著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では以下の4点に焦点を当て、核内レセプターの高次機能を明らかにする目的で標的組換えマウスを用い解析を行った。また核内レセプターの細胞核内での機能を明確にする目的で、核内レセプターのリガンド結合による構造変化の解析、及びこの変化を認識する共役因子の同定を行なった。1)脂溶性ビタミンレセプターの高次機能の解析:脂溶性ビタミンDレセプター(VDR)は1種、ビタミンAには6種のレセプター(RARa,b,g及びRXRa,b,g)が存在する。VDRはホモ2量体もしくはRXRa,b,gのいずれかとヘテロ2量体を形成し、ビタミンD標的遺伝子の転写を制御する。このVDR KOマウスは授乳期以降にのみ障害を示すことが明らかになった他、性生殖系に障害がみられ、全く予期されなかった表現型がみられ更に解析を進めた。2)核内レセプターのリガンド結合による構造変化:核内レセプターはリガンド結合により転写促進能を得るが、この際レセプターの立体構造変化を伴うと考えられている。特にレセプターN末端とC末端に存在する2箇所の転写促進領域はリガンド結合依存的な機能上の相互作用が予想されている。そこでERのAF-1、AF-2の相互作用をyeast、mammalian two-hybrid法にて検討し、さらに相互作用する領域を同定した。3)核内レセプターの共役転写因子の検索:ER、VDR、アンドロゲンレセプター(AR)、ミネラルコルチコイド(MR)のAF-1、AF-2をプローブに、yeast two-hybrid法にて各種cDNAライブラリーから共役因子を検索した。特にER、ARのAF-1蛋白を細胞内で大量発現させ、結合する核内因子を生化学的に精製した。4)細胞周期と核内レセプター機能との相関:ER及びARの、AF-1とAF-2への細胞周期特異的なキナーゼ(サイクリン/CDK等)によるリン酸化の可能性を探った。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

現在のところmRNA分解制御の分子メカニズム自体が不明な点が多く、その制御メカニズムを明らかにすることはステロイドホルモン依存的mRNA安定化(不安定化)制御機構解明に向けて必須の課題である。そこで本年度は特に以下の3点に焦点を当て検討した。1)AUUUA配列結合タンパクの機能解析:新規AUUUA配列結合因子(AUF2)のmRNA分解における役割をin vitro mRNA分解活性測定系に導入し検討した。本システムの概要は血清刺激プロモーターに繋いだレポーター遺伝子(β-globin遺伝子)をNIH3T3細胞に導入し、血清刺激により遺伝子産物を一過的に誘導した後、そのmRNAの残存量をノザンブロットにて測定することにより半減期を算出した。2)AUUUA配列結合タンパク共役因子群の検索:AUUUA 配列上に形成される複合体の構成因子を明らかにする目的で酵母を用いたTwo-hybridシステムを導入し、AUF2をbaitにしてヒト脳由来cDNAライブラリーからTwo-hybridスクリーニングによりAUF2とタンパク-タンパク相互作用する共役因子を検索した。3)AUUUA配列結合タンパク共約因子の機能解析:(2)のTwo-hybridスクリーニングによって得られたAUF2結合因子をコードするcDNA断片を用い、ヒト脳由来 cDNAライブラリーから全長cDNAを取得した。得られた全長cDNAを(1)のin vitro mRNA分解活性測定系に導入し、因子の存在下あるいは非存在下においてレポーターmRNAの半減期を測定することによりmRNA分解制御に対するその因子の関与を検討した。更に因子の存在下においてステロイドホルモン存在下および非存在下でも同様にレポーターmRNAの半減期を測定し、ステロイドホルモンの影響も併せて検討した。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、標的組換え動物(いわゆるノックアウトマウス)などの分子生物学的手法を用いることで、今まで知られていなかったビタミンA、Dの作用を探ることを目的に以下の2点に焦点を当て、これらビタミンの遺伝情報を介した分子メカニズムの解明を試みた。1. 新たなビタミンA、D標的遺伝子の検索:ビタミンA、Dの広汎な生理作用から、無数の標的遺伝子群が存在すると予想されている。同定された標的遺伝子群のみでは、これらビタミンの生理作用を十分●説明できないのは明らかである。