著者
阿部 正幸
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.438-442, 2020-04-01

本稿は,私の担当医である国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神科の松本俊彦先生からの依頼による。ほとんど経験者のいない医療用麻薬の長期常用者として,生々しく書いてほしい,とのことであったので,赤裸々な実体験を記載させていただく。 私は循環器内科専門医として,ある地方自治体総合病院(以下,病院)に勤務していたところ,オピオイドの適応外使用により麻薬・向精神薬取締法違反で起訴され実刑判決を受けた。現在は刑期満了し無職である。 本稿の内容は私の体験談として,①オピオイド使用に至った経緯,②オピオイドの効果,③離脱の難しさ,④再使用しないための努力,⑤現在直面している困難,⑥医学教育と偏見,に分けて順に述べることとする。
著者
武田 輝之 平井 郁仁 矢野 豊 高田 康道 岸 昌廣 寺澤 正明 別府 剛志 小野 陽一郎 久部 高司 長浜 孝 八尾 建史 松井 敏幸 植木 敏晴
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.163-168, 2018-02-25

要旨●現在,潰瘍性大腸炎を評価するための内視鏡スコアは多数存在するが,スコアの統一化についての一定のコンセンサスはない.これまでのスコアは検者内・検者間一致率などの信頼性評価が十分ではなかったことがその要因の一つである.2012年に提唱されたUCEISはその問題を指摘し検討した上で作成された内視鏡スコアである.今回,筆者らは現在汎用されているMESとUCEISの両者に関して検者間一致率を検討した.その結果,UCEISはMESと比較し,検者間一致率が高い傾向にあった.今後の課題として,UCEISによる粘膜治癒の定義や長期予後との検討などが挙げられるが,妥当性の検証結果からは今後の臨床研究などで使用するスコアとしてより適したものであると考えられた.
著者
髙林 馨 緒方 晴彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.742-743, 2021-05-24

潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)における内視鏡活動性スコアはこれまでに数多く報告されているが,本稿ではその中でも本邦で使用頻度の高いMES(Mayo endoscopic subscore)とUCEIS(ulcerative colitis endoscopic index of severity)について概説する.

3 0 0 0 塵肺症

著者
藤村 直樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1196-1198, 1986-07-10

塵肺症は,佐渡金山では"山気",明治以後の鉱夫の間では"ヨロケ"として古くから知られた職業性疾患であったが,近年,免疫学の進歩に伴い,本症に種々の免疫異常が存在し,病変形成や病態生理に免疫学的機序が一定の役割を担っているという,免疫学的疾患としての側面が注目されるようになっている.本稿では,代表的な塵肺症である珪肺症と石綿肺につき,免疫病態生理の面から概説を試みたい.
著者
上田 敏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.73-77, 2022-01-10

この連載は本誌が50周年を迎えたのを契機に,本誌の過去半世紀にわたる足跡を振り返ってみようとするものである.その目的は,単なる回顧ではなく,本誌をある種の「鏡」として,それに映った日本と世界のリハビリテーションの「歩み」を振り返り,そのなかで「これから」の進むべき道を探ろうとする「古きを訪ねて新しきを知る」ことである.本誌の読者の中には,本誌発刊の頃には「まだ生まれてさえいなかった」という方も少なくないと思われるので,できるだけ時代背景も感じとれるように述べていきたい.
著者
今村 幸嗣 大塚 祐司 川副 泰成 青木 勉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1037-1040, 2018-09-15

抄録 症例はパニック障害の25歳,女性。初診時血清ヘモグロビン12.4g/dl,血清フェリチン11ng/mlと貧血のない鉄欠乏であった。鉄剤補充のみで,鉄欠乏とパニック症状が改善した。鉄欠乏と抑うつ気分との関連性について多数の報告があり,鉄剤補充による抑うつ気分の改善が示されているが,パニック症状に対する効果の報告は少ない。本症例では,パニック障害に対する鉄剤補充の有効性を示唆する結果となった。精神科の診療場面において,鉄欠乏は看過されることが多い。我々精神科医は,わが国の女性の約半数が,鉄不足による精神障害予備軍であるという現状を認識し,適切に鉄欠乏を評価することで,診断・治療につなげる必要がある。
著者
上堂 文也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.603, 2017-05-24

