著者
藤井愛子
雑誌
サイエンスキャッスル2018
巻号頁・発行日
2018-11-21

<考察・展望>タコの吸盤のように、吸盤の中に小さい吸盤があるからこそ、強力な吸盤となる。また、生のタコは吸い付く力が強い一方で、熱を通したタコの吸盤は、たとえ同じ構造が残っていても、吸い付く力は無い。これは柔らかさの違いによるものであり、タコの吸盤の構造と、同様の柔らかさを持つ物質を利用することで、強力な吸盤を作ることができると考える。
著者
島田 薫 柄澤 智史 田中 久美子 松村 洋輔 大島 拓 織田 成人
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】集中治療室(ICU)における特発性腸腰筋血腫は抗凝固薬や抗血小板薬の投与、腎代替療法、高齢がリスク因子と考えられており、発生頻度は0.3%と稀ながら、致死率は30%との報告もある。当科でも診療機会が増えているが、典型的な臨床所見が明確でないことから、診断に苦慮することも多い。【目的】当院ICUで経験した症例から特発性腸腰筋血腫の臨床的特徴を明らかにする。【対象と方法】2016年4月1日から2018年9月15日の期間に当院ICUに入室した患者のうち、特発性腸腰筋血腫と診断された患者を診療録から後方視的に抽出した。【結果】対象期間中のICUの延べ入室患者数は4529例で、うち6例(男性4例)で特発性腸腰筋血腫を認めた。発症頻度は0.1%だった。平均年齢は66歳、いずれも片側発症で、右側5例、左側1例だった。発症前から全例でヘパリン、4例でステロイドが投与されており、4例で腎代替療法が施行されていた。自覚症状から診断に至った症例は4例で、呼吸困難、腰痛と腹部膨満、右側腹部痛、腹部緊満を認めた。他の2例は意識障害を伴う出血性ショック、原因不明の貧血進行から判明した。いずれの症例でも同時に貧血が進行していた。5例に出血性ショックを呈し、4例に血管内治療を施行し止血が得られた。1例は輸血で止血は得られたが腸管虚血を含めた臓器不全が進行し死亡した。血管内治療を施行した例では出血による死亡例はなかった。【結論】特発性腸腰筋血腫は稀な病態で、診断が遅れれば致死的になりうる。ICU患者は自覚症状に乏しい上に、確定診断に有用なCT検査の実施が容易でない場合が多い。一方で、早期に診断できれば止血術により救命できる可能性が高い。自験例では高率にリスク因子を認めた一方で貧血の進行以外に共通する臨床所見はなかったが、ショックを呈した症例は適切な止血術により救命し得た。リスク因子のある症例で貧血が進行した際には、腸腰筋血腫も念頭に置いた原因検索をすすめることが重要である。
著者
山口将希 伊藤明良 太治野純一 長井桃子 飯島弘貴 張項凱 喜屋武弥 青山朋樹 黒木裕士
雑誌
第50回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

【はじめに,目的】関節軟骨は自己再生能力に乏しい組織であり,その再生治療として培養軟骨細胞や間葉系間質細胞(MSC)を用いた細胞移植が注目されている。しかし移植後の物理療法などのリハビリテーションの有効性や安全性については十分に検討されていない。今後,細胞治療が臨床にて適用されるにあたり,再生治療における物理療法やリハビリテーションの有効性を明らかにしていくことは重要な研究課題である。近年,骨折治療で用いられる低出力超音波パルス(LIPUS)を照射することにより軟骨細胞の代謝やMSCの骨・軟骨分化に影響を及ぼすことがin vitro研究にて報告されており,今回我々は骨軟骨欠損した膝関節へのMSC移植後にLIPUSを併用することでin vivoにおいても移植したMSCを刺激し,損傷した骨軟骨の再生を促すのではないかとの仮説を設けた。本報告は細胞治療とLIPUSの併用が骨軟骨欠損の再生に影響を及ぼすかを検討したものである。【方法】8週齢雄性Wistar系ラット12匹の両側大腿骨滑車部に直径1mmの骨軟骨欠損を作成し4週間自由飼育した。