著者
大野 元己
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.54-64, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
49

本稿では,人-機械のインタフェース・インタラクションを人工知能の観点から議論する既存の研究を,各学問分野および具体的な応用技術から書籍を中心に紹介する.第2章では3つの学問分野(エスノメソドロジー,認知科学,ヒューマンエージェントインタラクション)の,第3章では社会に実装され始めている2つの応用技術(コミュニケーションロボット,自動運転)の議論を概観する.各学問分野や応用技術の議論におけるアプローチは異なるが,いずれも独立した主体の内部のモデルのみに着目するのではなく,外部の環境を内包した状況付けられた人-機械の関係性を強調している.また,応用技術の研究では人-機械のインタラクションのあり方に関する社会的・倫理的議論が積み重ねられている.
著者
安藤 英由樹
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.108-119, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
17

「情報技術」は人間の知的作業に効率性をもたらす一方で,利用者の心的状態への負の影響も持ち得ることが指摘されている.一方で心理学の分野では心の良い状態を示すためのWellbeing指標が検討されており,これを情報技術に実装するPositive Computingの試みが始められている.しかしながらその設計指針については文化的背景に依存するだけでなく,そもそも定量化された心的状態の最適解を与えて,それに従わせることでは本質的な解決にならない.そこで,本稿ではWellbeingを促進する情報技術の方法論のあり方として,ヒトの無意識に着目した方法論について検討を行った.
著者
藤堂 健世 江間 有沙
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.81-95, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
18

現在,IT人材育成とそれに伴う「創造性」の習得が幅広い年齢層に求められている.本研究では,「プログラミング教育」で育む創造力を「タスクわけワークショップ」の作業を用いて可視化できるか検討した.中学生,人工知能学会全国大会学生企画セッションの参加者,大学院生を対象にしてワークショップを行った.そのタスクわけ作業の結果を,①タスクの増え方の特徴,②集団ごとのタスクわけの特徴,③感想文の読み取りの3点から分析した.その結果,特に中学生は「経験からタスクを広げる」能力が他の集団に比べて低いことがわかった.またすべての集団において,タスクを構成しているサブタスクに分割する力が同程度であることが読み取れた.このように,タスクわけ作業の分析をすることで各グループの持っている創造力を可視化することができた.これらの知見を利用し,プログラミング的思考に必要な創造力の可視化を行うことで,児童・生徒の主体的な学びにつながることを示唆した.
著者
美馬 達哉
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.66-77, 2018-11-20 (Released:2019-12-02)
参考文献数
18

ベックやギデンズのような社会理論家が提唱したリスク社会論は,1980 年代以降の現代社会を科学技術の巨大化によるグローバルなリスクの出現として特徴付けた.そして,リスク社会を統治するために専門家支配でも民主的多数決でもない専門家と市民社会との公共的な関わり方を可能とする仕組みを構想し,その点で科学技術社会論にも大きな影響を与えた.本稿では,フーコーの言うバイオポリティクス論を援用して,このタイプのリスク社会論を批判的に検討し,現代社会における個人化されたリスクのマネジメントが「方針・説明責任・監査」の三角形による自己統治であることを示した.こうした状況は,リスクそれ自身の変容の結果ではなく,よりよい未来を夢見るユートピア的な構想力の衰退の帰結と考えられる.
著者
木原 英逸
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.47-65, 2018-11-20 (Released:2019-12-02)
参考文献数
48
被引用文献数
1

科学技術論STSにとって,科学/技術の民主(政治)的統治は中心的な問いであり続けてきた.しかし,この問いをどう理解し実践するかの点で,1990 年代に立ち上がった日本のSTS「科学技術社会論」は,それまでの「科学論/技術論」との違いを強調して断絶へ向かう志向が強い.まず,「社会問題/社会運動の社会構築主義」の影響で,権力理解が「フレーミング」のような観念に偏った結果,財や力が大きく働く現実が見えにくくなった.また,マクロな社会構造に説明を求めない結果,誰もがその下に置かれている構造をともに変えるために連帯する政治が見失われている.見失ったに止まらず,代わって,ネットワーク社会の民主的自己統治である「ガバナンス」政治を,そしてそのなかで科学技術の「ガバナンス」を目指した結果,連帯する政治を切り崩してさえいる.ガバナンスの技法として考案された,影響を受ける者たちのデモクラシーである「討議民主政」に順い,すべてのステイク・ホルダー,すなわち影響を受ける者の声に応える責任として,「技術者倫理」や「科学者の社会的責任」を唱えてきたからである.「科学技術社会論」に見られる,こうした政治や民主政や倫理についての理解の偏り,狭さを指摘する.
著者
本堂 毅
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.118-126, 2009-10-20 (Released:2021-08-01)
参考文献数
8

In a judicial trial, science meets society. As an expert witness, the author appeared before the judge and experienced how science was treated in a court. From the experience, and from the survey on the records of adjudication and submitted scientific evidences into courts, the author found the lack of fairness in scientific discussion in a court. The author reports and discusses the problems in the following order: 1) why science is required into a court, 2) typical scientific discussion in a Japanese court, 3) conflict between Japanese rules of civil procedure and the fairness of scientific discussion, 4) false image of science in a judicial circle, 5) the relation between the expected role of expert witness and scientist’s code, 6) the problem of the traditional science education, which has led misunderstanding of science in a judicial circle. Finally, we discuss the need for cooperative action between scientists and lawyers.
著者
藤村 宣久
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.70-78, 1990-07-25 (Released:2017-07-13)
被引用文献数
1

