著者
長谷川 愛 辻屋 徳恵 山森 元博 岡村 昇
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】近年、健康食品のローヤルゼリー(RJ)は様々な効能・効果を発揮するとして注目されているが、抗凝固薬であるワルファリン(WF)との併用で、プロトロンビン時間国際標準化比の延長および血尿などの有害事象が報告されている。しかし、相互作用機序は未だ解明されていない。そこで、ラットを用いて RJ と WF の相互作用について検討した。また WF の作用に関与する VK に着目し、小腸の VK 吸収に関与する Niemann-Pick C1-like 1(NPC1L1)、Scavenger Receptor Class B Type 1(SR-B1)タンパク質発現量を測定し、RJ の投与により及ぼす影響について検討した。【方法】SD 系雄性ラットを用い、WF および RJ の無麻酔下経口投与を 24 時間毎に行い、最終投与翌日の血液を採取し、小腸および肝臓を摘出した。得られた血漿を用いて PT(Prothrombin Time)および APTT(Activated Partial Thromboplastin Time)を測定することで血液凝固能を評価した。さらに、小腸の NPC1L1 および SR-B1 タンパク質発現量を western blotting 法により検討し、血漿中および肝臓中の VK 濃度を測定した。また、SD 系雄性ラットを用い、RJ の経口投与を 24 時間毎に 4 日間行い、RJ 投与 4 日目に、WF の同時投与を行い、WF の投与後から経時的に採血し、血漿中 WF 濃度を測定した。【結果・考察】WF 単独投与(WF)群と比較して WF と RJ 併用投与(併用)群において PT および APTT が有意に延長した。また、小腸における NPC1L1 および SR-B1 タンパク質発現量は WF 群と比較して併用群において低下する傾向を示した。血漿中および肝臓中の VK 濃度は、Control 群と比較して併用群で有意に低下した。また、WF 群と比較して併用群において、さらに低下する傾向を示した。 WF 群と併用群の WF の血漿中濃度を測定し、血中濃度-時間曲線下面積(AUC)比較したところ、併用群において有意に上昇した。 以上の結果から、RJ と WF を併用することで、PT および APTTを延長し、WF の作用増強が示唆された。RJ を投与することで小腸における NPC1L1 および SR-B1 タンパク質発現量低下が認められたことにより、VK 吸収量が低下し、血漿中および肝臓中の VK 濃度が低下する可能性が考えられた。また、RJ の併用により、WF の AUC が上昇したため、RJ による WF の薬効増強は動態学的相互作用も関与することが示唆された。
著者
杉中 佑輔 石綿 しげ子 鈴木 正章 堀 伸三郎 中山 俊雄 遠藤 邦彦
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

武蔵野台地の地形については,貝塚(1964)をはじめ多くの研究があり,淀橋台に代表される下末吉面(S面),M1面,M2面,中台面に代表されるM3面に大きく区分されてきた.最近,遠藤ほか(2018)はこの区分を再検討し,もともとの扇状地面を小平面(M1a;植木・酒井,2007)とし,さらにM2面として仙川面,石神井面等を分け,さらにM3面として中台面以外に十条面等を設定した.この武蔵野台地は多摩川の作った扇状地であることが知られているが,武蔵野台地北東端に位置する赤羽台及び本郷台の一部は扇状地の先端部にしては極めて平坦で特異である.貝塚(1964)はこの特異性について,赤羽台及び本郷台は入間川か荒川のような南東に流れた河川の氾濫原ないし三角州ではないかと述べている.杉原ほか(1972)では赤羽台北西端崖周辺での露頭調査及びボーリング柱状図により,東京層の上面に起伏を持ち,関東ローム層と東京層の間に認められる礫を含む砂よりなる赤羽砂層の層厚に変化があることが報告されている.赤羽台及び本郷台を含む武蔵野台地北東部はM2面とされてきたが,国土地理院の5mDEMに基づき作成したRCMap(杉中ほか,本大会),さらに陰影起伏図等を用いた地形解析を行ったところ,従来の考え方とは異なる地形発達が想定されることが分かった.明らかになった地形面としては,本郷台の中にとり残された淀橋台相当の残丘(S面),神田川沿いに西から東に延びる扇状地面を発達させるM1面,石神井川沿いに西から東に延びるM2面(a,bに細分),赤羽台から上野につながるM2面,本郷台と赤羽~上野の狭い台地に挟まれたM3面,石神井川が谷田川に沿って流れていた時代の沖積面などである.