著者
塩川 将史 高石 雅樹 浅野 哲
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】沖縄県は、昭和55年~60年にかけて男性と女性は共に平均寿命が全国1位の日本一の長寿県であった。しかしながら、平成27年度現在で男性は36位、女性は7位と、長寿とは言い難い状況にある。 そこで本研究では、沖縄県の平均寿命の順位が低下した要因を探索し、対策を検討した。【方法】厚生労働省や沖縄県による報告・統計情報、文献などを基に、長寿でなくなった要因や現在の沖縄の生活状況などを探索した。【結果・考察】平成27年の沖縄県の死因別死亡率において、肝疾患、糖尿病、自殺がいずれも全国トップクラスで、肝疾患においては全国1位である。また、メタボリックシンドローム該当者数も全国1位である。そして、アルコールの摂取頻度は全国より低いが、一度の飲酒で摂取するアルコールの量が全国平均に比べかなり多い。また、戦後アメリカ合衆国の統治下にあったため食の欧米化がいち早く進行しハンバーガー店舗数やハンバーガー外食費が全国1位となり、宴会の締めにステーキを食べる習慣があるなど、ハンバーガーやステーキの摂取頻度が高く、バランスの良い沖縄の伝統的な食事を食べる機会が減少している。これらが、肝疾患死亡率やメタボリックシンドローム該当者数増加の要因の1つであると考えられる。一方で、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病に対する特定健康診査受診率は全国24位であるものの、特定保健指導実施率は全国1位である。したがって、沖縄県の生活習慣病に対する取り組みは全国で上位であるものの、改善していないと思われる。琉球大学の「ゆい健康プロジェクト」において、肥満の人に食事調査や健康に関する情報提供を実施しており、これにより肥満の参加者の体重が減少している。沖縄県では自殺率の増加が問題となっており、20代から30代における死因の1位で、中学生及び高校生の自殺率は全国平均よりも高い。また、沖縄県の自殺者は50代が最も多い。自殺の理由は、健康問題が1位で、経済・生活問題や家庭問題が続く。沖縄県は人口1千人あたりの出生数が12.02人と全国1位。一方で2人以上の世帯の生命保険現在高(1037千円)は全国最下位、完全失業率は11.875%で全国1位であり、これら経済的な問題が自殺の要因と考えられる。 したがって、肥満の人などへの生活習慣の改善による健康増進と失業対策による自殺者を減らす取り組みが、沖縄県の平均寿命延伸に必要であると考えられた。
著者
橋本 学
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

地震調査委員会は,南海トラフにおいて今後30年間にM8〜9クラスの地震発生確率が70〜80%(2019年時点)と評価している.最近,地震発生確率が「水増し」された,との報道があった.筆者は,2011年からの南海トラフ地震の長期評価に分科会委員として関わった.その中で,さまざまな点,特に時間予測モデルを用いた確率評価について問題点を指摘した.この評価に関する問題点をまとめておく必要性を感じたので報告する. 南海トラフの長期評価は第1版が2001年に公表された[地震調査委員会,2001].M8クラスの東南海・南海地震,連動すれば最大M8.7の地震が,今後30年間に60〜70%の確率で発生すると評価された.確率の計算には,Shimazaki and Nakata(1980)による時間予測モデルが採用された.東日本大震災を受けて,この評価が見直され,2013年に第2版が公表された.最大地震規模はM9.1になり,個別の地震に対する評価はなく,多様性が強調された.しかし,地震発生確率の評価においては,2001年と同じく時間予測モデルを採用した.ただし,第2版において,時間予測モデルによる確率評価に使用されたデータは,室津港のデータのみである.すなわち,宝永1.8 m,安政1.2 m,昭和1.15 mの隆起量である.そして,これらの数値を時間予測モデルに当てはめて,昭和の地震から次の地震までの発生間隔(88.2年)を推定している.この値を用いて計算をすると,標記の確率が算出される. 計算の元になった室津港のデータは,宝永・安政については今村(1930),昭和については沢村(1953)が原典である.今村(1930)は,地元に残る古文書の記載から,安政の地震では約4尺海面が低下したことと,宝永地震から52年後の宝暦9年(1759年)までの間に約5尺の変動があったことを発見した.Shimazaki and Nakata (1980)は,室津周辺の水準測量から推定されている沈降率(5〜7 mm/年)を用いて補正し,宝永地震直後の変動としている.一方,沢村(1953)のデータは,旧汀線の高度の実測である. ところが,再来間隔の計算では測定誤差を一切考慮していない.宝永と安政の地震については,(1)計測方法や地点に関する情報がないため,計測誤差の評価ができない,(2)計測日時の記載がないため,月齢による潮位変動を見積もることができない,(3)波浪等気象・海象に関する記載もない,等の問題点がある.また,宝永の地震については,地震発生から計測時までの約50年間の変動の補正において,余効変動を考慮していない.