A longitudinal study was done to investigate the formation process of two concepts concerning intensive quantity, velocity and thickness, in children. For the study subjects were 38 elementary school children in the fifth grade. Two kinds of comparison tasks about intensive quantity and three kinds of logical operation tasks were administered three times semiannually. The results showed that learning of verocity in the classroom affected the formation process of these two concepts, that inverse intensive quantity came to be understood especially in velocity from fifth to sixth grade, and that some errors in thickness were caused by some imperfectness of logical operation. In general, the transiton from one stage to the next was gradual and there were various transition types in the formation process of each concept.
著者
中津 真美 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.69-77, 2020-02-28 (Released:2020-03-13)
参考文献数
20

要旨: 聴覚障害者の親をもつ健聴児 (CODA) 104例を対象に, 親への通訳役割の実態と課題について後方視的に調査を行い, 関連する要因を検討した。その結果, CODA は幼児期 (平均6.48歳) から親の通訳役割を担い, 通訳は生活の多岐にわたり, 併せて親の代理交渉を伴うなど, 成長期に心理的負担となっていた。聴覚障害の親との会話では, 手話法が92例 (88.5%), 聴覚口話法が74例 (71.2%) であり, 一方で身振りや筆談等が併用され, 会話が十分に成立する例は半数と少なく, 会話に課題が示された。重回帰分析により通訳頻度には, 両親が聴覚障害者, 通訳開始年齢が低いという変数が関与し, 親子の会話には, 両親が聴覚障害者の変数が関与した。聴覚障害の親に対しては養育への早期支援, 小児期の CODA に対しては, 通訳負担の軽減と心理的ケアおよび親子の円滑な会話成立の支援が必要であり, 当事者組織や関係する専門家による的確な助言や支援体制の整備が喫緊の課題であると示唆された。
著者
阿部 裕幸 筒井 康賢 吉識 晴夫
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.59, no.567, pp.3388-3392, 1993-11-25 (Released:2008-03-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1

The Agency of Industrial Science and Technology, Ministry of International Trade and Industry has been researching and developing three types of 300kW ceramic gas turbines since 1988. The turbine blade's Reynolds numbers based on the basic design are predicted to be in the region of l04∼105. In the field of wind turbines, for example, some studies on the characteristics of airfoils at low Reynolds numbers have been carried out. However, it is not yet obvious how the turbulence affects the characteristics of airfoils. This paper describes the experimental results obtained with use of turbulence screens. It is found that laminar seperated flows, in some cases, reattaches to airfoils by raising turbulence intensity of free stream at Reynolds numbers of 0.5×105 and 1×105, and that lift to drag ratios increase further.
著者
山本 格
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.3, pp.160-165, 2008 (Released:2008-09-12)
参考文献数
18
被引用文献数
4 4

ビタミンC(アスコルビン酸)は,酸素および活性酸素あるいは,その反応物質と容易に化学反応(酸化還元反応)を起こし,相手を還元することがその役割である.人類は1200~800万年前に進化の過程でその合成能を失い,ビタミンCを外部から摂取しなければ生命維持ができなくなった.その結果,人類は酸素に弱いビタミンCを如何に酸化分解されていない状態のままで摂取し機能を発揮させるかという切実で大きな課題と向き合って来た.1989年,我々は安定・持続型のビタミンC誘導体(AA-2G)の創製に成功した.AA-2Gは1994年には,医薬部外品(美白化粧品)として,2004年には食品添加物として厚生労働省によりその使用が許可されるに至った.さらに,1999年には親油性ビタミンC誘導体(6-Acyl-AA-2G)の合成に成功し,現在その工業的生産法と用途開発が進行している.近年,健康や食の安全,環境保全への意識が高まる中,国立大学の特殊行政法人化に伴い,大学発ベンチャーが奨励される状況となってきた.それを受けて,AA-2Gの発明者とその仲間は,種々の有用な新規ビタミンC誘導体,ならびに疾病予防を目的とした新規機能性物質の研究,リラクゼーションを目的とした研究開発,商品開発ならびに販売事業を行うべく起業(2004年9月)し,ベンチャー企業支援施設である「岡山リサーチパークインキュベーションセンター,ORIC」に入居し活動を開始した.本稿ではビタミンC誘導体の発明から大学発ベンチャーの立ち上げと保健機能性食品の誕生までの道程を述べる.
著者
宗 健
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会 全国研究発表大会要旨集 2020年全国研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.125-128, 2021-01-28 (Released:2021-01-18)

DXを「データとITを使いこなし、新しい価値を創造すること」と定義するのが適切だと考えられる。DX組織はトップが極めて重要な役割を担うが、適切な人材が社内にいない場合が多いため社外からのヘッドハンティングによる招聘が必要になる。人材の採用においては充分な年収と自由な勤務等を保証することが人材獲得競争力確保のための必須条件である。また、新しい価値の創造を促進するためには、人材採用の判断や組織運営などをDX組織に権限委譲し、細かい人事管理を行わない、自由で失敗を許容する組織マネジメントが必須である。