平坦な地形で特徴づけられてきた赤羽台をRCMap等で微地形判読を行ったところ,蛇行する流路と微高地に分けられる(流路の面を十条面と呼ぶ).また,王子から不忍池の間では谷田川の低地の両岸に十条面を追跡することができ,根津や東大病院の建つ面と対比することができる.東大構内については阪口(1990)で検討がなされており,病院面はM2面とされていた本郷台よりも低い面で,M3面に相当するものと示唆されている.この十条面を横断するように赤羽台の地質断面図を多数作成し、検討を行ったところ,十条面を挟む微高地を成すM2面構成層とは不連続な谷地形であることがわかった.この十条面は比較的薄いローム層で覆われ,礫層・礫混じり砂層を主体に構成される.さらに王子から不忍池にかけても同様に検討を行ったところ,同様に谷地形が確認された.このように赤羽~王子~根津を結ぶ谷はMIS4と考えられてきたM3面の化石谷であるといえる.この谷を秋葉原方面へ沖積低地地下に追うと,総武線付近で-5m前後に谷地形と礫層が確認される.この谷地形は東京層を穿つもので薄い礫層を伴い,その上部は縄文海進時の波食の効果で削られている.この化石谷は幅300m程度と狭く,荒川が流下したというより入間川規模の河川の流下が考えやすい.しかしながら、上流部は縄文海進時などにおいて侵食されてしまっている.参考文献遠藤邦彦・石綿しげ子・堀伸三郎・中山俊雄・須貝俊彦・鈴木毅彦・上杉陽・ 杉中佑輔・大里重人・野口真利江・近藤玲介・竹村貴人(2018本大会)東京台地部の東京層と,関連する地形:ボーリング資料に基づく再検討.貝塚爽平(1964)東京の自然史.紀伊国屋書店阪口豊(1990)東京大学の土台―本郷キャンパスの地形と地質.東京大学史紀要,第8号,1-34杉原重夫・高原勇夫・細野衛(1972)武蔵野台地における関東ローム層と地形面区分についての諸問 題.第四紀研究,11,29-39杉中佑輔・堀伸三郎・野口真利江・石綿しげ子・遠藤邦彦(2018本大会)レインボーコンターマップ (RCMap)による地形解析とその応用.植木岳雪・酒井 彰(2007)青梅地域の地質.地域地質研究報告(5 万分の 1 地質図幅),産総研地質調 査総合センター
著者
長澤 祐季 中川 量晴 吉見 佳那子 玉井 斗萌 吉澤 彰 山口 浩平 原 豪志 中根 綾子 戸原 玄
雑誌
一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会
巻号頁・発行日
2020-09-30

【目的】加齢や嚥下障害により,医薬品の服用や食事にとろみ調整食品(以下とろみ剤)を用いることは少なくない。先行研究により,とろみ剤が薬効を減弱させる可能性や,キサンタンガムを含有する濃厚流動食品が,含有しないものと比較して血糖値の上昇を抑制する可能性が報告されている。しかしながら,とろみ剤が栄養の吸収にどのような影響を及ぼすかについては,不明な点が多い。そこで今回,ラットの発育と飼料形態の関連性を検証するために,基礎的研究を実施した。【方法】4週齢雄性SDラットを4〜5匹ずつ4群に分け,液体飼料(C社製),0.5,1,1.5%とろみ調整飼料(液体飼料にとろみ剤・N社製を添加)を用いて,3週間飼育した(A群:液体飼料,B群:0.5%とろみ飼料,C群:1%とろみ飼料,D群:1.5%とろみ飼料)。餌は100kcal/日に揃えすべて経口摂取させ,水は自由摂取とした。液体飼料ととろみ調整飼料の摂取開始翌日をx日として体重を経時的に測定し,体重増加割合(%)を用いて飼育期間中の発育状況の変化を評価した。実験終了時に解剖し肝,腎,精巣上体脂肪重量の測定と血液生化学的検査を行い,体重増加割合(%)とともに各群間で相違があるか統計学的に検討した。【結果と考察】x+7,x+14,x+21日目における体重増加率はA群と比較してD群で低値な傾向を示した。また腎臓重量はA群と比較してD群で有意に低値となり,肝臓,精巣上体脂肪重量は各群間で相異を認めなかった。血液生化学検査では,TG(mg/dL)がA群と比較してC,D群で有意に低値を示した。本研究結果より,液体飼料と比較してとろみ剤を添加した飼料は体重増加および腎臓重量の増加を制限する可能性があり,脂質代謝の状態を反映している血中TG濃度を有意に低下させることが明らかとなった。これはショ糖食投与ラットに対するグアガム-キサンタンガム混合物の血中脂質低下効果の報告と同様の結果である。とろみ剤が含有するキサンタンガムは高粘性の難消化性多糖類であり,腸管上粘質性糖タンパク質と混ざり合い被拡散水層の厚さを増すことが吸収阻害の要因の一つと考えられる。また今回与えた液体飼料は25kcalが脂質であり脂質の吸収抑制により総カロリー数が減少し体重増加率の減少が起こったと示唆される。(COI開示:なし)(東京医科歯科大学動物実験委員会承認 A2019-270A)