定義 胃の腸上皮化生はH. pyloriの慢性感染によって,胃粘膜が腸の形質を持つ粘膜に変化する現象で,胃癌発生のリスクと密接に関連している.NBI併用拡大観察で腸上皮化生をみると,上皮の辺縁部(表面)に青白色調の光の線を認める(Fig. 1,2).これが,LBC(light blue crest)で“上皮の表層を縁取る青白い線”と定義されている1).病理組織学的腸上皮化生の診断に有用である(感度:89%,特異度:93%).
著者
伊東 清志 猪俣 裕樹 丸山 拓実 荻原 直樹 佐藤 大輔 八子 武裕 四方 聖二 北澤 和夫 小林 茂昭
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1183-1196, 2021-11-10

Point・頚椎前方除圧固定術は,米国の脳神経外科医が開発し,長きにわたり改良され,受け継がれてきた信頼性が高い治療方法である.・頚椎は運動器として動きながら頭蓋を支える側面をもつため,脊髄への圧迫も「動態」での評価が必要であり,「固定」することで圧迫を解除することは理にかなっている.・この方法を安全かつ効果的に行うためには,局所解剖を十分に理解し,術中の操作に取り入れることが大切である.
著者
吉村 英哉 仁賀 定雄
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.391-398, 2020-04-01

要旨:ハムストリング近位肉ばなれⅢ型損傷は,股関節屈曲膝関節伸展位の特徴的な肢位で受傷する。このうち完全剝離損傷は,ハイレベルアスリートにおいてパフォーマンス回復が困難な場合が多い。一方,不全剝離損傷は坐骨結節と仙結節靱帯の連続性が保たれ,損傷した筋腱の短縮は生じない。スポーツ継続可能な例も多いが,診断されないままパフォーマンスレベルを落としていることが多い。完全剝離損傷11例および不全剝離損傷7例に対して腱修復術を行い,それぞれ術後平均8カ月および7カ月で全例競技復帰した。受傷から2カ月以上経過した完全剝離損傷の例で腱断端が遠位へ転位し手術操作が困難であった。ハイレベルアスリートのⅢ型完全剝離損傷は,受傷後2週以内に診断,手術を行うことが肝要である。また不全剝離損傷は存在自体が周知されておらず,このような病態があることを念頭に置く必要があり,パフォーマンス低下のみられる例に対して手術は有効な治療法である。
著者
信澤 宏
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.399-408, 2020-05-10

川崎幸病院救急科は年間約1万人の救急搬送患者と年間約2万人のwalk-in患者を受け入れている。CTに関する患者緊急度は,造影CTを至急で行うべきと医師が判断する患者群から非造影CTで一応スクリーニングしておこうと判断される患者群まで様々である。医師の造影剤に対する考えは,積極的に投与する医師からそうでない医師まで様々である。既往歴や腎機能が不明のため,まず非造影CTを撮影することも少なくない。本院に併設されている4つの一般外来クリニックでも,患者重篤度や医師の造影剤に対する考え方は様々である。川崎幸病院と併設4クリニックでの2017年のCT総件数40,055件のうち造影検査は17.2%である。併設4クリニックの画像診断は川崎幸病院で行っている。
著者
寳子丸 稔
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1136-1140, 2021-11-10

脊髄脊椎疾患は非常に多い病気である 若い脳神経外科の先生方の中には,「脊髄外科」といってもピンと来ない方も多いのではないかと思います.実際,Japan Neurosurgical Database(JND)の2018年のデータ1)によると,全脳神経外科手術207,783件のうち,脊髄脊椎手術は17,969件(8.6%)を占めるにすぎません.また,同年の京都大学関連施設の非公式のデータでは,全38施設において年間の全脳神経外科手術件数が平均304件あるにもかかわらず,26施設で脊髄脊椎手術件数が10件以下となっており,多くの施設において脊髄脊椎疾患は縁遠いものとなっています. それでは,脊髄脊椎疾患は少ない病気かというと,決してそうではありません.有訴者率とは,病気やけがなどで自覚症状のある人の人口1,000人当たりの割合を示す指標です.そのデータは厚生労働省webサイトで確認することができますが,その1位と2位は腰痛と肩こりで,症状として最も多いものです.また,連続剖検例による検討2)では,80歳を超えると37%の人に頚椎での脊髄圧迫が認められたと報告されており,頚椎症性脊髄症は非常に多い病気です.さらに,DALYs(disability-adjusted life-years)とは,病的状態,障害,早死により失われた年数を意味する疾病負荷を総合的に示す指標ですが,世界全体でみると,腰痛と頚部痛が1990年には13位であったものが2016年には4位に上昇しています.また,先進国に限ると1990年から不動の2位を占めています3).これらのことから,脊髄脊椎疾患が引き起こす症状は社会への大きな負担になっているばかりでなく,国の経済が発展するに従い年々増加していることがわかります.
著者
堀内 朗 牧野 敏之 梶山 雅史
出版者
日本メディカルセンター
巻号頁・発行日
pp.577-581, 2015-04-20

