかを記述させたところ,「用語の意味をお互いに確認することができた」,「例を用いて説明してもらってわかりやすかった」などのコメントが見られた。水蒸気量や露点といった用語をより分かりやすいものに置き換えて説明する工夫が見られたといえる。 事前・事後の比較(Table 1) トイレ問題と袋問題では,正答率が上昇しなかったが,グラフ問題では正答率が上昇した(p=.01)。グラフ問題の解き方を詳細に見ると,公式への数値の代入による解決が2名から12名に増加していた。以上から,公式の数量を定数として捉えた問題解決は促進されたが,トイレ問題のように変数と捉えて操作する必要のある問題解決(cf.工藤,2010)は十分に促進されなかったといえる。次に,大小問題では正答率が上昇しなかったが,仕切問題では正答率が上昇した(p=.02)。仕切問題では,2つの空間が1つに統合されただけであるため,空間の大きさは変わらなかったが,大小問題では2つの空間の大きさが明確に異なっていた。そのため大小問題の方が体積に基づいた誤判断がより見られやすかったと考えられる。不適切属性に基づいた誤判断は公式を学習したとしても,ただちに修正されないことが示唆された。今後は,変数操作の可否と不適切属性に基づいた判断との関連,及び誤判断の修正方略を検討していく必要がある。
著者
佐竹 哉太 山田 誠 松井 孝太 松井 茂之 鹿島 久嗣
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

生存時間分析はイベントが発生するまでの時間を分析するための手法であり、多くの分野で使用されている。 この生存時間分析の中で最も良く用いられるモデルとして、Cox比例ハザードモデルがある。Cox比例ハザードモデルはイベントの詳細な分布が分からない場合でも利用でき、また線形式の係数により特徴の重要性を解釈することができる。しかし一方で特徴の線形な関係性しか利用できないという問題がある。非線形なCoxモデルも研究されているが、それらのモデルでは解釈ができない欠点がある。本研究では、CoxハザードモデルにFactorization Machines (FM)を導入したモデルを提案する。このモデルでは共変量間の相互作用を利用でき、また解釈も可能である。提案手法の性能を評価するため、実際の遺伝子データから特徴選択を行い、それによって選択された特徴を用いて実験を行った。その結果、提案手法が既存手法に比べ良い性能を示すことを確認した。
著者
山森光陽 岡田涼 納富涼子 山田剛史 亘理陽一# 熊井将太# 岡田謙介 澤田英輔# 石井英真#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

企画趣旨 2010年代に入って,教育心理学の分野でもメタ分析に対する関心が高まっている。日本では深谷 (2010),岡田 (2010),小塩他 (2014)によって,メタ分析による研究知見の統合が行われている。海外の教育心理学関係主要雑誌(Br. J. Educ. Psychol., Child Dev., Contemp. Educ. Psychol., Educational Psychologist, Educ. Psychol. Rev., J. Educ. Psychol., Learning and Individual Differences, Learning and Instruction)でも,2010年以降メタ分析を用いた論文数が急増しており,2018年では10月時点で28本にのぼっている。メタ分析による知見の統合には,ある介入の平均的な効果の提示が可能であることや,研究間差異を検討することで対象や条件による効果の違いを検討できることといった利点が認められる。 系統的レビューと呼ばれるメタ分析による知見の統合は,記述的レビューと異なり,統合対象とする研究文献探索の方法と分類基準を明示することが求められるなど,その手続きが精緻であることも関係し,レベルの高いエビデンスと捉えられ,その知見が流通することが多い。What works (U.S. Department of Education, 1986) に代表される,研究知見に基づく推奨される教育的介入のガイドラインは,1980-90年代は記述的レビューに基づいた内容であるのに対して,2000年代以降は系統的レビューの結果が反映されるようになってきた。さらに,2010年代には複数の系統的レビューのメタ分析(メタ・メタ分析,スーパーシンセシス)によるガイドラインが示されるようになってきている。 教育研究における複数の系統的レビューのメタ分析として広く知られているものに,Visible learning (Hattie, 2009)がある。学習者,家庭,学校,教師,教育課程,指導方法の各要因の下位138項目について,学力に与える影響のメタ分析の結果のスーパーシンセシスを行い,各々が学力に与える平均的な効果を効果量dによって示し,その効果の大小に対して理論的説明を行った。このスーパーシンセシスの対象一次研究数は延べ52,450本,延べ対象者数は8,800万人以上である。そして,スーパーシンセシスの方法やその内容は,イギリスやドイツをはじめとした諸国で,社会的な影響が大きいことが報告されている。 メタ分析による研究知見の統合の影響は,教育心理学をはじめとした教育研究の分野内に対してのみならず,教育政策,学校経営にまで及ぶと考えられる。国内では最近,平明に読めるメタ分析の入門書が複数出版されたことも契機となり,メタ分析による知見の統合を行う研究の本数が今後増加することが見込まれる。そして,研究知見の統合に取り組むに当たっては,研究分野内への影響のみならず,研究分野外への波及効果にも関心を払う必要があるだろう。このような現況を踏まえ,研究分野の内外に対して,「知見の統合は何をもたらすのか」を議論する。教育心理学におけるメタ分析研究の概況岡田 涼 教育心理学では,学力や動機づけ等の学習成果に影響を及ぼす要因やその先行要因を明らかにすることを目指すことが多い。