そこで上記のレセプター欠損マウスでは、ビタミンAあるいはビタミンDの標的遺伝子の発現が極端に変化していると予想されているため、この標的遺伝子群の発現の差に着目し、RT-PCRを利用したDiffential Display法を用いて標的遺伝子cDNAの単離・同定を試みた。更に得られたcDNA断片をプローブとして全長cDNAの取得を試みた。またクローン化したcDNAを用いコードするタンパクの機能をin vitro系で解析するとともに、当該遺伝子のノックアウトマウスを用いることで全動物での機能を検討した。2. ビタミンA、Dレセプター欠損マウスにおけるビタミンA、Dの代謝:ビタミンA、Dの生合成及びその代謝は複雑な制御を受け、生体には数多くの類縁体が存在する。これらの生合成・代謝の制御を行う当該酵素の性状は不明なものが多い。レセプター欠損マウスは究極のビタミン欠乏動物であるため、これら生合成・代謝酵素活性は大きく変動していると考えられる。そこでこれらのマウスに活性型または代謝型のビタミンを投与し、その生体内での動態を探った。また動態を経時的に迫ることで、各種酵素の性状を検討した。
著者
加藤 茂明 四釜 久隆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、核内レセプターの転写促進能に基づいたホルモン評価系を、分子生物学的手法に基づき動物細胞内で構築し、この評価系をもとに以下の2点に焦点を当て、核内レセプターと共役因子との機能的相互作用を中心としたホルモン関連化合物の新たな評価系の構築を試みた。1. ステロイドレセプター群に相互作用する共役因子群の検索及び同定:前年度でクローニングされた共役因子cDNAは断片なので、この断片を用いた生体内での発現部位(臓器)を同定し、発現部位由来〓DNAライブラリーから全長cDNAを取得した。更に全長cDNAを用いることでtransient expression系にてcDNAがコードする因子の転写促進能を調べた。またステロイドレセプターを強発現させた培養細胞(いわゆるstable transformant)を確認し、この細胞核抽出液からレセプター特異的な抗体によりレセプター複合体を免疫沈降させ、この複合体からレセプターと結合している因子群を単離後、ペプチドシークエンンスからcDNAの取得を試みた。取得されたcDNAのコードされた因子の活性は上記の手法と同様に行い、転写共役因子であるか否かを検討した。2. 機能を保持したステロイドホルモンレセプターを用いてのホルモン結合能の評価系の確立:ステロイドレセプターへのステロイドホルモンの結合能は、通常レセプターを含む細胞由来の核抽出液が古くから用いられてきた。しかしながら、生体組織より調製された核抽出液はロット差が大きく、それ以上に調製は煩雑である。本年度では、生合成させたタンパクが最も本来の主体構造を取ると考えられている昆虫細胞内での大量発現を、バキュロウイルス系を用いて行った。次に発現したレセプタータンパクの機能を、in vitro転写系で調べることで検定し、レセプターの主機能である転写促進能を有したレセプターの大量発現系の確立を試みた。
著者
加藤 茂明 柳澤 純
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、下記の3点に焦点を当て、核内レセプターリガンドとして働く新規低分子量脂溶性生理活性物質同定を試みた。1.RXRとのヘテロ2量体化を利用した新たな核内レセプターの検索:VDRをはじめとした非ステロイドホルモン型レセプターは、RXRとヘテロ2量体化することでDNAに結合、レセプター機能を発揮することが知られている。このヘテロ2量体化に着目し、RXRをプローブとしてこれと会合するレセプターを検索し、これを酵母内で発現させ、RXRとのヘテロ2量体は、タンパク-タンパク相互作用に基づくtwo-hybrid法にて検出した。取得されたcDNA断片を用い、cDNAライブラリーから全長cDNAの取得を試みた。2.組織特異的ビタミンDレセプター欠損マウスの作出と表現型の解析:標的組換えによるVDR欠損マウスの表現型の解析を行った結果、重篤なクル病を呈しており、骨形成、皮膚などに明らかな異常が認められた。更にRXRβとRXRγの2重欠損マウス(VDR-RXRβ、VDR-RXRγ)を作製し、これらの異常がVDR単独欠失より軟骨で強調されることを見出した。