当院におけるプロポフォールを用いた診断目的の消化管内視鏡検査の鎮静法は,翼状針を上肢に留置後,年齢に基づいて決定した初期投与量をボーラス投与している.体動や舌の動きが消失しないときや嘔吐反射や体動が出現した場合は,1回20~40mgずつ追加投与して十分な鎮静を得る.呼吸抑制がマスクされるおそれがあるため,酸素はSpO2が90%以下に低下したときのみ投与している.細径スコープを使用するとプロポフォールの投与量が少ない傾向にあるので有用である.検査後,看護師との会話が可能で5m程度の歩行が問題ない状態をフルリカバリーと判断している.プロポフォール投与総量が200mg以下の場合,検査終了1 時間後には自動車を運転して安全に帰宅可能な状態に回復する(駒ヶ根プロポフォール鎮静法).
著者
小野寺 宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.390-395, 2002-05-01

はじめに —呼吸不全死がパーキンソン病の死因第一位—レボドパがパーキンソン病治療の主役となった現在でも,患者死因の第一位は肺炎などの呼吸器合併症である。病期が進むにつれて誤嚥や呼吸器感染症が医療・介護の面で大きな問題となり,パーキンソン病患者の半数以上が呼吸不全死に至るとの報告が多い。パーキンソン病患者が軽い上気道感染症から急速に呼吸不全に陥ることもよく経験するが,突然死の転帰をとることも稀ではない。しかし,パーキンソン病における呼吸機能異常についてはほとんど注目されておらず研究報告も少ない。パーキンソン病特有の無動や固縮による拘束性換気障害や喀痰排出障害,あるいは誤嚥のため,単純に呼吸器合併症が多いものと考えられてきたからである。しかし,呼吸調節にはドパミン系やノルアドレナリン系,アセチルコリン系などのニューロンが重要な役割を果たしており,これらの神経伝達系がパーキンソン病において著明に障害されることは周知の事実である。そこでわれわれは,パーキンソン病における化学的呼吸調節機能を検討した結果,低酸素時の呼吸調節障害により呼吸困難感を自覚しにくいことを見い出した1)。小論ではパーキンソン病における呼吸調節機能を概観し,突然死が高頻度に認められる多系統変性症(MSA, Shy-Drager症候群)における呼吸調節機能と比較した。
著者
高倉 祐樹 大槻 美佳
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.258-274, 2016-12-15

失構音の病態に関する下位分類を試み,その機序の差異を検討した.対象は失構音を呈した患者10名(2名は軽度の失語症を合併),失構音を伴わないディサースリア患者2名の計12名の患者群(69.0±11.7歳)と健常群16名(65.5±16.0歳)である.聴覚心理学的評価の結果,失構音群は①構音の歪み優位,②音の連結不良優位,③歪みと連結不良が同程度,④連結不良なし,の4タイプに分類可能であった.各タイプの病巣は,①左中心前回後方,②左中心前回前方・運動前野,③左傍側脳室皮質下,④左被殻・視床,と相違を認めた.各タイプの病態をDIVA(Direction in sensory space Into Velocities of the Articulators)モデルに基づき解釈すると,①はArticulator Velocity and Position Mapsの障害,②はSpeech Sound Mapの障害,③は①と②の合併,④は発話のフィードバック制御系の障害と捉えると,それぞれの症状の差異が説明可能であり,病巣との整合性も高いと考えた.
著者
西村 泰彦 Thomas Lübbers 北山 真理 吉村 政樹 服部 剛典
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1124-1135, 2021-11-10

