著者
金本 佑太
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.73-88, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
23

本稿では、地域若者サポートステーション(以下、サポステ)事業を利用し就労を達成した若者を対象に、彼らの就労困難からサポステ利用、そして就労達成から現在に至るプロセスを検討した。無業の若者はサポステの支援を受け、徐々に支援者との信頼関係を構築した。そこから、「今後も何かあれば周りを頼っていく」という認識を獲得した。そして彼らは、就労達成後も他者を上手く頼りながら働くことで、それを実践していた。彼らの利用したサポステ岡山では、それぞれの若者の状況に適したアプローチで支援を行っており、それが若者との信頼関係の構築につながったと考えられる。こうしたプロセスは、若者が無業からサポステ利用当初に持っていた「できる限り自力で問題に対処する」という日本的な自立観とは距離をとり、主体的に他者を頼っていけるようになったプロセスとして把握できる。そして、そのプロセスにつながったサポステ岡山の支援は、就労を通じた若者の社会的包摂を促す機能を果たしていると考えられる。
著者
田中 重好
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.21-37, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
41

本論では、災害社会学の基本的な考え方、災害社会学の理論の基礎的な考え方を提案する。ハザードとディザスターとを区別した上で、災害は、ハザードが脆弱性を媒介にディザスターに変化し、その後、復興がおこなわれる一連の社会過程として捉える。災害は、上記の社会過程に沿って、「災害の生産」と「災害の構築」の二つの側面を持っている。「生産」という視点を持つことによって、「災害は社会構造に規定されている」ことを確認できる。「構築」という視点を持つことによって、「構築された結果」(とくに、制度的に構築された結果)から出発していた災害研究を相対化し、「社会と災害との関連性」(すなわち、社会と環境との関連性)を根本から議論できるようになる。以上のような理論的な検討を深めてゆくことによって、従来の、個別の災害ごとに「閉じた」研究からも、防災の緊急課題に応えるのに急で一般化の努力を怠ってきた研究からも、さらに、行政が推進する防災対策を無批判に受け入れて進められてきた研究からも脱却し、「正しい政策科学」的な災害社会学が構築できる。
著者
牧野 厚史
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.39-52, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
36

大災害が相次いだ日本では、防災行政の災害論が単純化し始めている。そうした動きのなかで、農林漁業という営みのあるコミュニティでは、災害のたびに様々な葛藤を抱えるようになった。この葛藤は、集落移転のような大きな問題になる場合もあれば、地元の小さな内部葛藤で終わる場合もあるが、自然災害の問題であるが故に、災害論としての原理的考察が必要である。本稿では、災害下の農林漁業をめぐって生じる葛藤を、「まさか」と「やはり」という対照的な言葉を用いて、災害論を分けることにより検討した。自然現象のリスクを徹底的に回避しようとする防災行政の「まさか」の災害論に対して、とくに農林業などが絡んでくる場合は、それとは異なるもうひとつの災害論、「やはり」の災害論が必要である。それは、この災害論が、農林漁業のレジリエンス発揮=災害リスクのコミュニティへの内部化と関わっており、そのことによって人々の生活の充実への可能性を開くからである。
著者
室井 研二
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.7-19, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
46

災害研究の理論的課題とは何なのか。本稿では英語圏の災害研究の理論的系譜を検討し、以下のことを主張した。(1)災害社会学の源流は発災直後の緊急対応に照準した機能主義的アプローチであるが、今日的にはむしろ災害の発生を自然環境適応の所産として捉える地理学(生態学)的アプローチから学ぶべき点が多い。(2)研究の方法論に関しては、脆弱性理論とレジリエンス論を接合する「中範囲のハザード理論」という視角が有効である。(3)日本の災害研究は欧米の災害研究の影響をあまり受けず、もっぱら都市・地域社会学の応用的研究として展開してきた。しかし、阪神大震災では脆弱性論、東日本大震災では人間生態学と通底する研究成果が生みだされ、研究の方法論に関しても欧米の災害研究に示唆を与える面がある。国産の実証的研究成果を欧米の災害理論との関連を視野に入れて意味づけ、国際的共有を図るとともに、災害を社会分析の方法論的観点として位置づけ、災害研究と既存の連字符社会学の統合や相互啓発を図ることが重要である。
著者
アクスト・ フローリアン
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.53-71, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
26

This research explores the effects of social capital on human agency at the case of support activities by foreign residents in the wake of the Kumamoto Earthquakes in 2016. The debate about Japan’s foreign residents in times of disaster has primarily concerned the situation and needs of foreigners and subsequently addressed questions of how the host society should respond to these issues. This has developed into a perception of foreign residents as “victims” of earthquakes. The paper argues that foreign residents have the capacity to exercise their agency in times of disaster by engaging themselves in support activities contributing to Japan’s society. It shows how social networks have enabled support activities by foreign residents of Kumamoto City in the aftermath of the earthquakes. The paper concludes that social capital played significant roles in the activities by influencing the agency.
著者
木下 佳人
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.103-111, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
9