これら動物の表現型を詳細に解析することで、皮膚、軟骨組織においてはビタミンDが血中カルシウムを介さず直接作用することがわかった。既にCreを発現させる皮膚特異的プロモーター(K_1、K_2、K_5、K_<10>遺伝子プロモーター)や軟骨特異的プロモーター(プロコラーゲンII型遺伝子プロモーター)をもつ発現ベクターの作製に成功しており、現在共同研究者であるフランス・パスツール大学、P.Chambon教授らのグループとともに、このようなCreをもつトランスジェニックマウスを分担して作製しているところである。3.新規核内レセプターリガンドの同定:上記の方法にて得られた新たなレセプターリガンド同定を目的にレセプターの転写促進能を活性化するリガンドを検索した。得られた新規レセプターcDNAを用いた発現ベクターにより、動物細胞内もしくは酵母内で発現させ、血清あるいは食物中の低分子量脂溶性画分を培地中に加えて、転写促進能を指標にリガンドを検索した。
著者
岡崎 具樹 加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

PTHrPおよびPTHrP遺伝子に存在する、負のビタミンD反応性配列nVDREを組み込んだレポーター遺伝子の細胞導入実験によって以下の結果を得た。1)クロマチン免疫沈降(ChIP)法を用いて、HDAC2がビタミンD存在下で特異的に、nVDREを含むプロモーター周囲のクロマチンに動員されるのに対しHDAC1はビタミンD非存在下でのみ動員された。2)ビタミンD存在下ではHDAC2だけでなく、VDRもまた、このクロマチン構造をとったプロモーター領域に動員され、この2者の選択的動員がビタミンDによるnVDRE-VDRを介する転写抑制の主役を担っていると考えられた。これらがヒストンのアセチル化、脱アセチル化を反映していることは、抗アセチル化ヒストンH3、および抗アセチル化ヒストンH4抗体、さらにHDACの特異的阻害剤のトリコスタチンAを用いて行ったChIP法で確認された。3)これらのChIP法の結果は、nVDREを元来持っている内因性のPTHrP遺伝子プロモーター領域でも、異なるプライマーを用いたPCRで確認された。3)さらに免疫共沈降法によって、VDRとHDAC2の両者はお互いに結合しその結合がビタミンD依存的に増強することを確認した。4)ヒト乳癌MCF7細胞にエストラジールを投与して種々の抗体およびnVDREを用いた同様のChIPアッセイを行ったところ、ビタミンD存在下はかりでなくE2存在下でもHDAC2がクロマチン-プロモーター領域に動員され、さらにE2存在下ではERも同様に動員されており、これらの動員はnVDREのDNA配列特異的であった。さらに抗アセチル化ヒストンH3、抗アセチル化ヒストンH4抗体、および抗HDAC1抗体によってこれらの抗体が認識する各蛋白は、ビタミンDの時と全く同様にE2存在下での動員が阻止された。以上よりER、VDRのそれぞれのリガンドによる転写抑制機構に共通のメカニズムがあることが示唆された。
著者
加藤 茂明 四釜 久隆 柳澤 純
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、下記の3点に焦点を当て、核内レセプターに基づいた性ホルモン評価系を、分子生物学的手法に基づき動物細胞内での構築を試みた。1.性ステロイドレセプターと転写共役因子群とのin vitro相互作用を利用した性ステロイドホルモン様化合物の評価系:前年度に引続き2種のヒト女性ホルモンレセプター(ERα、ERβ)と男性ホルモンレセプター(AR)のAF-2と、SRC-1、TIF2とのリガンド結合依存的な相互作用を検出するin vitro GST pull-down系を構築し、この2者相互作用を誘導もしくは阻害を測定することで、ホルモン様活性の迅速な評価を試みた。2.転写促進能を利用した性ステロイドホルモン様化合物の高感度生物検定法:1で評価されたステロイドホルモン様化合物が生物活性を有するか否かを、更にステロイドレセプターの転写促進能で検定することで生物検定法とする。ERα、ERβ、ARのAF-2とGAL4DNA結合領域とのキメラタンパクを発現させ、GAL4との結合評価系有するリポーター遺伝子(ルミフェラーゼ)系で、リガンドの転写促進能を調べた。同様な手法で転写共役因子と核内レセプターの相互作用を酵母two-hybrid系にて構築した。この方法でアゴニスト活性のみが検出可能であるが、アンタゴニスト活性は、女性ホルモン(ERα、ERβ)、男性ホルモン(AR)存在下で同様の方法で評価可能であった。3.性ステロイドホルモン活性を規定するレセプター共役因子の同定:性ステロイドレセプター種(ERα、ERβ、AR)固有の共役因子の検索・同定を、酵母two-hybrid法を用いたcDNAスクリーニング、及び生化学的手法を用いて行った。この時第一には転写を促進する因子群の同定を目指したが、同時にクロマチン構造を制御する因子や、細胞周期を制御する因子などの同定も試みた。特に後者の因子の同定は、各種ホルモンの細胞複製・細胞増殖への作用を分子レベルで初めて明らかにできる足掛かりと期待された。