著者
池澤秀起 高木綾一 鈴木俊明
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【はじめに,目的】肩関節疾患患者の上肢挙上運動は,肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして,僧帽筋下部線維の筋力低下が挙げられるが,疼痛や代償運動により患側上肢を用いた運動で僧帽筋下部線維の筋活動を促すことに難渋する。そこで,上肢の運動を伴わずに僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として,腹臥位での患側上肢と反対側の下肢空間保持が有効ではないかと考えた。その結果,第47回日本理学療法学術大会において,腹臥位での下肢空間保持と腹臥位での肩関節外転145度位保持は同程度の僧帽筋下部線維の筋活動を認めたと報告した。また,第53回近畿理学療法学術大会において,両側の肩関節外転角度を変化させた際の腹臥位での下肢空間保持における僧帽筋下部線維の筋活動は,0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大したと報告した。一方,先行研究では両側の肩関節外転角度を変化させたため,どちらの肩関節外転が僧帽筋下部線維の筋活動に影響を与えたか明確でない。そこで,一側の肩関節外転角度を一定肢位に保持し,反対側の肩関節外転角度を変化させた際の僧帽筋下部線維の筋活動を明確にする必要があると考えた。これにより,僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す因子を特定し,トレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は上下肢,体幹に現在疾患を有さない健常男性16名(年齢25.6±2.1歳,身長168.5±2.5cm,体重60.4±6.7kg)とした。測定課題は,利き腕と反対側の下肢空間保持とした。測定肢位は,腹臥位でベッドと顎の間に両手を重ねた肢位で,下肢は両股関節中間位,膝関節伸展位とした。また,空間保持側の上肢は肩関節外転0度で固定し,反対側の上肢は肩関節外転角度を0度,30度,60度,90度,120度と変化させた。肩関節外転角度の測定はゴニオメーター(OG技研社製)を用いた。測定筋は,空間保持側と反対の僧帽筋上部,中部,下部線維,広背筋とした。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は,1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。また,5つの角度における全ての筋電図積分値相対値をそれぞれ比較した。比較には反復測定分散分析及び多重比較検定を用い,危険率は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し,同意を得た。【結果】僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は,肩関節外転角度が0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大した。広背筋の筋電図積分値相対値は,肩関節外転角度が30度,60度,90度,120度に対して0度で有意に増大した。僧帽筋上部線維,僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は,全ての肢位において有意な差を認めなかった。【考察】先行研究と今回の結果から,腹臥位での下肢空間保持における僧帽筋下部線維の筋活動は,空間保持側と反対の肩関節外転角度の影響が大きいことが判明した。つまり,腹臥位での下肢空間保持は,空間保持側と反対の肩関節外転角度を考慮することで僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことが出来る可能性が高いと考える。まず,腹臥位での下肢空間保持は,下肢を空間保持するために股関節伸展筋の筋活動が増大する。それに伴い骨盤を固定するために空間保持側の腰背筋の筋活動が増大し,さらに,二次的に脊柱を固定するために空間保持側と反対の腰背筋や僧帽筋下部線維の筋活動が増大することが考えられる。このことを踏まえ,僧帽筋下部線維の筋活動が肩関節外転0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大した要因として,肩関節外転角度の変化により脊柱を固定するための筋活動が広背筋から僧帽筋下部線維に変化したのではないかと考える。