著者
薬袋 秀樹
出版者
日本図書館協会
雑誌
図書館雑誌 (ISSN:03854000)
巻号頁・発行日
vol.100, no.8, pp.483-485, 2006-08

2006年4月,文部科学省生涯学習政策局に設けられたこれからの図書館の在り方検討協力者会議から『これからの図書館像 -地域を支える情報拠点をめざして-(報告)』1)が発表された。筆者は協力者会議の主査を務めたことから,この報告書について報告したい。ただし,本稿は筆者の個人的な見解を含むものであることをお断りしておく。この報告書は,2001年の「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」の発表以後の社会や制度の変化,新しい課題に対応するために,社会教育機関としての図書館がめざすべき方向とそれを実現するための方策について,その全体像を具体的に論じている。「望ましい基準」で論じられていることは除かれているが,主なサービスと経営の考え方について詳しく論じており,その点で文部科学省の戦後の図書館に関する各種の答申や報告の中でも画期的なものと思われる。
著者
岡田 知弘 京都大学経済学部岡田ゼミナール
出版者
京都大学経済学部岡田ゼミナール
巻号頁・発行日
2005-12

序 本書は、私の学部ゼミナールの2004年度の調査報告書である。今回のテーマは、「観光地に住むこと」とした。京都市内で最も多くの観光客が集まる東山の清水寺周辺が調査対象地である。観光客が集中することによって、門前の商店街が潤う一方で、年々交通渋滞やゴミ問題等、住民にとっては「観光公害」とも表現される負担が増大している。住民の生活空間のなかに多くの観光客が入り込んでくる諸問題をいかに解決するかという難問が、住民、そして行政に対してつきつけられることになる。この間題については、過去の私の学部ゼミナールでも、たびたび取り上げ、同地域の皆さんに対してヒアリング調査やアンケートを何度か実施してきた。たまたま、2002年度の調査報告書『京都再生』が新聞で報道されたことをきっかけに、清水寺の麓にある茶わん坂商店街の皆さんとの交流が始まった。茶わん坂は、もともとは清水焼の窯が立地していたところであり、清水寺門前の商店街としては後発の新しい商店街である。通りに沿って商店と住宅が相半ばしており、生活環境を維持しながら、より多くの観光客を集めるための努力を積み重ねてきた歴史がある。他方、京都市においても、秋の観光シーズンにおける清水寺周辺の交通渋滞問題について、2004年度から交通社会実験によって対応を開始することとなった。京都市ではすでに嵐山でも先行的に実施しており、それを東山にも拡張したものである。京都市交通政策課と東山区役所、地元の自治会連合会や商店街だけでなく、清水寺や高台寺をはじめとする社寺、鉄道、バス、タクシー業界の代表、警察、国土交通省の担当者らによる東山交通対策研究会が設直され、そこで交通需要管理施策の検討と実験が行われた。パークアンドライドの広域展開とシャトルバスの運転、駐車場情報の徹底、路上駐車の禁止などを軸にした施策が、どのような成果を得、いかなる課題を残したかも知りたいところであった。また、フィールド調査を繰り返すなかで、東山区が京都市内にあって最も高齢者比率が高く(2000年の国勢調査で28%)、交通問題だけでなく、買い物の便の悪さや、犯罪増加への不満や不安も高まっていることがわかった。さらに、このような地域の特殊性を踏まえて、東山区において「まちづくり推進課」が、独自の基金を区内の社寺や企業等からの寄付によって造成し、まちづくりの独自事業を開始しつつあることも知ることができた。京都市は、人口150万人近くの政令市であり、区には東京都の区制のような独自の行財政権限は存在しない。ところが、区ごとにみれば、産業面でも、生活面でも、環境面でも、それぞれ独自の特質をもっている。そのような地域の個性に合わせた地域政策を展開するには、地域の住民や各種団体と行政が協働することが、必要となるのは自明なことであろう。縦割り行政をバラバラに展開するのではなく、それぞれの地域において産業振興、福祉施策、都市基盤の整備、治安の維持を一体のものとして展開する方が、はるかに合理的であり、かつ効率的である。本報告書では、日本有数の観光地である清水地区における、観光振興、交通対策、生活の利便性や安全性の確保といった課題とその解決方向、政令市における区のあり方について、学生なりの視点からまとめている。今回の報告書は、調査や報告書のとりまとめを経験したことのない2回生が中心となったため、内容的にも記述的にも不十分なところがあるとはいえ、清水地区の市街地・商店街形成の歴史からはじまり、現在の交通問題、生活問題の実相を各種調査結果によって明確に把握し、その解決をめぐる基本的方向を試論ながら操示できたことは、大きな成果であると考えている。もちろん、現状把握や政策の方向性については、当然、異論もあると思われる。是非、大小に関わらず、ご批判、ご教示を頂ければ幸いである。