得られた知見を教育実践や教育政策に反映させようとする場合,研究知見の信頼性や一般化可能性が重要となる。従来,研究知見の一般化を図るために行われてきた記述的レビューに比して,メタ分析は,複数の研究知見をもとに効果の程度を推定することで,より精度の高いエビデンスを得ることができる。同時に,個々の研究知見がもつ特徴を分析対象とすることで,平均的な効果だけでなく,効果の程度に影響する要因を検討することも可能となる。 このような特徴に鑑み,様々な研究テーマに関するメタ分析研究が増えてきている。国内でも,その報告数は増えてきており,注目度が高まっているといえる。学会によっては,執筆要項にメタ分析研究に特化した記載方法の指示が加えられたり,投稿の手引きでメタ分析研究の引用を推奨する記載をしている例もあり,メタ分析を受け入れる素地ができつつある。 一方で,メタ分析には,公表バイアスや一般化の水準の問題など,伝統的に指摘されてきた課題もある。また,メタ分析を行うためには,一次研究のレベルで必要な情報が報告されていることや,データベースが整備されていることなど,いくつかの前提条件もある。国内においてメタ分析研究が増えるに伴って,メタ分析研究の質が問われるようになることが予想される。 本発表では,まずメタ分析の考え方について簡単に触れ,メタ分析を用いた近年の教育心理学研究の動向を紹介する。その後,メタ分析の利点と限界を提示し,以降の発表につなげていきたい。一事例実験のためのメタ分析 山田剛史 様々な学会誌で特集号が組まれるなど(例えば, Developmental Neurorehabilitation, Vol.21(4), 2018; Research in Developmental Disabilities, Vol.79,2018; Journal of School Psychology, Vol.52(2),2014),近年,一事例実験(single-case experimental design)のメタ分析に注目が集まっている。一事例実験のメタ分析では,研究結果の統合の手続きとして,1)データの重なりの程度に基づく効果量(PND, NAP, Tau-Uなど)を利用する方法,2)平均値差に基づく効果量を利用する方法,3)ノンパラメトリック手法を利用する方法(randomization testsなど),4)マルチレベルモデルを利用する方法,など様々な方法が提案されている。こうした様々な提案がなされているが,メタ分析の手続きとしてスタンダードとなるものは未だ確立されていないのが現状である。 本報告では,平均値差に基づく効果量として,Hedges, Pustejovsky, & Shadish(2012)により提案され,Pustejovsky, Hedges, & Shadish(2014)で拡張された,ケース間標準化平均値差BC-SMD(Between-Case Standardized Mean Difference Effect Size,PHS-dとも呼ばれる)に注目する。 近年,BC-SMDを効果量として用いた一事例実験のメタ分析が数多く報告されるようになってきた。BC-SMDは,一事例実験研究の結果と群比較実験研究の結果を比較できる効果量として注目されている。Remedial and Special Education, Vol.38(2017年)の特集号を紹介しながら,BC-SMDを用いた一事例実験のメタ分析の実際について紹介する。教育研究的含意のある調整変数を推しはかる—外国語学習における明示的文法指導の効果—亘理陽一 言語形式に焦点を当てた文法指導の効果は,習得のメカニズムを研究する立場のみならず,教室での実践的課題としても長く議論が交わされてきた。Norris & Ortega (2000)は,1980年から98年までに出版された250超の論文の内,基準を満たす40研究の明示的指導(k = 71)の効果量の平均(d = 1.13)が,19研究の暗示的指導(k = 29, d = 0.54)を上回ることを示し,第二言語習得・外国語教育研究におけるメタ分析研究の嚆矢となった。 一方この研究では「明示的」と定義される範囲が漠然としており,その中身に関する意味のある調整変数は,後継のメタ分析においても明らかになっているとは言い難い。Watari & Mizushima (2016)は,Norris and Ortega (2000)を含む4メタ分析研究および日本の主要学会誌を対象とするメタ分析研究2本の182論文を対象とする再分析を行い,直後テストの結果において,暗示的指導との直接比較を行った45研究の明示的指導(k = 79)の効果量がg = 0.43 [0.28, 0.57]であり,形態論的・統語論的側面よりも,音韻論的側面や語用論的側面をターゲットとし(Q(3) = 8.68, p < .05),意味論的・機能的側面までを解説内容とする方が効果が大きいこと(Q(2) = 6.36, p < .05),さらに総括的な規則提示が高い効果をもたらしうる可能性などを示した。 しかし因果推論という観点で見れば,ここには説明変数・結果変数の関係や共変量の調整に問題の多い一次研究が多数含まれている。実験デザイン・測定法の異なる研究が混在し,メタ分析に必要な記述統計の報告不備すら依然指摘される現状(Plonsky, 2014)にあっては,知見の統合のメリットは限定的にならざるを得ない。今後は,関連他分野の研究者の協力も得て,共通尺度の開発も含め,統合に耐えうる一次研究の蓄積が求められることになると考えられる。エビデンスに基づく教育研究の社会的・学術的影響熊井将太 「エビデンス」という言葉が教育研究の領域でも存在感を高めてきている。実証的な知見に依拠した「授業の科学化」という要求は何も目新しいものではないが,今日の「エビデンス」運動の特殊性は,一方ではRCTやそのメタ分析といった特定の研究方法を頂点として学問的知見を階層化しようとする方向性に,他方では事象のあり方を客観的に明らかにする「説明科学」を超えて,そこで得られた因果的な知見をより直接的に利用可能なものにしようとする方向性に見出すことができる。