一方,沢村(1953)の昭和の地震のデータも,水準測量と同程度の精度があるとは考えられないので,大きな誤差が伴うと考えるのが妥当である.試みに昭和の隆起量に10cm,安政と宝永に30 cmのランダムな誤差を加えて計算すると,次の地震発生は2020年代から2050年代まで大きくばらつく.このばらつきを考慮すると,確率はもっと低くなるであろう. 時間予測モデルによる再来間隔の推定には,平均隆起速度が重要で,室津港のデータに対しては13 mm/年となる.Shimazaki and Nakata (1980)では,これが応力蓄積速度に対応するものと考えられている.一方,弾性反発説に従えば,地震間の応力蓄積速度は室戸岬周辺の水準測量や験潮による沈降速度に比例する.しかし,これは前述のように5〜7 mm/年であり,平均隆起速度と大きな差がある.室戸岬周辺の地震時隆起には,弾性反発による隆起と残留隆起(=塑性変形)が含まれる.弾性変形は5〜7 mm/年の沈降速度に等しいと考えられるので,これを除いた量が塑性変形となる.余効変動を無視すると,宝永地震では最大約0.7 m,安政地震は約0.6 mの残留隆起があることになる.前杢(2001)の室戸岬周辺のヤッコカンザシの化石群体データからは,1,000年以内に1m以上の隆起は確認できない.また,塑性の力学に従うと,降伏応力を超えると変形と応力の比例関係は崩れるので,単純に残留隆起と地震の規模等との比を取ることは適切でない. 第2版の議論では,Scholz(1990)の時間予測モデルに否定的な研究なども取り上げられた.さらに,南海トラフ全体をひとまとめにして扱うことにしたので,第1版と同じ考え方で時間予測モデルを適用するのはおかしい,という指摘もあった. これらの批判的な議論が大勢を占め,分科会は時間予測モデルの採用に反対した.そして,他の海溝型地震や活断層の評価と同様に,再来間隔の平均値を用いた確率評価を使うべきであると結論した.この場合,確率は大きく低下する.このため,その後の地震調査委員会と政策委員会関係者の会議において,時間予測モデルの結果を採用する方針が決まった.筆者は,科学者と防災政策関係者との会議で,このような判断をしたことを批判するものではない.南海トラフの地震サイクルについての科学的知見が十分でなく,実際に90年で再来した事実がある以上,防災政策面からの議論が優先しても致し方ない,と考える.しかし,報告書にはこの経緯が記載されていない.筆者はこの経緯の記載を強く主張したが,受け入れられなかった.結果的に,あたかも科学的な判断のみで結論されたと見做される状況を招いてしまった.このことこそ,批判されるべきである.
著者
三反畑 修 綿田 辰吾 佐竹 健治 深尾 良夫 杉岡 裕子 伊藤 亜妃 塩原 肇
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

1. はじめに 鳥島近海地震(M5.6-5.7)は伊豆・小笠原島弧上の鳥島近海に位置する海底火山体の地下浅部で、ほぼ10年に一度観測されている、火山性の津波地震である。最新のイベントは2015年5月2日(JST)に発生した。本発表では、この地震により発生した津波の観測データに基づく、津波解析の詳細を報告する。なお、火山性津波地震の観測からメカニズム提唱までを含む本プロジェクトの概要は、深尾らによる別途発表に譲る。2. 津波観測 2015年の鳥島地震に伴って発生した津波は、伊豆小笠原諸島沿いの島嶼部を中心に、潮位計等で数十cm程度の津波が観測され、特に八丈島八重根港では約60cmの最大振幅を記録した(JMA, 2015)。一方で、我々が震央距離約100kmの深海底に展開した計10点の水圧計アレーでも、高精度の津波記録の観測に成功した。アレーで観測された津波波形は、数mmの負の信号から始まり、2.0 cm程度の正の信号が続き、同程度の振幅の後続波を伴っていた。そこで我々は、アレーで記録された津波波形を用いて解析を行い、鳥島地震に伴う地殻変動に伴う海水面擾乱、すなわち津波波源のモデル化を行った。3. 津波の分散性を考慮した津波波線追跡 まず津波の分散性を考慮して、アレーの津波波形から低周波数成分から順に高周波数成分の位相走時を読み取り、平面波近似によってアレーへの入射方向を調べると、低周波位相ほど、震央と観測点位置を結ぶ大円方向から、入射方向が大きく外れることがわかった。我々は、分散性を含む線形重力波の位相速度式を用いて局所的津波位相速度場を再帰的に計算し、周波数ごとに津波波線追跡を行うことで、特に海溝沿いの深海部で位相速度が周波数によって大きく異なることが、これらの周波数特性の原因であることを明らかにした(Sandanbata et al., 2018, PAGEOPH)。 さらに、走時および入射方向の周波数依存性をもっともよく説明する点波源位置をグリッドサーチによって調べると、点波源は直径8km程度の円形をしたスミスカルデラのリム内に精度良く求まった。仮に点震源をカルデラ外にずらすと、走時と入射方向を同時に説明することはできなかった。一方、津波初動の入射方向も同様に調べ、それを初期値としてアレーから波線を射出し、初動の走時分だけ逆伝播させると、カルデラリム北端近傍に達した。