その後,全てのラットに対して同種骨髄由来MSC 1.0×106個を右膝関節に注入し,左膝関節には対照群としてリン酸緩衝液を注入した。そして6匹ずつLIPUS照射群と非照射群に分け,対照群,LIPUS群,MSC群,LIPUS+MSC(MSCL)群の4群(各群n=3)を設けた。LIPUS群およびMSCL群には週5回,1日20分間の照射を骨折治療ですでに用いられている設定(周波数1.5MHz,繰り返し周波数1kHz,パルス幅200μ秒,空間平均時間平均強度30mW/cm2)にて行った。介入開始から4,8週後に欠損部の組織切片を作成し,サフラニンO(SO)染色,HE染色および抗II型コラーゲンの免疫組織化学染色を用いて組織を観察した。さらにWakitaniの軟骨修復スコアを用いて修復度合いを数値化し,平均±95%信頼区間にて表示した。スコアは値が低いほど良好な再生を示す。【結果】介入4週間後,各群のスコアは,対照群:8.7±2.36,LIPUS群:4.7±1.31,MSC群:4.7±1.31,MSCL群:4.3±0.65となった。組織観察において対照群では修復組織のSO染色性は深層の細胞周囲に限局し,表層から中間層の多くで線維軟骨様の細胞が観察され,組織表面に軽度から中等度の亀裂が観察された。LIPUS,MSCおよびMSCL群では硝子軟骨様の細胞が多く含まれるようになり,SO染色性も中間層において確認された。また修復組織の厚さも対照群に比べて厚くなっていたが,組織表面に亀裂が観察された。対照群とMSC群において軟骨下骨に軟骨様の組織が侵入している所見が一部見られた。II型コラーゲンの発現は,対照群では深層の一部のみに限局していたが,LIPUS群では修復組織の広範囲において確認できた。MSC群においては表層から中間層で発現の低下が見られた。MSCL群ではLIPUS群同様,修復組織の広範囲で確認できた。介入8週後では各群のスコアは,対照群:7.7±2.36,LIPUS群:7.0±1.96,MSC群:4.7±1.31,MSCL群:4.0±0.00となりLIPUS群で4週に比べてスコアが悪化していた。組織観察では対照群とLIPUS群では線維軟骨様の細胞が多く観察され,修復組織のSO染色性は大きく減弱していた。MSCとMSCL群では硝子軟骨様の細胞が多く観察されていたものの,染色性は大きく減弱していた。MSC群においてのみ軟骨下骨に軟骨様の組織が侵入している所見が一部で見られた。II型コラーゲンの組織観察の結果,対照群では表層から中間層で発現が低下しており,LIPUS,MSC,MSCL群では全層において発現が見られるか,表層での発現の低下が確認された。【考察】介入4週後においてLIPUSは欠損した関節軟骨の修復を促す可能性が示唆された。しかし介入8週後になるとLIPUS群の修復した関節軟骨は劣化しており,骨軟骨欠損に対するLIPUS照射は短期的には効果的だが,修復した軟骨は長期的には維持されないことが示唆された。MSC群の修復した関節軟骨はスコアが保たれていたが,MSC注入とLIPUSの併用は,軟骨修復スコアにおいてはMSC単独の効果と比べてほとんど差が認められなかった。今回の研究条件においてはMSC関節内注入とLIPUS照射の併用による再生への相乗効果は軟骨に対しては限定的である可能性が示唆された。しかし,併用することによりMSC群で見られた軟骨下骨への軟骨様組織の侵入が見られなかったことから,軟骨下骨に対して影響をおよぼす可能性が期待される。本報告は予備実験の段階における結果であり,今回の結果を基に,今後サンプル数およびLIPUS強度などの設定を検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は骨軟骨欠損に対する細胞治療において,物理療法のひとつであるLIPUSの併用が軟骨下骨へ影響を及ぼし,骨軟骨再生に有効である可能性を示唆した。
著者
中川 公恵