Point・全内視鏡下脊椎手術(FESS)で使用される内視鏡はforaminoscope(椎間孔鏡)であるので,椎間孔からのアクセスを習熟することが肝要である.・水中手術であるため,われわれ脳神経外科医にとって重要な硬膜内外の圧に影響を与えながら処置を行っていることを自覚することが重要である.・FESSは極めて低侵襲な手術手技であるが,その習熟には急峻なラーニングカーブが存在する.
著者
青柳 邦彦 中村 昌太郎 飯田 三雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.370, 1996-02-26

中毒性巨大結腸は,重症の腸炎により腸管が弛緩性に拡張した状態で,通常,横行結腸に認められる.多くは重症の潰瘍性大腸炎に合併したもので,頻脈,発熱,低蛋白血症,電解質異常を伴っている.しばしば穿孔を来し,その場合,死亡率が高率で約50%に及ぶとも言われている.当初,Bockusら1)が“toxic aganglionic megacolon”という名称で記載したが,本症の発生機序として腸筋神経叢の障害以外にも,筋層の広範な破壊や抗コリン薬の使用などが関与する2)ことから,現在では“toxic megacolon”と呼んでいる.なお,原疾患は潰瘍性大腸炎に限定されず,Crohn病,偽膜性腸炎,感染性腸炎(サルモネラ,キャンピロバクター,Clostridium dtfficile,サイトメガロウイルス)でも起こりうる. X線学的には,背臥位での腹部単純写真が診断に有用であり,横行結腸の拡張(直径7~10cm以上)2)3)が特徴的である(Fig.1).拡張した腸管はhaustraが消失し,また潰瘍と炎症性ポリープのため,辺縁のぼけ像を伴う結節状の凹凸像として認められる.
著者
大津 健聖 平井 郁仁
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.670, 2017-05-24

定義 腸間膜静脈硬化症(mesenteric phlebosclerosis ; MP)は,1993年にIwashitaら1)が新しい疾患概念として提唱した.基本的な病態は,腸壁から腸間膜静脈における石灰化に伴う腸管循環不全による虚血と考えられており,右側結腸を中心に炎症反応を伴わない慢性虚血性変化とされている.近年,MPと漢方薬長期内服との関連性が報告されている.なかでも,漢方薬で頻用される生薬である山梔子は8割以上の症例で内服されており,強い関連が考えられる2).MPを疑う症例には,特に薬剤内服歴などの詳細な病歴聴取が必要である.
著者
三輪 英人
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.139-146, 2007-02-01

はじめに プラセボ(placebo)効果は,薬理学的に作用が期待できない偽薬にもかかわらず,何らかの臨床的効果が得られることを示す。一般には,良い治療効果が出現した場合に用いられるが,副作用としてみられる場合もある1)。偽薬によって副作用が出現する場合には,ノセボ(nocebo)効果とも呼ばれる。薬物以外の治療手段においてもプラセボという言葉は繁用されており,シャム手術に対してもプラセボ手術と呼称されている。 プラセボ(placebo)の語源はラテン語で,‘I shall please'(私は喜ばせるでしょう)を意味するとされている1)。このプラセボ効果は,歴史的観点からは,おそらくは近代的医学の発展前には治療効果の本質であった可能性すらあるのではないだろうか。現代の日常診療の中でさえ,実際の医学的治療におけるかなりの部分を占めている可能性が高い。しかし,プラセボを治療薬の1つとして位置づけ得るかに関しては,人道的見地からも,また客観的治療効果の面からも批判がある。Hrobjartssonら(2001)の論文2)は良く知られている。プラセボが使用された100編以上の臨床試験データをレビューした結果,痛み以外の症状を改善する十分な証拠は得られなかったと述べ,新薬開発のための臨床試験以外に治療手段としての偽薬を使用することを批判している。一方で,実地臨床の場において,プラセボ効果が特に顕著であると広く実感されている疾患がある。疼痛,抑うつ,パーキンソン病である3)。本稿では,パーキンソン病におけるプラセボ効果に焦点を当て,その効果が本質的に病態を改善しているらしい臨床的知見や,プラセボ効果とドパミンに関する基礎医学的研究成果などについて述べたい。