これらの結果は、鳥島地震に伴う隆起現象はスミスカルデラの内部で主要な隆起が発生し、その広がりはリムと同程度の広がりがあったことを示唆する。4. 津波波形差分計算による津波波源モデリング 次に、津波伝播差分計算を行い、鳥島地震に伴う津波波源をより詳細に調べた(Fukao et al., 2018, Sci. Adv.)。上記の結果を踏まえて、スミスカルデラの中心を中心軸とする軸対象の津波波源とし、アレーでの波形記録を考慮して、ガウシアン型の中心隆起とそれを囲む微小な環状の海水面沈降から成る軸対象波源モデルを仮定した。この中心隆起の振幅Aおよび隆起域の半径Rのパラメタを変化させ、差分計算コードJAGURS(Baba et al., 2015, PAGEOPH)を用いて分散性を含む線形ブシネスク方程式を解いた。 様々なパラメタを仮定した時のアレーでの計算波形と観測波形の規格化最小二乗和を計算し類似度を定量化すると、R=4.1kmおよびA=1.5mの時に最小値をとり、計算波形はアレーでの観測波形を非常によく再現した。この隆起域半径R=4.1kmはカルデラ半径とよく一致し、鳥島地震に伴って、スミスカルデラ内で1mを超える大きな隆起現象が発生したことが明らかになった。5. 八丈島八重根港での津波波形 続いて、アレー記録を用いて推定した波源モデルを与えた時に、約60cmの最大波高が記録された八丈島の八重根港での津波波形を説明できるかを調べた。この際、国土地理院の数値標高モデル(DEM)と、日本水路協会の海図を組み合わせて作成した複雑な湾口の地形データを用い、非線形効果も含めJAGURS(Baba et al., 2015)を用いて津波伝播計算を行った。その結果、計算波形は振幅・位相を含めて後続波まで、観測波形をよく再現した。6. 津波解析のまとめ 以上の結果は、2015年鳥島地震に伴う地殻変動について重要な情報を与える。第一に、この地震伴い1mを超える隆起現象がカルデラ内に集中していることが明らかになり、鳥島近海地震はカルデラ地形に関係する火山活動が発生したことを示唆する。第二に、少なくともカルデラ周囲の北東側には、無視できない規模の沈降が含むことが明らかになった。これはCLVD型の震源メカニズムとも調和的な結果である。深尾らの発表で、以上を踏まえ、火山性津波地震のメカニズム提唱を行う。
著者
山本 圭吾 松島 健 吉川 慎 井上 寛之 手操 佳子 園田 忠臣 波岸 彩子 堀田 耕平 市村 美沙 森田 花織 小池 碧 古賀 勇輝 渡邉 早姫 大倉 敬宏
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

平成26年度より開始された「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」における課題「桜島火山におけるマグマ活動発展過程の研究」の一環として,昨年度に引き続き,2017年11月に桜島火山において一等水準測量の繰返し観測を実施した.本講演では,この測量の結果について報告し,2016年11月に実施した前回測量以降の桜島火山の地盤上下変動について議論する. 水準測量を実施した路線は,桜島西部山腹のハルタ山登山路線,北部山腹の北岳路線の2路線である.路線総延長は約24 kmであった.これらの路線を,2017年11月1日~13日の期間において測量に当たった.測量方法は,各水準点間の往復測量で,その往復差は一等水準測量の許容誤差を満たすようにした.近年の水準儀は測量精度も向上しており,これらの器材を用いて注意深く測量を行った結果,測量における誤差は,1 km当りの平均自乗誤差が,ハルタ山登山路線および北岳路線においてともに±0.22 mm/km,水準環閉合差はハルタ山登山路線において時計回りに0.9 mm(許容誤差7.6 mm)となり,高精度の一等水準測量を行うことができた. 桜島西岸の水準点BM.S.17を不動点(基準)とし,各水準点における比高値を,前回の2016年11月に行われた測量結果(山本・他,2017)と比較することで,2016年11月から2017年11月の期間の約1年間における地盤上下変動量を計算した. 計算された地盤上下変動量から,桜島北部付近の水準点において,地盤隆起(最大で4.5 mm)が生じていることが確認された.前々回から前回測量までの2015年8月・9月から2016年11月の期間においては,1年2~3ヶ月間と多少1年間よりも期間が長いものの,北岳路線のこの付近の水準点において15 mm程度の地盤隆起が測定されていた.このことを考えると,2017年11月までの1年間の桜島北部付近の隆起速度は,それ以前の1年間に比べて減少していると考えられる.一方で,桜島中央部付近においては,若干の地盤沈降(最大で-2.6 mm)が認められる. 茂木モデルに基づき,得られた上下変動量データから圧力源の位置を求めた.測量を実施した水準点の空間分布が限られているため試行的な結果であるが,桜島北方の姶良カルデラの地下約10 kmの深さに増圧源が,また南岳地下の浅部に減圧源が推定された.2016年11月~2017年11月の期間,姶良カルデラ地下のマグマ溜まりにおいて引き続きマグマの貯留が進行していることを示していると考えられる.一方で,南岳直下のマグマ溜りにおいては減圧傾向が示唆される.