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

脂溶性ビタミンの一つであるビタミンKは、側鎖構造の違いにより同族体に分類される。我々が日常的に摂取している主なビタミンKは、緑色野菜に含まれフィチル側鎖を有するビタミンK1(phylloquinone : PK)であり、この他には菌類が合成し発酵食品に含まれるイソプレン単位6〜16個の繰り返し構造を持つメナキノン類(menaquinone-n:MK-n, n=6〜14)、肉類など動物性食品に含まれるビタミンK2 (menaquinone-4 : MK-4) がある。しかし、哺乳動物の組織には、摂取量が極めて少ないMK-4が最も高濃度に存在する。これは、摂取したPKやMK-nが生体内で変換酵素であるUbiA prenyltransferase domain containing protein 1 (UBIAD1) により、MK-4に変換されるためである。摂取したPKやMK-nは、その構造のままで血液凝固因子や骨基質タンパク質の活性化を担うγ-グルタミルカルボキシラーゼ(GGCX)の補因子として働くが、これ以外の生理作用は見出されていない。一方、MK-4はGGCXの補因子活性のみならず、核内受容体steroid and xenobiotic receptor(SXR)のリガンドとして転写調節を行う他、PKAやPKCの活性化、神経細胞分化の促進、がん細胞の増殖抑制など、様々な生理活性を有する。つまり、PKやMK-nが生体内でMK-4に変換されることは、極めて重要な生体内変化であり、MK-4は活性型であると言える。MK-4への変換反応を担う酵素UBIAD1は全身の組織に発現しているが、その欠損は致死的であるだけなく、様々な組織機能変化を引き起こす。本講演では、組織特異的UBIAD1欠損マウスの解析結果から、UBIAD1が関連すると予想される疾患とそれに対するビタミンKの有用性について紹介する。
著者
庄子 聖人 中田 裕之 鷹野 敏明 大矢 浩代 津川 卓也 西岡 未知
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

地震や台風、火山噴火などの下層の現象に伴い、大気波動が生じ、これによって電離圏擾乱が引き起こされることが知られている。火山噴火に伴い、大気波動が生じることは知られているが,火山噴火に伴う電離圏擾乱の観測事例はそれほど多くない。そこで本研究では、火山噴火に伴う電離圏の変動について、全電子数(Total Electron Content(以下TEC))を用いて解析を行った。本研究では、国土地理院のGNSS連続観測システム(GNSS Earth Observation Network : GEONET)より導出されたTECデータを使用した。また、電離圏貫通点は300kmと仮定した。解析に用いたデータは、GEONETの受信点1200点、衛星仰角30度以上の30秒値である。解析対象は桜島で発生した火山噴火4事例(2009年10月3日7時45分(UT)、2012年9月19日1時7分(UT)、2012年12月9日20時25分(UT)、2014年2月12日20時21分(UT))である。噴火の規模は東郡元における空振計データにより評価した。それぞれの事例においてTEC変動を抽出したところ、空振計の圧力変動が大きいほど、TEC変動が大きい事例が多かった。エネルギーが火口からの距離応じて減衰していくため電離圏の変動が火口からの距離と逆相関関係を取ると考えられる。そのため、TEC変動と火口から貫通点までの距離との相関を求めた。その結果、4事例中1事例で距離との逆相関関係はみられたが、3事例は相関関係がはっきりしなかった。これは磁場の影響と、変動の波面と衛星-受信機の視線方向が直角でない2つの影響によるものであると考えられる。これらの影響を取り除くために音波レイトレーシングのデータを算出し補正行った。