著者
柳澤 純 武山 健一 加藤 茂明
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

女性ホルモンであるエストロゲンの低下は、女性において骨量の低下を招くことから、エストロゲンは、骨量維持に極めて重要な役割を担っているものと考えられている。エストロゲンは、細胞内に存在するα、βの2つのサブタイプのエストロゲンレセプター(ERα、β)によって受容される。これらのレセプターはリガンド誘導性の転写因子であり、エストロゲン結合によって活性化される。近年、レセプターのユビキチン化とプロテアソームでの分解が、転写活性化に重要であることが示唆され、注目を集めている。本研究では、ERαがエストロゲン存在下でも非存在下でも、ユビキチン・プロテアソーム系によって分解を受けることを明らかにした。エストロゲン非存在下では、ERαはCHIPと呼ばれる蛋白質によってユビキチン化を受け、分解されることが示された。CHIPはhsp70/hsp90/hsp40などのシャペロン蛋白質と複合体を形成し、フォールディングに異常のあるレセプターを選択的にユビキチン化し、分解へと導くことにより、レセプターの品質を向上する役割を担っていることが明らかとなった(EMBO J.Y.Tateishi et al.,2004)。一方、ERβは、ERαと同じくエストロゲン依存的分解を示すものの、その分子機構はERαと異なることが判明した。ERβの分解には、N末端に存在する領域が必須であり、この領域を持たないERβ変異体は、エストロゲン依存的な分解を示さなくなる。本研究者らは、すでにこの領域を認識して結合するユビキチン・リガーゼの単離に成功しており、解析を進めている。また、エストロゲン依存的な分解を示さないERβ変異体も転写活性を示すことから、レセプターの転写活性に分解は必要でないことが示唆された。今後、レセプターの分解と骨代謝制御について研究を進める予定である。
著者
加藤 茂明 武山 健一 高田 伊知郎 北川 浩史
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

ステロイドホルモン核内受容体の転写制御機能を分子レベルで理解する目的に、性ステロイドホルモン受容体の転写促進能及び新たな核内受容体転写共役因子の検索・同定を試みた。多くの前立腺癌や乳癌の発症は、アンドロゲンやエストロゲンといった性ステロイドホルモンに依存する。性ステロイドホルモンが標的細胞内において機能を発揮する主要な経路は、核内受容体を介した転写制御である。このような転写制御には転写共役因子複合体群が必須であり、クロマチンリモデリングやヒストン修飾といった様々な異なる機能の複合体群が同定されてきている。性ホルモン依存性癌の発症メカニズムを解明するためには、未知の複合体群の同定とその複合体機能の解明が必要である。そこで我々はエストロゲン受容体α(ERα)と機能的に相互作用する複合体の同定を試み、スプライソソーム主要構成因子複合体を同定した。更に、この複合体とERαとの結合はMAPキナーゼによるERαのリン酸化に依存することを見出した。またこの複合体はERαの標的遺伝子群に対してスプライシング効率を調節する機能をもつ。このような機能は、乳癌に関わりの深いエストロゲンシグナルと成長因子シグナルとのクロストークがmRNAスプライシングの調節を介して乳癌発症に関わる可能性を示唆する。
著者
加藤 茂明 武山 健一 北川 浩史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