本稿の目的は在日朝鮮人の親族葛藤が生じる要因を示すことである。長い間、差別や貧困は在日朝鮮人が抱える問題であり、これらの問題が広くみられる時代には、親族の相互扶助は彼らが生活する上で不可欠であった。一方、親族間に葛藤が生じることもあり、同居親族間の葛藤がこれまでも指摘されてきた。しかし、非同居親族間の葛藤を扱った研究は少ない。そこで、本稿では、ある在日朝鮮人家族の家族員が先祖祭祀から離脱する過程を分析し、非同居親族間の葛藤が生じる要因を示す。調査の結果、親族葛藤が生じる背景には親族の経済格差が存在していたことが明らかとなった。また、親族葛藤によって経済格差が温存される側面もあり、親族葛藤と経済格差は相互規定関係にあることが分かった。この知見は、各親族の経済状況という着眼点が、在日朝鮮人の親族関係を分析する上で有益であることを示唆している。
著者
津曲 達也
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.89-98, 2019 (Released:2020-03-27)
参考文献数
10

近年、研究目的で作成されていない会議録のような資料をネットワーク・データとして利用することが注目されている。本稿は集団・組織によって作成されている「会合記録」に着目し、「会合記録」からアフィリエーション・ネットワーク・データを生成する際の実践的な方法を検討した。「記録」には解決すべき問題として、記録者や転記者の文字の記載ミスから生まれる「記載のばらつき」と「同姓同名問題」がある。これらに対し、氏名が1字以内で異なる個々人について、その属性情報を比較しそれが一致すれば同一人物とみなす同定処理手法をここでは用いる。この手法を基礎にして、「会合記録」に含まれる情報(氏名情報、会合情報、ゲスト情報、日時情報)のみによってアフィリエーション・ネットワーク・データを生成する方法を検討する。この方法によって、約半数の紐帯を見逃す危険性がなくなること、また個々人の誤った同一人物判定がゼロであったことが示され、精度の高いアフィリエーション・ネットワーク・データを生成できた。会合記録から生成されるアフィリエーション・ネットワーク・データは個々人の会合への参加という行為を表現したものとなる。
著者
吉田 全宏
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.75-88, 2019 (Released:2020-03-27)
参考文献数
11

本論文では、在日韓国人僧侶が日本で信者を獲得する過程を巫者との関係から明らかにする。在日韓国人僧侶が日本で活動するためには自身の信者を獲得することが必要不可欠となるが、これは簡単なことではない。金銭的な動機から巫者の執行する儀礼を手伝う来日したての在日韓国人僧侶にとって、もっとも身近な一般信者は、儀礼で接触する巫者の信者である。しかし、巫者との良好な関係を維持するためには、巫者の信者を自らの信者に積極的に取り込むことは控えざるを得ない。だが、在日韓国人僧侶と巫者との金銭的主従関係が変容する過程で、こうした積極的な取り込みが実際に起こっている。こうした事態が示唆していることは、在日韓国人僧侶と巫者との間には「金銭的結合関係」だけでなく、「潜在的対抗関係を含んだ協働関係」が存在しているということである。在日韓国人僧侶の信者獲得過程として、巫者との関係の中で活動資金を得る一方、巫者の信者とも結合関係を構築し、最終的に自身の寺の建立や継承にいたる、そういう図式を描くことが可能である。
著者
松本 貴文
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.63-74, 2019 (Released:2020-03-27)
参考文献数
21

本稿の目的は、熊本県上益城郡水増集落における、太陽光発電事業の導入を核とした地域再生活動の事例研究を通じて、新たな自然資源利用が地域の持続可能性にどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。従来、農山村の持続可能性については、経済的・社会的基盤という観点から議論されてきたが、農山村の暮らしと切り離すことができない自然環境とのかかわりにも目を向ける必要がある。水増集落では、共有地管理への危機感から、集落として太陽光発電事業の導入を進め、集落が誘致した企業とともに、発電・売電事業の枠に収まらない「むらづくり」を進めてきた。その結果、集落では共有地をはじめとする自然環境とのかかわりが増大し、人と自然との関係の再構築が進んだことで、経済的価値のみならず、地域内外の人々の間に社会関係や社会集団の形成を促すなど、社会的価値の創造にもつながっている。そのような成果を通して、事業は住民の地域観にも影響を与えており、集落の持続可能性に対しても、肯定的な効果が生まれつつあることが明らかとなった。