補正したデータに対し、補正前のデータと同様にTEC変動と火口から貫通点までの距離との相関を求めたところ、4事例中3事例で補正前と比べTEC変動と火口からの距離との間に強い逆相関関係が確認された。しかし、補正したデータにおいて全体の傾向と比べ高い値を示したデータがいくつかみられた。これらのデータはTEC変動に対する磁場の影響を取り除くための補正が他のデータと比べ大きくかかっている傾向がみられたため、補正が効きすぎているのではないかと考えられる。以上の結果より、火山噴火の規模とTEC変動の間には定量的な関係があると考えられるが、多くの場合は磁場と視線方向の影響を補正する必要があることが明らかとなった。
著者
柴田 翔平 長谷川 健
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

摩周火山は,北海道東部に位置し,山頂部に径7.5 km×5.5 kmのカルデラを有する.このカルデラは約7,600年前の大規模噴火(噴出量約20 km3)によって形成された(岸本ほか,2009,山元ほか,2010).従来の研究によるカルデラ形成噴出物の層序は,降下火砕堆積物(Ma-j~Ma-g)とそれを覆う火砕流堆積物(Ma-f)からなる(Katsui et al.1975).摩周カルデラ形成噴火の推移は,岸本ほか(2009)によって,マグマ水蒸気噴火(Ma-j)からはじまり,プリニー式噴火に移行,3層の降下軽石(Ma-i~Ma-g)を堆積させた後,噴煙柱崩壊による火砕流(Ma-f)が流下,摩周カルデラが形成されたと考えられている.一方,長谷川ほか(2017)は,Ma-fを層相の違いから7層(上位からMa-f1~Ma-f7)に細分し,摩周カルデラ形成噴火は従来の噴火推移よりも複雑であった可能性を指摘した.そこで,著者らは地質調査,カルデラ形成噴出物の粒度分析および構成物分析を行い摩周カルデラ形成噴火の推移を再検討した.粒度分析は-5Φ~4Φまでの範囲を1Φ間隔で行い,構成物分析は2~32 mmの粒子を肉眼観察で分類し,重量%を求めた.Ma-f6,Ma-f7は層相の類似する火砕物密度流堆積物(以下,堆積物を省略)で灰色軽石,縞状軽石に富み(それぞれ40~60wt%,5~21wt%),中央粒径(以下,MdΦ)は-1.00Φ~0.89Φ である.Ma-f5(降下火砕物)およびMa-f4(火砕物密度流)は火山豆石を多く含み(それぞれ89wt%,82wt%),軽石,石質岩片には例外なくシルト質火山灰が付着し,マグマ水蒸気噴火堆積物の特徴を有する.Ma-f4のMdΦは,-0.55Φ~3.22Φ であり,下位のMa-f6,Ma-f7よりも細粒な火砕物密度流である.Ma-f3は石質岩片を大量に含む(90wt%以上)礫支持の火砕物密度流で,デイサイト質岩片のほか,深成岩片,変質岩片も含み,しばしば下位層を著しく削り込む.MdΦは,-3.47Φ~-1.37Φ で,極細粒砂~シルト粒子を欠く.Ma-f2はしばしば斜交葉理をともなう火砕物密度流で,細礫サイズの石質岩片を多く含み(70wt%),軽石も含まれる(30wt%).MdΦは,-1.84Φ~1.16Φである.Ma-f1は褐色の火山灰層で,軽石および石質岩片を含み(それぞれ52wt%,48wt%),Ma-f2との層境界は不明瞭で漸移的に色調・粒径が変化する.MdΦは,-1.22Φ~1.80Φである.Ma-f3の上位には例外なくMa-f2,Ma-f1が堆積し,これらは分布域の広さからMa-fの体積の大部分を占めることが分かる.Ma-f下位の降下火砕物の構成物に目を向けると,Ma-i~Ma-gにかけて優勢な本質物質が白色軽石から,縞状軽石,灰色軽石へと変化する.Ma-f1~Ma-f7は,粒度組成および構成物組成からMa-f7~6,Ma-f5~4,Ma-f3~1にグループ分けすることができ,それぞれの境界で噴火様式が変化したと考えられる.Ma-f7~6は灰色軽石と縞状軽石が優勢で,これは下位のMa-i~Ma-gにかけて見られる本質物質の量比変化と連続的であることや石質岩片の種類も一致することから,Ma-i~Ma-f6までは一連の噴出物であると考えられる.