染色体構造調節因子複合体について、新規複合体の同定及び構成因子の検索や機能調節を調べる事を目的として、15年度は、前年度の1〜3の課題を継続するとともに、特に課題4に焦点を当て、研究を進めた。1.新規ゲノム発現制御複合体の同定:in vitro転写系及びクロマチンヌクレオソーム再構成系(当研究室で研究済み)を用いてHeLa細胞核抽出液から精製し、精製された複合体構成因子群をMALDI-TOFMASSにより同定した。更にcDNAスクリーニングにより各々の構成因子の機能を調べた。2.細胞種特異的複合体構成因子の同定:これら核内複合体の機能は細胞種特異的と考えられる。そこで既知複合体の既知構成因子を各種組織株に高発現させ、複合体を精製することで細胞種特異的構成因子を同定した。3.染色体構造調節複合体の機能調節の分子メカニズムの解明:最近ではアセチル化、ユビキチン化などの各種タンパク修飾によって機能調節される例が報告されているが、染色体構造調節複合体の構成因子のタンパク修飾による機能調節は全く不明である。そこで、既知核内レセプターコアクチベーター(p160、p68/ファミリー)を用い、各種培養細胞での他の複合体構成因子を同定し、構成因子の複合体構成能とタンパク修飾による機能調節の可能性を検討した。4.ショウジョウバエを用いた新規染色体構造調節のスクリーニング:申請者らは既に、ヒトアンドロゲン(男性ホルモン)レセプターを組織特異的に発現するショウジョウバエのラインを確立し、リガンド依存的な転写促進をGFPで検出することに成功した。本システムを用いることで哺乳類特異的染色体構造調節因子を発現する各種ラインを確立し、次に特定染色体部位を欠失した各種変異体を交配することで、染色体構造調節因子機能に必須な因子を分子遺伝学的にスクリーニングを行った。更に同定された因子をプローブに複合体を同定及び解析した。
著者
竹下 克志 阿久根 徹 佐藤 和強 星 和人 川口 浩 中村 耕三 加藤 茂明 池川 志郎 竹下 克志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では骨・軟骨の形成、再生におけるcystatin10(Cst10)の役割と制御機構を解明し、Cst10の医療応用を実現することを目的として行われた。Cst10はマウス軟骨細胞からクローニングされ、cysteine protease inhibitorであるcystatin familyに属する分子で、形態学的、分子生物学的手法を用いた解析により、軟骨細胞の分化後期に発現し、軟骨細胞の後期分化・アポトーシスの誘導に働くことを見いだした。更にCst10の生体内における高次機能を解明する目的で、Cst10ノックアウトマウス(Cst10KO)を作製した。Cst10KOは、成長・外見ともに、野生型マウス(WT)との顕著な差は見出されなかったが、骨組織を各種画像検査、および組織形態計測によって解析した結果、骨成長や骨代謝の著しい障害は見られなかったものの、成長板での石灰化層および一次海綿骨の減少が見られた。Cst10KOの成長板から単離した軟骨細胞培養により、分化に障害がみられたことから、軟骨細胞に発現しているCst10の役割は、細胞の最終分化の促進と基質の石灰化であることが明らかとなった。また、内軟骨性骨化が関与すると考えられる骨折治癒、変形性関節症における骨棘形成や、高齢化に伴う異所性石灰化においても、Cst10KOではWTに比し石灰化の著明な低下が認められた。またWTでは、これらの病態における石灰化部位においてX型コラーゲンを発現している肥大化した細胞に、Cst10が強く発現していた。これらの所見から、Cst10は、軟骨細胞石灰化作用を有し、生理的な骨成長や骨代謝には影響を及ぼさないものの、変形性関節症や異所性石灰化の病態に関与している事が明らかとなった。
著者
河野 博隆 中村 耕三 山本 愛一郎 川口 浩 加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

男性ホルモン・女性ホルモンそれぞれの骨量維持作用及び骨量の性差については、これまで不明な点が多く残されていた。主要男性ホルモンであるテストステロンが男性ホルモン受容体(AR)を介して機能しているばかりでなく、アロマターゼによって女性ホルモンに変換されてERを介しても機能する代謝系を持つことが、性ホルモンそれぞれの骨代謝機能に関する解釈を複雑にする一因となっていたと考えられる。我々はCre-loxP systemを用いて、従来の標的遺伝子組み替え法では不可能であった雌雄の男性ホルモン受容体遺伝子欠損(ARKO)マウスを作出した。骨組織を解析したところ、雄性ARKOマウスは雌雄両方の同胞野生型(WT)マウスに比べて、高代謝回転型の著しい骨粗鬆化を呈していた。