広背筋の筋活動は肩関節外転30度,60度,90度,120度に対して0度で有意に増大したことから,肩関節外転0度では脊柱の固定に広背筋が作用したことが推察される。一方,肩関節外転角度の増大により広背筋は伸長位となり,力が発揮しにくい肢位となることが推察される。また,広背筋は上腕骨,僧帽筋下部線維は肩甲骨に停止することに加え,肩甲上腕リズムから肩関節外転角度の増大に対して,広背筋は僧帽筋下部線維と比較し伸長される割合が大きいことが推察される。その結果,肩関節外転角度の増大に伴い脊柱を固定するために僧帽筋下部線維の筋活動が増大したのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】腹臥位での下肢空間保持において,僧帽筋下部線維の筋活動は先行研究と同様の結果であったことから,空間保持側と反対の肩関節外転角度が僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す要因となる可能性が高いことが示唆された。
著者
日根野谷 一 道田 将章 池本 直人 吉田 悠紀子 落合 陽子 大橋 一郎 片山 浩
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】急性感染性電撃性紫斑病(acute infectious purpura fulminans; AIPF)とは感染症により、四肢遠位部の虚血性壊死が、二肢以上で同時に侵され、近位の動脈閉塞を伴わない病態である。原因菌では髄膜炎菌が最も多いがA群β溶連菌(group A streptococci: GAS)や真菌、ウイルスなど様々である。AIPFの死亡率は約40%で、さらに敗血症性DICに至った症例の死亡率は約50%と報告があり、AIPFは最重点に置くべき病態である。【臨床経過】(患者)84歳、女性(主訴)右足背の違和感(現病歴)来院前日の夜間から右足背の違和感と疼痛、水泡形成を自覚、近医受診した。しかし、収縮期血圧約70mmHg、SpO2 85%(room air)、呼吸数30回/分以上と急変。前医へ紹介受診されるが、さらに悪寒戦慄と右下肢の水泡と新たに発赤の拡大を認め当院へ救急搬送(入院時現症)意識レベル:E4V5M6、SpO2:89%(10L/min O2マスク)、血圧:90/54(ドパミン、ノルアドリナリンそれぞれ最大量)、脈拍:110回/分、体温:38.6℃、両足背から下腿遠位にかけて有意な腫脹、発赤、水泡形成を認めた。両足背および後脛骨動脈の触知は不可だったが膝窩動脈の触知は可能(既往歴)発症1週間前に右第1足趾の外傷(入院後経過)初日、全身麻酔下で筋膜切開術を施行。術後はICUにて人工呼吸管理を行なった。抗菌薬は、ABPC 8g/日およびCLDM 2400mg/日投与を開始した。急性期DICスコアが6点より、AT-3製剤1500単位/日、トロンボモジュリン製剤19200単位/日の投与を第6病日まで行ない、その後適宜スコアを見ながら投与を行った。第2病日、急性腎傷害より持続的腎代替療法を導入。第3病日、第1病日の血液培養よりGASが検出、届出を行なった。その後壊死範囲の拡大により第5病日、膝上右下腿切断術を施行。第10病日、断端部陰圧閉鎖療法を開始した。第13病日、非閉塞性腸管虚血症が発症。パパベリンの持続投与を行なった。また、創部よりCandidaが検出。MCFG 100mg/日の投与を開始した。第20病日、AMPH 200mg/日に切り替えた。その後も治療の再検討を行なうが、DICの進行、敗血症性ショックにより第41病日、永眠。【結語】AIPFの死亡率は高く、さらに敗血症性DIC合併例の救命は困難である。本症例も救命できなかったが、AIPFの死亡例の大半は発症後2日以内であることより、救命できた可能性はあった。しかし、重大な合併症を発症した場合救命はさらに厳しいので注意が必要である。
著者
池田 宥一郎 飯塚 博幸 山本 雅人
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

近年の情報科学の発展は,動物行動学の研究に大きく寄与している.我々は札幌市円山動物園において人工知能により動物を管理する負担の軽減を試みを行っている.我々の目標の1つは,健康管理と飼育環境の整備のためにチンパンジーのエソグラムを自動的に作成することである.エソグラムとはある特定の個体や種の全行動パターンの目録であり,動物の行動を研究するうえでもっとも基本的な記録である. エソグラムの作成には個体識別が必要があるため,本研究では画像認識分野で高い精度を出している畳み込みニューラルネットワークを用いて個々のチンパンジーを認識できるか検証した。 実験の結果,我々のシステムはチンパンジーの個体識別が可能であることを示した。