噴出率の低下により噴煙柱が崩壊し,Ma-f7,6が流下したと考えられるが,その後,火道への外来水の相対的な流入量が増加し,噴火様式がマグマ水蒸気噴火に変化してMa-f5~4を発生したと考えられる.つづくMa-f3~1では石質岩片量が急増することと, Ma-fの大部分を占めることからカルデラ陥没開始が示唆される。Ma-f3の上位にはMa-f2,Ma-f1が例外なく堆積しており,これらに含まれる構成物は石質岩片の量比が変化するものの,その種類は変化せず,上位にかけてMdΦが細粒になることから,Ma-f3~Ma-f1は高速の火砕物密度流の流動単位,Layer 1~Layer 3(Wilson,1985)に対応すると考えられる.従来の噴火推移と合わせると,摩周カルデラ形成噴火はマグマ水蒸気噴火(Ma-j)にはじまり,プリニー式噴火に移行,降下軽石(Ma-i~Ma-g)を堆積させ,噴煙柱崩壊による火砕物密度流(Ma-f7~Ma-f6)を流下させた.その後,マグマ水蒸気噴火に移行(Ma-f5~Ma-f4),カルデラ陥没にともなう岩塊の放出と火砕物密度流が流下し(Ma-f3~Ma-f1),摩周カルデラが形成されたと考えられる.
著者
阿部琥珀 宇山心海 三村風音
雑誌
サイエンスキャッスル2015
巻号頁・発行日
2015-12-04

タンパク質が耐熱性で化学的に安定なタンパク質をもち、高温条件で生息可能な「好熱菌」は、研究のツールや産業応用としても有用である。日本列島には様々な水質の熱水性温泉が存在し、多種多様な好熱菌が生息していることが考えられる。これまでの研究成果から、有馬温泉の天神泉源(金泉)より、75℃以上で増殖する4種の好熱菌の単離に成功した。16S rRNA遺伝子による系統解析を行ったところ、すべてThermus thermophilusの近縁種であることが明らかになった。また、生育条件を調べたところ、90℃でも生育が可能であり、さらにプレート上でのコロニーの形や色に違いが生まれることを発見した。
著者
押海 裕之 中嶋 桃香 入江 厚
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

ワクチンは感染症予防のために重要であるが、副反応への懸念から接種率が低下することが度々問題となっており、新型コロナウイルスワクチンに対しても副反応への懸念から接種率が高くならないことが危惧されている。ワクチン副反応の大きな要因の一つとして過剰な免疫応答があり、接種局所での炎症の他に、ギランバレー症候群のような神経系に対する自己免疫疾患様の症状もごく稀に発症する。このような免疫応答の個人差は遺伝的要因と環境要因によるが、環境要因については十分に解明されていない。我々はこの環境要因の一つとして血液中に存在する細胞外小胞内の数種類のmicroRNAのバランスが重要であることを発見した。細胞外小胞はmicroRNAを細胞内へと伝達するが、ヒト血液中には免疫応答を制御するmicroRNA濃度が非常に高いことが網羅的解析から明らかとなった。実際に、ヒト血中細胞外小胞内の数種類のmicroRNA量のバランスとインフルエンザワクチン接種後の局所での炎症症状とは有意に相関した。また、マウス動物モデルでは神経系に対する自己免疫疾患の重症度とも血中の細胞外小胞内microRNA量が相関した。今後、血中の細胞外小胞内microRNAを新たなバイオマーカーとして副反応を予測する方法を確立できると期待される。一方で、 我々は新型コロナウイルスに対するペプチドワクチンの開発を進めており、中和抗体を誘導するペプチドのみを用いることで抗体依存性感染増強を誘導することなく予防効果の高いワクチンを作ることが可能かどうかについて動物実験を用いて検証を進めている。ペプチドワクチンと副反応予測方法を組み合わせることで、近い将来に、副反応への懸念から接種率が低下する問題を克服できると期待される。