これに対して、雌性ARKOマウスの骨量は雌性WTマウスと同等であり、骨量減少は見られなかった。雄性ARKOマウスの去勢実験からは骨代謝を調節している男性ホルモンは副腎由来ではなく精巣由来であることが示唆された。また、性ホルモンの負荷実験結果から、女性ホルモン受容体を介さない男性ホルモンシグナル固有の骨量維持作用が明らかとなり,雄性個体の骨量維持に男性ホルモンと女性ホルモンの両者が関与していることが定量的に示された。初代細胞培養系の解析では、男性ホルモンの骨量維持作用は、男性ホルモンが破骨細胞に直接作用するのでなく、骨芽細胞の破骨細胞形成支持能を抑制することで発揮されることが示された。
著者
加藤 茂明 河野 博隆 川口 浩 山本 愛一郎 山田 高嗣 中村 耕三 加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

転写共役因子の骨組織における機能を解明する目的で、SRC-1(Steroid receptor coactivator-1)遺伝子欠損(KO)マウスを作出し、その骨組織の解析を昨年に引き続き行った。昨年、SRC-1KOマウスは、雄・雌ともに、代謝回転が亢進した高回転型の骨量減少を呈し、この原因はアンドロゲン及びエストロゲンによる骨量維持作用が抑制されているためであることを報告した。この骨量減少について、24週齢の大腿骨を用い、pQCTとμCTを用い、更に詳細に検討を行ったところ、海面骨の骨量は約40%低下していたにも関わらず、皮質骨の骨量は野生型(WT)とあまり差がみられなかった。海面骨・皮質骨におけるエストロゲン受容体(ER)の2種類のisoformの発現を免疫染色で確認したところ、海面骨ではERα・ERβ共に同程度に発現していたにも関わらず、皮質骨では主にERαのみが発現していた。骨芽細胞の培養系において、SRC-1はERβの転写活性は上げるが、ERαの転写活性にはあまり影響がみられなかったことから、海面骨・皮質骨でみられた表現型の違いは、SRC-1が主にERβによる骨量維持作用に関与しており、ERβの発現が多い海面骨で主に機能しているためと考えられた。雄においても、骨量の維持はアンドロゲン受容体(AR)のみでなく、ERにも依存していることが明らかになっており、ERのisoformの局在の違いが、雌同様に海面骨・皮質骨における表現型の違いを生じていると考えられた。また、KOで観察された骨量減少は、12週齢の時点では有意差がみられず、高齢化に伴い骨量減少が顕著になっていることが明らかとなった。これは、高齢化に伴い、フィードバック機構によって上昇した性ホルモンがシグナル伝達の障害を代償しきれなくなっているためと考えられた。また、性ホルモンと同じステロイドホルモンの一種であるプレドニゾロンの負荷実験では、骨量減少がWTとKOで同程度に見られたことより、SRC-1のグルココルチコイドシグナルへの関与は小さいことが明らかになった。
著者
加藤 茂明 武山 健一 北川 浩史 高田 伊知郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

染色体構造調節複合体について、新規核内複合体群の検索及び機能解析を目的として、本年度は下記の3点に焦点をあて、研究を進めた。1.細胞種特異的複合体構成因子の同定:核内複合体の機能は細胞種特異的と考えられる。そこで既知複合体の既知構成因子を各種組織株に高発現させ、複合体を再精製することで細胞種特異的構成因子の同定を試みた結果、組織特異的な発現因子を含む複合体の存在が明らかになった。2.染色体構造調節複合体を共役する因子の分子遺伝子学的検索:染色体構造調節複合体と転写共役因子複合体の協調作用により、ヒストンタンパクの修飾やヌクレオソーム配列の再整備が行われ、その結果としてより転写制御反応を潤滑化もしくは難化すると予想されている。機能未知因子を検索・同定することを目的とし、ショウジョウバエに男性ホルモン受容体を発現するハエラインを確立している。そこで、特定染色体領域欠失、あるいは遺伝子が機能的に欠損したハエラインと掛け合わせることで、受容体機能に必須な共役因子を分子遺伝子的に検索・同定し、いくつかの候補因子を同定した。今後このようなアプローチによって同定された修補因子については、前述した生化学的アプローチにより、その核内複合体の同定、機能解析を行う予定である。3.