このような「エビデンス」運動の特質は,必然的に従来の教育実践研究を担ってきたアクターと競合関係を作り,相互批判を生み出すこととなる。その中では,教育研究におけるメタ分析の有効性や課題とは何か,あるいはメタ分析から得られた知見の活用可能性と危険性とはいかなるものかが問われている(例えば,杉田・熊井(印刷中)など)。 本発表では,世界的に大きな反響を巻き起こしたJohn HattieによるVisible learning (Hattie, 2009)およびVisible learning for teachers (Hattie, 2012)を素材に上記の問題を考えてみたい。Hattieの研究をめぐる議論で興味深いのは,元来規範的なアプローチを主流としてきたドイツ語圏の国々において英語圏以上に議論が活性化していることである。加えて,Hattieの研究は,例えばバイエルン州のように,学校の質保障や外部評価の基準として政策的に受容されているところもある(熊井, 2016)。ドイツ語圏の議論と日本における教育実践研究の動向を見渡しながら,教育実践の複雑性の軽視や教育目標・内容論の欠如といった課題を指摘しつつ,他方で批判者側の「閉じこもり」の問題に言及したい。付 記このシンポジウムはJSPS科研費(基盤研究A:17H01012)の助成を受けた。
著者
新中 善晴 亀田 真吾 笠原 慧 河北 秀世 小林 正規 船瀬 龍 吉川 一朗 ジェライント ジョーンズ スノッドグラス コリン
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Comet Interceptor' is a proposed mission to the recent European Space Agency (ESA) call for F-class ('fast') missions. This is one of six mission concepts invited to submit detailed proposals. A decision is expected until late July 2019. The purpus of our misson is to characterise a dynamically-new comet or interstellar object like 'Oumuamua, which are visiting the inner Solar System for the first time, including its surface composition, shape, and structure, the composition of its gas coma for the first time. Our mission will launch to the Sun-Earth L2 point, where it will be stayed in a stable L2 halo orbit for a period of up to 2-3 years, until a suitable opportunity for a flyby mission to a dynamically new comet presents itself. Suitable targets will be comets that will have a perihelion distance closer than ~1.2 au and an ecliptic plane crossing time and location reachable with ~1.5 km/s delta-v from L2. Once a target is found, which expected to be within a few years based on predictions for comet discovery rates with the Large Synoptic Survey Telescope (LSST), the spacecraft will depart on an intercept trajectory. Before the flyby, the main spacecraft will resease at least two sub-spacecraft, parallel paths through the coma and past the nucleus to be sampled. This mission will give us a 3D snapshot of the cometary nucleus at the time of the flyby, testing spatial coma inhomogeneity, interaction with the solar wind on many scales, and monitoring of Lyα coma. This mission will be a unique measurement that was not possible with previous missions, in addition to the fact that we will target a dynamicall new comet, which will allow interesting comparisons to be made with the results from Rosetta target comet 67P/Churyumov-Gerasimenko. It is expected that the proposed mission includes contributions from Japan as well as ESA member countries.