染色体構造調節複合体構成因子群の生体内機能の解明:染色体構造調節複合体は、同様の活性を有するものが複数見出されており、in vitro系での解析では、その機能的生理的な差異は見出されないでいる。一方、多くの転写共役因子複合体構成因子群のノックアウトについては、胎生致死となるか、もしくは全く異変が見出されない例が多い。従って、これら複合体種特異的な機能を評価する強力なアプローチの一つとして、構成因子遺伝子欠損マウス(ノックアウトマウス)の作出が挙げられる。本年度は、染色体構造調節複合体種特異的構成因子に焦点を合わせ、Cre-loxP系を用いた時期・組織特異的遺伝子破壊法により胎生致死を回避し、当該因子の生体内高次機能を評価した。特に、前年度で同定された有力候補因子を同様な手法により、骨を中心に解析した。
著者
加藤 茂明 武山 健一 北川 浩史 高田 伊知郎 大竹 史明 武山 健一 北川 浩史 大竹 史明
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

乳癌、子宮内膜癌、卵巣癌などのホルモン依存性癌の治療薬として用いられている「選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)」は、組織特異的な転写制御能を発揮するがその分子機構は明らかではない。我々は、SERM依存的にエストロゲン受容体ERαに結合するタンパク質群の精製を試み、ブロモドメインを有するBRD4を同定した。BRD4はpositive transcription elongation factor b(P-TEFb)と共に転写伸長反応を促進する因子であることから、SERMによる転写制御は、転写伸長の促進/抑制による可能性が示唆された。
著者
武山 健一 加藤 茂明 高田 伊知郎 北川 浩史
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

申請者はポリグルタミン伸長異常タンパクによるSBMAモデルショウジョウバエを用いた神経変性誘導を指標とした(1)分子遺伝学的アプローチおよび(2)生化学的アプローチによる候補因子探索と、(3)その性状解析からクロマチン構造変換機能異常によるエピジェネティック制御破綻への情報基盤を構築した。(1)分子遺伝学的アプローチによる新規神経変性制御因子の探索SBMAモデルショウジョウバエのpolyQ-AR誘導性の個眼神経変性を指標として、神経変性の変動が観察された25系統を単離した。中でも神経変性を顕著に回復する遺伝子としてRbfの同定に成功し、RbfによるE2F-1転写活性化を破綻させている事を見出した(Suzuki et al.,投稿中)。(2)生化学的アプローチによる新規polyQ-AR相互作用因子の探索クロマチン画分からのpolyQ-ARタンパク複合体精製はトランスジェニックショウジョウバエ個眼より精製後、MALDI-TOF/MS法あるいはLC/MS法にて同定する。その結果、ヒストンシャペロンやelongation factor、RNA結合タンパク等を同定した。3 候補因子の性状解析とエピジェネティック制御情報基盤の構築(1,2)で同定した相互作用因子のクロマチン構造変換能をヒストン修飾や構造、クロマチン構造変換能に着目した生化学的解析を行った。具体的にはヒストンアセチル化、メチル化、ユビキチン化およびリン酸化assay、MNase assay、クロマチンsupercoiling assayやdisruption assayによりin vitro系を構築した。これに必須材料となるヒストン八量体およびDNAとのクロマチン再構築は、HeLa細胞核抽出液およびrecombinant系を両者で整えた。
著者
加藤 茂明 高田 伊知郎 山本 陽子 大竹 史明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本年度、研究実施計画にある2. 細胞及び軟骨細胞での各種核内受容体群の機能については、各種骨細胞種特異的受容体遺伝子欠損動物を作製、その骨変異を引き続き解析した。昨年度、骨芽細胞特異的なエストロゲン受容体欠損マウスの解析と骨細胞特異的な核内受容体欠損マウスを作出したが、骨芽細胞特異的なエストロゲン受容体欠損マウスに関しては、雄が骨形成と骨吸収が低下することによる低回転型の骨量減少を示し、この表現型についてさらなる詳細な解析を引き続き行なった。具体的には、昨年度骨芽細胞におけるエストロゲン受容体の骨量維持機構の分子メカニズムを明らかにする目的で、骨芽細胞特異的エストロゲン受容体ノックアウトマウスと対照群でマイクロアレイ解析を行ない、その結果発現変動を示した遺伝子がいくつか得られので、これら候補の遺伝子群の発現を定量的PCRなどにより確認し、有意に変動する遺伝子を同定した。また新たな骨細胞特異的なCreトランスジェニックマウス作出に関して昨年度は、Dmplプロモーターを用いたCreトランスジェニックマウスのキメラマウスの作出に成功し、1個体のキメラマウスを取得した。現在得られたキメラマウスと野生型マウスの交配を行い、染色体レベルでの相同組換えを確認している。さらに研究実施計画にある1. 破骨細胞内のゲノムネットワークの解析と3. 細胞及び軟骨細胞特異的な核内受容体転写共役因子群の生化学的同定については、成熟破骨細胞の機能においては性ホルモン受容体が極めて重要な役割を果たすことが分かりつつあるので、性ホルモン受容体群に結合する複合体群を生化学的に同定しその分子機構をさらに解析するために、タグ付きの性ホルモン受容体の発現ベクターを作製し、安定細胞発現株の作製を行っている。
著者
門 勇一 島崎 仁司 品川 満
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

人体近傍微弱電界通信の応用分野の拡大を狙って、カード型の装着型トランシーバと環境埋め込み型トランシーバを試作した。ユースケースに即して、両トランシーバ間の通信品質を評価するシステムを構築して、パケット誤り率を評価した。また、EO-OEプローブを開発して、実人体上や人体等価ファントム上での信号伝搬損失を正確に測定すると共に、電磁界シミュレーションによりその妥当性を確認した。ユニバーサルインターフェイスとして社会実装するための課題に対して、電界通信システムの等価回路モデル化に取り組み、通信品質改善や信号干渉抑制に対する指針を明らかにした。
著者
山本 清洋
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

学校週5日制が生み出した余暇空間に関する大人と子どもの意味づけの類似点と差異点を明かにし,両者の意味づけを統合する原理を明らかにすることを目的に調査分析を実施し,以下の結論を得た。1 余暇空間の特性1) 小学校,中学校,公民館は大人が用意した教育活動の空間となっていて多くの子どもが参加しているが,子どもの自由な遊び空間となってはいない。2) コンビニ,スパーマケットは子どもの生き抜きの空間,待ち合わせ空間としての居場所となりつつある。3) 砂浜,釣り場,森の公園等の自然は遊びの空間となり得ていない。自然を遊びに利用する知識・技術が欠落している。4) 身近にある公園や空き地は子どもの遊び空間として機能している。5) 温泉センターは家族団らんの機会を,JR市来駅は都市文化に触れる起点を与える空間である。6) ファミコン,TVは子どもを家という空間に強烈に拘束する文化であり,再考が迫られる。2 遊び空間への意味づけ1) 大人は子どもの居場所となりつつあるファミコンやコンビニを遊び空間として認めきれていない。2) 大人は河川,海,山等の自然での遊び空間を価値づけているが,子どもの半数は否定的な評価をする。ただ,現実には大人もそれらの空間を殆ど利用していない。3) 子どもは学校の休日利用を望み,学校の先生が自分達を信頼して欲しいと望んでいる。4) 遊び空間への意味づけを統合する原則として,(1)遊び空間の主体である子どもを大人が信頼する,(2)子どもの日常生活圏への学校教師の住民化,(3)自然遊びの知識・技術の継承する活動の実施,(4)TV,ファミコンの功罪の協議,(5)諸活動を子ども形成型から子ども自身型へ転化する,等があげられる。
著者
馬 彪
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は1989年に出土した雲夢龍崗秦簡の禁苑律令にはじめて見づけた禁苑の新史料にしたがって、秦帝国における全国に散在した禁苑群に関する研究である。研究成果は三部に分けて、1秦地禁苑研究は上林苑・渭水上流の秦旧都地・御陵周辺における禁苑群の実像を明らかにした成果。第二部の東海沿岸禁苑研究は、山東半島・渤海湾・江淮下流「呉地」・粤地における禁苑群実像を明らかにした成果。第三部の長江・黄河中流禁苑研究は、楚王城・長江中流域禁苑・「巡北辺」と最期の禁苑を明かにした成果。従って筆者はこれまでの秦帝国の研究と異なる秦帝国各地方に散在していた禁苑ネットワークの存在とその帝国の政治機能を明かにした。